帝国の竜神様13
海賊船「海の狼」号。
「見えるか?」
「駄目です。遠見の魔法でも見えません」
船長は、傍らにいた魔術師の方に振り向いた。
「なぎに入っちまったからなぁ……」
船員総出で櫂を漕いでいるが、あの大型船達は信じられない速度で去っていってしまった。
「魔法か何かで動いているのですかねぇ?」
副長のぼやきに船長も水平線上に視線を向けたまま考える。
この世界で人間の魔法使いはおおよそ3つの組織に属している。
西部世界の民間組織の魔法協会、中央世界の公的機関の魔術師学園、東部世界の魔道同盟。
協会の魔術師は世界に満ちるマナと共に生きようとし、学園の魔術師はマナを人間に使役させる為に存在し、同盟のスタンスはその真ん中あたり。
(魔法で動いているとしたら、学園の魔術師が乗っているのだろうな)
それは、西方世界全体にとっても大きな意味を持つ。
同族仲良く殺しあう人間にとって、中央世界の人類諸国家連合の西方進出は最終的には軍事行動を伴ってきたからだ。
「やはり、中央の連中の技術は凄いな……
砦の方には連絡は入れているのだな?」
心配顔の船長に副長があきれるように答える。
「船長自ら連絡を入れていたでしょうが。
グラ海峡に沿って船が待ち構えていますよ」
船長の顔は相変わらず、不安そうなまま。
「俺らが砦につくのが、順調に行けば今日の夜か」
「いやでも結果が出ていますって、お宝が大量に入る事を喜びましょう」
「こっちが返り討ちにあっていたらどうするんだ?」
皮肉を込めた笑みを浮べて楽しそうに副長は船長に言葉を返した。
「その時は我々が生き残った事を喜びましょうや」
グラ海峡 「海の牙」の砦
眼下に浮かぶ12隻の帆船を尻目にペガサスが空に飛び上がった。
(久々の獲物か……)
ペガサスの背に乗っているキーツは久しぶりの騎士姿で空を飛ぶ事に感慨深くなる。
「海の牙」は有名な海賊団である。
だが、有名になるという事は、本来なら国家に潰される事を意味しており、それが潰されずにいるのも理由がある。
簡単な話だ。「海の牙」のスポンサーに国家がついているという事だったりする。
この地方を統治しているカッパドキア共和国の下請けとして海峡を警戒する代わりに、海峡の通行料や共和国に敵対する船に襲撃をかけたりして生計を立てている訳だ。
「海の狼」号が伝えてきた船の姿は遠見の鏡で砦に伝えられた。
獲物として認識すると同時に、いつもとおりに共和国政府に報告をしたのが昨日。
それから即座に共和国議会から増援派遣が伝えられ、共和国空中騎士団と協会の魔道師がやってきたのが今さっき。
共和国海軍のガレー船も十数隻やってくるというし、戦時体制かといわんばかりに共和国の警戒感が伝わってきた。
(けっこうここの気ままな生活は気に入っていたのだけどな)
キーツは「海の牙」の人間ではない。
「海の牙」の砦に駐留している、共和国空中騎士団から派遣された「海の牙」へのお目付けが本来の任務だったりする。
もちろん海賊たちも分かっていて、酒や金や女で懐柔させようとする美味しい役職だったのだが、今は忘れていた共和国騎士の誇りを思い出してこうして空を飛ぶ。
今、空を飛んでいるのは俺だけでは無い。
砦からは次々と鉄製の杖を持つ魔術師達が飛行魔法を唱えて、キーツと同じ方向に飛ぶ。
その方角に鯨みたいにでかい船がいるという話だ。
簡単に見つかると思っていた。
その考えが当たったのが、キーツがしばらく飛んでからの事である。
「愛国丸」艦橋
「魔法感知!前方ですっ!!」
「前方から何かやってきます!」
黒長耳族の娘さんが叫び、メイヴがそれを補足し、艦橋での警戒感が急激に上がる。
「船長!前方の天霧から電信!
