FFシリーズ総合エロパロスレのまとめ

 水の洞窟でエリアが死んだあと、ルーネスは後悔と悲嘆から宿屋の一室に引きこもって泣き暮らす日々を送っていた。
 「今はそっとしておいてやろう」というイングスの言葉により、一行はルーネスが立ち直るまでアムルに滞在することになったのである。
「という訳なんだけど、何か私にできることってないのかなあ」
 ため息交じりのレフィアの言葉を神妙な顔で聞いているのは、この町で知り合った四人の爺さんである。
 自分たちのことを光の勇者だと称している、何とも勘違いと思い込みの激しいご老人方であった。
 少し興味を惹かれて話しかけたところ「逆ナンじゃ」とか騒ぎ出したのでとりあえず頭蓋骨陥没させて以来のお喋り仲間である。
「なるほどのう」
「好きな女を自分のせいで失って、か」
「そりゃへこむわな」
「死にたくなってもおかしくないってもんじゃ」
「別に、好きな女っていうのじゃないと思うけど」
 唇を尖らせるレフィアを見た爺さんたちは、揃って顔を見合わせてニヤニヤと笑い始める。
「これはこれは」
「両手に花ってやつじゃな」
「その内一本は枯れちまったがのう」
「カーッ、そのルーネスって小僧が羨ましいわい」
 好き勝手に騒ぐ爺さんたちの前で、レフィアは無言のままモンクにジョブチェンジし、インパクトクローを装着した。
「頭蓋骨に水が溜まるようにしてあげましょうか」
「ごめんなさい」
 一斉に土下座する爺さんズ。「まったく」と呟きつつ、レフィアはそっぽを向く。
 爺さんたちは何も言わずにじっとレフィアを見ている。「何よその目は」と睨んでもまだ見つめてくる。
 何となく居心地の悪さを感じて、レフィアは言い訳するように言う。
「別に、そういうんじゃないの。ただほら、さっさと立ち直ってもらわないといつまで経っても出発できないし。
 無理矢理引っ張っていって、戦闘中にぼんやりしてるところをやられちゃったりしたら目も当てられないしね」
 爺さんズは揃ってため息を吐いた。
「素直じゃないのう。最近の若い者は皆こうなんじゃろうか」
「いやいや、きっとこういうのが受ける時代なんじゃよ」
「そうじゃな。なんぞ流行っとるそうじゃないか、えー、シンデルとかなんとかいうのが」
「何じゃそりゃ。死んだ振りでもするんか。若い者の考えることは分からんわい」
「痴呆って原型留めないほど頭殴れば治るんだったかしら」
「ごめんなさい」
 地面に頭がめり込むほどの勢いで土下座する爺さんズ。レフィアは腕を組んで彼らを見下ろす。
「ふざけてないで、質問に答えてよね」
「質問っつーと」
「そのルーネスとかいう小僧にあんたがしてやれることじゃったか」
「励ます方法っつーことじゃな」
「そういう状態の男にしてやれることっつったら、一つしか思いつかんが」
 爺さんズは一度顔を見合わせてから、じろじろと無遠慮にレフィアの体を眺め回し始めた。
 エロジジイか、とレフィアは顔をしかめて自分の体を手で隠したが、爺さんズの視線はいやらしいものではなく、
 それどころかむしろ気の毒そうな色を含んだものですらあった。
「なんなのよ一体」
「いやな」
「あんたに出来る励まし方っつーか慰め方っつーかを考えてみたんじゃが」
「すまん、ちょっと軽率だったみたいじゃな」
「忘れとくれ」
 急に素直というかしおらしくなって去ろうとする爺さんたちを、レフィアは慌てて引き留める。
「ちょっと待ってよ、教えてよその方法。それともわたしには出来ないことなの」
「いや、そういう訳じゃないんじゃが」
「そこまで仄めかしておいて何も言わずに去るってのはないんじゃないの」
 爺さんたちはお互いに顔を見合わせて「お前言えよ」とでも言いたげな、責任を擦り付け合うような視線をかわしあった。
