投げっぱなしなSS放置倉庫です。倉庫が2代目だったりします(オイ)

登場キャラ
・神輝(永青紅葉さん @raurauk213)
・朱器(黎さん @raymay_dawn )
・コマネズミの望、朔、弦(氷檻<Hiori>さん @ice_cage )
・イチ(Rinaさん  @kitunemen_kui)
・猫(霞月楼 -kagero-さん @9kagero)

お名前借りました 
・月来香(流転さん @Baroque_Joker)

引用曲
・月灯りの下で(MONGOL800)



月灯りの夜、丘に向かうくらい夜道を大きめの影がよぎっている。
もぞり、もごもご、シュルルル……
妖しく揺らめくその影は 何も知らない人が見たら化け物のように見えることだろう。

伽羅「〜〜…♪」
朱器「伽羅さん、ご機嫌だね」
伽羅「そうみえる?」

ふわり、と 細長い影が 前に進み出てくるりと回る。伽羅だ。
器用に後ろを向いたまま歩く。歩く、というよりは跳ねて下がる。
遅れて低い位置から伸びてきたのは、赤いイタチの朱器。中型犬のサイズで伽羅を見上げるようにしてついて歩く。

朱器「みえるよー」
伽羅「どうして機嫌よくみえるんだろうね?」

さらに低い位置から、流れるように飛び上がって伽羅の肩に乗りあがる小さな影がひとつ…

伽羅「っと」
猫「さっきから歌など歌っているではないか。その様子で機嫌の悪い人間は、あまり見たこと無いな」
伽羅「じゃあ、俺は特殊な人間なんだねー、あはは」
猫「……機嫌がよいわけではないと?」
伽羅「ううん? ご機嫌……、うん ご機嫌だよ?」

動物ばかりで油断しているのか、今日の伽羅は扇も持たずに口元を晒している。
その口元が、何か小さく動いた。言葉を付け足して、それから小さく微笑む。

猫「? 何故声に出さない? すまないが口唇術の類は持ち合わせてないので、何を言ってるのか…」

伽羅はその場で、ポンと跳ねるようにして身を翻す。
急に跳ねた伽羅の上で、軽いみなりの猫は体制を崩す。バランスをとるため、やむなく飛び降りた。
前を向いて跳ねやすくなったのか、ペースをあげて一人で丘陵を登っていく伽羅。

朱器「どうしたんだろね? 伽羅」
猫「あいつのことだ、考えたってわからぬさ。あいつは猫と同じニオイがする…狐のクセに」
朱器「伽羅ってキツネなの?」
猫「人間さ」
朱器「???」

猫とイタチは 足音も立てずに丘陵を登る。
踏まれて揺れる草ですら、ガサリと音を立てることはない。

そしてその後ろからはさらに賑やかな声が……

望「わあ!すごーい!」
朔「すごーい!」
弦「おっきい!」
イチ「……」

後ろに残された大きな影…白い巨大な犬、イチ。
その上で、小さくもぞもぞと動くのコマネズミ達…

猫「どうしたのだ、チビねずみ」

望「イチさんの口、おっきい!」
朔「あーん、って!」
弦「あくび! あくびがでるの!」

猫「………そうか」
イチ『わふっ』

まるでブレーメンの音楽隊、影は揺れたり離れたり
恐ろしげな見た目とは裏腹に 楽しげな雰囲気をつれて丘を登りきった。

ここは展望台、狐面村でもあまりここまで来る者はいない。
ましてや現在時刻は丑三つ時に近い…もちろん人影などどこにもないようだった。

伽羅「気持ちいいね、いい月見の晩になりそう」

一足先に上がっていた伽羅は、空を見上げて突っ立っている。
遅れて猫、朱器、イチが到着する。
イチは口に咥えていた籠を放すと、大きなあくびをしながら地に伏せた。
最後に、イチの頭上から3匹のコマネズミが飛び出して走り回り、全員が到着した。

猫「おい、お前ら…あまり走り回るのではない。狩りたくなる」
コマネズミ「「「きゃー」」」

キャッキャと喜びながら、猫のまわりを逃げ惑うコマネズミ。
それを視線だけで追い続けて、何か小言を漏らす猫。

伽羅「じゃあ、適当にはじめようか」
朱器「うん はじめよー! 何すればいい?」
伽羅「何も。動物ばかりだ、別にシートや食器、ましてやおてふきなんて使わないでしょ?」
朱器「んー。使えって方がむずかしいかも」
伽羅「ラクでいいよ。だから今日は、動物の仲間ばかり呼んだんだもん」

