散々に怒鳴り散らしてエルゼリエとベネットを解散させると、アルは大きな溜息をついた。
「…ったく、冗談じゃねえっつうの、結婚なんて」
疲れたようなその声に、本気でそう思っている以外の感情が読み取れなくて。
同意を求めるような、共犯者の表情でアルが振り向いた時――ピアニィは、頬を膨らませて思いきりむくれて見せた。
「…………姫さん…どうした?」
おそるおそる、という感じのアルの声に、眉を寄せた上目遣いでピアニィは問い返す。
「―――そんなに嫌ですか?あたしと結婚するの」
「…は?」
ぽかんとした顔で、間の抜けた声を出すアルに、ピアニィの不満が更に高まる。
すぐ結婚、という言葉を出されて躊躇する気持ちはわかる。だけど、そこまで――?
こちらの気持ちを、読みきれないのだろう。混乱したらしいアルが、大きな身振りで反論を始めた。
「いや、姫さんとどうこうじゃなくってだなあ! 今はそういう状況じゃないだろう? 姫さんは国の事で大変だし、俺もまだまだ修行中の身で―――」
「だからって、そんな溜息ついて嫌がらなくってもいいじゃないですか?」
アルの反論を一言でばっさり切り捨てて、ピアニィは一歩前へ踏み出し――唇を噛み締めてから、決定的な一言を繰り出した。

「……アルは、あたしの事、嫌いですか?」

夕日の差し込む中庭。
光の加減で、アルの顔が紅く染まって見える。
真剣な顔になったアルが、何か言おうと一瞬口を開いて―――ピアニィの瞳を避けるように、視線を逸らした。

「…………そんなこと俺に聞いて、どうするんだよ?姫さんには婚約者がいるのに」
その言葉に、ピアニィの体が硬直する。
差し込む夕日がアルの目元に影を作り、その表情は伺えない。
「リ、リシャールさんは、父が決めた婚約者ってだけで―――」
「あっちはそう思ってねぇんだろう?」
慌てて反論するが、アルに一言で切り捨てられ―――暗い声が、常の彼とも思えぬ言葉を連ねる。
「良かったよな、ご立派な婚約者で。剣の腕は立つ、顔はいい、その上に生まれながらのお貴族様だ」
冷たい言葉に隠された刃が、ピアニィの――そしてアル自身のココロを切り刻んでいくようで、思わず身を竦める。
「俺なんかに構うより、あの眼鏡に聞いてやれよ。喜んで国中のバラでも捧げてくれるだろうさ」
これは罰だ。大切な人に、全てを話しておかなかった自分への罰。溢れる言葉がまるで、アルの涙に思えて―――ピアニィはただ、それを受け止めるしかなかった。

「…………どうしたら信じてくれますか?」
信じて欲しい気持ちと、罪悪感。その双方に震える声で、ピアニィは小さく囁いた。顔を逸らしていたアルが、ゆっくりとこちらを向く。
「…なんだって?」
「どうしたら、リシャールさんとは何の関係もないって、信じてくれますか?」
――きっと、自分は今、縋るような顔をしているのだろう。そう思いながら、ピアニィは言葉を紡ぐ。
だが、アルはこちらに背を向け、吐き捨てるように声を返した。
「さあな。目に見える証拠でも出せばいいんじゃねえのか?」
目に見える、証拠。その言葉を受け止めて――ピアニィは静かに、けれど確かな覚悟を決めて……頷いた。
「…………わかり、ました」
頬が熱くなるのを感じながら、真紅のローブの胸元に手をかけリボンを解く。
―――――しゅるっ。
静かな中庭に、衣擦れの音がひどく大きく響いて――慌てた様子でアルが振り向き、大声をあげる。
「おおぉぉぉいっ!? ナニやってんだ姫さん、ここ中庭だぞっ!?」
「『目に見える証拠』って、アルが言ったんじゃないですか!! だから…だからあたしっ…」
叫んだ拍子に、堪えていた涙が一粒こぼれて頬を伝う。それを見たアルの顔に、辛そうな表情が浮かぶ。
――そんな顔をさせたいわけじゃないのに。ただ、信じて欲しいのに――
「アルに…信じてもらえるなら、なんだって――します。どんなことでも………」
唇を噛んで、首元の飾りリボンとブローチにかけたピアニィの手を――アルの掌がそっと包み込んだ。
「いいって、もう。さっきのは…その、姫さんに八つ当たりしちまったみたいなもんで…悪かった」
だからそんなまねすんな、と。
不器用にそう告げたアルに、ようやくピアニィの緊張が緩む。
「信じて…くれますか?」
「ああ、信じるよ。姫さんの…俺の女王さんの言うことだからな」
そう言って、再びアルが顔を逸らす。横を向いた耳まで赤く染まっているのは、沈みかけた夕日のせいではないだろう。
――けれど。
「…女王じゃ、ないです」
小さな囁きに、アルがいぶかしげに振り向いた。その手を取り、そっと自分の方に引き寄せる。
「―――姫さん…?」
アルの声に、咎めるような響きを聞きながらも、ピアニィの言葉は、心は―――もう止まらなかった。

