筆者がダルク関連のcpを投稿したくて作りました。ダルクのcpなら健全、R-18問わずにどうぞご利用ください。いつか霊使いss保管庫になるかも? 今のところはダルク×霊使い関連に絞ってお願いします。

「ごめんね、集まってもらっちゃって」
 そう言って、エリアがテーブルを囲んだ三人を見渡した。
「いや、別にいいんだけどさ。要件ってダルクのことか?」
 頬杖をついたヒータがエリアに尋ねると、エリアはうんと頷いた。
「流石に、どうにかしたいなぁって」
「見てらんないもんなぁ」
 話題はこの場にいない霊使い、ダルクのことだった。一月ほど前に他派の霊使いの里からやってきて、エリア達と同棲するようになった少年だ。
 そのダルクの名前を口にしたヒータの顔は悩ましげだった。
「うん、頑張ってくれてるのはわかるんだけどね……」
 エリアもため息を吐く。
 ダルクはこの家に来てから、よく働いてくれている、というよりも、働きすぎだった。
 片腕を失い、陰鬱な雰囲気を持ったダルクは一目で何か大変な目にあったのだろうということは分かった。
 それでもダルクは家事や雑用の手伝いを積極的に申し出て、エリア達もそれを新しい生活に早く馴染もうとしているのと、体を動かして辛い事を忘れそうとしているのだろうと思って、ダルクに言われればなるべく仕事を任せてきた。
 それが、どうにも彼女達が思っていた理由では無いらしいと気付き始めたのはすぐだった。
 休憩や食事の時間を最低限まで削ってまでその場にある仕事を片付けようとし、エリア達がやらなくてもいいと仕事から遠ざけても、限度を超えた霊術の修行をし始めるその姿は病的で、ただひたすらに自分を傷つけようとしているようだった。
「とは言っても、どうしたら良いんだろうなぁ。遊びに誘っても全然だし、何があったのかも話してくんないしなぁ」
 頭の後ろで手を組んだヒータが背もたれに寄りかかって天井を見上げた。
「そういえば、エリアは彼の体を診たんじゃなかったっけ? どう思った?」
 アウスがそうエリアに尋ねる。
 治癒の術が得意なエリアはダルクがここに来た時に彼の体の様子を診ていた。
「うん、そうだね……。事故、とかではないんだと思うけど……」
 エリアはティーカップに口をつけながら、診た時のことを思い出した。
「治療自体はされてたから、私が診たのは古傷だったけど……。切り裂かれたみたいな後だったり、火傷の後だったり、色んな種類の傷があったから。私もそんなに沢山の治療をしてるわけじゃないから正確には言えないけど、普通は一回であんな種類の傷はつかないと思う」
「……ほんと、何があったんだろうなぁ」
 ヒータがそう呟く。
 エリアはティーカップを手で包み、口を閉じた。
 ダルクがここに来た時はダルクの里もゴタゴタしていたようで、エリア達も事情はあまり聞けなかった。ただ、里全体を巻き込んだ何かがあって、その結果としてダルクが腕を失い、心と体に深い傷を受けたのだろうというのが見てとれるだけだった。
「まあ、でも今は放っておくしかないんじゃない?」
「アウス!?」
 アウスの言葉にヒータが驚いた様子で彼女を見る。
「だって、私達が気にかけても向こうが受け入れる気がないんだったらどうしようもないと思うけど。彼が心を開いてくれるまで待つしかないんじゃない?」
「いや、そうかもしれないけどさぁ。でも、放っておくっていうの違くないか?」
「じゃあ、何か案があるの?」
「いや、うーん……でもなぁ」
 アウスとヒータが言い合っているなか、エリアはじっと考え込んでいた。
 アウスの考えもヒータの考えもわかる。
 けど、どちらが正しいのかはやってみないとわからないだろう。
「ねぇ、ウィンはどう思う?」
 エリアは今まで一言も発していない、幼馴染に声をかけた。
「あれ? ウィン?」
 四人いたはずのテーブルはいつのまにか一人いなくなっていた。


 ダルクは庭先で一人、岩の上に腰掛けていた。
 自身の魔力が限界になるまで闇霊術の修行をしていたせいで、体の至る所に痛みを感じていた。
