FFシリーズ総合エロパロスレのまとめ

――あれから、少しばかり時が流れた
 長老の樹での死闘が終わり、戦友の一人を失ってから数ヶ月が経過していた。その憎き仇を打ち倒し、世界は一つとなった。
 突き付けられる様々な局面に柔軟に対応し、着実に強くなっていくクラウザーさん御一行。そんな彼等が次に手を出したのはクーザー城に眠る千年前の遺物……伝説の十二の武器だった。
 その封印を解く石版を求める旅の合間に、彼らは再びあの場所に来ていた。

「お兄ちゃ〜〜ん!」

 聞こえてくるのは幼さを残した少女の声だ。一行の穴を埋める形で合流した最後の人物。
「へいへい」
 バッツは少しだけ草臥れた顔を覗かせた。だが、そこには嫌悪や拒絶と言った表情は覗かない。持ち前の面倒見の良さが発露したバッツ=クラウザーにクルル=マイア=バルデシオンはすっかり懐いてしまっていた。

――第三世界 ルゴル
 世界が千年前の姿に戻り、世界規模で地形が変わってしまった今現在、ルゴルの村はイストリーの滝の遥か東に位置している。酒以外に特に見るべきものが無い辺鄙な村。
 バッツにとっては忌わしい想い出がある鬼門とも呼べる場所だった。そんな場所にはバッツとしては立ち寄りたくは無いのだが、結局の所、駄々をこねた三人のお姫様の剣幕に押し切られる形でバッツはこの村に再び足を踏み入れる事になった。
 ……彼等はチョコボ世界一周の旅の途中であり、ルゴルの近くに寄ったのも、イストリーの滝に隠された或る物を探す為だったのだ。

「はあああ……」
 村外れの開けた場所でバッツは独りでポツンと煙草を吸っていた。
 魂が抜けそうな重い溜息がバッツの喉を通過する。世界の危機からは隔絶された、牧歌的で長閑な村に在って、今のバッツの雰囲気は完全に浮いている。燦々と降り注ぐ陽光を浴びながら煙草をふかしてみるも、その重い空気を払拭する事は出来ない。
「あれから時は経ったけど……思い返すだけ、無駄なのかも知れないなあ」
 この村にある限り、バッツの胸の奥に湧いて来るのは数ヶ月前……ガラフが存命中だった時のあの光景以外に無い。それがバッツの心を締め付けていた。
 あの姉妹を喰った事。それはバッツとしては巻き込まれた形の結末だった。故に、その事自体にバッツが悔いている訳では無い。それしか方法が無かったのだ。
 ……だが、その事にバッツが重荷を感じているのは疑い様の無い事実だ。
「あいつ等……俺みたいな男の何処が気に入ったんだか」
 そんな事は問うても始まらない段階に既に来ていた。ファリスもレナも、バッツに惚れていると言う純然たる事実があるだけ。だからこそ、バッツには今が重たい。
 頻繁に女の表情を見せ、バッツに擦り寄る姉妹。一度狂った歯車は元には戻らないのか、現状に引き摺られる形で、肉欲の檻に囚われて行く自分。
 もう何度肌を重ねたのかは覚えてもいない。乞われる様に求められれば、それを無碍には出来ないのが今のバッツだった。付き合う度に…抱く度に姉妹への情が募っていく。バッツにはそれが不快だったのだ。
 誰も求めていないし、欲しいとも思っていない。そんな心の防壁を食い荒して行く二人に毅然と態度を取れないで居る。バッツは自分の弱さが露呈していく様で厭だった。
「はあああ〜〜……あー、糞」
 今日何度目かの煙草の煙混じりの溜息を吐く。だが、そんな事をしてもバッツの心が晴れる事は無い。煙は吐けても、心の底にある澱は溜息と共に出ては行ってくれないからだ。

「やっぱ、後悔してんのかな……俺」
 新しい煙草を咥え、渋い顔付きでバッツは漏らした。後悔など無い筈だった。だが、今のバッツの心はチクチクと痛んでいる。その理由は単純で、或る男が残した言葉がバッツを根元から蝕んでいる。
 否……この場合は罪悪感と言った方が正しいのかも知れない。

『娘達を頼む』

 その男は確かにそう言った。ロンカ遺跡の最深部…くずおれた体で、血反吐を吐き散らし、それでも尚ファリスとレナを守った男が残した遺言じみた言葉だった。
 アレキサンダー=ハイウィンド=タイクーン。バッツはその男の背中に確かに父親としての強さを見た気がした。だからこそ、その言葉にバッツは頷いたのだ。この男が成し得ない事を代わって成し遂げると。そう、心に誓った。
「だけど実際は……だものなあ」
 その時の自分の気持ち、そしてその光景を思い出し、反芻すると吐き気を催してきた。今の自分が置かれている状況を鑑みれば納得だ。あろう事か、バッツはその守護の対象を手篭めにしつつあったのだから。
「……モヤモヤして、仕方がねぇ」
 きっと、あの王様は許してくれないだろう。何よりも父親として。然る冪時が来た時に説教を喰らうのか、それとも夢枕に立たれるのが先か……
「結局の所……流されるままか。俺は」
 しかし、あの姉妹がバッツを離す事は有り得ないだろう。もがけばもがく程に深みに嵌っていく現状に晒されて、バッツの精神は良い具合に病んでいっている。

「お兄ちゃん?」

「う!?……あ、ああ。お前か」
 その少女の発する声に最初反応が出来なかった。心が此処に在らずだったバッツはクルルの接近に全く気が付けなかった。
「何か、暗いね?ひょっとして悩みでもあるの?」
「……そうだな。ま、悩みの無い人間は居ないって事だよ」
 強がる様子も無く自然体で返すバッツは少しだけやつれた顔をしていた。
「ふーん。大変なんだね」
「我ながら溜め込む性格してるって思うぜ。その裡、キレちまうかもな」
 クルルは自分にしてやれる事は何も無いと判断したのだろう。あくまでバッツ自身の問題と深く踏み込もうとはしなかった。バッツは冗談とも本気ともつかない発言をしたが、クルルは何も言わない。
 ……こう言ったあるがままで飾らずに生きる彼だからこそ、厄介事が舞い込んでしまうのかも知れない。そんな飄々とした生き方は周りには強さに映るからだ。残念な事に彼の周囲にはバッツの気苦労に気付く輩は居なかった。
「それ、で……何か用か?」
 ……心機一転。頭を悩ませていた雑多な思考を一端締め出してバッツはクルルに言った。
「うん。ムスッとしてるお兄ちゃんが憐れに思ったから、クルルが遊んであげようと思ってさ」
「ははは。そりゃあどうも」
 今の自分はよっぽど酷い顔をしている様だ。包み隠さずズッパリと言ってくれたクルルにバッツは苦笑いを隠せない。
「む〜〜、嬉しくないのーー?あたしが手を差し伸べてるのにさあ」
「そうは言ってないけど、何だって俺をご指名なんだ?ファリスやレナと遊べば良いだろうに」
 ぷう、と頬を膨らませるクルル。ちょっとだけ駄々をこねた様なその仕草にバッツは頬を掻いた。
 ……クルルがこうやって接触してくのは此処最近頻繁にある事だった。ガラフを失い、傷心のクルルに手を一番差し伸べてきたのはバッツなのだ。兄代わり、父親代わり……言い方はどうでも良いが、クルルがパーティーの面子で最も心を開いているのはバッツである。
 懐かれている……と言うよりは甘えられていると言う表現の方が正しいだろう。タイクーン城を出て、アントリオンの巣でファリスと合流するまでの間に随分とその傾向に拍車が掛かった事をバッツは記憶していた。
「お姉ちゃん達、さっきから姿が見えないんだもん」
「それで俺に白羽の矢、か。……まあ、暇を持て余してるんなら付き合ってやっても良いけどさ」
 やれやれと言った感じに呟くバッツ。正直、このまま日が暮れるまでこの場所に居る気は更々無い。それならば、子守序でに体を動かした方が余程建設的だろう。今は何も考えたくはなかった。
「本当!?やったあ!」
「んーー、でも遊ぶって言っても何するんだ?この村には娯楽は無いし、酒場もこの時間帯は閉まってる。それに、俺が思い付く遊びでお前が喜びそうなのは無いなあ」
 クルルの提案を了承してやると、クルルはパアッと満面の笑顔を咲かせた。だが、了承したのは良いがする事が見つけられないバッツはちょっと首を傾げてしまった。
「あーー、大丈夫。やる事はもう決めてるから。お兄ちゃんはあたしとデートしてくれれば良いんだよ」
「デート?…逢引か?」
 形が小さい子供が随分とませた事を抜かした気がする。だが、それも所詮は子供のする事とバッツは割り切った。それ以外に議論すべき処は別にある。
「それこそ、この村に見るべき場所なんてあるとは思えんがね」
「んもぅ!女心が判んないなあ、お兄ちゃんは」
 バッツの呟きがしっかり聞こえていたクルルは今度は拗ねた顔をしてみせる。
……女心なぞ理解したくは無いし、そもそも男である以上は生涯理解出来ないモノだ。それ以前に貴様の様な餓鬼が口にする台詞じゃあない。
 バッツはそう言いたかった。だが、結局言わなかった。言えなかった。
「お兄ちゃんがさ……あたしの側に居てくれるだけで良いんだもん」
 俯き、視線を下げたクルルの顔は少しだけ赤かった。普通、そんな仕草を見せられれば胸にときめくモノがある筈だが、残念ながらバッツはその一点では不感症と言っても良いほど冷めていた。
「あ、あはは。そう言う訳だからさ、少し経ったら迎えに来てよ。宿の入り口で待ってるからさ!」
「あ、お、おい……。今直ぐじゃなくて良いのか?」
 自分の胸の内を明かした照れ隠しだろう。クルルはその場で翻り、バッツに背を向けて歩き出す。ふよふよと淡い金髪をしたポニーテールが揺れている。バッツはそのクルルの後ろ姿に声を掛ける。返ってきた返答は…
「女の子には色々と準備に時間が掛かるんです!」
 言いたい事だけをぶち撒けて、クルルは駆け出した。その声色は何処か嬉しそうだった。
「ったく、急なお誘いです事」
 ……本当に、実の兄の様に懐いてくれている。
もう彼女は自分の事をバッツと名前で呼んではくれなくなっていた。その事が少しだけ寂しい様な……それとも、今の自分と彼女の距離の近さを示している様で複雑な心境と言うか……まあ、余り悪い気はしないバッツだった。
「はあ……ん、アレ?あ、あらら……」
 もう一本吸おうと思い、煙草の紙箱を漁るが、既に最後の一本を吸い尽くしてしまっていた。
「俺も……戻るか」
 クルルは恐らく、一端自室へ引き上げたのだろう。バッツはその後を追う形で煙草を取りに部屋に戻る。待ち合わせ場所は宿屋。詳しい時間の指定がされていない以上、どの道待つのは宿屋しかありえない。
 どっこいせ。爺臭い言葉と共にバッツは腰を上げた。
 自室に取って返し、封を開けていない真新しい煙草を補充したバッツは特に自室で感慨に耽る訳でも無く、宿屋のエントランスの隅でクルルを待った。
 過去、そして現在と随分厄介になっている宿屋の主人がにこやかな笑みをバッツに向けると、バッツは少しだけ笑みを零して軽く会釈する。
 そうして、バッツはクルルがやってくるのを腕を組んで待ち始めた。
 その後、10分程経過すると……
「ん?」
 誰かが宿屋の敷居を跨いで来た。
「あれは……」
 それは彼が良く面を付き合せている人物…ファリスとレナだ。

「ふう……こんな事したって、何かが変わるとは思えねえけどな」
「何れ……実を結ぶ時が来るわ。何もしないよりはマシでしょう」

「・・・」
 バッツは途端に無言になった。確かにファリスとレナだ。だが、何時も見慣れている筈の彼女達の様子は明らかに普段とは違う。目で見て解る程の差異があった。
 彼女達の手には得物であるむらさめとパルチザンが握られていた。…まさむねやホーリーランスでない辺り、随分と捻くれている。
 それ以外にも、今しがた手当てしたとしか思えない傷があちこちに付いていた。顔には絆創膏が貼られ、腿や腕には包帯だって巻かれている。濃い血の匂いが二人から漂ってきた。
「狩りでもやってたのか?あの姉妹は」
 二人が何をしていたのかバッツは直ぐに思い当たった。嘗ての自分がこの村で暇を持て余していた時にしていた事をきっと彼女達はしていたのだろう。
 現在のクーザー城は人が居る上に、エクスデスソウルが出没する危険な場所になっている。恐らくは村の郊外でモンスターを狩って遊んでいたに違いない。

「……ああ。レベル差を埋めなくちゃ、立つ瀬が無い。お荷物だって思われたくないしな」
「そう言う事。私達二人でなら……きっとバッツの背中だって守れるわ」

「あいつ等……似合わねえ事しやがって」
 遠くから聞こえてくる姉妹の甲斐甲斐しい会話にバッツはクツクツと哂う。こうして、旅の束の間に訪れた余暇でさえ、自分達の鍛錬の時間として今の彼女達には重要なのだ。
 勇気と労りを象徴する炎と水のエレメントの加護を持つ姉妹達。だが、恋と言う病を患う彼女達にはこんな括りは意味を成さないのかもしれない。……何とも熱くて更に笑えて来たバッツだった。

「?……げげっ!」
「え?……あっ!」

 此処に至り、ファリスとレナは漸く壁と一体化しているバッツの存在に気が付いた。見られたくない場面を見られた二人は一歩たじろいだが、バッツは口元をにやけさせて軽口を叩いた。
「よう。不良姉妹。今日は一段と死臭が濃いんじゃないのか?」
「お、お前……居たんなら声位掛けても良いだろが」
「……趣味が悪いわね。乙女の秘密を覗いちゃ駄目よ」
 責める様な視線が飛んできたが、バッツには効果が無い。依然として嘲笑う様に口元を歪めるバッツに二人はゆっくりと近付いた。
「覗くつもり何ざ無かったさ。ただ、お前等が勝手に喋ってただけだろ」
「チッ……お前が吐く悪態には慣れたけど、もっと気の利いた台詞は言えないのか?」
「言う必要性を感じない。…あんまり強くなり過ぎると、嫁の貰い手無くなるぞ?」
「大きなお世話よ。……まあ、私達には幸運にもその御相手が居るから良いですけど」
 叩いた軽口にファリスは口を尖らせたが、レナはそれを逆手にとって聞き逃してはならない台詞を吐いた。…この姉妹は本当に仲が良いらしい。
「そんな奇特な……否、哀れな男が居るとは思えん。俺なら敬遠するね。絶対に」
「そうか?んじゃ、今度鏡を見ろよ。俺達を仕込んだ鬼畜が目の前に居ると思うぜ」
「好い加減、現状を受け入れて欲しいけど……まあ、仕方ないかも。貴方、チキンだし」
 ……悪態の応酬だった。一人と二人の背景には奇妙な冒険チックな擬音が浮かんでいる気がする。刺すか刺されるか…実に心地良い空気だった。
「って、馬鹿やってても仕方ねえや。……んで?お前、何だってそんな所で壁の華になってんだ?」
 こんな事はお遊びだと、ファリスが不穏な空気を両断して話題をバッツに振った。何故、そんな所に居るのか?姉妹の今の興味はそれだ。
「ん?……暇を持て余しててな。そんな折りに…」
「へえ。それは好都合ね」
 バッツはその理由を説明しようとしたが、レナが割り込んでそれを最後まで言えなかった。慌ててバッツは言い直すが姉妹は聞く気は無い様だった。
「ああ。……暇だって言うなら丁度良いや。少し、付き合ってくれよ」
「動いたからお腹が減っちゃって。……どうかしら?お昼でもご一緒に」
「い、いや……ちょ、待て」
 何故か話が勝手に進んでいた。時刻は昼の掻き入れ時を過ぎた辺り。姉妹は狩りに夢中で昼食を摂っていなかったのだろうが、バッツは既にそれを済ませていた。それ以前にクルルとの約束がある為にそれを受ける訳にはいかない立場だった。
「……悪いな。今は止めておく」
「あ?暇……なんだろ?偶には付き合えよな」
「何か袖にされてるって感じね。……妙に最近冷たくない?前ほどじゃないけど」
 やっぱり姉妹の視線が刺さってきた。豪くご機嫌斜めらしい。だが、バッツとしても譲れないモノはある。今更約束を反故する訳にはいかなかった。
「まあ、暇を持て余してるのは事実だけど、ついさっき先約が入っちまったんだよ」
「「先約?」」

