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その実は落ちるために実る no5~no11

17 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/23(水) 21:11:31 ID:OsjP/t29


私の体は少し強張る。
「えっ....」
ほんの数秒の沈黙。

「....えっと、」
言いながら視線を私からはずす。
それでも私が聞き出したかった話を口にしてくれた。

「あのね、実は前に....そういうの言われたことがあるんだ。」
「....うん....それで、どうしたの?」
「それで、.... ごめんねって言った。」
「....そ、っか。」

ここからは訊くのが本当は怖い。
だけど口にせずにはいられなかったから....

「そうなんだ、びっくりするね。女の子から告白されたら!」

なんだか上擦った声になる。


ーーーどう思うのかちゃんと言って? だけどどうか私を傷つけないで、お願いーーー


そして思いのほか他人行儀な一言。

「....そうだね、驚くよね。」

きついことを言われなくて少しだけホッとした。
だけど私はあなたがどう考えてるのか、もっとちゃんと知りたい。
「フェイトちゃんは....驚かなかったの?」
あなたは言い淀みながら答える。
「ん....ていうかね、その.... 昔の自分のこと考えたら、なんか....
自分のお兄ちゃんを好きになるっていうのも相当驚くことだよね、とか思っちゃって。」
「あ....」


そうだーーー

フェイトちゃんが誰かと付き合ったのは初めてだけれど、誰かを好きになるのは今回が初めてじゃない。

だけどその恋はもう終わってるはずだから....
だから滅多に思い出すことはなかったけれどーーあなたはそれでも自分の中で悩んでたんだ....





18 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/23(水) 21:13:01 ID:OsjP/t29


「だから、まあ、そういうこともあるのかなって。」
あなたは苦笑する。

「けど最初は兄妹じゃなかった!」
クロノくんとは血も繋がってないし、別に好きになっても変じゃない。
だから気にしてほしくなかった。
昔のことだというのに、あなたが誰かを好きだったって考えるのも嫌だった。
「そうだね....」
遠くを見ながらポツリ。

「だけどその、それ以外でも私自身がちょっと変わってるから。」

そう口にしたとき、あなたの瞳の奥に影が差した。


変わってるーーーそれが意味するのはあなたの出生に関することだ....


ああ、あなたがそのことを思い出して悲しい気持ちになるのならこんな話するんじゃなかった。
でも変なんかじゃない。
あなたはちゃんと恋をして、男の子と付き合ってる。
私の方がおかしいんだよ。

こんなことなら前のように今でもクロノくんのことを想っていてほしかった。
だってクロノくんはかっこいいし、何でも出来る。
あなたを大切に思ってくれているし、それになによりもーーー

兄妹だから結ばれないーーー


今思えば、だから私はあの頃あなたのことを応援出来たのかもしれない。
私はなんて酷い奴なんだろう.....

あの頃は二人だけの秘密を持てて嬉しかった。
私に色々な心の内を語ってくれる機会が出来て嬉しかった。

出会った頃、私が一方的にあなたを気にかけていたのはこんなに単純な答えだったんだね。
その特別な気持ちが何なのかを知るには幼すぎただけで。
体が成長すると心もそれに伴って、なんとなく恋だと知る。
あなたが男の人と付き合うんだって言ったときから、この恋は痛いんだと知る。

実ることのない恋だと知る。





19 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/23(水) 21:14:48 ID:OsjP/t29

その実は落ちるために実る [ no.6 ]

雨の日の放課後、あの人と一緒に帰る姿が窓際の席から見えた。
シンプルな紳士用の紺の傘と、白い縁取りのついたあなたの黒い傘。

まだ....相合い傘とかしてるところを見なくて良かった。

視界から二つの傘が消えても、ぼんやり外を眺めたまま暫し。
これから本格的に梅雨になる。
だからまた何度も一本の傘に寄り添う機会があると思ってしまう....