 魔力は生き物の生命の維持にも関わるものだ。完全に使い切れば命に関わるし、そうでなくとも無理をすれば体には良くない。
 ダルクの目の周りには酷いクマが浮かんでいる。睡眠も充分にとっていないのだろう。
 使い魔のナポレオンが心配そうに側に寄ってくる。
「ナポレオン、大丈夫だ」
 そう言うものの、ダルクの目は濁り、焦点が定まっていない。
 明らかに健常とは言えない状態だった。
「俺は……」
 そう言って、無くなった腕の付け根を撫でる。
 それはダルクにとって自身の未熟さの象徴だった。
 ダルクは、代々闇霊術を扱う一家の長子だった。
 闇霊術は魔物や悪霊といった存在に高い効力を発揮し、また、従えることのできる精霊にも強力なモノが多い。
 そのため、度々強力な魔物が現れ、時には群れをなすこともあるダルクの里において、ダルクの生家は防衛の要を担っていた一家でもあった。
 ダルクも両親の指導の下、闇霊術を習得していき、一年前にはすでに里の防衛の一端を担うようになっていた。
 だが、半年前のこと、元々魔物の多い里でも類を見ないほど大量の魔物が発生した。
 普段から見るアンデッド族や獣族、下位の悪魔族の他、中位の悪魔族まで群れをなして里へと向かってくるという異常事態だった。
 それでも、最初のうちは対処できていた。
 アンデッド族を成仏させ、闇霊術で逆に従えて魔物同士で争わせ、あるいは単純に感情を暴走させて敵味方の区別をつかなくすることでなんとか魔物の群れをさばいていた。
 何とかなるかもしれないと、ダルクを含めた防衛隊が思い始めた時だった。
 巨大な、ドラゴンが空に現れた。
 あまりにも巨大で、禍々しいドラゴンだった。魔物達は"これ"から逃げていたのだと一眼見ただけで、その場の全員が確信した。
 魔物達は恐慌に陥り、ドラゴンから逃げようと反対方向の里に向かってさらに激しさを増して前進してきた。
 それに気付いた守り手達は、現状、ただ空に留まっているだけのドラゴンから何とか目を逸らし、目の前の事態への対処に戻った。
 ダルクだけが、戻れなかった。
 ドラゴンの、格が違うという言葉すらおこがましいほどの存在感への恐怖から、目を離せなくなってしまっていた。
 そこから目を離せたのは両親の叫び声とともに、魔物に腕を食いちぎられた時だった。
 そこからは、記憶が曖昧になる。
 覚えているのは、自分のせいでできた穴を魔物が一斉に広げていく光景だけだった。
 目が覚めた時には災禍はすでに過ぎ去っていた。
 生き残った里の人間を取りまとめていた里長から、ドラゴンが唐突にブレスを吐き、魔物も人も関係なく吹き飛ばした事で魔物達が逃げる事だけに専念し始め、何とか全滅を免れた事、ドラゴンはその一度のブレスを吐いた後、気まぐれなのか何なのかは分からないがその場を立ち去った事、そして、自分を守って両親が死んだ事を聞いた。
 ダルクに残ったのはボロボロになった里と、腕を失い傷だらけになった自分だけだった。
 里はほぼ壊滅状態となっていたが、それでも皆生きていかなければならない。
 生き残った皆が何とか復興に取り組む中、里長はダルクに他派の霊使いのグループの元で他派の霊術について学んで来なさい、と言った。
 実質的な、追放なのだろう。
 闇霊術は特異な術が多く、他属性の霊術から応用できることは少ない。
 闇霊術の使い手は希少とはいえ、ダルク以外の術師も里には居る。
 重要な防衛の際に意識を逸らし、壊滅的な被害をもたらしたダルクにはもう任せられないという宣言だと、ダルクは受け取った。
 もはやこの里の守り人としては役に立たないから、その霊使いのグループで滅私奉公して働くことで罪を償ってこいということだと。
 そうして、この家にダルクはやって来た。
 片腕になった時はちゃんと働けるのか不安だったものの、里である程度リハビリする時間があったおかげか問題なく働くことができた。
 だが、最近になってこの家の住人、エリア達はあまりダルクに仕事を割り振ってこなくなった。
 ここでも、見限られたのだろうか。
 あるいは、一つの里を実質的な壊滅に追い込んだ自分と関わりたくなくなったのかもしれないと、ダルクはそう考えた。