猫「ふふ、ではお前だけ仲間はずれだな」
伽羅「どうして?」
猫「動物は動物だろうが、人間なのだろう? それともお前もやはり狐なのか?」
伽羅「人間、だよ」

クスと笑って猫を見る。
軽い挑発で、伽羅の正体を問おうとした猫は、視線が悪戯そうだった。

ちょっとしたじゃれあい。
この狐面村では 皆が皆、その正体をよく知らない事がままある。
だからこうして、探るような真似をするのは一種のコミュニケーションの常套手段だ。
誰も本気で探ろうとなどしていない。
秘め事の村で、お互いに関心を持つようなふりをする…そんな、親交の手段。


居心地のよいこの空気が、伽羅がこの村の好きなところだ。
どこか乾いていて、それでいて時々、ふっと暖かく湿った風が吹く。そんな雰囲気の村。
穏やかな生活、穏やかな会話、穏やかな時間……そんなものを作り上げているのは、一体何か
それがきっと、この村に吹く 湿った風の正体。
温もりをよく知った心と、温もりを求めて願う心と……それを大切に願う、住民の心

伽羅は、そんなこの村が好きだった。
月を見上げながら そんな空気を感じられればいいと 静かに息を吸い込んだ。
そのあとで、煙草に手をかける。その時…

弦「あれ?」
朔「なんだろうねー」
弦「へんなひと!」

伽羅「どうしたの?」
猫「誰かいるな」
伽羅「こんな時間に……不審者かな?」
朱器「それブーメランだよ、伽羅」

伽羅は 気配に関心を配りながらも 伏せた犬のそばに近寄る。そして、籠の中身を転がした。

猫「何を?」
伽羅「籠にはいってたら 食べにくいから」
コマネズミ達「「「果樹園の果物! おいしいよ!」」」
猫「ほう」
朱器「あ、これ すきー」
イチ「……」

横目でチラと見て、リンゴをひとつ、小さく開けた口で咥えるイチ。
まさに一口。シャリシャリといい音を立てて、おいしそうに頬張る。

猫はどうやってか持参した酒を飲み始めている。
薬屋の月来香にでも頂戴したのだろうか、不思議なカタチの小さな瓶の中に、花が浮いている酒だった。
名前は知らない、あまりそういうことには興味が無い。
ただ、器用に鼻先で蓋をあけ、ペロリと舐める猫の姿は可愛らしかった。

朱器「くずきりもあるよー あとね、おだんごー」
伽羅「どうしたの? それ」
朱器「甘味屋さんでかってもらったー」

誰に買ってもらったのだろう?
青磁さん…ではないだろうし。莉子さんか、それとも甘味好きな交番の巡査のどちらかか…
相手がだれにしろ、朱器のことだから、甘え上手でなんともウマいおねだりをしたのだろう。
それを想像するのは、何かとても暖かい気分だった。

伽羅「さて…」
猫「見てくるか? 別に悪いものでもなさそうだが」
伽羅「ああ、うん。でもなんか、寂しそうな気配だよね」
猫「……本当に猫のようだな、おまえは。ほんとはコチラと同類なんじゃないか…?」
伽羅「え? 今夜は『ふわふわ仲間』の会だよ」
猫「おまえだけ、ふわふわじゃないじゃないか」
伽羅「俺? ふわふわだって、ほーらほら」