「………騎士としてじゃ、ない――あたしは……アル、あなたが………好きです…っ」

――アルの反応が怖くて。きつく瞼を閉じていたピアニィの頬に、暖かいものが触れた。
涙のあとを、アルの指が拭ったのだと気づいた時、笑みを含んだ優しい声が降りて来た。
「―――なんだか…俺は姫さんに、先を越されてばかりいるな」
……そっと目を開くと、照れたような微笑を浮かべたアルが、真っ直ぐにこちらを見ている。
「アル……?」
囁くと、アルは素早く周囲を見回して――ピアニィに取られた腕を、軽く引き戻した。当然ピアニィも引っ張られて――
次の瞬間、ピアニィはアルの腕の中にすっぽりと収まっていた。
早鐘のように鳴る胸を押さえ、ピアニィが慌てて顔を上げようとすると――その頭をアルの手が押さえる。
「……あー、その…今顔上げるな、頼むから。――何も言えなくなる」
そう言って、ひとつ、大きく息をついて。

「―――俺も、同じだ。…騎士として、女王としてじゃなく……お前が、好きだ」

最後の陽光が、2人きりの中庭に濃い影を落とす。
アルの腕に抱かれたままで告白を聞いて――ピアニィは、地に足の着かない、という言葉そのままの状態になっていた。
ふわふわと、自分がどこかへ飛んでいってしまいそうで、アルの服を強く掴む。
「……大丈夫か? 姫さん」
頭を押さえた手が離れ―――気遣うように、ピアニィの頬に触れる。
……顔を上げると、心配そうなアルがこちらを覗き込んでいる。ピアニィは首を横に振り、小さく囁いた。
「………違うの。……嬉しいんです」
微笑みを返すと、背中に回されたアルの腕に力がこもる。
―――アルの腕の中で、より強く引き寄せられて。
頬に触れた手に、自分の小さな掌を重ねて――ピアニィはそっと瞼を閉じる。

「………………誰にも、秘密だぞ?」
そう囁くアルの声が、息が唇にかかって。
…日没寸前の中庭に、二つの重なった影が落ちた。


なお、余談であるが。
アルの《感知》判定はベネットの《隠密》達成値に遠く及ばなかったと言うことである。

※  ※  ※


アルとピアニィが、どちらからともなく体を離した時には、中庭に夕闇が迫り始めていた。
互いに気恥ずかしくて、顔を逸らしあう二人の間を、沈黙が行き過ぎる。
「っと…もう暗くなるな。ホラ姫さん、部屋まで送るから、行くぞ」
アルが背を向け、城に向かって歩き出したその時。
くい、と。離れたくない、その一心で―――ピアニィの手が、アルの服の裾を引いた。
「……姫さん? どうした? …何か――」
振り向いたアルが一歩近づいてくると、ピアニィは言葉もないまま、湯気でも出そうなほどに赤面し…そしてそのまま、アルの胸に飛び込んだ。
「うぉ…っと! ――姫さん、ほんとにどうか……」
たくましい胸に受け止められながら、ピアニィはそっと顔を上げて――アルにしか聞こえないような声で、囁いた。
「――アル…一緒に、いたいんです。離れたく、ない……」
何かを堪えるように、一瞬だけ間をおいて――真剣な目をして、アルがピアニィを引き離そうとする。
「姫さん、それ――意味判ってて言ってんのか?」
「………あたしは、確かに――お姫様かもしれないけど、子供じゃないんです。ちゃんと、判ってます。それに――」
肩を掴もうとするアルの手をすり抜けて、ピアニィはもう一度アルの胸に頬を埋める。

