「ごめんなさい、アル!。あたしの《甲斐性》が無いばっかりに!」

「はあ?!。いきなり何言ってんだ、姫さん?」

静かなバーランド宮殿の一室。
可憐な女王陛下の嘆きの声と、些か不貞腐れ気味の女王騎士の疑問の声が響きわたる。
ちなみに、その一室とは当の女王騎士の私室であり、それなりの広さと重工感あふれ且つ品の良い家具が配置されている。
そして現在展開されているのは、その部屋の窓際に配されたソファに凭れ掛かっていた何処かくたびれた感のある赤銅色の髪の青年に、まるで圧し掛かるように薄紅色の髪の花のような少女が目に涙を浮かべて詰め寄っているという光景で・・・・。

はっきり言って、《謝っている》というより《迫っている》とか《泣き落としをされてる》と言われても反論できない体勢である。

「だから、あたしの所為でアルが・・・(涙)」
「だからぁ…何をどうしたら、俺が姫さんに《甲斐性無し》で詫び入れされなちゃならないんだ?」
「ほぇ?!、えっと…」
「つーか、《甲斐性》なんぞという言葉、どっから出てくる?!」
「ふぇ・・・・その・・・」
一気にまくし立てながら、詰めよられた体勢を立て直し、ピアニィの肩を掴んできちんととソファに座りなおさせてアルは続ける。
「んったく、姫さんは初めて逢った時から、いきなり捲くし立ててくれるんだからよ」
「ううう・・・・すいません」
とたんにシュンとなって俯くピアニィ。その様子に、思わず苦笑しながら、ふんわりと柔らかい薄紅色の髪の頭をポンポンと叩くアル。
「ほら、ちゃんと始めから話してくれなきゃわからねえよ。こっちはさっき城に帰ってきたばっかりなんだからな。」
実は、あいかわず城から出歩いているらしい。
「おまけに、帰ってくるなりアレだったしな・・・(溜息)」
さらにナニやらあったらしい。それを思い出したのか、げっそりとした表情で、まるで癒しを求めるように叩いていた手で、そのままサラサラと流れる薄紅色の髪を撫でる。
ちなみに、撫でている手は無意識である。まあ、撫でられてるピアニィの方も全く気にしてないようなので問題はない。
というか、今更問題にするような人間は城にいない…多分。

「だから、それです!!☆」
「はっ?」
俯いていたピアニィがはたっと顔を上げて、アルをじっと見つめると口を開く。その真剣な表情と言葉に、アルの手がぴたっと止まる。

「・・・・・アルが帰ってくるなり《また捕まっちゃった》のが、あたしの所為なんです!!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(沈黙)

「それはちげぇだろぉぉぉ☆。つーか、《捕まって》ねえぇぇぇ!!(絶叫)」

アルの怒号が廊下まで響き渡った。



で・・・・・・女王騎士様が帰城するなり遭遇したアレとか何か?という話になるわけで・・・・

この日、アルは一週間ぶりにバーランド宮殿に帰っていた。
今回は、(ちゃんと)女王陛下の第一騎士としての公務をこなしての帰城である。(いや、仮にも王国筆頭騎士が、女性化して隠密任務をする方が間違っているわけで…)
軍師様依頼で、ルーパスディルの街まで『新規兵力状況の視察』及び『傭兵隊との新規契約の交渉』に出ていたのだった。
まあ、元傭兵のアルにとって、山積みされた公務の中では、比較的こなし易い任務だったのは間違いない。

―― 俗に言う【メルトランド戦役】後、フェリタニア王国の状況は領土その他において、劇的なまでに変わっており、ついでにレイウォール軍襲撃の復興作業まであるとなると、女王陛下以下王国首脳陣の多忙さは半端ではなく、いっかな『勝手をやらせてもらう』が身上のアルでも逃げるに逃げられないという状況だった。というか、『もう逃げない』の言質をとられて軍師様に使い倒されまくっているというのが正しい。――――

アルは、視察ついでに傭兵達との腕試しのバトルを何戦かこなし、契約交渉を舌先八寸で筋力判定に持ち込んだ上で有利に進め、当初の予定以上の成果を上げてアッサリと軍師の依頼を終了させた。
ついでに、(バーランド・ノルウィッチに続き)ルーパスディルでも、またぞろシンパを量産してしまったのはご愛嬌というものだろう。
で、さらに例によって帰途の最中小さなトラブルに巻き込まれてはサクッと切り抜けてバーランド城下に帰ってきた時、結構疲れていたアルの頭をよぎったのは、【女王騎士様】の帰城するごとに沸き起こる歓迎の騒ぎ(リプレイ3話参照)だったりしたわけで・・・・。