「おーい、なのはちゃん。最近元気ない感じやけど....何かあったん?」

さすがに気づかれた。
だってこんなに悩んだこと今までにない。
それでも一応答える。
「何もないよ。大丈夫だよ。」
「大丈夫やないみたいやね。」
即答される。
はやてちゃんは私と2人だけなのを見計らって言ってくれている。
つまりちゃんと相談にのってくれるつもりなんだ。
でもそれは私が本音を言わなければいけないということでもある。

いくらなんでもこれは言えない。
同性が好きなの、それも彼氏持ちの親友が、とは。

「悩みは誰でもあるもんだし、こういうときもあるよ。」
納得してくれる感じはしないけど、自分でもありえないくらい精神不安定なのがわかってる。
自分らしくないってわかってる。今こんなこと話してると泣いちゃいそうだから見逃してよ。

なのに。

「今だけで済む悩みやったらええけど、そんな感じせえへんから。」

見逃してくれないから、ほら、涙目になった。

「どうして?」
そう聞き返すのが精一杯。
机に俯して、ほんの少しだけはやてちゃんを見る。
はやてちゃんは私の席の前の椅子に座る。

「なんかフェイトちゃんの前だけ普通にしてて、その他のときは元気ないんやもん。
そんなんフェイトちゃんとの間になんかあったんやって気づくやんか。
本人にバレんようにしててもまだ一年近く学校一緒やし、卒業しても仕事で会うしなあ....
これから先もなのはちゃんが悩んだままなんかなーて思って。」


そっか、私、これからずっとこんな気持ちのままいなきゃいけないんだ....





20 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/23(水) 21:15:51 ID:OsjP/t29


そう思ったら我慢しているのに一気に涙はボロボロ落ち始めた。
「友達に強制はしたないけど、友達やから強制的にでも腹割ってほしいときもあるんよ。」
はやてちゃんの言葉は私の張りつめた意思を崩した。

「はや....てちゃん、....あのね....」

私は嗚咽を漏らしながら伝えたいことを言葉にし始めた。
「うん。」
「変に、思われるかも....しれない、けど....」
「うん?」

わかってる。私の友達は私の気持ちを軽蔑したりなんかしないって。
だけど自分がそれを認めることが怖くて言葉にしたくなかった。
でも認めないと駄目なんだ。
心配してくれる友達がいるんだから。

言え、私ーーー

「私....」
「うん?」

「私、フェイト、ちゃんのこと、好きみたい、なんだ。
前から、好きなんだって気づいて....でも....女だから、私....うっ....私は、女だから、
それにフェイトちゃん、彼氏、出来たから、もうどうしていいのか、全然わかんなくて....うぅ....」


私は制服の袖に口をあてたままだったから声はこもってし、泣いていた。
雨の音もうるさい。それになんて幼稚な言い方だったろう。
随分聞き取りにくかっただろう。
それでも私が必死の思いで言ったこと、ちゃんと伝わったと思う。
はやてちゃんは本当に真剣に聞いていてくれた。

「....そうか....そうだったんやね。」

ちょっとした沈黙はあったけれど、はやてちゃんは表立って吃驚しなかった。





21 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/23(水) 21:16:30 ID:OsjP/t29


「ほんまに仲ええなとは思ってたけど、その、そういうふうに好きやったっんか。」
「うん....」
「彼氏出来たから余計に気づいて辛なったん?」
「うん....」
「女の子同士やもんなあ....」
「うん....」

私は恥ずかしいよりも安堵を覚えた。

「....フェイトちゃんて同性愛とかどう思ってるんやろ?」
「ん、と、それは普通の子よりは偏見ないみたいなんだけどね。普通ではないって思ってるみたい。」
「そうかあ。でも.....もしフェイトちゃんに告白しても、なのはちゃんのこと嫌ったりはせえへんと思うで。」

確かに優しいから....そうなのかもしれないけど....親友が自分のことを好きだって言ってきたら混乱するよ。
まして好きな人がいるのに困らせるだけ。

「それは....そうだといいけど、でもそんなこと言えないよ。」
「この先フェイトちゃんに伝えるつもりないん?」
「あるわけないよ。彼氏いるんだよ....」
「まあ、そらそうやね。」

