メルトランド王都レスノール、陥落。
その報せ以後、ノルウィッチ城は対グラスウェルズ戦線の中心として機能することとなった。
レスノールより生還したスリス女王と、スリスを救出したフェリタニア女王ピアニィの二人を旗印に戴き、城主イザベラ女伯を最高司令官として――日々寄せられる情報を元に、戦略会議が開かれている。

今日も開かれている作戦会議に、ピアニィはスリスと共に、上座について出席していた。
―――正直、イザベラと彼女の兵たちが話している内容は半分もわからない。
普段なら傍にいて詳しく解説をしてくれる軍師も、会議の雰囲気に即してはいないが明るい声で和ませてくれる獣人娘もこの日は不在。
ベネットは周辺の敵の様子を探るべく斥候に出ており、ナヴァールはピアニィの故郷――レイウォール王都ノルドグラムへ、メルトランドの窮状を知らせるべく出立したばかりだった。
知らず、ピアニィはいく度目かの小さな溜息をついていた。王室の者の役目として…という、老執事のお小言が聞こえてきそうな気がする。
だが、ピアニィの溜息の理由は退屈や怠惰からではなかった。

―――知らないうちに目が、また同じ所へ吸い寄せられていく。
会議室の出入り口に近い壁際―――ピアニィから一番遠い場所で、壁にもたれて立つ赤銅色の髪の青年。アル・イーズデイル…彼女の騎士。
普段なら、アルも傍にいて――堅苦しいのはいやだと、文句を言いながらもピアニィに助言をしてくれる。
だが、今日は――――
「………ぴあにぃ? きぶんが、わるいのか?」
そう言いながら、隣に座るスリスがピアニィの顔を覗き込む。知らないうちにまた溜息をついていたのを、体調不良と受け取ったようだった。
「……ううん、大丈夫ですよスリスちゃん。みんなのお話、聞きましょうね?」
無理に微笑みながら囁いたその時、ちょうどイザベラが会議の終結を宣言する。
「――――では、今日の会議はこれまでとする。ピアニィ様、スリス様に礼を!」
二人に向かって敬礼を捧げたあと、騎士たちがぞろぞろと部屋を出て行く中で――赤銅色の髪が動くのが見えた。
アルが、こっちに来る。そう気づいた瞬間、ピアニィは慌てて立ち上がり、スリスに必要以上に大きな声をかけていた。
「――じゃ、じゃあ、スリスちゃん、図書室でご本を読みましょうか! まだ読んでないお話がたくさんあるんですよね!?」
戸惑った表情で頷くスリスの手を引き、早足で部屋を通り抜ける。アルとすれ違った時に、
「………おい、姫さん――」
どこか遠慮がちに呼びかけてくるのを、聞かなかったフリをして――ピアニィは、会議室を後にした。

※    ※    ※

ノルウィッチ城は城主の趣味により、ただの一領主の城とも思えぬほどに内外の設備が整っている。
中でも図書室は、レイウォールの王城で生まれ育ったピアニィの目から見ても広く、豊富な書物が揃っていた。
――その蔵書傾向が建築関係と兵法書に偏っているのは、主の性格上まあ仕方のないことであるが。
また、女王国であるメルトランドのお国柄か、戦記物から子供向けの物語に至るまで、女王が活躍するものが圧倒的に多いのも特徴である。
スリスは図書室に入るなり、物語の本が納められた棚へと走って行き――ピアニィはその小さな背中を見ながら、閲覧用の椅子にぺたりと座り込んだ。
―――さっきの態度は、良くなかったよね…
床にぼんやりと視線を落としながら、ピアニィは先ほどちらりと見えたアルの顔を思い出す。
困惑したような、迷うような―――およそアルには似つかわしくない表情。
……だけど、と。薔薇色の唇を小さく尖らせて、ピアニィは呟く。
「―――だけど、最初に避けたのは………アルの方なんだから…っ」

