『魔砲少女まじかる☆りぷるん』


オープニングテーマ『噂のマジカルキャノンガール』
・作詞・作曲 魔砲少女まじかる☆りぷるん制作委員会
・歌 超諸島アイドルほしみちゃん






第2話(何) 少女が服を着替えたら






夜、少女は独り森の中を歩いていた。
過去に災厄を起こした月も怪しく、そして艶やかに光り、自らが滅ぼそうとした大地を照らす。
しかし幻想的な風景に気を取られる事もなく、彼女はただ前を見つめるのみ。
その強い意志以外、他の何をも映そうとしない瞳だった。
光の向こうから一羽のフクロウが飛んできた。その鳥は惹かれるように静かに彼女の肩に止まり…


高速ではたき落とされ、少女に素早く踏んづけられる。


「気安く触れるなと言ったでしょう?コノハ」
「うぎぎ…そのスピードは流石だな…!」
踏まれたフクロウは人の言葉を話し、ぽんっという音と共に煙に包まれる。
そしてそれが晴れた時には、鳥の羽を持った小さな人間へと変化していた。
「貴方が早く帰って来ないから、石を奪い損ねたじゃないの」
魔砲少女の1人、お姉さまは「どうしてくれるの」とコノハと呼んだ彼を踏む足に力を入れる。
「ちょっと調べるのに手間取っただけだぜ…うあ、ぐりぐりされて…」
お姉さまに鋭い瞳で見下ろされ、踏まれている彼は苦悶の表情…ではなく、どこか恍惚とした顔になってくる。
「あぁ…これはこれで…いいかも…」
「何をしたら貴方へのお仕置きになるのかしらね」
変な性癖を持つ使い魔の扱いに悩むお姉さまであった。
「それとだな…この位置から上を見ると、お前の」
その言葉を言い切る前に、お姉さまは踏んづけていた足を大きく振る。
次の瞬間、近くの木の幹にコノハは猛烈なシュートをされた。
「げふ…これはちょっと痛すぎるぜ…」
「貴方との契約、切ってもいいかしらね?」
ボロボロになりつつも、コノハは着ている緑を基調とした服、そのマントの付け根を指す。
「何のための契約だと思ってるんだ」
そこに付けられたのは、お姉さまと同じ黒いリボン。
「お互いの合意で結ばれた契約だ、同じくお互いが合意しないと切れないぜ」
「…そうだったわね」
「お前だって、俺がいるから他の奴らより力が強いんだ。契約内容としては十分だろう?」
「だったら常に力を供給して欲しいものだわ」
お姉さまは森の奥に進む。コノハもその後を追って羽ばたく。
「それで、ちゃんと目的の情報は仕入れて来たんでしょうね」
「あぁ、デマだった」
お姉さまは隣を向かず、炎の長杖でコノハを手加減なく叩き落とした。


月は輝く。全てを運命付けるかのように、また全てを掻き消すかのように。
「リプル…」
呟いた少女の言葉は、誰に聞かれる事もなく闇に溶け込む。






また一方、同じ時に別の森の中で。桜色の魔砲少女は獣と鬼ごっこをしていた。
「だからその額のイダルが欲しいだけなのにーっ!!」
ひらひらの衣装は、それはそれで動きやすいらしい。リプルは森の中を全力で駆ける。
後ろから迫ってくるのは、イダルにあてられ凶暴化した黒いギモだった。
「君そんな速い種族じゃないでしょ!?何、位置ズレ!?位置ズレを直す時に見られるあの超移動!?」
ギモの額には銀色の石が張り付いている。イダルだ。
そのギモが、血走った目で、唾や鼻水を撒き散らしながら全力で迫ってくる…
そんな光景に出くわせば、誰でも素直にこう思う。
「怖いよおおぉぉぉ!!」
逃げるリプルも、今までで一番のダッシュだった。
「わん」
「アーモンド!よし、もうちょっとだね!」
瞬時にアーモンドが現れ、リプルの隣を駆け抜ける。
一人と一匹は草を掻き分け、木々を抜け、崖を飛び越え。
「ジャーンプ!!」
不自然に葉が積まれた場所を跳躍する。


