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ガチャリ、とドアの開く音。どうやら帰ってきたらしい
今日は相当に忙しかったらしく、時間ももう夜の九時を回っている

「お帰りなさい千早ちゃん!ご飯できてるよー。お風呂が先かな?それともわ・た・し?」
「先に食事にしましょう。お風呂はその後ね」
「アレー?ここは、『もちろん君から頂くよハニー』とか言うとこじゃないの!?」
「もちろん、春香は最後にゆっくり頂くつもりよ」
「おおう。エロい、その発言はエロいよ千早ちゃん」

なんて、新婚さんのような間の抜けたやりとりを交わしながらも食事の準備をする
春香さんは主婦ですよ、主婦!
……まぁ途中でお皿を割りかけたのはご愛嬌だ

「いただきます」
「いただきます」

2人でご飯を食べながら千早ちゃんから今日あった事、なんかの話を聞く
といっても私は殆ど話半分に聞きながら千早ちゃんを眺めていた
なかなかにいい食べっぷりだ。作った甲斐もあるというもの
あっという間に平らげてしまった

「ごちそうさまでした」
「べ、別に千早ちゃんのために作ったんじゃないんだらねっ!」
「急に何を言ってるのよ……」

後片付けをしながら時計を確認。もう直ぐ十時になろうとしている
そして、ふとその真下のカレンダーに目が行った

「そういえばさ」
「どうしたの?」
「もう一ヶ月になるんだね」
「っ!……そうね」

千早ちゃんの表情はここからは良くは見えない、
けど、心なしか暗くなったように思える

それにしても――
一月かぁ。自分で言いながらも、もうそんなにも経ったのか、
なんて考えるとなかなかに感慨深い

「ねえ、千早ちゃん」
「なにかしら」

少しこわばったような声
首の方でジャラジャラと耳障りな音が響く

「そろそろ、この首輪外してくれないかなー、なんて」
「駄目よ」

ピシャリ、と断言された

「駄目よ。そんなことしたら春香はまたフラフラと他の娘に手を出すのでしょう?」
「そんなことしないよぅ。信用ないなぁ」
「自業自得よ」

一ヶ月。そう、私がここに監禁されてから、今日で一ヶ月になる







【2人の異常な愛情/ または私は如何にして・心配するのを止めて・監禁生活を愛するようになったか】







千早ちゃんは後片付けを終えて早々にお風呂の準備をしている
私はソファに腰をかけながらこの一ヶ月のことを振り返っていた
私達がこんな生活をするようになったのには、ちょっとした、浅くてくだらない理由があったりするのだ

事の始まりは一ヶ月とちょっと前にあった事、……いやその出来事のさらに少し前かな、
とにかく一番最初に起こったのは、私達がつきあうようになった、という事だろう
告白したのは私からで、それはもう春香さん一世一代の大告白であった
が、まぁそれはあんまり関係ないのでおいておく


しばらくはその恋人関係も上手くいっていたものの問題がでてきた
私からいくらアプローチをかけても千早ちゃんからは「好き」だとか「愛してる」だとか言ってくれなかった
いつも熱烈なアタックをかけてはいたものの、それを冷静にあしらわれていた
私はそれが少し面白くなくて、どうにかこっちを振り向かせたくて、いろいろと策を凝らしていた

千早ちゃんの前で他の娘にちょっかいを出していたのもその一環だ
とにもかくにもいろんな娘と必要以上にイチャイチャしてみせたりしていた

もともとこっちを慕っていてくれていたやよいや愛ちゃんに始まり、
雪歩と2人でお茶を飲みながら世間話に花を咲かせたり
真にべったりしながらくだらないことを言い合ったり
美希とおにぎりを食べながらハイキングを企画したり
何かもう方向性が間違ってるなぁと薄々気付きながらもそれらをやめることは無かった
これが一ヶ月とちょっと前のことだ

律子さんからは「いい加減にしとかないと、千早はそうとう思いつめるわよ」と警告はされていたものの、
私から見てて、千早ちゃんはいつも通り冷静で、相変わらずだった


ところが、というか予想通りというか、私はかなりやりすぎちゃってたらしい
そう、これがちょうど一ヶ月前のことだ
その日は2人ともオフで、私は朝から千早ちゃんのマンションでダラダラと時を過ごしていた
千早ちゃんも私も、その二ヶ月ほど前から一人暮らしをはじめていて
休日などはお互いのマンションに押しかけて一日を過ごす、などといった事をしていた
今にして思えば、だが、その日の千早ちゃんの様子は朝からおかしかった
妙に落ち着きが無く、そわそわしていたかと思えば、
何かを考えてるように宙をみたり、部屋をウロウロと歩いたりしていた
そして、急に思い立ったかのように、台所からお茶を持ってきて

「春香、お茶、淹れ方を変えてみたの。飲んでみてくれない?」

と、たどたどしく言った
そのときの私は何も考えずに勧められたお茶を飲み干して――

気が付いたらベッドの上に拘束されていた
動かそうにも手足はしっかりとベッドに括り付けられ、全く動かせない
叫ぼうにもご丁寧に猿轡までかまされていてはどうしようもない
それでもどうにかしようとジタバタしていたら、千早ちゃんが部屋に入ってきた
そして彼女の言うことには、