「…………………そのつもりも、覚悟もなしに――その、『証拠』を……見せるなんて、言わない、です…」

途切れ途切れの囁きの、その意味するところを理解して、言われたアルも即座にこれ以上ないほどに赤面する。
肌に触れる空気が、少しずつ冷えてきて―訪れた夜闇の中に、ピアニィはただ、アルの胸の中で立ち尽くしていた。
頬をつけた胸から聞こえるのは、ピアニィと同じ――あるいはそれよりも早いほどの鼓動。
先程よりも、強い力で――アルの両腕が、ピアニィの身体を抱きしめる。思わず、小さく息を漏らしたピアニィの耳に、アルが低い声で囁いた。
「………もう、止められないからな」
重ねられた唇を、ピアニィは喜びと共に――けれど、自然に受けとめていた。湿った感触に唇をなぞられるまでは。
「ひゃ、あぅ……っ」
驚いて、声をあげようとした隙間から、アルの舌が入り込む。
歯列をなぞられ、舌をつつかれて、生まれて初めての深い口づけにピアニィは戸惑いながらも酔いしれる。
強く、深い口づけのさなかに、ローブの下の胸の膨らみにアルの手が触れて、ピアニィは慌てて唇を離した。
「ふぁ、アル、や、そんなっ……」
形良いふくらみを服の上から愛撫され、ピアニィの声が甘い響きを帯びる。
「姫さん…意外に胸、あるんだな」
「そ、そんなこと言わないで…っ、やぁ、あんっ…」
乳房をこねあげられ、耳元で囁かれて、身体の奥からざわめくような感覚にピアニィは身をよじる。
生まれて初めて与えられる『快楽』にどう対処していいかわからず、瞳からは困惑の涙がこぼれた。
アルの唇が、涙を唇で掬い取るように頬に触れ、そのままピアニィの首筋についばむようなキスを重ねていく。
胸のしこりを愛撫され、背中に回した腕でするりと太股まで撫で下ろされて、ピアニィの体が弓なりに反りかえる。
「ひあ、ああ…んっ…!や、もぉ、だめっ…っ!」
足がガクガクと震え、全身の力が抜けて――崩れ落ちると思った次の瞬間、アルの両腕に抱えあげられていた。
「あ、る…?」
ふわふわと、夢見るような心地でピアニィが囁くと、アルが苦笑混じりの囁きを返す。
「いくらなんでも、ここでそのまま最後までは、まずいだろ…」
そのままどこかへ――おそらくは、自分の居室へと歩き出すアルの胸に抱かれて。
ピアニィはそっと、キスの名残を追うように自分の唇を指でなぞっていた。

装飾も少なくシンプルな室内は、城の客間というより兵員宿舎に近い。
設えられた寝台に優しく降ろされて、アルが扉を確認している間に、ピアニィは半ば反射的にブーツを脱ぎ床に置いた。
もどってきたアルの胸に引き寄せられ、みたび口付けられる。
差し入れられた舌に少しだけ動きを返すと、溢れた唾液が濡れた音を響かせる。
恥ずかしさと、苦しいほどの切なさに――ピアニィは意識せぬままに、重ねた唇の隙間から声を上げていた。
「んぁ…ふ…ぅん…」
溺れてしまいそうなキスの合間に、アルの手がピアニィの身体に触れる。
探るような指の動きに、ピアニィが切なく息を吐いた時、アルの唇と体が不意に離れる。
キスの余韻に浸りながら、大きく息を吸っていると――アルが気まずい表情で声をかけてきた。
「姫さん…その、自分で服、脱げるか? 俺がやると破いちまいそうだ」
「は、ぃ……え、あの、あの、えぇぇ!?」
条件反射で答えてしまってからその内容に気づいて、ピアニィは狼狽して叫び声を上げた。視線と表情でそんなの無理、とアピールしようとするが、アルはアルで、恥ずかしいのか気遣っているのか、さっさと背を向けて服を脱ぎ始めていた。
「え、あ、うぅ……も、もぅ…」
あるのばかー、などとつぶやきながら。
ピアニィはローブに手をかけ、いくつかの飾り紐を外し、肩から落とす。スカートのホックに手をかけると、どうしようもなく指が震えた。
異性の前で―それも、その後相手に抱かれるために自ら服を脱ぐという行為が、ピアニィの羞恥と幼い官能に火をつける。
王室で、囲い込まれて育ったとは言え、年頃の娘ともなればそれなりの知識はある。
これから自分の身に起こる出来事に、ピアニィは小さな恐怖と―――大きな期待を抱いていた。
震える指で、後ろボタンのブラウスと格闘しながら――ふと見上げると、真剣な表情のアルと目が合った。
渇望、という言葉そのままのような強い視線に射抜かれて、ピアニィは慌てて背を向ける。
「あ、アルっ…、そんなに見ないでっ…」
声が震え、恥ずかしくて――けれどそれ以上に、内側からざわめくように身体が熱くなる。
どうしていいかわからず、自分を抱きしめて震えていると――アルが背中に触れて、ボタンをひとつずつ外していく。
アルの指が背中を掠めるたびに、ピアニィの唇から切ない声が漏れる。
全てのボタンが外れ、アルの手がブラウスを取り払い――そのままピアニィの身体を抱きしめる。
「…あ、る……」
吐息混じりに囁いたピアニィの背中に、アルの唇が降りて――そっと、消えかけの薄い傷痕に囁いた。

