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「……えーっと。千早ちゃん、かっ、覚悟は、いい、かな?」
「え……ええ、いいわ、春香」
 私は今、千早ちゃんの家のベッドの上に座っている。目の前には、家主である千早ちゃん。二人ともパジャマ姿。
 正座して、膝に置いた手の温度が互いに伝わりそうな至近距離で、私たちは真っ赤な顔で見つめ合っていた。
「うーんと、じゃ……じゃ、いっ、いくよ?」
「は……はい……っ」
 二人で死にそうな声を出しているなあ、って思うけど、別に刺し違えて心中しようとかそういう訳ではない。
 始まりは、今日のお昼の事務所。私がいつも買ってる雑誌に、『もうこれで怖くない!禁断のキステクニック・オールアバウト』っていう特集が載っていたのがきっかけだった。
 アバウトっていうから簡単な説明くらいかと思ったら、ちょっとエッチな漫画を連載している漫画家さんがこと細かな解説イラストを一杯描いていて、真っ昼間の事務所で読むには少し……いや、とても、とおぉっても不適切な内容で。
 でも、私は読み始めたらその記事から目が離せなくなり、たぶんすごい顔をして読んでいたんだろう。隣で千早ちゃんがいぶかしげにこちらに視線を向けた時、つい、聞いてしまったのだ。
『千早ちゃん……ディ、ディープキス、って、知ってるっ?』
 そこから先の会話は、よく憶えていない。たしか千早ちゃんに雑誌を見せて、トイレに行って顔を洗って、でも全然顔の熱が取れなくて、休憩室に戻ってきたら同じように赤信号みたいになっちゃってる千早ちゃんを見て、……
『ね……ちょっとだけ、た、試してみる……?』と。
 初めて会った頃の千早ちゃんなら、その一言で私たちの友人関係は即座に壊れていただろうと思う。ところが、そのときの千早ちゃんは私の提案に『ちょっとだけなら』と答えたのだ。
 もちろんそこでいきなり……っていうわけにも行かず、今日は一緒のレッスンで終わりだったし、明日はお休みで仕事も入っていなかったので、そのまま千早ちゃんのマンションにお泊まりするっていう話になって。
 さっきすっごくビミョーな雰囲気の中で一緒に作った晩ごはんを食べて、あえて一人ずつお風呂に入って歯を磨いて、そして、そして今こんな状態になっているのだ。
 ごくっ、と息を飲んで、正座から膝立ちになって、千早ちゃんの両肩に手を置いた。ぴくん、って身をちぢこませるのがわかる。
 千早ちゃんはなんだか苦しそうな表情で目をつぶって、少し上を向いた。固く唇を閉じているので、これじゃ普通の、あの雑誌にはバードキスって書いてあったものになってしまうだろう。
「千早ちゃん、口、開けてくれないとうまくできないよ」
「は、ご、ごめんなさい」
 目をつぶったまま、ゆっくり、少しだけ口を開ける。私はあらためて肩に置いた手に力を入れて、顔を近づけていった。30センチ……20センチ……。
 すー、すー。
 あと10センチ。
 すー、すー。
 あと5センチ。なんだろ、この音。
 すー、すー。
 あと3セン……あ。判った。
 すー、すー。
 ……鼻息だ。私の。あと、千早ちゃんのも。
「……っぷ」
「くはっ」
 それに気づいたのは同時だったみたい。二人で一緒に吹き出した。
「ぷ、ぷあはははは、だっっ、だめだよ千早ちゃん、そ、そんな音ぉ」
「くく、くふふふ、こ、こっちのセリフよっ!春香ったら、そんなに興奮して」
「こっ!?興奮なんてしてないよっ!」
「だ、だって目だってそんなに血走って、はっ鼻の下伸ばして、口だってタコみたいにっ」
「あー!ひっどおい千早ちゃん!えいっ」
「きゃっ」
 ……ま、否定はしないげど。あんまり恥かしいのとおかしいのとで、えいとばかりに千早ちゃんを押し倒した。
「は、春香?」
「ふっふっふっ、もうこれで逃げられないよ千早ちゃん」
「べ、別に逃げてなんか」
「つべこべ言いなさんなお嬢ちゃん。い・く・ぜ♪」
 さっきよりずっと近い位置に千早ちゃんの顔がある。私は半分ヤケで、千早ちゃんの口に自分の唇を押しつけた。
 むちゅ、っていう音?感触?柔らかくて、あったかくて、なんだか気持ちいい。そっと目を開けると、千早ちゃんもどういう状態か確認したかったらしい。視線が交わった。
――どう?