「ああ。クルルを待ってる」

 そいつが答えだった。一瞬、ファリスとレナはお互いの視線を絡ませて、密談を交わした。そうして、少しだけ、視線を背けて、こう言った。
「……そっか。ま、そんなら、仕方ねえか」
「間が悪かったって事かしらね。……ふう」
 意気消沈し、残念そうにする姉妹。……ファリスもレナも基本的にはクルルに甘い。未だ子供の範疇にあるクルルに対し、気を遣っている面もあるのだろう。あっさりと二人は引き下がった。
「お前、クルルには甘いよな。……保護者が板に付いてきたか?」
「きっと、そうなのよ。……貴方は良い父親に成れるわ」
 皮肉が込められた台詞だった。だが、バッツはそんな言葉は知らんとばかりに言い放つ。
「……ガラフには世話になった。その恩を返す意味合いでも、な」
「「・・・」」
 嘗ての戦友が残した或る意味での未練。だからこそ、バッツはガラフに代わりクルルの手を引いてやりたかったのだ。そんな切ない台詞に姉妹は暫し言葉を忘れて俯いた。

「何やってるの?お兄ちゃん達」

 待ち人、漸く参上。クルルが図ったかの様なタイミングで奥の客室から現れた。
「うんにゃ?世間話をしてただけさー」
 態々重たい話を持ち出すのも気が引ける。それに一番近い人間が居るなら尚更だ。バッツは茶を濁す発言で場を誤魔化した。
「ふーん……」
 解っているのかそうでないのか…何とも微妙な言葉と顔付きでクルルは返した。
「あー……ロビーで煙草吸うのも気が引けるから、俺は外で待ってるぞ」
 ちょっとだけ微妙な空気になったこの場を煙草の所為にして逃げるバッツ。…逃走の伊呂波をギルガメッシュに伝授されたのかもしれない。
「――うげっ!?」
 そうして、姉妹の横を通過しようとしたバッツはいきなり首根っこを掴まれて狼狽した。
 聞こえてきたのは耳元で囁く姉妹の声だった。
「此処はクルルに華を持たせる。でも…後で、晩酌に付き合ってくれよな」
「……行かなかったら?」
「私と姉さんで搾り取るわ。まあ…それはそれで構わないのだけど?」
 ……恐ろしい台詞が聞こえて来た。タイマン戦では無敵でも、二人掛りでは分が悪い。明日の日の目を拝みたいバッツは二つ返事で今晩の飲みを了承した。
「喜んで」
「ふーん」
 逃げる様に去ったバッツの後姿を見ながら、クルルは何かを思案していた。
「「??」」
 その様が不気味に思えた二人は眉を顰ませる。そうして、そんなクルルを警戒していた姉妹に浴びせられた一言は洒落にならなかった。

「お姉ちゃん達……嫉妬、してるのかなぁ?」

「「!」」
 世界が真っ赤に染まった。最初、冗談かとも思ったが、クルルの口元に浮かぶ歪んだ笑みを見て、これは現実だと思い知らされる姉妹。クルルの言葉は尚も姉妹を煽る。
「お兄ちゃんが……バッツがあたしに盗られちゃったみたいで厭なんでしょ」
「「・・・」」
 二人の心に湧いてきたのは純然たる怒りの感情だ。…少なくとも、途中参加した小娘が吐いて良い台詞ではない。そもそも、この子供が自分達とバッツとの間にあった交流の何を知っているのだろうか?それが穢された気分だった。
 が、感情に任せて怒りを爆発させれば大人としての品格が疑われかねない。それ以前に宿屋を殺害現場にする訳にはいかない。二人は感情を抑制しようと躍起になる。
 そして……

「血の臭いが濃いんだが……お前ら、何やってる?」

 咥え煙草のバッツがその場を強制的に閉めた。香を彷彿とさせる独特の香が漂ってきた。逃げた筈のバッツが帰ってきたのは本能的に危機意識が働いたか、立ち聞きしていたかのどちらかの理由だろう。
「ううん、何でもなーい。……行こ!お兄ちゃん♪」
「先、行ってろ」
「……はあーい」
 これみよがしに見せ付ける様にバッツに抱き付いたクルルであったが、バッツの言葉には逆らえないのか、渋々と宿屋を出て行った。そうして、重たい雰囲気が支配する宿屋のエントランスをどうにかする為に、バッツは口を開いた。
「まあ……何だ。アイツの軽口は愛嬌みたいなモンだ。俺はもう慣れたし、真に受けるだけ馬鹿らしいと思う。だけど、お前等がそれを許容出来るかって言ったらまた別の問題だよな。だから……」
 煙を吐き出して、真剣な声色でバッツは言う。やはり、会話を聞いていた様だ。
「クルルへの文句は俺が引き受ける。……俺の監督不行き届きって奴だからな」
 バッツはそれだけ言うとくるりと背を向けて出て行った。
 
 そうして、残されたファリスとレナ。内に燻る怒りの火は消えず、それはファリスを突き動かす。
――ガッ!
 ファリスは衝動のまま壁を蹴り付けていた。
「クルルの奴……どう言うつもりだ。…喧嘩売ってんのかよ」
「姉さん、止めて。みっともないわ」
 そんな姉を止める妹。だが、その妹の声色は寒気を感じさせる程、凄みに満ちていた。
「……ああ。判ってる。子供相手に本気になるほど餓鬼じゃない」
「そうよ。大人の対応じゃないわ。大人の…………っ」
 その口調がファリスを大人しくさせた。だが、そのレナはと言うと、子供であるクルルに嘗められた事が甚くご立腹らしかった。
「……バッツを尊敬するぜ。あの猫被りとさあ」
「ええ。良くやってると思う。あの娘…腹黒さは天下一品ね」
 きっと祖父から受け継いだ血と見て間違いない。いたたまれない気持ちのまま、姉妹は自室へと引き上げて行った。
「んふふ〜〜♪」
「・・・」
 何やら、非常に面倒な事態が持ち上がった気がする。前はこんなにクルルが姉妹に牙を剥く事は無かったのだが、今回ばかりは勝手が違う。クルルに抱き付かれながらも、バッツの心は明確化したパーティーの不和に注がれていた。
「?……お兄ちゃん!」
「ぃ、痛てててて」
 ギュッ、と脇腹を抓られてバッツの顔が歪む。仮にもデート。されどデート。そのお相手を失念していたツケが回ってきた。
「ちっとも楽しそうじゃなーい!」
「あー、悪い。考え事してた」
「んもう!今はクルルだけを見てて!それに、そんなに考え込むと禿げちゃうんだから」
「お前だけを見ろ……ってか?」
 焼き網の上の餅宜しく膨れっ面のクルルの言に素直に従い、バッツはまじまじとクルルの顔を凝視する。
「あ……」
 六つ上の男が自分をじっと見つめてくる。クルルにはそう言った免疫が一切無いので、ただモジモジとしながら顔を赤くしていた。
「む」
「//////」
 そうして、赤くなったクルルの顔を眺めている裡に、バッツはある事に気付く。何時もとは違う貌をクルルはしていたからだ。普段の愛くるしい顔とは違い、何処かしらの色気が感じられる。
 長い睫はクルンとカールし、大きな瞳を更に強調する様にアイラインは際立っているし、健康的な肌色をした皮膚は白粉を塗した様に白かった。小さな可憐な唇だって、少しばかり赤い色をしている。
 ……そうして、バッツは自分が待たされた意味を知った。少し背伸びして、クルルは化粧をしていたのだろう。
「成る程。お前も色気付いたもんだ」
「だ、だって……あたしも一応、踊り子を齧ったんだもん」
 昔、タイクーン姉妹がそうした様に色目を使ってくるクルル。化粧のやり方もその時に仕入れたと見て間違いない。14歳の女の子にしてはクルルはマセている。

「お前はさ、もう少しその……ナチュラルメイクの方が合うと思うんだがな」
「え」
 が、バッツは冷静にクルルのメイクを批評した。踊り子を齧っているのは彼も同じだったのだ。
「ファンデやアイシャドウはそれで良いとして…ルージュは未だお前には早いな。リップクリームにしとけ。それに…目元のラインも強調し過ぎだよ」
 淡々と言葉を並べるバッツだが、言いたい事はたった一言だ。
「俺としては、すっぴんのお前の方が好きなんだが……」
 別にジョブの事を言っている訳ではない。ただ、化粧はクルルに合わない。そう言いたかった。そんなバッツの言葉にクルルは子供っぽさを全開にした。
「む〜〜〜〜!!」
――ゲシッ!
「痛っ……」
 クルルのローキックがバッツの脹脛に炸裂した。乙女の努力を全否定したバッツに対する制裁と言う奴だった。
「お、お前……何すんだ!」
「ベ〜〜っだ!お兄ちゃん何か嫌いだもん!」
 そう言ってクルルはプリプリ怒りながらバッツの先を走っていった。
「はあ……お前の孫って、手が掛かるよな」
 今は亡き戦友にそう問いかけてみるも、返って来る答えは無い。ただ…お空の上に良い顔してサムズアップしたガラフの幻影が見えた気がしたバッツだった。
「お兄ちゃ〜〜ん!早く〜〜!」
 クルルが少し先の農道で元気に手を振っていた。バッツは有り得ない幻を振り払い、クルルの後を追った。

――夜 酒場
「お前さ、自分が如何にひ弱かって認識しねえのか?見てるこっちとしちゃ、胃が痛くて敵わねえ」
「姉さんの言う通りよ。ちょっと…自分の命を軽く見過ぎって感じがするわ」
「おいおい、説教は止めれ。酒が不味くなるだろうが」
 酒が回ってクダを巻いている姉妹の真ん中にバッツは居た。第二世界でも座っていたカウンター席で、両サイドから聞こえる酒臭いお説教を聞くバッツは第三者から見ても厭な構図だった。
「言わないと聞かないだろうが!お前、男の癖に力や体力低過ぎ」
「すっぴん状態での話だろうが」
「それなのに前列に出たがるから、嫌でも血を見る事になるわ。もう何回戦闘不能になったの?」
「数え切れない程……だな。でも、歌って踊れて薬の調合が出来て、魔物だって操れるぞ」
 何故に姉妹が説教を垂れているのかと言うと、最近のバッツが余りにも向こう見ずな行動をするので、そのフォローが追いつかなくなっているからだった。パーティーでレベルが一番高いのは彼だが、明らかに間違っている戦い方をバッツはしていた。
「はあ……決定。お前、器用貧乏過ぎ。技術系のジョブに手ぇ出し過ぎだ」
「魔術師系もちゃんとやってますってばよ。……飽きっぽいけど」
「そんなだから、まともに極めてるのがシーフと魔法剣士だけなのよ。……あら、吟遊詩人もだったかしら?」
「どんな局面にも対応できるジェネラリストは一人は居て損は無いぞ?」
 バッツの言う事はある意味正論だろう。単一の局面に向いたスペシャリストの集団の中に多方面に活躍できる人間が居れば、戦略の幅が広がる。
「っ、そうだけど!……お前の負担になってるだろ?最近は輪を掛けて危なっかしいし」
「現場の人間から見れば……どうしてもそう思えるわ。私達のフォローだって、無限じゃないし」
 そんなバッツを前列で見てきたからこその姉妹の意見だ。物理系のスペシャリストの姉妹に言わせれば、パーティーリーダーがそんなにひ弱では困ると言いたかった。……様々な意味合いからだ。
「でも……いざとなったら、守ってくれるんだろ?」
「むっ……う//////」
「あうぅ//////」
 バッツはそんなファリスとレナの扱いをある程度心得る。自分の裾野が広がり過ぎているからこそ、それを守る役として姉妹の存在は欠かせない。バッツの言葉が効いている事を示す様に二人は赤くなる。
「く……言いたい事は判るけど、もう少しだけ……た、逞しくなって欲しいと言うか……なあ?」
「え、ええ。……普通は、逆だと思うわ。守るよりは寧ろ……ねえ?」
 ……随分と乙女チックな思考になったものだ。そうバッツは息を吐く。これもきっと、夜の生活の果てに二人が変わってしまった事の表れなのだろう。しかし、バッツはそんな事では揺るがなかった。
「私情を挟むなよ。成長の仕方なんざ人それぞれだ。……アナクロ過ぎやしないか?」
 銘酒であるルゴル酒を呷ったバッツは嘲笑う様に零す。昔ならば兎も角として、バッツの調教が身に沁みて来た姉妹は言葉を返せない。
「あー……もうぅ。ああ言えばこう言う奴だなあ」
「性格悪いわよお。少しは周りの意見を取り入れてよね……」
 案の定、姉妹は泣きそうな顔をしていた。酒が入っている分、感情的になっているのかも知れない。
「お前等が思っている通りに意見は汲み取れんよ。……なあ、お前はどう思う?クルル」
 そうしてバッツはその場に居た最後の人物へパスを回した。
「へ?」

 バッツ達から少し離れた位置で、クルルは唐突に声を上げる。話を振られるとは思わなかったのだろう。
「えー……と。な、何?」
 ……話を聞いていなかったらしい。
「だから俺がひ弱だって話さ。お前は……どう思う?」
「あ、ああ」
 話題のキーとなる部分をバッツが言ってやると、クルルは頭を回転させ始めた。どんな事を手酷い事を言われるのかとバッツは少し期待する。
「えーと、お兄ちゃんがあたし達と比べてって話でしょ?」
「そうだ」
 頷くバッツ。周りを見渡せば、モンクやら侍やら竜騎士やらを極めた女がゴロゴロする環境。女帝政治の真っ只中と言う境遇にあってバッツの発言権は非常に強大である。体育会系のノリを嫌うバッツがそれを維持出来たのは単純な理由だ。
「……良いんじゃないの?それって個性だし」
 クルルはバッツのフォローに入った。…つまりはそう言う事だ。上手い具合に仲間達を手懐けている。そうでなければこんな事は罷り通らない。
「……だってさ」
「「・・・」」
 クルルの擁護を得たバッツが不敵に笑う。姉妹はそれが少し面白くない様だ。同じタイミングでグラスを呷った。

「でも」

「はい?」
 ……クルルの言葉には続きがあった。バッツは間抜けに聞き返してしまった。
「同年代……若しくは歳が近いお姉ちゃん達に負けてるってのは判るけどさ?歳が離れてるあたしにすら腕力やらで負けるってのはどうなのかなあ。……或る意味、特異体質?」
「あいや〜〜」
 謎のイントネーションが喉を通過した。バッツは握ったグラスを取り落としそうになってしまった。……随分と心を犯す発言をしてくれるとバッツは思った。
「くく……言われちまったなあ?バッツ〜〜?」
「特異体質……と言うよりは虚弱体質ね。それはどんな特技なのかしらぁ?」
 いやらしく笑う姉妹。その気になれば、二人掛りで組み伏せる事も可能と言う事を言いたかったのかもしれない。バッツは少し顔を引き攣らせて酒を新たに空のグラスに注いだ。
――ガタッ
 そんな楽しげなバッツと姉妹のやりとりに入っていけないクルルは少しだけ面白くない顔をして席を立った。
「んあ?……お帰りか?」
「ん。ちょっと……眠くなった」
 バッツの問いかけにクルルはそうだと頷いた。
「お勘定……ここ、置いておくね」
 肩身を狭そうにしながら、クルルは一行に背を向ける。……そんな彼女の小さな背中に姉妹はやっかみが多分に混じった言葉を浴びせた。
「ふっ、確かに……お子様が遅くまで居て良い場所じゃないわな。まっすぐ帰んな」
「ええ。背伸びし過ぎると、補導されちゃうわよ?」
「!」
 一瞬、とんでもなく苛烈な視線を向けたクルルだったが、結局彼女は何も言わずに帰ってしまった。
「お、おい」
 バッツはクルルに何か言いたかった様だが、それはクルルには伝えられなかった。
「放っとけよ。本人が帰りたいって言うんだ」
「変に引き止めるのも野暮だと思うけどね」
 対照的に姉妹は落ち着いている。寧ろ、邪魔者が消えて清々したと言った顔だ。
「いや……金、足らないんだけどさ」
「「・・・」」
 それがバッツがクルルを引きとめようとした理由だ。クルルの残した金額では彼女の代金には数ギル足りていなかった。……それ位は融通を利かせてやっても良いだろうと姉妹は強烈に思った。

