FFシリーズ総合エロパロスレのまとめ

―――グロシアーナ辺境 ルゴル
 ビッグブリッジの死闘…その戦いの折にバリアに飛ばされた先は凶暴なモンスターが闊歩する危険な大陸であった。
 クリスタルに導かれしクラウザーさんと愉快な仲間達御一行が辿り着いた辺境の村の名はルゴル。彼等がその場所に逗留を始めて一週間が経過していた。

「ぅんまああ〜〜〜いっ!!っ、この一杯の為に今日が、もう一杯の為に明日があるってな!」
「どれだけ飲んでも飲み飽きない…これぞルゴル酒じゃな」
 酒場のカウンターで名酒に舌鼓を打つ青年と老人は世代を超えた友達同士だった。
 バッツ=クラウザー。そして、名無しのガラフこと、ガラフ=ハルム=バルデシオン。
 嘗ては無職と痴呆老人とのレッテルを張られていたこの二人も、今では立派なクリスタルに選定された百戦錬磨の兵であった。
「こんな美味い酒に出会っちまったら、他の場所に行くのが億劫で仕方ないなあ」
「そうじゃな。早くこの大陸から抜け出さねばならんが、その手掛かりも無いしのう」
 バッツもガラフも上機嫌に酒を呷って他人事の様に言った。本来彼等はこんな僻地で悠長に酒を飲んでいられる御身分ではない。一刻も早く世界に災厄をもたらそうとしているエクスデスを倒さねばならない使命を負っている。
「だよな。…海も山も越える方法が何も無いときてる。…それに」
「うむ。今の儂等ではエクスデスには敵わないじゃろうからなあ」
 だが、その彼等がこの場所に留まり続けるにはそう言う理由があった。実際問題として、大陸を抜け出す術を持たない。そして、パーティーの力量不足が深刻であるが故に彼等は辺りのモンスターを狩りつつ、戦闘経験を積み、路銀を稼ぐ事に終始していたのだった。
 …そんな事が一週間続いていた。酒以外には何の娯楽も無いこの村に一週間。バッツやガラフは平気だったが、それに耐えられない輩は少なからず居た。
「…バッツ」
「うん?」
 ほろ酔いで上機嫌なバッツは突如として意味深な笑顔を湛えたガラフを不思議そうに見た。何故かその笑顔は喜色ばんでいる様に見えた。
「お嬢さん達がバッツを見ておるぞ?」
「へ?…ああ、あいつらね」
 ガラフの言うお嬢さんと言うのはパーティーメンバーの内の二人の事である。バッツは視線を何気なく泳がせて、離れたテーブル席に座って酒を飲んでいる二人を盗み見た。
 ファリス=シェルヴィッツとレナ=シャルロット=タイクーンの姉妹を、だ。
「なんじゃ…気付いておったのか」
「当然だろ。こっちの世界に渡る少し前から、睨まれてるよ」
 知っていて当然と言う風に淡々と告げるバッツにガラフは面白く無さそうな顔をする。
「睨まれている?儂にはそう見えんが…しかし、こちらに渡ってくる前からか?」
「ああ。別に怒らせる様な事した覚えは無いがな。…何だか分からないけど、不用意に近付きたくないから距離は取る様にしてるけどさ」
「バッツ…もう一度、二人を見てみろ」
「?…何でまた」
 警戒している相手を何度も見ろと言うガラフの意図が読めずにバッツは怪訝な表情をするが、結局は剣幕に押し切られ、もう一度バッツは姉妹を見た。
「・・・」
「「!」」
 バッツに視線を悟られた姉妹は途端に顔を背け、わざとらしく会話などを始めてしまった。
「…ほら、やっぱり睨まれてるって。あからさまに挙動不審だし。…俺を亡き者にしようとしてるとか、そんな算段じゃないよな…?」
「バッツ…それは冗談か?それとも鈍いだけか?」
「っ、どう言う意味だよガラフ」
 落胆の溜息を吐くガラフが面白くないバッツは口元を尖らせ、自分の酒を一気に呷った。
「あれはどうみても熱視線…いや、色目じゃな」
「はあ?…絶対違うだろ。何か憎悪とか諸々の負の感情が篭ってる悪魔の瞳じゃないか?アレは」
 確かにバッツはファリスとレナの視線に篭められている感情に気付いている。だが、そのベクトルについては正反対で解釈していた。ガラフがまた溜息を吐く。
「何か…ファリス達が憐れになってきたのう」
「大体、何で俺に色目を?あいつら、今は侍と竜騎士だぞ」
 姉…侍。妹…竜騎士。一時期、二人とも踊り子を齧っていた様だが、そんな武闘派なジョブが色目を実装するのはあまり得策とは言えない。しかも、何故バッツは自分が色目を向けられるかが判らないらしかった。
「これは駄目じゃな」
「ワケ判らねえ。…俺に気がある訳でもあるまいし」
「お主…鈍感なのか、悪意があるのか今一判らんな」
「俺はあいつ等とガラフが分からない」
 バッツは懐から煙草を取り出して一本咥えると、手早く精算を済ませて酒場を出て行こうとした。どうやら、宿で休む気らしい。ガラフはそれを無言で見送る。
 その途中でバッツは姉妹の座るテーブル席近寄り、声を掛けた。
「なあ」
「あ?」「・・・」
 二人とも、露骨に機嫌が悪い。ファリスは面倒臭そうに言葉を漏らし、レナもまた鋭い視線でバッツを見ていた。
「…何か、俺に話でもあるのか?」
「ねえよ」「ないわね」
 拒絶の台詞がステレオで飛んで来た。先程バッツを見ていた熱視線とは真逆の絶対零度の敵愾心に溢れた視線のオマケ付きだった。
「そうかい。…そりゃ、結構なこった」
 そんな敵意に満ちた姉妹を挑発する様にバッツは口の端を歪めた後に酒場を出て行った。