城の正門までたどり着く前に思わず方向転換し、そのまま裏口に回ってしまったのは決して責められないだろう、多分。・・・・勿論、なんの不都合も無かったらだが(汗)

が、当たりのように不都合は起こるわけで・・・・、というか起こらないわけはない。

ここで問題だったのは、城の裏門に配置されていた衛兵が、最近新規採用されたばかりの新兵だけだったことだろう。しかも、バーランドの街の出身というわけでもなく、旧メルトランドからスリスを慕って移ってきたばかりの全くの新顔揃いだった。
まあ、新兵だったからこそ、重要度の低い裏門に配置されていたわけで・・・・

――――実は、只今のフェリタニア王国の財政は、建国初期に比べたらかなりのところ潤っていた。《王国真の黒幕》といわれる軍師様の大活躍により領土が格段に増えた(旧アヴェルシア領+ノルウィッチ他若干の旧メルトランド領土の併合)上、某筆頭騎士様のご実家である国内最大の武器商(になった)からの大量の資金・及び物資の援助があった為である。その余勢を受けて、戦役による難民対策と直前のレイウォール軍バーランド侵攻の後始末、及び、予測される次回侵攻に備えての戦力整備の為に、国内では過ってない勢いで人材登用が進んでおり、新規採用人員はバーランド城内だけでも、かなりの人数になっていた――――

つまり、アルが裏門を通過しようとした時には、フェリタニア王国女王の側近中の側近にして王国第一にして筆頭騎士たる《アル・イーズデイル》の顔を全く知らない衛兵しかいなかったというわけなのだった。

で、採用されたばかりで経験と知識はイマイチだが勤労意欲には溢れる新人衛兵達の配置された王宮の裏門を、《くたびれたボロボロマント着用で擦り切れ埃まみれの格好・でも完全武装で少々胡散臭そうな傭兵の青年》が《まるで人目を忍ぶようにコソコソと、でも至って無造作に通過》しようとしたら・・・・・騒動が起こらないハズはないのである(笑)。
というか、普通、こんな《武装した胡散臭い傭兵》をノーチェックで城門を通過させたら王宮の警備兵として大問題なわけで。
当然の如く、《武装した胡散臭い傭兵の青年》=アルは、王宮の裏門に一歩踏み込むなり、大勢の新人衛兵に包囲、即刻・拘束されることになった。
だがアル的に、自国の職務熱心な兵士(つーか、国内所属の兵士は事実上全員がアルの部下である)に迂闊にその剣技を振るって怪我をさせるわけにいかないという判断と、自ら仰々しい《女王陛下の第一の騎士》の肩書きを大声で宣伝する気にもなれなった為、そのまま衛兵詰所まで引っ立てられるハメになり・・・。
まあ、《格好》が格好だっただけに、その場で肩書きに訴えたとしても、新人衛兵の皆様方に信じて貰えたかどうかは解らないが、・・・・というか多分無理。
普通まず思わない。いかに《身分を問わない》を標榜する新興弱小国家とはいえ、自国の上から数えて三番目くらいに偉い王国筆頭騎士様(他国で言えば、かの幻竜騎士団長リシャールか、それ以上)が、こんな《如何にも胡散臭いボロ装束》で、城の裏門から《コッソリ》と名乗りも上げずに入城しようとは。

というわけで、あのままだったら、アルが再度このバーランド城の地下牢のお世話になって《ザ・捕まる男》(命名・女王陛下)の異名をさらに広げることになった可能性は否定できない事実である。

まあ、衛兵詰所に引っ張ってこられて、いざ尋問開始という所で、騒ぎを聞きつけてすっ飛んできた王都防衛の総責任者にして王宮警備隊長・ネルソンの事情説明で事なきを得たのだが・・・・・・
その後、衛兵詰所近辺で新人衛兵達による、そりゃもう阿鼻叫喚の大騒ぎが巻き起こったのも仕方の無い事なのか・・・。