 そうして、クルルが帰った後に姉妹はバッツに絡み始めた。
「何か……機嫌が良くないか?」
絡まれているバッツは姉妹が絶えず笑顔を湛えているのが気になった。
「そりゃあ、な。……酒の邪魔されるのだけは流石に御免だったからな」
「大人しく引き下がってくれて助かったわ。……お酒が飲めない子供にはつまらない環境だったって事かしらね」
「そう、かもな」
 どうやら、姉妹はクルルが消えた事に安堵している様だ。去り際に掛けた棘のある台詞も昼間の一件に対するやっかみと見て間違いないだろう。
 ……想像以上に溝が出来てしまっているのかも知れない。
「穏やかじゃないな、ちょっと」
 嘗てこの村で味わった針の筵が再現されている様だ。あの時は姉妹間の溝だった。今回は姉妹とクルルの間の軋轢だ。
「何か考えてる顔してるが……グラス、空だぞ?」
「お酒の席で難しい顔されると切なくなるわ」
「……失敬」
 やはり女は鋭い。バッツの表情が酒と自分達に向いていない事を感じ取った姉妹は口を尖らせた。バッツはそんな我侭なお姫様達に付き合うしかなかった。

「はあ……」
 クルルは息を吐きながら自室を目指していた。先程受けた姉妹の嘲笑する様な言葉を思い返す度に心には抑えられない感情が湧いてきていた。
「あたしは……違うもん」
 が、そんな言葉に一々反応しては余計に子供っぽく見られると思い、それを封殺する様に努める。……こんな調子が長い間続いている様な気がする。素の自分が出せるのはバッツの前だけ。そう思うと窮屈で仕方なくなるクルルだった。
「あ……」
 そうして、辿り着いたのは自室ではなく、バッツの部屋のドアの前だった。
「・・・」
 重苦しく、来訪者を拒む様な嫌な空気が目の前から迫ってくる。それでもクルルは物怖じせずにそのドアの取っ手に手を掛ける。施錠はされていなかった。
――ギィ
 蝶番が錆付いた悲鳴を上げた。開けた途端に漂ってくる煙草の臭いに咽そうになりながらも、クルルは部屋の中へと歩を進める。
 ……嘗て、バッツが姉妹と死闘を繰り広げたのと同じ場所。クルルはそれを知らないが、その部屋には女を引き付ける何かがあるのかも知れない。そう考えると……それに惹き付けられたクルルも或る意味の被害者なのかも知れなかった。
「ハア……」
 酒を飲んだ訳でも無いのに喉を通過する熱い吐息。トコトコと暗い室内を横断し、クルルはバッツが使用している寝台に倒れこんだ。
――ぽふっ
 枕もベッドシーツも、主が起きた時にそのままにされていたのだろう。クルルが寝台に身を預けると、煙草の臭いと一緒に汗の匂いに似た野趣溢れる香りがクルルの鼻を付く。
「くふぅ……」
 甘い声を上げて悶え始めるクルル。自分の内側にある諸々の感情を発散するかの様に、体をバッツの寝台に擦り付ける。スリスリと。そうしている裡に堪らない気持ちになってきたクルルは服の上から片手を自分の胸に伸ばした。
「ふあああぁ……っ」
 鼻に掛かる声。聞く人間が男なら即座に理性を破壊する程の威力を秘めた美少女の嬌声だ。だが、それを聞く人間は此処には居ない。部屋の主は他の女と逢引の最中だ。
「ああぁ……ん」
 未熟であるはずのクルルの乳房は自分で揉み、擦る度に感度を増して往き、火が点きそうな程になって
しまう。その証拠に、高められた性感を表す様にクルルの乳首は硬くしこっていた。
「んっ……ん……あうんっ」
 そうして、クルルは自分の膨らみかけの乳房を服の下から直に揉み始めた。
 ……火照る体を持て余し、自分で処理し始めたのは数年前。初潮が起こり始めた頃だった。だが、バッツ一行と合流し、そのバッツに世話を焼かれる様になってからはその回数が格段に増えた事をクルルは記憶している。
「ハッ……ぁ、ああんん……!」
 クリクリと芯を持った両胸の突起を慰めてみるも、体の疼きは収まる気配を見せなかった。クルルは迷う事無く余った片手を股間へと導いて行った。
 ……自分がどれだけはしたない真似をしているか、王家に生まれついた人間であるクルルは判っている。しかし、体の疼きは留まる事を知らず、こうしてバッツの部屋に入り込み、自慰に耽る事も今度で何度目の事か分からなくなっていた。
「ぁ……はっ……んんん〜〜〜〜!」
 クチュクチュと水音が薄暗いバッツの部屋に木霊した。その音の主は狂った様に乳を揉み、膣口に当てた手を動かす。
「ぉ……お兄、ちゃん!」
しとどに濡れそぼるクルルの陰唇は痙攣し、この部屋の主のいきり立つ一物を飲み込みたくて開閉を繰り返す。だが、クルルが望むモノが与えられる筈も無かった。
「ぃ……逝く!逝くよぉ……!お兄ちゃん……っっ!」
 そうやってクルルは激しく手を動かし、その果てに独り寂しく浅い絶頂を極めた。サラサラした愛液がクルルの手を伝い、バッツの寝台にその香りを染み込ませていく。
「切ないよお……お兄ちゃん……」
 そうして、事が終わってクルルを苛む感情。寂しくて、切なくて。最早、自分がやっている事を正当化する気持ちすら失せてしまったクルルだった。

――数時間後
「ふいいいい〜〜」
 漸く自室に辿り着いたバッツは酒臭い溜息を吐いた。時刻は日付が変わる少し前。そんな時間まで飲み続け、前後不覚になった姉妹を担いで部屋に送り届けたバッツは苦労人だった。
「ううぅ、眠ぃ」
 姉妹に付き合わされたバッツもまた、酒量の限界だった。睡魔の洗礼を受けているバッツは襲い来る眠気に逆らえず、自室のドアを開け、その中に入る。
「――あん?」
 踏み込んだ瞬間にバッツは違和感を感じ取った。誰かが居る……否、居た気配がする。その証拠に、部屋の空気が淀んでいる。
「……これは」
 それだけではない。何処かで嗅いだ様な甘ったるい匂いもしている気がする。
「ま、さかな」
 色々と心に浮かんでくるものは有ったが、それを抑え込んでバッツは室内を横切って、隅に置かれた寝台へと進む。そして、覚束無い様子でその中に潜り込んだ。
「・・・」
 ベッドシーツから甘く小便臭い匂いが漂ってくる。それは普段嗅ぎ慣れた匂いとは別のもの。ただ、此処最近は一人で寝る時、頻繁に嗅ぐ匂いだ。
「……気のせい。そう、気のせいだ」
 これ以上考えては思考の迷宮に踏み込みかねないのでバッツは心を凍て付かせて、現状を放置した。酒に任せて眠る為に寝具を頭から被り、目を閉じる。
「うあ……っ」
 直ぐに睡魔は襲ってきた。ベッドの中で大きく伸びをし、欠伸するバッツ。明日には此処を発たねばならないので疲れを残す事は出来ない。予定が詰まっている訳ではないが、一つ所に落ち着く事が出来ないパーティーリーダーの困った性分が発露している。
 ……バッツは眠りに落ちるまで、その香を意識しない様に努めた。
――一週間後 バル
 イストリーの滝の上部でお目当ての品である魔法のランプをゲットし、ボコの背に揺られながら約数日。クラウザーさん御一行はチョコボ世界一周を成し遂げ、蜃気楼の町の裏で景品であるミラージュベストを受け取った。
 ……その後の一行の進路についてはパーティー内でも議論が持ち上がっていた。ゴール海溝に眠る最後の石版を得たいファリスと、カーウェンの北の山に一行を待ち続けるバハムートと決着を付けたいクルル。その南西に聳えるフェニックスの塔に登りたいレナ。
 三者三様の意見が出る中で、パーティー代表のバッツは沈んだウォルスの塔に潜りたかったのだが、こんな混沌としたパーティー状況を鑑みればそんな無理は出来ないと判断した。
 何をするにせよ、先ずはパーティー内の不仲……つまり、姉妹とクルルの溝を埋めるべきとバッツは確信し、彼が決断した策はバルに暫く逗留する事だった。
 ジャコールの洞窟経由で、地下階の大扉の奥に隠されたモノを手に入れた一行にとっては最早寄る用事もない場所。そんな場所に態々、だ。
 バッツにしては何かしらの考えがあったのだろう。だが……そんな中、案の定問題は持ち上がった。

『ようバッツ。ちょっとお前の手を貸して欲しいんだけど』
『悪い。クルルに呼ばれてる』
『バッツ。……お昼ご飯、一緒にどう?」
『済まん。クルルに先約が』
 流石はホームグラウンド。クルルは水を得た魚の様にバッツと姉妹の間を撹乱して行く。悪意と方便のギリギリの狭間。ファリスもレナも流石に黙っては居られなくなるのは必定だった。
『バッツ!少しは融通利かせてく『無理だ。クルルの方がお前より先約だ』
『ちょっと待って!少しはこっ『時間に遅れそうだ。悪いが、付き合えん』
 最早、口を挟む暇すらない。タイクーン姉妹は完全にバッツに相手をして貰えなくなってしまった。…そうして姉妹の裡に募っていく懐疑心と良い具合の焦燥は修羅場の予感を何処からか引き連れてきた。
 姉妹はバルで最も高い場所……飛竜の塒である塔の最上部にやってきていた。どれだけ良い部類の女であろうとも、彼女達もまた人間である。癪に障るクルルの態度、そしてつれないバッツへの不満は破裂寸前の水風船の如くパンパンだった。
内なる蟠りはかなりの量が蓄積し、醗酵してガスの様に溜まってしまっている。お互いに言いたい事は山程あり、抜かなければ直ぐにでもそれは破裂してしまう。
 姉妹は揃って盛大に愚痴を垂れ流したかったのだ。

――ガンッ!
 柱に拳が勢い良く叩き付けられた。その衝撃で拳が裂け、赤いモノが腕を伝っていく。柱にはめり込んだ拳の跡がくっきりと残り、風の中に血の臭いを含ませる。
「本当に……鶏冠に来るわ。何様なのかしら、あの子供」
 般若を彷彿させる物凄い形相でレナは零した。血の筋が彼女の腕を伝って、ポタポタ床に落ちていく。
「まあ……落ち着けよ。気持ちは判らんじゃない」
 以前とは逆で、今度は怒り狂った妹を姉が宥め賺す。冷たい石の壁に寄りかかってファリスがそう呟くと、レナは濁った翠の瞳で姉のそれを射抜く。
「あの子の肩を持つ気?」
「そう思うのか?俺も……レナと同じ気持ち、なんだけどな」
「随分冷静なのね。もっと同調してくれるかと思ってたけど」
「俺も驚いてるよ。意外と辛抱強いのか……或いは、沸点超えちまって、感情が麻痺してるのかどっちかだろ」
 ルゴルではほんの少し感情を露にしたファリスだが、今回はレナ以上に落ち着きを払っている。細かい部分で良く似た姉妹だが、その行動にはやはり差異がある。
 普段、理性的に振舞うレナだからこそ、今の彼女は怒りによって衝動的になっている。対照的にファリスは殆ど溜め込まない性格の為に、怒っていても突発的な行動には移らない。だが、それでも確かに姉妹には共通項がある。
 ……クルルを見過ごす事はこれ以上出来ないと言う事だ。
「もう……好い加減に手が出そうよ。狭量だとは思うけど、限界だわ」
「だな。こうも付け上がられたんじゃ、堪忍袋の緒だって切れちまう」
 決してレナとファリスの沸点が低い訳ではない。明らかにクルルが調子に乗っているのは明白で、それを楽しんでいる気配すらある。バルに来てからと言うもの、クルルのその傾向は増え、姉妹はもうそれに耐える事も馬鹿らしくなってしまった。
「ガラフには悪いけど、後腐れ……無くしたいとは思わない?姉さん」
「・・・」
 暗にクルルを害したいと訴えるレナにファリスは目を閉じた。言いたい事は判るし、同じ想いだって持っている。だが……レナは極端過ぎるとファリスは思ってしまった。それこそ本当に大人気無い事だとも。
「何時までも嘗められっぱなしってのも性には合わんさ。俺も、お前もな。だけど……少しばかり極端だよ」
「そんなの知ってる。でも、私はこれ以上は許容出来そうにない。姉さんだって同じ筈よ」
「そうだ。だけど、腐っても俺等はパーティーを組んでる。……一人欠けちまうのは大きな痛手だと思うんだけど?」
 クリスタルに選定された者達が大多数を占めるクラウザーさん御一行。その内誰か一人でも欠ければ冒険を行うには大き過ぎる損失を負うと言う事はファリス自身が知っている。ピラミッド探索時にそれを身を以って味わったのだ。
 再びそんな事態が持ち上がれば、エクスデスを打倒する処か、これ以降の冒険にだって差し支える。
「ひょっとして割り切れって言いたいの?そこまで……私は大人には成れそうにないわ」
「む――」
 だが、レナの言いたい事もファリスは分かっているし、このまま放置するつもりもない事だ。
 ……全てはパーティーと言う狭いコミュニティーの中での問題。足並みを乱すクルルとそれを擁護するバッツ。そんな二人に姉妹はついていけなくなっている。
 それをどの様に収めれば良いのか思案するが、結局の所、クルルが態度を改めるしか打開策が無いと知り、ファリスは奥歯を噛んだ。今のあの娘がそんな殊勝な事をするとはどうしても思えないからだ。
「こんな場所で悪巧みの算段?」

「「!」」
 聞き鳴れた忌わしい声が背後から掛かる。飛竜の直ぐ後ろからクルルが小悪魔的な微笑を湛えて現れた。……一体何時から居たのかは分からないが、クルルが話の大部分を聞いていたのは間違いない。
「くすくす……何かダサいね、お姉ちゃん達」
「ほう?」
 嘲笑する視線。明らかに挑発しているクルルにファリスは敢えて反応してやる。相手の言いたい事を聞き、それからどうするかは掛けられる言葉次第。ファリスのこめかみには青筋が浮かんでいる。
「言いたい事があるならクルルに直接言えば良いのに。こーんな人が居ない場所で陰口なんて格好悪」
 人は居ないが、飛竜は居る場所だ。世界でタイクーンとバルにしか居ない希少動物である飛竜は女の修羅場を目の当たりにして、ビクビクしていた。このままでは心労によって寿命が縮みかねない程に。
「一体何を言っているのか解らないわ」
 レナは感情を感じさせない声で静かに呟く。だが、その瞳には暗いが炎が宿っている事をクルルは見逃さない。
「惚けたいなら別に良いけどね。……はあ。お兄ちゃんも何だってこんな人達に気を遣うのかなあ」
「「・・・」」
 ピクピクっと姉妹の眉が同時に釣り上がる。クルルの言葉はそれまでの姉妹の葛藤を吹き飛ばす程の衝撃を与えてきた。目の前で色の無い火花が散り、それが内に溜まった油に引火する。
「あらら。怒っちゃった?」
「てめえ……」「子供が……」
 浮き出た青筋がその存在をこれでもかと主張する。だがクルルはそんな怒り心頭の姉妹をにやけた顔で見ながら、満足そうに背を向ける。そうして、次の瞬間……

「渡さないよ」

「「!」」
 凍て付く言の葉が姉妹の耳に入り、燃え盛る炎の勢いを弱くする。深い深遠を覗かせる様な、闇が塗りたくられた呪詛と変わらない重たい呟きが姉妹をその場に縛り付けた。
「明日……石像狩りするから、広間に集合だって」
 クルルはバッツから賜ったであろう伝言を姉妹に伝え、飛竜の塒から立ち去った。