はやてちゃんが何てことないようにしゃべってくれるおかげで、私も落ち着いた。
それからはやてちゃんは足をプラプラさせ、冗談を言うような軽い口調に変わった。

「しかし驚いたあ。」
「あれ?さっきそんなに驚いてなかったと思ったのに....」
「そんなん私のナイスな気配りやんか。」
「ええっ、何それ、やっぱり嫌だって思ったの?」
「嫌っていうか、まさか、やよ。」
「.....私だって、まさかだよ。」
おかげで私は少しいつものように笑うことが出来た。

「実はな、ちょっと2人の間に.....もしかして恋愛感情があったりして、って思ったことあったんよ。
もう1年以上前のことやけどな。」
「そう....なんだ?」

少し驚いた。
何故なら私がこんなに意識してフェイトちゃんを見るようになったのはこの数ヶ月前からだったから。
確かに初めから好きだったワケだから無意識にそんなふうな行動してたのかな。なんだか恥ずかしい。

「まあその時はフェイトちゃんの方がなのはちゃんを好きなんかもって思ってんけど。逆やったな。」
また少し驚く。
「えっ、なんで??」
「なんとなく?」
「....なにそれ....」
はやてちゃんと私は声に出して笑った。
とにかく、とはやてちゃんはまた少し真剣な口調に戻す。
「言いにくいのに話してくれてありがとうな。」


ああ、友達っていいな。
この人が私を必要とするときは必ず手を伸ばそうーーー

外は雨が少し上がりはじめていた。

「こっちこそ....本当にありがとうだよ。」





22 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/23(水) 21:18:15 ID:OsjP/t29

その実は落ちるために実る [ no.7 ] Fate

私がまだ小学生の頃、兄のことを好きだったという時期があった。

クロノはいつも私の先を行くお手本のような存在だった。
出会って間もない頃から私に優しくしてくれたし、誠実な人だから。
だから違和感無く一緒に居れた。
当時から気も会っていたと思う。
それになのはも彼のことを良く思っていて、私と彼がとても似合っていると言ってくれた。

なのはにクロノを好きなのかと訊かれたとき、よくわからない恥ずかしさで戸惑った。
確かに好きだ。
だから私はなのはに、そうなのかな、と答えた。
ただ、私にも恋がどんなものか理解できる今は、そうではなかったと思う。
まだまだ子どもだった私に恋が解るはずもなく....

それでも私はなのはが、2人だけの秘密にするから、と言って私をかまってくれるのが嬉しかった。
クロノが誰かに親切にしたことや彼が普段していることを
なのはに報告しては2人で感心したり笑ったりした。
それもクロノの話題はそんなに頻繁に出たわけではないし、
私の性格上直接クロノに好きだなんて言うことはなかったけど、
クロノの良い所をたくさん知ることが出来てよかったなと思う。

私はそれまで友達と遊んだことがなかったせいか、
初めて出来たその友人がしてくれること全てに喜びを感じていたんだろうな。

くすぐったいけれど、いい思い出だ。

しばらくしてなのはが重傷を負って入院し、自分でもなにもそこまで、と言うほど心配した。
また心が崩れそうだった。
その上執務官試験に落ちたりと、恋とか秘密どころではなくなった。
一番大変だったなのはも私と同じだったようで、
その頃から2人とも自然にクロノの話はしなくなっていた。

それからクロノとエイミィがとてもいい関係を築いていき、
私は特に失恋した気分も味わうこともなかった。


私は今もあの頃も変わらずクロノもエイミィも大好きだ。



28 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/23(水) 23:33:33 ID:OsjP/t29

その実は落ちるために実る [ no.8 ]

今、隣のクラスは体育。グラウンドでテニス。
コートにクラス全員は無理だから、試合の順番までトラックの中でラリー。

2階の教室の窓から私の目はずっとあなたを追う。
友人に打ち明けてから、随分気分は楽になった。

あなたが打った球は大きな弧を描いて精確に相手の前に落ちる。
反対にあなたに返された球は、あなたから大きく離れた見当違いの方向に落とされる。
ワンバウンドで打てるはずもなく、走って拾いに行く。

