最終更新:ID:n4q5Iu8Qcg 2015年05月06日(水) 21:59:39履歴
「はァ、あっ、はっ、はァッ」
艶っぽい吐息が、絶え間なく漏れ続ける。
「はう、うンッ、あっ、はっ」
地に大の字で倒れ込む彼女の姿は、一糸すら纏っていない。
「あっ、ふうっ、はっ、ひっ」
汗だらけの体、焦点の合っていない目、軽い痙攣を続ける足。
「はぁっ、ひーっ、ふ、はっ」
そんな(自主規制)をやり遂げた彼女の気持ちは。
「ふへ、ふへへへへ、はひっ、ひふははっ!!」
まだ、収まりやしなかった。
「うーん、なかなか人もいないねえ」
海岸を離れてしばらく、未だに人の一人すらいない。
ほたるの兄を捜すとしても、手がかりが無くては何も始まらない。
そして、その手がかり、情報を探すには、"人"が必要なのだ。
「ほんとにここに人間なんているのかニャ?」
とはいえ、ここは見ず知らずの島。
街はおろか、人がいるのかどうかすら怪しい。
スマートフォンの映像を信じるのならば、ここにはある程度人間がいる。
こうして歩いていれば、いずれは誰かに出会えるはずなのだ。
だが、頭は理解していても、心がついてこない。
ひょっとしたらハッタリで、ここには自分と彼女しかいなくて、彼女と"解毒剤"を取り合わなければいけないのだとしたら――――
そこまで考えて、ハッと我に返る。
前を見れば、きょとんとした顔で茉莉埜が自分の顔を見つめている。
あわてて取り繕ってみるものの、見透かされていたのか、やさしく頭に手を置かれてしまう。
「だいじょぶだいじょぶ」
やさしく、数度撫でられる。
ああ、姉がいればこんな感じだったのかな、なんて、ふと思ったりもして。
しばらく、その姿勢に甘えることにした。
そして、再び意を決して歩き出した彼女の前に現れたのが。
「うわー、こりゃ……」
全裸の、痴女だった。
だらしなく投げ出された四肢、そこらじゅうに飛び散っている"液"。
何を、と理解するまでもなく、ほたるは顔を真っ赤にして顔を背けてしまう。
まあ、無理もない。
こんな場所で全裸の女がよだれを垂らしながら寝転がっているなんて、誰も考えないだろうから。
そこでおっぴろげられていたから、見てしまった恥ずかしいものを忘れようと、必死に頭を振っていたその時だった。
「……ごめん、先行っててくんない? すぐ追いつくからさ」
少しトーンが押さえられた、茉莉埜の声だった。
「え……?」
驚きの声を思わず漏らしてしまう。
まさか、そんな言葉が返ってくるなんて、微塵も考えていなかったから。
「ごめん、察してくれると嬉しいニャ」
明らかに落ち込んでいる声が返ってくる。
大まかな察しはつく、きっと全裸の彼女は茉莉埜の知り合いだったのだろう。
そして、茉莉埜は何かを見つけてしまった。
振り返って確かめてはみたいが、悪戯に彼女の心を弄んでしまいそうで、どうにも振り返れない。
だから。
「分かりました、北に向かってますね」
振り向かず、言われたとおりに先に進む。
ここで振り向いてしまえば、彼女を傷つけることになるから。
言われたとおり、北へと足を進めていく。
「ふふっ、ありがと」
そのほたるの後ろ姿を、茉莉埜は笑顔で見送る。
そして、森の中へほたるが溶け込んだのを確認してから。
「……み・ず・こ・し・せ・ん・ぱいっ」
もう一度、笑顔を作った。
それは、破壊神の笑顔。
今に至るまで隠していた、彼女の本当の顔。
「後々面倒だから喉から潰しとくねぇ」
手に携えた軽量チェーンソーで、まず水越の喉を抉る。
これからの事で、水越に叫ばれては茉莉埜の都合が悪いのだ。
そう、あくまで"最期を看取る"友人を演じなくてはいけないのだから。
飛び散る赤、肉が裂ける音。
瞬時に襲ってきた激痛に、ドMの化身とまで言われた水越ですら、正気に戻らざるを得なかった。
だが、出てくるはずのものが足りない。
出てくるのはひゅっ、ごぼっ、ひゅー、と空気と血が混じる音だけ。
痛みを伝えるための叫びなど、出るはずもなかった。
「はぁい、逃げちゃだ・め」
あわてて逃げ出そうとするが、茉莉埜がそれを良しとしない。
逃げ出す水越の足をめがけて、チェーンソーを振るう。
足の付け根を抉られ、地面に転ぶ水越。
その顔には、もう恐怖しか残っていない。