「……何だったんだ、アレ」
「私が知る訳無い。……知りたくも無いわ」
「そうだな。知った事じゃないか。でも」
「ええ。あの態度は……頂けない」
 さっきのアレは何だったのか?姉妹で色々議論してみても、その原因については全く見当が付かない。だが、重要なのはそんな事では無い。やり場の無い怒りをどうするのかが問題だった。
「……殺っちゃおうか」
「まあ、待てよ」
 殺気も怒気も無いレナの呟きは空恐ろしい。それだけイカれていると言う証拠なのだろう。だが、何とか一抹の理性を保ったファリスはそれを止めた。
「他に、何か憂さ晴らしの手段がある?」
「アイツさ、言ってなかったか?クルルへの不満はこっちで引き受けるって」
 だが、ファリスとて煮えくり返った腸を放置する事はしない。そこで彼女が出した解決策は嘗てバッツがルゴルで言った台詞に甘える事だった。
「ああ。……そう言う事ね」
 その意図が判ったレナは気色ばんだ笑みを覗かせ、唇を舌で舐め上げる。
「考えてもみりゃ、アイツがのらりくらりしてなければこうはならなかった。……アイツにだって責任の一端はある筈だよな?」
「私達とクルルがこうなっても放置しているって事は、私達の怒りもしっかりと受けとめくれるって事よね……」
 そうして、姉妹は怒りの矛先を見定める。
「「全部バッツが悪い」
 ファリスとレナは何故かその日は終始笑顔だった。
――翌日 バル城一階 
「何なんだ、糞」
 昨日から原因不明の寒気がバッツを襲っていた。項の辺りに何かしらの違和感があり、黙っていても冷や汗が吹き出てくる。一般的にそれは良くない事が起こる前兆と呼ばれているが、バッツにとっては眉唾だ。
 しかし、今朝の様子を思い出すとそうも言ってられなくなるバッツだった。今朝の朝食に出たのは自分とクルルの二人だけ。朝はしっかり摂るファリスとレナは何故か欠席していた。それと何か繋がりがあるのかと邪推してしまう。
「……急ぐか」
 時間には少し早いが、バッツは地下階に下りる階段がある城の広間を目指す。クルルは時間があるので自分の部屋に戻ってしまった。…一人きりが何故か心細い。一人旅で慣れてしまっている筈なのに、バッツはその怖気を取り払えなかった。
 そうして、バッツは約束の場所に辿り着いた。

「ほ?」

 先ず、喉を通過したのはその一言。随分と間抜けだが、それしか言えはしなかった。広間には既にファリスとレナが来ていた。
「「・・・」」
 姉妹は無言でバッツを一瞥する。その姿には普段の姿からは見られない負の感情が数メートルに渡って噴出している。
「え、えーと」
 ……まあ、別にその程度の事ならば想定の範囲内である。リーダーたる者、構成員の不平不満は受け止めて然る冪。しかも、姉妹はクルルと冷戦を繰り広げている。きっとそれ故の冷たい視線なのだろう。
 だが、バッツが困惑しているのはそんな事では無い。姉妹の装いに……と言うかジョブに言葉を失ってしまったのだ。嫌な予感の元凶は彼女達と見て間違いない。

「……バーサーカー?」

 可愛らしく小首を傾げるバッツは不気味だった。それだけ、混乱しているのだろう。美人姉妹のファリスとレナが、矢鱈と露出の高い獣人もどきの格好をしている。
 獣の皮を使った粗末な布を纏っただけの格好は脇腹や太腿など、目のやり場に困る部位が惜しげも無く曝け出されていた。
 無論、バッツは姉妹のそれ以上に恥ずかしい場所を見ているので、その程度の装いでは揺るがない。バッツが警戒していたのは何故にこのタイミングで二人がバーサーカーにジョブチェンジしたかと言う事だった。
 確かに、クルルへの不満を聞くと言ったのは事実だが、今の姉妹はその範疇を超えて物騒だ。以前から雑魚散らしの為に姉妹が偶にこのジョブにチェンジするのを見ていたが、今回のこれは何か作為めいたモノが感じられて仕方が無い。
 ……ひょっとしたら、この機に己を抹殺する為か、はたまた殺してその肉を喰らう為なのかも知れないとバッツは思ってしまった。
 その証拠に、姉妹はお揃いのデスシックルをちらつかせているのだ。禍々しい曲線の刃が鈍く光を照り返す。第一世界でクレセントを狩って手に入れた、今まで何度もお世話になった即死効果を秘めた死神の鎌が自分の首を求めている様だった。
「お、おい……お前等?」
 考え過ぎだとは思うが、バッツはその辺りを問いただす為に勇気を持って姉妹に近付いた。

「「ガルルルルルッッ!!!」」

 半径の丁度三メートルを踏み越えた時、野生の獣が咆哮した。犬猫宜しくお頭が退化した姉妹は敵意の篭った視線でバッツを威嚇する。相当に嫌われているらしかった。毛並みと尻尾が逆立ってしまっている。
「参ったね、こりゃ」
「ぐるるるる……っ」「フーー……!」
 飼い犬に手を噛まれるとはこの事だろう。確かに、此処最近、姉妹を蔑ろにし、クルルばかりに感けていたのは事実だ。……だからと言ってこんな可愛い報復手段をとられるとは思わなかったバッツは苦笑する。
 そして……

「随分、威勢が良いじゃないか……?」

 くの字に歪んだバッツの口はとても愉快そうだった。
「「!?」」
 ビクッ!獣になった姉妹が慌てて飛び退いた。本能に訴える危険があったのだろうが、もう遅かった。バッツは既に二人を射程内に収めていたのだ。
「よしよし、遊んで欲しかったんだろ?……良いぜ」
 攻めに回るとバッツは格段に強くなる。姉妹がバーサーカーならば、バッツは魔獣使いをマスター寸前まで修めている。獣の扱いは魔獣使いの得意と致す処だ。

「お手」

「わん!」
――タシッ!
 先ず最初は野犬狩り。イヌ科のファリスは調教師の言葉に即座に反応し、その掌に自分の手を乗せた。
「ね、姉さん?」
「……ハッ!?」
 猫の妹の言葉に漸く自分が何をしているか思い至った犬のお姉ちゃん。だが、気付いた処で何も出来ない。バッツの言葉には体が反応すると言う事が証明されてしまったのだ。バッツはどんどん犬に命令を投げ掛ける。
「お座り」
「わんっ」
「ちんちん、伏せ」
「わふん、わんわん!」
「チャクラ、銭投げ、リジェネ」
「ワオオーーンッ!!」
 …流石は仕込まれた雌犬。その全てを即座に的確に行い、調教師を満足させた。
「よーーしよし。良い娘だ良い娘だ」
「くうぅ〜〜んん♪」
 主人に甘える犬宜しく、頭を撫で撫でされると途端にファリスは身を捩じらせ、その白い腹を見せて服従のポーズを取る。……人間として大事な物を捨ててしまったのかもしれない。

「素直な女の子は好きだな。……お前は、どうなのかな?んん?」
「にゃにゃ!?」
 バッツの次なる目標は雌猫に定められた。
「お手」
「……(ぷい)」
 ……猫は顔を背け、言う事を聞かなかった。
「振られちまったか。……んじゃあ、こう言うのはどうだ?」
 どうやら、野良猫と同じ様にレナは気紛れらしい。素直に聞いて貰えないであろう事は予想済みなので、バッツは変化球勝負へと移行する。バッツは懐から猫じゃらしを取り出し、レナの目の前でそれをちらつかせる。
「!!」
 そこらの草むらに生えている雑草だが、ネコ科の特性を得たレナはこの魔性の植物に逆らえない。
「それそれ」
 そうして、目の前で猫じゃらしの穂である梵天が踊っているのを見ると、レナは条件反射的にそれを迎撃した。
「ニャッ!」
――ねこぱんち
 空を切る凄まじい威力を持ったパンチが猫じゃらしを襲うが、それを捕捉するには至らない。
「ニャ!ニャッ!ニャン!……っ、ハア、ハア」
 …そうして、しつこく玩具の相手をしていると、僅か数分でレナは息を切らしてしまった。瞬発力はあっても持久力は無い様だ。
「ニヤリ」
「ふぎゃあっ!?」
 バッツが危険な顔に変貌する。息を切らした間隙を付き、レナを落とす腹積もりだ。レナもそれに抗うが、動きが鈍った体ではバッツの攻撃を回避する事が出来なかった。
「ほれほれ」
「ぁ……ふ、ふみゃあぁぁぁ……ん」
 ゴロゴロと喉を鳴らして気持ち良さそうにするレナ。バッツが狙った場所は二箇所。喉と、背側の尻尾の付け根。食肉目である限りは例外の無い弱点であり、その特性を得たレナには効果が抜群だ。
「うりうり」
「んなあぁん……にゃんにゃぁん♪」
 バッツの手付きは手馴れたものだ。レナが落ちるには二分ほどしか掛からない。…畜生の調教にもこの男は偉才を放つ様だ。

「きゅうう〜ん……」
「みー……みぃーー……」
 両サイドから犬と猫が迫っている。服従させられっぱなしのファリスはこっちも構ってくれとしきりに泣きそうな目で訴えるし、気持ち良い撫で撫でが中断したレナはもっともっとと強請る様にバッツに体を擦り付ける。
 ……犬猫の調教は成功した。バッツは別段感慨に耽る事も無く、発情した姉妹を冷えた視線で見下ろしていた。
「な……何してんの?」

「「(ビクッ!)」」
「ん?……おう。ちょっとな」
 遅れてやってきたクルルが目の前で繰り広げられている光景に顔を顰める。バッツは別段取り繕う事もせずに返す。しかし、姉妹は恥となるべき部分を見られたと思ったのか、揃って身を硬くした。
「で、これは、一体?」
 喧嘩している相手云々以前に、自分の家の中でこんな意味不明な事をされればクルルとしても気にはなる。
「有体に言って調教……かな」
 何故かそれに答えたバッツは疑問文だった。
「……新手のプレイ?」
「お前にはそう見えるのか?」
 クルルは冗談なのか本気なのか分からない言葉を吐くが、残念な事にバッツにはそんな気は無かった。
「……それってさ、楽しい?」
「いーーや?正直、暇潰しにもならんね」
 バッツの言葉には嘘は無かった。こうなる結果が分かりきっていたからこそ、彼はそんな台詞を吐ける。随分と姉妹を弄んでいる様にも取れるバッツの言動だが、実際はそんな事は無い。寧ろ逆だったりする。
……案外、姉妹が暴走する事を逆手にとっての彼なりの対処だったのかも知れない。

「お姉ちゃん達って……何時からイロモノになったの?」

「「……ふ」」
 だが、そんなバッツなりの算段も水泡に帰した。狙った様なタイミングで猛毒を吐いたクルル。その言葉が耳を通過すると同時に姉妹は優しげな笑みを浮かべる。
『♯』……こんな形をした何かが二人の顔には浮き出ていた。
「「ふ、ふふふ、ふ……」」
 最早、先程までの発情した雌はそこには居ない。群れの中でのヒエラルキーを見せ付ける為に姉妹は得物をしっかりと握り締め、クルルとの間合いをジリジリと詰め始めた。
「うふふふ」
 対してクルルはそんなお局に対抗する為に、今の得物であるブレイブブレードを両手持ちにして不敵に笑う。……今まで一度として敵に背を向け逃げ出したことの無い状態でのブレイブブレードは冗談抜きで危ない。
「うわあ」
 狂戦士と化した姉妹。そしてナイトマスター一歩手前のクルルが激突しようとしている。バッツは修羅場を目の当たりにして血の気が失せた。嘗ての姉妹が見せたそれを超える惨事。ファリスとレナは兎も角、クルルだけはまともだと思っていたのに。
 取り留めない思考が溢れては零れ落ちる。
「あーー、もう!仕方ねえなあ!」
 だが、ここで止まってしまえば本当にチキンの謗りを受ける事になってしまう。バッツは勢いのまま火事場へと突っ込んだ。
「お前等!」
「うっ」「え」
 バッツが躍り出たのは姉妹の前方。ファリスもレナもバッツが止めに入って来ようとは思わなかったのか、反応が僅かに遅れてしまった。
――バン!
 その間隙を見逃さず、バッツは姉妹の鼻っ面数ミリ前に掌を突き出す。そうして、間髪入れずに低い声でこう言った。

「待て」

「わん」「にゃ」
 姉妹は条件反射的に膝を落とし、その場に座り込んだ。主に犬を躾ける時に使われる手段だが、成る程。バーサーカーにも効果があるらしかった。
「ふゆうう……何とか」
 この場を収める事には成功した。バッツは安堵の溜息を吐く。
「お、お兄ちゃん。クルルを……守ってくれた、の?」
 そのバッツの取った行動を自分の為だと勝手に解釈したクルルは熱っぽい視線をバッツに向ける。
「あーー?……さあな。ほれ、往くぞ」
「う、うん」
 だが、バッツは茶を濁すだけだった。クルルは階段を降りていくバッツに付き従い、地下階に向かう。
「……流石にガラフの居城を傷害事件の現場にする訳にはいかんよな」
 ポツリと零したバッツの独白は薄暗い地下の空間に飲まれ消えていった。

「私達……何時まで待つの?」
「あいつが、命令を撤回するまで、かな」
 可愛そうに姉妹は広間に取残され、歩哨に立っている兵士達の視姦に耐えねばならない憂き目に合ってしまうのだった。
「ううぅ〜〜、小便したい」
「私も、トイレに……っ」
 結局、姉妹はその場に一時間以上拘束され、バッツが計画した石像狩りには参加出来なかった。

――そして、夜 バッツ私室
「うえぇ……け、獣臭え!」
 自分の体臭を嗅いで、顔を顰めるバッツ。甘ったるさの中に生臭さが同居する、鼻が曲がりそうな程の強烈な臭いが染み付いている。
「あーー、畜生。何だって俺が下の世話をせにゃならんのだ」
 『待て』が出来たご褒美をくれてやったご主人様は割に合わない労働に文句を垂れる。体に染み付いた濃い臭いは風呂に浸かったとしても簡単には取れそうにない。
「スー……スー……」「クー……クー……」
 姉妹は昼間の格好のままご主人様を囲う様に夢の世界を周遊している。お胎一杯にバッツ謹製のミルクを平らげた二人は下の口からそれを垂れ流していた。
「そろそろ、俺も動かなきゃ拙いかな」
 煙草の煙を揺らしつつ、今後自分が動くべき行動を頭に巡らすバッツ。矢面に立つのは構わないが、そう何度も致命的な実害が回ってくるのは堪らない。今、自分が陥っている状況がそうだった。
 ……そこから抜け出す為に。バッツは眠るまでひたすら考え続けた。
「んうぅ」「あんっ」
 時折聞こえてくる雑音はバッツを惑わせようとしているかの様だった。
――翌日 バル城一階
 結局、昨日の石像狩りはバッツが目論んでいた成果には届かず、今日もまた昔オーディン様が居た地下階で職業訓練だ。
 クルルは一人で朝食を摂り、その後は暫くの間自室で考え込んでいた。……僅か一日で昨日の出来事は忘れ去る事は出来ない。かなり本気で自分を懲らしめ様とした姉妹とまた顔を合わすと思うと憂鬱で仕方が無い。
「はあ……行かなくちゃ」
 どれだけ嫌でも出勤時間が迫ってきているので、クルルはそれを甘んじて受けなければならない。昨日はバッツが庇ってくれたが、今回もそうであるとは限らない。最悪、腕の一、二本は覚悟する必要もある。
「……負けないもん」
 大きく深呼吸をし、クルルは自室を出て行く。彼女はファリスとレナを完全に敵視していた。