――まだ、よくわからないみたい。
 目と目で会話って、ホントにできるんだ。
 ちょっと感心しながら、そういえばこれではまだ単なる……唇同士を押し付けあうスタンプキスどまりだと思い出した。今日の目的はディープキスなのだ。
――じゃ、行く、よ?
――うん。
 顔を押しつける力を少しゆるめ、少しずつ唇を開く。千早ちゃんの唇も、同じように開いてくる感触があった。
 なんだか、これで離れてしまったらもう一度キスから入る勇気がなくなっちゃいそうだったので、慎重に慎重に口を開き……、私はタイミングを見計らって自分の舌を、思いっきり突き出した。
「んっ」
「んう……っ」
 千早ちゃんの口の中は、さっきのキスよりもっとあったかかった。
 剣道の『突き』みたいに千早ちゃんの中に突入した私の舌は……このあと、どうすればいいのだろう。
 雑誌の特集では舌と舌を絡み合わせる、とかこすり合わせる、とか書いてあったけど、千早ちゃんの舌が見当たらない。
「ん……ん?」
「ん、うん、んうんん」
 少し探ってみて、判った。千早ちゃんの舌は口の奥のほうで、小さくちぢこまっていたのだ。
――千早ちゃん、だいじょぶだよ、こわくないよ。
――で、でも。
 不安がる千早ちゃんを目で励ましながら、舌でちょん、とつついてみる。ぴくん、と反応し、やがて勇気をふり絞ったのか、そうっと私の動きに応えた。
 ぴちゃ。
 そんな音が聞こえた、ような気がした。
 まっすぐ伸ばした私の舌の表面に添うように、千早ちゃんがおずおずと探ってくる。表面のつぶつぶがこすれて、ぷちぷちと音をたてているみたい。
――あは、こんにちわ、千早ちゃん。
 目で笑って挨拶すると、千早ちゃんもよろしく、と応えた。
 私はさっき彼女を押し倒したままの腕立て伏せの状態から、片手を千早ちゃんの頭の後ろに回した。もう片方の手は、背中に巻きつける。千早ちゃんも私の胴に両手を絡め、キスしたまま二人は恋人同士みたいに抱きしめ合った。
 くちゅ、ちゅ、ちゅっ、ぴちゃっ。
 二人の舌は口の中を行き来しつつ、まるでタンゴでも踊っているかのように強く熱く絡まり合った。最初は恐る恐るだった千早ちゃんもコツを掴んできたのか、さっきより少し大胆になってきている。
「ん、んっ……ふ、うん」
「……んっく、うんんっ、んんぅっ」
 どちらからともなく目を閉じ、互いの熱さとうるおいと、その感触をひたすら探るように続ける。
 私の舌が千早ちゃんの歯の裏をなぞっていく。ぬめぬめと温かく濡れ、でこぼこした上あごの肉を感じる。
 千早ちゃんが私の頬の内側をまさぐる。息継ぎをするついでに歯と頬できゅっと挟むと、びっくりしたように逃げる。
 互いが互いを包み込もうと、大きく口を開けて柔らかな押しくらまんじゅうを繰り広げる。
 そのうち口の中には唾がたまってきて――これも雑誌に書いてあった――上になっている私の唾は舌を伝って千早ちゃんの中に入り、……
 ……こ、くっ……。
 飲んでくれた。なんだかそれがとても幸せで、今度は私が飲んであげたくて、広いベッドの上でころん、と転がった。
 今度は私が下になり、千早ちゃんの頭を両手で抱きかかえる。
 こくっ、んくん。
 強く吸い、ゆっくり味わいながら飲み込む。そのあとものどを通っていく千早ちゃんの液体に神経が追いすがり、おなかにたどり着いたのが判った時、私は涙が出そうに嬉しくなった。ありがとう、って言いたくて目を開けると……、
 千早ちゃんが泣いていた。
