No.10 中二階

作品基本情報

原題

The Mezzanine

作者

ニコルソン・ベイカー

発表年

1988年

媒体

小説

原語

英語

あらすじ

中二階のオフィスへエスカレーターで戻る途中のサラリーマンがめぐらす超ミクロ的考察。靴紐が左右同時期に切れるのはなぜか。牛乳の容器が瓶からカートンに変わったときの素敵な衝撃。ミシン目を発明した人間への熱狂的賛辞等々、これまで誰も書こうとしなかった愉快ですごーく細かい小説。(白水社HP 内容説明より)

奇書性・実験性・特殊性概要

意識の流れ、脚注文学

特筆すべき点

アメリカの作家ニコルソン・ベイカーの代表作。
あらすじの通り、ストーリーとしては「牛乳を買ってエスカレーターに乗る」のみである。エスカレーターの長さは中二階分なので、どう長く見積もっても4分程度であろう。それが文庫本200ページ弱の物語にされている。要はこれ、「一瞬ふと頭によぎったこと」を延々追い続けた話なのである。
作中時間の経過を著しく遅くすることで意識の流れを可視化した作品といえよう。
他の特徴としては、脚注が異様に長いことが挙げられる。下手をすれば200ページ中50ページくらいは脚注である。
読者は本文と脚注を行ったり来たりすることになり、まさに「意識がどんどん逸れていく」様子を体感できる。
私が牛乳の代金を払うと、店員の女の子は(名札には”ドナ”とあった)、客とのやりとりに抜け落ちた手順があることに気がつき、一瞬口ごもってから言った。「ストローはお使いになります?」今度はこちらが口ごもった。どうしようか? 私は数年前から————おそらく大手のストロー業者が一斉に紙ストローからプラスチックストローに切り替え、不便この上ない"浮かぶストロー時代"の幕開けとなったあの年を境にしてだと思うが————ミルクシェイクを飲む場合を除いて、ストローを用いて何かを飲みたいという気持ちをすっかり失くしていた。(2)
これが脚注(2)が入る文章。この部分に……
(2) ストローがコーラの缶から浮き上がるのを初めて目のあたりにしたときには、我が目を疑った。ストローが缶からすうっと浮き上がり、テーブル越しにこちら側に倒れ、飲み口の裏側の金属のぎざぎざに引っ掛かってかろうじて止まった。そのとき私は、片方の手にピザを、ぺろんと垂れてチーズや油が紙皿の上にこぼれてしまわないよう三本指グリップでしっかりとはさんで持ち、もう一方の手でペーパーバックを、やはり三本指で持っていた。一体どうすればいいんだ? ペーパーバックを読みながらピザを食べるのに、いちいちピザを下に置かずにコークを飲めると思ったからこそストローを使ったのに。そこで私は、この新しい浮かぶストローを、何とか手を使わずに使用する方法を編み出した(以下略)
この脚注が入る。ちなみにこの脚注、あと2ページ分続く。しかも抜き出した部分は小説の最序盤である。「これこういう話だから!」という作者の宣言かもしれない。

入手するには

2017年現在、日本語訳版が白水Uブックスより発売中。

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