俺ロワ・トキワ荘で行われているリレー小説「孤島の実験記録」のまとめWikiです。

「ふん……」
中華服に身を包んだ男、牙刀は一人空を睨む。
数日後に死ぬと、突然告げられた。
それを防ぐ方法が、一つあるとも告げられた。
ならば、迷う必要などはない。
「くだらん、この俺の前に立ちはだかる物は、全て、砕く!!」
何時の日もそうだ、自分に立ちはだかる壁は全てその手で砕いてきた。
なれば、今この状況が自分にとっての壁だとするならば。
その壁も、砕くのみである。
無論、ただ踊らされるだけではない。
このようなことを目論んだ首謀者には、然るべき応酬を受け取ってもらわなくてはならない。
解毒剤とやらを探せば、これを観察しているだろう者達は現れるはず。
そこを、叩く。
「破ァッ!!」
力を込めた掌底が、空気を振るわせる。
それとほぼ同時、彼の目の前にあった巨木が音を立てて横に倒れる。
猛獣の牙でできた刀のように、鋭く、尖った男が、動き始めた。

間もなくして、彼の視界に人影が映る。
ほぼ同時に間合いを詰め、拳を構えたまま警告を放つ。
「どけ、女」
最初で最後の言葉を、強く放つ。
けれど、相手は動じない。
こちらを認識していないわけではないのだろうが、殺気は感じない。
しかし、何かに怯えているわけでも、ない。
「どかぬなら、砕く!」
それを、警告に応じなかったと受け止めた牙刀は、即座に拳を振り抜こうとした。
「……そうやって、弱者を狩って悦に浸るのね」
命を奪う寸前、それは止まる。
「何だと……」
女の言葉を、そのまま受け入れるわけにはいかなくなったからだ。
女は特に笑うでもなく、冷たい表情のまま、牙刀を見つめる。
「所詮あなたは弱者を狩ることしかできない、弱者でしかないと言ったのよ」
続く言葉に応じるように牙刀の眉が動く。
拳は既に引かれている、このまま殺すわけにはいかない理由ができたからだ。
「狩られる者が弱者、それを食らうのが強者だ。そこに差などない」
威圧感を損なわぬよう、言葉を突き刺していく。
けれど、対する女はそれでも表情を動かすことはない。
ただ、淡々と口から音を吐き出していく。
「確かに、あなたが私を殺すのは造作もないことかもしれない。
 けど、無抵抗の人間を、たった一回の警告を無視したぐらいで叩き潰すなんて、あまりにも短絡的すぎるわ」
「それは貴様が俺の前に立つからだ」
即答していく。
立ちはだかる以上、牙刀にとっては障害でしかない。
ならば砕く、たったそれだけのことだ。
そこで初めて、女が感情を見せる。
いや、感情というよりかは、リアクションだろうか。
牙刀に聞こえるように、わざとらしくため息をつく。
「別に、そんなつもりもないのだけれど? こっちは酔っぱらってただけだし」
「ならば何故退かぬ」
「そっちこそ、どうして避けないの?」
誰も牙刀に襲いかかるとは決めていない、まだ障害かどうかは決まりきっていないのだ。
今でこそこうして言葉を交わしているが、元々はばったり出会っただけだ。
単に道を歩いていたら「邪魔だどけ、そうでなければ殺す」と言われて、納得できる人間はそう多くない。
彼女が牙刀を問いつめるのは、牙刀の行動に納得がいかないからだ。
「……何かに理由を付けて、弱者を狩りたいだけ、違う?」
「黙れッ!」
最初から抱いている疑問は速攻で否定される。
いや、否定という名の肯定だろうか。
ここまでムキになるのは、核心を突かれているからとも取れる。
「真に強くなるのが目的なら、相手の力量くらい計ってから戦いを挑むべきだと思うのだけれど」
牙刀は既に臨戦態勢、あと一言でも余計なことを言えば自分の命はないかもしれない。
けれど、それでいい。
それほどまでに怒りを覚えてもらうのが、目的だったのだから。
飲みかけらしきワンカップの瓶を、胸元に持ってきてから、とどめの言葉を放つ。
「だから、あなたは父親に勝てないのよ」
「なッ――――」
生まれた一瞬の虚、それを女は見逃さない。
持っていたワンカップの液体を、牙刀に向けて振りかけたのだ。
反応が一瞬遅れ、手で防ぐのが遅れた牙刀に待ち受けていたのは。
「ガアァァッ!!」
肌が焼けるような、激痛だった。
液体の正体は、強力な酸。
人の皮膚に当てれば、たちまちそれを溶かしきってしまうほどの物だ。
「じゃあね、ばいばい」
その痛みに悶える牙刀を後目に、女はその場を立ち去る。
「待て、おのれッ、貴様ッ!!」
それを追おうとするが、目が開かない。激痛で瞼がうまく開かない。
というより、顔の上半分が全く機能しないと言った方がいいか。
「待て、待てェッ!!」
ただ、ただ、叫びだけがむなしく響く。
もうそこに、相手が居るわけないのは分かっているのに。
「……許さん、絶対に許さんッ!! この俺から、光を奪った事を!!」牙刀は、何処に向けてでもなく、ただひたすらに叫んだ。



「……結局誰も、自分を騙せない」
牙刀から少し離れた場所で、彼から光を奪った女、加藤あんなは小さく呟く。
その片手には、タブレット端末。
時間経過とともに、参加者の詳細がアンロックされる特別なアプリが、彼女の端末には入っていた。
故に、先ほどの男がどんな性格で、どんな事をしているのかを、事前に知っておくことができたのだ。
初対面の筈の人間に、己が隠し通していることや、コンプレックスを見抜かれて、動揺しない人間はいない。
結局、人間は自分を騙せないのだから。
「さて、次はどうしようかしら」
行く当てはない、生き残るつもりもさしてない。
けれど、どうせ死ぬのならば。
人間という生き物の、弱さを、脆弱性を、暴ききるのも楽しいだろう。
ふと、そんな事を思い、己を偽り、架空の人格ですら自在に操る女は。
ニヤリ、と笑うこともなく、ただ冷たい表情で孤島を歩きだした。

【E-5/1日目-朝】
【牙刀@餓狼 MARK OF THE WOLVES】
[状態]:失明(?)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(不明)
[思考-状況]
基本:壁を砕く

【加藤あんな@変ゼミ】
[状態]:健康
[装備]:強酸の瓶
[道具]:基本支給品、参加者詳細アプリ(時間アンロック)
[思考-状況]
基本:偽り、騙し、愉しむ
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015:Get In The Sky
時系列順
017:「選べないですのだ」
投下順
はじまり
牙刀
028:とりひき
加藤あんな
000:[[]]

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