えがおのうらがわの直後のお話です。


※    ※    ※


幸福感に浸りながら自分の胸元に身を委ねるピアニィに、アルは髪を撫でながら小さく囁いた。
「………明日は、メルトランドに出発するからな」
その言葉に、現実に引き戻されたような気になって、ピアニィはわずかに身を竦める。
「――――そうですよね…だから、今日は」
もう部屋に戻って、休まないと――そう言いかけたピアニィの腕を、アルが強く引き寄せる。
「……あ、アルっ…?」
驚いて顔をあげた時にはもう、アルの私室の中に引き込まれていて。扉の閉まる音を聞いたときには、ピアニィの唇はアルのそれに優しく塞がれていた。
「――ん、ふ……っ、ふぁ、ん…」
誘うように唇を撫でるアルの舌を受けいれ、深く深く蕩けてしまいそうなキスを交わす。
足と腰から力が抜けていく。支えきれなくなって、背後の扉に身を預けた時に――アルの囁きが降りてきた。
「明日出発したら、しばらくはこんな風に触れなくなるからな――だから、今夜はずっと、ここにいてくれ」
優しい声に、抱きしめる腕に。ピアニィは小さく震えて、アルの背に回した腕に力をこめた。

柔らかな音を立てて、ピアニィの体から薄い寝間着がほどけてベッドに落ちる。
「――――あ、る……」
囁く声に答えるように、唇が重なって。舌が、指が互いを求めて絡み合う。
「…ぅん、――ぁふ、あぅっ…」
息遣いが、身体が重なり、熱く溶け合う感覚に、ピアニィは甘く吐息をこぼした。
口付けたまま、指を絡めたままで、アルはゆっくりと体重をかけて、華奢な体をシーツの上にふわりと横たえる。
「――ピアニィ…きれいだ…」
一瞬離れた唇に、愛しい少女の名を乗せて。アルの口付けがピアニィの細い首筋に降り、そのまま下へと滑り降りた。
「ふぁんっ、あ、ひゃぁあぅっ……あ、アル、っ――やぁ…っ、そこ、っ…」
的確に『ツボ』を辿ってくる唇にピアニィは甘い悲鳴をあげて、胸元に降りたアルの頭を優しく掻き抱く。
服の外からは見えない位置に注意深く、けれどピアニィの喘ぎが上がるほどに強く、アルは柔らかな双球に幾度もキスを重ねた。
「……あん、ん、っ―――ふぁう、や、あっ…」
胸元にばかり繰り返される愛撫に、ピアニィは切なげな声をあげて身をよじる。
「ん―――こっちも、欲しいか…?」
囁きながら、アルの手が白く透き通る肌を滑り降り、ピアニィのほっそりとした腰に回る。
あくまでも軽く優しく、腰を抱きしめるだけのアルに―――ピアニィはゆるゆると首を振り、熱くなった肌を押し付けた。
「ふぁ、あぁっ…アル……あ、るぅっ…もっと、つよ、く…っ…」
珍しい『おねだり』に小さく笑みをこぼしながら、アルはそっとピアニィの中心――潤み熱を持つ秘唇に手を伸ばす。
それまでのキスと愛撫で溢れた蜜が、触れただけの指に水音を立てさせた。
「――ん、あんっ、やぁあ、おと、させちゃ、いやあっ…」
「だけど、これだけ―――気持ち良いんだろ? 嬉しいよ―――」
羞恥に頬を染めるピアニィに、優しく囁きを返して。秘唇に差し入れた指を、強く、深く動かす。腕の中で、たおやかな花を思わせる肢体が跳ねた。
「――――っ、や、急に、あぁっ…、ダメ、そんなに、しちゃ………ぁっ!」
「―――…っ」
差し入れた指が締め付けられ、急な刺激にピアニィが果てる。気をやって手足を投げ出した姿は、扇情的であると同時にひどく庇護欲をそそった。
「ピアニィ――――」
ほとんど意識せぬままに囁き、力を失った華奢な体を腕に強く抱く。アルの唇が幾度も、恍惚の表情で目を閉じるピアニィの顔に――瞼や額、頬に降りた。
「ん………ある…っ」
何度目かのキスにピアニィの瞼が震え、小さな唇が恋人の名を囁いて――答えるように腕に力をこめると、細い腕がゆるゆると背中に回った。
「―――アル……お願い、です……っ」
「――あぁ。俺も、もう……っ」
熱い囁きが、吐息が重なり―――再び唇が深く交わる。アルはそのまま、既に痛いほどに熱く張り詰めた自身をピアニィの柔らかな花唇に押し入れた。
「んん…っ、ん、ふぅっ、――――っ、ん…っ」
腕に抱いたピアニィの背中が跳ね、絡めた舌の間から忘我の声の欠片が漏れる。強く締め付ける膣肉から逃れるように、アルはそのまま抽送を開始した。
激しく突き上げるたびにアルの背中に回った手が爪を立て、いく筋もの痕を残す。細く華奢な膝を抱え上げて身体を密着させると、白い背中が弓なりに反った。
「――――あ、やあぁぁぁっ、ダメ、そんな、アルっ、いやあ、ああぁぁっ、もう…っ!」
可憐な声が、甘く情欲と懇願に満ちた叫びをあげる。汗に濡れた肌が、熱く早い呼吸が重なる。
もう一度唇を重ねて、睫毛が触れるほどの距離で――アルはピアニィの翡翠の瞳を覗き込んだ。
「ピアニィ――もう、このまま……っ」
「はい…っ、アル、抱いて、もっと、強く…っ」
小さな手が、細い腕がアルの背中をきつく抱きしめる。その強さを愛おしみながら、アルは終焉へ向けて強く腰を突き入れた。
「あ、やぁっ、ふぁ…んっ! アル…っ、あるぅ…っ!! ひぁう、や、ああああああ…っ!!」
「―――ピアニィ…っ!!」
小さな爪がより深い痕を残す。甘いソプラノがアルの名を呼び、ピアニィは内と外からアルを強く抱きしめる。
答えるように、折れんばかりに華奢な体を抱きしめて――アルはそれまで堪えていた熱をピアニィの胎内に吐き出した。
「―――――っ、あ、る…っ」
震える声で、愛しい人の名を呼び、微笑みながら――ピアニィはアルの腕の中で、意識を手放した。