 だが、自分は休んでなどいけない。
 ダルクの中を大きく占める罪の意識は、ダルクの行動を自罰へと向かわせ、自身の中でもはや使う意味もないと思っている闇霊術の過剰な訓練として現れていた。
 ダルクは荒れていた息を無理矢理整えた。
「ナポレオン」
 ダルクが使い魔に声をかけ、再び修行を始めようとした時、足音が聞こえてきた。
「おー、こんなとこにいた〜」
 間延びした明るい声が響く。
「……ウィン?」
「そうだよ〜、ウィンだよぉ。良かった、名前覚えてくれてたんだ〜」
 手にバスケットを持ったウィンはにこやかに笑ってダルクに近づいて来た。
 ダルクは持ち上げていた杖を下ろしてウィンの方を向く。
「何か仕事でもあるのか?」
「違うよぉ。お菓子あったからダルク君達も食べないかなぁって」
 ウィンがバスケットを開くと包み紙に包まれた焼き菓子が見えた。
「いや、俺は……」
 自分が嗜好品など食べるわけにはいかないと、ダルクが断ろうとする。
「え〜、でもナポレオンはお腹空いてそうだよ?」
 ウィンにそう言われたダルクがハッとした表情を浮かべる。
 確かに、修行に付き合っていたナポレオンもダルクと同じようにほとんど食べていない。
 何の罪もない相棒に自分と同じことを強いるのはあまりに酷だ。
「……それじゃあ、ナポレオンにだけ」
「わかった〜。ナポレオン、はーい」
「っ!? ウィン、待っ!」
 無造作にナポレオンに近づくウィンをダルクが止めようとする。
 闇に属する精霊や魔物は気性が荒く、扱いを知らない人間が無闇に近づくと怪我をする可能性が高いからだ。
「おー、よく食べるね。あ、口、そこなんだ。待って? それ本当に口?」
 そんなダルクの心配をよそに、ウィンは焼き菓子を手からナポレオンに与えていた。
「なっ……?」
 ダルクが困惑した表情で固まる。
 ナポレオンは闇の精霊の中でも比較的大人しい方だが、それでも気難しいところがある。
 初めて触れ合う人間の前でこんなにも大人しいのはダルクも見たことがなかった。
「お、結構つるつる? すべすべ? プチリュウとは違う感じなんだね」
 さらにウィンはナポレオンのことを撫で始めた。ナポレオンも嫌がる様子もなく、それを受け入れている。
「ナポレオンが、こんなにすぐ懐いてるのは初めてだ」
 ダルクが感心して言う。
 精霊と心を通じ合わせるのが重要なのはどの属性の霊使いでも同じだ。霊術を扱う者として、素直に賞賛の感情が湧き上がっていた。
「えへへ、昔からこういう子達の声を聞くのは得意なんだ〜。昔は聞こえすぎてうるさ〜いってなってたけど」
 人懐っこい笑みを浮かべたウィンはナポレオンを撫でていた手を離し、ダルクが座っていた岩の横に座った。
 ナポレオンも焼き菓子が気にいったのか、それともウィンに撫でられるのが気持ちよかったのかウィンの足元にポスッと着地する。
「ダルくんも食べない?」
 ウィンが焼き菓子を両手に持ち、片方をダルクに差し出す。
「いや、俺はさっき言ったように……」
「えー、ダルくんも食べようよー。一緒に食べたほうが美味しいじゃん」
 膨れっ面になったウィンがダルクを見つめる。
 たじろいでいるダルクと見つめあう。
 むー、というウィンの声がしばらく響く。
 根負けしたように、ダルクが目を閉じた。
「……わかった。一つだけ」
「やったー」
 ウィンが膨れっ面からにこにことした笑顔になり、両手を上げる。
 ダルクは先程まで座っていた岩の上に再び腰掛け、ウィンから焼き菓子を受け取った。
「あ、美味い……」
 しっとりとした生地の焼き菓子からはバターの香りがした。
 ダルクの里は日々の食事に困ることは無かったものの、交易には不便な土地だったためバターや砂糖は貴重品だった。
 じわりとダルクの心に罪悪感が湧く。
「美味しいよね〜。ヒータちゃんお菓子焼くの上手なんだ〜。ダルくんもこれでつまみ食い仲間〜」
「え」
 ウィンの告白にダルクが固まる。
 言葉がわからないナポレオンはバスケットの中の焼き菓子を遠慮なく食べていた。