「おいおい、そりゃ幾ら何でも酷いぞ?お前だって相当アレな癖に良く言うぜ」
「何言ってるの!私は未だまともです!姉さんの方がよっぽどじゃない」

 姉妹は先に来ていた。クルルは二人を警戒して中々前に足を踏み出せなかった。
「ん?……よう」「あら、お早う」
 が、姉妹はクルルの存在に気付き、朝の挨拶を交わした。
「え……あ、う……お、おはよう」
 流石にクルルとて動揺を隠せない。昨日あんな事があったと言うのに姉妹はあまりにも普通だったからだ。ジョブも元に戻っている。
 怒っている素振りも無ければ、何かを企んでいる様にも見えない。出会いの瞬間にフレアやホーリーが飛んでくるモノと思っていたクルルは拍子抜けしてしまう。
「お前はがっつき過ぎだって。バッツが呆れてたじゃねえか」
「ああ言う場で自分を隠したってね。それならせめて自分に忠実になりたいわ」
「・・・」
 ……何やら、頗る機嫌が良さそうだ。昨日、別れた後に何があったのかは知らないが、あれだけの姉妹を駆り立てた怒りが何処かに行ってしまった事を考えると、その何かが気になるクルル。心なしか、二人のお肌は艶々している様に見えた。
 湧いた好奇心に逆らえなかったクルルはその事について聞いてみた。
「何かあった?無茶苦茶機嫌が良さそうだけど」
 姉妹はそんなクルルの質問に多少にやけながら答えてやった。
「あーー?あ、ああ……まあ、何だ。愛を貰ったんだよ」
「もう、違うでしょ姉さん。愛を注いで貰ったんでしょう?」
「え」
 クルルにとっては聞き逃せない一言だった。
「馬鹿、お前直球過ぎ!もっと上手い言い方あるだろ。此処には部外者も居るんだぜ?」
「姉さんだってそうじゃない!……精気を吸ったとでも言えば良いのかしら?」
 仲良くじゃれあう姉妹を見ていて、気が遠くなるクルル。部外者……と言うのが誰を指しているのかは分からない。相変わらず、城の広間にはバル城の兵士はお勤めをしているのだ。
 だが、クルルはその言葉が自分に向けられたモノと思ってしまった。
「何よ……それ」

 気が付いた時にはクルルは闇を孕んだ言葉を吐いていた。
「「え?」」
 ファリスもレナも、そのクルルの変貌振りに短い言葉しか出せなかった。自分達が言った言葉が失言だった事に気が付いていない。
「お兄ちゃんとエッチな事してご機嫌な訳?馬鹿じゃないの……?」
 言葉で人を殺す事をやってのけそうな迫力と凄みが今のクルルにはあった。14歳の少女のモノとは思えないオーラが強烈に圧し掛かってくる。
「大人ってどうしてこうなのかなあ。たったそれだけの事で満足してるの?単純……過ぎるんじゃない?」
 が、姉妹はそんなオーラに負けずに気丈にも言い放った。クルルの顔が歪む。
「それが……悪い事なのかよ?」
「私達も人並みに性欲はあるわ。欲しくなるのは自然の摂理でしょうに」
 前々からバッツに気があった姉妹が今の関係に落ち着いたのはクルルがパーティー入りするより以前の話だ。回数こそこなしていないが、クルルが加わった後も姉妹は継続的にバッツに抱かれているのだ。クルルはそれに気付いていなかった様だ。
 だからこそ、今になって突き付けられるその事実は重たかった。
「酷いなあ……私から、奪うんだ」
「?……何言ってるんだ?こいつ」
「さ、さあ」
 ぼそぼそと呟くクルルの言葉は姉妹の耳には入らなかった。ただ、何か無視出来ない事態が起こった事は分かったので、二人は慌ててクルルに駆け寄った。
「寄らないでよ!!」
 だが、クルルは大声で叫んで二人の接近を拒絶する。
「お兄ちゃんを誑し込んで取り上げる気?…そんなの、やだよ」
「はあ?おいおい、考え過ぎだぜ。そもそもバッツがそれしきで落ちる訳がねえだろ」
「とっくにそんなのは試してるわ。寧ろ、逆なのよ?」
 今のクルルは良い具合に闇に捕らわれていた。嫉妬やら焦燥やら孤独感が言葉に姿を変えて撒き散らされている。それを止めようと姉妹は必死にクルルを宥めた。だが、無駄だった。

「ずるいよそんなの……あたしは、独りぼっちなのに……!」

「「!」」
 その言葉で姉妹は漸く合点が行った。必要以上にクルルが自分達を敵視するのは、バッツを盗られたくなかったからだ。
旅を続けるにつれ、姉妹やクルルは多くのモノを失った。肉親がその最たる例だろう。姉妹は父親を、クルルは祖父を失った。だが、ファリスとレナは姉妹であるが故にこれからを共に歩む事も出来るが、クルルにはそれを果たせる人物が居ない。
 だからこそ、クルルは自分に手を差し伸べたバッツに肉親以上の親愛の情を向けていた。自分の味方をし、擁護してくれる存在を求めていたのだ。
「ファリスもレナも家族同士なのに、どうしてバッツが欲しいの?欲張りだよ……」
「「・・・」」
 掛ける言葉が見つけられない二人は俯いて、黙ってしまった。確かにクルルは幼い部分が残っているが、そんな彼女がまさかこれ程に深い闇を抱えていたとは誰にとっても予想外だろう。
 端から見れば子供の我侭だが、その子供が唯一の肉親を亡くせばそれも頷ける。それを許容出来る程にクルルは大人では無かったのだ。
「お兄ちゃんは……バッツはあたしのだよ?お姉ちゃん達は消えてよ!!!」
 もうまともでない状態にいる事は間違いない。クルルは首をぶんぶん振って泣き喚く。それを止める術を姉妹は持たなかった。

「好い加減にしろ」

「「あ」」
――ゴンッ!
「いたいっ!」
 が、それを成し得る人物は存在した。姉妹はその人物の行動を目の当たりにし、信じられない様な目をした。
「全く……一応、年上だぞ?むやみやたらに喧嘩売るなよな」
 何処からともなく現れたバッツは暴走していたクルルに拳骨を喰らわせた。かなり強くやったのだろう。頻りに手の甲を擦っている。
「な、何するのよぅ!」
「何をする……じゃねえ!どっからどう見てもお前に非があるだろうが!」
「「おお」」
 子供を叱る父親の様に威風堂々とした出で立ちで、クルルを怒鳴りつけるバッツ。姉妹はそんな頼もしいバッツを素直に格好良いと思ってしまった。
「今迄は巻き込まれるのが御免だから静観してたが、今回ばかりは見逃せん。ちょいとばかり、子供っぽ過ぎやせんか?お前」
 腕を組み、むっつりと仁王立ちするバッツには普段の貧弱なイメージはまるで付随しなかった。
「な……何で打つのよ?お兄ちゃんはクルルの味方じゃなかったの?」
「あ?何を勘違いしてるんだ、お前」
 頭のたんこぶを撫で擦りながら、クルルは涙目でバッツの擁護を得ようと必死になる。だが、バッツはそれを突っ撥ねた。
「え……」
「お前が俺にどんな夢想をしていたかは知らん。だが、良く考えろ。確かに味方ではあるが、俺はお前の親父でも肉親でもないんだぜ?」
 確かに自分がクルルに対して世話を焼いていたのは事実だが、それに過剰に反応されても困る。バッツは攻めの姿勢を崩さない。
「でも、お兄ちゃんはあたしに優しかったじゃないのよ!」
「だから懐いたか?悪いが、俺はお前の全ては背負えないぜ」
「っ」
「判るだろ?お前の手を引く事は出来る。でも、それ以上は俺の範疇外。お前に縛られるのは御免だ」
 傷心の時期にあれこれ世話を焼いてくれる年上の男に親愛の情を持ったのがクルルの不幸だった。その男は他人に踏み入られるのが大嫌いな臆病者だったのだ。普通ならば、艶っぽい話の一つも出てきそうだが、世の中上手くいかない。
「俺達がどうして寄り合い所帯になってるか忘れてないよな?お前ばかりに感けてたら旅が出来なくなる。エクスデスを倒すのも夢のまた夢さ」
 それが事実だ。バッツはリーダーとしての任を果たそうとし、クルルはそれを勘違いした。どちらが悪い訳ではないが、クルルにとっては悲劇だった。
「ぅ、っ……ふえっ……!」
 刃の様なバッツの言葉にとうとうクルルは泣き出してしまった。今迄自分を守ってくれた人物が掌を返して自分を叱責している。もう何も考えられなかった。
「俺の仕事は、お前のご機嫌取りじゃない」

「お兄ちゃんの馬鹿!!!」
 クルルは脱兎の如く駆け出し、自室へ続く階段を上っていった。
「お、おい!クルル!」
「捨て置け」
「そんな!……良いの?」
「ああ。此処まで寂しがり屋……否、依存心が強いとは予想外だったぜ」
 姉妹は走り去ったクルルに心を砕くが、バッツはそれを無視する様に二人に言う。今は何を言っても無駄だろう事が判っているからだ。それに、頭を冷やす時間も必要だろう。
 バッツはクルルの内面を読み違えた。自立心が強いと思っていたのに、実は逆だったのだ。子供心がそうさせていると勘繰ってみたのが運の尽き。気が付けば、クルルはバッツにベッタリだったのだ。それが今になって齟齬となっている。
「……行くぞ。後でフォローは入れておくからさ」
「お前がそう言うなら……」「まあ、良いんだけど……」
 バッツは姉妹に地下階に下りる様に合図を送った。少し、釈然としない面持ちで姉妹はそれに従った。

「俺がアイツに甘かったのは事実だけど、甘やかしてばっかりってのも違うよな。間違ってると思ったら叱らなきゃ。碌な大人に成らねえ」
バッツは姉妹に背を向けて、そんな事を漏らした。
 両親を失った経験があるバッツはクルルの気持ちは痛い程分かっていた。世界にただ一人だけ残される侘しさ。それは子供心には大きな傷跡となる。だが、どれだけ嘆いた処で故人は戻らないし、その代わりを見つける事等出来ない。
 それを他人であるバッツに求めたからこそクルルは歪んでしまったのだろうが、それが理由で周囲に迷惑を掛けるのはそれ以前の問題である。キツイ言い方だったが、バッツはそれをクルルに判って欲しかったのだ。
「いや、忘れてくれ。何か……らしくないわな」
 バッツは自分が吐いた言葉を慌てて取り消した。恥ずかしい気持ちが湧いてしまったのだ。だが、姉妹はそんなバッツの背中に優しい口調で語りかけた。
「良いと思うぜ。きっと、ガラフも納得してくれるだろ」
「格好良かったわよ。貴方は良い父親になれるわ。お世辞抜きでね」
「……さんきゅ」
 照れを含ませつつ、バッツは地下の広間を奥へ奥へと進み始める。昨日の遅れを取り戻す為に、姉妹はバッツについて行った。

――深夜
「・・・」
 あの場所から逃げ出し、自室に篭ったのは半日程前の話だ。止めようと思っても止められない塩辛い水を垂れ流しながら、ベッドに身を横たえている裡に眠ってしまったのだろう。陽はとっぷりと暮れて、辺りは闇に包まれていた。
 乾いた涙の痕に枕カバーが張り付いて気持ち悪い。クルルは目覚めたばかりの頭と体を何とか稼動させる。
「――はあ」
 魂が抜け出そうな重い溜息が出てきた。不貞寝を決め込んでその事を忘れようとしたが、そう都合良く人間の心は出来ていない。寧ろ、時間が経ってしまったからこそ、先程の事はクルルの心を血塗れにしている。
 ……バッツに拒絶された事。どれだけその事実から逃避しようとしても、結局は逃避しきれずに冷静になった頭でその事実を再認識させられる悪循環。
「お兄ちゃん……」
 世界の全てが色を失ってしまった様だ。クルルはギュッと自分で自分を抱き締める。……自分を律し、保っていた基盤が壊れてしまった。誰かに縋らなければ、守って貰わなければ立ち往かない弱い自分がここには居る。
 そんなクルルは見た目以上に小さく、幼く、また脆く見えた。

「・・・」
 もう、クルルは自分が何をしているのかさえ判らない。取り敢えずは生きている様だが、その感覚すら曖昧で、またどうでも良い事だった。だが……何かを執拗に求めている気がする。クルルは何かに操られた様に灯りの消えた城内を闊歩し、その場所を目指す。
 ……そうして辿り着いた場所はあの男の部屋だった。
『今なら大丈夫。中に人は居ない』
クルルは室内の状況を気配で確認すると、おもむろに取っ手を掴んで中に入り込む。鍵が掛けられていない事が直感的に判った。部屋の主はきっと、あの姉妹の尻を追いかけているのだろう。

「煙草臭いのは、相変わらずだよね」
 ……どうしてか、またバッツの部屋に来てしまった。
明かりが消された真っ暗な部屋だった。クルルの第一声は無言に飲まれ、消えていく。バッツの部屋は換気をしろと言いたくなる程に煙草の臭いが充満していた。
 心に空いた空洞に風が吹き抜ける様でとても寒い。暗い室内でクルルは成れた足取りでバッツの使っている寝台に歩いていく。
「ハア…ハア……っ」
 一歩歩く度に息は上がって、動悸は激しくなる。汗が自然と噴出して、煙草臭い部屋を甘酸っぱい香りで染めていく。自分の衣服を脱ぎ散らかしながら、バッツのベッドに倒れこむクルル。
思考すればループする。何も考えない様にすれば、寒さが身も心も凍て付かせる。その悪寒から一時でも逃れる事をクルルは望んでいたのだろう。そうして、寒さから逃れる術は一つだけだ。
「ぁ、あふっ……!」
……何時もの様に、没頭するだけだった。

「んふっ、ふうぅ……」
 何かに憑かれた様に無心に股間を擦り続けるクルルは美しくもなく、可憐でもなく、ただただ危うかった。
「んああぁ……あ、あたし……嫌われちゃったよぅ」
 秘唇の入り口を三本の指で激しく擦りたてる。もう完全に発情した少女の女は絶え間無い疼きを与えてくる。そうして、疼きを慰める程に体は火照り、孤独感や虚無感を体の外に追い出す。
「こんなに……こんなに、求めてるのにぃ」
 グチュグチュと粘ついた音が室内に響き渡る。甘い痺れにも似た快楽の波が擦る場所から波紋の様に広がっていく。だが、どれだけ慰めた処でその疼き……否、乾きは癒される事は無い。
「お兄ちゃん……お兄、ちゃん……!」
 自分が甘え、そして懐いていた男。その人物の顔を思い浮かべ、抱かれる事を夢想しながら激しく指を動かすクルル。泡立つ愛液はベッドに零れ、染みを作っていく。
「バッツ……!」
 擦るだけに留めていた指を浅く膣に挿入すると、クルルの体が爆ぜた。勝手に喉を通過する好いた男の名前。愛液は飛沫となって噴出し、ガクガクとクルルの小さな体は痙攣した。
「嫌、だよ……クルルを、捨てないでよお……っ!」
 浅い絶頂の後に襲ってきた耐え難い絶望感に耐え切れなくなり、クルルはバッツの枕に顔を埋めて泣き出した。
「俺を、呼んだか?」

「ふえっ!!?」
――ガバ!
 クルルは途端に跳ね起きた。この場には居ない筈の男の声が聞こえてきた。
 そうして、部屋全体を見回すと、突然壁の燭台の一つに火が点った。
蝋燭の炎に照らされた仄明るい壁。バッツはそこに背を凭れながら立っていた。闇と壁に同化しながらクルルの痴態を観察していただろう事は間違いない。
「ど、どうして……?」
「ここは俺の部屋だぜ?……って言うか、この時間なら誰だって部屋で寝てるだろ」
 完全に気配を消していたバッツの存在をクルルが気付ける筈は無かった。バッツはクルルが自分の部屋にやってくる事を見越していたのかもしれない。
 真実は判らないが、バッツは冷酷な眼差しをしながら寝台のクルルへと近付いて行った。長い影がクルルに覆い被さって来る。
「!?」
「今迄は見てみぬ振りしてたけど、現行犯ともなると見逃せないよな」
 怯えを多分に含む顔を晒し、クルルは口内に溜まった唾を飲み込んだ。感情が伺い知れない、それでいて無表情でもないバッツの顔はクルルの不安を煽る。
「やっぱり、気付いてたんだ」
「当然だろ。直ぐに判ったさ。ファリスともレナとも違う雌の香……お前以外は考えられない」
 