――もう、二度と。誰にも、お前を傷つけさせない――

……アルの手がそっと、ピアニィの肩を引く。その動きに導かれるように振り向くと、ピアニィの目に大きな傷痕が飛び込んできた。
胸に走る、深く、長い傷痕。右肩から左脇腹へと続く、ほとんど致命傷とも見える傷に思わずピアニィは息を飲む。
「……悪い、驚かせたか?」
その問いに、小さく首を横に振り、ピアニィはそっと傷痕の上に指を触れた。
「……アル――この、傷が…?」
「あぁ……師匠が、つけた傷だ」
悲しみでも怒りでもない、静かな声でアルは答えを返す。――だけど、泣いているように思えて。
細身の身体に、腕を回して――ピアニィは、傷痕ごとアルを抱きしめる。
ピアニィはそっと、傷痕のもっとも深い部分――心臓の上に、淡い紅色の小さな唇を寄せて囁いた。

―――あたしは、ここにいます。だからずっと、そばにいて―――

胸に寄り添い、鼓動を聞いていると、アルの手がピアニィを強く抱きしめてそっとシーツの上へと横たえる。
白いシーツの上にふわりと、ピアニィの薄紅色の長い髪が広がった。
「……綺麗だな、姫さんの髪」
その一房をアルが手に取り、そっとくちづける。その仕草に胸が、身体が熱くなってかすかに震える。
「…怖いか?」
アルの手が頬に触れ、気遣うように囁く。だが、ピアニィはその言葉に、ふるふると首を横に振った。
「平気、だけど…優しくして、ください…」
震えて、かすれる声で囁き返すと、アルが小さく息を吐くように笑う。
「……そうしたいけど、約束はできない、な。今は姫さんが、欲しくてたまらない―――」
そう、低く囁いた唇が、ピアニィの首筋に降りてくる。
「……、あ、ん……っ」
背中を走る戦慄に、ピアニィは思わず歯を食いしばって声を殺す。
アルの掌が、指が滑るたびに肌が熱くなる。唇を噛み締めるピアニィの耳に、アルが吐息を吹き込むように囁いた。
「………声。出しても、いいんだぞ」
同時に掌が、やや小ぶりなピアニィの胸のふくらみの先端を掠る。しびれるような衝撃が駆け抜けて、ピアニィの喉から甘い悲鳴が溢れ出た。
「――っや、あ、あああ…んっ!!」
一度溢れたら、止まらない。アルの手が動くごとに、ピアニィの上げる声が艶を増してゆく。

