何を守る

初出スレ:五章305〜

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キン、キン。
金属が激しくぶつかり合う音が部屋に響く。
大勢の男たちが剣技の練習を行っている、
その中で一人異彩を放つ者がいた。
レヴィである。

彼の周りに数人の男達が槍をもって立つ。
「イヤー!!」
裂帛の気合とともに、一斉にレヴィに向かって襲いかかる、
だが、一本の槍も、レヴィにはかする事無く逆に男達が、
地面に倒れた。
「ほかに、だれかお相手を務める方はいませんか?」
レヴィの言葉に、皆はただ首を横に見合わせるだけであった。

そんな中一人の少女がみんなの間に入ってくる。
マリアンヌだった。
「何よだらしないわね、それでも『黄金の鷲団』なの!!」
叫ぶが、だれもマリーに目を合わせようとはしなかった。
「マリー様、彼らは騎士で会って剣闘士では有りません、
見世物的な闘いはできないのですよ」
やんわりとその場を取り持とうとするレヴィ。

「もういい!! 帰るわよレヴィ!」
「はいマリー様」
少年は騎士たちに軽く一礼すると、
騎士たちの詰め所を後にした。

( 今日こそ絶対にレヴィが泣いて謝るようにしてやるんだから )
( 我儘で、世間知らずなお嬢様だと思ったら、やはり英雄ルドルフの娘か )
揺れる馬車の中、ガタガタと屋敷へと戻る二人。


ジーッとマリアンヌを見ていたレヴィは不意に振り返ったマリアンヌと目が合う。
「な、なに!? レヴィ」
顔を赤らめて、狼狽を始めるマリアンヌを見てレヴィはあわてて視線をそらす。
「す、すいませんマリアンヌ様」
そう言ったきり窓の外を向くレヴィの横顔が、
マリアンヌにとっていつも見慣れているはずなのに、
今初めて手に入れたような輝きを感じた。

「ね、ねえレヴィ――」
マリアンヌが何か言いかけたその時。

ガタン!!

急に馬車が止まり、マリアンヌは前方に倒れ込む。
「きゃぁ!」
「危ない!」
そんなマリーをレヴィは咄嗟に抱きよせる。
「ふぅ、……大丈夫ですか? お嬢様」
「う、うん……」
コクリ
マリーは頷き。
「ちょ、ちょっと、いつまで抱きついてんのよ!!」
パチン
マリーは少年のほほを軽くたたいた。
「失礼」
そっと座席に戻すと馬車の窓から顔を出し外の様子を確かめる。
「おい、何があった」
「前方に人が倒れてます!」 
前方を見ると確かに人らしき何かが倒れていた。
「……たしかに、……おい! 大丈夫か! 」
レヴィが声をかけても、そのものはぴくりとも反応しない。

「大変! レヴィ助けなきゃ」
マリアンヌはあわてて馬車から飛び出し、倒れている者へと近づいた。
「駄目です! マリアンヌ様」
そう言って駆け出すレヴィ、その時、左右の茂みから矢が雨のように降り注いだ。
「きゃぁ!!!」


マリアンヌを地面に引きずり倒すと、そのままレヴィは覆いかぶさった。
「動かないで! 」
「は、はい!」

マリアンヌはレヴィの舌で恐怖のため小刻みに震えている。
「レ、レヴィ、大丈夫なの!?」
「へ、平気ですよマリー様、それよりも、動いてはいけませんよ」
「は、はい」
ギュウ
レヴィの服にしがみつき、堅く目を閉じる。
こんな状況だが、レヴィの体温と、優しげな匂いが、
マリアンヌに安心感を与えてくれた。
やがて矢がつき、茂みより何人もの男達が飛び出してくる。
「馬車に隠れて、マリー」
「は、はい」
転がるように駆けだすとマリーは馬車に飛び込む。
男達は数十人はいる。
「早く、レヴィ!!」
マリーの叫びにレヴィは首を振る。
「大丈夫だマリアンヌ! これぐらいなら片付けられる、
それよりしっかりとドアを閉めておくんだ!!
鋼鉄製のドアは一度鍵をかければ外からは開けられない!」
「うう、レヴィ、ゴメンナサイ」
バタン
マリーはレヴィの言葉を信じ馬車のドアを閉める。

