ピアニィ陛下とアル様をくっつけ隊・ＳＳ保管庫

フェリタニア・メルトランド連合王国王都、ノルウィッチ。
堅牢なる新しき王都は、この日――冬の中にあった。

中央広場の石畳にはうっすらと雪が積もり、夜空から降り注ぐ白い欠片に子ども達が歓声を上げている。
広場の中心部には、王宮付き庭師が吟味に吟味を重ねて選んだもみの木が飾られていた。
見事な枝ぶりの常緑に、色も形も様々の飾り。それを照らす灯りはたいまつや錬金術製のランタンなど。
｢光の色にも、違いがあるんですね…とっても綺麗｣
微笑みながら、女王ピアニィは隣に控える最愛の騎士、アル・イーズデイルに語りかけた。
｢そうだな……｣
曖昧に語尾を濁しながら、アルは視線を空に向ける。その様子に、ピアニィが不満げに頬を膨らませた。
―――アルディオンは全体に山が多いせいか冬が厳しく、その分冬至の祭りは盛大なものとなる。
まして連合王国と言う新しい国ができたばかりで、全ての祭りや祝い事は盛大に行われる傾向にある(ココには経済的な面での思惑も関わっている)。
そこへさらに、エリンディルよりの旅人であるベネットが持ち込んだ風習が混ざり合って、今年の冬至は殊のほか賑やかなものとなっていた。
その一つが目の前に飾られたもみの木であり――ピアニィがいま、身につけている衣装であった。
｢―――もぅ、アルっ。ちゃんとこっち見て下さいってば…｣
すねたような上目遣いで、アルを見上げるピアニィが纏うのは鮮やかな赤い衣服。白く毛足の長い生地が縁を飾る。
もとより普段の服も赤い色であるから、似合うのは当然と言えば当然なのだが―――
｢………脚、寒くねえのか｣
視線を逸らしながら、アルはポツリと呟く。暖かそうな見た目に反して、赤い衣装の裾はかなり短い。一応、いつものニーソックスは身につけているが。
｢いつもと同じくらいですよ…それに、ちゃんとこの下に、ショートパンツはいてます｣
いたずらっぽい笑顔で、ピアニィは短いスカートの裾を抑えてみせる。
とはいえ――普段の服装なら、短いスカートの上には長いローブがあるから、寒さを心配することもない。脚が見えることも。
｢………寒くなったら、とっとと言えよ｣
｢わかってます……風邪引いたら、皆さんに迷惑がかかっちゃいますものね｣
ふふっ、と小さく声を上げて笑って――ピアニィはもみの木に視線を移した。
天をつくような樹木の天辺に、魔術師が飛行魔法を使って飾りつけた一際大きな星がある。そこにかかる粉雪を見て――女王は嬉しげに目を細めた。
｢………やっぱり、雪。降らせてよかったですね♪｣
｢――――《コキュートス》に抑えて正解だったけどな｣

………低地にあり、温暖な気候で知られるノルウィッチには、冬至の頃でも雪が降ることは滅多にない。
そこで、『冬の祭りなら雪は必須条件でやーんす！』と魔法による降雪を主張したのは祭りの発案者たるベネットであり、女王ピアニィは喜んでそれに賛成した。
最強の魔法である《フロストプリズム》を、と望んだところを人的物理的被害の面から却下し、お説教がてらに《コキュートス》に変更させたのは、女王騎士たるアルであった。
(軍師ナヴァールと、ナイジェルをはじめとする重鎮たちは、生暖かい目で見守っていた)
ちなみに、その《コキュートス》の目標役を務めた人物が誰であるかについては―――言うまでもない。

夜空にちらちらと降る雪は美しく、光を反射して星の如くきらめく。
光の欠片を追って、空から降りたアルの視線は――もみの木を見上げるピアニィの横顔に留まった。
赤い衣装の照り返しか、それとも喜びのためか、白い頬がほんのりと紅色に染められている。翡翠の瞳は、飾り付けられた星よりも輝いて――
｢ね、アル。ほんとに綺麗―――｣
笑顔で振り返ったピアニィの薄紅の髪から、衣装と揃いの赤い帽子がすべり落ちる。
地面に落ちる前にそれを掴み取ると、アルは苦笑しながら愛しい少女の頭に帽子を乗せた。
｢上ばっか見てるからだ。ホラ、直してやるからこっち向け、姫さん｣
｢あ、はいっ――｣
素直に振り向いたピアニィの頭に手を置き、帽子を整えて―――小鳥を思わせる細い首を引き寄せ。

――――降る雪の中、重なる唇は―――温かかった。


｢―――――陛下ぁ――――っ、準備できましたぁ―――――！！｣
｢もう、いつでも点灯可能ですわ。よろしいですかしら？｣
アルとピアニィが身を離すのを待っていたかのように、もみの木を飾っていた庭師とメイド(錬金術担当)が声をかけてくる。
｢…ぁ、はぁ――――い！　お願いしますっ！！｣
赤く染まった頬を抑えながら、ピアニィが返事をすると、飾りの中に仕込まれた灯りが一斉に点灯した。
様々に色を変えながら明滅する光に、もみの木を注視していた人々から感嘆の声が上がる。

はしゃぐ子ども達が、走り回るのを見つめながら―――ピアニィはそっと、隣に立つアルの手に掌を重ねて指を絡めた。