なんせ、自分達兵士にとっての上司中の上司、その上には女王陛下だけという王国筆頭騎士様(多分、位から言えば、筆頭騎士と王国軍師は同位だと思われる。たとえ、軍師様が筆頭騎士様を使い倒しているように見えていても)を、問答無用で包囲・拘束の上・連行、そのまま地下牢に放り込むところだったのだから。
すわ、クビだ、いや投獄だ、国外追放だ、死刑は勘弁してください!と嘆きまくる兵士達だの、「自分の教育が行き届かずに申し訳ありません!(涙)」と土下座する衛兵達の小隊長だのを、宥めて騒ぎを収拾するのに、ネルソンと二人掛かりで大層な労力を払うハメになった女王騎士アル・イーズデイルは、今後にどんなに仰々しく出迎えられても、その肩書きを大声で名乗ってでも、正門を使用しようと固く心の決めることになった・・・・・全く持って、自業自得な事態だったが。

ついでに、騒ぎの収拾後、(拘束された所為で)ボロボロ感が更に増した格好のまま呼び出し喰らって、クソ忙しい最中に余計な労力を支払うハメになった王宮警備総責任者のネルソン(事実上、アルが直属の上司)と、その祖母であり、現在王国の内政全般の統括者(つまり人材登用の総責任者)であるナイジェルから「いい加減、自分の立場と地位と知名度を自覚して行動しろ!。つーか、相応しい身嗜みくらい気を使え、この考え無し!。王国の貧乏を筆頭騎士が宣伝してどうする!。女王陛下の面子まで潰す気か!(怒)」といった内容を、遠まわしにやんわりとだがガッツリ、婆孫二人掛りの盛大且つ長ったらしいお説教を拝聴することになったのも、やっぱり自業自得である。


――――というわけで、心底疲れ果てて自室にたどり着き。荷物を放り出してソファに身体を沈めて一息ついたところに、半べそ状態の女王陛下が乱入してきたというところで、冒頭に繋がるのである。

つまり・・・・・。

「だーかーらぁ、俺は断固絶対に《捕まって》なんぞないっっ!。つーか、この話の何処に《姫さんの所為》になる理由があるんだ!」
徹頭徹尾、アルの自業自得であるのは間違いない。
「・・・・《甲斐性》なんぞ、もっと関係ねえじゃねえか・・・」
ちょっと語尾が沈んできたのは、自分の《甲斐性》の方に問題があると自覚があるのか?
ピアニイの両肩を掴んでその花のような可憐な顔を覗き込み、興奮して怒鳴った所為か自分は肩で息をしながら、言葉をつなぐ。
傍からみたら、興奮したアルがソファにピアニィを押したす寸前のように見えるが・・・・・当然、二人も気づいて無いし・・・・城の誰も気にしない・・・・きっと

