一万ヒット記念の作品です。
設定パラレル、オリジナルキャラ(ジニー)一人称が一部にありますので、ご注意。




〜朝未き空にキミを想う〜




いつものように目を覚ました朝。
いつものように、アルは庭に出て鍛錬を重ね、寝室へ戻る――その途上に。

小さな、影が映った。

「………子供?」
早朝の中庭、それもノルウィッチ城の中に、子供がいるはずも無い。
首をかしげながら近寄ったアルを見て、2歳くらいだろうか、舌足らずな発音の少女はこういった。

『とーたま』

「――――で、私に一体何をせよと言うんだ、アル」
にこにことご機嫌な少女を連れて、困惑した表情のアルに――それ以上に困惑した顔で軍師は言う。
「いや、だから――どこの子か、とか調べられるかと…」
「どこの子も何も、ど〜見たって…でやんすよ?」
少女をまじまじと見ながら、野次馬根性丸出しのベネットが笑う。それには、ナヴァールも首肯した。
「確かに。それについては疑う余地もないな」
「――ちょっと待て。お前ら…一体コイツをなんだと…」
恐る恐る聞くアルに、ナヴァールとベネットは顔を見合わせた。
「だから、陛下と―――」
「アルの子供、でやんしょ?」
「おおぉいっ!? いくらなんでも無理な話だろうが!! 大体―――」
声を荒げたアルに、少女が反応し――ぐすぐすとぐずり始める。慌てて、ベネットは子供の目の前にしゃがんだ。
「あああぁぁ、泣いちゃダメでやんすよ〜〜〜! ほ〜ら笑って〜!」
「―――――っ、大体…計算あわねえだろ…」
息をひそめ、声を抑えたアルに――ナヴァールは笑顔を返す。
「だが、この少女の外見は、どう見ても――だと思うがな?」
―――ふわふわと柔らかそうな髪は、鮮やかなローズピンク。涙の浮かぶ瞳は、琥珀の上に翡翠を浮かせた金緑色。
確かに、ベネットにあやされている少女にはアルと――彼の愛しい女王との色彩が色濃く残されている。
「………だからって――」
「…………世の中には、時間を超える力というものが、稀にではあるが存在する」
反論しかけたアルの言葉を、竜人の重々しい声がさえぎる。思わず口を閉じた剣士に、ナヴァールはすい、と狼娘を指した。
「ベネットの持つ“旅人の石”もそのひとつだ。かの石を持つ魔人“神剣魔狼”は、時間も空間も越えて強者の元に現れるという」
「…けど、石はあっしがちゃんと持ってるでやんすよ?――――いてて」
ようやく機嫌を直した少女に長い髪を引っ張られながら、ベネットが自分のベルトポーチを叩く。
「確かに、この時には石はここにあろう。では――ここではない時のどこかで、石の力を使ったとしたら?」
悠然と頷き、自説を展開するナヴァールに、アルは眉をしかめる。
「……つまり…未来から来たってのか?」
「あっしも聞いた事があるでやんすよ。故郷の話でやんすが―――」
ベネットが語るに曰く。あるところに住む一人の娘の前に、同年代の「孫」を名乗る少女が現れたという。
少女は、娘に起こる危機の為に、自分が存在しなくなると言う未来を予言し――その予言を元に、娘は仲間たちと危機に立ち向かい勝利したと言うのだ。
「…もっとも、その話では本物の孫ではなく、将来孫として生まれる予定の魂が実体化したそうでやんす」
「よくわからんが――まあ、ない話じゃないって事か」
複雑な顔をするアルに、ナヴァールはもうひとつ、と指を立てる。
「――かつて、アヴェルシア王家の迷宮に行った際、陛下は亡き母君と会話を交わされたと。水の魔術、あるいはアヴェルシア王家に伝わる秘術に、時に関するものがあるのかも知れんな」
「というか、ピアニィ様に会わせれば一発でわかりそうなもんでやんすよ?」
「ああ、いや――姫さんはまだ寝てる」
少女に付き合って手遊びをするベネットに、アルは曖昧に濁した言葉を返す。――竜人と狼娘が、再び顔を見合わせた。
「――――――ああ、野暮なことを聞くものではないぞベネット」
「いやあこれはあっしとした事が。そりゃそうでやんしたなあ――――」
にやにやと人の悪い笑みを貼り付けたふたりに、かすかに顔を紅くしたアルが不機嫌な声をあげた。
「…………昨日の移動が長かったから、疲れてるだけだっての。変な勘繰りすんなよ。ったく―――」
小さく溜息をついたアルの脚に、とてとてと歩いてきた少女がしがみつく。―――直後、小さな音が響いた。
「……………腹の虫でやんすな」
「―――腹、減ってんのか?」
ベネットの指摘に、柔らかな髪を撫でながらアルは少女に尋ねる。顔を上げた少女が、『…ごあん』と呟いた。
「朝食には間があるが、厨房には人がいるだろう。ベネット、何か頼んで――」
ナヴァールが言い、ベネットが走り出そうとする。…だが、少女はいっそう強くアルの脚にしがみついた。
「―――いや、いい。俺が連れて行かなきゃ駄目みたいだ。わざわざ悪かったな、旦那、ベネット」
かすかに苦笑しながら、少女を抱き上げて――アルは厨房へと歩き出す。その背を見送って、ベネットはにやりと笑った。
「…ありゃ、すでに本能レベルで理解してるって顔でやんすね。父性本能ってヤツでやんすか?」
「かも知れんな。―――何にせよ、陛下がお目覚めになれば全てがわかるだろう」
くすり、と微笑むと、ナヴァールは杖を握りなおして執務室へと歩き出す。―――昨日までに溜まった書類を仕分ける為に。

