最終更新:ID:n4q5Iu8Qcg 2013年12月16日(月) 01:27:52履歴
「ふん……」
中華服に身を包んだ男、牙刀は一人空を睨む。
数日後に死ぬと、突然告げられた。
それを防ぐ方法が、一つあるとも告げられた。
ならば、迷う必要などはない。
「くだらん、この俺の前に立ちはだかる物は、全て、砕く!!」
何時の日もそうだ、自分に立ちはだかる壁は全てその手で砕いてきた。
なれば、今この状況が自分にとっての壁だとするならば。
その壁も、砕くのみである。
無論、ただ踊らされるだけではない。
このようなことを目論んだ首謀者には、然るべき応酬を受け取ってもらわなくてはならない。
解毒剤とやらを探せば、これを観察しているだろう者達は現れるはず。
そこを、叩く。
「破ァッ!!」
力を込めた掌底が、空気を振るわせる。
それとほぼ同時、彼の目の前にあった巨木が音を立てて横に倒れる。
猛獣の牙でできた刀のように、鋭く、尖った男が、動き始めた。
間もなくして、彼の視界に人影が映る。
ほぼ同時に間合いを詰め、拳を構えたまま警告を放つ。
「どけ、女」
最初で最後の言葉を、強く放つ。
けれど、相手は動じない。
こちらを認識していないわけではないのだろうが、殺気は感じない。
しかし、何かに怯えているわけでも、ない。
「どかぬなら、砕く!」
それを、警告に応じなかったと受け止めた牙刀は、即座に拳を振り抜こうとした。
「……そうやって、弱者を狩って悦に浸るのね」
命を奪う寸前、それは止まる。
「何だと……」
女の言葉を、そのまま受け入れるわけにはいかなくなったからだ。
女は特に笑うでもなく、冷たい表情のまま、牙刀を見つめる。
「所詮あなたは弱者を狩ることしかできない、弱者でしかないと言ったのよ」
続く言葉に応じるように牙刀の眉が動く。
拳は既に引かれている、このまま殺すわけにはいかない理由ができたからだ。
「狩られる者が弱者、それを食らうのが強者だ。そこに差などない」
威圧感を損なわぬよう、言葉を突き刺していく。
けれど、対する女はそれでも表情を動かすことはない。
ただ、淡々と口から音を吐き出していく。
「確かに、あなたが私を殺すのは造作もないことかもしれない。
けど、無抵抗の人間を、たった一回の警告を無視したぐらいで叩き潰すなんて、あまりにも短絡的すぎるわ」
「それは貴様が俺の前に立つからだ」
即答していく。
立ちはだかる以上、牙刀にとっては障害でしかない。
ならば砕く、たったそれだけのことだ。
そこで初めて、女が感情を見せる。
いや、感情というよりかは、リアクションだろうか。
牙刀に聞こえるように、わざとらしくため息をつく。
「別に、そんなつもりもないのだけれど? こっちは酔っぱらってただけだし」
「ならば何故退かぬ」
「そっちこそ、どうして避けないの?」
誰も牙刀に襲いかかるとは決めていない、まだ障害かどうかは決まりきっていないのだ。
今でこそこうして言葉を交わしているが、元々はばったり出会っただけだ。
単に道を歩いていたら「邪魔だどけ、そうでなければ殺す」と言われて、納得できる人間はそう多くない。
彼女が牙刀を問いつめるのは、牙刀の行動に納得がいかないからだ。
「……何かに理由を付けて、弱者を狩りたいだけ、違う?」
「黙れッ!」
最初から抱いている疑問は速攻で否定される。
いや、否定という名の肯定だろうか。
ここまでムキになるのは、核心を突かれているからとも取れる。
「真に強くなるのが目的なら、相手の力量くらい計ってから戦いを挑むべきだと思うのだけれど」
牙刀は既に臨戦態勢、あと一言でも余計なことを言えば自分の命はないかもしれない。
けれど、それでいい。
それほどまでに怒りを覚えてもらうのが、目的だったのだから。
飲みかけらしきワンカップの瓶を、胸元に持ってきてから、とどめの言葉を放つ。
「だから、あなたは父親に勝てないのよ」
「なッ――――」
生まれた一瞬の虚、それを女は見逃さない。
持っていたワンカップの液体を、牙刀に向けて振りかけたのだ。
反応が一瞬遅れ、手で防ぐのが遅れた牙刀に待ち受けていたのは。
「ガアァァッ!!」
肌が焼けるような、激痛だった。
