『魔砲少女まじかる☆りぷるん』






第6話(終) 少女が分かり合えたら






オープニングBGM『Stellar Shooter(Instrumental)』


少女は走る。ただ、ひたすらに。
居るだけで不安になる、紫色の霧に満ちた島を駆け抜ける。
暴走したモンスター達。それらは少女を見つけ次第襲う。
「はああああっ!」
しかし少女は彼らに構わない。障害があれば、何であろうが己の光で倒し進むのみ。
「はぁ…はぁ…。あと何匹…?まだ…?」
気が晴れない紫と黒の空を見上げる。無数のイダルがこの島の中央へと集まってくる。
そう、止まってられない。
走って、倒して。走って登って…
平らに削られた山の頂上。辿り着いた高く広い場所は、壊れた石造りの祭壇。
銀色の石が不気味に輝き周囲に浮かび、現実とは思えぬ空間を作り上げている。
その中央で、見えない宙を仰ぎ見ていた人物が振り返る。
「よく来たわね、リプル」
「お姉さま…」
震える大気。瞬時風が二人の髪を吹き抜けていく。
2人の間には、もう隔てるものがない。






戦いは開始から壮絶だった。
常に途切れる事なく白と赤の線が入り乱れ、二人の間を埋め尽くす。
「アーモンド…シューター!」
「炎業。ショーテル!」
これが何発目かわからない。リプルとアーモンドの光はお姉さまとピクシーの炎と相殺し、爆散する。
リプルはもう立っているだけで精一杯だった。少しでも気を抜くと、体も心も折れてしまいそうで。
足が震える。しかし、だがそれでも。
「まだ…まだだッ!アーモンド構えて!」
相棒だって被弾し体を焦がしている。無理をさせているのがわかる。
でももう一発だけ、たったもう一発だけ撃ってくれればいい。
お姉さまにも、攻撃は当たっている。隣のピクシーだって、顔色1つ変えないが疲労でふらふらのはずだ。
でも何が楽しいのか、お姉さまは切れた頬に不気味な笑みを浮かべていた。
違う。そんな顔は間違っているんだ。
その下に自分の知る笑顔があるはずだからと、リプルは最後の力を振り絞る。
「光を撃ち込め!アーモンド!バスタあああああああああああああああッッッ!!」
最大出力で放った途切れぬエネルギーの塊は紫の霧を浄化の光で掻き消す。
「…炎獄」
閃光が空気を切り裂く音より前に、何か唱えるような声が聞こえた。
「フランベルジェ」
今までは何本もの炎だった蛇が、燃える一匹の巨大な龍となり光へ突進して行く。
2つの熱はぶつかり、お互い譲らず押し合い、そしてアーモンドとピクシーが同時に落ちた時打ち消しあった。
咄嗟にリプルは飛んでいた。閃光に追随するようにお姉さまへと、長杖で殴りかかる。
お姉さまはそれを同じく長杖で受ける。ガキンという金属音。
光と炎を撃ち続けて消耗し切った両者の杖も限界で、その衝撃と共に脆く壊れた。
「うわあああああ!」
まだ体は反応する。リプルは折れた杖を投げ捨て、最後に己の拳お姉さまへと突き出した。
いつも微笑みを絶やさなかった頬を殴る。ふらついたお姉さまだったが、足を踏ん張りリプルの腹へ同じく拳で一撃を入れる。
痛かった。お姉さまを殴った事が。殴られた事が。
「うわあ…うわあああああ!」
それでも腕を振るのを止めなかった。叫んだ。そして涙が止まらなかった。