「ぷは、ち、千早ちゃんっ?」
「……く」
「千早ちゃん、どうしたの?私、どっか噛んじゃった?な、なんか、気持ち悪かった?」
 慌てて唇を離し、聞く。私は今の行為がとても幸せだったけど、千早ちゃんにとって思ったようではなかったのかな?女の子同士なんて普通じゃないし、ひょっとして無理に私に気を使っ……。
「ご、ごめんね、千早ちゃん、やだった?わっ、私勝手に思い込んじゃって、千早ちゃんのこと……っ」
「……春香」
「ごめんね、からかおうとかいたずらしようとか、そんなんじゃないから。でも、でも千早ちゃんがやだったんなら、ごめんね、もうしないからっ」
「ま……待ってよ、春香」
「だって――」
 そこまで言って、私は喋れなくなった。いったん離した唇を、千早ちゃんに塞がれたのだ。
「――っ?」
「もう。春香、少しは落ち着いて人の話を聞きなさい」
 私の真上で苦笑する千早ちゃんを見て、なんだか知らないけど早とちりなんだと気付いた。
「まったく。余韻にひたる暇もないわ、せっかくこんなに嬉しい気分なのに」
「千早ちゃん?」
 ちゅっ、と、もう一度キス。今のはバードキス。
「春香、私はね、あなたみたいに自分が感じた通りの顔をする、というのが苦手なの。前にプロデューサーが同じ勘違いをしたことがあったから聞くけど、私、ひょっとして悲しそうな顔をしていたのかしら?」
「う……うん。泣いちゃいそうだった」
「ふう。我ながら厄介な性格よね」
 そう言って笑った。
「泣いてしまいそうだったのは正しいわ。私、今、とても嬉しかったの。春香としたキスが、涙が出そうに嬉しかったのよ」
「ほ……ほんと、に?」
「本当よ、春香」
 また、キス。ゆっくり唇全体を押しつける、プレッシャーキス。
「私ね、誰か他人と深く関わることなんて随分長いことなかったから、あなたという友達を得られたのがとても嬉しかった。春香のためなら、できることはなんでもしてあげたいと思った」
 言葉を切るたびに、キスがそれをつなぐ。
「昼間の話も、わ、私だって興味くらいあったけど、でも誰でもよかったわけじゃないのよ?春香が申し出てくれたから、春香が試してみようって言ったから、私もそうしようって思ったの」
 千早ちゃんは言いながら、私の髪や顔を撫でてくれる。やわらかな細い指先で触られて、少しくすぐったい。
「春香、私の友達でいてくれてありがとう。キスしてくれて、ありがとう」
「う……ううん、千早ちゃん。こちらこそ……ひくっ」
 やさしく撫でられ、こんなにあったかい言葉をかけられて、私はたまらなくなった。笑おうと思ったけど、なんか顔がくしゃくしゃになって涙が止まらない。
「わ、わたしも……ね、千早ちゃんが友達で嬉しいよ。初めて会った時から、友達って呼べるようになったときから、昨日も、今日も、明日も、ずっとずっと私、千早ちゃんのこと、大好きだよ」
 まぶたの脇にあたたかい、濡れた感触。千早ちゃんが、私の涙を唇でぬぐってくれている。
「泣かないで、春香?だって嬉しいんでしょ?」
「ちは……や、ちゃあんっ」
 両手で思いっきり抱き締めた。私の上で体を支えきれなくなった千早ちゃんの、たいして重くない体重がのしかかる。顔も近づいたので、もう一度キスをした。ディープキスを。
 千早ちゃんも泣いてたけど、今度はちゃんと、嬉しいんだってわかった。
 目を閉じて、唇をこすり合わせて、お互いの呼吸を揃えるようなキスをしていて、私はもっと千早ちゃんに喜んでもらいたくなった。