液体の正体は、強力な酸。
人の皮膚に当てれば、たちまちそれを溶かしきってしまうほどの物だ。
「じゃあね、ばいばい」
その痛みに悶える牙刀を後目に、女はその場を立ち去る。
「待て、おのれッ、貴様ッ!!」
それを追おうとするが、目が開かない。激痛で瞼がうまく開かない。
というより、顔の上半分が全く機能しないと言った方がいいか。
「待て、待てェッ!!」
ただ、ただ、叫びだけがむなしく響く。
もうそこに、相手が居るわけないのは分かっているのに。
「……許さん、絶対に許さんッ!! この俺から、光を奪った事を!!」牙刀は、何処に向けてでもなく、ただひたすらに叫んだ。
「……結局誰も、自分を騙せない」
牙刀から少し離れた場所で、彼から光を奪った女、加藤あんなは小さく呟く。
その片手には、タブレット端末。
時間経過とともに、参加者の詳細がアンロックされる特別なアプリが、彼女の端末には入っていた。
故に、先ほどの男がどんな性格で、どんな事をしているのかを、事前に知っておくことができたのだ。
初対面の筈の人間に、己が隠し通していることや、コンプレックスを見抜かれて、動揺しない人間はいない。
結局、人間は自分を騙せないのだから。
「さて、次はどうしようかしら」
行く当てはない、生き残るつもりもさしてない。
けれど、どうせ死ぬのならば。
人間という生き物の、弱さを、脆弱性を、暴ききるのも楽しいだろう。
ふと、そんな事を思い、己を偽り、架空の人格ですら自在に操る女は。
ニヤリ、と笑うこともなく、ただ冷たい表情で孤島を歩きだした。
【E-5/1日目-朝】
【牙刀@餓狼 MARK OF THE WOLVES】
[状態]:失明(?)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(不明)
[思考-状況]
基本:壁を砕く
【加藤あんな@変ゼミ】
[状態]:健康
[装備]:強酸の瓶
[道具]:基本支給品、参加者詳細アプリ(時間アンロック)
[思考-状況]
基本:偽り、騙し、愉しむ
中華服に身を包んだ男、牙刀は一人空を睨む。
数日後に死ぬと、突然告げられた。
それを防ぐ方法が、一つあるとも告げられた。
ならば、迷う必要などはない。
「くだらん、この俺の前に立ちはだかる物は、全て、砕く!!」
何時の日もそうだ、自分に立ちはだかる壁は全てその手で砕いてきた。
なれば、今この状況が自分にとっての壁だとするならば。
その壁も、砕くのみである。
無論、ただ踊らされるだけではない。
このようなことを目論んだ首謀者には、然るべき応酬を受け取ってもらわなくてはならない。
解毒剤とやらを探せば、これを観察しているだろう者達は現れるはず。
そこを、叩く。
「破ァッ!!」
力を込めた掌底が、空気を振るわせる。
それとほぼ同時、彼の目の前にあった巨木が音を立てて横に倒れる。
猛獣の牙でできた刀のように、鋭く、尖った男が、動き始めた。
間もなくして、彼の視界に人影が映る。
ほぼ同時に間合いを詰め、拳を構えたまま警告を放つ。
「どけ、女」
最初で最後の言葉を、強く放つ。
けれど、相手は動じない。
こちらを認識していないわけではないのだろうが、殺気は感じない。
しかし、何かに怯えているわけでも、ない。
「どかぬなら、砕く!」
それを、警告に応じなかったと受け止めた牙刀は、即座に拳を振り抜こうとした。
「……そうやって、弱者を狩って悦に浸るのね」
命を奪う寸前、それは止まる。
「何だと……」
女の言葉を、そのまま受け入れるわけにはいかなくなったからだ。
女は特に笑うでもなく、冷たい表情のまま、牙刀を見つめる。
「所詮あなたは弱者を狩ることしかできない、弱者でしかないと言ったのよ」
続く言葉に応じるように牙刀の眉が動く。
拳は既に引かれている、このまま殺すわけにはいかない理由ができたからだ。
「狩られる者が弱者、それを食らうのが強者だ。そこに差などない」
威圧感を損なわぬよう、言葉を突き刺していく。
けれど、対する女はそれでも表情を動かすことはない。
ただ、淡々と口から音を吐き出していく。
「確かに、あなたが私を殺すのは造作もないことかもしれない。