「ねぇねぇ、ダルくんは好きな食べ物ってある?」
 ダルクがウィンの宣言に戸惑っているのも気にせず、ウィンが尋ねてくる。
「え、いや、好きな食べ物?」
 ウィンの唐突な話の切り替え方についていけなかったダルクはおうむ返しをする。
「そう、好きな食べ物! 美味しいものとか、好きなものを食べると嫌なこと忘れられるでしょ? 私はね、クッキーが好き〜。木の実とかナッツが乗ってるだけのやつ〜」
 そう話すウィンは楽しげだ。
「私がこっちに来たばっかりの頃、エリアちゃんに食べさせてもらったんだ。食べるとね、その時の事を思い出せて嬉しくなるの。だから、悲しい〜、とか、寂しい〜ってなった時に食べるんだぁ。ダルくんはそういう思い出の食べ物みたいなのってある?」
 ウィンに改めて問われて、ダルクは考える。
 ふっと、一つの料理が浮かんだ。
「鶏の、シチュー」
 ダルクの里では鶏は飼っていたが、それ以外の家畜は農耕用の馬と牛が少しいるだけだった。
 その鶏も基本は卵を得るために飼っているものであり、肉はめでたい時くらいにしか食べなかった。
 鶏のシチューはダルクの母がダルクの誕生日に作ってくれるものだった。
 わざわざ貴重な鶏肉とさらに貴重な牛乳を用意して作るシチューは、ダルクにとって、幸せだった日常の思い出だった。
 ダルクが腕で目を覆う。一瞬、涙が出そうになったからだ。
「ダルくん?」
 ウィンが心配そうに覗き込む。
「ダルくん、泣いてるの?」
「泣いて、ない。俺に、泣く、資格なんてない」
 自分のせいで、両親は死んだ。
 大勢が、死んだ。
 そんな自分に泣く事など、許されていない。
「……なんで?」
「なんでっ、て……」
 ウィンの言葉に、ダルクは腕を下ろしてウィンの方を見た。
 ウィンは静かに、ダルクを見つめている。
「ダルくんは誰かに泣いちゃダメって言われたの?」
「言われて、ない、けど」
「私のお父さんが言ってたんだけどね、泣くっていうのは許しなんだって」
「……許し?」
 ウィンの目は遠い光景を覗いていた。
「うん。世の中には、悪いことがたくさん起きるし、悪い事をしちゃった人もいる。一度起きた間違いで、とっても大変なことになることもあるし、誰にも許されなくなるかもしれない。でもね、それはどうしようもないことで、心がぼろぼろになっても、生きてる人は生きていかなくちゃいけない。泣くのは、誰にでもできる、自分の辛かったこと、悪かったことを神様にお渡しする方法なんだって。神様が私たちを許すためにくださったものの一つだって」
 ウィンの言葉が、こんこんと流れる。
「だけど、俺は……」
 泣くのが神の許しなら、それこそ。
「私はお父さんの言ってること難しくてよくわかんなかったんだけどね」
 ウィンがバッサリとそう言う。
 ダルクは目を丸くした。
「でもね、私もみんな、泣いていいんだと思うんだ。ううん、泣いちゃダメなんてことはないって言う方が良いのかな? だって、そうしないと全部辛くなっちゃう気がするから」
「全部が辛く……」
「うん。何かとっても辛くて苦しいことがあっても、それまで全部が辛くて苦しいことしかなかったわけじゃないのに、泣かないでずっと、ずぅーっと溜め込んでたら楽しかったことも、嬉しかったことも、全部辛くて苦しいものになっちゃうと思う。それは、すごく嫌だなって。だって、そしたら、大切な思い出も、大事だった人も、全部無くなっちゃう」
 翠緑が、ダルクを納める。
「ダルくんは大切な思い出、ある?」
「俺、は……」
 父に闇霊術を教えてもらったこと。母にケーキを作ってもらったこと。里長に闇霊術の発動を失敗したところを見られて笑われたこと。
 里に居た頃の、日常の記憶が溢れる。
 ダルクのローブに雫が落ちる。
 涙がとめどなく溢れていた。
 もう、止めることはできず、ダルクは泣いた。
 初めて、泣けた。
 ナポレオンが慌てたようにダルクの周りを飛ぶ。
 ウィンはその横で、何も言わずに寄り添っていた。

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