 結局リーダー格の一人が言う羽目になったようで、おそるおそると言った足取りで一歩前に踏み出てきた。
「で、わたしはルーネスに何をしてあげればいいの」
「してあげればいい」
 爺さんは自信なさげにそう答えた。一瞬何を言われているか分からず眉をひそめたレフィアだったが、
 すぐにその言葉の意味に気付いて顔面に血を上らせた。怒りだか恥ずかしさだか判別できない感情で頭が沸騰しそうになる。
「このエロジジイが」
 何とか絞り出した唸り声に、リーダー格の爺さんが小さな悲鳴を上げて仲間たちのところに退散する。
「だって、ワシらだって若い頃はよくそうしたもんなんじゃ」
「何かあって落ち込むたびに下水道に行っとったなあ」
「あの頃のデリラ婆さんはそりゃもう絶倫だった上に美人のお姉さまで」
「ワシら知らぬ間に穴兄弟になっとったのう」
 そう言ってげらげらと下品に笑う爺さんたちの前で、レフィアは静かにインパクトクローを構えた。
「全く、あのエロジジイども」
 真夜中、宿で借りた部屋のベッドの中で、レフィアはまだ怒りに顔をしかめていた。
「こっちは真面目に聞いてるのに、ふざけたことしか言わないんだから」
 そう呟いてから、レフィアはふと昼間のことを思い返す。
 あの後怒りに任せて爺さんズをボコボコにしたレフィアだったが、彼女に何度問い詰められても、
 爺さんたちは頑として前言を覆さなかったのである。曰く、「男は基本的に一発ヤれば元気になる」
「ひょっとして、あっちも大真面目に言ってたのかしら」
 もしもそうだったとしたら、と想像すると、また顔が熱くなってくる。
「落ち着け、落ち着けわたし」
 顔の火照りを何とか静めようと両頬に手を当てながら、レフィアは真剣に考え出す。
 レフィアとて、大人とは言いがたいが完全にお子様でもないのだ。
 そういう行為が男にとって非常に気持ちのいいものであることぐらいは、一応知ってはいる。
 それに昔読んだ物語の中にも、恋人を失って悲嘆に暮れる男が何とかその娘を忘れようと、
 他の女と情事にふけるとかそういう描写があったような。
「ってことは、なに。マジでそういうのがルーネスを励ますことになるってわけ」
 一瞬ルーネス相手にそういうことをしている自分の姿が脳裏を過ぎり、レフィアはベッドの中で激しく身をよじった。
「冗談じゃない、何でわたしがそんなことまでしてやらなくちゃならないのよ」
 口に出してはそう言いつつ、頭の中で浮かぶのは「でも」という言葉である。
(今は世界の危機なんだし、こんなところで立ち止まってる暇なんて本当はないはずなのよね。
 わたしがルーネスにそうしてあげることで先を急げるのなら、個人的な感情なんて捨てるべきなんじゃないかな)
 レフィアはベッドからそっと抜け出し、入り口の扉に向かって歩き始めた。
(そうよね。そうすることでルーネスがエリアのこと忘れられるなら、そうしてあげるべきなんだわ)
 後ろ手に扉を閉めて、周囲を窺う。深夜ということもあって、宿屋の中はひっそりと静まり返っている。
(わたしは本当はそんなことしたくないんだけど、仕方ないわよね事情が事情だし。
 本当に、わたしはそんなことしたくないの。この胸にあるのは使命感だけよ。
 好意がどうのとかそういうんじゃないから、そこんとこ勘違いしないでほしいわね)
 建物自体が古いせいで、一歩歩くごとに床が軋む。
 誰かに気付かれはしないかと危惧しながら、レフィアは一歩ずつ慎重に足を進める。
(そりゃ、ルーネスのことは嫌いじゃないわよ。鈍感だけど優しいし、仲間思いだし戦闘中はよくかばってくれるし。
 だからそんなあいつが苦しんでるのを見てると胸が痛むの。決して異性として意識してるとかそういうのじゃないから)