「「はあ…」」
 重い溜息が吐かれる。ファリスもレナも、今のバッツとの会話だけでがっつりと体力や精神力を消費した様だ。一様に酷い顔をしていた。
「姉さん…」
「なに?」
 最早、姉妹だと隠す必要も無いのでレナは大っぴらにファリスを姉と呼ぶ。そして、ファリスも今はそれに応えていた。
「私達…バッツに嫌われてるのかしら」
「かもな。前はこんなじゃなかったのに…今は距離感を感じるよ」
 姉妹は同じ悩みを抱いていた。少なくともファリスやレナはバッツを嫌ってはいない。寧ろ逆で、好意すら持っている。だが、今のバッツは意識的に姉妹を遠ざけ、また会話すら殆ど交わさなくなっていた。
 流石に戦闘中や冒険中はそうではないが、プライベートな付き合いは第一世界に居た時から比べ、格段に減っている。同年代の男であるバッツが離れて行った事は姉妹にとっては大きな問題で、心に影を落していた。
「私達…何かしたかしら。姉さんは心当たり、ある?」
「無いよ。そんなもの。…それが分かれば、対策の立てようもあるけど」
嘗てのバッツは良い人の鑑だった。メンバーとは別け隔てなく付き合い、マメに世話を焼いてきた過去がある。そんなバッツの人柄を皆は慕う様になった。
「何か…淋しいな。つれなくて」
「俺もだ。構ってくれる奴が居ないとさ」
 だが、今のバッツが個人的に親しくしているのはガラフだけで、姉妹の事は完全に放置していた。親しくしていた人間が途端に冷たくなれば、切なくなるのは必定だった。
「バッツの事か?」

 だが、そんな事態を打開する為の一材が降臨した。亀の甲より年の功。ガラフは悩める青少年の為に一肌脱ぐ決心をしたらしい。
「あ、ガラフ。…今、ちょっとバッツの話を」
「そうなんだ。…俺等、嫌われてんのかな」
 バッツ宜しく、姉妹も年長者であるガラフには一目置いていた。バッツ並みに親しい訳ではないが尊敬はしている。そんな間柄だった。
「バッツか?…あやつも同じ事を言っていたぞ」
「は?」
「嫌われているのでは、と」
「な、何だそりゃ?」
 ガラフの言葉に姉妹は間抜けな顔を晒した。言っている意味が理解出来ないらしい。
「ふむ…見事にすれ違ってしまっているのう」
「嫌って…ないわよね?む、寧ろ…ねえ」
「あ、ああ。だな…うん」
 姉妹の思考や趣味は同じらしい。少し顔を赤くした二人がバッツにどんな想いを持っているのかは一目瞭然だった。
「…バッツが言うにはこちらに来る前から、その…お主等の視線が危険に見えていたらしい」
「っ!…それは」
「ま、まさか…」
 どうやら二人とも心当たりはあった様だ。姉妹は顔を見合わせてそれを口走った。
「い、色…目?」
「色目の所為…なのか?」
 それで正解だった。凶暴なモンスターを魅了し、動きを止めるアビリティだが、対象全てに同じ効果があるとは限らない。感覚が研ぎ澄まされているバッツにはそれが敵意に感じられてしまったのだ。
「何て事…」「完全に裏目かよ…」
 それが発端だった。良かれと思ってやった事が今の気拙い空気の原因ならば、姉妹はがっくりと肩を落すしかなかった。
「まあ…そう言う事じゃな。しかし、お主等が、のう」
「う…ふ、深い詮索は、あの…」「や、野暮は無しだぜ、ガラフ」
 一体どう言った経緯があったのかは不明だが、少なくとも姉妹がバッツに惹かれている事は明らかになった。流石のガラフもこれ以上は関与する気はないらしく、さっさと自分の席に戻って行った。…いやらしい笑みを浮かべながら。

「まあ、何だ。不幸な誤解だったワケだ。こりゃ、早くアイツに説明しないとな」
「ええ。すれ違ったままなのは哀しいから」
 気落ちしていた姉妹は復活を果たした。エリクサーを一気飲みしたかのような清々しい顔だった。女心は複雑そうに見えて単純な部分も多々あるらしい。
「…良し、明日にでもバッツに俺が話しとくよ。流石のアイツも直接言えば理解出来るだろ」
「それは良いけど…姉さん?」
 互いのすれ違いの解消を望むファリスがバッツとの交渉役を買って出た。だが、レナはそんな姉を心配そうな目で見た。
「な、何?…レナ?」
 少し、ファリスが気圧される。その視線には一抹の黒いモノが混じっている様に感じられた。
「抜け駆けは…駄目よ?」
 それがレナの言いたい事の全てだった。
「なっ、あ、あのなあレナ。そりゃ、バッツの事は好きだけど…俺はレナが思ってる程アイツを…」
「本当?…なら良いけど」
「心配すんなって」
「そう?なら、お願いね」
 ファリスが嘘を言っていない事を理解したレナは姉に事情説明を任せる事を決めたらしかった。ファリスとてレナの胸中を知っているからこそ、そんな真似をする気は更々無い。
 だが…事態と言うのは思わぬ方向に転がっていくモノと相場が決まっている。
―――翌日
 宿の敷地の外れでメヘヘ〜ンと鳴く羊をツンツンしているバッツをファリスは直撃した。
「な、なあ…バッツ」
「む…?…お前か」
 時間を掛けすぎると逃げられてしまう恐れがあるので、ファリスは掻い摘んで状況の説明に努めた。
「かくかくしかじかまるまるうしうし」
「いや…判らねぇから」
 普通はこんな抽象的な説明の仕方で分かる筈はないのだが、バッツは何とかそこからファリスの言いたい事を汲み取った。

「へえ…つまり、そう言う事だった訳だ」
「ああ…そうだ。だ、だからさ…俺達を邪険にするのを止めて欲しいって言うか」
 胸中を吐露し、伝えたい事を伝えられたファリスは胸を撫で下ろす。だが、彼女の思っている程、バッツと言う男が単純でない事は運が悪かった。
「それで…?」
「そ、それでって…」
「いや、それだけなのかなって」
「はあ!?お、おい…どう言う意味だよ!?」
 バッツは興味無さげにファリスを一瞥し、再び羊を構い始めた。そんなバッツの態度にファリスは当然の様に喰らい付く。
「言葉通りだぜ。まあ、そんな事もあるかな?…って位には思ってたけどさ。…それが改めて知れて残念な限りだってさ」
「何だよ…それ」
 バッツはファリスの方を見ずに独り言の様に淡々と呟く。ファリスは不信そうにバッツを睨む。彼の言いたい事が解らないらしかった。
「分からないか?じゃあ、きっぱり言うぞ」
「むっ」
 そうして振り返ったバッツの顔は感情が見て取れない無機的なモノだった。ファリスもそれに何だか得体の知れないものを感じ、息を飲む。

