ライト兄弟による人類初飛行よりも約10年以前から玉虫型飛行器を開発をしていた二宮忠八は,その開発に成功しなかった.一方,ライト兄弟は人類初の飛行機の開発に成功する.その違いを様々な角度から考察してみたい.

吉村昭の著した「虹の翼」という本を読んだ.
主人公は明治時代に飛行機を創ろうとした人物,二宮忠八である.
忠八はライト兄弟の成功より10年ほど早く有人飛行機の開発を構想していた.
しかし結局それは成功せず,アメリカのライト兄弟が飛行機の発明をしたという歴史が残された.


飛行器と飛行機

ライト兄弟が人類初の飛行を成功させてから110年以上経った現在(2017年)においては,プロペラなどを用いて推進力を得て飛行する機械
のことを「飛行機」と表記する.

一方,二宮忠八は独自に「飛行器」という文字で彼の開発していた機体を呼んだそうである.
その事実に鑑みて,忠八の機体を飛行器と呼び,それ以外の飛行する機械のことを飛行機と呼ぶことにする.

忠八の偉人史

「虹の翼」を読んでみると,忠八の飛行器のことに関する具体的記述は,比較的少ない.
幼少時代,実家が没落し丁稚などをして苦労したこと,薬剤の下士官として日清戦争に従軍し赤痢にかかり
九死に一生を得て帰国したこと,そして軍隊を離れてから製薬会社に勤め経営者として成功していくこと
など,かれの人生が詳しく描かれている.

この「虹の翼」をはじめ,吉村昭の歴史小説には参考資料や取材に基づいた事実がかなり細かく記述されている.
おなじく歴史小説家である司馬遼太郎の作品よりも,こまかい史実寄りの記述が多い.
司馬作品は同じ歴史小説であるが,大きな歴史の流れの中で,より人間の内面に光を当てた話しとなっているように感じる.
無論,どちらの歴史小説も,徹夜で読みふけってしまうほど私は大好きである.

飛行機の開発史は示唆に富む

初期の頃の飛行機の開発発展については,わたしは幼少のころから非常に興味を抱いていた.
「虹の翼」に出てくるライト兄弟はじめケイリー卿やブレリオ単葉機などの名前には,ずっと以前から親しんでいた.
玉虫型飛行器を構想した二宮忠八のこの小説を読んでみて,初期の飛行機の写真などを見て気持ちが高ぶった昔の
感覚が蘇ってきた.
宮崎駿の飛び物関連のアニメ作品などを観ても,共通した興奮を覚えるのだろうなと想像できる.

忠八は軍務時代に上官に飛行器の図面を示し,その開発を上申するが,日清戦争の戦闘中には「考える暇がない」として
却下される.
日清戦争後もあきらめず,ふたたび上申するが「飛行器に乗って飛んだことはあるのか?夢物語はやめろ」と却下される.
軍内で飛行器を開発することをあきらめた忠八は,個人的に私財を投じて開発を進める決意をし,製薬会社に就職して
資金を貯めることにする.

飛行機の成功のために必要な知識は

飛行機の飛行を成功させるためには,主に力学や機械工学などの素養が必要であると考えられる.
忠八は少年時代に凧作りに天才的な才能を発揮し,粘り強く工夫を継続することもできる人物であった.
しかし職業として進んだ方向が薬剤関係,つまり化学関係であったことが,飛行器の開発進展のスピードアップに
寄与しなかったような気がしてならない.

もちろん,大学の航空工学科は存在しなかった.
忠八が小学校しか出ていないという学歴の低さから飛行器の完成に失敗したとはおもわない.
じっさい,飛行機の開発に成功したライト兄弟は,自転車屋であって,そのライバルであった大学教授(ラングレーだったか?)
は失敗している.
もっとも、ライト兄弟自身はその後「大学で学んでいたら、もっと早く飛行機を飛ばせていただろう」という旨の発言を残して
いる。

二宮忠八とライト兄弟を比較してみたい

また,本書の記述では年号が明治で書かれており,西暦で記述されていないので,同時代にアメリカやヨーロッパで進んでいた
飛行機や飛行船の開発の年代とどうも前後が読み取りづらい.

ライト兄弟が飛行機の開発に成功した経緯と,忠八が飛行器の開発に失敗した経緯を並列して比較してみたら,なぜ成功と失敗の
2つの道にわかれたかが具体的に描写できるのではないだろうか?
  • 両者は少年のころ凧作りに熱中したという共通点を持っているようである.
  • ライト兄弟は司祭の息子であり,忠八は八幡浜の商人の3男である.
  • ライト兄弟は自転車屋によって生計をたてていたが,資材や資金はどこから調達したのだろうか?
  • 忠八は衛生兵として軍隊に入隊して生活をたてた.除隊後は製薬会社で働いて飛行器開発の資金を貯めようとした.
  • 忠八は結婚し,養子をとったり3人の男子を育てたりと,家庭的な人物である.
  • ライト兄弟は結婚したり子供を育てたりする時間はあったのだろうか?
  • 忠八は独力で飛行器をつくろうとしたが,ライト兄弟は男2人の年の近い兄弟であった.

情報なしで飛行機をつくれたか?

いちばんおおきな問題は,飛行機に関する情報を開発段階の忠八は一切入手できず単独でつくろうとしている点である.
製薬会社の支配人時代に,わずかに新聞の中に,飛行機の成功の記事を発見するのみである.
一方,ライト兄弟は図書館などから飛行に関する論文などを取り寄せて研究している.

これらもろもろの違いがあったということは分かるのだが,では,それがなぜそのような状況になったのか?
単なる偶然の重なりなのだろうか?
という部分を具体的な事実を明らかにしたい.

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