――腕の中でピアニィが身じろぎする感覚に、アルは伏せていた顔を上げた。
「起きたか?―――もう少し、寝てていいぞ」
夜闇をはばかるように囁くと、眠たげに霞みがかった瞳のピアニィが小さく頷く。
「ん…………ある……おやすみなさい…」
吐息交じりというよりも、ほぼ吐息だけで囁いて――アルの胸に寄り添い、ピアニィはすやすやと寝息を立て始める。
「――お休み、ピアニィ」
挨拶を返しながら、胸にすっぽりと収まった華奢な背中を抱きしめる。アルの腕で覆い尽くせてしまいそうなその背は、本当に小さくて細くて――
この背中に、一国の――もしかしたら大陸すべての命がかかっているなどと、想像すらしないほどに。
抱きしめる腕に少しだけ力を入れると、胸の中でピアニィが何事か呟く。子供のような仕草に苦笑しながら、アルは薄紅色の髪を撫で下ろした。
「ほんとに――とんでもないことばっかりだな。お前といると」
白竜、赤竜の両国に狙われる身ながら、国を戦に巻き込まない為に国を出るという決断。しかもその行く先は、メルトランドの国民の前―――
己が手に入れた領土の、持ち主たる国民に頭を下げに行くなどと――開祖たるウルフリックやその血族でさえした事がないだろう。
誰も歩いたことのない、正に前人未踏の道を歩いていこうとする、新しき国の新しき女王。
それが――アルの腕の中で眠るたおやかな少女だと、一体誰に信じられるだろうか。
「………お前は、俺が護る。もう二度と、誰にも、傷つけさせない――ピアニィ」
絹糸の手触りの髪の下、陶磁器を思わせる白い背中に刻まれた、消えかけの薄い傷跡。目には映らない、その小さな感触に指を当てて――アルは苦い気持ちで呟いた。
――誰に命ぜられたわけでも、望まれたからでもなく、自分の意思で。女王としてでなく、騎士としてでなく――ただ一人の、ピアニィを護ると。
幾度も――魂にさえ刻んだ誓いを胸に、アルは腕の中にピアニィを抱きしめる。
「―――――アル…だいすき、です…」
小さな声で、幸せそうに呟くピアニィの声に微笑みながら。アルもまた、眠りの闇へと落ちていった―――

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