「そう言うのさ…厭、なんだ」
―――メヘへーンと羊が鳴いた。
「っ」
 今、バッツの顔に暗い影が覗いた気がした。ファリスは息を詰まらせ、そんなバッツの声を聞くしかなかった。
「前は良かったんだよ。…でも、今の距離感は息が詰まる。だから、距離を取りたいんだ」
 羊の頭を撫でながら、抑揚無い声を発するバッツは少し寂しそうに呟く。
「何が言いたいんだ?」
 ファリスの頭には疑問符が占めている。目の前のバッツが別人に見えていた。そんなファリスの問にバッツは答えた。
「必要以上に馴れ合いたくないってだけだ」
 そう言ったバッツは羊弄りを止め、すっくと立ち上がった。
「何処に…行くつもりだよ」
「もうこれ以上俺が話す事は無い。…お前の居ない処だな」
「ば、バッツ!ちょ、ま……逃げられた」
 何とか呼び止めようとしたが無駄だった。バッツは超ダッシュでファリスの視界から消え去った。
「畜生…何なんだよ、あいつ」
 取り合えず用件は伝えられたが、ファリスは不完全燃焼だった。予想外に根が深い現実を見せ付けられ、何も出来なかった事を歯噛みして悔しがる。そして、バッツの素っ気無い態度に少しムッとしていた。
―――夜 酒場
「ちょっとペースが遅いなあ?…もう一杯いこうぜ、ガラフ」
「なんの…まだまだ…砂利には負けはせんぞう!」
 カウンターからは男衆の上機嫌な馬鹿声が聞こえてきている。だが、ファリスの心は荒れていた。
「チッ…気楽なもんだよな、あいつ」
「姉さん…何かあった?」
 彼女の妹が心配そうに視線を投げかけるが、ファリスには昼間の一件を語る気は無かった。だからこそ虚言を吐き、茶を濁す作戦に出た。
「いや…何も無かったんだよ」
「え?」
「言おうとしたら、逃げられた。だから、な」
「ああ…」
 本当は言った後に逃げられたのだが、根が正直なレナは姉の言葉を真実として受け止める。否、姉は嘘を吐かないと思っているのだろう。
「上手く、いかなかったのね」
「まあ、そんな所だ」
「どうするの?…今度は私が行く?」
「えっ、それは…」
 事情の説明役に今度はレナが立候補する。ファリスが駄目なら次は自分が…と言う所だ。しかし、ファリスはそんなレナの申し出を、頭を振って断った。今言った小さな嘘がばれてしまう事を恐れたのだ。
「いや…後でもう一回トライしてみる。最初に引き受けたのが俺だから、最後までケツは持つさ」
「何か肩に力が入ってない?姉さん」
 レナは目敏かった。勘が良い…と考えても良いかもしれない。だが、ファリスは受け流す。
「ちょっとな。でも、それはレナも同じでしょ?」
「…そうね」
 そう言う事だ。バッツの事象が絡むと途端に姉妹の心は荒れるのだ。今のファリスに限った話ではない。レナも同じだった。

―――深夜 宿屋
「あいつは…っ、何時まで飲んでんだよ…ったく」
 吐いた言葉は飲めない。ファリスは再びバッツに会う為に、バッツが酒場を出る時間まで酒を飲みながら待ち続けた。
 途中でガラフが去り、レナも去り、看板に近い時間まで粘り続けたバッツ。それを待っていたファリスはとっくに酒量を超えていた。
「だけど、っく…今なら平気だよな」
 かなり酒臭い吐息を吐きながら、酒瓶を持ってバッツの宿泊する部屋を目指すファリス。
 …だが、酒に酔ってバッツの部屋を訪ねた時点で、落とし穴に落ちていた事をファリス自身は気付けなかった。
「おーい、開けろ〜」
「?」
 煙草を吸って呆けていたバッツの耳に自室のドアを叩く音と聞き慣れた声が入ってくる。
 日付は既に次の日になっている。こんな時間に人を訪ねるなど非常識極まりないが、流石に仲間を無碍には出来ないので、バッツはドアを開けてやった。
「勘弁しろよ。今何時だと…っうわ」
―――ドサ
 開けた途端に重たいものが胸に飛び込んでくる。ファリスはどうやら、バッツの部屋に辿り着くだけで限界らしいかった。
「お…っと。悪い悪い」
「ファリス…お前、どんだけ飲んでんだよ。目が虚ろだぞ」
 しな垂れかかるファリスの酒臭さにバッツが顔を顰めた。泥酔一歩手前で何とか理性を留めているのが如実に分かった。
「うるせえな…お前を待ってたんだから仕方ねえだろ」
「俺を?…昼間の事か?なら何も話す事はないぞ」
「お前にゃ無くても俺にはあんだよ。そして聞けや」
「・・・」
 語尾も口調も荒いファリスは完全に酔っ払いモードだった。逆らっても無駄だと理解したバッツは溜息を吐きながら言った。
「取り合えず、中入れよ。周りに迷惑だからな」
「あ、ああ。悪い、な」
 千鳥足を通り越してフラフラなファリス。こんな状態で良く自分の部屋を間違わずに訪ねられたモノだと感心しながら、バッツは肩を貸してやった。ファリスも素直にバッツに寄り掛かりながら室内へと入っていった。