「でもぉ・・・・」
「・・・・ん?」
この期におよんで反論なんぞ認めん!といった迫力のアルに、肩を掴まれたままで、おずおずとピアニイは続ける。
「あたしは、この国の女王で・・・この城の主人で、ならこの城で起こった事は私が最終的に責任を負うべきだと思うし」
「や、だが今回のこれは・・・・」
女王陛下のご立派なお覚悟ですが、やっぱり今回はアルの…以下略
「それに、・・・その・・・こうやって一緒に城に住んでる以上は、アルも皆さんもあたしの《家族》だって思ってて・・・というか思っていたくて」
「姫さん・・・・」
本当の血の繋がった家族から、追われ・決別して今此処にいる、目の前の少女の辿って来た苛酷な道を思い出し、アルは言葉に詰まる。
何故なら、追われた道の大半を共に歩き護ってきたのは、他ならないアル本人で・・・・。
「それなら、やっぱり《家族》の身嗜みに気を使わなきゃいけないのは、女主人たるあたしの責任で・・・」
至って正論である。あくまで、一般の家族なら。
だが、今回の問題は気を使われる方にあったわけで・・・。
「そりゃ・・・・」
「だから・・・・アルが《貧乏ったらしい格好》の所為で、この城の方々に非難されたり、捕まっちゃたりするんなら、それはあたしの所為なんです!!」
「ぐっっ!」
再び、女王陛下の自らを責める嘆きの声が、女王騎士を直撃する。
なんというか、今度はクリティカルヒットだったようだ。
なんせ、《仰々しいのが嫌い》《堅苦しいのはゴメンだ》と広言し、ワザワザ好き好んで《貧乏ったらしい格好》で通しているのは、アル本人な訳で・・・。
「自分の家族に《貧乏生活》させてるのは、一家の主人に《甲斐性が無い》からなら、あたしの《甲斐性が無い》ってことですよね。実際、つい最近までナヴァールさんに《お金がありません!》って言われるくらい貧乏だったし」
確かにそうでした。女王自ら畑仕事に従事するくらいには(笑)
「アルの実家に借金までしてますし」
「いや、それは・・・・(汗)」
じつは、借金ではなくあくまで《資金提供》。つまり投資なのだが。
ついでに、「アレは息子の持参金代わりよ♪」と広言しているのは、当のアルのおかんで。
アルが言葉に詰まろうというものである
「この国に来た時の収入は、殆ど全部ナヴァールさんお渡ししちゃいましたし・・・・」
というか、その収入を殆どつぎ込んだ《ケセドの杖》を買えと最初に言い出したのは、これまたアル本人である。
まあ、投資に見合った以上の性能を発揮・数々のピンチを乗り越える助けとなったので、誰からも文句は出て無いが。
「その後も、収入は武器防具ばっかり揃えて、まともな《騎士正装》の一つもアルに用意してあげてないんです!」
「うぁ・・・それは・・(滝汗)」
実は、メルトランド戦役後、国庫大幅に潤ったので、体裁を整える為に予算を組むから《儀礼用騎士正装一式》を整えろというナイジェル・ネルソン・ナヴァール三者の要請を、「んな堅苦しいモン、いらん。金の無駄だ」の二言で切って捨てた上に、そのまま無視し続けているのはアル本人だったりして・・・・。
「やっぱり、あたしの《甲斐性が無い》所為なんですよぉ」
見つめたピアニィの瞳が潤み、そのまま俯かれて、消えそうな声で囁かれると、アルの心は切り裂かれたように痛む。
・・・なんせ、徹頭徹尾アルの自業自得であるのに、護ると誓った己の女王にここまで自分の所為だと嘆かれると、アルの立場も良心も、ついでに騎士として沽券もみじん切りである。
しかも、憎からず思ってる少女に「私の《甲斐性》が無くてゴメンナサイ」なんぞと言われて泣かれるのは、男としても《尊厳》に拘る問題ではなかろうか。

「あ――、姫さん、わかったから・・・」
「ふぇ?」
とりあえず、アルは己の身上を引っ込めて、ナイジェルとナヴァールに頭を下げて《儀礼用騎士正装一式》の予算を再発注する旨と、長年の愛用品・枯れ葉色のマントに別れを告げる覚悟を決め、ピアニィの俯いてしまった顔を覗き込もうとして・・・・。

「・・・えっと、・・・というわけで、あたし、ちょっと《出稼ぎ》に行ってこようと思ます♪」
「・・・はぁ?!」

うって変わって、自信ありげに微笑んだ女王陛下に、逆に顔を覗き込まれて、機先を制されることになった。

「きちんとお金を稼いで、アルに立派な服を用意します。《甲斐性無し》を返上してみせます!」
「待て待て待てぇぇぇぇ!」
仮にも一国の女王が何処に出稼ぎにいくんだ!!とか、
姫さん自身に《甲斐性無し》を返上されたら俺の立場がねえぇ!!とか、
アルは心の中で盛大にツッコミを入れたが、口をパクパクさせるだけで、実際に声にだせなかった。
ピアニィが、そりゃもう楽しげに己のプランを話し初めてしまったからでる。
「大丈夫です。ちゃんと、国内で、あたし程度でも効率的に稼げる方法を知ってます」
「へえ・・・(汗)」
箱入り世間知らずの元・王女(現・女王)が、どうやって効率的?
つーか、【女王】を雇うなんて神経の太い場所があるのか?
内心のツッコミが入りまくって・・・・。ハタッっと
「待て待て待て!!。 まさか、うち(ブルックス家)じゃねえだろうな、おい!!」
あのおかんならやりかねない!と、おもわず、可愛いけど怪しげな格好をさせられた売り子姿のピアニィを幻視するアル。
「ちがいますよ。それに、アルのうちに行ったら、稼ぐって言うより《体で借金返済》になっちゃいます」
「そうか・・・(ホッ)」
だから、あれ、借金じゃなくて、投資なんだけど・・・・。とは、ツッコメないアル。
「はい、皆さんの役にたって、懐も潤うとってもイイ方法です」
「へえ・・・・」
「しかも、わたしひとりでもできそうです。大丈夫です」
「そりゃ良かったな・・・それで?」
アルは、とりあえず腹をくくって最期まで女王陛下の話を聞くことにした。実家が拘らないので安心したのである。
それが大きな油断であると知らずに・・・・。