「この条約を結んだアメリカ大統領は誰か。ええと、高町。」
先生のその言葉に、はっとして顔を正面に戻す。
「は、はい、えっと....ルーズベルト大統領....です。」
「よろしい。補足だがこの人はこの条約の成功でノーベル賞をーーー」

....歴史の授業なんて得意でもないし好きでもない。

私が視線をグラウンドに向けると、またあなたが球を追って走らされている。
ごめん、と言われたのか、手のひらを少し振って『全然いいよ』という合図。
走らされるあなたを見て、あなたとペアを組むその子が正直嫌だ。

こんなに小さなことが癇に障るなんてどうかしてるかも....

そんなことを思っていたら、見当違いの球が今度は私の教室の方向へ転がって来る。
あなたは息切れをしながら走ってきて、私の視線の正面になる。

ーーーこっち見てーーー

球を拾い上げると、やっぱりあなたはこっちを向く。
視線が合う。
ドキリとする。
大好きな優しい瞳。
あなたはびっくりするくらい奇麗な微笑みを見せてくれる。
あなたのせいで自分も笑顔になっていると気づく。

私は唇を動かす。









と。ここからだと絶対わかりっこないから。
あなたは小首を傾げ不思議そうな顔をするけれど、すぐに私に小さく手を振って踵を返す。





29 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/23(水) 23:34:55 ID:OsjP/t29


「おい、高町。聞いてるのか。」
「ふえ?あ、えっと、質問なんでしたっけ??」
「....質問はしてない。ちゃんと前を見ろ。」
「は、はい。」

ますます歴史が嫌になった気がする....

私は懲りずに外を見る。

だけど今度は歴史よりずっと嫌いなものを見てしまったーーー
素直に前を向いておくべきだったんだーーー

何故ならグラウンドのサッカーコートを5組の男子が使い始めたから。

すぐに長身の男子が1人、あなたに声をかけている。
あなたがその人に微笑むのが見える。

それから窓の外を見るのはやめた。



109 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/25(金) 02:19:31 ID:7c5ZuEW4

その実は落ちるために実る [ no.9 ] Fate

付き合い始めてあと1週間ちょっとで2ヶ月か。

そういえばはやてが2ヶ月記念がどうとか言ってたな。
世間一般の恋人たちはそんな中途半端な日にもお祝いしてるんだろうか?
さすがに私はそんなのするつもりないけど、
確かに好きな人となら何でも記念だし嬉しくなっちゃうよね。


「え...と、今日一緒に帰る?」

体育の時間、たまたま時間割変更で彼と授業が重なった。
彼はサッカーを始めるところで私に気づいたので来てくれたとのこと。
その少し前に、私は2階の教室で授業中のなのはに手を振っていた。
なのはが何か言ったような気がしたので、何だったのかと思っているところだった。
彼の方は特に用件はなかったみたいなので、とりあえず一緒に帰るのか聞いてみた。
彼は、もちろんそのつもり、と答えた。
それから彼は、
来週妹のところに寄りたいんだけど付いて来てもらっていい?と言った。

「うん、いいよ。」

彼には年が離れた妹がいる。
彼は学校の寮で暮らしているのだけれど、実家で妹が一人きりになってしまう日は
帰ってくるように両親に言われているそうだ。
先月にも1度彼にそう言われて家に行ったことがあったけど、とてもいい子だった。
管理局の仕事があるので彼と出かけることは少ないけれど、
1度は彼と2人で映画を見に行ったことがある。
私はそのときよりも妹と留守番をしたときの方が楽しかったから、
今回のことを頼まれるのは嫌ではなかった。

「じゃあ、サッカーがんばって。」

彼は、帰り教室迎えに行く、と言ってクラスメイトの輪に戻って行った。
私はラケットを握り直すと校舎2階の中央の教室を見た。

確か今、歴史の授業なんだっけ、なのは。
ずっと下向いてるけど先生の話ちゃんと聞いてるかな?
さっき何か言ったと思ったけど....
気のせいかな....?
純真無垢な顔してたな、さっき。
昔から変わらないな、あの笑顔。