「それで…何?酔っ払いの戯言を聞く気は無いぞ」
「だから、それだよ。邪険に扱うなっての」
 既に寝る準備に入っていたバッツは上半身裸の状態でベッド脇に腰掛け、椅子に座って管を巻くファリスに付き合ってやる。正直な所、さっさとお帰り願いたいのがバッツの心情だ。
「扱ってないぞ」
「いーや、扱ってる。前はこんな取っ付き難い奴じゃなかったお前は」
「…もともと取っ付き難いんだよ、俺は。そんなのはお前が気にする事じゃないだろ」
「はあ!?ふざけんな!お前の所為で不協和音鳴ってんじゃねえか!」
 早速絡んできたファリスにバッツは落ち着いて対応する。だが、対応する度にファリスの熱は上がり続け、直ぐに沸点近くまで上昇してしまう。それを抑える為か、ファリスは酒瓶の中身を無造作に呷った。
「(ごきゅごきゅ)…ぷは」
「飲むのは良いけど、吐かんでくれよ」
「けっ、それこそお門違いだ。…はあ、ほんと何なんだお前。優しかったり冷たかったり…一貫性が無いぞ」
「誰だってそんなもんだろう。俺に限った話じゃない」
 熱が下がったのか、ファリスは寂しそうに零した。どうやら、ファリスは本当にバッツと言う人間が分からなくなっている様だ。
「結構、心にクるものあるぜ?掌返されたみたいで」
「へえ?何かを期待してたのか?」
「お前…俺等で遊んでんじゃねえだろうな?」
「だったらどうするよ?」
 酔っ払い相手だとは言え、バッツは性格が悪い。嘲笑する様にファリスを睨む。ファリスは少し理性の手綱を緩め、本気で言い放った。
「殺す」
「無理だな。素面ならいざしらず、酔っ払いのお前なんざ相手になる訳がない」
 ファリスはすごすごと引き下がる。考えてみれば、バッツはそんな甲斐性がある様な器用な男でないのだ。
「チイ…可愛く無い奴」
「それ以上にお前は物騒だ。そのあしゅら、どっから取り出した?」
 …ファリスの右手には抜き身の刀が握られていた。
「それで、どう言う意味だよ」
「何が」
「お前言ったろ。馴れ合いたくないって」
「ああ。言葉通りだぞ?」
 昼間の台詞を反芻し、バッツは何かを付け足す事は一切せずに言い放つ。ファリスの顔がバッツを馬鹿にする様に歪む。
「馬っ鹿じゃねえの?少なくとも、パーティー組んでる時点で馴れ合ってんじゃねえか」
「必要以上って言ったぞ。…何事にも限度はあるだろ。付かず離れずの距離が俺には心地良いの。ベタ付く関係は気持ち悪いんだ」
 そもバッツは人間関係にはドライな一面を持っている。タイクーンに隕石が飛来した時にレナとガラフを置いて旅を続けようとした事がそれを物語る。今のこの状態は魔が差して首を突っ込んだ故の末路だった。
「なら何で他人に世話を焼くかねえ?適度な距離を保ちたいなら矛盾してるだろ」
「それは性分って奴かな。…直したいんだがな」
 それが自分の欠点とでも言いたげに、遠い目をしてバッツは言う。だが、それこそがバッツ最大の魅力と言う事は誰だって知っている。
「直す必要は無いだろ?」
「あ?」
「お前は今のままが良いと思うぜ?ただ…」
 ファリスもそうだった。加えて、彼の欠点についても良く知っていた。
「…何だよ」
「もうちょっと素直になってくれたらってな」
 はにかみながら言ったファリスの顔には悪意やらそんなモノは浮かんでいない。純粋なバッツに対する意見だった。
「俺は素直な人間だぜ」
「嘘吐き」
 バッツの戯言を一刀両断したファリスはフラフラした足取りでバッツの横に腰を落した。酔っ払いのやる事だとバッツは諦めたのか、特に何も言う事は無かった。

「…お前の方こそ何だって俺を?気がある…みたいな話だったが」
「ああ、あれな。…分からねえ」
 今度はバッツが質問する番だ。無視できない話題だからこそ、彼はファリスに聞く。どうして彼女が自分に入れ込むのか?それを知りたかったのだ。だが、返ってきた答えは彼の予想の斜め上を行っていた。
「何だそりゃ」
「大抵はそんなもんじゃねえか?俺自身、漠然としてて上手く言葉にならない。まあ…後付で良いなら、言えるけど」
「っ」
 バッツが息を飲む。馴れ初めの様な物を今から語られるらしい。恋愛経験に殆ど縁が無いバッツにはこんなストロベリーな体験に対する免疫は無い。彼の緊張を示す様に、手には汗が握られていた。
「俺さ、お前の事…目の敵にしてた」
「そうだったのか?でも、何で?」
「いや、敵ってのは適切じゃないけど…何て言うか、男のお前に負けたくないって気持ちがあったんだ」
「ああ。そう言う事」
 もともとファリスは海賊時代に女である事隠し、男として生きていた。だからこそ、同年代の男であるバッツに負けたくないライバル意識を最初から持っていたのだろう。それがファリスの生き方であり、矜持だった。…少なくとも最近までは、だ。
「でもさ、やっぱ無理だった。お前、強いんだもん。敵わないって思ったんだよ」
 しかし、そんな彼女の生き方は崩れ去ったのだ。バッツが崩した。
「そうか?お前は俺を圧倒してると思うけど」
「何言ってる。仲間内でレベルが一番高いのはお前だろうが」
「そうだけど、さ」
 …フォローにもならないバッツの言葉をファリスは少し笑いながら跳ね飛ばした。多少だが、バッツとファリスの間にはレベルの差が出来てしまっている。
「まあ、上手く言えないけど腕力とか剣の腕とかの話じゃない。兎に角、そう思った時…あっさり気付かされた」
 そうしてその矜持が無くなり、縛りが消え去った時、彼女の世界は一変したのだろう。
「何に?」
「俺が…女だって事にさ」
「っ」
「俺についてはこんな所だ。レナの方は知らないけどさ」
 ファリスは嘘は吐いていない。瞳は濁っておらず、寧ろ澄んだ綺麗な緑色をしている。
「何か…話が、妙な方向に行ってないか?」
「お前が振ったんだろうが!」
 ファリスは至極恥ずかしそうに怒鳴った。バッツは頬を掻く。こう言う時にどんな態度を取って良いか判らないのだ。
「そうだった…」
「ったく、まあ…アレだ。自分は女で、隣を見れば背中預けて戦える良い男がいるんだ。いざとなれば守ってくれる様なのがさ。…普通、興味持つだろ」
「…女の思考は分からないな、俺には」
「いや、察しろよお前///」
 素っ気無いバッツの言葉と態度を断ち切る様にファリスは熱っぽい顔をしてバッツを押し倒し、圧し掛かった。
―――ドサッ
「なっ!?」
 ファリスの息は荒かった。バッツはただ驚く事しか出来はしなかった。それもその筈だ。ファリスは今まで見た事も無い女の顔をしていたのだ。
「結構、ハイになってるぜ?今の俺」
「…止めろよ」
 ハイテンションを通り越してバッドトリップの領域だろう。注意して見ればファリスの焦点は合っておらず、グルグル回っている程だ。
「俺の事、嫌いか?」
「嫌いじゃないけどっ…!俺は別にお前を…」
 バッツは正直だった。仲間としては信頼しているが、少なくとも女性としては意識していない…否、意識しない様にしていたのだ。かなり顔に出る性質らしい。その証拠に彼の顔は真っ赤だ。
「はは、あっさり言われると寒いものがあるけど、それでも良いさ」
「何を…」
 嘘を吐かれるよりは正直に語られる方が良かったのだ。少し寂しい顔をしたファリスは次の瞬間にはもう開き直っていた。居直った人間が最強だと言う事を逆手に取ったファリスの捨て身の戦法だ。バッツは受身に徹したまま、動けなかった。

