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「――あ、兄ちゃん?」
『なんだよ』
 電話の向こうは真美たちの兄ちゃん。通話終了ボタンに指をかけて、すぅっ、と息を吸った。
「亜美のこと襲ったらメッだかんねっ!」
 言うだけ言って、ぷちっ。用事の終わったケータイは、さっさとポーチにシュート。
「んっふっふー。兄ちゃん、怒ってるかな」
「もう、真美ちゃんったら」
 目の前でニガワライしてるのは、ゆきぴょん。
「そんなこと言われたら、プロデューサーびっくりしちゃうよ?」
「へーんだ。亜美とふたりっきりで旅行なんか行くからだよ」
「りょ、旅行じゃなくてドラマの収録だよね?」
「そんなの一緒だもん」
 一緒じゃないのは、わかってる。お仕事だし、たまたま部屋が二人分しかとれなかったんだし。
 でも、うらやましいのはホント。だからこんなグチが出ちゃう。
「亜美はきっと、兄ちゃんとおいしいもの食べたり楽しいとこ行ったり、真美にヒミツでおもしろいこといっぱいするんだろな、あーあ」
「真美ちゃんに秘密、って言っても」
 ゆきぴょんが言い返した。……真美のすぐ隣で、お揃いのパジャマ着て、並んでベッドに腰かけて。
「真美ちゃんが私の家に泊まりに来てるのも、亜美ちゃんには内緒なんだよね?」
「てへぺろー」
 そう。亜美が楽しいことするんなら、って、真美は真美でゆきぴょんちに遊びに来ちゃったのだ。
 今日は、朝早く亜美が兄ちゃんと出発して、真美の方は事務所の中でボイトレぐらいしか入ってなかった。ホントはそのまま帰ってもよかったんだけど、亜美のいない家に帰ってもつまんない気がして、だらだら事務所に残ってた。
 そしたら夕方、お仕事終わったゆきぴょんが戻ってきて、真美と遊んでくれたんだ。
 真美もゆきぴょん好きだし、言ってみたいこともあったから一緒にいてもらって。宿題教えてもらったり。明日のパーティー──明日は真美たちの誕生日なのだ──の準備手伝ったりして、夜になって、帰ろっかなーってなったとき、ゆきぴょんが誘ってくれたんだ。
『真美ちゃん、うちに遊びに来ない?』
 って。
 帰り道で聞いたら、亜美がいないから真美が元気なく見えたんだって。そんなんじゃなかったんだけど、でもゆきぴょんのお誘いだったから、すぐママに電話してOKもらった。うちに寄ってお泊りセット準備して、二人でゆきぴょんちに行って。
 ゆきぴょんママにすっごいゴチソウ用意してもらって、たくさんおしゃべりして、それで今。もうそろそろ寝なきゃね、って時に兄ちゃんからギョームレンラクの電話があって、そのおしゃべりしたところだった。
「でも真美ちゃん、ほんとうによかったの?お布団用意しなくて」
「真美よりゆきぴょん、メーワクじゃなかった?」
 ゆきぴょんが聞いてきた。なにかっていうと、真美の寝る場所のこと。ゆきぴょんの部屋に入れてもらったらベッドがチョーおっきくて、ゆきぴょんママが客間にお布団敷いて
くれるって言ったの断っちゃったから。
「私は嬉しいよ。真美ちゃんと一緒に寝られるの」
「真美もー。じゃ、よかった」
「うん」
 ゆきぴょんとおんなじ部屋で、おんなじベッドで寝られるなら、真美はすっごく嬉しかった。だから『いっしょに寝ていい?』って聞いたんだけど、ゆきぴょんも『いいよ』って言ってくれた。
 お布団に入ってからもいっぱいおしゃべりしてたけど、そろそろ寝ようかって言われたから、目を閉じた。
 ゆきぴょんは真美の手を握ってくれて、それがあったかかったから、だんだんとろんてなってきて。