アルの手が、二つのふくらみを揉みしだく。首筋から鎖骨に降りたアルの唇が、小さな紅色の痕をつける。それだけでなく―――アルに触れられた全て、アルの吐息さえもがピアニィを刺激して。
「あぁ、ん…っ、や、…あ、あ…っ」
何よりも。自分の口からこぼれる声が、自身のものだと信じられないほどに甘く、艶かしくて――
喘ぎ声を上げながら、ピアニィは自分の声に追い詰められるように感じていた。
まろやかな乳房の先端、痛いほどの尖りにアルの唇と舌が吸い付く。
「ひゃうっ、あ、やああんっ!そ、れ……ダメっ…!」
強い刺激にピアニィの体が跳ね、折れそうな細い肢体が弓のようにしなる。
閉じ合わせた太股の間が、熱と滑りを帯びて。切なく身をくねらせた時――アルの手が、ピアニィの細い足に触れた。
「―――あ、アル…っ、やぁ、そこは、だ、―――っ!」
制止する間もなく。アルの指は内股の隙間を滑り、滴るほどに濡れた秘密の場所に到達する。軽く指を動かすだけで、濡れた音が響いた。
「……凄い、な――こんなに……」
硬くとがった桜色の蕾に唇を寄せたまま、アルが囁く。その刺激と囁きの内容、何より――指の動きに、ピアニィの口からは更なる甘やかな悲鳴がこぼれ流れる。
「ぁあ、やあぁ、そんな、や、こんなの、だめぇっ…」
快感の波のあまりの激しさに身をよじるが、身体に力が入らない。
薔薇の花弁にも似た秘唇をアルの指が優しく擦り、ピアニィ自身ですら触れたことのない奥までも、アルの指がうごめき抉る。
濡れた音が絶えず響き、胸への刺激も止むことは無く。あまりの快感に、ピアニィは首を振り背を反らして喘ぐ。
「や、あぁん、そこ、ふぁ、あああん、やぁああ…っ!」
すすり泣くような甘い叫びが、ピアニィの喉からとめどなく響く。
急き立てられるように、追い立てられるように。ピアニィの上げる悲鳴が度を失っていき、華奢な身体が折れんばかりに張り詰める。
きつく瞑った瞼の奥で、ピアニィは視界が白く焼けていくような錯覚に包まれていた。
「ひぁ、や、ああぁ…っ! もぉ、だめぇ…っ、なにか、きちゃう…! きちゃう、のぉっ、や、あああぁぁぁぁ…っ!!」
甘く悲鳴じみた声を上げて、両脚を強く張り、きつく眉根を寄せて――アルの腕の中で、ピアニィは初めての絶頂を迎えた。