「俺の女、立ててくれないか?」

「ファリス…」
「今、お前のジョブって忍者だったっけか?懐に入られれば侍にゃ勝てないぜ?」
 バッツは先の自分の言葉が間違いだった事に気付かされる。酔っ払いだと言うのに、物凄い力で組み伏せられ、ベッドに縫い付けられる。跳ね飛ばそうにも中々出来ない。
「っ、お前…実は性質悪かったんだな」
 捨て台詞をバッツは吐く。ファリスは追撃を止めず、更に駆け引きに持ち込んだ。
「ちょっと強引だけど、お前相手ならこれ位しなきゃな」
 ニヤリと艶っぽくファリスは哂う。了承しなければ無理矢理にでも始めると言う意思表示だ。流石にそれでは男が立たない。…と言うより、女に犯された男と言う不名誉な烙印を頂戴してしまう。バッツは諦めた。
「…どうすりゃ良いんだ」
「判ってるんだろう?さ、流石にそこまで…言わせないでくれよ」
 ファリスの顔が朱に染まる。それは酒の所為ではなく、これから始める事への羞恥と期待からだ。バッツは何とか上体を持ち上げて、ファリスの顎に手を添えた。
「人任せにするなよ、酔っ払い」
「あン…んっ…」
―――チュク
「酒臭え女だな」
「お前は煙草臭いよ」
 こんな爛れた関係を望んでいたわけではない。寧ろ、遠ざけたかった。その為にあえて距離を離したというのに待っていたのは肉欲の地獄。世の中上手くいかないものだと嘆息しながらバッツはファリスを愛でる事を決心した。
「よっこら、せっ!」
「うわっ!」
―――トサッ
 淡いキスで力が抜けたファリスを押し退け、背中からベッドに転がした。そうしてバッツは実に手馴れた手付きでファリスの装いを剥いでいく。上着、靴、スカートから全てだ。ファリスは裸一歩手前まであっという間に剥かれてしまった。
「何か…手馴れてないか?お前」
「意外か?…まあ、女の扱いは上手い方じゃないけど、一通りは、な」
「は、はは…そうかい。あ、案外ムッツリだったりするのか?お前」
「知らないね。ま、俺はお前がここまで大胆だったって事に吃驚してるが?」
 酒に酔っていても女が男を押し倒すと言う真似は早々出来るモノではない。それに至るだけの強烈な思いを胸に飼っていなければ無理だろう。ファリスは顔や言動に出てしまっていたが、バッツはそう言った胸中を一切出さない男だ。…確かにムッツリかも知れない。
「予想通りって言うか、まだサラシ巻いてんのな、お前」
「ジロジロ見んなよ。スケベ」
 乳房を隠す様にきつくファリスの胸に巻かれている白い布を注視するバッツ。その視線を咎める様に言うファリスの顔は赤く、また汗ばんでいる。船の墓場でファリスが女だと露呈した時も彼女はサラシを巻いていた。今もそうだった。
「はっ…こんな事で文句言うなよ。もっと先に踏み込まねばならんのだぜ?」
「え?…ちょっ!まっ…!!」
 この程度は愛嬌以下だとバッツは吐き捨て、あっさりとファリスの胸のさらしは取り払われる。そのバッツの素早い動きにファリスは抵抗しようとするも、素早さの一点で彼女はバッツに及ばなかった。
 たゆん、と布に隠されたファリスの乳房が外気に晒され揺れた。
「こいつは……へえ」
「うっ、ううぅぅ〜//////」
 自分の胸に直に突き刺さるバッツの好奇の視線にファリスは身を捩る。羞恥によって顔は真っ赤で、顔は既に半泣きだ。
「思っていたよりずっとサイズが……なあ、サラシで苦しくないのか?」
「ぅ…そりゃ、キツいけど…俺はサラシの方が合ってるって言うか」
「ふーん。…パーティー以外に知人が居る訳じゃないんだから、苦しいんなら外せば良いじゃん。それに女だってバレたって今更だろ」
「そうだけど…よ。…む、昔からサラシはしてたし、急に変えるのはそれこそ今更だろ…?」
 予想の上を行っていたファリスの乳にバッツは心配する様に言ってやる。腕で隠してその肉が零れる程のサイズがある彼女の胸だ。無理矢理布で押さえ付けるのはかなりの苦痛である事を直感的に彼は判ったのだ。
そして、それはファリス自身も感じていた事だった。が、今更サラシを止める気は無い様だった。
「そんなもんかね?」
「そうだよ。……って違う!そ、それよりも大事な事が今はあるだろうが//////」
「っ…失敬」
 当初の目的から話題が逸れた。ファリスは抗議する様に声を荒げ、バッツは自分が何をしなければならないか思い出した。
「んじゃ、取り合えず…っと」
「ふえっ!?」
 ベッドでパンティ一枚で横たわるファリスを優しく抱き起こし、後ろから胸を隠す腕を取り上げる。そのバッツの行動にファリスが高い声を出した。
「…弄るか」
「弄るって…は、始めるんだ…よな?」
 その行動と言葉でバッツの意図を知るファリス。その顔が引き攣る。
「それがしたいだろ?っつーワケで、普段は窮屈にしてるお姫様のお胸から愛でさせて貰う」
「お、お前ストレート過ぎる、ぞッ!!?っ…きゃう!」
 動きは無駄なく一瞬。バッツの若干節くれ立った指が優しくファリスの乳肉に食い込む。実に可愛い女の子の悲鳴が漏れた。
 ふにっ、ではなくムニッっとした柔肉の感触が指先から伝わってくる。ファリスの肌はじっとり汗ばんで、甘い香りがバッツの鼻の粘膜に飛び込んできた。
「意識してた訳じゃないけど…流石は女の子。エロい体してんのな」
「お、お前…っ、馬鹿にしてんのかよぉ」
 そんなファリスの色香にまるで惑わされていない様にバッツがゆっくりとその胸を揉みしだく。ファリスの声には普段の凛々しさは感じられず、逆に弱々しい。
「何言ってんの?…褒めてるんだよ」
「んあぁぅ!!」
 くっ、と指に力を入れて肉を鷲掴むバッツ。ビクッ、とファリスが跳ね、その顔は半泣きを通り越して目に涙が浮かんでいる。…責められるのには弱い様だ。
「だからこそ逆に勿体無いぜ。こんな立派な武器を持ってんのにお前はそれを隠して、無理に窮屈に生きようとする。お前の生き方にケチを付ける気は毛頭無いが…ナンセンスだって思える」
「っ!ん、っ…!」
 バッツはボソボソとファリスの耳元で囁きながら息を吹きかける。その少し甘い様な責める様な声色にファリスは硬直し、バッツの腕の中で小さくなってしまった。
「ま、お前がそれで良いなら良いんだけどさ」
 乳を搾りながらファリスの肉体を値踏みする様に冷ややかな目で見ていく。流石は男として生きてきただけの事はあるのか、バッツに少し足りない位の高身長を誇るファリスの全身は薄くしなやかな筋肉に覆われている。
 バッツとて男なので今まで沢山の女を見て来たのだが、単に言えばファリスは肉付きが良いのだ。多少筋肉質で骨太だが、乳房や腰、そしてお尻のラインはムッチリとしていてとても美味しそうな印象を与えてくる。
 ファリスは女性としてはグラマーと言って差し支え無い類だった。所々に戦闘によって出来た生傷が刻まれているが、それを差っ引いても上玉な女。
 …そんなファリスを意識せずに、寧ろ邪険に扱い遠ざけていたバッツは鉄の意志を持つか、女に興味が無いかのどちらかに間違いないだろう。

