獅子は猫にはならない

初出スレ:五章291〜

属性:


「エステル見て、ヴァルカニアの職人に造ってもらったのよ」

アンリエッタは楽しそうに笑いながら目の前の ―― 飛将軍 ――
エステル・プライムにお気に入りのドレスを披露していた。
クルクルと回るその姿は、どんな精巧な技を持つオートマター職人でも決して作り出すことが出来ないであろう、美しいものであった。

「とてもよくお似合いですよ、姫」彼女は
優しく微笑みながらその姿をじっと見つめていた。
「あなたはどう思う? レヴィ?」
「え!?」
姫の美しさに心奪われていたレヴィは急に声をかけられあわてた。
そして、
「と、とても、お美しいと思います……」
それだけを言うのがやっとであった。
はぁ〜、隣で姉のエステルがため息をつく。
「お許し下さい、こ奴はまだ子どもゆえ」
「そんな、そう言ってもらって嬉しいわ、ありがとうレヴィ」
そう言うとアンリエッタはにっこりとほほ笑んだ。
「あ、は、はい、僕は本当のことを言ったまでです!!」
ビシ、
全身を緊張させて、思わず気をつけの姿勢をとるレヴィ。

「ふふ、レヴィ、ありがとう、これからもよろしくね」
「まったく、そんなことではこの先『獅子の騎士団』として、
姫をお守りすることなど出来んぞ」
やれやれ、そんな態度で姉のエステルは首を左右に振った。
「そ、そんな」
そんなレヴィの様子を見て二人は、
声をあげてわらいあった。




「レヴィ!! あなたの番よ!」苛々したマリーに、
急に声をかけられて、レヴィはハッとわれに返った。
「はやくなさい、あなたの番よ」
「……すいません、姫」
言ってからはっと、口ごもる。
「!?  ふふん、あなたもそう言う立派な口が聞けるようになったのね、
でもダーメ、負けたら私の言うことを一つ何でも聞くのよ」

( 忘れてた、今こいつとトランプ遊びをしてたんだっけ )
手に持ったカード越しにちらりとマリアンヌを見つめる。
思えば、今までこんな物に触ったことなど殆ど無かった。
よくわからないまま、適当にやっていたら、どうやらもう二連敗しているらしい。
「ふふん、私ね、この『シトロイエン』で負けたこと無いのよ、
さてと、今からあなたが負けた時のこと考えておかなくっちゃね♪」
楽しそうに笑うマリアンヌ。
「はあぁ」
「な!! 何よ、早く切りなさい、レヴィ」
気のない溜息を吐くレヴィを見て、馬鹿にされたと思ったマリアンヌは、
思わず声を荒げた。

――  ……まあ良いわ、『みんなの前で裸になって犬の真似をしなさい!』
っていえばこいつも私に泣いて謝るはず、そうしたら私に二度と刃向うなんて
しなくなる筈 ――
自分の得意なこのカードでなら、レヴィに負けるはずない。
マリーは余裕を見せながら、勝負をしていた。
事実、二回ともマリーの圧勝であった。
「後一回勝ったら私の勝ちよ、そうしたら―― 」
パサ
マリーが言い終わる前にレヴィはカードを出した。

スペードの6、マリアンヌの手札に出せるカードは無かった。
「パス、よ、」
そう言うとレヴィは次のカードを出す。
クラブの9と、7、またしても
マリーはパスするしかなかった。



( まあ良いわ、これで負けたとしても次で勝てばいいんだし )
手札を見ながら見ながら、余裕の表情を浮かべるマリアンヌ。
「命拾いしたわね、レヴィ、でも次はどうかしらね?」
―― ネズミを目の前にした猫 ―― のようにくつくつと笑うマリー。

「なるほど、こういうゲームなんですね」
その言葉にマリーは驚きの表情を作る。
「なにあんた、このゲーム知らなかったの!?」
「はい」
ついでにいえばトランプ自体もさほど触ったことはない。
だがそれは黙っておくことにした。
「呆れた、このゲーム小さな子供でも知ってる一般的なゲームよ」
「そうなんですか? ふーん、なるほど」
「今更そんなこと言ったてだめよ、約束は約束だからね」
「ええ、いいですよ、……負けませんから」
「!!?」
( 絶対こいつ泣いたって許してやらないんだから!! )
怒りに身を震わせるマリーはじっとレヴィを睨みつけた。