………一瞬、視界が真っ白になった。
体に力が入らなくて、ピアニィはただ自分の大きな呼吸を聞いている。辛うじて膝を立てた状態を保っている脚に、アルの手が触れた。大きいけど指の細い、しっかりとした優しい手。
その手がピアニィの膝をそっと開くと、少し掠れた低い声が耳元に響く。
「姫さん、悪い…俺も、もう我慢できねえ…」
放心状態のピアニィの脚を大きく広げ、アルがその間に体を入れて来るのを感じる。
そして――濡れた秘唇を、指よりもっと熱くて大きなものが探る感触。痺れるようだった体が感覚を取り戻し、新たな快楽にピアニィは身をよじる。
「ぁあ…んっ、や、アル、すご、あつい、のっ……」
喘ぎ声を上げるピアニィの身体をアルの腕がゆっくりと引き寄せ、四度目の、互いに貪るようなキスを交わす。
深く、深く、舌を絡めて。口付けに溺れるピアニィの中心を、不意に――熱く滾った肉の楔が引き裂いた。
「―――…!! い…っ、やあぁ、だめ、アル…っ!」
強く突き入れられたアルの陽物の感触に、ピアニィは唇を放して激痛と恐怖の悲鳴をあげた。
身体の最奥部まで一気に貫かれ、突き通されるような感覚がピアニィを襲う。
大きな碧い瞳からは涙が零れ落ち、失った処女の証がアルの肉棒を伝い、滴り落ちた。
「はぁ、あ、んっく、ぅっ……」
身体が、燃え盛る炎を飲み込んだように熱い。生きながらにして引きちぎられているように痛い。
その熱さと痛みで、ピアニィはようやく理解した――アルが、自分の内に挿入ったのだと言うことを。
声もなく唇を噛み締めて痛みに耐えるピアニィを、アルはそっと抱きしめる。
「姫さん…少し、動くぞ。……優しくするから」
その言葉どおり、ピアニィの内でアルがゆっくりと動き始めるのを感じる。焼け付くような痛みがやがて、じわじわと疼くような痛みに代わる。
――少しずつ。内からの刺激を身体が受け入れ、悦ぶのを感じる。
流れた血が、動きに合わせて溢れる愛液に混じり、結合部から小さく水音を立てる。
やがてその音が大きく、粘りを帯びたものに変わってくると、
「んん、っ…あ、は、くぅ…んっ、ふぅっ…」
痛みに耐えながらもこぼれる自分の声に、かすかに艶が混ざるのを、ピアニィは聞いた。
「ん…まだ、痛いか? 姫さん…」
心配そうな声に、目を開けると――自分も眉を寄せ、何かに耐えるような顔で、アルがこちらを見ていた。
荒い息の下、ピアニィはそっとアルの頬に手を触れる。
「すこ、し……でも、アルがつらそう…あたしが、優しくしてって言ったから…?」
……ピアニィの手を取り、優しく口付けながら、アルは息を吐くように笑った。
「まあな。…激しくていいなら、そう言ってくれ」
言葉の意味と、琥珀の瞳に覗く真剣な光に、ピアニィは自分の頬が熱くなるのを感じて思わず目を逸らす。
―――だけど。もっと、欲しいと叫ぶ自分の声が、身体の中に確かにあって。
目を伏せたまま、けれどアルにはっきりわかるように――ピアニィはそっと頷いた。
ほんの少し、間が空いた後で。ピアニィの耳元に、アルが早口の囁きを落とす。
「………………言っておくけど、本当に激しいぞ…」
アルの両手がピアニィの腰に回り、強く掴んで引き寄せられる。
それまでと違うきつい刺激に、ピアニィはひときわ高い声を上げた。
「ひぁ、や、ぁうんっ! あ、アル、ほんとに、はげしぃっ…!」 
荒波の中の小船のように揺らされて、思わずしがみついたピアニィに、激しい動きを止めぬままアルは囁く。
「…だから、言った、だろ…今更言っても、止めねえからな…ピアニィ…!」
「…! あ、アル…あたし、の…っ!!」
名前を呼ばれた―――それだけで、ピアニィの背中に激しい戦慄が走って。
心と身体が、内から甘美な法悦に満たされ、充足感に視界が白く弾けてゆく。
―――一瞬、何かを堪えるように歯を食いしばったアルが、ピアニィの顔を覗き込んだ。
「……名前、呼んだだけで、イッた、のか…?」
はっきりと言葉で指摘されて、ピアニィの顔が羞恥で真っ赤に染まる。
「………や、は、恥ずかしいから…見ないで…」
恥ずかしさのあまり顔を隠そうと、ピアニィが上げかけた腕を、アルの手が優しく止めた。
「恥ずかしくはないだろ。……可愛いとは、思うけどな」
そういうと、アルはピアニィの顔に軽く口付ける。
額、瞼、こめかみ、頬、鼻の頭――最後に唇を重ね、舌を絡めて吸い上げて、そっと離して…小さく息をつくピアニィに微笑んで、華奢な身体を包み込むように抱きしめた。
触れ合う肌からも、髪にかかる吐息からも、震えるような快楽を感じて。ピアニィも、自分にのしかかるアルの体を抱き返す。
――しばらく、そうしていただろうか。不意に、アルがぐい、とピアニィの両脚を抱え上げる。
腰が密着し、先ほど達したばかりの身体を奥の奥まで貫かれる感覚にピアニィは息を呑んだ。
「―――っふ、あぁん! あ、アル、すごい、深いのっ…あたし、もうっ……!」
「…ああ、俺ももう、限界だ…しっかり、しがみついてろよ……!」
そう囁くと、アルはピアニィの華奢な身体をしっかり抱え込み―――さらに激しく責めたてる。
寝台が軋み、汗が散る。例えようもなく淫猥な、粘り気のある水音が響く。
早く、早く。突き上げられて、ピアニィの身体にこれまでにない戦慄が走る。
「やぁ、あああぁ、アル、アルぅっ! また来る、きちゃう、いや、こわいのっ…!」
あまりの快感に恐怖すら覚え、ピアニィはアルの首にしがみつく。その細い体を強く抱き返して、
「ピアニィ…っ! 俺が、いるから…っ!」
低くかすれた声で囁き、さらに腰を打ち付ける。終わりへ向けて、アルの動きが速さを増す。
「……ピアニィ、ピアニ、ィ…っ、く、おおおっ!!」
「あ、アル、アルぅっ…! ぅ、ああ、ああぁん! ふああああああああぁっ!」
同時に絶頂を迎え、アルが吠え、ピアニィが叫ぶ。
熱く滾る奔流を胎内に受け止めて、ピアニィの意識はそのまま白い闇へ飲み込まれていった―――