「ふう…ふう…っく」
「あ?…どうしたよ?」
 少し、ファリスの息は苦しそうだった。それを変に思ったバッツはファリスに問うた。
「ぃ…痛いよ…バッツっ」
「うえ…?」
 お胸を弄るバッツの手の動きはファリスには少しばかり苦痛だったらしい。バッツの眉間に皺が寄り、次の瞬間には彼の手はファリスのそこから離れていた。
「これで痛いって…大分微妙な加減はしてるんだがな」
「…済まねえ」
「…男慣れしてないのは直ぐ判ったけど、自分でも殆ど弄ってないのね」
「う、うるさいよ!///」
 ファリスのその顔がバッツの言が正解である事を示している。体に力が入り過ぎているし、何よりも怯えがファリスの全身から伝わってくるのだ。
「こりゃ参ったね」
 勇気を出してファリスがここまで漕ぎ着けたのは良い。だが、ここまで初心な様を見せ付けられればこの後の事をどう展開して良いか不安になるバッツだった。
「なあ、止めるか?」
「え…」
 当然、バッツも鬼では無いのでファリスを気遣う台詞を言ってやる。
「いや、だってなあ。…無理してんのバレバレだし、このまま先に進んでも良い事は何一つ無いと思うんだけど」
「ふ、ふざけんな!」
 未だ酩酊の最中にあるファリスはその台詞が拒絶に写り、後ろから抱きしめているバッツに大声で叫んだ。
「んな事言ってもねえ」
「途中で止める位なら俺から誘ったりするかよ!……なあ、そんな寂しい事言わないでくれよ。…俺が、馬鹿みたいじゃないか」
 ヒートアップした直後にまたクールダウン。随分と不安定な精神状態にある事をバッツは見抜く。伊達に半年近くも面を突き合わせていないのだ。
「そ、それに…ほら。バッツだって」
「え?俺?」
「不完全燃焼のままで良い…のかよ。だって、お前は、まだ…」
 ゴニョゴニョと茶を濁すが如く言うファリス。彼女が何を言いたいのかバッツは知っている。一切の情を交えずにファリスに言ってやった。

「いや、全然?」

「は?」
―――ミュートを使用したが如く、世界が静寂に包まれた
「不完全燃焼も何も、俺は着火すらしてないけど」
 ある意味男らしい…また、女性にとっては極めて失礼な発言が飛び出した。
「だからここで止めても平気だけど…」

「ふ…ふええぇ…っ!」

 その言葉がファリスの心のHPをゼロにする。ファリスは堰を切った様に泣き出した。
「んなっ!?」
―――やべ、泣かしちった
 まさか泣かれるとは思わなかったバッツは泣き崩れるファリスを懸命に宥め始めた。
「ひっく…ひ、酷いよぅ…!わた…私そ、そんなに魅力ない…?」
「ぃ、いやいやいや!決してそんな事は!これはあくまで俺自身の問題であってファリスには責任は…」
 …俺、何でこんな事してるんだろう?
 寝る寸前に押しかけてきた酔っ払いと一戦交えるか交えないかの所まで行って、今度は泣き出した海賊のお姫様のご機嫌取りに奔走する。バッツは自分の道化っぷりに笑いを通り越して泣けてきたのだった。
―――10分経過
「判った。判ったから、な?今回限りは最後まで責任持つ。途中で止めたりしないから泣き止んでくれ。…頼む」
「ぐすっ…本当?」
 考えうる限りの美麗辞句を並べ、褒めちぎり、何とかファリスを泣き止ませる事に成功したバッツ。…と、言うかそれしか許されていなかったと言うのが正解だが、もうそんな事は彼にはどうでも良かった。
「ああ。ここまで来て後に退けないだろ。…特にお前はな」
「…うん」
 もう賽は振られていて、とっくに逃げ出せる様な状況を過ぎていた事を再確認するバッツ。目の前に体育座りしている、翠色に赤が混じった目をしているファリスを見て嘆息した。
「しかし…お前…」
「何だよう…!」
 泣き腫らした目でファリスが睨んでくる。これが平常時ならばバッツとて肝を冷やすだろうが、今のファリスは警戒するに値する輩ではない。
「お前って、実は泣き虫?」
 ファリスが涙を見せる機会は日常生活の中には殆ど転がっていない。バッツが彼女の涙を見たのはほんの数回。親友のシルドラ、そして実父であるアレキサンダー=タイクーンと死に別れた時位なものだ。
 が、バッツの部屋を訪れてからの彼女は随分と派手に泣いている。彼女が泣き上戸でないのはバッツ自身が良く知っているので酒の所為でもない。バッツがそう思うのも無理はなかった。
「誰が俺を泣かしてると思ってんだよ?」