だが、二回目もレヴィの言ったとうり、彼が勝ち、
同点となった。

「どうしますマリー様、此処で止めておきますか?」
「何言ってんの! たまたま二回勝ったぐらいで! 」
「なるほど。じゃあ ―― 」
「ま、まちなさい! 私がカードを配るわ、あんたがズルしてるかもしれないし」
レヴィからカードをひったくるとマリーはカードをぎこちなく切ってゆく。
「……さてと、これで、いかさまはできないはずね」
そう言うとそれぞれにカードを配り、残りの山は二人の手の届かない場所へと下げる
「さあ、これであなたの勝ちはなくなったわよ、レヴィ、あんたには負けたら
裸で犬の真似をして屋敷を歩き回ってもらうんだから」
「わかりました」
平然とした態度で返事をするレヴィに、今まで以上に怒りを覚えて、
マリーは

敗北した。


「う、ウソ、今まで一度だって私負けたことがなかったのに」
愕然とするマリー、テーブルの上のカードをレヴィは手早く片付ける。
自分の自信のあったもので、しかもレヴィは全くのど素人だったのに、
マリアンヌのプライドはガタガタに傷ついてしまった。

「さて、と、マリーお嬢様」
傷ついたマリーにレヴィは優しく微笑む。
「じゃあ、勝った僕の云う事を聞いてもらいましょうか」

その笑顔はとても残酷であった。

「え!? 何言って ―― 」
何を言われたか分からない、そんな顔でじっとレヴィの顔を見るマリー。
だが、レヴィはそんなマリーを無視して、

暖炉のそばに歩み寄った。

そして、火かき棒を一本取り出す。

「これを、今からあなたに押し当てます」

真っ赤に焼けた先端を見ながら、
レヴィは優しい声で言った。

「な、なに!? どういうこと!! 」
ガタン
イスから立ち上がり、驚きの声を上げるマリアンヌ。

「そのままの意味です、これをあなたに押し当てさせてもらいます、
マリアンヌ様」
そう言うとそばに置いてあった水差しの中の水に先端を差し込む。
その途端
ジュウゥ
という音とともに白煙が上がった。


「う、うそでしょ、レヴィ」
「僕はいたって本気ですよ、マリアンヌ様」
そう言うと火かき棒をマリアンヌに向ける。

「さ、さっき言った事は冗談よ、だから怒らないでレヴィ」
マリアンヌはゆっくりと後ずさる。だがドアはレヴィの傍だ。

「いいえ、マリアンヌ様、僕はあなたの白い肌がこの火かき棒によって真っ赤に焼けただれるのが見たいんです」
そう言うとレヴィはくすりと笑う。
「そ、そんなことしたら、お父様があなたを八つ裂きにするわよ!!」
「これはゲームの賭けです、お嬢様が言い出したことですよ、そう言えばルドルフ様も
何も言えないでしょう、それに ―― 」
距離を取ろうと動き回るマリアンヌに対してゆっくりと火かき棒をかざしたまま、進路をふさいでゆくレヴィ。
「それにね、マリアンヌ様、例え八つ裂きにされたとしても、僕は本望ですよ」
くすくすと笑うレヴィ。
( こ、怖い、こいつ本気で、私をバーベキューみたいにする気!!? )
徐々に逃げ場をふさがれて壁際までマリアンヌは追いつめられた。
ドン
背中に壁が辺り。
「ひぃ」
マリアンヌは低い声を上げた。
「ゆ、許して、レヴィ……」
そんなマリアンヌを哀れに思ったのか、レヴィはすっと火かき棒を下げる。
「いいでしょう」
ほっとするマリアンヌ、しかし、
「ただし」
再びレヴィは火かき棒をマリアンヌに向ける。
ひぃっと息をのむマリアンヌ。
「 『私は、大ウソつきで臆病者の、ルドルフ・リヒティンシュタインの娘
マリアンヌ・リヒティンシュタインです、どうか罰を与えないでください』
そう言えば許してあげますよ」
そう言うとレヴィはニコリとほほ笑んだ。


