「あの…、そう言えば、アルの《夢》って何なんですか?」
「ああ?…よりによって、今この状況でそれを聞くか、お前」

ちなみに、現在の状況はといえば、試練とアルディオンに帰る為に、先程指示された回廊をそろって全力疾走中である。
勿論、二人の前にはベネットが進み、すぐ後ろにはナヴァールが続いている。
どう考えたって、この会話は残りの二人に筒抜けなわけで……先ほどのアルのアレコレの発言を思えば、絶対にニヤつかれてるのは間違いない。
そりゃ、アルの返答もそっけなくなろうというものである。

「だって、気になるじゃないですか。今までアルの目的…、やりたいことっていうか、やらなきゃいけないことは聞いてましたけど、アルの《夢》なんて始めて聞いた気がします」
やらなきゃいけないこととは違うんですよね?
と全力疾走しながら小首を傾げるという器用なことをやりつつ言葉をつなげるピアニィ。
「当たり前だな。俺だって話した記憶はない」
というか、つい最近思いついた…というか自覚した《夢》だし。
と、きっぱりしてるんだか歯切れが悪いんだかよく解らない言葉を返すアル。
「なら尚更知りたいですよ!。……だって、アルの《夢》にあたしも付いていかないといけないんですから」
「なるほど…今度はそうくるか」
「そうくるかって…ついてきてもらうって言ったのアルじゃないですか!」
「当然だ。『一緒に来て欲しい』なんて我侭言ったヤツに、『ついていくのは嫌です』なんて拒否権を認めるつもりは断固としてない」
「い、言わないですよ、アルに、嫌だなんて。ぜ、絶対にです!………だって、嬉しかったんだもの、ついてこいって言ってくれて…」
「……だからこのタイミングでお前そんなことを……本当に、自覚なしってのは始末に悪いな」
その纏ったローブより紅い顔で俯いてしまったピアニィと、これまた全力疾走しつつ赤面しながら溜息つきそうな小声で、傍から聞けば完全に自分を棚上げした言葉を返すアルであった。
勿論、前後から感じる二人分の生暖かい視線は断固無視あるのみである。

「まあ、安心しろ。ピアニィ…お前の《壮大でささやかな夢》に比べれば、わりとありふれた《夢》だからな」
「ふえっ?」

―――叶わないと言ってるくせに叶うと信じてる夢。世界を平和にする為に、小さな礎になる―――そんな途方も無い夢に比べれば遥かにどこにでもある夢。
世界の男の多くが、一度は願うであろう夢。
ただ、その願う相手が世界で唯一無二と言っていい程問題抱えているだけで―――

「ただこう……相手がどうしようもなく厄介で始末に負えない困ったヤツなんで、実現するために俺一人がどんだけ頑張ってもかなり困難極まりないってだけなんだ……まあ、どんな手段を使おうが、どんだけ時間がかかろうが諦めるつもりはないけどな」
アルは、チロリと隣の未だ顔が紅いまま上目遣いにこちらを見上げてくるピアニィを見つめる。

―――本当に厄介極まりない相手。
そのほわほわと花のように可憐な姿そのままに頭の中までお花畑で、そんな誰より優しい世界を望むくせに、その自分の望みの為なら相反する自分の兄を敵と言い切り、その手を血に染めることを厭わないと言う、自ら操る氷の魔法のような冷酷さを見せる女。

自分の周りの世界全ての人々が幸せでないと我慢がならないという強欲さを見せるくせに、自分の幸せなんて今は後回しでいいという無欲な女。

一緒にこの場に留まってくれと願えば、それを否と言い、逆に一緒に前に進んで欲しいと我侭を言うくせに、その後について来いといえば、抗うどころかそれが嬉しいという素直な女。

俺と約束したから、決して他の誰かの犠牲になって死なないと言い切る真っ直ぐな強さを持つくせに、他人を傷つける自分が辛いから俺の願いを叶える為に俺に斬られたい乞いながら涙を零す儚さと弱さを見せる女。

―――優しくて、冷たくて、強欲で、無欲で、我侭で、素直で、強くて、弱く儚いお前。

そんな性質だけでも厄介なのに、さらにロクデモない生まれと血族と《解き放つもの》なんて重過ぎる運命を背負って、多くの人々に世界を救うことを望まれている生まれながらの王女様に、自分は願うのだ。

―――ただの一人の平凡な少女として幸せなってもらいたいと―――

いや、幸せにしたいのだ、自分の傍で、この腕の中で、他の誰でもない自分の手で。

心に決めた唯一人の為、平凡な幸せを願う。
本当にどうしようもなくありふれてるのに、その相手が相手なばっかりに厄介で実現させるのがとてつもなく困難な夢。


「……なんで其処であたしを睨むんですか?!……よ、余計に気になっちゃいますよ!」
「睨んでなんてねえよ!」
ちょっと自分の度し難さに呆れただけだと一人ごちる。
本当に度し難くて厄介なのだ。
そう、さらに厄介なのは、きっとこうなると薄々わかっていたから、ずっと目を逸らし続けていたのに、追い詰められた挙句に思い知ってしまった自分の心で……。
自分ですら如何ともし難いその心は、彼女のその抱え込んだ相反する全てがこの上も無く腹立たしいはずなのに、…なのに、同時にその全てが愛おしいと想うのだ、その存在を失わない為に他の大切なもの、いや、彼女以外のこの世界の全てを切り捨てても構わないという程に。
何より優先すべき、師の遺志を叶える誓いを二の次にすることも厭わない程に。