「あ?やっぱり俺?」
 その原因はバッツだった。ファリスにとっては運が悪い。射殺す様な視線を投げ掛けるがバッツには効果が無かった。
「てめえ…」
「睨むなよ。…まあ、それはどうでも良いか。兎に角、今は先に進まないと…」
「…良くねえよ」
 ファリスにとっては結構重要な問題なのだが、それをどうでも良いの一言で片付けるバッツはかなりの極悪人である。そうしてバッツは自分の手をファリスの下腹部へ滑り込ませた。
「ちょっと失礼」
「きゃあ!?」
 バッツの指の腹がファリスの女の子を軽く撫で上げる。
―――くちゅり
「あー…あら?」
 卑猥な水音が聞こえた気がする。どんな塩梅になっているか調べる為にファリスの下着に触れてみたのだが、その布は既にたっぷりと水分を含んでいた。
 くちゅっくちゅっ…
「ぅあ…あ、あう…っん!」
 何度か捏ねて見たが、気のせいではありえない。バッツの指には熱せられた液体がこれでもかと言う程こびり付き、テラテラと光を照り返していた。くすぐったそうに、また気持ち良さそうにファリスが喘ぐ。
「もう…こんなんなってんのか?…大して弄った記憶は無いけど……うーん」
「や、やあ…!ちょ、待っ…!」
 ここまでファリスのそこが潤っているとはバッツにも予想外だった。触れる限りでは、ファリスの下着は蜜を吸って豪い事になっているのは間違いない。バッツはさっさとファリスを覆う最後の布を取り払う。
 パンティが脱がされて、その部分が露出された。その瞬間に濃密なファリスの香がバッツの部屋を満たした。
「こいつは…」
「うう//////」
 もう準備は完了している様だった。ヒクヒク蠢くファリスの陰唇からは愛液の筋が太腿を伝い、滾々と湧き出る汁はバッツのベッドに転々と染みを付けていく。
 愛液を吸ってずっしり重く、お釈迦になってしまったファリスのパンティを指で回しながらポツリと言った。
「…お前は汁気が多いんだな」
 ほんの少し弄っただけでこれだ。これからもっとファリスの分泌する汁は増えていくのだろう。バッツは自分のベッドが壊滅する事を悟った。だが、悟った所でどうしようもなかった。
「もう弄る必要は無い、か?…否、でもそれじゃああんまりだよな」
「?」
 見た限りではこれ以上の愛撫はファリスに必要が無いのだが、バッツは少し考えている様だった。もう少し柔肉をほぐすべきか否かをだ。ファリスはそんなバッツの表情が不安だった。
「…よし」
「バッツ…?」
 そうしてバッツは決断した。ファリスをベッドに優しく横たえさせた。
「力抜いて、脚を大きく開いてくれ」
「そ、それは…!」
 ファリスの目が見開かれる。その行為を始めてしまうつもりなのだろかと不安に駆られるファリス。
「いや、違う」
 バッツはそれを否定した。
「こっちの準備が未だなんだ。だから、もう少し弄る事にするよ」
「準備って……」
 ファリスはバッツが何を言っているのか半分判らなかった。自分の体を弄るつもりなのは理解できるのだが、準備とやらが何を指しているのか判らなかったのだ。
 …その解はバッツ自身が提示した。
「こう言う事さ」
 バッツが徐にズボンのジッパーを下げて、一物をファリスの目の前に曝け出す。
「っ…///」
 ファリスはバッツのそれを見て顔を沸騰させた。見慣れないもの…しかし、始めて見る訳ではない男性器。自分の心臓の鼓動が早くなっていく事をファリスは感じた。
 …そして、バッツのそれは可愛そうに縮こまっていたのだった。
「いや…恥ずかしいんだけどさ。俺も酒を入れちまったから、何時にも増して下半身の反応が鈍いんだよ。だからさ…」
「そ、それが…俺の、中に?」
 目の前でプルプル揺れる亀の形をしたバッツのそれ。ファリスは少しそれを可愛いと思ってしまった。
「何か…可愛いな」
「ぅ…ちょっと傷つくけど、仕方が無いよな」
 こんな重要な局面で役に立たない馬鹿息子にバッツは多少恥を感じている。更に、ファリスに『可愛い』とまで言われてしまった事も悲しかった。
「で、でも…安心してくれ。もっと成長した奴をお前には喰って貰うからさ」
「成ちょ……お、大きくなる、の?」
「まあな。っつー事だから、お前にも協力して貰うぜ」
「協力?…っアン!!?」
―――チュク
 蜜を滴らせる花弁にバッツの指先が直に触れ、ファリスが鳴いた。
「そうそう。そんな感じ。良い声で鳴いて頂戴」
「ぅ……っ、それは良いけどさ。その…バッツ?」
「…何だよ?」
 かなり息が荒いファリスは哀れむ様な目でバッツを見ていた。バッツはファリスの言いたい事は大体判っていたが、敢えてそれを聞いた。
「男の事は良く判らないけど……結構、難儀なんだな」
「そうだ」
 女がそうである様に男にも苦悩はある。バッツは少し涙が出そうだったが全力でそれを押さえ込む。そうして、租チンをぶら下げたままファリスを弄り始めた。
「ぅ…うあ、っア!」
 バッツの指が入り口付近を撫でる度にファリスの押し殺された甘い声が漏れる。既にその場所は局所的な洪水状態であり、水遁の術を投げつけたより酷い有様を呈していた。
 そんなピクピク痙攣するファリスを丹念に愛でながら、機械的な視線を向けるバッツ。水浸しになったベッドシーツを見るに、突貫するには十分な状況の筈だがバッツは未だに準備が完了していない。
「出来るだけ声は殺して欲しくないんだけど…」
「あふっ!は、恥ずかしいよう…やっぱり//////」
「俺としては聞きたいんだけどさ、ファリスの声。…そうだな、もう少し手荒くすれば鳴いてくれるのかな」
「ちょ、な…ま、待っ!!?」
 冷ややかな声色でバッツは物騒な事をのたまった。ファリスはその危険な顔に戦慄し、バッツを止めようとしたが無駄だった。包皮越しにクリトリスを摘まれて強制的に口を閉じさせれた。
「お、今の良いね。もうちょっとキーを上げてくれると助かる」
「い、たい…!痛いよぅ……」
「え、痛い?…おいおい、皮を被った状態で何言ってるの。これで痛いってんなら皮を剥いたらどうなっちまうのかなあ」
「や、止めて!そこ弄っちゃやだあ!」
 ぐしぐしとマジ泣きを始めてしまったファリスは自分でも殆ど弄った事の無い陰核からの刺激に完全に怯えていた。その顔と声にそそられたバッツは情け容赦なく包皮を剥いた。
―――ムキッ
「ひいぃうぅぅぅっっ!!!!」
 剥かれた事の無かった女芯が始めて外気に晒される。その瞬間にファリスが弓形に仰け反り、膣口から愛液が飛沫いた。軽い絶頂を味わったらしい。
「あー、手入れはした方が良いと思うけど?カスが薄く溜まってら」
 バッツは痙攣を止めないファリスの艶姿に反応するものがあったのだろう。喜色ばんだ笑みを浮かべ口の端をくの字に曲げる。ファリスにはバッツの言葉は届いていなかった。
「…自分で弄ってる様子も殆ど無いし、仕方ないか。…しゃあねえ。俺が綺麗にしてやるよ」
 バッツは直ぐに原因を理解した。ファリスは自分で自分を慰める真似をする女ではない。だからこそ女の部分の手入れもそこそこになるのは仕方が無いのだ。
 漸くバッツの心に火が入った。彼は優しげな視線を震えているファリスに向けると、そのまま顔を彼女の下腹部に近付け、真珠をそっと口に含んだ。
―――チュ
「アヒィ!!」
 もう声の殺し方を忘れたのかファリスが本当に切羽詰まった声で叫ぶ。バッツはファリスの小さなクリトリスを舌先で突付き、外周を舐め、また強く吸うと言った行為に没頭する。
「んああうぅ!!」
 顔を手で覆い、咽び泣くファリスには最早、気丈な女海賊の面影は無かった。ただ愛でられ、痛みと快楽のスレスレの感覚に翻弄され、泣いている女の子が其処に居た。
 垂れ流される愛液と可愛い声は量を増し、バッツの下半身に血を巡らせる。進発準備完了までもう少しだった。
「っ、ちょっとしょっぱいな。まあ、良いけど」
 チロチロと女のペニスを舐め上げながら、伸ばした腕は乳房を鷲掴み、グニグニ形を変える程に揉まれる。残念ながらそれに耐える術をファリスは持たなかった。
「ィ…ァ、かっ、ハッ…ァ!」
「む?」
 ファリスの体に異変が生じた。今までに無いほどに体を強張らせ、何かを耐えている様だが、それは全く意味を成していない。
―――間違いない
 バッツは瞬時に理解する。大きい波が来る前兆だった。
「ィ…逝くぅ……っ」
 それが証だ。か細く裏返った涙声がよほど切羽詰った状況である事を伝えて来た。バッツは無慈悲にも止めを刺す。