「ね……ねえ、千早ちゃん?」
「?」
「こんなの……どう?」
「ひゃんっ!?」
 それに、抱き締めあっていて気づいたこともある。私は素早く片膝を立てて、千早ちゃんの脚の間に差し込んだ。寝たままの体勢で私の腿にまたがるようになった千早ちゃんの体が、何センチか上にずり上がる。
「なっ……なにを」
「こういうの、嫌い?」
 細い体を抱き締めたまま、膝をぐりぐりって動かしてみる。私の腿に感じられる千早ちゃんのあそこは……すごく、熱い。
「ぅ……ふっ?は、春香……っ」
「千早ちゃん、おっぱい、固くなってるでしょ」
「は」
 千早ちゃんと抱き合っていて、キスが深くなるたび体がひくん、って動くのが判った。私の胸に当たってくる乳首が、ブラをつけていないパジャマの布越しにはっきりと感じられた。
 千早ちゃんも、感じ始めてるんだって確信した。
「あのね、私も、なの。判る?……私、なんか、あったかくなってきちゃった」
 いやだって言われたらやめよう、そう思いながら話しかける。とは言え、私自身も興奮していて、いつまで自制できるかわからないけど。
 千早ちゃんは私の膝の動きに耐えているのか、目をつぶって顔を横に向けている。やりすぎちゃったかな、今もし『春香なんか嫌い』って言われたら私、どうなっちゃうかな、とか考えているうちに、千早ちゃんの目が再び開いた。
「は……春香」
「うん」
「春香は、こういうとき、どうすればいいのか……知ってる、の?」
 切なげな表情。ピンク色に染まった頬。今の質問の意味を少し考えて、千早ちゃんはひょっとしたら知らないのかな、っていうことにたどり着いた。
「うん……知ってるよ。千早ちゃんは、わかんないの?」
「……わからない。こんな感じになることも今までほとんどなかったし……は、恥ずかしくて、誰かに聞くことも……」
 ゆっくり、とぎれとぎれに打ち明けてくれるのを聞いて、やっぱりって思った。
「……が、学校にも友人はいないし、家族にも言えなくて」
 少し前に聞いた、千早ちゃんの弟のこと。それが原因で自分の居場所を見失ったこと。思い出した。千早ちゃんは、アイドルとして活動を始めて、ようやく自分でいられる場所に帰ってきたんだっていうこと。
「そうだったっけ。うん、あのね、私、知ってるよ。そんなふうになったときどうすればいいのか、千早ちゃんに教えてあげても、いい……?」
 うわ、これじゃキョーハクだよ。自分でそう思った。だって、そんなこと聞いてる間も、私の足は千早ちゃんの股間を刺激していて、もし私がこうされてるとしたら、とてもまともな思考はできないだろう。
「春香……」
「うん」
「わ……私、ね」
「……うん」
「私ね、……んっ……私、春香に」
 もう、判った。自分でそう仕向けたような気もするけど、でも、千早ちゃんは同意してくれた。
「春香に……春香になら、このこと、教えて欲しい」
「うん……いいの?」
「ん、お願い……だ、だっ、て」
「え」
 千早ちゃんの手が、いきなり腰に伸びてきた。パジャマの上から、だしぬけに私のあそこに当てられる。
「ふぁ――」
「は、春香も、もう、我慢できないん、でしょ?」
 明らかに経験のない……やみくもにそこに指を押し付けただけって判る、千早ちゃんの動き。私の膝で見当をつけたんだろう、どうすれば気持ちいいかまではよくわかってないみたい……だけど。
「あ……は、ぁっく」
「わ……春香の……ここ、ものすごく、熱い……」