 アタマの中の薄暗がりで、あれ、言えなかったな、でもいいや、って。
 ぼんやり考えたのが最後だったみたい。そのまま眠りに落ちてった。……その時は。

****

 こそっ、って音がした。音っていうか、ケハイ。フンイキ。真美はそれで目を覚ました。
「……ゆきぴょん?」
「ふわ、ま、真美ちゃん」
 ちょっとどうしようかなって思ったけど、声かけちゃった。
「お、起きてたの?」
「んーん、いま」
「あれ、起こしちゃったんだ。ごめんね、眠いでしょ」
「ゆきぴょん、どっかいくの?」
 壁の時計が見えるけど、夜中の1時だった。ってことはもう2時間以上は寝てることになる。もうけっこうアイドルやってるから時間があるときにまとめて寝るのも慣れちゃって、いっぺん起きちゃえばすっきり目が冴えてる。
「トイレ?」
「ち、ちがうよぉ」
 にやって笑って聞いてみたら、真っ赤な顔で首を振った。ゆきぴょん、こういうのニガテだって知ってるもんね。
「起こしちゃってごめんね。ん、お風呂行こうかな、って思って」
「え?さっき入ったっしょ?」
「うん、また入ろうって。ちょっとだけだけどね」
 聞いてみると、ゆきぴょんは一晩に2回、お風呂に入ることがあるんだそう。さっきのごはんの後、真美の後に入ってたって思って聞いたら、そう教えてくれた。
「さっきは髪も体も洗って出てきたでしょ。時々私ね、夜中にもう一度お風呂に入るの。
そんなに長くじゃないんだけど」
「こんな時間にー?」
「えへへ、変でしょ。でもね、気持ちいいんだよ」
 日によってバラバラだけど、夜ゆっくりできる日は早めに体を洗って、家族がみんな入ってから改めてあったまりに行くんだって。そのときは電気も消して、まっくらな中であったかいお湯にじっと浸かって、のーんびりするんだって。
「アイドルになる前から、たまにね。お湯もあんまり熱くしないで、ゆっくりしてると、すごくリラックスできるの」
「……ゆきぴょん、真美が今日いきなり泊まりに来たからリラックスできなかったの?」
「え?や、そ、そんなんじゃないよ!違うよ、ごめんね、真美ちゃんが来てくれてすっごく嬉しいんだよ」
「そんなアセらなくてもー」
「ふえ?!」
「うそうそ、ちょっと言ってみただけだよーん」
「……もうっ!」
 なんかゼツミョーな振りがあったからつっこんでみたけど、ゆきぴょん予想以上に慌てちゃってかわいかった。
 ゆきぴょんの言ってることはわかる気がする。アツアツじゃなくてちょうどいい湯加減のお湯にたぷたぷ浸かって、しかも周りがまっくらなんて気持ちよさそうだった。
 だから、こう聞いてみた。
「ねえ、ゆきぴょん」
「なあに?真美ちゃん」
「それ……お風呂、一緒に入っても、いい?」
 ゆきぴょんはまた顔を赤くしてちょっと考えてたけど、少しして。
「……入っちゃおっか」
 って、笑いかけてくれた。

****

 ゆきぴょんの家はすっごく広くって、お風呂はみんなの部屋の真ん中あたりにある。さっき、先にお風呂使わせてもらってゆきぴょん待ってるときにも思ったけど、少しくらい大きな音を立てても寝てるみんなにはメーワクがかからないっぽい。なんか真美や亜美向きのお風呂だね、これ。
 脱衣所で服を脱ぐ時は明かりをつけて、二人でいっしょにハダカになった。
「……」
「な、なに?真美ちゃん」
「ゆきぴょんのハダカって、きれー」
「やだ、恥ずかしいよ、真美ちゃん。準備できたなら電気消すね」
「え、もうちょっとぉ」
「だーめ」
 ゆきぴょんの体ってすっごく真っ白で、真美が見てもチョーセクシーって思うけど、じっと見てたらメッされちゃった。でも、そーゆーことならこっちにも考えがあるもんね。