『空飛ぶ羽の生えた馬を発見。
杖を持った空飛ぶ人間がこっちに向かってくる』ですっ!!」
「なんともはや……これが異世界というものでしょうか?」
のんびりとした口調で木村大佐が呟くが、その視線は鋭いまま。
「空飛ぶ馬ときたか。
たしかにここは我々の常識が通用しないらしい。
撃つなと伝えてあるな?」
西村少将の口調と裏腹に、着ているのが軍服というより戦国武将の鎧の方が相応しい雰囲気をかもし出している。
「第二〇駆逐隊司令の山田大佐から「了解」との返事が。
各艦に黒長耳族を二名乗せているので意思疎通は可能かと」
木村大佐もどっしりと構えて返事を返す。それがこの艦橋内で安心感に繋がっている。
「まぁ、こっちは交易に来ているのじゃ。
いきなり撃ってくるとも思えんしな。
襲うならこの船であろう」
お気楽な感じで撫子が呟くが握っている俺の手には撫子の汗で湿っているのを知っている。
「船長!前方の天霧から電信!
『空飛ぶ馬と人間が愛国丸に向かう』
天霧は無事との事です!」
「魔法感知!前方ですっ!
反応5…10……どんどん増えますっ!!」
「嘘でしょ!
ただの海賊にそんなに魔道師がそろえられる訳……」
メイヴの叫びが沈黙に代わる。
自ら感知魔法を使ったのだろう。
「簡単な話だ」
西村少将の呟きに艦橋全員の視線が集まった。
「毛利の村上水軍や大英帝国のドレーク船長みたいなものだろうよ」
「なんじゃ?それは?」
西村少将の言葉に首をかしげる撫子に俺が補足してやる。
「海賊は海賊でも、スポンサーに国家がいるという事さ。
メイヴ。今から行く予定のイッソスというのは何処の国だっけ?」
俺の言葉に少し上ずった感じで、メイヴが答える。
「イッソスはカッパドキア共和国の首都です」
「じゃあ、今からやってくるのはその国の人間だろうよ」
西村少将が言い終わる前に接近してきたペガサスが目視でも確認できるようになった。
更にその背後に杖を持った空飛ぶ人間達が二十数人、全員が杖を愛国丸に向けている。
「こちらはカッパドキア共和国空中騎士団所属、騎士キーツ。
貴船の所属と目的を教えてもらいたい」
帝国の竜神様13
「見えるか?」
「駄目です。遠見の魔法でも見えません」
船長は、傍らにいた魔術師の方に振り向いた。
「なぎに入っちまったからなぁ……」
船員総出で櫂を漕いでいるが、あの大型船達は信じられない速度で去っていってしまった。
「魔法か何かで動いているのですかねぇ?」
副長のぼやきに船長も水平線上に視線を向けたまま考える。
この世界で人間の魔法使いはおおよそ3つの組織に属している。
西部世界の民間組織の魔法協会、中央世界の公的機関の魔術師学園、東部世界の魔道同盟。
協会の魔術師は世界に満ちるマナと共に生きようとし、学園の魔術師はマナを人間に使役させる為に存在し、同盟のスタンスはその真ん中あたり。
(魔法で動いているとしたら、学園の魔術師が乗っているのだろうな)
それは、西方世界全体にとっても大きな意味を持つ。
同族仲良く殺しあう人間にとって、中央世界の人類諸国家連合の西方進出は最終的には軍事行動を伴ってきたからだ。
「やはり、中央の連中の技術は凄いな……
砦の方には連絡は入れているのだな?」
心配顔の船長に副長があきれるように答える。
「船長自ら連絡を入れていたでしょうが。
グラ海峡に沿って船が待ち構えていますよ」
船長の顔は相変わらず、不安そうなまま。
「俺らが砦につくのが、順調に行けば今日の夜か」
「いやでも結果が出ていますって、お宝が大量に入る事を喜びましょう」
「こっちが返り討ちにあっていたらどうするんだ?」
皮肉を込めた笑みを浮べて楽しそうに副長は船長に言葉を返した。
「その時は我々が生き残った事を喜びましょうや」
グラ海峡 「海の牙」の砦
眼下に浮かぶ12隻の帆船を尻目にペガサスが空に飛び上がった。
(久々の獲物か……)
ペガサスの背に乗っているキーツは久しぶりの騎士姿で空を飛ぶ事に感慨深くなる。
「海の牙」は有名な海賊団である。
