※キャンドル・ライトの続きです※

身についた習慣というものは、どんな時でもなかなか消えるものではない。
だから翌朝も、アルは同じ時間に目を覚まし、同じように朝の鍛錬をこなして――ピアニィの部屋に戻ってきた。
いつもと違ったのは――扉を開けたら、泣きそうな顔のピアニィに迎えられた事だった。

「――アル…っ」
ほっとしたように、胸に飛び込んできたピアニィを受け止め、髪を撫でる。
「…起きてたのか。悪かったな、一人にして」
「アルがドアを閉める音で、目が覚めたんです…。どこに行ったのかと思って…」
しがみついてくるピアニィの背を、宥めるようにぽんぽんと叩いて――アルは小さく溜息をついた。
「――起きねえと思って、朝の鍛錬に行ってたんだよ…すまなかったな、いつもの癖で」
アルの言葉に――顔を上げたピアニィの表情に、疑問符が浮かぶ。
「………いつも、って――毎日行ってるんですか?」
「まあ、できる時はな。毎日やらねえとなまるし。ほとんど習慣みたいなもんだ」
「――あたし、全然知りませんでした」
不思議そうに首を傾げるピアニィから、気まずげに顔を逸らしてアルがうめく。
「………あー、まぁ、…そりゃあ、なあ……」
アルの態度に、またピアニィの顔に疑問符が浮かび――起き出しているのに気付かないという状況を、ようやく理解して赤面する。
「…あぅ、その、えぇと…」
もじもじと、言葉を濁したピアニィの姿に――アルの顔に小さな微笑が浮かぶ。
「―――とりあえず、元気にはなったみたいだな」
そう言って、薄紅色の髪を撫でると――ピアニィは小さく頷き、もう一度アルの胸に頬を埋めた。
「……はい。大丈夫…アルも、皆もいてくれるから」
だから、頑張れます――そう呟いたピアニィの背を、アルはそっと撫で下ろした。
…抱き合ったまま、互いの鼓動の音を聞いて。しばらくそうした後で――ピアニィがふと顔を上げた。
「…そういえば、アル。昨日、言いそびれたことがあるんですけど――」
「………昨日? なんかあったか?」
首をかしげるアルに、ピアニィはこくりと頷き――
「ナヴァールに言われたって言ってたでしょう、あたしをただのピアニィに――って。あの時に……」
「――ああ、確かに何か言いかけてたな」
昨夜、ピアニィが眠りに落ちる直前。そんな話を確かにしていて――けれど、ピアニィはそのまま眠ってしまっていた。
…アルにすがり付いていた腕を離し、わずかに距離を取って。ピアニィは俯いたまま、おずおずと言葉を紡ぐ。
「………最初に、ノルウィッチで、言いましたよね――女王としてじゃなく、騎士としてじゃなく…って。だから――」
一度言葉を止め、胸の前に置いた手をきゅっと握って。ピアニィは――かすかに紅潮した顔を上げて、アルを見つめた。
「…だから。アルといる時のあたしは、ずっと―――なんでもない、そのままのピアニィです。あなたの事が好きな、ただの…女です」
翡翠の瞳に、強い意思の光を宿して。真っ直ぐに見つめてくる愛しい少女に、アルは小さく頷き返した。
「―――そう、だったな。俺もそう言った。……悪かった」
小さく呟いた謝罪に、ピアニィは微笑んで首を横に振った。
「謝らないでください。アルが、あたしの事を思ってくれたの、わかってるから……嬉しいんです」
本当ですよ、と付け足して――ピアニィはそっとアルの手を引き、ソファのほうへと引き寄せた。
「……立ち話するの、疲れちゃいました…座りましょう?」
照れを隠すようにそう言ったピアニィを――アルは逆に引き寄せ、腕の中に抱き締めた。
「――――俺もひとつ、言いそびれてたことがあるんだが。聞いてくれるか?」
「…え、えと、なんですか…っ」
突然の抱擁に、ピアニィの顔は赤く、大きな目はまん丸に見開かれている。
きょとん、という言葉がふさわしいその表情に、アルは微笑んで――静かに顔を近づけた。




「――おはよう、ピアニィ」


 



〜後記〜
砂糖吐きっ放しですみません。甘いの、大好きなんだ…!
一応なにもしてはいないんですが、なんだろうこの甘さと恥ずかしさは(笑)

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