俺ロワ・トキワ荘で行われているリレー小説「孤島の実験記録」のまとめWikiです。

 
prrr、prrr。

日常的な電子音。
この音が聞こえない内に受話器を取られると、逆に落ち着かないものです。

prrr、prrr。

だから少しばかりこの音が長引いているのは、むしろ好ましい事態であるとも言えます。

prrr、prrr。

覚悟を固める時間。柔らかな心を引き締める時間。

prrr、prrr。

コール音は長すぎず、短すぎずに鳴り響き、ブツリと途切れる。

「もしもし……」

さあ、対決といきましょう。



波打ち際に二人の妙齢の女性が向かい合っている。
着物姿の女性と、アンブレラを片手にダークグリーンのドレスに身を包んだ女性。
着物姿の女性の名を95、目深に被られた帽子とドレス姿の女性はマヨーネと言う。
二人を分ける要素は幾つでも挙げられる。
むしろ似通う部分を探すほうが困難なほどであったが、その中で、この場でもっとも顕著な違いを挙げるとするならば。

95は被険体であり、マヨーネは実験を行う管理側の人間である。
そんな立場の違いが明確に存在していた。

修辞混じりの挨拶をいくつか交わし合い、先に本題に踏み込んだのはマヨーネの方だった。

「お聞きしてもよろしいですか?」

丁寧な言葉遣いである。
言うなれば彼女はホスト側の人間。ゲストに対する言葉遣いと考えれば自然なものとも言えるのだが、
此度の『実験』の異常さからすればあまりに不自然であるとも言えた。

洗練された敬語とは安心感を聞くものに与えるものだが、その立場と状況にそぐわなければあまりにも空々しい。
なによりも、そこには”慣れ”による洗練は存在すれども、”感情”による敬意は存在しない。
ファッションショーのように”飾り付けた”、意図的に造られた格好は他者を圧する気配を放つ。
結果として、どこか取ってつけた様な印象を与えるのも当然の話だろう。

「なんでしょう?
 私にお答えできる事であればいいのですが……」

対する女性の返答もまた実に柔和かつ丁寧なものである。
もちろん状況が状況である。
相対する”管理側”の人間と同様に、その言葉に洗練は存在すれども、敬意は存在しない。
しかしそれがどこまでも自然で、取ってつけた様な印象など何処にも存在しないのは、

そうあることが自然であると、その立ち振る舞いが何よりも雄弁に語っていたからだ。

挙動一つに気品が宿る。足を曲げる。腰が落ちる。腕を曲げる。わずかに首を傾ける。腕を伸ばす。
全ての動作に意味がある。
                                  バグ
ただ歩くことにも一つの”理”が介在し、無駄が混じる余地など何処にもなく。

細身の身体、決して強い語気を発する訳でなくとも、そこには確かな意志があり、芯がある。
マヨーネが外向きにその圧力を放つのなら、95は内向きのそれ。
誰に対しても当然として振舞うように、今この場でも振舞っている。

「何故、このようなことを?」

自然な事があまりにも不自然だ。
何故、これほどに涼しい顔をしていられるのだろう?

「このような、とは?」

自分の今いる立場が本当に理解できているのだろうか?

「解毒剤を手に入れもせず脱出する、これが自殺ではなくなんだというのです?」

苛立ちを声に出し、請えとする。
これでは、まるで私がバカみたいではないか。
”死”が恐ろしく、ただ”生”を取り上げられるのを恐れて、このような仕事に着いている私が、まるで愚かではないか。
誇りの無為を知った。力のコトワリに染まった。ただ現実を見据え、理想などとうに潰えて。
光から遠ざかりながらもただただ生きようと。

マヨーネは、敵意すら胸に抱きながら、そんな言葉を口にした。

きょとんとした表情。すぐに理解が広がって。
ああ、と得心がいったように声を上げ。

「私には、博士がいますから」
だから、ウイルスなんて気にしないで、ただ家に帰りさえすればそれでいいのです。

疑問が氷解する。
彼女の略歴は知っている。故に、彼女の慢心の意味もまた、理解できる。
得体の知れなさは理解の及ぶ矮小さにスケールダウンし、同時に蔑意へと偏移する。


そのような都合のいいことがあるわけがないだろうと、明確に見下す。


そんな変遷を表には出さず、彼女もまた己の職分を全うする。
ありがとうございますと、口だけに感謝の意を挙げてから。

「それではこのマスクを付けて下さい」

マスクでわかりずらいならガスボンベとでも言えばわかりやすいか。
ここから先にあるのはただの作業である。

「これは一体?」

指差し示されるは当然の疑問。

「規則ですので」

それに答える必要もない。
取り付く島もない。ただ想像の余地もまた、多分に残る返答でもある。

予想外ではあるが予定内でもあるこの行為。
『実験開始直後に脱出を希望する参加者』に対する対処は、これにて終わりを迎える。
何事もなく、ただただ穏やかに。

「ありがとうございました」

そんな間抜けな感謝の言葉と共に、桜吹雪が舞った。



ただただ、自然であった。
特別なものなど何もないようにその動きは起きた。

踏み込み、鞘に手を掛け、引き抜き、刃に全ての力を載せる。

たったこれだけのこと。

直前の問答に、マヨーネが侮りを覚えていたこともあるのだろう。
力みはない。殺意はない。敵意すらもない。
滑らかなその動きはまるで水の流れのように、その一振りは意識の隙間を縫いながらスルリと入りこむ。