 だけど、千早ちゃんに触られただけで、私はあっという間に、『届い』ちゃった。そのくらい、私は興奮していたのだ。
 いつもの、あったかくて、甘くて、重みのある透明な塊が背骨を上ってきて、頭の後ろのほうでパン、とはじけた。今日は普段より大きい気がする。ちょっとしためまいに襲われ、私は千早ちゃんにしがみつく。
「くふ」
「春香……?」
「ん……だいじょぶ」
「……そう」
 千早ちゃんは触るのをやめ、きゅっと抱き締めてくれて、頭を撫でてくれた。なんとなく、このまま眠ったら気持ちいいだろうな、って思って……思い返した。千早ちゃんに教えてあげなきゃ。
「ふうぅ。千早ちゃんのいじわる」
「え?な、なにが」
「私ね、いま、千早ちゃんの手で――」
 雑誌で読んで知っている単語だけれど、自分で使うのはなんか恥かしい。
「イッちゃった」
「う……い、今の、が?」
 千早ちゃんも言葉は知ってたみたい。
「うん、そうだよ。千早ちゃんが私のあそこ、触ってくれたから、気持ちよくなっちゃった」
「え、だって、まだ服だって」
 裸にならないとできないものだって思ってるようだった。なら――。
「だって、千早ちゃんだって……どう?」
「ふっ!?」
 自分のことで手いっぱいになって、動きを止めていた膝を再び振動させる。私の『お手本』が効いたのか、さっきより反応がいい。
「あ――あっ?くっは、は、ぁっ」
「どう?気持ち、いいでしょ?」
「はあっ……あ……や、ぁ、は……はずか――んむぅっ」
 ぐい、ぐい、ぐい、と動かすたびに声が出てしまうのが恥かしいのだろう、私の体に回していた手を離し、自分の口を両手で塞いだ。
「千早ちゃん、声、おっきいんだね?」
「んぐっ」
 いやいや、と口を塞いだまま首を振るのにはかまわず、さっきと逆方向にころりと転がって、また私が上になる。仰向けの千早ちゃんを腰で組み敷く体勢。
 私の腿が足の間に入ったまま腰を浮かした状態になっていて、簡単には逃げられない。さっきからごろごろと転がりどおしのため、パジャマの裾がはだけておへそが見えていた。
「ふふ、千早ちゃんのおへそ、かわい」
 手をそっと差し入れ、お腹を柔らかく撫でまわす。千早ちゃんは私の手を振りほどくでもなく、相変わらず口を押さえて耐えている。手が動くたびに、相当鍛えている腹筋がぴく、ぴくっ、と動く。
「千早ちゃん……」
 私は上から多いかぶさって、キスをねだった。困ったように私を見つめて、ゆっくり両手を離す。私は千早ちゃんの唇にむしゃぶりついた。
「んっ」
「うむん――、ん?んんっ!?」
 舌を深く絡め合わせながら、私は千早ちゃんのパジャマを脱がせにかかった。何をされているか気付いて抵抗しようとしたが、力は弱い。
 舌で唇の中を、手のひらでお腹をマッサージしながら、パジャマのボタンを下からひとつひとつ外していった。終わったら次は私。千早ちゃんも私も寝るときはブラをしないので、二着分のボタンを外すと互いの肌がすぐ見える。
 自分のパジャマはすぐ脱げた。下になっている千早ちゃんのはちょっと力が必要だったけど、体をもじもじ動かしながら協力してくれた。
「千早ちゃんの肌、すべすべでうらやましいな」
 千早ちゃんが胸にコンプレックスあるのは知っていたのでしげしげと見るようなことはせず、体を押しつけたまま手のひらで背中のきめ細かさを味わう。それはそれでちょっとマジ嫉妬しそうになったので、その手を前に回し、胸に手を当てた。
「きゃ――は、春香、っ?」
「だいじょぶだよ。やわらかくって、かわいい」