何で私は、大好きな人に殴りかかっているんだろう。
何で私は、大好きな人に殴られているんだろう。
こんな事、本当は世界が滅んでもやりたくないのに。


体が腫れ、血を吐き、それでも声の続く限り手を出し続けて。
「あ…ああ…」
なんの力もこもっていない弱々しいパンチをお姉さまの額に当てたところで、リプルはお姉さまの方へ崩れ落ちた。
腕の中の懐かしい感触。それが過去の暖かな日々を思い出させ、
「元に戻ってよぉ…お姉さまぁ…!」
抱き付いて、何も考えず泣いた。
「戻るも…何も…これが私よ…」
お姉さまはリプルを抱いたまましゃがみ込んだ。どちらも力の全てを尽くした。
「私だって…怒るし…嫌な事だって、あるの…」
久々に聞いた、リプルが知る声だった。
「でも…腹黒いとか…サディストだとか…何それ、意味わかんない…」
「お姉さま…?」
「勝手に…人物像を作らないでよね…それに、そうして欲しいなら…してやるわよ…」
「それで、こんな馬鹿な事を…?」
「そうよ…私だって馬鹿な事を…するのよ…」
始めて知ったお姉さまの気持ち。それは支離滅裂で、でもどこか理解できて…
あぁ、そうか。
変身を解いたリプルは体を起こし、今度は自分がお姉さまを胸に抱いた。
「リプル…?」
この人もただの女の子だったんだ。
気持ちの表現が不得意で、不器用な、それで嫌いな世界にちょっとイタズラしたくなっちゃうくらいな、普通の女の子だったんだ。
「今まで勝手にお姉さまを作ってごめんなさい。でも…私が思う通り、優しくしてくれてありがとう」
「Σ」
ちいさく跳ねたお姉さまが可愛らしい。
「私…私…!」
「いいんだよ。もう」
「リプル…ごめんなさ…ごめ…うあああああ!」
泣き叫ぶ一人の少女を、リプルは愛おしく受け止めた。






散々泣き喚くお姉さまが落ち着いた後、リプルはお姉さまを離す。
「じゃあ、帰ろう?」
その瞬間、二人の間を黒い影が素早く過ぎ去った。
「けけけ!」
ばさばさと小さな羽根ではばたくソレは、緑色の使い魔。
その足にはリプルとお姉さまが持っていた6つの違えたイダルが奪われている。
「お涙頂戴の演劇に水を刺して悪いが、生憎俺はそんなのどうでもいいんでな」
「コノハ!?」
「情けねぇなぁ、お姉さまよお。最後までやり通してくれるかと思ったが、ここまで来て素に戻るとか白けるぜ」
高く空に登ったコノハは石を全て放り投げた。
それぞれの石が、己の色を輝かせながらコノハの回りを高速で回りだす。
「何をしているのコノハ!その危険な石を封じるために、今まで…」
「どこまでもお人よしだなぁお姉さまは!俺がこんな使える力を見逃すワケねぇだろう?」
お姉さまの話が違うという瞳と、そしてそれを見下すコノハの愉快そうな瞳が対照的だった。
「俺だけで石を集めるのが不可能だったから、お前を使ったんだよ」
「石を集める事が、そのために別の人間を演じるのが皆の…私のためだって」
「お前の不満を吐き出させる時間をくれてやったろう?それで充分感謝しな!」
虹色の球体に囲まれたコノハは、大きく声を張り上げる。
「これだけの力があれば…さぁ、復活の時間だ!」
石が磨耗し擦り切れる。そうして虹の中から現れたのは、緑のマントをひらつかせた、紫のオーラを纏う人物。
それは満足そうな笑みで少女二人の前に降り立ち、体の調子を確かめるように拳を閉じたり開いたりする。
「やはりいいなぁ、本当の体というのは。あんな中途半端な体だったからより強く感じるぜ」
「貴方は…何なの…?」
「そうだなぁ。遥か昔に封印された強い強い魔法使い、とか?」
そしてそのまま手の平を前に添える。突然反応できない速度で紫の球が発射され、リプルの隣にいたお姉さまのみ吹っ飛ばされた。
「つっても魔法なんて今の世界に存在しねぇし、魔王とか名乗ってもいいんじゃねぇかな」
「お姉さま!?」
地面にぶつかり、人形のように体を跳ねさせ動かなくなるお姉さま。
「お前えええええ!」
「おいおい…叫んだ所で、そんな体じゃどうにもならながふッ!?」
それは奇跡か、はたまた魔法か。
何故か体が動く。なので地面を蹴る。お姉さまを連れ戻したいという強い気持ちを思い出し、その心そのままに殴った。
「魔砲少女まじかる☆りぷるん、只今登場よ!」
魔法服はないし、長杖も無い。アーモンドに指示も出せないけれど、それでも自分は魔砲少女なのだ。
お姉さまがされたのと同じくらいにコノハを殴り飛ばしたはずだったが、滑って立ち登る煙の中からは、
「いや、なかなかのパンチだったぞ?」
「効いて…ない?」
「はーっはっは!あーっはっはっは!!」
高笑いして、堂々と立ち上がった魔王は魔砲少女を指差し言い放つ。
「むしろ気持ちいい!」
「ダメだコイツ?!」
ラスボスがヘンタイだとは思わなかった。
「ほら!もっと殴れよォ!」
「ヤだッ!ヘンタイに付き合う趣味はない!」
それでも牽制に蹴ってみるのだが、
「心地いい!真のスキンシップっとはこの事か!」
殴られるより、とても殴りたくない。怒りのやり場がないリプルだった。
「しかし…俺が使うはずの力をパクられんのは困るなぁ。お前もちょっと寝てろ」
再び紫の弾を、短い間隔で連射される。しかしリプルは避け続ける。
力が沸いてくる理由は、リプルも周囲の石の力を受けているからだった。
「ったく…石も無いのにどうしてお前に」
不気味だった紫色の霧は、リプルの周りで同じ色でも暖かい光となって体と精神を癒し続ける。
「アーモンド!起きてるよね!」
「わん」
信じた願いに、当たり前だというように答える声。アーモンドはリプルの近くで光を浴びて、傷も体力も取り戻す。
「ホント頼りになるよ、相棒」
「わん」
素早くピクシーを回収する気配りは、流石のアーモンドだった。
お姉さまの前で座り、リプルはアーモンドの首に掴まって構える。
「俺んだっつってんだろ!いいからお前は消えろ!」
少し焦ったのか、両手で繰り出される弾の嵐。それを弾きつつ、リプルはアーモンドへ己と周囲の力全てを注ぎ込んだ。
「ほう?ようやくまともな攻撃か。どうせなら気持ちいいヤツを頼むぜ?」
「まぁ良いとか悪いとか言う前に、消し炭にすれば問題ないんじゃない?」
そして一人は唱え、一匹は吼えた。
「まじかるッッッッッ!!!!☆カノおおおおおンッッッッッ!!!!!!」
強く煌く魔砲は、山を削り霧と大気を貫き遥かな宙へと直線を描いた。