 そうして極力足音を小さくした忍び足のまま、レフィアはなんとかルーネスの部屋の前に辿りついた。
 目の前の古ぼけた扉が、やけに大きく厚く見える。レフィアは数回静かに深呼吸した。そして、ふと躊躇う。
(本当に、これでいいのかな)
 普通、そういうことは夫婦とか恋人とかがするものである。
 実際ルーネスが元気になると仮定しても、ルーネスのことが好きだと断言できない今の自分に、そんなことをする権利があるのか。
(ルーネスは多分、エリアのことが好きだったんだし)
 そのことを考えると、レフィアの胸は重くなる。
 それは、エリアと旅をしている最中、ルーネスとエリアが話しているのを見るたびに味わった感覚と全く同じものだった。
 仲良く笑いあっている二人は、まるで恋人同士のように見えたものだ。
 エリアが死んだからと言って、その位置に自分が入っていい訳がない。
 ましてや、エリアに対する負い目や遠慮をはっきりと自覚している、今の自分では。
(だからって、こんなところまで来ちゃった以上は引き返せない、よね)
 下手な誤魔化しと知りつつ、レフィアは無理矢理自分にそう言い聞かせた。
 ノックするかどうかと一瞬迷って、結局止めることにした。会いたくないとか言われるかもしれないし、寝ているかもしれない。
 いざとなればシーフにジョブチェンジして無理矢理侵入しようとまで覚悟を決めたレフィアだったが、ドアノブに手をかけて眉をひそめた。
 開いている。鍵がかかっていないのだ。ここ数日ほどは、誰にも会いたくないと言ってずっと鍵をかけっぱなしにしていたはずなのに。
(おかしいな)
 首を傾げつつも、レフィアはそっとドアノブを回して部屋に入る。そして数秒絶句した。
「何やってんの、あんたたち」
 自分でも固いと分かる声が、唇の隙間から押し出される。
 部屋の中には三人の人間がいた。無論一人はベッドで寝ているルーネス。
 後の二人は、言うまでもなくアルクゥとイングズである。もっと言うなら、
「エリアのこと忘れさせてあげられないかと思って」
 赤い顔で尻を押さえつつもじもじしているアルクゥと、
「エリアのこと忘れさせてやれないものかと思って」
 腕を組んでじっと自分の股間を見下ろしているイングズ。
 レフィアは無言でモンクにジョブチェンジした。

 その日もその日でエリアの夢を見て苦悩と後悔に苛まれていたルーネスだったが、
 いつもと違って夢は中断させられることとなった。周囲がやけに騒がしい。
「なんだようるさいなって何じゃこりゃ」
 叫びつつ飛び起きる。頭上の屋根に穴が開いて星空が見えていた。同時に、周囲に響き渡る怒声と轟音に気がつく。
 見ると、三人の仲間たちが戦っていた。ジョブチェンジと装備を無駄に駆使しつつ、矢玉と魔法が飛び交う熱戦を繰り広げている。
「何やってんだお前ら」
 怒鳴りつけると、三人は瞬時にルーネスに飛びついてきた。
「ルーネス、あんたまさか変な性癖持ってるんじゃないでしょうね」
「ルーネス、一番長くいたのは僕なんだから、当然僕にも権利はあるよね」
「ルーネス、安心しろ、痛いのは最初だけだ。すぐに気持ちよくなる」
 三人は口々に訳の分からないことを言ってくる。
 ルーネスは数秒怒りに身を震わせたあと、全ての鬱屈を振り払うような凄まじい怒声を上げた。
「お前らとりあえず俺の部屋から出てけーっ!」

 結局、修理費として明らかに必要以上の金をふんだくられた後、宿自体も追い出されてしまったので、一行は旅立たざるを得なくなった。
 レフィアとしては、中途半端な気持ちのままルーネスに迫る必要もなくなり、内心ほっとしていた。
 ルーネスはそれからしばらくの間はまだ沈んでいる風情だったが、数日もすると表面上は元通りになったように見えた。
