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作者:名無し
前のエピソード:ハーレム編



「ルーナ、明日の配信の……って、いない」

 その日、所用でルーナと共に実家に帰っていたサニーは相談があって彼女の仕事部屋を訪れていた。

 しかし、サニーの予想に反してその部屋にお目付け役の姿はなかった。

「急用かしら?」

 仕事を終えたと言うには彼女のデスクの上はどこか雑然としている印象を受ける。

 どちらかと言えば、仕事をしていた最中に急用が生じて離席したと言う方が納得できた。

 ルーナはサニーと行動を共にしているときさえ常に多忙なくらいに優秀なので、そういうこともあるだろう。

「出直そうかし――っっ⁉」

 何となく探偵の真似事をしてお目付け役のデスクの上をしげしげと眺めていたサニーだったが、不在ではどうしようもない。

 諦めて出直そうとしたその瞬間、彼女の手が隅に置かれていたマウスにたまたま触れて暗転していたモニターが軽やかに画面を映し出した。

 そして、悪い偶然は更に重なってしまう。

 彼女の手はそのままの勢いでマウスに振れ、カチッとクリックしてしまった。

 それにより、急用で退席する前にルーナが内容の確認を求められて視聴していた映像が再生を再開した。

「あ゛あ゛っ、お゛っ……、ん゛ん゛っ、あ゛っ、お゛っ♥♥ ボーヤったらこんなにも赤ちゃんなのに、もうぱんぱんはそこら辺の男どもに圧勝ね♥♥ お゛お゛っ、お゛っ、上手にヘコヘコぱんぱんできてえらい♥ えらい♥ ママおま×こにそのままいっぱいびゅうびゅううって射精していいんでちゅよぉ♥♥」

「よちよち♥♥ 坊ちゃんがいっぱい甘えてくれたから、私もキスキルもちょっとだけ母乳が出るようになったんでちゅよ♥♥ だから、いっぱいごきゅごきゅしていいんでちゅからね♥♥」

 それは彼女がライバル視しているEvil★Twinと思しき二人の美女がホテルの一室で痴態を晒している映像だった。

 サニーと同世代だろうと思しき線の細い少年に腰を振られてキスキルが喘ぎ、リィラはそんな彼の顔を自らのおっぱいに埋めさせながらよしよしと頭を撫でている。

「なっ、ななっ、何よこれぇぇぇぇぇぇーーーーっっっ!!!!????」

 あまりに衝撃的な映像を目の当たりにし、サニーは思わず大声をあげる。

 偶然が不運にも重なって流れてしまったそれはEvil★Twinが特にコアなファンに向けた裏サイトで有料配信している映像コンテンツの試作品だった。
 彼女たちは少年の協力を得て、甘やかしエッチ動画を配信しようと考えていたのだ。

 その話を聞いたとき、さすがのルーナも懐疑的な表情を浮かべてしまったのだが。
 二人曰く、需要は間違いなくあるとのことであり……そして主も乗り気だったので、彼女も協力するほかなかった。

 そんな映像が何故ルーナの手元にあるのかと言えば、少年の身元がバレないように編集が行き届いているかを確認するためである。
 画角からして少年の身体があまり映らないように配慮がされているのが窺えるが、そのうえで彼に対してはかなり強いボカシも入れられていた。

 しかし、サニーがそんな経緯や背景など知る由もない。

 まだ幼い自分が視てはいけないと思いつつも、その目は甘美なる背徳感に魅せられて映像に釘付けだった。

 そして彼女のまだ細い腰がデスクの角に圧しつけられ、帯びた熱が求めるままに動き始めるまで多くの時間を要さなかった。



「よちよち♡ 坊ちゃま、今日も頑張れてえらかったでちゅねぇ♡♡」

 一糸まとわぬ姿のルーナは同じく裸の少年を胸元に抱き寄せ、その背をトントンと優しく叩く。

 仕事の最中だった彼女の元にサニーより先にやってきたのは主である少年だった。
 ルーナは彼の求めに応じて寝室に移動し、ベッドの上でひと通り甘やかし終えた後だった。

「坊ちゃま……ゆっくり、ゆっくり休んでいいんですからね♡♡」

 ルーナがあやすようにトントンとしている内に、少年はいつの間にか眠りに落ちていた。
 その寝顔が以前では想像できなかったほどに穏やかで、彼女はつい彼と出会った頃のことを思い出してしまう。

(……以前の坊ちゃまはずっと何かに落ち込んでおられるようだった)

 しかし、それも無理からぬことだとルーナは思ってしまう。

 何故なら少年は公にはサニーの双子の弟ということになっているが、それは事実ではないからだ。

 サニーと同時期に産まれた彼女の弟であること自体は紛れもない事実だが、その血は姉と半分しかつながっていない。

 それが何を意味するかは……わざわざ言うまでもないだろう。

 彼が大きくなった現在でも未だにどこか陰があるのは、そんな自らの出生について直観している部分があるからではないかとルーナは考えていた。
 お嬢様、姉であるサニーに対して苦手意識を抱いているようなのもそれが原因なのかもしれない。

(そんな坊ちゃまがどうしてお嬢様の双子の弟として据えられているのか)

 その過程はルーナの知るところではないし、憶測できてしまう部分だけでもあまりにも闇が深すぎる。

 確かなのは彼女が真実を聞かされて坊ちゃまのお世話係を任されたとき、彼は受けるべき愛を一切知らなかったということだけだ。

(だから、私は……坊ちゃまのママになった)

 もちろんお世話係があげられる愛程度では、本物の母親には遠く及ばないことは重々承知だ。

 それでも、あの頃の坊ちゃまに対して一介の従者としてだけ接し続けるなんてことは出来なかった。

 彼が愁いを帯びた表情を覗かさせる度、ルーナもまた胸の奥がギュッと締めつけられるような思いを感じていたのだ。

 そんな主にどうしても知ってほしかった。

 あなたが甘えていい存在がいるということを。
 あなたを愛している存在がいるということを。

(そして、マスカレーナからの勧めに従ったのも正解だった)

 坊ちゃまは多くのママを、甘えられる存在を得た。
 それは一時の安寧かもしれないが、あんなにも愁いを漂わせていた子が穏やかな寝顔を浮かべられるようになったのだ。

 彼を覆う陰が本当の意味で晴れるのはまだまだ遠い未来のことになるだろう。
 それでも、坊ちゃまが無邪気に誰かに甘えられるようになったことがルーナは本当に嬉しかった。

 願わくば、愛おしき主が穏やかな寝顔を浮かべられる夜が一日でも長く続きますように。

「私もママとして、坊ちゃまのことをこれからも甘やかしてあげますからね♡」

 ルーナは眠る彼の額に顔を寄せて、口づけを優しく落とす。

「坊ちゃま、よい夢を♡」

 彼女は少年の耳元で囁いて優しく微笑みかける。
 その微笑は子を持った母親が浮かべるそれに勝るとも劣らない慈愛に満ちた微笑みだった。

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