「―――しかし、姫さんも危機感がねえよな」
すっかりお馴染みになった、真夜中のゲーム三昧。
今日は珍しくチェスなどしながら、アルが小さくボヤいた。
――ちなみにチェス盤が置かれているのもふたりが腰掛けているのも、ピアニィのベッドである。
「危機感…ですか?」
きょとんと小首を傾げて、ピアニィが聞き返す。
「危機感っつうか…もう少し警戒しろよな。夜中の寝室に、若い男と…2人っきり…って……」
…自分で言って恥ずかしがるあたりが、アルのらしいところと言えば言えよう。
口の中でごにょごにょと後の言葉をごまかして、アルは盤上の黒のルークの駒を動かした。
ピアニィの手が白のクイーンに伸び――指だけでくるくると弄る。
「―――警戒して、ないわけ…ないです…」
アルが視線を上げると――かすかに上気した頬で、目を伏せるピアニィの姿が映る。
「だけど、ゲームしようって言ったのは、あたしの方だし…アルも楽しそうですし……どきどきしてるのは、あたしだけかもって――」
クイーンの駒をもじもじと弄るピアニィの手を、アルの手がおさえる。
「――あのなあ、姫さん…」
言葉と共に、ピアニィの腕が引かれ――弾みで盤上の駒がかろん、と倒れる。
次の瞬間、ピアニィはアルの胸の中にいた。
―――………っ!
肌が一気に熱くなり、胸が痛いほどに高鳴る。思わず胸元を抑えたピアニィの上に、苦笑交じりのアルの声が降りてきた。
「誰が、ドキドキしてないって?――よーく聞いてみろよ」
その言葉に、ピアニィは小さく息を整えて、アルの胸に耳を当てる。
聞こえてきたのは、早く、強い鼓動――ピアニィと同じように。
「こっちだって、気を遣ってんだぞ? あんなに楽しそうな顔してる時に、押し倒すわけにいかねえだろ」
顔を上げると、優しい笑顔のアルと目が合った。
「―――アル…」
囁いた唇に、答えるようにアルが自分のそれを重ねる。

――ピアニィの手から、先ほど握りしめたままだった白のクイーンの駒が落ちて。
ランプの作る淡い影が、もつれるようにベッドに倒れる。

まるで、空気を壊さぬよう配慮したかのように。
チェス盤がシーツの上を滑って、音もなく床に落ちた。






〜後記〜
真夜中遊戯、の後の話。やはり時間軸設定が曖昧なので、こちらに入っています。
TRPG中にそういう話には、ならないと思うんでチェスに(笑)
セッション中に押し倒されたら、陛下激怒しそうだ。アルさんも絶対しない気がするけど。

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