ふわり、と宙を泳ぐ。ふざけたように ふわふわと揺れる伽羅。フラダンスのように踊る始末。
それを見て、呆れて肩をすくめ、きびすを返す猫。 

猫「一人で勝手に行ってくればいいだろう、別についていかないさ」
伽羅「あはは。さすが猫だね、やっぱそういうの察するんだ?」
猫「知らん」

伽羅「いってくる。みんなのこと、お願いね」
猫「ふん。なんの用意もなくとも平気な仲間だろう? 寝ようと酔おうと、放っておけばいい」
伽羅「あはは、確かに」

伽羅はそうして、展望台の木陰に隠れるようにたたずむ気配へ向かい すっと消えていく。

・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

神輝「………」
伽羅「」ジー

神輝「う、うわ!?」

伽羅「あんま見ない顔だね? 旅の人?」
神輝「っ、え、いま どこから…」

伽羅「んー。あ、でもなんか随分かわった狐面だね。妖しいていうか、サイズあってる?っていうか」フワリ
神輝「!? え? あ? 何? 浮いてる!?」

伽羅「大きくて、妖しくて。その服装のせいもあるだろうけれど…まるで、遠い外国の面のよう」
神輝「っ」
伽羅「……?」

神輝「…………」
伽羅「ねえ、名前は?」
神輝「神輝。 ……心機一転の、シンキ」

何か、触れてはいけない物にでも触ってしまったのだろうか?
ぼそりと自分の名を名乗る男。明らかに 何か一瞬、なんともいえない乾いた風が吹いた気がした。

大きな狐面に遮られて、男の表情はまったく読めない。
黙って空を見上げた神輝に倣い、伽羅も空を仰ぎ見た。

煙草を吸おうとして、一瞬の躊躇。
伽羅の持つ煙草も香も、その煙は少し強すぎる。
男のことを何も知らない以上、迂闊に吸わないほうがいいかもしれない。

神輝「……」
伽羅「……」

神輝「……」
伽羅「………」ソワソワ

神輝「……」
伽羅「…………」ソワソワソワソワ

神輝「……何?」
伽羅「……なんかこう、手持ち無沙汰というかなんというか…月見で静かなのはいいんだけどね…」

煙草を吸ってはいけない、とおもうと 余計に吸いたくなる。
考えるな、とおもうと 余計に考える。

神輝「……」
伽羅「……あー… 〜〜〜♪」

神輝「……歌?」

伽羅「嫌い?」
神輝「あ、いや。そういう訳じゃ……」
伽羅「月灯りの下で、っていう歌。もしうるさかったら、止めて」
神輝「……うん」


・・・・・・・・・♪

いつからか僕の頭の中に あなたがいる 
出逢った頃とは違う何かがある

二人で笑い 歩んできた道
これからもずっとよろしくね
たくさん心配 かけてるけれど
変わらぬこの想い受け止めて 強く抱いて

月灯りの下 優しく眠る
思い出は夏の星空となる

もう帰らない 帰れない
あなたのそば以外で 私はね 輝かないの
そう、輝かない

二人包み 時よとまれ 永遠に 
僕は右手 あなたは左手 ずっと手を繋ぐ

風の強い寒い日には 僕、あなたの前に立ち
僕のすべてをかけてでも 守ってみせる

永遠に 守ってみせる

・・・・・・・・・♪


神輝「……(なんか、わかっててケンカうってんのかな…)」
伽羅「……(あー なんかおもいっきり、空気が痛々しくなったー)」

歌が終わると、さっきにも増して気まずい雰囲気。
どうやら選曲を おもいっっっっっっっっきりミスしたようだった。

マズい。どうしよう。

伽羅(でも、こういうときは大体、愛しい恋人を想うとかって相場があんだけどなあ…)
伽羅(……もしかして…真逆のパターンだったかなー だとしたら俺、最悪なの歌ったのかなー)
伽羅(……そ、想像すると…キッツ…。 俺だったら首絞めて殺したいような歌を歌っちゃったかも…)



神輝「……」
伽羅「……」

神輝「……」
伽羅「……あ、あー…。 どう、だった?」

神輝「……」
伽羅「……」

神輝「……いい歌だなーって。上手だし」
伽羅「あ、ありがと…」

神輝「……」
伽羅「……」

神輝「あの」
伽羅「あのさ」

沈黙からの、同時の発声。余計に気まずい雰囲気になってしまった。
どうやら今日の伽羅は本当に ”不調”らしい。

伽羅(あーもう。なんかムシャクシャするから、気分転換にきたんだけどな…やっぱどうもうまくいかないや…)

目の前の、神輝という男は 戸惑ったような様子を見せている。

どうしよう。
本気で困っていると、突然に神輝が笑い出した。
人懐っこい口調で、陽気な身振りで。

神輝「あ、あははは」
伽羅「?」

神輝「な、なんなんだよもう、急に現れたかとおもったら、グサグサと刺して」
伽羅「あ、あー… なんか、ごめんねっ?」
神輝「ほんとだよ! ってゆーか ほんとに誰なんだよ? はははは」
伽羅「村で香屋やってる。好きに呼んでいいよ」
神輝「名前ないのかよ。なんて呼ばれてんの?」
伽羅「伽羅、って」
神輝「それなら、ソレにする」