「ぷはぁ!!」
なんとコノハは生きていた。
「正直こいつは死ぬかと思ったが、意外と良かった!」
彼は魔砲に耐え、服は千切れつつも耳障りな高笑いを止めない。
「おら、もっとやれよ!つってももう何処にも力は残ってないだろうけどな!」
ずしり、またずしりと重そうな足を前に出し一歩ずつ近づくコノハ。
「ふふふ、いいぜぇ…お前は残してやって、俺を倒しに来る勇者とかにでもしてやる。だが借りは返して…」
リプルもアーモンドも立ち上がる事さえ出来ない。座り下を向いた姿勢のまま、コノハが歩み寄る音を聞いているしか…
その時一つの影がコノハの後ろへ回り込む。
「お前!?」
お姉さまがコノハを背後から羽交い絞めにしていた。
「そうは言ってもダメージは相当なものよね、コノハ」
「くっ!何で動ける!?お前にもう用はないぜ!?」
それと同時に浮いていた残りのイダルがコノハとお姉さまの回りを取り巻く。
「元々この石って、こうやって使うらしいわよ?」
「な!また俺を封印する気か!?」
放電と共に、黒く渦巻く異世界への門が現れる。
「今わかったの、この石は人や物の心を強くするもの。それが間違った力になったり、優しい力になったり…」
「やめろ離せっての!俺は多くのヤツらと殴り殴られの世界を作り…!」
暴れるコノハと、それを決して離そうとはしないお姉さま。
「嫌だ!独りで封印されるのは、独りぼっちになるのは、誰にも何にもされないのは嫌だ!」
「心配ないわコノハ。私も行ってあげる」
「!?」
リプルはその言葉を聞き首を上げる。
「おね…はなれ…!」
「いいのリプル。こうしなきゃいけないから」
懐かしいあの時のように「大丈夫だよ」と語りかけてくれる微笑み。
「じゃ、じゃあお前がずっと俺をいぢめてくれるワケか?」
何かの期待を込めて尋ねるコノハに対し、
「何言ってるのコノハ」
お姉さまはうふふと柔らかく笑った。
「貴方も人に構ってもらえなくて、寂しいだけなのよね。だから…」
その顔はどこまでも純粋だった。
「優しくしてあげるわ」
小さな間。そして魔王の顔から血の気が引く。
「いぃぃぃやぁぁぁだあああああ!いぢめられたい!俺はいぢめられたいんだいっぱい!とにかく!刺激のない生活なんて絶対に嫌だあああああ!!」
手を伸ばし黒い渦から抜け出そうともがこうが遅い。コノハの体は徐々に異次元へと取り込まれていく。
「おね…おね…!」
「もう本当に逢えないわね。でも別れがあるのは、貴方に逢えたからなのよね」
声が出ない。それでも掛けたい、掛けなきゃいけない言葉があって。
「こむぎにもごめんなさいと、そしてありがとうと言ってくれるかしら」
「す…ちゃ…おね…!」
消えてしまう大事な人は、最後まで素敵な笑顔だった。
「私を助けてくれて、ありがとうリプル」
「水お姉ちゃん!」
あの日から、ずっとそう呼びたかった。