 そうして、バッツは自分の寝台に横たわるクルルに牙を剥く。少女はバッツの剣幕に押され、抵抗する事を封じられる。
「結構、こっちは迷惑してたんだがな」
「あたしを……どうする、気なの?」
 その台詞がバッツの顔を醜く歪ませた。此処に至って聞く必要も無い事を聞くクルルが可笑しくて仕方が無い。バッツは素早くクルルを組み伏せる。
「ハッ……判ってるんじゃないのか?」
「ひゃんんぅ!?」
――チュグ
 少し乱暴に手をクルルの股座に差し入れると、指の先端に果実を潰した様な感覚が伝わってくる。クルルは吃驚した様に声を上げて暴れるが、バッツを撥ね退ける事は出来なかった。
「イケナイ娘だな。他人の部屋でセンズリ扱いて、ご満悦って訳か」
「ちょ、お兄ちゃん……痛い!」
 生暖かい液体が己の指を汚している。クルルの秘唇から溢れるサラサラした愛液を指に絡め、やはり乱暴に擦り上げてやった。気持ち良さより苦痛が先立つクルルが焦った様に言う。
「何言ってる?お前は俺の名前を呼んでた。……こうされたかったんだろ?」
「ああァん!!」
 が、言った処で手遅れだった。バッツの部屋に忍び込んだ時点でアウトだったのだ。クルルは拘束された捕虜宜しく、辱めを受けるしかなかった。
「だから俺がやってやるよ。……良かったな。俺が部屋に居て」
「ひっ、ぃっ!ぎっ……アゥン!!」
 部屋の主はクルルが自分を想って自慰をしていたのを当然判っている。無遠慮に擦り上げるその指使いは性感が未熟なクルルには痛いだけの代物である筈だった。
 しかし、実際はクルルのボルテージは上がり続け、苦痛の声を混じらせながらも甘い喘ぎすら漏らしている。滴る愛液はその量を増して、バッツの手を汚していった。
「ふん……汁が垂れてきやがった。お前、属性は受けか?」
「や、やあ……!ぁ、ああ……止めてよう……」
 ……そう考えれば納得がいく。多少手荒くされた方が感じる性質なのかも知れない。クルルは弱々しく拒絶の台詞を吐くが、別にバッツの手を拒む様な素振りは見せなかった。バッツは不覚にも嗜虐心が刺激されてしまった。
「止めてだと?こいつは昼間のお仕置きだよ。もう少し、罰を与えなくちゃあ、なっ!」
「アヒィ!!!」
 昼間は拳骨だけに留めたが、それで今迄の事がチャラになると思っては困る。さっきのは躾。これはそれらに対する代償行為だ。
 バッツはトロトロになった少女の膣の内側に指を浅く差し入れた。そうして、恥骨の下を強く指の腹で引っ掻くと、クルルは官能の悲鳴を漏らしてバッツに抱き付いた。
 自分の腕の中でビクビク痙攣するクルルの姿を見ているともっと気持ち良くしてやりたくなってくるバッツ。逝っている最中のクルルに更なる追撃を加える為に、クリトリスを軽く摘んでやった。
「逝ったか?……マセ餓鬼が。もっと鳴かせてやる」
「やだ……やだぁ!もう止めてえ!」
 クルルが嫌悪の混じった涙を零す。バッツを好いていたのは確かだが、そんな淡い乙女の恋心を破壊する様に苛烈に快楽を叩き込むバッツにクルルは許しを懇願する。
しかし、そんな言葉は通用する筈も無い。バッツは愉快そうに顔を歪めて哂った。
「ははははは。駄ーー目♪」
「いやぁ……!」
 ……クルルはそんなバッツに恐怖しながらも、腰はお仕置きを強請る様に勝手に動いてしまっていた。

――数十分経過
「ヒグッ、グス……ううぅぅ。もう、許してよう……っ。こんなの、やだぁ……」
 剥かれ、挟まれ、潰されて、肥大して赤黒く変色したクリトリスはバッツに弄ばれ、玩具にされた事を語っていた。
 体は貪欲に快楽を欲しても、心は満たされないままだった。こんな恥ずかしい事を好きな男にされ続ければ、心が折れてしまうのは必定だ。クルルは嗚咽を漏らしながら行為の中断を求めていた。
 どんな性質の女であれ、こんな色気の無い一方的なされ方は厭に決まっている。
「そりゃお前次第だな」
「……えっ?」
 バッツがニヤリと笑った。その言葉を待っていた様に、ズイっとクルルに顔を寄せ、耳元で囁く。
「もう、アイツ等と喧嘩しないか?」
「・・・」
「ちゃんと御免なさいって謝れるか?」
 もう十分に反省した……否、そうでなくても良い。この責め苦が辛いものと認識したのならばそれで十分。バッツは叱れて泣いている子供を諭す様に、優しく言い聞かせた。
「……返事は?」
「ご、御免、なさい……」
 そうして漸く素直になったクルルは涙を瞳一杯に溜めながら頭を下げる。
「ま、良いだろ。俺じゃなくて、ファリスとレナにその台詞は聞かせてやるんだな」
 ……そうして、漸くバッツはクルルを開放した。汁塗れなった両手をベッド脇に置いてあったタオルで拭いて、一服する為に煙草を咥える。また部屋が煙草の匂いで包まれた。

――じーーーーっ
「……あん?」
 煙草を吸い切り、灰皿で火を消した時にバッツはクルルが自分に目線で何かを訴えているのに気が付いた。
「な、何だよ」
「あ……ぅ//////」
 何故だか、強烈なデジャヴュに襲われた。こんな視線を向けられた事が何度かあった気がする。クルルは火照った体を持て余す様に、身をくねらせながら呟く。

「えーっと、もう、終わり……なの?」

「・・・」
 ああ、そうだ。だからさっさと自分のお部屋に戻りなさい。
 そんな言葉を掛けようとしたバッツだったが、途中で止めた。もう何度も経験しているパターンだから、何を言おうとも無駄なのは百も承知。その証拠にクルルは潤んだ女の視線と共にバッツに催促した。
「ぇ、エッチなお仕置き……終わっちゃったの?」
「やっぱ、こうなるのね」
 聞こえない様に小さく呟いたバッツは溜息と共に天井を見上げる。
 こうなる事を半ば知りつつも構い続け、自分からクルルの内面に踏み込んでしまった結果だとバッツは或る意味諦めた。
 ……他人には深く踏み込んで欲しくない。しかし、自分は平然と他人の内部を踏み荒らしている。その結果がこれなのだ。ファリスやレナの一件で懲りたと思ったのにまた同じ事を繰り返す自分を殴りたくなった。
 が、そんな事をした処で現状は変わらない。バッツは真剣な顔でクルルに問う。
「お前は……俺と、したいのか?」
「う//////」
 その赤くなった顔を見れば、答えはもう分かっている。お仕置きの意味を兼ねてクルルを懲らしめたが、そのやり方はやはり拙かったのだろう。バッツに気持ち良くされて、体の疼きは治まっても、今度は心の方が繋がる事を求めて已まない。
 間違い無く寂しがり屋のクルルは勇気を振り絞って言った。
「したい、よ。ずっとそう思ってた」
「そうなんだろうな」
 そうでなくては男の部屋で自慰に耽る事はしないだろう。
「うん。だからさ……お兄ちゃんがお姉ちゃん達にしてる事を、あたしに//////」
 クルルのその瞳はマジだった。このまま食べてくれとでも言いそうな……否、実際そうしてくれと遠回しに言っている。
「ふう……」
 このままではガラフに合わせる顔が無い。寧ろ、今のバルの実情を鑑みるに、婿養子にされてしまう可能性が大いに有り得る。……そうなっては身の破滅だ。本気でファリスとレナに殺されかねない。
 自分から踏み込んだ癖にバッツは額に脂汗を浮かべて思案していた。
「お兄ちゃん?」
「くっ」
 クルルが心配そうに顔を覗き込む。その顔を見ていると自分の酷薄さ加減に腹が立ってくる。だが、今更この捻じ曲がった性格を矯正しようとは思わないし、直せる類のモノではない事はバッツ自身が承知している。
「あー、あのな、クルル」
 そうしてバッツはクルルから逃れる為に、自分の本心を語りだした。
「俺がどうしてお前に世話を焼いていたか分かるか?」
「え?それは……っ」
 少しだけ、バッツの顔は怖かった。まるで、罪の告白でもする様に覚悟が据わった目付きと声色。クルルは声を震わせ、視線を泳がせながらバッツに言った。
「クルルが……おじいちゃんの孫、だから」
「ああ。そうだ。だけど、それだけじゃないんだよな」
「ええ!?」
 信じられないと言った感じでクルルが叫ぶ。だが、それは事実で、バッツはクルルがそう言う反応をする事は予め知っていた様に淡々と言葉を紡ぐ。
「お前にとっちゃ、俺がお前を構う理由はどうでも良かった筈だ。そうだろ?」
「うん……あんまり、考えなかったかな」
「確かに、お前の言う通り、ガラフに借りがあったからそれを返す意味合いであったのは間違いない。だけど、俺はそれ以外の目的もあったんだ」
 バッツは仲間への義理に堅いのを知っていたので、クルルはそれを疑うと言う考えには至らなかった。だが、バッツはそれを含めて自分なりの打算で行動していた。根が素直なクルルはすっかりそれに騙されたのだ。
「それって、何?」
 気になるのはその腹にあった一物。クルルは物怖じせずにバッツを問い詰める。バッツは若干苦い顔してそれを語った。

「あいつ等から……ファリスとレナから、一時でも離れたかったんだ」

 それが理由だった。
「巻き込まれた結果……ひょっとしたら、自分で撒いた種なのかも知れないけど、俺にとってあいつ等は重かったんだよな」
「・・・」
「だから、お前に付きっ切りになれば、煩わしさからも開放されるって思った。
……でも、結局駄目だった」
 つまり、バッツのわが身可愛さこそがパーティーに波乱をもたらした元凶だと言う告白だった。
 それが原因で姉妹は荒れるし、クルルは有頂天になり、姉妹に喧嘩を売る始末。関わりたくないから静観していたが、ここまで事が大きくなっては流石にバッツはリーダーとして動かざるを得ない。此処最近の一連の騒動がそれだ。
「罪悪感はあったが、結局俺はお前を都合の良い隠れ蓑にしようとしただけだ」
「お兄、ちゃん」
 突然告げられた懺悔にクルルはどうして良いか判らなくなってしまった。

「……済まなかった」
 そうして、バッツは謝罪を籠めて深々と頭を下げた。
 年端も往かない少女を自分の目的に利用しようとした事実がある。こんな事を告白されれば、抱かれる気なぞは失せる筈。
 ……バッツは嘘は言っていない。しかし、やはり計算図で動いていた。
「一つ、聞かせてくれるかな?」
「何だ?」
 頭を上げたバッツを待っていたのは怒りで歪んだ顔ではなく、何かを見定めようとするクルルの真剣な顔だった。幼い顔付きながら、そこには風格の様なものが漂っている。
「言いたい事は分かったよ。……お兄ちゃんはさ、それでもあたしの手を引いてくれたよね」
「・・・」
「お兄ちゃ……バッツは、今でもクルルにそうしたいって思う?」
「む」
 そんな言葉がバッツの耳に飛び込んで来る。何だってそんな事を聞いてくるのか分からなかったが、思わず笑いそうになってしまった。愛想を尽かされるのはこちらの方だと言うのに。
「まあ……お前がそれで良いって言うなら、な」
 バッツは自分の胸に手を当てて、答えを尋ねた。……嘘を吐く場面じゃない。そう思い至ったので素直に頷いた。
「嫌いになってない?あたし、お子様だし、素直じゃないからちっとも可愛くないのに」
 クルルはいじらしく、それでもバッツの反応を気にしながらチラチラと視線を向ける。バッツは態度を崩さず、良く響く声で語った。嘘は含まれない本気の言葉を、だ。
「嫌いな奴に世話を焼けるか?確かに打算とか恩はあったけど、お前は相変わらず危なっかしいからなあ」
「じゃあ、あたしを……」

「利害的関心を捨てても、お前は守らなきゃいけないって俺は思う。お前の事は嫌いじゃないしな」

「良かった……」
 その台詞が吐かれたと同時にクルルは目を輝かせた。
 ……それが一番大切な部分だ。確かに腹に含む物はあったが、それでもバッツはクルルに手を差し伸べ続けた。そうして生まれた絆をバッツ自身は否定していない。それが確認出来たクルルは力一杯バッツに抱き付いた。
「お兄ちゃん!」
――ガバッ
「うお!?」
「良かった……良かったよぅ」
 ヒシと抱き付き、胸板に顔を埋めるクルルは歳相応の女の子に見えた。
「な、何が……お前、何で俺を突き放さない?」
「どうして?そんなの、どうだって良いよ。お兄ちゃんは未だあたしを見てくれてるんだもん」
「う……え?」
 バッツの目論見、破れる。子供だと思えるが、その度量の広さと愛の深さは侮り難し。確かにバッツはクルルに懐かれていると思っていたが、その度合いは彼の予想を超えていた。そんな謀等はクルルにとっては瑣事だったのだ。
「お兄ちゃん……ねえ、クルルの寂しい心を慰めてよぅ」
 愛想を尽かす処か、クルルは自分が未だバッツに捨てられていないと思い込み、激しく彼を求めだした。……捨てるも捨てないも、バッツはクルルを恋愛対象としては見てはいないのだが。
「し、知るか!……お仕置きは終わったんだ。後は一人でしろよ」
「酷いよぅ!あたしを散々嬲って泣かせたのはお兄ちゃんなのに……」
 グスグスと鼻を鳴らしてクルルは泣き始める、その様子はバッツにとっては好ましくなかった。
『……もう、逃げ場は無い』
 そう考えると、今まで守ってきた心の平穏だとか距離感だとかが馬鹿らしく感じられて来るバッツ。
「こりゃあ……手遅れだな」
 泣き落としに弱い訳では無いが、こうなってしまった以上はもう深く関わらざるを得ない。どうせ姉妹とも関係を結んでしまっているのなら、此処でクルルと繋がったとしても大した問題にはならない気がする。
 ……実際は大問題なのだろうが、そう考えなくては今のバッツは正気を保てない。
「ふうう」
 そうしてバッツは決断した。迷いを断ち切り、自分自身に念を押す様に呟く。
「俺も、楽しむかな。……今をさ」
 バッツは益荒男だった。
「お前がしたいって言うなら、付き合ってやっても良いぜ?」
「あ……」
 腹を決めたバッツの行動は早かった。クルルの髪を結っていた髪留めを取り去った後に、
 そっと背中に腕を回して優しくベッドに寝かせてやる。一瞬、身を硬くしたクルルだったが、直ぐにバッツの手並みに身を任せた。
「でも、後になって激しく後悔する様な気がするんだがな、俺は」
 髪を下ろし、寝台に身を横たえたクルルは普段とは別人の様に大人びている。
 こうしてじっくり眺めるのは初めてだが、やはりと言うかなんと言うか、クルルの体は子供のそれだった。膨らみかけの乳房は両手に隠されて見る事は出来ないが、これからされる事を期待する様に胸は激しく上下に揺れていた。
 腕だって脚だって余分な肉が一切無い、貧相な体。女性特有の脂肪の層が殆ど無いクルルは丸みを帯びておらず、鎖骨やら肋骨が浮いて見えている。きっと抱き締めればそれが食い込んで痛いに違いない。
「そんな事……ある筈、無いよ」
「へえ?そりゃ、どうして」
 何故だが臍を曲げた様に言うクルル。その膨らんだほっぺたが何だか可愛らしい。バッツは思わずぷにぷに頬を突っつきたくなったが、結局止めた。クルルが何を言いたいか判ったからだ。
「あたし、バッツが好「はい、そこまで」
 思った通りだった。バッツはクルルの唇に人差し指を添えて強制的に黙らせた。
「こう言う時に言う言葉じゃないぞ?それは」
「……そう、なの?」
「ああ。そうだ」
 クルルが釈然としない面持ちで聞いてくるが、バッツはそれだけ言って会話を終了させた。好きだ、とか愛しているとかそんな言葉をバッツは聞きたくなかった。ベッドの上で語られるそれはどれだけ信憑性があるのかが疑わしい。
 だが、少なくともその気が無くてはクルルだって股を開いたりはしないのもまた事実。敢えてその部分をごまかすのはファリスやレナを抱いた時と同じだ。バッツにだって矜持があるのだ。
 ……否、相変わらず素直に成り切れない、若しくはクルルのそれを受け入れるだけの勇気を持っていないだけなのかも知れないが。
「余計な言葉は要らない。お前は俺が欲しくて、俺はそれに付き合う。それで良いだろ」
「……?」
 バッツはそう言う事にして欲しかったのだが、残念ながらクルルはそんな複雑な男心を理解出来ていなかった。