事の発端は――ピアニィ達がレスノールから帰還した、その日の夜の事。
自分の無茶な振る舞いを振り返り、もう一度アルにきちんと謝ろうと――ピアニィは思っていたのだ、が。
声をかければ、早足で歩き去られる。
目と目が合えば、即座に背を向けられる。
もしやと思い、ヤンヤンをベネットに預けてもう一度捕まえようとしても、結果は同じ。
翌朝どころか、翌日の夕食後までその状態が続き、ピアニィは理解した――完全に避けられていることを。
と、同時に。今度はピアニィの方からアルを避けるようになった。
理由は簡単。これ以上の拒絶に耐えられないから……である。
声をかけられる距離に近づかず、視線を合わせることを避け――そんなことを繰り返していたら不思議なことに、今度はアルの方から近づいて来ようとする。
……もしも近づいて、アルの方から話し掛けられていたなら、ピアニィは素直に応じ、謝っていただろう。
けれどアルは、そうしなかった。もうあと一歩、こちらから近づかなければならないような位置で、こちらを窺うばかり。
それに気づいてからは、ピアニィの方からあからさまに避けている―――そんな事がもう、一昼夜も続いていただろうか。
ピアニィはすっかり、好意を持つ相手を避ける事に疲れていた。
――こんなことしたくないのに、アルが話してくれないから…と八つ当たりのような気持ちも抱いてしまう。
小さく溜息をついたピアニィの脳裏に、再び先ほどのアルの顔がよぎる。
―――あんなに避けてたくせに、ずるいよ……
あんな表情をされたら、許してしまいそうになる。それどころか、自ら謝って――傍に居てと懇願してしまいそうになる。
それほどに、自分の心がアルに傾いていることをピアニィは初めて自覚した。もっとも――そんな風に自分を曲げたところで、アルが喜ぶはずもないということも、わかっている。

「………アル…」
小さく呟き、唇を噛み締めた時。視界にひょいと、絵本を抱えたスリスが飛び込んできた。
「ぴあにぃ! これ、読んで!」
満面の笑顔でスリスが差し出した本を、やや強張った笑顔で受け取りぱらぱらとめくる。
悪い魔法使いに国を追われた女王が、騎士とともに困難を乗り越えて魔法使いを倒す物語――光り輝く鎧を身につけた騎士を、横からスリスが指差した。
「この騎士はね、ブルースなの。おんなじヨロイを着てるもの」
レスノール王城の警備副隊長を務めていた騎士の名前を、スリスは嬉しそうに口にする。王城陥落に際してスリスを救った彼は、負傷しつつも生き残りの市民や兵士を纏め上げ、昨日ノルウィッチに到着したばかりである。その時のスリスの嬉しそうな顔を思い出しながら、ピアニィはようやく心から微笑んだ。
「スリスちゃんは、ブルースさんが大好きなんですね」
だが、その言葉に今度はスリスの顔が曇る。怪訝な顔で覗き込むピアニィの前で、絵本の最後のページ――女王と騎士の結婚式の絵に視線を落とし、スリスはポツリと呟く。
「でも、あたしは、もう女王じゃないから――ブルースとはけっこんできないの」
「………え?」
思わず聞き返したピアニィに、どうして伝わらないのかと言いたげな表情でスリスは言葉を繰り返す。
「だって、騎士は女王とけっこんするんだもの。あたしはもう女王じゃないから――」
「ま、待って待って。ええと―――」
ピアニィは少々混乱しながらも、頭の中でスリスの発言をまとめる。
――《聖なるヒース》が枯れた事によって、スリスはメルトランドの女王たる資格を失った、と言われている。国と民を思う心があれば、資格は十分だとピアニィ自身は考えているが――少なくともスリスは自分をもう女王ではないと、そう思っている。
そして、物語では大抵、女王は騎士と結婚している。――だからスリスは幼い少女らしい真っ直ぐさと短絡さで、騎士であるブルースとは結婚出来ない、という結論に達したのだろう。
スリスの幼い理屈をようやく理解して、ピアニィはそっと首を横に振った。
「………それは違います、スリスちゃん。結婚って、好きな人とするものですよ。――お話の騎士様も、女王様だから結婚するんじゃなくて、好きな人だから結婚するんです」
だから、そんなに悲しい顔をしないで――そう続けようとした時。
「じゃあ、ピアニィは、騎士だからじゃなくてアルが好きだからけっこんするの?」
「―――――って、え、ぇぅっ!?」
子供ゆえの、超剛速球ストレートな物言いに、ピアニィは真っ赤になって硬直する。スリスはそんなピアニィの心も知らず、小首を傾げて更なる直球を投げ込んだ。
「あのときだって、アルが好きだから、まもったんでしょ?」
あの時――リシャールの剣からアルを庇った時の事だ。岩陰から見ていたスリスにはそう見えた――そうとしか見えなかったのだろう。
スリスの、幼いがゆえに真っ直ぐな言葉に――ピアニィは、心がほぐれてゆくような気がした。