翻る桜吹雪の衣装はどこか美しくも、現実味に欠け。
危機を意識は認識できずも”経験”がわずかに身体を動かさせる。
握られていた傘がくるりと一回りする。

そんなことを視界に捉えながら、95はマヨーネに斬りかかった。



RESET;
   SEI
   CLC
   XCE
   CLD

   X16
   M8

   LDX #1FFFH
   TXS
   STZ NMITIME
   LDA #BLANKING
   STA INIDSP

   "EL ELOHIM ELOHO ELOHIM SEBAOTH"
   "ELION EIECH ADIER EIECH ADONAI"
   "JAH SADAI TETRAGRAMMATON SADAI"
   "AGIOS O THEOS ISCHIROS ATHANATON"
   "AGLA AMEN"









   SUMMON READY, OK?




   ―― GO




「逃がしましたか……」
いや、それとも見逃してもらったと見るべきでしょうか?

チャンスを棒に降り、95は独りごちる。

回避不可能、必殺を期した筈であった不意打ちは、突如空間に滲み出るように発生した異生物により阻まれた。
本来のアタックポイントを外れ、威力が乗り切る前のそれではザコすらも斬りおとせない。
火を纏う、大型のネズミのようなそれを弾くだけで奇襲は不発した。
鋭き刃持つ”無銘の刀”も、適切に扱えねば鉄パイプと似たようなものだ。
距離を取り、仕切り直そうと構えを直す、その間に敵は現れた時同様、文字通りに消え失せた。

「あれが悪魔使い、あれが魔法ですか」

メモリーをチェック、状況の最適化≪デフラグ≫を行う。
なんでもないこんな思考は、”家族”の誰であっても片手間に行えるようなものだったのだろうが、彼女のスペックはそれを許さない。
それは結果として、彼女が他者より受ける印象がどこかのんびりとしていたり、おだやかなものと捉えられる一因ともなっている。

かつての”Mac”との戦いの中でも見られなかった種類の、都市伝説同然の敵手の存在に対策を練り上げる。
腰まで伸びたきれいな髪は、彼女が実戦を退いてからの平穏で、幸せな、長い月日を示している。
古くなったデータでは対応できない事態を前に、思考を止める愚挙には及べない。

先のやり取りは口からでまかせを述べたに過ぎない。
実験だと、あの動画データは語った。
何をしようが自由だと、死すら前提に置いて語っていた。
ここに連れてこられた時点で、どうしようもなく”私たち”は一度、負けているのだ。
博士を信じていないわけではないが、それだけで全てが解決すると思えるほどに愚かではない。
博士は確かに私たち"Windowsプロジェクト"のメンバーを誰よりも知っている。
平時であれば大抵の症状に対し、どんな医者よりも適切な処方を行えるだろう。

だが、毒物であれば話は別だ。

言うならば博士は私たちという”ハードウェア”の専門家であり、それ以上ではない。
毒物という”ソフトウェア”の領域に関しては専門外であり、わずか一週間ばかりの猶予ではどうしようもなかっただろう。

「所詮はロートルです、大したことはできないでしょうが」

そんな、他人に言われたら烈火のごとく怒りだすことを自ら口に出しながら状況を確認する。
95は弱い。
そのスペックは家族の誰よりも低い。
練磨された経験による無駄のない行動は、逆に言えば”遊び”を入れる余地もないほどに余裕のないスペック上の問題を示している。

彼女が”カタナ”を己の武器と選択したのもそれが関係していた。

戦国時代の戦場死因率に於いて刀剣による死亡者は一割にも満たないという。
当然と言えば当然の話、戦いとは間合いの奪い合いだ。
どれだけの豪力を誇ろうとも、どれほどの必殺を秘めようとも、当たらなければ意味はない。
故に戦場における主力は勿論、長柄武器や弓となる。

それでも彼女は、カタナを選んだ。

槍を選ぶには腕力が足りない。そも現代社会において槍を扱うに足るほどの広い空間は少なくなっている。
棒術を選ぶには威力が足りない。スペックから導き出される期待値は、実戦に応えれるものでは到底ない。
銃を選ぶにはリスクが高い。ただ敵を倒すことだけを考えるならば最も効率的であっただろう。
だが、彼女のマルチタスクでは跳弾に対してまで計算が行き届かない。守るべき人を巻き込みかねない。

だから、彼女はカタナを選んだ。
足りないものを技術で補うために、なにがなんでも守り抜くためにカタナを選んだ。

「博士曰く、出来るかどうかじゃない、やってやれ、ってやつです。こんなところで終わらせてなるものですか」

家族の顔を思い浮かべる。巻き込まれているかもしれないそれを強く認識する。
みんなでみんなの家に帰ろうと、改めて決意を固め内陸へと歩き始めた。

【D-4/1日目-朝】
【Windows 95@とらぶるうぃんどうず】
[状態]:健康
[装備]:無銘の刀@デビルサマナーシリーズ
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜1)
[思考-状況]
基本:家族と一緒に家に帰る

【?-?/1日目-朝】
【マヨーネ@デビルサマナー ソウルハッカーズ】
[状態]:健康
[装備]:アンブレラ型COMP
[道具]:???
[思考-状況]
基本:???
[備考]
マヨーネは実験参加者ではなく、運営側の人間です。
手持ちのカソにはトラエストが継承されています。
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はじまり
Windows 95
030:さいきどう

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