 だが、レフィアにはその様子が単に責任感から無理をしているだけのように思えてならなかった。



 それからさらに数日後、一行は空に浮かんだエンタープライズの上にいた。
 ゴールドルから船を取り返し、一路別大陸のサロニア国に向かおうとしているところである。
 ルーネスの姿を探して甲板に出たレフィアは、船べりに腕を乗せて空の向こうを眺めているルーネスを見つけた。
 その背中に声をかけようとして、躊躇う。話しかけていいものかどうか、いまいち判断がつかない。
 吹き荒れる風に弄ばれながら、何とかルーネスの隣まで行き、彼と同じように船べりに寄りかかる。
 ちらりと横目でルーネスを見ると、ぼんやりした表情で海を見下ろしていた。
(やっぱり、まだ立ち直った訳じゃないよね)
 レフィアの胸がちくりと痛んだ。何と声をかけていいか分からずに迷っていると、ルーネスの方が先に口を開いた。
「お前らさ」
「え、なに」
 驚いて問い返すと、ルーネスは視線を動かさないまま言ってきた。
「まだ仲直りしてないのか」
「なんの話よ」
「微妙にギスギスしてるだろ、最近」
 ああ、そういうことか、とレフィアは納得した。
 あの宿屋での一件以来、アルクゥとイングズがルーネスに妙なことをしないかと気が気でなかったレフィアは、
 戦闘中でも絶えず彼らを牽制していたのである。
 もっとも、イングズの方は笑って「安心しろ、私が言ったことは冗談だから」などと言っていたが。
 あの夜、シーフになってルーネスの部屋に侵入しようとするアルクゥを止めるために一芝居打ったのだという。
 どうも信用できないし、どちらにしろアルクゥが真性であることは間違いなさそうだったので、未だに気を抜けない毎日なのである。
「全く、命を預け合う仲間なんだからさ。何が原因で喧嘩してるんだか分からないけど、早めに仲直りしとけよ」
 人の気も知らないで、と一瞬ムッとしかけたレフィアだったが、すぐに切ない気分になった。
 本当ならまだ悲しみに浸っていたいだろうに、ルーネスは周囲に対する気配りまでしているのだ。
 その心中を思うと、胸が締め付けられるように痛くなった。
「ねえ、ルーネス」
 気付いたときには、問いかけていた。
「エリアのこと、好きだったの」
 そう言ったとき初めて、ルーネスはこちらに振り向いた。
 驚きに目を見張った表情。すぐに目を伏せて、数秒黙ったあとに首を振った。
「分からない。でも、守りたいと思ってたのは確かだ」
「そっか。今でもまだ、エリアの夢見る?」
「ときどき」
 短く答えて、ルーネスはまた海に目を戻す。
 レフィアもまたしばらくの間海を見下ろしていたが、やがてあることを思いついて踵を返した。
「どこ行くんだ」
 何気ない口調で聞いてくるルーネスに、レフィアは船内への扉に手をかけたまま叫び返した。
「アルクゥのところ。進路変更お願いしてくる」
「進路変更って、もうすぐサロニアに着くのにどこに向かうって言うんだ」
「水の神殿」
 風の向こうでルーネスが目を見開く。レフィアは笑った。
「お別れ、ちゃんと言いたいから」
 ルーネスは一度口を開きかけて、閉じた。
「そうだな。ちゃんと、さよなら言わなくちゃな」
 微笑にはまだ悲しさが滲んでいたが、ほんの少しだけ吹っ切れた表情にも見える。
「レフィア」
「なに」
「ありがとな」
 レフィアは一つ頷いて、船内に駆け込んだ。
 短い階段を早足に下りながら、ふと思う。
(エリアにお別れ言って気持ちに一区切りついたら、わたしも少しは素直になれるかな)
 何に対して素直になるのかは、本人にもまだよく分からなかった。
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