………目を開いた時、そこにはアルが、優しい顔で笑っていた。
アルの長い指が、ベッドに横たわるピアニィの髪を梳かしている。
「―――あ、る……?」
「よう、起きたな。けっこう寝てたぞ」
身を起こそうとしたが、体に力が入らない。特に、腰のあたりに。
――――――そこでようやく、ピアニィは、全てを理解した。
「――――っっ」
瞬時に頭に血が昇る。おそらく、茹で上がったように真っ赤な顔になっているだろう。
顔を隠そうとシーツをかぶろうとして…その下が裸であることに気づきまた狼狽する。
一人、ひたすらわたわたと慌てるピアニィの姿を、上半身裸のアルがくすくすと笑いながら見ていた。
「……わ、笑わなくったっていいじゃないですか……っ」
シーツですっぽりと体を覆って首だけ出した、てるてる坊主のような状態でピアニィは不満げな声を上げる。
「あぁ、悪い悪い。――でも、姫さんも口が笑ってるぜ?」
心底楽しそうに笑いながら、アルがピアニィの口元を指差した。
「えぅ、え、嘘、笑ってな……」
狼狽するピアニィの唇に、アルの指がそっと触れる。
「嘘じゃねえよ。―――ほら、な?」
――唇の際をなぞった指は、確かに曲線を描いて。
「――そ、それは、ちょっと違――」
反論しかけたピアニィの唇が、それこそ笑顔のままのアルに塞がれる。
口元を触れていたアルの手が降りて、ピアニィの纏ったシーツを剥がし、裸の背中を撫で上げた。
ぞくりと、背中を走る戦慄にピアニィはたまらず声を上げる。
「…ひゃ、うん…っ! や、アル、ちょっ…ちょっと待って……!」
「―――嫌か?」
突然、真剣な声で囁かれて、ピアニィが動きを止める。身を離したアルの琥珀の瞳が、真っ直ぐにピアニィを見ていた。
「………―――いや……じゃない…です」
その瞳に引き込まれるように、ピアニィはうっとりと囁く。――そのまま、アルの腕に身をゆだねて。

―――差し込む星明りが、シーツの上に揺らめく影を写した。




夜半。

(暗いのが怖い、という理由で)アルに手を引かれ、自分の客間に戻りながら、ピアニィはそっと恋人の名を呼んだ。
「ね…アル?」
「…ん?」
照れくさいのか、振り向くことさえなくアルは答えを返す。その背中に、ピアニィはポツリと疑問をぶつける。
「……やっぱり…みんなには内緒、ですよね?」
「…まあ、今の状況だからな…それに落ち着いていようといなかろうと、今は無理だ」
「今は? …どうして?」
妙にきっぱりと言い切るアルに、ピアニィがさらに問い返す。
「…………今話すと、うるせえのがいるだろ…約数名…」
足を止め、地獄でも覗いたような暗い声でアルが答える。アルの実家―ブルックス商会での一夜を思い返し、ピアニィもぶるりと身体を震わせた。
「……あぅ、た、確かに…」
「フェリタニアに帰ってからならまだしも、ノルウィッチだからな…帰っても油断はできねえが…」
ぶつぶつと、実家対策を考え始めたアルの背中に、ピアニィは思わずくすりと笑ってしまう。
「……アル、そんなに実家が苦手なのに、どうして一緒に来てくれたんですか?」
「………………………、ホラ、ついたぞ姫さんの部屋」
「あ、はいっ」
突然のアルの沈黙に疑問を感じたものの、素直にピアニィは扉を開ける。
「じゃあ、おやすみなさい…アル」
「ああ、しっかり寝ておけよ。――それと、俺が実家に来た理由な?」
「――え?」
閉まる寸前の扉から聞こえたアルの声に、ピアニィが振り向いた。

「………惚れた弱みって知ってるか? ピアニィ」

ぱたり。
扉の閉まる音と同時に、アルの言葉の意味を悟り――ピアニィは、真っ赤な顔で床にへたり込んだ。


                                       


〜後記〜
キミに誓いを、の…何バージョン?(笑)
同じ出だしですが、後半の展開がこんなことになっています。
でも、お気に入り。  

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