なのははもう授業に集中しているようで、その後はずっと目が合うことはなかった。

そうだ、来週彼の妹にいいものをプレゼントしよう。
付き合って2ヶ月記念、彼にじゃないけど彼の家族だもん、こういうのもいいよね。

その日は彼と手を繋いで帰った。





110 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/25(金) 02:20:44 ID:7c5ZuEW4

その実は落ちるために実る [ no.10 ] 

随分暖かく、時には暑いくらいになった。
私もあなたも6月に入って制服が夏服に変わった。
それから10日ばかり。
一緒に帰ることは少なくなっていたけれど、朝は今でも隣を歩く。

あなたという人は元々嘘をつくのが苦手な人だけど、
いつも穏やかなあなたは平常心を保っているように思われがちだ。
だけどその日は明らかに元気がなかった。

彼氏のことだろうか。

だったら聞きたくないーーー





111 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/25(金) 02:22:48 ID:7c5ZuEW4


それは2時限目の休み時間だった。

「あ、このノート....」
あなたの字で『数学』と書かれたノート。
字を見るだけであなたの横顔が浮かんでしまうから、最近はあなたから借りないようにしていた。
そんなこと知るはずもないあなたは、私が別の友人に頼む前にあっさりと私の机に置いていった。
私は隣のクラスの次の授業が数学だったことを思い出す。

ーーー顔を見たいけれど見たくない。

「はやてちゃん....どこ行ったのかな....」
だから私の気持ちを知ってくれている友人に渡してもらおうと思ったけれど、姿が見当たらない。
私はノートを手にして重い足を動かした。

開いたままの隣の教室を覗くとその姿はすぐに見える。
あなたは私と同じ窓際の、私より一つ前の席。
立ったままブラウスの襟元を直している。

「フェイトちゃん」
近寄って声をかけるとあなたもすぐに私を見る。
「なのは」
あなたは胸元のボタンを素早く合わせる。
「どうしたの?体育だっけ?」
さっきは教室で授業していたと思ったんだけど。
「身体計測の日休んじゃったから。今日の休み時間内にやらなくちゃいけなくて。はやても来てたよ。」
そういえば2人は先月のその日は欠席だったことを思い出す。
「そっか。」
なんだか居心地が悪そうに見える。
「うん、もう終わったけど。」
やっぱり少し様子が変だなと思いつつノートを差し出す。
「これ、ありがとうね。」
「ああ、うん。」
私と目を合わさないまま、これから結ぼうとして握ったリボンを机の上に置いてノートを受け取る。
そしてノートを机の中に入れようと少し屈む。

そのとき『それ』は私の視界に入ってしまったーーー

恐ろしくて想像したくなかったもの。
あなたの首についた『それ』
天使のような白い肌に浮かぶ『それ』
赤い印。


見たくなかった。見てはいけなかった。私は見るべきでなかった。
でももう見てしまったーーー


私はあなたが姿勢を戻す前にその場を走り去った。
自分の教室には戻らなかった。

「あーなのはちゃん、何処行くんーー」
廊下で友人が私に声をかける。
私は無視して走る。
作り笑いどころか一言も言葉を発する思考も息をする余裕もないから。

心と一緒にその場に崩れ落ちてしまう前に、誰からも離れないとーーー




117 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/25(金) 02:32:28 ID:7c5ZuEW4

その実は落ちるために実る [ no.11 ] 

保健室のベッドにうつ伏せで倒れ込んでいるとすぐにチャイムが鳴った。
先生が戻ってきて私に気づき、何事かと私のところへ来る。
「気分が...,悪いです。」
私はただ一言だけ言った。
そしたら心配そうに、ゆっくり休むといいよ、と言ってそのまま寝かせてくれた。
よっぽど私がまいっているのが他人からもはっきりわかるんだな、と思った。