「さて……往くかい」
 自分の意志でパーティーメンバーを喰おうとするのは初めてだが、ただそれだけだ。やる事は何時もと変わらず、クルルを満足させるだけ。別に特別なものが心に湧いたりはしないバッツはさっさと終わらせる為にファスナーを下げ始めた。
――ブルン
「わっ!」
 そこから現れたのは少しだけ硬くなった半立ちの男根だった。クルルはまともに男性器を見た事が無いのか、ちょっとだけ吃驚した声を出す。
「こ、これがお兄ちゃんの?」
「そうだけど……」
「そうなんだ……へえええ〜〜」
「あ、あんまり見つめんといて//////」
 物珍しそうに様々な角度からブロードソードを覗き込むクルルにバッツは赤面した。こんな羞恥プレイは初めてなので厭でも声が上擦る。
「恥ずかしいの?……クルルは裸なんだよ?我慢して」
「そうは言っても、なあ」
 ぼりぼり頬を掻きながら視線を脇に逸らせるバッツはかなりの気拙さを味わっていた。だが、クルルはそれとは逆に好奇心が募っていき、悪意も他意も無い純粋な興味本位でそれをバッツのそれを指先で小突いた。
「む」
「うわっ、ピクン、ってなった」
 急な刺激にほんの少し男根が跳ねた。それが面白いのかクルルは目を輝かせながら、バッツのそれを好い様に突っつく。
「お、おい……っ」
 こんな良い歳になって、子供に男性器を玩具にされるとは思わなかったバッツは狼狽しつつも、何故か止めろとは言わなかった。案外、息子が刺激を欲しているのかも知れない。
「ねえ、お兄ちゃん?」
「な、何だよ」
 気が付けば、クルルが顔を覗き込んでいた。調子に乗った彼女は更なるお願いをバッツに突き付ける。
「に、握って良い?……コレ」
「お、お前……」
 そのクルルの無邪気さにバッツは思わず顔を引き攣らせた。
 子供に軽々しく握らせて良いモノではないが、女の性に目覚めつつある彼女がこれから厭と言う程に世話になる代物。……それを無意識に求めているのかも知れないとそんな都合の良い考えが頭を過ぎった。
 バッツは恥ずかしかったが、そう思い込む事で自分を納得させた。それに、どうせ止めても無駄だろうからだ。
「はあ……好きにしな」
「う、うん」
 クルルは若干緊張した面持ちでバッツの柔らかいモノに手を伸ばす。そうして、それを白魚の様な指で包み、優しく握り締めた。
「ぐ……!」
「あ……ゴメン。痛かった?」
「いや、平気だ。でも、一応丁寧に扱ってくれ。か弱い場所だからな」
「判った。……うわあ、凄い脈打ってる」
 僅かな刺激が襲ってきて、バッツが呻く。強くやりすぎたと思ったクルルは慌てて力を緩めるが、バッツはそれが気持ち良かったらしい。その証拠に血がどんどんと下半身に集まってきている。クルルはその血流を掌で感じ、嘆息した。
「ピクンピクンって……お、大きくなってるよ?クルルの手の中で……」
「お前が触ってるからだ。刺激には敏感なんだよ」
 血流が流れ込み、バッツのそれは本来の硬さと大きさを取り戻しつつあった。その過程を見せ付けられてクルルは生唾を飲み込んだ。屹立していくバッツのそれに呼応する様に体の中で炎が巻き起こる。
「っ、はあ……はあ……んっ、ぁ」
 股を擦り合わせながら劣情の息を吐き出すクルルはそれに魅入られた様に顔を近付ける。
「――え?」
 反応が遅れたバッツはその突発的な出来事に対処出来なかった。
――ペロリ
「なっ!?」
「んん……はむっ、チュッ」
 背筋に電流が走る。裏筋から伝わってきた生暖かい感触が更に血を下半身に集めた。クルルは何を思ったのか、バッツのそれに舌を這わせていた。
「ちょ、止め……っ、何もそこまでする事は!」
「んっ、んっ…ううぅ〜?」
 チロチロと赤い舌で赤黒い先端を舐め上げるクルルは上目遣いで何かを訴えてきた。ただそうしたいだけなのか、クルルなりに気持ち良くしようとしてくれているかは判らない。実際にクルルの舌は心地良い。
「くっ、ファリスやレナにだって許した事ないのに……っ!」
 だが、バッツはそれ以上の嫌悪感を感じ、クルルのそれを止めさせようと躍起になった。バッツはされる事が大嫌いな気質を持っていた。
――チュグ
 そうして、動きを止める為にバッツが手を伸ばしたのはクルルのびしょ濡れになった下の口だった。
「んぐっ!?っ、ふああああ…!」
 クルルの口とバッツの竿の間に透明な唾液の筋が伝う。一心不乱になっていた舌での愛撫は中断され、代わりにクルルはだらしない喘ぎ声を上げた。散々に弄られて蕩けた秘部に襲ってきた不意打ちじみたバッツの指。効果は抜群だ。
「い、いきなり酷い!ま、また……あたしを、苛めるの?」
「お前が俺のを離さないからだろうが」
 先程の仕打ちを思い出してクルルが身震いした。確かに気持ち良かったのだが、あんな一方的な仕方は御免蒙る。無論、バッツにその気は無い。緊急手段と言う奴だった。
「え、駄目だった?こうされると男の人は気持ち良いんじゃないの?」
「そこまで気を遣う必要は無いぜ。……って言うか、何処からの知識だ」
 色々と突っ込みたい事は多々あるが、悪意が無いだけにクルルは性質が悪い。若干14歳でここまでやってのけるクルルが末恐ろしいバッツだった。

「もうそろそろ解放してくれても良いだろ?お前のお陰で準備が整っちまったよ」
 子供に飴宜しくペロペロ舐められた事によって、完全に勃起したバッツのそれはディフェンダーの様に雄々しくそそり勃っている。よもやこんな展開になるとはバッツとて予想外だったが、その分手間は省けた。後は突っ込むだけなのだから。
「え〜〜?もっとバッツのコレで遊びたいよう」
「却下。それ、大人しくしろ」
 だが、クルルは不満そうに唇を尖らせた。ビクビクと脈打つバッツの本気の竿を目の当たりにしながら物怖じしないとは仰天だ。しかも、もっと弄らせろと言うのだから恐れ入る。バッツは握り締めて離さないクルルの掌を分身から引っぺがした。
 そうして、自由になったバッツはクルルの膝の裏に手を回す。
「やっ、あっ!ちょ、ま、待って!」
「いや、待たん」
 切羽詰った声が聞こえるがそんなモノは無視し、バッツは強引に脚を開かせた。
「ぃ、いやああぁ//////」
 大開脚し、女性器の全部を惜しげなく晒すクルルは火が出そうな顔を両手で隠し、恥ずかしそうに頭を振り続ける。
 先程まで弄っていた股座には漸く生えてきたであろう金色のヘアが申し訳程度に飾られている。ぴっちり閉じられた小さな縦筋からは少し濁った汁が溢れ、蝋燭の光でキラキラ光っていた。
「お前も準備は良さそうだな」
「んっ、んあっ!」
 その陰唇を両の指で開いてやると、堪らなく淫靡な香りが鼻を突いて来る。襞の影にはトロミを帯びた愛液が溜まっていたのか、トロトロと垂れ落ちてくる始末だった。
「さーて。んじゃそろそろ、お待ちかねの時間だ」
 ……これ以上弄った処で結果は変わらない様に思える。上着を脱いで裸の上半身を晒したバッツは再びクルルの膝下に手をやって限界まで脚を開かせる。そうして勃起した竿の先端をクルルの入り口に宛がった。
「んくっ!」
 ビクン、と身を震わすクルルはバッツの亀頭から感じる熱に胎の奥が疼くのを感じた。
「もう待ちきれないって感じだな。そのまま脚は開いてろ」
「お、お兄ちゃん」
 グイッ、と秘所の肉を限界まで広げ、奥まで丸見えの構図を作り出した。
 開いた膣口はパクパクと痙攣し、処女の証である薄い膜が存在しているにも関わらず肉の楔を咀嚼したくてうずうずしているのだろう。間違いなく子供であるクルルの女の子は発情して、男を欲していた。
「んじゃ、往くぜ。辛かったら、遠慮無く泣き叫んでくれ」
「や、優しく……してね?」
「ああ。そのつもりだ」
 どれだけ泣き叫ぼうが、行為を中断する事は有り得ないとバッツはクルルに釘を刺した。クルルは不安そうにバッツに懇願するが、バッツにはそれしか言えなかった。
そして、ドッと溢れ出す濁った汁を竿全体に満遍なく塗し、ゆっくりと腰を突き入れる。
「んっ……くぅっ、んんっ!ふうぅっ!!」
 ギリ、とクルルが奥歯を噛み締めた。亀頭が入り口を通過しただけだが、それだけで裂けそうな程の痛みが襲ってきている。それでも、下腹に力を込めて、バッツの全てを飲み込もうとするクルルは健気だった。
「あう…っ、痛……!」
 先端が膜に触れると、とうとうクルルは明確な苦痛を声に出し始める。長く苦しませるのは趣味じゃないので、バッツはクルルの細い腰を掴み、力任せに肉棒を叩き付けた。
――プツン
「痛ぁぁ――――っ!!!」
 腰骨を恥骨に叩き付けようとしたが、その前にバッツは最奥に辿り着いてしまった。クルルの体の小ささに比例する様に奥行きは狭く、膣内はギュウギュウだった。
「極まったな。……平気か?」
「うぐ……くっ、ちょっと…苦しい、よ」
 相当の負担だった事を示す様にクルルの両目からは涙が伝っていた。未成熟な女を開拓しようと言うのだから、痛くしない様にするのは最初から無理がある。内蔵を押し上げる異物の圧迫感もかなりのモノに違いない。
「良く頑張った。……良い子だな」
「あ……んっ//////」
 破瓜の洗礼を耐え切ったクルルを褒める為に、バッツはクルルを自分の胸の中で抱き締めた。繋がったばかりで苦しいが、そうやって自分を労わってくれるバッツにクルルは全身を真っ赤に染めながら縋り付いた。

「お兄ちゃんの……熱くて硬くて、ビクビクしてるよお」
「お前の中も、凄いな…っ」
 猫撫で声で囁いたクルルはバッツの胸板にスリスリと顔を擦り付ける。酷く窮屈なクルルの膣内は黙っていても射精が誘発されそうな程に苛烈だった。幹の三分の一ほどが完全には埋まらないが、それでも残りが受ける強烈な愛撫にバッツは苦しそうな声を出す。
「んはぁ……お兄ちゃん…っ、んふ…んっ、ん」
「んくっ…!」
 突き入れられたその小さな割れ目からは赤い筋が男根を伝ってバッツのズボンを汚している。最奥まで無理矢理に突っ込まれたクルルは痛がる素振りは殆ど無く、寧ろ自分から腰を捻ってバッツのディフェンダーを扱き始める。
 挿入れているだけでも辛いのに、この様に動かれては辛抱が堪らないバッツは少しだけ高い声で呻いた。
 身長が20cm以上離れていては、バッツが鳴くのも無理は無い。容量の限界近く迄詰め込まれたクルルの小さな肉壷はその全てを使ってバッツを愛しているのだ。
「お前…痛く、ないのか?」
 滑った粘膜がギチギチになった内部で密着して這い回り、ジュポジュポと卑猥な音が結合部から漏れる。クルルの発する熱とバッツのそれが合わさって、クルルの中は溶鉱炉の様にドロドロだった。
 ……確かに気持ちが良いのは事実だ。だが、必死に腰を振るクルルはポロポロと涙を零している。それでも動きを止めようとしない彼女は相当の無理をしている様にバッツには映ってしまった。

「い…痛いよ…っ、でも……それが気持ち良いんだもん…!」

「……マヂですか?」
 バッツは自分の耳を疑った。……痛いのが良い。クルルはそう言った。
「本当かよ?」
 それが聞き間違いである事を祈りつつ、バッツは少し腰を引いて、子宮の入り口に向かって竿を打ち付ける。
「んんんあああ…♪」
「げっ」
 擦り上げた瞬間に内部が真空に近い常態まで絞り上げられた。奥へ奥へ引き込む様な襞の動きはバッツの肉棒へ流れ込む血流を増加させた。そんなクルルはだらしない顔で蕩けた声を垂れ流す。
 どうやら、本気に気持ち良いらしい。確認の為にもう一度、腰を竿が抜ける寸前まで引くバッツ。そうして今度は勢い良く、傷口を抉る様に、骨盤と恥骨を衝突させた。
――パァン!
 ふぐりと臀部がぶつかり合って小気味良い音が鳴る。クルルのそれが演技ならば顔を歪ませ、苦痛に涙する筈だ。いや、寧ろそうであって欲しい。バッツは期待を胸にクルルの反応を観察した。
「……っ、がっ、あっ!!?」
 襲ってきたのは一物に突き刺さる様な襞の喰い付きだった。それと同時に膣全体がうねり、小刻みに蠢動すら始めた。こんな熟練の性技じみた反応を男を知らない少女がやってのけられる筈は無い。
 ……だが、実際に一物はそれに翻弄され、先走りと言う名の涙を流して泣いているのだ。
「ああああああああ――ッッ!!!」
 少し遅れて耳を打つクルルの歓喜の悲鳴。四肢を引き攣らせ、バッツの胸の中で暴れるクルルは絶頂の真っ最中だった。
「ぁ…っあ!!ハッ、うあっ!……ハア、はー……」
 そうして、くてー、っと脱力したクルルはバッツの腕の中で夢見心地で呟いた。
「い、今の…凄い良かったあ。んん…もっとお、クルルを抉ってぇ……」
「うーわー」
 ……どうやら、本物らしい。今迄この手の女に出会った事のないバッツはうろたえた。
「これは、俺に激しくして欲しいって言うパスなのか?」
「お兄ちゃぁん…もっとしてぇ」
 この華奢で小さな体に今迄どれだけの劣情を飼っていたのかは分からない。そんなクルルはあらゆる意味で発展途上だ。それなのにこうも己を欲し、また甘えてくる。破瓜の苦痛すら快感に変換するこの娘は間違い無くMだろう。
「……動くか」
「ひんんっ!」
 そう考えなければ頭がおかしくなりそうだったバッツは一切を忘れてクルルを愛し始めた。