外からは金属がぶつかりあう音が聞こえる。
マリアンヌは先ほどの騎士とレヴィの闘いの様子を思い出していた。
「大丈夫、大丈夫、レヴィは、レヴィはあんな奴らになんか負けない」
両手を胸の前で組み合わせ、あらしが過ぎ去るのを待つ小鳥のように、
マリアンヌは馬車の中で震えていた。

ドサリ
馬車の外ではまた一人レヴィによって刺客が切り伏せられる。
「どうする? まだ切りあうか?」


レヴィは周りを威嚇するように睨みつけながら馬車を守るように動く。

「……レヴィ?」
と、突然刺客の一人が口を開いた。
「お前、レヴィだろ?」
「!? まさかアルレオ!? 生きてたのか……」
レヴィは剣を下げる。
今までフードをかぶり、顔が見えなかったが、
目の前にいるものは紛れもなくレヴィの親友であった。
「レヴィ……なぜ君が、なんで君がルドルフの娘の傍にいるんだ!!」
目の前の青年が叫ぶ。
剣を構えていた残りの男達も、フードを外す、
みなレヴィの知っている者たちばかりであった。

「退いてくれ、レヴィ、我々はその馬車の中の者に用がある」
一番年配の男が静かに語りかけてくる。
「この少女に何をする気だ?」
レヴィは剣を構えなおすと静かに問いかけた。

「知れたこと! その娘と引き換えに、われらの祖国を奪還するのだ!」

―― 馬鹿なことを ――
レヴィは喉まで出かかった言葉を飲み込む。
「主家であるタイレルが滅んだ今、そのような事をして何になる」
レヴィは油断なく周囲を見回す。

「滅んでなどいない!! 」

アルレオが叫ぶ。

「アンリエッタさまが生きておられる」

―― アンリエッタさまがイキテイル ――

その言葉は魔法のようにレヴィの心と身体を縛り付けた。


「ふふ、レヴィ、いつもお疲れ様」
剣の稽古をしているレヴィの元に、アンリエッタがやってきた。

「あ、アンリエッタ様」
レヴィは一言言うと、はっと気が付き顔を赤くする。
剣の稽古をして暑かったため、先ほど、上に来ている物を全て脱ぎ棄てていたのだ。
「も、もうしわけありません」
あわてて上着を着ようとするレヴィ。
「いいんです、レヴィ」
そう言いながらアンリエッタは近づいてくる。
「実は、私、いつもレヴィが剣の稽古をしているのを、遠間から見ていたんです」
そう言った途端頬をアンリエッタは赤らめる。
「の、のぞくつもりでは……無かったんですよ?」
下を向いたアンリエッタは言葉を続けた。
「あ、あの、最初は偶然だったんです、邪魔をしてはいけないと思い、声をかけそびれて、
で、ですね、そのうち……レヴィの剣の稽古が大変美しい事に気がついて、
で、よく邪魔しないように見学を……」
後半は消え入りそうな声になってゆく。
「そう、ですか」
少年もそう言うのがやっとであった。

二人の間に沈黙が流れる。

「あ、あの、アンリエッタ様」
「は、ははは、はい、なんでしょう」
急に声をかけられて、アンリエッタは驚きの声を上げた。
「ええ、と、……私の剣はアンリエッタ様の物です、ですので、
邪魔などと言う事は在りません」
「まあ、うれしいわレヴィ」
ニコリとアンリエッタがほほ笑む、
その笑顔を見て
レヴィは剣だけでなく、
―― 自分の命の一片も ――
アンリエッタ様の物ですと
心の中でつぶやいた。


「レヴィ、君が来てくれれば、我々は百万の軍を手に入れたのと同じだ、
われわれと来てくれ、レヴィ」
剣を捨ててアルレオは歩み寄ってくる。

「アンリエッタ様は、君達の下に居るのか?」
その問いに対しアルレオは悲しそうに首を横に振る。
「いいや、だけど、生きてるのは間違いない、
多くの者が、アンリエッタ様らしき人物を見たと言っている、
レヴィ、来るべき日のために僕たちの所へ来てくれ」
アルレオはそう言うとさらに歩み寄ってくる。