「ん、んふっ」
 右の乳首にキス。少し力を入れ、ちゅっと吸う。もう充分、固くなっているのが判る。きっと最初のキスから、ずっとこうだったのだろう。
 左胸はそっとそっとマッサージしながら、二本の指でその先端をつまみ上げるように引っ張る。
「っく」
「千早ちゃん、ここね、気持ちよくなると固くなるんだよ。これまでにもこういうこと、あった?」
 くりくりと転がしながら、尋ねてみた。
「は……はぁっ、え、ええ……時々、だけれど」
「どんなとき?」
「……」
「プロデューサーさんのこと、考えた時?」
「っ!?」
 きゅう、って、固さが増した。
「あはっ、やっぱりぃ」
「そっ……そんなこと、っ」
「私も、なんだよ」
「――え」
「私も、私のプロデューサーさんのこと思うと……ほら」
 シーツをきゅっと握っていた千早ちゃんの片手を持ち上げ、私の胸を触らせた。千早ちゃんに負けず劣らず、私も張りつめているのが自分で判る。心臓の鼓動さえ聞こえてきそう。
「こ……こんなに」
「あのね、女の子は、好きな人のこと考えてると、頭も、おっぱいも、あそこも、その人のことでいっぱいになっちゃうの。その人のことが体の中に溜まってきて、どんどん膨らんじゃうんだよ」
 千早ちゃんの手を誘導しながら、自分の胸をもんでもらう。力も動きもいつもよりずっと弱いけれど、人に……千早ちゃんにしてもらっていると思うと、気持ちよさと嬉しさが体の中からこみ上げてくる。
「恋人同士なら好きな人に抱っこしてもらうとかすればいいけど、私みたいに片思いだと、そのまんま我慢してたらハレツしちゃうんじゃないかって思うんだ。だからこうして、自分で自分にエッチなことして、すこし気持ちを抜いておくの」
「気持ちを……抜く?」
 欲求不満とかガス抜きとか自家発電とか、もう少し品のない言い回しは知っていたけど、自分のことをそんなふうに表現するのはなんか嫌だった。いつだったか、一生懸命考えて思いついた言葉だ。
「うん。そうして気持ちに隙間を作っておけば、また翌日からお仕事も勉強もできるし、またちょっとずつ好きな人のこと考えられるでしょ?」
「……うん。そうね」
 憶えたての頃はいけないことしてる意識もあったし、クセになりそうに気持ちがよくて、どうしていいかひどく悩んだ。でもプロデューサーさんのこと好きになって、頭の中がプロデューサーさんだらけになってしまった時、こう考えることで私の中で整理がついた。
 千早ちゃんが自分のプロデューサーさんを好きになったと思ったのは、そう昔の話ではない。そうじゃないかな、って気づいたとき私は嬉しかったけど、事務所で聞くわけにも行かなかった。
「プロデューサーさんのこと、好きなんだ?」
 もうずっと赤いままの千早ちゃんの顔が、さらに火照った。
「プロデューサーさんのこと考えると、おっぱいがきゅってなる?」
「う……ん」
「おなかの真ん中あたりが、あったかくなる?」
「ええ、なにか、こう……たまらない感じ」
「……ここが」
 太ももで押さえつけていた場所に、片手を滑り込ませた。さっきのお返しとばかりに、パジャマの中、さらにパンツもくぐり抜けて、直接触ってみる。私も、自分以外の人のを触るのは初めてだった。
「っう?」
「ここが、ぬるぬるになっちゃう?」
 答えは聞くまでもなかった。そうっとあてがっただけの人差し指と中指が、あたたかく濡れるのが判る。
「あ……あ、っ」
「それで、触ると、じんじん痺れるみたいになっちゃう?」