※    ※    ※

少女を抱き上げたアルが厨房にたどり着くと、ナヴァールの指摘どおり朝食の仕込みをする幾人もの姿があった。
扉をくぐると、厨房を取り仕切っていたメイド長のマリエスがアルに気づき、優雅に一礼する。
「まあ、アル様。おはようございます。お食事の支度にはもう少々――――」
完璧な作法にのっとった礼から顔を上げて、瞬間。マリエスは言葉を止めて硬直する。
沈着冷静を旨とするメイド長の、見たことのない表情に小さく笑いながら――アルは抱き上げた少女を示して見せた。
「中庭で見つけたんだよ。悪いんだが、腹を空かせてるらしいんだ。何かこいつの食べられそうなものをもらえるか?」
「―――――――かしこまりました。ポタージュスープをぬるめに温めたものをお持ちいたしますわ。少々お待ちくださいませ」
さすがといおうか、素早く硬直から立ち直ったマリエスはきびきびとそう言って厨房の奥に消える。その奥から、意外な組み合わせの人物が順に顔を出した。
「アル殿か? さすがに早いな、どう―――――」
「あ、アル兄様! おはよ…って、え?」
「早起きな事だな。しん―――――」
書類を手にしたピアニィの姉・ステラの後ろから、アルの義妹アキナとその相棒・裏目軍師ことマルセルが顔を出し、順に硬直していく。
三対の視線が腕に抱えた少女に集中しているのを感じながら、アルは正直な感想をこぼした。
「…何つーか、珍しい組み合わせだな。ナヴァールの旦那の手伝いか?」
ステラに視線を向けると、妙にぎこちない動きで頷き――
「あ、ああ。式典の影響で糧食が減っているので確認に来たのだ。ところで―――」
「―――――えっ、あの、アル兄様、その子ってその子って、アル兄様とピアニィ様の子供ッ!? うわあぁぁ、可愛いっ!!」
ばね仕掛けの人形にも似た勢いで、アキナが身を乗り出し目を輝かせる。隣に立つマルセルが、それを抑えるように皮肉げな声を上げた。
「………アキナ、いくらなんでもそんなわけがあるまい。大方ピアニィ陛下か騎士殿の親戚筋の――」
得意げに語る軍師の姿を見ながら、アルは苦笑して首を横に振る。的確過ぎる彼の渾名は、ここでもしっかり働いているようだった。
「いや。ナヴァールの旦那によれば――――――こいつは未来から来た俺と姫さんの子供、だそうだ」
「な、なにぃっ!? バカな―――!!」
「で、でも、時間を越えるって、出来ることなのっ!?」
愕然とするマルセルの横で、アキナが目を白黒させる。1人、ステラだけが思い当たったように頷いた。
「……“旅人の石”か。確かに竜輝石の力ならば、時を越えることも不可能ではあるまい」
「あぁ。ナヴァールの旦那も、同じ推測を立てていた」
ナヴァールと同じ、と聞いてステラの表情が明るくなる。対照的に、マルセルの顔には不機嫌そうな皺が一本増えた。
「それにしても、全く――」
不満げに声をあげかけたマルセルに反応するように、アルにしがみついていた少女が振り向き、小さな指をステラに向ける。
『…ねえしゃま』
「………私が、わかるのか? こんなに小さいのに、なんと聡明な子だろう。さすがはピィの娘だ」
姉馬鹿丸出しの発言をしながら、ステラは嬉しげに微笑み返す。少女のふっくりとした指が、今度はアキナをさした。
『あーしゃん』
「アキナだから、あーしゃんなのかな? はーい、あーしゃんですよー」
「子供は、親の発言を真似るというからな。ピアニィ陛下が呼ぶのを不完全に覚えたか――」
にこにこと手を振り返すアキナの横で、呆れたような顔でマルセルは肩を竦める。と、小さな手は軍師に向いた。