「ごめんね。でも、春香が悪いの」
「あんなに好きだって言ってくれたのに。貴女は誰でもいいのでしょう?」
「春香はっ!私がどんな気持ちであなたと、他の娘を見ていたのか全然わかっていない!」

なんという悲劇のすれ違い。それは誤解なのです千早ちゃん

「それで、私は、思いついたの。春香が、誰でもいいというのなら、私しかいない状況を作ってしまえばいい」
「だから、これから春香はここで暮らすの。ずっと」
「逃げないでね。いえ、絶対に逃がさないわ」
「でも、仮に、そんなことがあったりしたら」

「春香を殺して私も死ぬわ」

なんかもう目がマジだった
春香さんにはコクコクと首を縦に振る以外の選択肢は残されていなかったのだ
千早ちゃんはどうやら溜め込んでプッツンしちゃうタイプのアイドルだったらしい
律子さんのほうが正しかったわけだ。正直、そのことにはちょっと負けたような気分もあるが
まぁでも今現在なら千早ちゃんの事に一番詳しいのは私だけどねっ!

ええと、話がそれちゃった
そう、その時はもう本当に驚いて、怖くて、
そして千早ちゃんがこんな風にどうにかしちゃったも私のせいだと、それが悔しかった
その一方で嫉妬していてくれたのは嬉しいとか考えていたのだから私も大概どうにかしていたのだろう

そんで、その直後に事務所やら家やらに連絡をいれる羽目になった
アイドルをやめる、そして千早ちゃん家で同居する、
そんなこと言う前から反対されるって事は予想が付くのだが私はそれをやり通すことに成功した
ほっぺにペタペタといい笑顔でナイフを押し付けられてる状況なので仕方が無かったのである
正直必死だった

下手な事を喋って刺されるのも嫌だけど、自殺なんかされたりするのは絶対に避けたかった
それにしてもあのときの千早ちゃんは本当にいい笑顔だった。掛け値なしに

そうして私の監禁生活が始まったのである

いきなり下世話な話になるが、最初のうち、私はベッドに拘束されたままであった
流石にトイレやお風呂のときは外してくれていたけども、千早ちゃんが外出するときなんかはそうもいかない
それで、彼女の外出時にはオ、オムツを……
駄目だ。正直あの時の事は思い出したくもない

それから一週間が経過した頃には、何かもういろいろと諦めもついてしまった
人間結構慣れちゃうもんである
千早ちゃんも特に酷いことしたりすることは無かったし
……まぁ監禁自体がどうなのか、ってことはこの際置いとくことにする
その頃には千早ちゃんも私に抵抗する気が無いのが分かったのか
ベッドに拘束されっぱなしというのはやめてもらえた

かわりに、とっても長い鎖の付いた首輪なんかつけられてしまったんだけどね
ドアや窓もいつの間にやら内側からでも鍵がないと開錠できないような造りに変えられていた
どっちかというとその準備期間だったような気もする

そうして、ある程度の自由が出来てからは割と暇をもてあますようになった
その内、千早ちゃんがいない間に掃除をしたり料理を作ったりするようになり、冒頭に繋がるといった次第だ
ちなみに最近は段差昇降運動にハマっている。室内にこもりっきりだとどうしても運動不足になりがちなのだ
一度、首輪をつけたまま散歩に行くか聞かれたが、流石にそれは勘弁したい

もはや監禁なのかなんなのか、といった気分になることもあるが、首輪を外してくれる気は更々無いらしい
さらには外への連絡手段はきちんと断ってあり、電話もネットも私の手の届く範囲には存在しない
どうやら千早ちゃんは人を信じるという心を忘れてしまったようである
嘆かわしい限りだ

とまぁそんなこんなでこの監禁生活、早くも一ヶ月が経過しちゃったわけですよ






「――るか?春香?」
「ぅわっと!何?千早ちゃん」
「どうしたの、ボーっとしちゃって。お風呂、入るわよ?」

と、私が解説のような回想をしている間にお風呂の準備が出来たらしい
千早ちゃんが後ろに回ってガチャガチャと首輪の鍵を外してくれる

「はい、首輪、外してあげたわよ」
「お風呂のときだけじゃん……」

ぼやきながらも彼女に促されるままお風呂へ足を運ぶ

この異常な生活は何時まで続くのだろう?
アイドルもやめることになった
時間が経てば流石に家族も変に思うようになるだろう
いつかこの関係が知られてしまった時に
私達は他の人からはどう映るのだろうか
2人とも頭がおかしくなった様に見えるのか、
あるいは、既に気が狂っているのだろうか


もし、そうなのだとしても、


「ねえ千早ちゃん」
「なあに?春香」
「えへへ。あのね、千早ちゃんは、私のこと、好き?」


だとしても――


「もちろん。愛してるわ、春香」


私は、今、それなりに幸せだ

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