「だから、ちょっとこの近辺の【盗賊さんいぢめ】にいってきます☆」

・・・・・・・・・・・・・(汗)

「なにぃぃぃぃ!!!」

今度もアルの怒号が廊下から、庭まで響く。

「だから、最近この近辺に出没して、隊商の皆さんに迷惑をかけている盗賊さん達がいっぱいいるそうなので、ちょっと懲らしめてあげて、ついでにそのドロップ品を換金すれば、手っ取り早く効率的にお金が稼げます」
「待て待て待て、いや、それ《出稼ぎ》と違うから・・・(汗)」
「ふえっ?」
はっきり言えば【盗賊の上前を撥ねる】である。
すくなくとも、まっとうな《出稼ぎ》ではない。
つーか、街道と街近辺の安全を整備して、盗賊を取り締まるというのは、たぶん国の騎士団とか街の警備隊とかの主な仕事で、それを指示して統括するべきなのは・・・・言ってはなんだが、この国の国防の総責任者で《王国筆頭騎士》であるアルの責任になるんじゃないかと思われる。
それを女王陛下の《出稼ぎ》の対象にされたら・・・・。
「作ったばっかりの【王国騎士団】の面目丸つぶれじゃねえか」
いくら国防の殆どをルーパスデイルの傭兵たちに頼ってるとはいえ、仮にも一国に騎士団くらいないと面子が立たないということで、一応組織されたのだ、フェリタニア王国の騎士団が。
もっとも、組織したのは主にナヴァールで、維持・整備・拡張してるのはもっぱらネルソンだが・・・・でも、一応名目上の指揮官は王国筆頭騎士のアル・イーズデイルになっていて・・・・。
つまり、潰れるのはアルの面目である。
「他に、なんか無いのかよ・・・」
アルにとっては、ある意味最悪の《出稼ぎ》方法である。
まだ《動物技芸団》でサーカス興行とかの方がマシなくらいだ。
「でも、あたしが得意なのって《サバイバル》と戦闘魔法ですし。これくらいしか、効率のイイお金の稼ぎ方って教わってないです」
「つーか、こんな《金の稼ぎ方》誰に吹き込まれたんだ!!」
また、あのじいさん(コネリー)か?。いや、殺意の高い母親か?それとも、ベネットか?
ベネットだったら、即刻〆る!。と、心に誓うアル。
「えっと・・・、前に通ってた学校の先生に教わりました。《盗賊さんは懲らしめると懐も潤ってこんなに良いことは無い》って。他にも《悪いヤツに追跡されそうになったら、追跡手段と糧食は燃やして後顧の憂いをたてた方がイイ》とか《追っての足を止めるなら橋を落としておいた方が安全》とか」
「どんな教師だよ、それ!」
生徒にそんなロクデモない方法を!
つーか、なんだその徹底した容赦の無さは!。
「えーぇ、でも、アルさんも知ってる人ですよ」
「なにぃぃ?」
背中に、盛大に嫌な予感がはしった。
そりゃもう最大級のおかん・・いや、悪寒が。
「だから、4年前にあたしのクラスを担当していた、魔術師の先生です。こないだ、ノルウィッチで一緒にご挨拶したじゃないですか」
「って、それって・・・・・」

「はい、エルザ・ブルックス先生です!」

「・・・・・・(滝汗)」

嫌な予感、大的中。

エルザ姉、なんてことを・・・・っていうか、なんか五年前にそんな話を聞いた気がする。つーか、あれ、実際にやらかしてたのか、あの時はとっても理不尽なこと言われた気がするが、そうでもなかったんだな。ブツブツブツ・・・・・。
満面の笑みのピアニィを前に、血の気が引いた顔で俯いてブツブツ呟くっていうか、心の中でニッコリ笑う長姉にツッコミを入れ続ける他無いアルだった。
これは、もう、アルにはどうしようも無いくらい、徹頭徹尾アルの自業自得・責任とらなきゃいけない事態となっていた。
「だから、今からちょっと出かけてきます。さっきナヴァールさんに確認したら、二日間くらいなら、仕事を溜めても問題ないってことなので・・・・後で、貫徹二日間を覚悟すればですけど(苦笑)」
「さいですか〜・・・・(脱力中)」
旦那に確認済みかよ!。つーか、止めてくれよ、旦那!と、やっぱり心の中で呟くアル。
「ナヴァールさんに聞きました。このファンタジア文庫には《盗賊イジメ》から始まって、《魔王》を倒した偉大な先達の魔道士がいるそうです。あたしも、見習って頑張ります!」
それ、メタすぎるネタだから。とは、もうツッコめないアル。
ナヴァールあんた、何処まで黒幕・・・・。