『まーしぇる』
…………明らかに、舌足らずな発音がマルセルの名を呼んでいる。
「…………………なぜ、私だけ呼び捨てなんだ…」
「―――あ、えっと、ほら、あたしとかがマルセルって呼ぶからだよきっと!! ね!!」
がっくりと肩を落とす同年齢の軍師に、言葉もかけられずにいるアルの腕の中で、少女がむずかるように動く。
「―――ああ、降りたいのか? ホラ」
小さな体を床に下ろしたところに、ちょうどマグカップと子供用の椅子を抱えたメイド長が現れた。
「お待たせいたしました。スープをお持ちいたしましたわ――どうぞ、小さな姫君」
床に置かれた椅子に、歓声を上げながら少女が座る。小さな両手にカップを抱えたその姿に、マルセルが再び皮肉げな視線を向けた。
「―――用意のいい事だな。この城にこんな椅子があるとは、知らなかったが」
「厨房は他のお部屋より、小さなお客様のご訪問が多い場所でございますから―――どの程度のお食事がよいか正確にわかりかねますので、スープをご用意させて頂きました」
軍師のツッコミをさらりとかわして、マリエスは剣士に向かって丁寧に礼をする。その配慮に、アルは頷いて感謝の意を示す。
「ああ。すまなかったな、無茶な頼み事をして」
「ご心配には及びません――それでは、わたくしは御食事の支度に戻らせていただきますわ」
再び丁寧に礼をすると、有能なるメイド長は踵を返して厨房の奥に消えていく。その背中から、小さな少女に視線を移して、ステラは幸せそうに目を細めた。
「………それにしても、本当に愛らしい子だ。幼い頃のピィにそっくりだな」
「まあ、確かに―――――」
にこにこと笑顔を見せるステラの姿に、マルセルが不承不承といった様子で頷く。ピアニィよりはやや赤みの強い髪が、さらさらと小さな背を流れていた。
「…何で、マルセルがピアニィ様の小さい頃知ってるの?」
「ピアニィ陛下は、元々レイウォールの王女殿下なのだぞ。私が知っていておかしいことはあるまい」
「あ、そっか。マルセルは、レイウォールの貴族の人だったんだよね! 忘れてたっ」
アキナの素朴な疑問は、アルの感じていたものでもある。素っ気無い答えとともに若き軍師がこちらを睨んだのは、何かの意趣返しだろうか。
相棒の態度には慣れっこなのだろう、元気良く頷いたアキナが、その勢いのままにアルを振り向いた。
「………そういえば――ねえ、アル兄様?」
「なんだ? アキナ」
「聞くの忘れてたんだけど、この子の―――――って、あれ!?」
小さな椅子に視線を向けたアキナが、素っ頓狂な大声をあげる。――そこに、少女の姿は無かった。
「っ!? な…いつの間に、どこへ……っ!?」
「お、落ち着け! そんなに離れては―――」
慌てふためくステラとマルセルの向こう、戸口に向かってよちよちと歩く姿にアルは気づき、大股でそちらへ近寄る。
アル達が会話して、気がそれた瞬間を狙ったのか―――それでも、剣士たる自分が気づかないとは。
臍を噛むアルの目の前で、振り向きもせず戸口をくぐった少女は、廊下の先へと歩いていく。
「…悪いが、後の片付けを頼む。俺はあいつを追いかける」
言い捨てて駆け出したアルを、ようやく混乱の収まった三対の瞳が呆然と見送った。
「あ……ああ、わかった」
「うむ―――あの子を頼む、アル殿」
「あ、アル兄様、いってらっしゃい!」
―――枯葉色のマントが、開いた戸口に消えていくのを眺めて。マルセルはふと、少女剣士に向き直った。
「………そういえばアキナ、先ほどは何を言いかけたんだ?」
「あ―――――うん、あの女の子のね、名前を聞き忘れたなあ、と思って…」