だが、有名になるという事は、本来なら国家に潰される事を意味しており、それが潰されずにいるのも理由がある。
簡単な話だ。「海の牙」のスポンサーに国家がついているという事だったりする。
この地方を統治しているカッパドキア共和国の下請けとして海峡を警戒する代わりに、海峡の通行料や共和国に敵対する船に襲撃をかけたりして生計を立てている訳だ。
「海の狼」号が伝えてきた船の姿は遠見の鏡で砦に伝えられた。
獲物として認識すると同時に、いつもとおりに共和国政府に報告をしたのが昨日。
それから即座に共和国議会から増援派遣が伝えられ、共和国空中騎士団と協会の魔道師がやってきたのが今さっき。
共和国海軍のガレー船も十数隻やってくるというし、戦時体制かといわんばかりに共和国の警戒感が伝わってきた。
(けっこうここの気ままな生活は気に入っていたのだけどな)
キーツは「海の牙」の人間ではない。
「海の牙」の砦に駐留している、共和国空中騎士団から派遣された「海の牙」へのお目付けが本来の任務だったりする。
もちろん海賊たちも分かっていて、酒や金や女で懐柔させようとする美味しい役職だったのだが、今は忘れていた共和国騎士の誇りを思い出してこうして空を飛ぶ。
今、空を飛んでいるのは俺だけでは無い。
砦からは次々と鉄製の杖を持つ魔術師達が飛行魔法を唱えて、キーツと同じ方向に飛ぶ。
その方角に鯨みたいにでかい船がいるという話だ。
簡単に見つかると思っていた。
その考えが当たったのが、キーツがしばらく飛んでからの事である。
「愛国丸」艦橋
「魔法感知!前方ですっ!!」
「前方から何かやってきます!」
黒長耳族の娘さんが叫び、メイヴがそれを補足し、艦橋での警戒感が急激に上がる。
「船長!前方の天霧から電信!
『空飛ぶ羽の生えた馬を発見。
杖を持った空飛ぶ人間がこっちに向かってくる』ですっ!!」
「なんともはや……これが異世界というものでしょうか?」
のんびりとした口調で木村大佐が呟くが、その視線は鋭いまま。
「空飛ぶ馬ときたか。
たしかにここは我々の常識が通用しないらしい。
撃つなと伝えてあるな?」
西村少将の口調と裏腹に、着ているのが軍服というより戦国武将の鎧の方が相応しい雰囲気をかもし出している。
「第二〇駆逐隊司令の山田大佐から「了解」との返事が。
各艦に黒長耳族を二名乗せているので意思疎通は可能かと」
木村大佐もどっしりと構えて返事を返す。それがこの艦橋内で安心感に繋がっている。
「まぁ、こっちは交易に来ているのじゃ。
いきなり撃ってくるとも思えんしな。
襲うならこの船であろう」
お気楽な感じで撫子が呟くが握っている俺の手には撫子の汗で湿っているのを知っている。
「船長!前方の天霧から電信!
『空飛ぶ馬と人間が愛国丸に向かう』
天霧は無事との事です!」
「魔法感知!前方ですっ!
反応5…10……どんどん増えますっ!!」
「嘘でしょ!
ただの海賊にそんなに魔道師がそろえられる訳……」
メイヴの叫びが沈黙に代わる。
自ら感知魔法を使ったのだろう。
「簡単な話だ」
西村少将の呟きに艦橋全員の視線が集まった。
「毛利の村上水軍や大英帝国のドレーク船長みたいなものだろうよ」
「なんじゃ?それは?」
西村少将の言葉に首をかしげる撫子に俺が補足してやる。
「海賊は海賊でも、スポンサーに国家がいるという事さ。
メイヴ。今から行く予定のイッソスというのは何処の国だっけ?」
俺の言葉に少し上ずった感じで、メイヴが答える。
「イッソスはカッパドキア共和国の首都です」
「じゃあ、今からやってくるのはその国の人間だろうよ」
西村少将が言い終わる前に接近してきたペガサスが目視でも確認できるようになった。
更にその背後に杖を持った空飛ぶ人間達が二十数人、全員が杖を愛国丸に向けている。
「こちらはカッパドキア共和国空中騎士団所属、騎士キーツ。
貴船の所属と目的を教えてもらいたい」
帝国の竜神様13
2008年01月20日(日) 09:37:14 Modified by nadesikononakanohito