相変わらず、おかしそうに笑いつづける神輝。
どうやらこの男も、この村のこの雰囲気を作る一人なのだろうと思う。

乾いた風。湿気たあたたかさ。
温もりを知るもの。温もりを求めるもの。大切に、想うもの。

伽羅はまた、なんとはなしに口元が微笑んでしまうのを自覚する。
その時、心地よい風が通り過ぎた。

神輝のシャツが、風になびく。ふわふわと…

伽羅「! ふわふわ!!」
神輝「えっ!?」
伽羅「うん、よし。ふわふわだ。今から君を、『ふわふわ仲間』の一員にしてあげよう」
神輝「え、ちょ…何?」

神輝の手を引くようにして、導く。

伽羅「今夜は、ちょっとした宴でね。おいしいものもあるし。素晴らしい仲間もいるよ。きっとここちいい。おいでよ」
神輝「いや、宴って…いきなりそんな」
伽羅「大丈夫、大丈夫。きっとたのしいよー」

ふわふわと、機嫌よく宙を歩く伽羅。
それについて歩く、神輝。

伽羅「ほーら、これがふわふわ仲間の………



イチ「ワオオオオオオオオオオオオオン!!!」

猫「ほうれほれ、子ネズミどもめ、逃げてみろ」

朔「きゃああああああああああっ」
望「あははははは、はやーい、はやーい」
弦「すぴーーどーーーああああっぷぅぅう」

朱器(巨大)「穴ほり♪ 穴ほり♪ あははははー」


伽羅「」
神輝「あー、うん…楽しそう、だけど…」


見事な月を眺め、綺麗な姿勢で座り、遠吠えをする狼のような白犬。
適度な酒で機嫌をよくした猫が、ねずみを追い回してじゃれている。
ネズミたちは安心しきっているのか、大きな弧を描いたり、コマのように回ったりして全力だ。
何故かわからないが、赤い…もはやイタチとは言えない大きさの朱器は、地に穴を掘っている。

伽羅「……でっかい穴だな… 墓かよ?」
朱器「あ、おかえり 伽羅」
伽羅「なにしてるの…?」
朱器「? なんか、急に ほっておいてあげたくなったの」
伽羅「あー…俺の代わりに?」
朱器「代わり? なんか墓穴ほるようなことしたの?」
伽羅「」

神輝「え、っと… タノシソウナ、ゴユウジンデスネ」
伽羅「〜〜〜〜〜〜〜」

穏やかで、心地のよい夜会になると思っていたメンバー。
それがまさか、こんなにマイペースすぎる夜会になるメンバーだとは。

猫「まあ、言っても動物だからな」
神輝「う、うわ。しゃべった…!? なんだコレ…相当に珍奇な集まりっていうか…」
伽羅「珍奇って! 違うよ!? 俺は違うよ!?」
朱器「伽羅もヘンだよー?」
神輝「あ、やっぱりそうなんだ…」
伽羅「〜〜〜〜〜っ!」

予定していたものと、どんどん外れてペースが崩れる伽羅。
なんだかこう、すこしかっこつけて 夜会などに招待しようとした自分が
恥ずかしいような情けないような…なんとも落ち着かない気持ちになった。

伽羅「ああああああ… 穴があったらはいりてえー……」
朱器「あるよ、デっカイの」
伽羅「それ、死ねっていってる?」
猫「むしろ墓穴は死んでから入るものだがな」
コマネズミ「「「おまえはもう死んでいるー!!」」」キャッキャ
伽羅「時すでに遅し!?」

ぎゃいぎゃいと騒ぐ背後で、小さな笑い声が聞こえた気がする。
振り返ることはせず、それを確認しようとは思わない。
きっと、こういうことでいいのだろう。そういうことなのだ。

ここは狐面村。
皆が皆、その正体をよく知らないまま。

秘め事の村で、お互いに関心を持つようなふりをしながら
誰も本気で探ろうとなどしていない。でも、それでもじゃれあう。
…そんな、不器用な親交が常套手段の村。



丘の上に、また新しく、気持ち良さそうな風が吹く。

(おわり)

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