「は、っわ……わ、わから、ない、わ」
「触ったこと、ないの?」
「……こわくて」
 お風呂で洗わないはずはないし、生理もあるし、水着のお仕事のためにはお手入れだってしなければならない。それでも、千早ちゃんはここを、エッチな目的で触ったことはないのだ。
 私の手首は千早ちゃんの毛の生えているところを押さえつけていて、伸ばした指先がちょうど割れ目の真ん中あたりまで届いている。二本の指を使って、ゆっくり円を描くように撫でてみる。
「こんなふうになるだけだよ。こわくないよ、千早ちゃん」
「ぅ……ひゅうぅっ」
 私の胸を握っている手、シーツを掴んでいるもう片方の手、両手に一度に力が入るのがわかった。こみ上げてくるものをどうしたらいいか知らなくて、昇ってきちゃったらどうしようって思って、一生懸命こらえている。
「千早ちゃん、だいじょぶだよ。私、ここにいるよ」
「あ、あ……は、春香……ぁ、なにか、なにか、来るみたい、なの」
「うん、我慢しなくていいんだよ」
「だ、だっ、て」
「千早ちゃん」
 上からゆっくり覆いかぶさって、背中に手を回して抱き締めた。私の胸にあてがっていた手がはずれ、汗ばみ始めた裸の上半身が密着する。
「ささえてあげる。千早ちゃんがどっかに飛んで行っちゃわないように、私がこうして支えていてあげる。だから」
 指の動きを早くしていく。私が自分でするみたいに、中指の付け根の関節が、いちばん気持ちいいところに当たるように。初めてだと怖いかもしれないから、あんまり強くこすり過ぎたりしないように。
「だから、『それ』、来ても、いいよ。絶対だいじょぶだよ」
「う、うぅ、ん、は……春香、はるか……ぁ」
 千早ちゃんの両手も私の体を抱き締めた。気持ちよくて力加減がわからないのだろう、強く締め付けられて私のほうが呼吸困難になる。
「千早ちゃん、大好きだよ」
 耳元でささやくと、腕の力が少し抜けた。安心してくれたのかな。あそこをリズミカルに刺激し続けながら、切なげに見上げる千早ちゃんにキスする。私の手を挟み込むように閉じていた脚からも、おなじように力がなくなったのが判った。
「千早ちゃん、イキそう、なの?」
「……っ」
 とたんに両足を閉じ、力がこもる。でも、少しするとまた脚が開く。千早ちゃん、もう少しなんだ。
「千早ちゃん、我慢しないで……いい、んだよ?もう、イッても、いいんだよ」
「ふっく……う、く、ふ、だ、だっ……て、だって……っ」
 もじもじと脚をこすり合わせると、私の手が一緒にこねくり回され、たぶんかえって刺激が強まってると思う。あとちょっと、なのかな。
 私は、最後のひと押しをしてみることにした。
「ね、千早ちゃん」
「ふー……ふうっ」
「今の千早ちゃん……、すごく、きれいだよ」
「う……くぅっ」
「千早ちゃんのイクとこ……見せて?」
「……や……ぁ」
「私だけに、見せて」
「ぁ、ぅんっ!」
 ぎゅっ、と、千早ちゃんが私を抱き締める。今まで以上の、すごい力。
 私も負けずに、両手で千早ちゃんを抱き締め返す。二人の脚が絡まりあい、そのとき私たちはひとつになった気がした。
「は……ぁ」
「うん」
「……くうぅっ」
「うん……うん」
 千早ちゃんの細い体が、ぶるぶると小さく震える。私はそれを抱き締めて、やさしく頭を撫でてあげる。
 ふるふると震え続ける千早ちゃんの頭を、私は震えがおさまるまでずっと撫で続けた。
 千早ちゃん、気持ち、よかったかな?いやじゃなかったかな?