「うひゃあ。ゆ、ゆきぴょん?まっくらでなんにも見えないよ」
「目が慣れたら平気だよ。ほら、こっち」
 こう言ったら手を差し出してくれた。しめしめ。
「ゆきぴょーんっ」
「きゃああっ?」
 抱きついちゃった。
「しー!ゆきぴょん、みんな起きちゃうよっ」
「はわっ」
「いこいこ、早くいこっ」
「わ、わかったけど、真美ちゃん、も、もうちょっと離れてよぅ」
 そんなふうに言われたけど、知らんふりしてゆきぴょんのお腹にしがみつくみたいにお風呂についていった。
 かこーん。
 ゆきぴょんの家のお風呂は、さっき入ったのが初めてだったけどめちゃめちゃ広い。温泉旅館の大浴場みたいで、聞いたら離れに住み込んでるお弟子さんたちがみんなで使うこともあるから、おっきなお風呂がいるんだって。
 石造りの床のスレスレに湯船があって、フチまでたぷたぷにお湯が張ってあって。明り取りの窓からお月さまが見えてて、ここは電気まっくらでも平気だった。
「……うわぁ」
「素敵でしょ?なんだか、別世界みたいで」
 さっきの明るいお風呂と全然ちがってた。思わず立ちすくんでため息ついたら、横でゆきぴょんがそう言った。
「私ね、小さい頃から男の人とか苦手だったし、学校とか、今はお仕事も楽しいんだけど、帰ってくるとけっこう頑張ったなーって思うこと、あるんだ。で、前に誰かの本で読んでそれから、こんなふうに真っ暗なお風呂に入るようになったの」
「ゆきぴょんってアナ掘ったり、見た目の割にタイクカイ系だもんね、んふふ」
「やめてよぉ。……暗いところでお湯に浮かんでると、なんていうか、自分がお湯にとけちゃってるみたいな感じになるの。そういうふうになると、体の疲れも心の疲れもぜんぶとろけて、お風呂から上がる頃にはすっきりした気分になるんだよ」
「ふーん。でも、なんか、わかるっぽい」
 家でもときどき亜美と別々にお風呂入るけど、たとえば亜美たちみんながテレビに夢中だったりとか、お風呂場ではなんにも聞こえないことがある。そんなとき、目をつぶってお風呂の中にいると、お湯と自分と区別がつかなくなりそうなことがあった。それ説明したら、ゆきぴょんはにこにこ笑ってうなずいてくれた。
「裸のままここにいたら風邪ひいちゃうね。入ろうか?」
「うん」
 ゆきぴょんに言われて、なにしにきたか思い出した、二人ならんで肩まで沈む。
「くぁー、ゴクラクじゃー」
「なにそれ。ふふっ」
 しばらく、二人でお話した。寝る前にベッドで話してたのの続きみたいな、なんてことないお話。最近のお仕事がどうだった、とか学校でこんなことがあった、とか。お湯加減も気持ち良くってホントに体がゆるゆるになったみたいで、お互いどんなことでも打ち明けられそうな感じ。そのうち、話題はだんだん普段と違う方に進んでいった。
「え?亜美ちゃんが?」
「うん、間違いないっぽい。亜美ね、たぶん兄ちゃんのこと、大好きだよ。それもライクじゃなくって、ラブだよラブ」
「えええー」
「真美には内緒にしようとしてるっぽいけど、フタゴだもん、バレバレなんだなー、これが」
 真美が『ぜったいナイショだよ』って話したのは、ちょうど兄ちゃんと泊まりの収録に行ってる亜美のこと。
 今回の泊まりが亜美の番だったのは偶然だけど、いつもより嬉しそうにはしゃぐ亜美を見て、なんか感じちゃった。真美と一緒のお仕事だったらこうはならない笑い顔や、真美の目を盗んでこっそりバッグに入れた、とっておきのコロン。まさかと思って亜美がトイレ行ってるスキにバッグ開けたら一番奥に、二人で1セットずつ買った時はたしかジョークグッズのつもりだったはずの真っ赤なレースを発見して、一瞬でフットーした顔を元に戻すのにチョー焦ったのなんの。