けど、無抵抗の人間を、たった一回の警告を無視したぐらいで叩き潰すなんて、あまりにも短絡的すぎるわ」
「それは貴様が俺の前に立つからだ」
即答していく。
立ちはだかる以上、牙刀にとっては障害でしかない。
ならば砕く、たったそれだけのことだ。
そこで初めて、女が感情を見せる。
いや、感情というよりかは、リアクションだろうか。
牙刀に聞こえるように、わざとらしくため息をつく。
「別に、そんなつもりもないのだけれど? こっちは酔っぱらってただけだし」
「ならば何故退かぬ」
「そっちこそ、どうして避けないの?」
誰も牙刀に襲いかかるとは決めていない、まだ障害かどうかは決まりきっていないのだ。
今でこそこうして言葉を交わしているが、元々はばったり出会っただけだ。
単に道を歩いていたら「邪魔だどけ、そうでなければ殺す」と言われて、納得できる人間はそう多くない。
彼女が牙刀を問いつめるのは、牙刀の行動に納得がいかないからだ。
「……何かに理由を付けて、弱者を狩りたいだけ、違う?」
「黙れッ!」
最初から抱いている疑問は速攻で否定される。
いや、否定という名の肯定だろうか。
ここまでムキになるのは、核心を突かれているからとも取れる。
「真に強くなるのが目的なら、相手の力量くらい計ってから戦いを挑むべきだと思うのだけれど」
牙刀は既に臨戦態勢、あと一言でも余計なことを言えば自分の命はないかもしれない。
けれど、それでいい。
それほどまでに怒りを覚えてもらうのが、目的だったのだから。
飲みかけらしきワンカップの瓶を、胸元に持ってきてから、とどめの言葉を放つ。
「だから、あなたは父親に勝てないのよ」
「なッ――――」
生まれた一瞬の虚、それを女は見逃さない。
持っていたワンカップの液体を、牙刀に向けて振りかけたのだ。
反応が一瞬遅れ、手で防ぐのが遅れた牙刀に待ち受けていたのは。
「ガアァァッ!!」
肌が焼けるような、激痛だった。
液体の正体は、強力な酸。
人の皮膚に当てれば、たちまちそれを溶かしきってしまうほどの物だ。
「じゃあね、ばいばい」
その痛みに悶える牙刀を後目に、女はその場を立ち去る。
「待て、おのれッ、貴様ッ!!」
それを追おうとするが、目が開かない。激痛で瞼がうまく開かない。
というより、顔の上半分が全く機能しないと言った方がいいか。
「待て、待てェッ!!」
ただ、ただ、叫びだけがむなしく響く。
もうそこに、相手が居るわけないのは分かっているのに。
「……許さん、絶対に許さんッ!! この俺から、光を奪った事を!!」牙刀は、何処に向けてでもなく、ただひたすらに叫んだ。
「……結局誰も、自分を騙せない」
牙刀から少し離れた場所で、彼から光を奪った女、加藤あんなは小さく呟く。
その片手には、タブレット端末。
時間経過とともに、参加者の詳細がアンロックされる特別なアプリが、彼女の端末には入っていた。
故に、先ほどの男がどんな性格で、どんな事をしているのかを、事前に知っておくことができたのだ。
初対面の筈の人間に、己が隠し通していることや、コンプレックスを見抜かれて、動揺しない人間はいない。
結局、人間は自分を騙せないのだから。
「さて、次はどうしようかしら」
行く当てはない、生き残るつもりもさしてない。
けれど、どうせ死ぬのならば。
人間という生き物の、弱さを、脆弱性を、暴ききるのも楽しいだろう。
ふと、そんな事を思い、己を偽り、架空の人格ですら自在に操る女は。
ニヤリ、と笑うこともなく、ただ冷たい表情で孤島を歩きだした。
【E-5/1日目-朝】
【牙刀@餓狼 MARK OF THE WOLVES】
[状態]:失明(?)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(不明)
[思考-状況]
基本:壁を砕く
【加藤あんな@変ゼミ】
[状態]:健康
[装備]:強酸の瓶
[道具]:基本支給品、参加者詳細アプリ(時間アンロック)
[思考-状況]
基本:偽り、騙し、愉しむ
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