暫く本当に気分が悪かった。
何も考えられなかった。
それから数人の生徒が来て先生に腹痛がどうとか伝え、カーテンを挟んで私の隣のベッドに寝る気配がする。
やがて何回目かのチャイムが鳴って先生が出ていくと、時計の秒針の僅かな音だけになる。

静かになるとようやく私の頭はさっきのことを整理しようと動き始める。


ーーーキスマーク....見たくなかったな。

考えたくない光景をやっぱり考えてしまう....
私じゃない誰かが、男の人が、あなたの肌に触れて....そして....それを許すあなたを....
ああ....あの美しい人は誰かのものなんだ....
もう2ヶ月になるもんね....そういうことになるってわかってたのに....
心の何処かでまだ、私とずっと一緒にいてくれる、なんて思っていた....

....馬鹿みたいだ、私ーーー





118 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/25(金) 02:34:17 ID:7c5ZuEW4



「....先生まだ戻って来おへんよね。」
私が考えに没頭していると、突然隣のベッドから声がする。
「へっ?」
私は頭を起こす。
「みたいね、よいしょっと。」
今度は反対側のベッドから別の声。
そしてさらにその奥からもう1人が動く気配。

もしかして今の声って?

そう思っていると、私のベッドのカーテンが開かれる。
私は慌てて上半身を起こす。

「大丈夫か、なのはちゃん。」
「とりあえず生きてるみたいね。」
「ごめんね、びっくりさせて。」

そこには見知った顔が3つ。

「え、ちょ、はやてちゃん....アリサちゃん、すずかちゃん?」

授業中に揃いも揃って友達が保健室で横になった自分を覗き込む....
驚くのは当然だと思う。
「気分はどう?」
「う、うん、あの、それより今授業中....だよね?」
私が戸惑っているとアリサちゃんが
「あんただってそうでしょうが。」
と言う。
「や、でも、」
そしてはやてちゃんが混乱する私の側に座ると、こう言った。
「友達が死にそうな顔で走り去って行ったら、そら授業くらいどうでもよくなるもんやろ。」

何か暖かいものが心に灯される。

アリサちゃんとすずかちゃんも反対側に座って言った。
「あんたは知られたくなかったかもしれないけど、話ははやてからもう訊きだしたから。」
「もっと早く一緒に悩んであげたかったよ。」

さっきまで凍っていた私の心臓が、ゆっくり動き出すのを感じる。

「友達なめたらあかんで!」

私はお礼も何も言わなかった。
そのかわり衝動的にはやてちゃんに抱きついた。
そしてすぐ反対側の2人にも。





119 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/25(金) 02:37:13 ID:7c5ZuEW4