「あはははは、ははははは、ははははははは!!」
だが、破壊神は止まらない。
足だけでなく、指を、腕を、髪を、眼を、鼻を、乳を、体を。
そのチェーンソーで抉り取っていく。
一つの部位を切り刻むごとに、握り拳大の血を水越が吐く。
それでも、茉莉埜は止まらない。
かけらの一つさえも残さない勢いで、水越の体を破壊していく。
徐々に、水越の息が弱まっていく。
いや、水越"だったもの"が生まれていく。
反面、それが完成し始めたとき、茉莉埜の表情はつまらないといった感じに変わっていく。
「そろそろ行かなきゃ、じゃあねっ、せんっ」
だから、最期の最期に、仕上げていく。
「ぱい!」
ぎゃりぎゃりぎゃり、と音を立てながら。
チェーンソーが水越の眉間を割っていく。
最期の花火と言わんばかりに、血と脳漿が飛び散っていく。
そして、そびえ立つチェーンソーと、水越"だった"ものだけが、そこに残された。
「……本当に、大丈夫かな」
少しだけ、不安になって後ろを振り向いてしまう。
もう茉莉埜の姿はとうに見えなくなっている。
いったい何があるか分からないこの島で、ほんの少しでも彼女を一人にしてしまうのは、どうしても気になる。
ひょっとしたら、と嫌な予感がよぎったとき。
「お待たせ、ごめんね」
ある意味、嫌な予感が的中する形で彼女は現れた。
全身を染めているのは、深紅。鼻を突くのは、血の臭い。
思わず一歩後ずさってしまうが、すぐにほたるは問いかける。
「茉莉埜さん! 何が!?」
「あーあー、落ち着いて、アタシは大丈夫だから」
両手を振り、健常をアピールする。
すっかりパニックになってしまっていたほたるも、ゆっくりと落ち着きを取り戻し、茉莉埜の顔を見つめる。
その表情はとても暗く、悲しみを帯びていた。
「……毒、か。さすがに信じざるを得ないかな」
ぽつりとこぼれた言葉。
そう、この地にいる人間はみな、平等に"毒"を仕込まれている。
しかし、ほたるは一つの疑問を茉莉埜にぶつける。
「でも、毒は遅効性のはずじゃ」
そう、あの動画の中では"毒"は遅効性だとされていた。
成人男性で持って数日、しかも血などは吐いていなかったはずだ。
「あれが"ホント"ならね、個人差とかはあるかもしれないけど」
だが、茉莉埜は冷静にそれを否定する。
そう、動画はあくまで提示されただけの情報。
あれが全てではなく、そして真実という確証もない。
ひょっとすれば、数分後には血反吐を吐き散らし、自分も死んでしまうかもしれない。
いや、毒があるという確証すらも、何もかも、信じることなど出来ない。
「……しっかし、これだといろいろ誤解されちゃうよね」
思わず暗い表情になってしまっていたほたるに気を使ってか、茉莉埜が話しかける。
彼女の言うとおり、今の姿はどう考えても誤解の元だ。
不慮の事故とはいえ、真紅に染まりきった上に血の臭いを漂わせている状態では、殺人鬼とも捉えられかねない。
「服を探しに行きましょう、どこか、家があるかもしれませんし」
だから、まずは近い目標を設定する。
兄を捜すのは、きっと長い道のりになるから。
ひとまずのやるべき事を作るのも、悪くはない。
「望み薄だけど……ま、いっか。第一にガンコ兄貴! 第二にまともな服! それで行こ!」
その提案に茉莉埜も賛同し、二人は再び歩き出す。
まずは服、可能であれば体を洗える場所を探しに。
当てなどなくても、叶えたい夢を叶えに、一歩踏み出していく。
ほたるはまだ気づかない。
後ろについて歩く彼女の笑みを、それに隠された意味を。
時は、まだ遠い。
【水越美和子@変ゼミ 死亡】
【H-6/1日目-午前】
【双葉ほたる@餓狼 MARK OF THE WOLVES】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(未確認)
[思考-状況]
基本:兄を探す
【芝茉莉埜@変ゼミ】
[状態]:血まみれ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜3)
[思考-状況]
基本:破壊活動
1:ほたるが「完成」するのを待つ
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