「………好き…あたしが、アルを……」
口にした言葉が、胸につかえていたものを落とし、静かに…そして深く心の中に舞い降りる。
どこかで意地になって、認められずにいたのだろう。けれど一番大切なのは――自分の本当の、素直な気持ち。
好きだから、守りたかった。好きだから、失くしたくなかった――それだけの事だ。

……けれど。歩き去る背中、逸らされた視線――アルの拒絶を思い返し、ピアニィの心は再び沈みこむ。
愛され、守られて育ったために、ピアニィは拒絶されることに慣れていない。まして好意を持つ相手からの拒絶は、幸せすぎる環境で育った少女の心に、深い影を落として――
「―――そう、だけど……アルが、あたしの事をどう思ってるかわからないから―――」
そう言って、顔を伏せるピアニィを―――スリスは不思議そうな顔で見上げていた。

※    ※    ※

スリスの手を引いて、早足で歩き去るピアニィを、アルは呆然と見送った。
声を掛けたものの、強く引き止められなかったのは――今にも泣き出しそうな、ピアニィの表情を見たせいだ。
「―――俺の、せいだよな…」
自分の態度が原因で、ピアニィに避けられていることも、あんな顔をさせてしまったことも――わかっている。
だが、それでも――何と言っていいのか、どうしたらいいのかわからないまま、アルは会議室を後にしようと、足を動かした。
「―――あらあらあら。どこに行く気かしら、この馬鹿息子は?」
その背中に、場違いに明るい声が掛けられる。聞き覚えのありすぎる声に、アルは戦慄し――慌てて振り向いた。
「―――――お、おかんっ…! 何でここにっ…!?」
「何でじゃないわよ。この城に武具その他納めてるのは、どこの店だと思ってるの?」
ノルウィッチ最大の武器商にして、アルの実母――エルゼリエ・ブルックスは悠然と微笑んだ。
対するアルは、これ以上ないほどに顔をしかめる。
「…昨日まではいなかったじゃねえかよ」
「あたしにだって色々と予定があるのよ? まあ、おかげで今日はいいものが見られたけど――」
にいっと、獲物を見つけた猛獣の目で笑う母親に――アルは逃げ出すタイミングを逸したことを知る。
「―――まあしかし、まだひよっ子だと思っていたのに、女の子を泣かすことだけ一人前とはねえ………」
「誤解を生む表現はやめろよっ!? それに、泣かせたわけじゃ――」
「あんな顔させたら、泣かせたも同然でしょうよ。女泣かすのは人間の屑だって、散々心身ともに教え込んだはずなのに、この馬鹿息子は――」
大仰に溜息をつくと、エルゼリエは真剣な表情で息子に向き直る。
「―――いいこと、アル。何があったかまでは聞かないけど…もしもアンタが、自分に非があるとちょっとでも思ってるんなら、ちゃんと自分の足で歩いていって謝りなさい。いつ何が起こるかわからないこのご時世に、意地になったって何一ついい事はないんだから」
若くして伴侶を亡くした母からの、それは真摯な忠告だった。言葉の内容と、気迫に押されて――アルは思わず素直に頷いた。
「………ああ、わかった」
その言葉に、エルゼリエは再び笑顔に戻ると、息子の背中をぽんと叩いた。
「ま、八つ当たりした事謝れないのと、告白まがいの言葉にびびって逃げてたのとは黙っててあげるから、しっかりやんなさい?」
「――――って何をどこまで知ってんだよっ!?」
エルゼリエの情報収集力に恐れおののくアルの絶叫が、親子以外無人となった会議室に空しく響いた。