「・・・・わかった。俺も付き合うよ」
「ふえっ?」
どんな時でも放っておけない時点で、アルの負けは確定しているのだ。なら、もう開き直って腹を括るしかない。
こうなったら、こっちもメタ的に、同じくその偉大な魔道士の相棒の先達の剣士(腕は達人だが脳みそクラゲの)に倣うことにした。
「元はといえば、俺が原因だしな」
「でも、アルが一緒に稼いだら、あたしが《甲斐性無し》を返上したことにならないと思うですけど・・・」
「別に、稼いだ金をキッチリ等分して、姫さんの分は姫さんが使いたいように使えばいいだろ。俺は俺の都合で使うから」
たぶん、アルが稼いだ分は女王陛下のご衣裳代に回ることになると思われるが・・・・。
そんな考えはおくびにも出さず、再び、薄紅色の髪の頭をポンポン叩きながら言うアル。
「それに、いくら一人で大丈夫っていっても、相手は大勢で、姫さんは基本的に後衛で打たれ弱いんだから、前衛は最低一人はいた方が安全だとおもうぞ」
「はい・・・そうですね」
「大人数あいてに連戦するんなら、二人の方が消耗も少ないしな。資金稼ぎが目的なら、ポーション代も節約すべきだろ」
「ふえ・・・。そう、です」
「そもそも、盗賊相手なら俺の方が断然経験豊富だ。俺がいた方が、より効率的に殲滅できる」
「・・・ですよね」
うんうんと頷いて、納得したピアニィは、頭に置かれた手とその手の主を上目遣いで見上げて言った。

「一緒に行ってくれますか?、アル」
「まかせろ、姫さん!」


かくて、フェリタニア王国の女王陛下と女王騎士が置手紙一つ残して失踪し、軍師を除く首脳陣を「すわ、駆け落ちか?!」と騒然とさせることとなった。
―――それに対する軍師のコメントは「何を今更」とのこと。

二日後、両手いっぱいに手土産抱えて帰ってきた二人が、重臣総出のお説教の嵐に見舞われることになるのだが、二人揃ってぜんぜん堪えてなかったということである。
むしろその後、留守の間に溜めまくっていた仕事の後始末に、女王陛下とそれを手伝わされた女王騎士が、二人揃って目を血走らせながら泣き言をいうハメになったのを、軍師様が悠々と眺めていたとのことである。

ちなみに、フェリタニア国内を跋扈していた盗賊の被害は、その日を境に激減し、五十以上もの盗賊団を壊滅して回った謎の人物達の事情を察しているネルソンが、自国の騎士団のメンツを潰した女王陛下と女王騎士に、苦虫を噛み潰した顔になったのは、全くの余談である。

どうでもいいことだが、その盗賊団50以上を嵐の如く蹂躙して歩いた『謎の二刀流剣士と魔術師の男女二人組み』は、《フェリタニアの殲滅カップル》と呼ばれ、国内に留まらず、メルトランドの盗賊達にまで、恐怖と絶望の対象として半ば伝説になりつつあるそうである(笑)。


さらに、余談ではあるが、謎の失踪から帰ってきた女王騎士様が、実家から送りつけられてきたという、自室のワードローブから溢れてはみ出している色とりどり種類様々豪華絢爛な《騎士正装一式》に呆然となり、挟まれていたメモの《女に恥をかかせるな!、この甲斐性なし!》という内容に戦慄と眩暈を覚えて、再び自室のソファに沈み込むことになるのだが・・・・

本当に全くの余談である。




――――了


とりあえず、夏の新刊からSSを一つ。いえ、実際に始めて書いたサガSSですが・・・。
初っ端からギャグオチ開始です(苦笑)
・・・・・・・いや、ギャグオチじゃないSS、まだ無いしなあ

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