「おら、マセ餓鬼。手前ばっか良くなってないで、もっと締めやがれ」
「や、やん。酷いよお兄ちゃん…」
 幾らMであると言っても、未だ子供の範疇にあるクルルを本当に手荒く抱く事はしたくない。だから、バッツはせめて言葉で嬲ってやる事にした。……誰の目から見ても犯罪行為にしか見えないのが重大な欠点だ。
「チッ…手酷くされて感じるとは、どうしようもない女だなお前。ガラフだけじゃなくて、親父さんお袋さんが草葉の陰で泣いてるな」
「ひゃん!や、止めてよう!そんな酷い事言わないで!」
 ……実際泣いているのは間違いない。だが、その対象はクルルではなくバッツの行いに対してだろう。本格的に地獄に落ちそうな予感がしてきたバッツだった。
「これだけ竿を喰い締めていて良く言う。……そらっ!良ーく味わいなっ!」
「ひいうぅうぅ!!」
 グリン!膣を支点にクルルの体を180°回転させ、後背位の姿勢を取る。傷口が擦られて気持ち良いのか、クルルが甲高く叫んだ。
 そうして、規則的に腰を打ち付け始めるバッツ。隙間の無いクルルの膣を拡張する様に野太い竿をねじ込んでいく。無論、手加減を忘れないのはバッツの心遣いだ。
「お前も…あいつ等同様汁気が多い」
 パツパツと水がはねる音が木霊する。破瓜の血は泡立ったクルルの濁った愛液に完全に洗い流され、ベッドシーツにはシロップの水溜りが出来る程だった。その様はファリスやレナと良い勝負だ。
「アンッ!ご、ゴメンなさあい…!」
「何で謝る。別に怒っちゃいないぜ?ただ……」
「ふえぇ?」
「だらしない女とは思ったが、なっ!」
 パコン!入り口から最奥までを串刺しにしてやった。肉襞が絡み付いて男根全体を余さずに擽ってくる。だが、それ以上に凶悪なのは圧迫の方で、狭い膣内がぐっと狭まり、蟻一匹が逃げ出せない密閉空間が完成する。
「きゃふううん!!」
 間違いなくクルルは罵倒されて感じている。その証拠に彼女のピンク色したアナルはヒクヒクと痙攣していた。肉付きが薄いクルルの尻には隠すモノが存在せず、恥ずかしい場所も丸見えだ。その視覚効果は非常に強力で、バッツは込み上げるモノを感じる。
「ぐう…っ、やっべ」
「ぁ…あ!膨らんでるぅ…!クルルのお腹でお兄ちゃんのが…」
 それを察知したクルルは感極まった様に喘いだ。バッツが動かす腰に同調し、自分もまた竿を扱く。射精を懇願する様に柔らかく包みこむ少女の膣と襞の動きは見た目に反して淫ら過ぎるモノだった。バッツはどんどん追い詰められる。
「全く…っ、本当にエッチな娘だな。…膣内で良いのか?」
「頂戴!頂戴っ!!クルルのアソコにお兄ちゃんの頂戴!!!」
 盛りの付いた雌犬宜しく、自分から腰をバッツの骨盤に擦り付けるクルルは色に狂ってしまっていた。
――ニヤッ
 バッツはそんなクルルの様子にギギギ、と口を釣り上がらせる。次の瞬間、バッツはクルルの耳元で何かを囁いた。
「……(ごにょごにょ)」
「//////」
 ボッ、と沸騰するクルルの顔面。吹き込まれた言葉を反芻して、発情した子宮が下がってくるのがクルルは自分で分かってしまった。
「さあ、逝こうか!」
「うああああ!!?」
 バッツがスパートに入ると、クルルは不意打ちを喰らった様に身を捩る。体の疼きは最高潮に達し、バッツだけがそれを鎮める手段を持っている。バッツの内に眠る欲望の塊を己の中に発射して貰う事。それだけだ。
「っ、う…ぐう!そろそろだな……」
「バッツ…!」
――チュク
「んっ!?…ぐ、う」
「んっ…ふっ、んん〜〜」
 顔から汗を滴らせつつ、苦しそうにしながらもバッツはクルルを愛する事を止めない。クルルはバッツが自分の為に頑張る姿にときめいたのか、後ろ手にバッツの首を抱えてその唇を奪った。
 その口付けに励起されたバッツは最後の力を振り絞り、クルルを抉った。溶かされ、自分の境界を失った様な曖昧さの中、クルルが与えて来る熱さと快楽だけは鮮明に脳髄に刻み込まれる。
 クルルも痛みと圧迫感が同居した歪な快楽に酔っていた。物理的にこれ以上受け入れら得ない筈なのに、それでも膣の伸縮を無視して腰を突き入れるバッツの唇を貪りながら、奥底から溢れ出す官能の波に浚われて行った。
「っ…ハア!だ、射精すぜ。……さあっ、何処に欲しいのか言ってみろ!」
「ぁ…頂戴!バッツのチ○ポ汁っ!クルルのエロマ○コに沢山ピュッピュしてぇ!!!」
 バッツが吹き込んだおねだりの台詞を声高らかに叫びクルルは一足先に絶頂を極めた。
「お前……可愛過ぎ!」
――ギュウウゥ
 そうして限界まで収縮して精を搾り取る膣に抗う事はせず、バッツは下腹部に溜まっていた欲望を一気に解き放った。
「きゃああああんんんうううぅ!!!!」
「っ……んぐっ!くっ……、ううっ!」
 先日姉妹に搾られた筈なのに、その量と濃さは普段のバッツのそれと変わりは無い。ドバドバ注がれる精液は沸騰している様にクルルには感じられているらしく、派手に痙攣しながらその全てを小さな体で飲み干していった。
 穢れを知らないクルルの子宮にバッツの種の味や熱さはこの時を以って消えない痕跡として残されていく。種付けされて絶頂を迎えたクルルは恐らく、バッツ以外の男には満足は出来ないだろう。その証拠にクルルはバッツの手を自分のお腹に導いた。
「オマ○コ熱い……クルルのお胎全部熔かされちゃうぅ…!
……ぉ、お兄ちゃぁん……っ、好きぃ……大好きだよぅ…♪」
 肉の壁を伝わって、不随意的に収縮する膣の動きが確かに感じられる。
「だから……NGだって言っただろうが」
 子供とは思えない妖艶さが、クルルが女である事を伝えて来ている。
 ひゅくひゅく痙攣するバッツの竿から更なる精を搾りながら、クルルは理性を欠いた笑顔で甘く囁いた。その囁きに少しだけ困惑しながらも、バッツはクルルの腹を優しく撫でてやった。
――仕込むのならば、初めが肝心
 やっぱり螺子が跳んでしまったクルルにバッツは冷静に対応していた。今回は望んでイカれさせたのだから以前の様に心が乱される事は無い。
 だが……それでも一抹の罪悪感を拭えないバッツは悪人には成り切れなかった。
「あー……」
 何とか後片付けは終了した。疲れ切っては居たが、これも仕事と割り切って手早く汚れ物の始末を済ましたバッツはまっさらになった自分のベッドに体を横たえていた。
「えへへ♪」
「お前は……本当に甘えん坊なんだな」
 そんなバッツの顔は苦かった。甘えん坊処の話ではない。クルルは完全にバッツと言う男に依存してしまっている。その証拠にクルルは主人に懐くペットの様に、情熱的に腕と脚をバッツに絡ませてご満悦だった。
「順序、逆になっちゃったね」
「順序?……あ、ああ。確かに」
 一瞬クルルが何を言っているか分からなかったバッツだったが、行為の最中を思いだすとそれに直ぐに思い至った。
 それはクルルとキスをしたのが彼女の処女を散らした後だったと言う事だ。若し、真っ当な手順を踏めば、普通それは逆になるだろう。
「悪い、そこまで気が回らなかった。……少しはムードを出しても良かったか」
「まあ、そうだけど……贅沢は言わないよ。結局、エッチもキスも両方出来たし」
「そうかい」
 それは良かった、とバッツは少しホッとした。多少、歪なモノになってはしまったが、その事に対しクルルが後悔や疑念を持っていないのならそれだけで御の字だ。
「これでさ…あたしも、バッツの女なんだよね……」
「あ?」
 安堵をしたのも束の間、クルルがとんでもない台詞を吐く。バッツは即座にそれを打ち消す。
「大袈裟に考え過ぎだぜ。お前は俺が欲しくて、俺も偶々そんな気があったから付き合った。……最初にそう言っただろう?」
「……そう、だけど」
 思考する暇すら与えずに拒絶された自分の台詞。クルルは困った顔をしながら、バッツを縋る様に見た。
「そして、お前はそれについて納得した筈だ。俺としては…それだけに留めておきたいのさ」
「……お兄ちゃんはさ、それで良いの?」
 クルルが一番聞きたいのはそれだ。クルルは体だけではなく、心の方もバッツに満たして欲しい。しかし、バッツにとっては今の状態がギリギリのラインだ。だから、迷いの無い心で言い切った。
「ああ。それ以上は踏み込んではいけない……考えてはいけない事だからな」
「ふ〜んだ!良いですよー…っだ!」
「っ!」
 バッツの言葉に臍を曲げたクルルは頬を膨らませつつ、バッツの首筋に強く吸い付いた。
「精々気取ってれば良いわ。バッツの事をあたし無しじゃ居られない様にしてやるんだから」
「……はは」
 挑戦的に、また自分の胸中を語る様にクルルが語る。首筋に付けられた赤いキスマークを掻きながらバッツは苦笑する。
「ま、その気概があれば……俺も何時かは落ちるかも、な」
 くしゃ、とクルルの頭に掌を乗せて、その癖のある髪を梳きながら、バッツは普段の彼にはしては珍しい類の台詞を吐いた。
「くすくす……意地っ張り」
 まあ、そんな事は百年経ってもありそうに無いが。……だけど、ひょっとしたらあるかも知れない。少しだけバッツとの距離が近付いた気がしたクルルは嬉しそうにバッツに体を擦り付けた。
 そうして、二人は眠くなるまで他愛も無い会話を続けたのだった。

 そして……

――二日後 バル城 大広間
「御免なさい!」

 開口一番そう叫んでクルルを直角に腰を折り曲げた。
「あー……えーと?」
「わ、私を見ないでよ」
 突然呼び出しを喰らったかと思えば、待っていたのがクルルからの謝罪だ。ファリスは何事かと思いレナを見たが、レナもまた状況が飲み込めずどう反応して良いか分からなかった。
「今迄散々調子に乗ってご迷惑をお掛けしました!どうかご容赦を!」
 クルルはそんな姉妹には目もくれず、ひたすらに謝り続けた。先日まで二人に喧嘩を売っていた糞餓鬼はそこには居ない。自分が悪かった事に気付いたクルルはそれを素直に認め、悪化した姉妹との関係をもう一度構築しなおそうと必死だ。
 そんなクルル必死さが伝わったのか、ファリスは微笑を湛えながら大人な対応をしてやった。
「まあ、悪いと思って謝ってるんなら、俺はそれで良いよ。何時までも引き摺ってもアレだし……なあ?」
「・・・」
 頭を下げている相手をネチネチいたぶるのは好かない。ファリスは今までの事をすっぱりと忘れる事にした。その旨をレナに伝え、同じ様にして欲しいファリスだったが、レナは未だに釈然としないのか俯いて視線を逸らしている。
「……レナ!」
 流石にそれは度量が狭いと思ったファリスは少しだけ声を大きくした。
「……はあ。分かってるわよ。水に流す事にするわ」
 ……やはり、妹はお姉ちゃんには敵わないらしい。レナ自身、此処は自分が折れる冪だと本当は気が付いていたので、ファリスのサインの通り自分が溜めていた鬱憤やら何やらを纏めて記憶から忘却する。その顔は少しだけ面白くなさそうだったが。
「ふう。良かったぁ。代償に目玉でも要求されるかと思っちゃった」
 謝罪が上手くいった事にクルルは胸を撫で下ろした。実際、それ位しなければ許して貰えないと本気で思っていたので、姉妹がすんなり許してくれた事はクルルにとっては運が良かった。
「そんなモノ貰ったって嬉しくないわよ。…でも、一つ聞いて良い?一体、どう言った敬意で貴女は改心したのかしら」
「俺もちょっと気にはなったな。謝る何て事は前までのお前からは考えられないからな」
 だが、姉妹にも分からない部分がある。クルルがバッツに叱られて、自分の部屋に閉じこもったのが二日前。その間にクルルが何をしていたのかは、姉妹の耳には入っていなかった。
 あれだけ喧嘩腰で、危うかったクルルがこうして謝りに来る過程には何があったのかが二人は気になって仕方ない。
「そ、それは……ゴメン。聞かないで」
 だが、それについてはクルルは黙秘を決め込んだ。
「ハハーン。成る程」
「バッツにはたっぷりと搾られたみたいね」
 一瞬怯えた顔を見れば、大体何があったのかは検討が付く。バッツが動いたに違いない。そして、それは正解だったのだ。
 ……そのバッツのやり方は多分に間違いを含んでいたが。

「そ、そりゃあもう!止めて言ってもお仕置きは止まないし、仕舞いには野太いのブチ込まれてヒイヒイ泣かされちゃった//////」

「「なぬ?」」
 無視出来ない一言だ。ファリスもレナも揃って顔を引き攣らせる。あの男は未だ子供の範疇にあるクルルを仕置きの名の下に手篭めにしたのだ。
「あ、やば。これってオフレコ?……でも、口止めされてないから別に良いや」
 勝手に爆弾を吐いたクルルは少しだけ焦ったが、直ぐに何でも無い様に振舞った。明らかに言ってはいけない事を言ってしまったのに、それを瑣末事と割り切るクルルは図太い神経を持っている。
 ……或いは、謝罪に託けてバッツとの事をカミングアウトする算段が頭の中にあったのかも知れない。
「アイツ……とうとうクルルまで喰いやがったか」
「まあ、犯罪だって事は置いておきましょうか。でも、まさか此処まで節操無しだったなんて……」
「あはははは。何言ってるの、お姉ちゃん?」
「え?」
 犯罪で、しかも無視出来ない事柄である事は間違いないが、それを放置しようとする姉妹も何処かずれている。そうして、レナの喉を通過したやはりずれた言葉がクルルには可笑しかったのか、憚りなく笑った。

「そんなの姉妹であるファリスとレナに手を出してる時点で確定でしょ」

 間違い無く、クルルの言葉は正論だった。姉妹がバッツにどんな妄想を抱いていたかは知らないが、客観的に見れば女を二人囲っている(囲まれている?)時点で節操無しは確定だろう。何故か二人はそう考えてはいなかったらしい。
「ま、そう言う訳だからあたしもこれからはお姉ちゃん達のお仲間って事で宜しく」
「「あはははははは」」
 乾いた笑いが嫌でも顔に張り付く。突き付けられる現実から逃げ出したいと思ったのは姉妹にとっては父親の死以来だった。
「仲良くしてね。あたし達は棒姉妹なんだから。……これで、お兄ちゃんだけじゃなくてお姉ちゃん達とも……うふふ」
 穴兄弟ならぬ棒姉妹。その台詞にファリスもレナもブッ、と噴出した。しかも、最後に呟いた言葉がとんでもなく危険に聞こえる。仲良く出来ると言う意味なのだろうが、それがどう言う意味合いでの言葉なのかは本人以外には分からなかった。
「お、お前、何気に侮れねえな……っ」
「何故かしら……凄い波乱の予感がするわ」
 こうして、クラウザーさん御一行は別の意味で一つに繋がったのだった。
――同刻 飛竜の塒
「あーあ。結局、やっちまったな」
 体に吹き付ける風は生暖かく、湿っていた。人の寄り付かない塔の突端でバッツは想いを巡らせながら煙草をふかしていた。ファリス、レナ、そしてクルル……関係を持つ事になってしまった女は多い。
 しかも、厄介なのはその誰もが己に対し親愛の情を持っていると言う事に尽きる。火薬庫の中で火遊びをしている様なものだ。些細な事で修羅場が起きそうな現状には本当に神経が磨り減る。だが、今更時が戻る事は有り得ないのだ。
「此処まで来りゃあ、或る意味開き直るしかないよな」
 と、言うか、それしかバッツには許されていないのだろう。
 もうこれで完全に己が平穏無事に生きる道は閉ざされた。最初は無理矢理だったが、もうそんな事は言い訳にもならない。回りを見渡せば、ファリスやレナが虎視眈々と狙っているし、新たに抱いたクルルもそんな彼女達と同じ立場に立ったのだ。
 もう前の様な居心地の良い関係には決して戻れない。これから連綿と続いていく愛欲の茨道は確実に終点である破滅に繋がっている。旅の終わりには恐らくそれを思い知らされ事になるだろう。
「ま……それも一興、か」
 バッツはそんな己を取り巻く現状が何故か他人事の様に思えた。……重要なのは、この状況を如何に楽しむか。それが絶対の命題だ。そう考えられない奴は愚かだと思うバッツは完全に開き直っている。
 何れ終わりが来るのなら、それまでは精々、お姫様御用達の男娼として上手く立ち回ろうと思うバッツだった。

「……枯れない様に注意しないとな」

 贅沢過ぎる悩みに溜息を吐いたバッツは女の敵一直線だ。彼には腹上死する運命が待ち受けているのかも知れない。

〜了〜
タグ

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

どなたでも編集できます