※    ※    ※

ぱたぱたぱた、と。
ノルウィッチ城の廊下に、スリスの走る足音が軽くこだまする。
この城には何度か来たことがある。イザベラに、いくつかひみつの抜け道も教えてもらっていた。
スリスは今、そのうちのひとつを通って、廊下から中庭へと抜け出した。
「――――いた!」
木々の茂る中庭に、探していた赤銅色の髪を見つけて、スリスは大きな声を上げる。
たかたかと走り寄ると、赤銅色の髪の青年――アルが振り向き、驚いた顔を見せた。
「スリス!? …っと、スリス陛下、か」
その言葉に、スリスはふるふると首を振る。
「あたしはもう、女王ではないのです。スリスでけっこうです、イーズデイルきょう」
きちんとあいさつをしようと口にした言葉に――アルが思い切り顔をしかめた。
「……子供のくせに、そんな堅苦しい名前で呼ぶなよ。俺の事もアルでいいぞ」
そう言うと、アルはごく自然に膝をつき、スリスと視線を合わせてくれる。
「…で、どうした? 俺に話があるのか?」
うん、と頷いてスリスは手にした絵本を抱え直し、聞きたかったことを口にする。
「ええとね、アルは、ぴあにぃとけっこんするの?」
―――スリスの目の前でアルの動きが止まり、それから頭を抱えてうつむいた。
「……………子供にいらん事吹き込みやがって…おかんか? それともイザベラか旦那か…」
吹き込む、という言葉の意味はスリスにはわからなかったが――何か違う気がして、首を横に振って絵本を差し出す。
「ちがうのです。本にかいてあるの。ぴあにぃは女王だから―――」
絵本を受け取ったアルが、ぱらぱらと捲りながら、驚いたように目を見張る。
「―――ああ、これか…読んでもらったな、俺も」
女王が騎士とともにわるものを倒し、平和になった国でふたりがけっこんするお話は、スリスのお気に入りだった。
アルが知っていたことが嬉しくて、スリスはアルの手の中の絵本を捲る。
「女王は、騎士とけっこんするの。ぴあにぃは違うっていったけど――」
「―――姫さんが?」
「うん、けっこんは好きなひとだからするのよっていった」
スリスの言葉に、アルはなんだか―――怒っているのか困っているのかわからない、変な顔をした。
「…………まあ、そうなんだろうけどな………」
それっきり、黙ってしまったアルに、スリスはもう一度聞きたかったことを聞いてみる。
「アルは、ぴあにぃのこと、好き? ぴあにぃとけっこんするの?」
……アルは、長いこと黙ったままで…それからふっと息を吐くように、やさしい顔で笑った。
「――――――そう、だな。……昔話みたいには、行かないだろうけど」
「……けっこん、しないの?」
よくわからなくて、スリスがもう一度問い返すと、アルは手に持った絵本を指差した。
「この手の話だと、お終いはこうだろ――『へいわになったくにで、ふたりはいつまでもしあわせにくらしました』…だけど今は、そういう状態じゃないからな。平和とは程遠いし」
「くにが平和になったら、けっこんするの…?」
もう一度聞くと、少し困ったような顔で、アルがスリスの顔を見る。
「――――そんなに結婚させたいのかよ、お前」
「だってあたし、ぴあにぃもアルも大好きだから、いっしょだったらもっと大好きだもの」
そう言ってスリスがにっこりすると、アルもなんだか楽しそうに笑った。
「さすが子供だ、わかりやすいな。―――そうだな、『いつまでもしあわせに』暮らさせてやれるようになったら、考えるさ」
そういうとアルは、大きな手でスリスの頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。
『―――スリス様、スリス様はどちらに――』『誰か、スリス様を知らぬか――』
城の中からそんな声が聞こえてきて、アルは眉にしわを寄せてスリスを見る。
「―――――スリス、お前。ここに来ること誰かに言って来たか?」
「ううん。ひみつの通路を使ってきたから、だれにもないしょ」
首を振ってそう答えると、アルは頭を抱えて困った声を出した。
「………はた迷惑な……とりあえず戻るぞ。騒ぎがでかくなると厄介だ」
そう言って立ち上がったアルの手を、スリスはちょっとだけ、きゅっと引っ張った。
「……………どうした?」
「あのね、………かたぐるまして」
スリスのお願いに、アルは少し驚いた顔をして――それからもう一度しゃがみこむと、スリスを肩に乗せて立ち上がった。
「―――これでいいか? しっかり捕まってろよ」
「………うん!」
うれしくてうれしくて。にこにこ笑いながら、スリスはしっかりとアルの頭に捕まった。