※    ※    ※

早朝の廊下を、とたとたと軽い足音が走る。小さな子供と思ってもその動きは予想外に早く、アルが追いついたのは少女が足を止めたその時だった。
吹き抜けのホールの壁にかけられた、大ぶりの額縁。朝の光を照り返すそれを見上げて、少女はぽかんと口を開く。
「やっと追いついたな。……どうした?」
苦笑まじりに言ったアルが、少女の視線の先を追い―――眉をしかめた。
「…………もう、出来てたのか。あまり大きいのは飾るなっつってんのに、あの旦那は……」
ぼやきめいたその呟きにも、少女は反応せず。小さな手を、細い指を持ち上げて――額縁をさした。

『………かーたま』

「…ああ、そうだな」
ローズピンクの髪をくしゃりと撫でると、少女は指を額縁にむけたまま、満面の笑みでこちらを見上げた。

『かーたま、きれい』

「…………そうだな。ああ、綺麗だよ。世界中で、一番きれいだ」
白いドレスに身を包み、こちらに微笑みかける――最愛の人の笑顔に、アルもかすかに微笑を返す。
足元の少女が、満面の笑みのままアルの脚にしがみつく。…そのとき、重大なことに気づいた。
「―――――――そういえば……お前、名前は――」
なんて言うんだ、と続ける前に。少女はアルの脚から離れると、今まで以上の速さで廊下を駆け出した。
「あ―――おいっ」
迷いも無く、真っ直ぐに――――小さな少女は廊下をかける。その先に、ピアニィの眠る寝室があるとまるで気づいているかのように。
立て付けの一部悪い扉を、難なく開けて中に入り込む。それは確かに、慣れ親しんだものの動きだった。
寝室の中、ベッドの上にはピアニィが身を起こしている。どうやら目を覚ましたばかりだったらしい若き女王は、駆け寄ってくる小さな少女に目を見張った。
「アル、おはよ…えっ―――!?」

『かーたま』

ベッドに飛びついた少女が、そう言ってピアニィの顔を見上げたのが背後からもわかる。恐らく、満面の笑みを浮かべて。
―――そして。
「…――――――」
アルの位置からは聞こえず、口元の動きは見えなかったが、ピアニィが少女に向かって何かを囁いた。

――――――その瞬間。

小さな体から溢れた白い光が―――視界を埋めていく。
「きゃあっ!!」
「―――っ、何だっ!?」
瞼を閉じていても目を焼くような光。それが薄まり、視界が確保された時には―――少女の姿はどこにも無かった。
「――――――――今…の…」
「………………夢じゃない…よな」
幻のように消えた少女。抱き上げた重みも、撫でた髪の感触もまだ、アルの手に残っている。
呆然と立ち尽くすアルの前で、ピアニィはベッドから脚を下ろし―――幸せそうな、嬉しそうな微笑を浮かべた。
「…………………あのね、アル………いいえ――――あなた」