その途端
バチン!
激しい平手打ちが飛ぶ。
「黙れ!! 家名を汚すぐらいなら、焼け火箸など恐れるものか!! 」
レヴィを睨みつけるとそのままマリアンヌは身につけているドレスを脱ぎはじめ
下着姿となる。
そしてコルセットを外し、その裸身を目の前の少年の前に晒す。

「さ、さあ、それを私に押し当てなさい!!」
気丈にふるまっているが声が震えている。
両手を強く握り、体全体が小刻みに揺れていた。

少年は満足そうにうなずくと、
「わかりました、では壁に手をついてください」
冷たく言い放った。

「くっ」
少女は言われたとうりに壁に手をつく。
「さて、マリアンヌ様、今から私があなたにこの真っ赤に焼けた火箸を押し当てます、
本当ならば、胸か、あなたの大事な少女の部分に当ててもいいですが、
それではあんまりですので、背中に当ててあげますよ」
残酷な言葉であるが、レヴィはまるで、愛おしい恋人に囁く様に告げる。
「だ、だ、だまれ!!」
小さな背中が先ほどから震えている。
慎ましやかな胸の、先端部分が恐怖のためか、寒さのためか、それとも別の理由のためか
先ほどから、ツンと自己主張をしている。
真っ白なシルクのショーツはその少女の間の部分がシットリト濡れだして来ていた。



「今ならまだ間に合いますよ?」
「うるさい!! 覚悟はできている!! や、やるなら、は、はやくやれ」
「 『獅子は猫にはならない』 か……」
「な、なに?」

「いえ、……まずはじめに刺すような痛みがきて、肉を焼く音と臭いがします」
「う、うっぅ」
すーっと指で背中をなぞる、
「あ、はぁぁううぁう」
ピクピク
マリアンヌは体を揺らす。
さらに尾骶骨から、首筋にかけて優しく舌で舐めてゆく。
「はぁあ、や、いやあ」
「ふふ、マリー様、こうして湿らせておけば、案外何とも無いかも知れないですよ?」
「そ、そんなことあるわけ ―― あっ!」
「マリー様、お漏らしですか? はしたないですよ?」
レヴィは優しくショーツの割れ目部分を指でなぞる。
「や、やだ、足に力が入らない」
がくがくと先ほどとは違った震え方を繰り返すマリー。

「では行きますよ、お父上も、猫のように生きるより、
獅子として生きるあなたを大層誇りに思うでしょう」
そう言った瞬間、背中に焼け火箸がちかづいて来る熱さを感じ、
次の瞬間、
ギュッと刺すような痛みの後
ジュウゥ!!

肉が焼ける音と

においを感じ

「ああああっぁああ!!」

マリアンヌは大きな悲鳴をあげてゆっくりと意識を失っていった。


夜、マリーは一人ベッドの上で目を覚ました。
気がつくとドレスがその身に着せられていた。
「これは……」
マリアンヌは困惑した。
それはマリアンヌの物ではなかったからだ。
よく、パーティ会場に行った時に見かける、スタイルの整った、
年ごろの女性が身につけるものであった。
「なんで私こんなものを……」
そう思った瞬間に気がついた。

背中が大きく開いているのだ。

「そうだ、私あいつに……」
ふと気がつくと姿見がベットの傍に置いてある。

あの痛みと、あの臭い、そしてあの音。

背中には一生消えない跡が付いているのだろ。

 ― 獅子は猫にはならない ― 

レヴィの言った言葉を思い出す。

「私は後悔なんてしない」
そう呟くと

恐る恐るマリーは姿見に背を向けた。




「どうしたんだい? レヴィ」

「あ、父上、いえ、お嬢様には、ほとほと手を焼かされますよ」
苦笑いをしながら
氷水の張った器から手を抜くと、レヴィは自分の手に火傷の薬を塗り始めた。



「!? ……あいつ……、ゆるさない、馬鹿にして!!」

ガシャン!

姿見が音を立てて砕け散り。

物語も

終わる。

関連作品:

シリーズ物 「無題」五章スレ260〜 kaiinunitewokamareru オモイダス 獅子は猫にはならない 何を守る 猫になる
2008年07月19日(土) 14:55:00 Modified by ID:vwEPY2295w




スマートフォン版で見る