 少し大げさに言っちゃったけど、ゆきぴょんはホッペ赤くしながら、でも真剣な顔で聞いてくれた。
「ふええ、そ、そうなんだ、亜美ちゃん。ふえええ」
「それが今晩ふたりっきりでホテルだよゆきぴょん。どーする?」
「ど、どうするって言っても」
「これで二人になんかあったら、一緒の部屋にしたピヨちゃんの責任だよねー」
「そんな、そんな亜美ちゃんが、っていうかまさかプロデューサーが、そんな」
 おろおろするゆきぴょんがおもしろくて可愛くて、しばらく見てたら、ふとなにかに気づいたみたいにこっち見た。
「……真美ちゃん」
「ほえ?」
「真美ちゃんは……それで、いいの?」
 ゴモットモーな質問。ゆきぴょんは、兄ちゃんを亜美に取られてもいいのか、真美は兄ちゃんのこと好きじゃないのか、って聞いていた。でも、そのことはもう考え済み。
「……うん。真美は、いいんだ」
「え……?」
「あー、あー、別に兄ちゃんのことキライってことじゃないよ?真美も兄ちゃん、大好きだもん。でもね」
 でもね、うまく伝わるかわかんないけど、真美は兄ちゃんのこと、亜美みたいには好きじゃないみたい。兄ちゃんと一緒にいるとすっごく楽しいし、お仕事も面白いし、兄ちゃんに会えて嬉しいけど。ゆきぴょんにそう説明した。
「けど、亜美が兄ちゃんとコイビトになったら、真美はきっともっと嬉しいんだ。真美はね、亜美のことも大好きだし、兄ちゃんのことも大好きだし、その大好きな二人がまたまた大好き同士になれたら、すっごい嬉しいなって思ったんだ」
「真美ちゃん」
 ぎゅっ。
 気づいたら、ゆきぴょんが真美のこと、抱っこしてた。
「あれ?」
「真美ちゃんって、偉いんだね」
 そう言って、頭をナデナデしてくれた。ゆきぴょんの体は、柔らかくってあったかくって、すっごく気持ちいい。
「亜美ちゃんのこと思って、プロデューサーのことも思って、すごいんだね、真美ちゃん」
「ゆきぴょん、そんなんじゃないんだよー?」
「うん。強がりとかじゃないんだよね。それは、なんとなく、わかったよ」
 それでも、ゆきぴょんは真美を離そうとしない。
「でも、私は真美ちゃんを、こうしてあげたいの」
「ゆきぴょ……」
 あれ?今かも?
 言いたいこと。言いたかったこと。
 言っちゃおうか。言ってみちゃおうか。
「雪歩……おねえちゃん」
 おそるおそる、真美から手を回してみた。ぎゅってされてる雪歩おねえちゃんの背中に手をやって、こっちからもぎゅってしてみる。
 雪歩おねえちゃんは、真美の……わたしの言い方が変わったのにちょっと驚いたみたいだけど、すぐまたナデナデしてくれた。
「わたしね、雪歩おねえちゃんが、好き」
「私もだよ、……真美」
 おねえちゃんも、『真美』って呼んでくれた。胸の奥のほうから、あったかいものがあふれ出してくる。
 ずっと、こんなふうに呼びたかった。こんなふうに呼ばれたかった。
 雪歩おねえちゃんがすぐに応えてくれたのも、おねえちゃんもおんなじに思ってくれてたんだってことだと思う。
「わたしね。ずっと前からおねえちゃんのこと好きで、いつか『ゆきぴょん』じゃなくって『おねえちゃん』って呼んでみたいなって思ってて」
「うん」
「女同士なのにヘンだなって思ったりとか、亜美はちゃんと兄ちゃんのこと好きなのになって、自分がどっかおかしいんじゃないかって思ったりとかもして。でも、いっくら考えても考えても、おねえちゃんのことばっかりアタマに浮かんできて」
「うん」