※    ※    ※

…その日の朝食後に、マリエスさんから事の顛末を聞いた私―――ジニー・パウエルが死ぬほど悔しがったのは、言うまでも無い。
「ど――――――して教えてくれなかったんですかぁっ!? ああぁぁぁ、陛下とアル様のお嬢様、見たかった……っ!!」
壁に取りすがって泣く私に、マリエスさんは肩を竦める。
「そうは申されましても…お仕事だったのですから、仕方ありませんでしょう? それに、中庭で見つけたとの仰せでしたから、てっきりもう会っているものと思いましたわ」
「うぅ、そうなんですけど……って、中庭?」
その言葉に、私は中庭掃除の時に見たものを思い出す。――小さな、ローズピンクの頭。私の説明に、マリエスさんは頷いた。
「…恐らく、その通りだと思いますわ。そのお時間に外にいるお子様なんて、不審だと思いませんでしたの?」
「いや、急ぎでしたし、アル様が近くにいるのが見えたんで…ああぁぁ、なんで声掛けなかったんだ私…」
全く見られないよりはマシかもしれないけど、どうせならお顔が見たかった…。
「……でも、急いでいただいてよかったですわ。こんなにきれいに飾っていただけるなんて」
床にめり込む勢いで落ち込む私を慰めるように、マリエスさんは壁に飾った花を見上げて笑ってくれる。
「―――――それはまあ、もちろん陛下とアル様のお写真ですから。ホントはご旅行から帰られる前に仕上げたかったですけども」
「まあ、でもそれは仕方の無いことですわ。お写真が仕上がったのが昨日の晩ですもの」
壁にかかった大きな額縁の中――揃いの白い御衣装をつけて佇む陛下とアル様のお姿。陛下は幸せそうに微笑み、アル様はいつものように照れた仏頂面。
その周りを、私が摘んで来た花や若木が覆って、石壁は華やかに飾り付けられている。
―――本当に、見ているだけで幸せな気分になって。落ち込んでいた気持ちがすっかり上向いていくのを、私は感じていた。
「…そんなに、悲観なさることはありませんわ。遅くとも、一年以内にはお会いできるでしょうから」
「…え、えっと、それはどういう…」
妙に自信ありげに言い切ったマリエスさんに、私が問い返しかけたとき。
「…なんだ、ずいぶん派手に飾ったな」
吹き抜けのホールの二階、階段の降り口に現れたアル様が、むくれた声でそう言った。
マリエスさんは無言で膝を折ってお辞儀をし、私は元気良く呼びかける。
「おはようございます、大公殿下!」
途端に、アル様はこの上なく嫌そうな表情になった。
「…完っ璧に嫌がらせだろ。いつもの呼び方でいいっての」
「はーい♪ おはようございます、アル様!」
私がけらけら笑いながら言うと、憮然としたアル様の背後から陛下がお顔を覗かせた。
「おはようございます、マリエスさん、ジニーちゃん♪ ――――わぁ、とってもきれいに飾ってくれたんですね!」
「はいっ。全身全霊ココロを込めて、思いっきり綺麗にさせて頂きました!! 陛下とアル様のお式の写真ですから!!」
胸を張って元気いっぱいに言った私の気負いっぷりに、陛下は今度は声を上げて笑ってくださる。
「ふふっ、ありがとうございます。近くで見てもいいですか?」
「はい、それはもう!! 是非こちらで御覧下さいっ」
私がお招きすると、陛下は階段の手すりに手をかけてゆっくりと降りて来はじめる。―――そのお姿が、いつもとちょっと違う。
目を細め、頭を必死に働かせて、私は違和感の源を探る――あった。いつもより、ずいぶんスカートの丈が長い…?
と、私の視線を遮るように――アル様が陛下の前に出て、手を差し伸べた。
「――――って、一人で降りたら危ねえだろっ。ホラ、こっちにつかまれ」
「…もぅ、大袈裟ですよっ。このぐらい大丈夫ですっ」
くすくすと、笑みを含んだ声で返す陛下に、アル様らしからぬ――なんというか、神経質な声が飛ぶ。
「こういう事は、気をつけ過ぎるぐらいでいいんだよっ。ホラ――」
ちょっと強引に、アル様は陛下の手を取り――腰まで支えて、注意深く階段を降りてくる。
ぽかんと見守る私の前で、陛下は護られながら、半ば呆れたような――でも嬉しそうな笑い声を上げた。
「……まだ、ホントだって決まったわけじゃないんですよ? アルったら――」
「…い、いいだろ別にっ。あぁホラ、もう下につくから、足元―――」
くすくす笑いつづける陛下と、やたらと心配げなアル様。そして――
「…………マリエスさん。これって、ひょっとして、やっぱり―――――」
ギギギ、とぎこちなく振り向いた私に、マリエスさんは口元に立てた指を当てて、飛び切りの笑顔を見せた。
「…まあ、真偽こそは神々のみぞ知る、のでございましょうけれど、ね?」

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