その後は済し崩しだった。
私は思っていたことを次から次へと話した。

「小学3年生で一目惚れなんて自分でも疑わしいけど、
フェイトちゃんのこと初めて見たときから気になって仕方なかった。」

「中学に入ってから周りがよく恋愛の話をするようになって、私も考えてみたんだけど、
私は恋愛よりも今はただフェイトちゃんといる方がいいなって思ったの。」

「それでね、誰かが誰かのことを、優しい、とか、奇麗、とか言うと、
私はフェイトちゃんの方がよっぽど優しいし奇麗だと思うのになあ、なんて思ってて。」

「それから改めてフェイトちゃんのこと見てたら....いろんなことにやっと気づいて....」

「それはもちろんすごく戸惑ったよ。自分でも絶対まずいって思ったよ。」

「そのころはどうにか大丈夫でいられたんだけどね。
フェイトちゃんがそれまで通り私と一緒にいてくれたし、私が一番近くにいるって思ってたから。」

「でも今はもう駄目なんだよね....」

「黙ってて....ごめん。自分でもどうしたらいいかワケわからなくて。」


洪水のように溢れてくる私の言葉。
友人たちは私をけして避けたりしないで、時々明るい相づちを入れて聞いてくれた。


「でもなんで今フェイトちゃんのことで落ち込んでるってわかったの?」
私はふと疑問に思い尋ねてみる。

「フェイトは何か考え事でもしてたみたいで何も言ってなかったけど、
私とすずかはフェイトと同じ教室なんだから、あんたが走ってくの見てて当然でしょうが。」
「それから私とアリサちゃんは廊下ではやてちゃんに遇って....ね。」
「え、まあ、最近なのはちゃんが私を無視して去るほど悩むことって言うたら
フェイトちゃんのこと以外なかったしな、なんちゅうか....私も身体測定フェイトちゃんと一緒やったから....」
「あ....」
「そのー....フェイトちゃんは隠そうとしてたみたいで....着替え終わらんうちに出て行ったんやけどな、
見えたから....多分なのはちゃんも気づいたんかなあって。」
「....うん。」

そこで会話が途切れたと思ったら、アリサちゃんがいきなり怒りだした。
「んもうっ!!フェイトの馬鹿がっ!!隠しきりなさいよっ!!」
急に大声を出すものだから、みんなびっくりした。
「なのはを泣かすなんてフェイトほんとに馬鹿っ!」
「ちょ、アリサちゃん、フェイトちゃんは別に悪くーー」
「わかってんだけど腹立つの!今までなのはのこと死ぬほど大事にしてたと思ってたのにさ!」
「フェイトちゃんは今もよくしてくれるよ、落ちつてアリサちゃんっ。」
「でも!」

「私が勝手に恋愛感情もってるだけだから!」
「あ....っと....」





120 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/25(金) 02:39:16 ID:7c5ZuEW4


私の言葉にアリサちゃんは急に黙る。
はやてちゃんは苦笑い。
そんな中、すずかちゃんが口を開く。

「....確かに私、なのはちゃんが女の子に恋したことに驚いてるよ。自分が相談にのれるかどうかも
本当はよくわからない。でも....私はアリサちゃんが言いたいこと、わかる気がするの。」

3人ともすずかちゃんをじっと見る。
すずかちゃんは話を続ける。
「フェイトちゃんは女の子で、彼氏もいるんだけど、なんだけど.....
なのはちゃんとフェイトちゃんの2人がそういう関係になった方が、私は祝福できるような気がする。」

「え、どういう....」
私がすずかちゃんの言うことを計りかねて口を開こうとする先に、はやてちゃんが言葉を重ねてきた。
「ああ、わかる!私も2人がそんなふうになっても、逆に他の人とくっつより、
そうなんかぁって思える気がするわ!」
それからアリサちゃん。
「そうよ、要するに例え女同士でもフェイトとあんたなら私たちは応援できるって話よ!」
さらにはやてちゃん。
「せや!私らは応援するで、なのはちゃんを!」

正直嬉しかった。みんながそんなふうに思ってくれるなんて。
だけどちょっと待って。

「あ、あの、とっても嬉しいんだけど、応援て、もうフェイトちゃんには恋人が....」

そう、気持ちはありがたいけれど今は私の想いは関係ないところまで進展しているわけだから。

しかしまたしてもはやてちゃんが私の言葉を制止する。
「なのはちゃん!!」
「はいっ!?」
「私らはなのはちゃんの友達やで!?どっかの知らん男子よりなのはちゃんの肩もって当然やろ!?」
「え」
「それにあのかわいいフェイトちゃんが男のものやなんて、みんな黙ってないやろ!」
「みんなって、だーー」
「そうよなのは!はやての言う通りよ!フェイトが好きなら奪い取りなさいよ!!」
「はぇ!?」
「彼氏には悪いけど、私もなのはちゃんにフェイトちゃんを幸せにしてあげてほしいな。」
すずかちゃんまで....

「だけどフェイトちゃんの気持ちは一体どうなるの。私はフェイトちゃんを困らせたくないもん。」
私がもっともな意見を述べ、自分を納得させる。

だけどアリサちゃんにきつい一言を突き立てられる。

「逃げてどうすんの。一番やだ、それ。」

はっとする。

私を見る全員が真剣な眼差しだった。





続き その実は落ちるために実る no12~no15
2009年04月06日(月) 22:52:24 Modified by coyote2000




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