おまけに、さらに自身でさえままならなく理不尽な自分の心を持て余し呆れ果ててもいる。

彼女に一緒に残ろうと乞うた時、その手を掴もうとして掴めず身を翻して逃げた姿に、途方にくれながら実は安堵していた……ここで躊躇無く頷く彼女は、自分が失えないと、共に居たいと願った少女の本当の姿ではないから。
結局、自分の願いを退け、叶わないと言いながら己の願いを諦めず、先に待つどんな困難をも乗り越えて前に進むと、だからその場に留まるのではなく共に未来に進もうと誘う彼女の言葉に、憤りながらも歓喜といや増す愛おしさを認めざるを得なかった。
そのしなやかな強さと未来(まえ)だけ見つめる続けることのできる瞳の光が、何より自分を引き付けてやまないものだと。

理不尽だ。本当に理不尽極まりない。
こんなにも愛おしいのに、いっそ憎らしいほど腹立たしい彼女への想い。
だから、思わずその当の相手のピアニィを見つめる視線に、慈しみと共に剣呑なものが混じるのだ。
何故かといえば、この多くの人に大切に大切に慈しまれてきた骨の髄までお花畑な彼女は、きっと自分がどれだけの強さで彼女を想っているかなんて、今の彼女自身は本当に理解なんてしていないに決まっているのだから。

自らを取り巻く世界の全ての平和と、そこに住まう幾多の人々の幸せを分け隔てなく夢見るピアニィの想いは、優しく穏やかだ。
何故なら、彼女はそう育てられて、そうある姿を望み望まれたから。
唯一人を想うより、自らの身より、国の、民の、世界のために在れと。
だから、彼女は知らない。
唯一人の為に全てを捧げ、その為なら世界の全てを引き換えにしても構わない、それを失うくらいなら他の全てを切り捨てることを選ぶ、その手に抱く為なら邪魔するもの奪うもの全てを滅ぼすことも厭わない、そんな風に深くなってしまった自分の想いなど

そんな自分の執着と業の深さ思い知り、自嘲する。
……結局自分は、師の在り方を否定しているくせに、師の在り方を笑えないと。
でも、大丈夫だ。自分は間違えない。何故なら、彼女が言ったのだから。

―――『一緒にいれば、大丈夫。だから約束しましょう』―――

だから、共に留まれないというなら、共に進む。
ついて行く、つれて行く、どこまでも。
失うことを恐れるより、失わずにすむように守ればいい、俺の全てをかけて。
そしていつか必ず、そんな存在其のものがお花畑なお前に、広くて穏やかで優しく無欲な想いしか知らないお前に、教えて、いや、思い知らせてやろう。
唯一人の為だけの、狭くて激しくて冷酷で強欲な想いがあるということを。

それが願い、ありふれたものだけれども、今のままでは見果てぬ夢。

が、今は無理でも、いつか、必ず、きっと―――

「ほら、とりあえず今やるべきことを片付けるのが先だ」
此処で躓いたら帰ることもできずに、いきなり夢の第一歩からスピンアウトが決定だ。
と、先を促せば、
「あ、はい。そうでした」
帰ることができなければ、どうしようもないですもんね。
と、自分の進むべき前に向かって、顔を上げて瞳を輝かせるピアニィに、その手を取ってアルは不適に微笑む。
「まあ、なんだ…こっちの夢については……覚悟だけしといてくれればいいさ、もう逃げられないってな」
「ちょっ…ええっ?!」
もう二度と逃がさない。もうこの手を掴んで離さない。
お前が来いというなら、その華奢な体を息もつかせぬ程抱きしめて、この腕の中に想いと共にその身を閉じ込めたままで進もう―――二人の想いがどんなに相反していても。

「大丈夫だ、俺はお前の夢なんだからな」

――――そして、俺の夢がお前。




ちなみに、その頃の外野二人―――

ベネット「自覚してる人間と無自覚な人間に惚気満載な二人の世界を展開されると、ちょっと辛いでやんすな、まるっと無視される外野としては」
ナヴァール「なに、祝うべきことだし、これを楽しめるようになってこその仲間というものだぞ。……というか、楽しんでいるだろう、ベネット」
ベネット「辛く楽しい。これぞアンビバレントでやんす♪」




ええい、いい加減にしろよ、この野郎!。歯止めの無くなったむっつりマニアックは始末に負えないね、な結果に。
なんでこの人は、モノローグで陛下語り始めると止まらないんだ?!!(膝枕話2編参照) むっつりの所為か?!、厨○の所為か?!
自分で書いておいてなんだが、盛大に惚気られた気分になるのは如何なものか?!w それでも、本家王子のノベルのアルさんに勝てる気がしないところがなんとも…(苦笑)
とりあえず、アルさんの今の陛下のロイスは Sロイス指定○P純愛/N憤懣(昔は庇護と不安だと勝手に推定)
絶対に切れないSロイスである……問題は、勝つ為なら二人ともお互いのロイス躊躇なく切りそうなところかね(ゲーム違うってば)

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