ずしゃああああああ


リプルとアーモンドが着地した直後、後ろで土砂が滑り落ちるような音がした。
落とし穴。事前に準備しておいた罠にギモが引っかかったのだ。
「止まればこっちのものだよ!アーモンド、雷球!」
アーモンドの口から雷の弾が生成され、ギモに直撃。
穴の中でものたうっていたギモが、ようやく静かになった。
「ふー…全力だったー…」
気絶したギモの側に寄り、額からイダルを放す。
黒い体は粒が噴き飛ぶように消え、元のギモへと戻った。
「うん。大丈夫そうだね」
何事もなく一安心、リプルは仕事を終えた笑顔になる。
その時木陰から、蝶の仮面を着けた男が現れた。
「終わったかね」
「ていっ」
その声めがけて、リプルは笑顔のまま手に入れたイダルをシュマに投げつけた。
「痛!?何をするんだ!」
「なんですかその登場の仕方!私だけに苦労をさせといて、余裕な態度で出て来ないでください!」
「私には何の力もないんだよ!それに落とし穴掘るの手伝っただろう!」
幼稚な言い合いを、アーモンドはあくびをしながら見ていた。
「…それで、このイダルは違えたイダルなんですか?」
「ふむ…いや、残念ながら違うようだ。君も分かるんじゃないのか?」
「まだその違えたイダルの感覚ってのは分からないので…」
とある島の暴れギモの話。モンスター強く影響を与えるイダルならひょっとしたら、という事でリプル達は退治しに来ていたのだった。
「モンスターを凶暴化させるくらいなら、どんなイダルでも可能という事か」
シュマは投げつけられたイダルを拾い、大事に袋へとしまった。
「目的の物ではなかったが、これでこの島も安全に探索できる。いい仕事だったな」
「だからやったのは私ですけどね」
「通常のイダルを集めるのも大切な事だ。今後もこういう仕事は引き受けていこう」
「だからやるのは私ですけどね」
そんな距離が違ってミス連発、のような会話をしながらリプル達は引き揚げて行く。
「しかし何故夜なのだ?」
「だって…この服、可愛くて好きだけど、ちょっと恥ずかしいんだもん…」
「必要な衣装だ、堂々としてればいいじゃないか」
「必要じゃない仮面被って堂々としてる人に言われても」
何も言う事なくついてくるアーモンドが、一番常識的に見えた。






「お姉さまー」
「何かしら、リプル?」
「お姉さまの名前って、なんて読めばいいのー?」
「何言ってんのリプルは。お姉さまはお姉さまでいいじゃない」
「いいけどー。気にならないの?こむぎちゃんは」
「全然。あたしは「お姉さま」って呼び方が一番だし」
「私は気になるなぁ。ねぇお姉さま、読み方教えてよー」
「ふふ。私はリプルが呼びたい名前で呼んでくれていいのだけれど」
そして見上げたお姉さまは、いつもと変わらない素敵な笑顔で。
「そうね、私が呼ばれたい名前は―――」


「リプル。ねぇリプルってば」
寝ている人を起こすには激しいだろう勢いで揺さぶられる。
「んにゃ…ラーメンにバター入れても味がわからないよぅ…」
「何の夢だよ。バター入れる人に怒られるよ。醤油バターとかあるじゃないの」
「あー。バター以上に海苔の存在意義がわからなくてねー?」
「どんな寝ボケ方だよ。香りとか彩りとかだよ。起きろよ各方面から批評受ける前に」
ブリーダーになってもリプルはまだ見習い程度。新人のための勉強会に来たのはいいが、そこでぐーすか寝ていたのだった。
町の真ん中にある集会所は日が当たって暖かい。寝るにはちょうどいい陽気である。
「ブリーダーになっても相変わらずだよな、あんたは」
「あはは…起こしてくれてありがとう、こむぎちゃん」
リプルの目の前、こむぎと呼ばれた少女はふんっと顔を逸らす。
昔はお姉さまを入れた3人でよく遊んでいた、同じくブリーダーであるこむぎ。
「成長するのは体だけかよ。頭の方に栄養は回らないのか」
「こむぎちゃんは体に栄養が回らないもんねー」
「あたしをチビって言いたいのはこの口か?この口なのか?」
「しゅ、しゅいましぇん…」
こむぎに唇を捻られ言葉が言えない。
「そこ。私語が多いですよ」
「「はーい」」
教師に窘められ静かにする、フリをする。
いつもと変わらずバレないように楽しく話しているリプルだったが、夢で見たシーンを思い出す。
こむぎはお姉さまの事を心底慕っていた。お姉さまが帰らなくなった日は、見るに耐えない状態だった。
「そういや、長老様の倉庫が燃やされたらしいじゃん?あれって何が原因だったと思う?」
そんなこむぎにお姉さまの変貌を伝えられぬまま、リプルは苦笑いを返すしかなかった。