※    ※    ※

城内に戻ると、すでに軽い混乱が起きはじめていた。あちこちの廊下から、スリスを探す声が聞こえてくる。
常ならぬ事態に不安を感じたのか、肩に乗せたスリスが、アルの頭に捕まる手に少し力を入れた。
「―――皆、お前を心配してるんだ。コレに懲りたら、出歩く時は、誰かに伝言なり手紙なり残して来い」
「………イザベラも、ブルースも?」
「ああ、先頭切って探してるんじゃねえか?」
そういうと、スリスが黙り込む。……泣き出したかと不安になった時、廊下の角からピアニィが姿をあらわした。
「あ――って、え、あれ!? ス、スリスちゃん!?」
「あ、ぴあにぃ!!」
飛び降りそうな勢いのスリスを肩から下ろすと、一目散にピアニィに向かって走って行く。楽しげに笑いあう二人に、アルが何となく近づけずにいると――脳裏にエルゼリエの言葉がよぎった。
――――ちゃんと自分の足で歩いていって謝りなさい――
一瞬――ほんの一瞬だけ迷ったあと、アルは足を前に出した。ピアニィがこちらに気づき、やや緊張した面持ちで口を閉ざす。
ピアニィの目の前に立ち――アルが意を決して呼びかける。
「――――姫さん、その………」
「――――――ごめんなさいっ!」
………自分が言おうとした言葉を先に言われて、アルの思考が停止する。
「………え……と」
「―――さっき、声かけてくれたのに無視しちゃったのと、それから――無茶をして怪我した事も。ちゃんと謝らなくちゃって思ってたのに、なかなか言い出せなくて――」
本当にごめんなさい、と頭を下げるピアニィに。何と答えるべきか迷っていると――スリスがふと、アルの右手を取った。
「………スリスちゃん?」
不思議そうな声を上げるピアニィの左手を空いた手で取ると――スリスは二人の手をぎゅ、と重ねる。
「なかなおりの、あくしゅ。もうコレで、ごめんなさいもおしまい、ね?」
正確には、握手ではなく手を繋いだ形だが――その気持ちを受け取って、アルは何となく神妙な顔になり頷いた。
「――お、おう」
「………はい。えっと、ありがとう…?」
呆然としたようなピアニィの言葉に、スリスが満足げに笑顔を見せる。
―――それまでの、ピアニィとの間の気詰まりな空気がなくなったのは、アルにとっても嬉しい出来事だった。顔を上げると、きょとんとした顔のピアニィと正面から視線が合う。
それが、ずいぶん久しぶりのような気がして、アルは無意識に笑顔を浮かべていた――らしい。
次の瞬間、ピアニィの顔が湯気でも出そうなほど真っ赤に染まり――
「―――あ、あの、あたし――イザベラさんたち呼んできますねっ!」
繋いだままだった手を離し、ピアニィは脱兎の如く廊下を駆け去っていった。
………自分の行動を客観的に振り返って、アルも赤面していると、にこにこと笑顔のスリスが近づいてくる。
「なかなおり、できてよかったですね♪」
「―――スリス、頼みがあるんだが…さっき庭でした話、だれにも秘密にしておけるか?」
真剣な表情で、視線を合わせて。アルの願いに、スリスは一瞬きょとんとして、それから首をかしげてにっこりと笑った。
「―――また、かたぐるましてくれる?」



後日。
スリスを肩車している姿をピアニィに見つかって
「アル、お父さんみたいですね」
とからかわれるが――それを見ていたベネットに
「ピアニィ様とまとめて親子でやんすな」
と突っ込まれ、それぞれ派手に赤面したと言う。





〜後記〜
誓ってリプレイ3巻よりはるか以前に書かれた話です(笑)
…子供にいらん事吹き込んでましたねえ、おかん。

とにかく、終始スリスに持っていかれた感のある話です(笑)
状況がリプ4話なのでナヴァール(と、ジョリィも)不在は決定済み、ベネット単体で出すと話が変なほうに(主にギャグに)転んでいきそうなので、斥候に出ていただきました。
じっくり心理描写に取り掛かれたので、結果としては良かったかと。
しかし進みは遅くなる+ノルウィッチでの会議だったらいなきゃダメじゃん!?ということで急遽のおかん登場。
そうしたら話が一気に進みました(笑)おかんありがたいよおかん。

テーマは『目指せ少女漫画!』だったのですが、この場合の少女漫画は私が読んでいた頃…
約四半世紀前(!)の、りぼんとかその辺りです(笑)空色のメロディ好きだったなあ…。
達成できてるかどうかは、読んだ方に御判断を委ねます… orz<土下座

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