「くんっ」
 千早ちゃんが鼻を鳴らす音が聞こえた。私の背中を、そっと撫でてくれている。
「千早ちゃん?」
「はぁっ。……はる、か……」
「びっくりした?大丈夫だった?怖く、なかった?」
 千早ちゃんの顔は私の胸の間にうずまっていて、表情が見えない。
「あの、私、強くしすぎなかったかな?その、どっか、あの、痛かったりとか――んむ」
 覗き込みながら話しかけていたら、千早ちゃんが不意に上を向いていきなりキスしてきた。
 舌は入れてこない、ただ互いが強く吸い合う、バキュームキス。
「……だからね、春香」
 しばらくして、千早ちゃんは唇を離した。
「余韻にひたる暇がないのよ、あなたと一緒にいると」
「……あ」
「ふふっ」
 もう一度、キス。唇で唇を挟み、甘く噛み合うハンバーガーキス。
「気持ちよかったわ。春香が優しくしてくれたから、痛くなかった。ずっとぎゅっとしていてくれたから、怖くなかった。好きな人に想いを打ち明けられずに切なく過ごしているのが私だけじゃないって判って、心強く思った」
「千早ちゃん……」
「春香が素敵なことを教えてくれたから、私、今、とても幸せよ。ありがとう、春香」
「……ん、……よかった」
 千早ちゃんの瞳がうるんでいる。私もまた泣きそうになった。ところが、千早ちゃんは私の頬に手を当てて、こんなことを言った。
「あっ、春香、泣いてはダメよ」
「ふぇ?」
「だってあなたに泣かれたら、また私は春香を慰めなきゃならないじゃない。ふふっ」
 いつもよりずっと幼い、いたずらっ子の表情で笑う。こんな顔されたら、泣くに泣けない。
「ふぅ、千早ちゃんのいじわるぅ」
「それより、そんなことより」
 しかも千早ちゃんは頬の手をそのままに、また顔を近づけてくるのだ。
「春香、今みたいなこと、もっと私に教えて?」
「……え」
「私、まだ初心者だから、もっとたくさん憶えなければ。それに、きっと」
 耳元に近づく、唇。
「……春香、まだ、『隙間』が空いてないんでしょ?」
 注意が耳に行っている間に、いつの間にか近づいていた千早ちゃんの指が、私の乳首をピン、と弾いた。
「ひぁんっ!」
「春香に教わったこと、すぐにでも復習したいわ」
「ち……千早ちゃぁん〜」
 今度は私が押し倒されて……、まあ、これはまた別の話。
 二人とも翌日がオフなのをいいことに明け方までイロイロ……して、お昼前まで裸のままで眠って、目覚めてお互い真っ赤な顔で一緒にお風呂に入って。洗いっことか、して。
 そのあともしばらく、そのまんまのカッコでごはん食べて、お話して、急に宅配の人が来て大慌てして、二人で笑って。
 夕方、私が帰る時まで、いっぱいキスした。今回の原因になった雑誌なんかメじゃないほど、いろんなキスをした。
 千早ちゃんの家のドアを開ける前、『じゃあね』のキスをしたとき、お別れでもないのに二人でちょっと泣いてしまった。
 泣いたのがおかしくて、涙を流したまま二人で笑って抱き合って、涙を拭いて、あらためて『じゃあね』、って手を振った。
「じゃあね、千早ちゃん。また明日、事務所で」
「ええ、春香。私はすぐ収録だから、行き違いになるかもしれないけれど」
「そうだったね。頑張って」
「春香も。……それから」
「うん?」
「プロデューサーのことも、ね」
「ぶっ?や、やだないきなり……ん、でも、うん、ありがと。千早ちゃんも頑張ってね」
「……ええ。ありがとう」
 最後に思いっきり明るく笑いあって、思いっきり手を振りあって、ドアを開けて、外へ出た。
 表はもう暗くなっていて、もうすぐ星が光り始めるだろう。
「あちゃー、お母さんに電話しとかなきゃ」
 歩きながら携帯電話を取り出す。
 コールがつながるまで、ゆうべのことを思い出す。
 うん。
 気持ちの隙間が、できた。
 明日も、お仕事を頑張ろう。時間が取れるときはちゃんと学校にも行って、勉強も頑張ろう。
 歌も、ダンスも練習して、もっともっとファンのみんなが喜んでくれるアイドルを目指そう。
 そして、一緒に歩いてくれるプロデューサーさんのことをたくさん考えて、いつかこの心を打ち明けられる勇気を育てよう。
 その前にもしまた、いっぱいいっぱいになったら……。
「あ、お母さん?私ー。ごめんね連絡遅れて、うん、いま千早ちゃんち出たトコ」
 ……きっとまた、千早ちゃんが手伝ってくれる。それが逆なら私が、千早ちゃんを手伝ってあげよう。
「これから帰るね――ええっ?やだやだ食べるってば!私の分も残しといてよ、今すぐ帰るからぁ!」
 私は携帯を耳に当てたまま、駅に向かって走り出した。




おわり





作者:百合4スレ809

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