「や……やっぱりわたし、おねえちゃんのことが好きなんだなって、いっつもそこに戻ってきちゃって」
 おねえちゃんはわたしの頭をナデナデしながら、うなずくだけだけど。けど、その手の平から髪の毛を通り抜けて、わたしの頭の中におねえちゃんの想いが流れ込んで来るみたいで。
「いつ……んくっ……いつもは、近くに亜美もいるし、ヘンに思われたらおねえちゃんにもメーワクかかるかもって、できな、かった、ん、だけど」
 気付いたら、涙、出てた。ハナじゅるじゅるってしたらカッコワルイから頑張ったんだけどもうダメで、クチで呼吸しながらぐずずーってベソかいて。おねえちゃん笑うかもって思ったけど、笑わなかった。
「わたっ……わたし、わたしね」
「……真美。ありがとね、真美」
 タオルでわたしの顔を拭いてくれながら、雪歩おねえちゃんが言った。
「私も、初めて会ったときから真美のこと、好きだったんだよ」
 わたしに、にっこり笑ってくれて。わたしはそれだけで、また涙の蛇口が大きく開いたみたいになって。
「私は、男の子とか苦手だから周りにいつも女の子ばっかりで、前からずっと『ああ、私ってこういう子なんだな』って思ってたんだ。でも、真美と一緒で誰にでも言えるわけじゃないし、真美と会った時も予感みたいなのはあったんだけど、それも口に出せなかったの。もしも真美がそれ知って嫌な気持ちになったら、その方が辛いから」
「そんなこと……なかったのに」
「えへへ、実はね、けっこう大丈夫かもって思ってたんだけど。……でも、やっぱり最後の一歩が踏み出せなかった」
 体の向きを少し変えて、お風呂の中で座るおねえちゃんの上にわたしが横座りするみたいに乗っかって、今度はわたしの顔を撫でてくれる。
「だから、いつも一緒の亜美ちゃんがいない今日はすっごいチャンスかもって思って、それでちょっと頑張っちゃった」
「……いつもなら『宿題見てあげようか』とか言わないのに、とか?飾り付け、普段は高いトコは手伝わないのにとか?」
「あ……わかっちゃってた?」
「んふふ、やっぱね」
「こういうの隠せないんだなー。私、やっぱりダメダメだぁ」
「あ、いいんだよ。だからわたしも、チョー甘えちゃったし」
「うん、それは私も気付いたー」
「ふえぇ?そんなら言ってよぉ」
 事務所で宿題教えてもらってるとき、わざとぺたぺたくっついたり。休憩時間でジュース飲んでるとき飲み比べっこしたり。お互いシタゴコロ満載でじゃれあってたってことみたい。ようやくわかって、二人で笑った。
「真美も、私と一緒にいてイヤじゃないんだなってわかって、ちょっと勇気出たんだ。だから今日、泊まりに来ない?って言ってみたの」
「うれしかった。ドキドキした。亜美と一緒で、家からショーブパンツ持って来ようかって思っちゃったくらい」
「ええー?持ってこなかったの?残念」
「んー……それが、持って……き、た」
「ほんと?あとで見せて?」
「ヤだよ、恥ずかしいもん」
「えー」
「でも、……『見せっこ』、だったら、いいよ?」
「……う。うん。わかった」
「うええ?おねえちゃんも持ってんのお?」
 ちなみにお風呂あがってからソレ着て見せっこしたら、おねえちゃんのは真っ白いレースのスケスケだった。オットナーって感じだった。
「真美が泊まりに来てくれたら、ぜったい『真美』って呼んであげようって思ってたんだ。でも家の人の前では言えなくって、さっき真美が私をあだ名じゃなくって呼んでくれたとき、やっと言えた」
「うん。おねえちゃんもおんなじに思ってくれてたんだってわかって、嬉しかった」
「やっぱり、また真美の方が先だったけどね。でも」
「?」