だがレヴィはかつての仲間の問いかけに悲しそうに首を横に振った。

「アルレオ、そしてみんなもココは一旦引いてくれないか?
僕は君達について行く事は出来ない」
「なぜ……だ、レヴィ、君はルドルフに魂を売ったのか?」

その問いかけにも静かに首を振る。

「退け、レヴィ!! その娘を渡せ!!」

その問いかけに激しく首を振るレヴィ。

「出来ない!! 頼む、この場を立ち去ってくれ!!」

「うわぁぁぁ!!」
突然横から一番若い刺客の男が切りつけてくる。
だがレヴィはそれを振り向くことなく一太刀で切り伏せる。

「 『地をかける稲妻』か、まさか誇りと名声も地に落ちたとは……」
年配の男が油断なく剣を構える。
それに合わせ生き残ったすべての者が一斉にレヴィに切りかかった。
そして、
ドサリ、
すべての者達が、一瞬で地面に倒れた。


「アルレオ、君だけでも……」
そう言ってレヴィが振り向くと、
アルレオは剣を拾い上げて、レヴィを見つめていた。
「地に落ちた稲妻か」
「違う、僕は……」
「黙れ!!!」
そう言うとアルレオが一気に切りかかってくる。
カキン
金属音が響き
ドサリ

アルレオは地面に倒れた。


少しの静寂の後

馬車のドアがゆっくりと開く、

「レ、レヴィ!! レヴィ!!」
叫びながらマリアンヌが走り寄ってくる。
「大丈夫!? 大丈夫レヴィ!!」
「あ、マリアンヌ様、大丈夫ですよ」
「もう、馬鹿、あんたが死んだら、私、私」
レヴィに抱きつくとぼろぼろと涙を流すマリー。
「だい、じょうぶ、と、言ったでしょ……」
そう言った途端レヴィの目の前が暗闇に包まれ

どさりと地面に倒れた。


「レヴィ、私の自慢の騎士様、何かあったら一番に駆けつけてね」
アンリエッタはにっこりとほほ笑む。
「も、勿論ですよアンリエッタ様に何かあった時は稲妻の様に、
あなたのもとに駆け参じます」
「くそ、いいよな、レヴィばっかり」
傍らにいたアルレオは不満そうに口を尖らせた。
「ご、御免なさいアルレオそう言うつもりでは」
「ははは、冗談ですよアンリエッタ様、
僕は稲妻よりも早くあなたのもとに駆けてゆきますよ」
「な!?」「まあ!?」
「レヴィ、アンリエッタ様を守るのは俺だからな」
そう言うとアルレオはその場を後にする。

「おもしろいわね、アルレオって」
くすくすとアンリエッタは口を手で押さえて笑う。
「レヴィ、もしものことがあったら、お願いしますね」

レヴィ

―― レヴィ ――




「レヴィ!!」
「う! ん、んん、こ、ここは?」
「よかった気がついたのねレヴィ」
レヴィが気がつくと、マリアンヌの部屋で寝かされていた。

「もう3日も眠っていて、このままだったら危ないって、
レヴィ、私のために大怪我して、ああ、うううう……」
そう言うと、マリアンヌはレヴィの上に倒れ込み泣き声を上げる。
レヴィが見るとその手は、
何度も包帯を取り換え、
薬を塗り、
タオルを絞ったのであろう、
ひび割れてぼろぼろになっていた。

「えうぅぅ、よかった、よかったわ、レヴィが生きてて」

泣きじゃくるマリアンヌの頭にレヴィはそっと手をおく。
「ご心配をおかけしてすいません、マリアンヌ様」
そっと優しく囁きかける。
「ご免なさい、ごめんなさい、レヴィ」
「大丈夫ですよ、マリー様」
レヴィは優しくマリアンヌの頭を手でなでる。

「もし、マリアンヌ様の身に何か起ったら、今日の様にお守りして差し上げますよ」

そう言いながら優しく撫でていると、

疲れからか、マリーは静かに寝息をたてはじめて、

物語も、



終わり。

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2008年07月19日(土) 14:54:25 Modified by ID:vwEPY2295w




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