昼になり、ようやく授業が終わる。教師も他の新人ブリーダーも、何かの話をしながらそれぞれ部屋を出て行く。
「よし、ご飯だよごはん!何か食べに行く?流れからすると海苔付き醤油バターラーメン?」
嬉しくて勢いよく立ち上がった時、リプルはポーチからイダルをこぼした。
「!?」
「おっと。だめじゃんこれ落としたら」
腰を折りポーチに戻すが、それをこむぎは驚愕の表情で見ていた。
「ん?どしたの?」
「リプル…それ…」
「あー。色々あってねー。そだね、こむぎちゃんにはちゃんと話しておかないと」
「…そう。そういう事。なるほどね、ふふ…」
こむぎの様子がおかしい。何に納得したのか、俯いて引きつった笑いをする。
「こむぎちゃん?ホントどうしたの?やっぱり一緒で醤油バターがわからない派?」
小さく震える肩に手を置いたが、それは払いのけられ
「あんたはあああぁぁぁ!!」
衝撃。何か冷たいものに押し潰される感触で、リプルは大きく吹っ飛ばされる。
壊れた集会所。その中心に立っていたのは、服が変わり炎の長杖を構えたこむぎだった。






「いっつもそうだ!あんたは天然ぶって!」
こむぎの隣に現れたディナシーが一蹴りする毎に、高速の水弾がリプルを襲う。
「じゃあお姉さまが生きてたのも知ってたんだろ!何で黙ってた!?」
「それはこむぎちゃんの事が…!」
「またお姉さま独り占めかよ!いつもいつもいつもいつも、いつもいつもッ!!」
「ち、ちが…!」
盾にしていた机が噴き飛ぶ。そしてしゃがんだ状態では、間髪を入れず飛んでくる次の水弾が避けられず、
「あたしを見てくれないじゃないか!あんたがいるから!」
水滴が拡散する。それは白い蒸気となり空に登っていき…
「魔砲少女まじかる☆りぷるん、只今登場よ!」
リプルは手を顔の前で交差し、変身する事でダメージを削いだ。
「でも…こむぎちゃんを攻撃するわけには…」
気後れしているのを全く気にせず、こむぎはディナシーに指示を出し続ける。
「こむぎちゃん?こむぎちゃんも、イダルに操られてるだけなんだよね?本当は戦いたくないんだよね?」
「はっ、冗談」
瞬時に間合いを詰められ、水を纏った拳を腹部に叩き付けられた。
「これはあたしの意志よ!イダルを奪うついでにあんたを殴れる、最高だわ!」
防戦一方、そして耐える以外何も出来ない。
「イダルを集めてお姉さまに渡せば、私だってちゃんと見てもらえるんだから」
悲しみが混ざった声の少女は、衣装が破けた無抵抗の少女の胸ぐらを掴み上げる。
「終わりか。つまらない、けどもういいや。そのイダルは私が」
その時こむぎに電撃が飛んできた。回避はされたが、リプルは離され地面に落ちる。
「アー…モンド…?」
「あんたの相方か、邪魔だな」
大きく杖を回しこむぎは指示を出すが、アーモンドはその水弾に吶喊。全てを避け切り、リプルを口に咥え大きく距離を離した。
「わん」
「アーモンド…。でも、私…」
「わん」
ここでイダルを奪われたら、もうお姉さまには逢えないから。
「私…ッ!」
リプルは杖を振るった。
「ようやくだな!だけど電気くらい水で遮断出来る!」
水の壁を作り出し、こむぎはリプルに迫る。
「光を集めてアーモンド」
静かに言った指示。
「な!?」
「撃ち込め」
その一言で、閃光が壁を貫通した。






座ったアーモンドの側で、リプルは変身の解かれたこむぎを抱え上げる。
この友達が静かになった所を初めて見た気がする。
「私…私は…」


今までで一番強く、リプルはお姉さまに逢いたかった。






エンディングテーマ『恋は☆りぷるん』
・作詞・作曲 魔砲少女まじかる☆りぷるん制作委員会
・振付 魔砲少女まじかる☆りぷるん制作委員会
・歌 リプル
・踊り リプル 水月華 コノハズク

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