「これは、私から先に聞いてみようって思う。……真美」
 声がちょっぴり変わって、おねえちゃんの顔を見返した。シンケンな、表情。
「真美の言う『おねえちゃん』って、どんなお姉さん?」
「……」
「私が呼んでる『真美』は、『妹の真美』じゃ、ないんだけど、な」
「おねえちゃん……」
 少しの、間。
 事務所では、おねえちゃんは時々わたしを、『真美ちゃんみたいな妹が欲しいな』って言ってくれてた。
 でも、それはもちろん嬉しかったけど、わたしはほんのちょびっとだけ、嬉しくなかった。おねえちゃんは『真美』が欲しいのか、『妹』が欲しいのか、ちょっとわかりづらかったから。
「おねえちゃん」
「なに?真美」
 だけど、今のではっきりわかった。だから、にこって笑ってこう言った。
「チューしても、いい?」
「……うん」
 答えを待って、ゆっくり唇を近づけていって。ちゅ、って口と口が触れ合って。
「ふ、んっ」
「んむっ?」
 わたしは……その中にベロを押し込んだ。
 ハンシャ的に歯を閉じられそうになってひやっとしたけど、おねえちゃんはわたしのベロを迎え入れてくれた。詳しいやりかたはもちろん知らないし、前にこんなのがあるんだって雑誌で読んだだけだからワケがわかんなかったけど、れろれろって動かしてみた。そしたら、おねえちゃんのベロが触ってきた。
 わたしはあっかんべーみたいにしてたんだけど、おねえちゃんのやりかたで、クチは大きく開けた方がいいんだってわかった。
 ベロ同士が絡まりあうみたいに動いて。
 歯の根元とか、ほっぺの裏側を触り合って。
 いつの間にかまたお互いに抱き締め合いながら、ひたすらベロを動かしてた。どのくらいだろ、10秒?10分?お互い一言もしゃべらないで、クチの中でベロが動くくちゅくちゅっていう音と、息苦しいような呼吸の音が大きなお風呂場に響いてた。
「ぷふぅ」
「はぁ……っ」
 やがてどちらからともなく唇を離した。そっと顔を遠ざけると、唇から唇に細い糸が引いた。
 わたしは改めておねえちゃんに笑いかけて、言った。
「おねえちゃん」
「ん」
「『妹』は、こんなキス、しないっしょ?」
「ふふ、そうだね」
 そうしてまた、唇を重ねた。

****

 その夜は、結局二人とも寝なかった。お風呂上がってからもお部屋に戻っていっぱいお話して、(さっきの見せっこもして、)いっぱいキスして、それからちょこっとだけムニャムニャナコトもして、またお話して、気づいたら窓の外が明るくなってた。
 わたしはそこで限界になっちゃって、朝ごはんのお茶碗持ったままうとうとしちゃってゆきぴょんママに笑われちゃった。おねえちゃんは、わたしのことかばってくれてる最中におっきなアクビが出てむしろ叱られてた。
 おしゃべりしすぎたのならもうしばらく休みなさい、って言われて、二人ともお仕事なかったから昼まで寝なおした。ホントは寝たくないって思ってたんだけど、またお部屋に戻って、お互いにおやすみってキスしたら、二人同時に意識を失ってた。おねえちゃんがアラームかけてくれてなかったら月曜までだって寝てたかも。
 結局お昼ごはんも用意してもらって、そろそろ事務所行こって思ったら、ちょうど亜美からのメール。『飛行場ついたよ、このまま事務所行くね』っていう写メは兄ちゃんとのイミシンな2ショット。わたしとおねえちゃんは目配せし合って、『ヒミツだよ』『うん』って笑いあった。

****

「げ、下品な食い方すんなーっ!」
 ごっつーん。
「あいったーっ!?」
「ぷ、プロデューサーさんっ?」
 そして、パーティ。みんなでわいわいやってたら、いきなり兄ちゃんが亜美にツッコミ入れた。頭のてっぺんを、グーで。