銀色の石は再び拡散する。
それは、病室で大事な人達の帰りを待っていた少女が見ていた星空を。
それは、想い人の腕を取り嬉しそうにしていた少女が見ていた星空を。
それは、自分も将来素敵な女性になろうと決心した少女が見ていた星空を。
多くの人の願いが込められた星空を、綺麗な紫色の光が駆け抜ける―――






エンディングBGM『潮風のそよぐ場所』
・作詞 ☆すもも☆
・作曲・編曲 魔砲少女まじかる☆りぷるん制作委員会
・歌 水月華


「やっほーリプル」
「こむぎちゃん!?」
澄み切った空に、穏やかな海。今日もやっぱり平和な陽気。
こむぎのお見舞いへと行く途中の海岸で、リプルはその目的の人物と出会った。
「寝てなくちゃダメじゃん!ほら、今すぐ病院に戻って」
「さっき退院したし」
「…あれ?今日だっけ退院日?」
「やっぱり忘れてたか」
昨日そう言ったのに全く聞いてなかったからなぁと、諦め半分にこむぎはリプルへ鞄を押し付ける。
「はい。コレ持ってウチまであたしを送る」
「あーごめんごめん、って重いなコレ。服くらいしか入ってないでしょ?」
「ちょっと長く居たからな、着るものも増えて」
「服もちっちゃいのにかさばると大変だよねーって痛いごめん私が悪かった」
「あんたの場合わざとかそうじゃないかわかんなくて、よりムカつくんだよな」
こむぎは手を伸ばしリプルの頬を強くつねる。こむぎももう元気そうだ。
「ようやく見つけた。おーいリプル君」
「へ?あぁシェマさ…リアル遠当て!」
振り返ると蝶の仮面が見えたので、反射的に手を出した。
「痛い!そしてそれは遠当てでもなくただの正拳だ!」
「あぁすいません、一応中距離打撃で揃えようと思って…」
「もう見慣れたもんだろうこの姿も」
「えぇ、全く見慣れませんし今後見慣れる気配もないです」
シュマは傾いた仮面を付け直し用件を告げる。
「イダルの影響を受けたらしいモンスターが近くの島で暴れてるらしい。リプル君」
「あーはい、行きます。ちょうど今スノウも居るし」
そこでこむぎはリプルの後ろでふわふわしていたものに気付く。
「あれ?ピクシー?」
「そ。可愛いでしょー」
スノウと呼ばれたピクシーは表情を変えずに、リプルの頭に座る。
「アーモンドは?」
「家で料理の研究してる」
「犬が…料理…?」
「なんか凝ってるらしいよ?今日食べに来る?」
それはさておきと、こむぎはリプルの顔を直視して尋ねる。
「あれだけ大変な事があっても、あんたはまたイダル集めるんだ」
「うん、だって」
リプルは空と海の交わる場所、白い一本の線に目を向ける。
「お姉さまと、また逢えるかもしれないじゃん?」
こむぎも同じ場所に視線を移した。
「…じゃ。その美味しいらしいご飯を食う前に、あたしもちょっと体動かすか」
「え?手伝ってくれるの?ありがとうこむぎちゃん!」
「いやあたしはお姉さまの事が大事だからであって、別にあんたの手伝いをするわけじゃ…」
三人で海の見える丘を、わいわいがやがや言い合いながら進んでいく。
「よーし!こむぎちゃんと一緒ならガッツ全開!待ってろよイダル!」
「待ってろっつーか別に逃げないし、てかそろそろ突っ込むけどなんだよこのヘンタイ野郎は」
「だからヘンタイじゃなく、いやもう野郎まで付いたが本当にそういうのでは」
「そんな仮面付けるなんてシェマさんもダメな人間だったんだな」
「だからコレにはワケがあってだな…いや、でも考えるともう仮面は付ける必要がない?いやいやそんな事は…」
「なんでこんな厄介な奴らばっかなんだろう、あたしの周りは。はぁ…お姉さま早く帰って来ないかなぁ」


リプルはふと立ち止まり、そして遠く遥かな、でもいつも綺麗な空を仰ぐ。


水お姉ちゃん。
あなたが居てくれたおかげで、私達は今日も笑顔です。






The Fin

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