「亜美ぃ、だいじょぶ?」
「わああん!兄ちゃんがぶったあ!」
「おいおい、そんな強くやってないだろ」
「プロデューサーさあん、口で言えばよかったんじゃないですかあ?」
「俺もそう思ったんだけどな、ほらアレだ、春香の目の前で春香の料理で遊ぶなんて、いくら主役でもダメなもんはダメだ」
 まあ、今のは亜美が悪いっぽい。みんなで手分けして作ってくれたお料理を、テンション上がっちゃった亜美が原始人みたいにわしづかみしたのだ。エビのフリッターに付け合せたケチャップとマヨネーズのソースがテーブルにも飛び散っちゃって、あーあ、亜美のシャツにも赤と白のテンテン。うち帰ったらママにも怒られるや。
「あーもう、亜美、ちょっとこっち来なよ、拭いてあげるから」
「むうう兄ちゃんめー。ごめんね真美、ありがと」
 ティッシュで拭くけど、布地に染み込んだ分は濡らさなきゃ取れない。そう思ってたら、おねえちゃんが横からタオルを差し出してくれた。
「真美ちゃん、タオル濡らしてきたよ」
「ありがと、おねえ――ゆ、ゆきぴょん」
「……ど、どうぞっ」
 あ、ヤバ。
 ゆきぴょんはそそくさとまこちんたちの話の輪に戻って、わた……真美は亜美の服をとんとん拭いて。ソースの飛び散りはどうにか目立たなくなった。
「こんなもんかな」
「サンキュー真美っ。ねえ真美、さっきゆきぴょんのこと誰か別の名前呼んだ?」
「ふえ?そんなことないよ?」
「聞き間違いかぁ。ふーん」
 やっぱり亜美が気づいてた。おもいっきりあさってのほう見てしらばっくれると、あっさり引き下がってくれた。ふー、危ない危ない。
「ねー、亜美、真美」
「あいあい、なーにやよいっち」
「そろそろ抽選会やろうって春香さんが言ってたよ。くじ引き、亜美たちがやるんでしょ?」
「はーいっ!真美も行こ?」
「うん!」
 みんなからはさっき誕生日プレゼント貰って、こんどは亜美がロケ先でいっぱいゲットしてきたお土産の抽選会。真美と亜美がくじ引きして、他のみんなに当たるイベントだから会場全体が盛り上がってる。
 真美の手を引いて先を歩いてる亜美。昨日から今まで考えてたけど、たぶん亜美は兄ちゃんにコクハクしてるって思った。その結果は今朝の写メなんだろなって思った。
 もちろんそんなのみんなに言うわけにいかないから、ホントのことはもっとうんと後にならないとわかんないって思う。まあ、それは真美とゆきぴょんの方もおんなじだけど。
 真美と亜美は今までも、これからもずっと双子で、仲良しでいられるって思うけど、その中身はちょっとずつ変わってきてるみたい。これまで鏡写しの二人だったけど、考えてみればそれは『そっくり同じ』だし、『ぜんぜん違う』ってことなんだって気づいた。それはなにもダメなことじゃなくて、不思議なことでもなくて、真美と亜美がそれぞれ真美と亜美だっていうことなんだって思った。
 きっとこれからも一緒で、それで、これからも全然違うんだろな、って。
 ちらって横を見たら、ゆきぴょんがこっちを笑いながら見てた。ちらって前を見たら、亜美が兄ちゃん見て笑ったのがわかった。
 亜美にこそっと話しかける。
「亜美、亜美っ」
「にゃ?なに?真美」
「シアワセになろーねっ!」
「……?う、うん、そーだね?」
 なんか、いーや、これで。
 真美は亜美に力いっぱい笑いかけて、今度は真美が亜美を引いて駆け出した。

ちなみに亜美はプロデューサーと何をしてたかというと・・



おわり

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