「んじゃ、我慢せずに逝って貰おうか」

―――カプ
「きひィ!!?」
 多少強めにバッツが唇でファリスのギンギンに滾った豆を噛み潰した。
「っ…ぁ、あ!んあああああああああああああああ!!!!」
 その瞬間にファリスの理性は完全に吹っ飛び、がっちりと腕でバッツの頭を自分の股座に固定する。恥も外聞も何処吹く風。そんな事はファリスの内で瑣事に成り下がり、自分から肉欲の檻に飛び込んだのだった。
「っ…ふあっ!んっ、ふは…ぁ」
 グッタリ脱力して汁を撒き散らかしたファリスの体は完全に開いていた。大量の白く濁った愛液が蠢く花弁の奥から垂れ落ちる。
「準備完了…ってな。休ませる暇は与えないぜ」
 前後不覚で蕩けているファリスの股座にバッツは完全に勃起を果たした己のグレートソードを宛がった。先端が熱い肉に触れ、襞が今にも絡み付いてきそうな勢いだった。
 そのバッツの所業にファリスは何も出来ない。自分を貫こうとしている目の前の男を見つめる事しか許されていない。
「まあ、聞くだけ無駄だが一応聞いておく。…経験は無いんだよな?」
「…(コクン)」
 喉が潰れたのかファリスは声を出せない。頷くだけだ。だが、どの様な答えを返されても此処まで来てしまったのならお互いに退くに退けない状況なのだ。バッツはファリスの中に押し入る気だし、ファリスにもその覚悟をして貰わねばならなかった。
「今なら未だ間に合…って、この台詞は厳禁だったか?」
「ここで…」
「あ?」
「ここで止めたら…殺すぜ?」
 心にも無い台詞でファリスを煽るバッツは泣き腫らした目で睨まれた。覚悟はとうに入っている事を思い知らされる。
 それならば…と、バッツはファリスの腰に手をやって挿入し易い体勢を作った。
「良いんだな?」
「お前なら…俺は構わないさ」
 呟く台詞は小さかったが、確かにバッツの鼓膜に入ってきた。
 …下を見れば、全身汗ばんで、真っ赤に熱せられた女の体が己の到着を待っていた。
 部屋全体がファリスの香りに満たされ、その空気を吸う度に頭がクラクラする。そんな噎せ返る空気に今度はバッツの香りもまた混ざろうとしていた。
 承認の言葉と共にバッツは腰を前に進める。
「っ、あ…!」
「多少痛いのは我慢しろ」
 中々に狭い肉の壷に剣が突き立てられる。その熱さと柔らかさ、きつさを物ともせずにバッツは膜の手前まで一物を埋め込む。
「力は抜いとけ?…一気に、往くぜ!」
「んっ!んん―――っ!!」
―――プツ
 そうして、一切の戸惑いを見せずに易々とバッツは肉の壁を貫き、先端をファリスの最奥に叩き付ける。
 ファリスは顔を少し歪めたが、それをバッツは痛みの所為だと思った様だ。だが、現実は違う。進入してきたバッツの竿の圧迫感に戸惑ったからだった。痛み自体は殆ど気にならないレベルのダメージに抑えられていた。
 …バッツの弄りの賜物だった。
「――ハア、ハア…ハッ…!」
 荒い息を吐いて、その感覚に戸惑うファリス。飲み込んだバッツの剣からは熱が発せられていて、その熱さが自身の体を蝕んでいった。
「どうした?…やっぱり、辛いか?」
「いや…そう、じゃなくって……何か…変な、感じっ」
「じきに慣れるさ。…動いて良いのかな」
「ん…お前の、好きにして良いぜ」
 苦痛、嫌悪の類は全く見られない。ただ、慣れない感覚に戸惑うファリスが其処には居るだけだった。正常位の形でファリスの処女を奪ったバッツはそのままの形でファリスをゆっくりと融かし始めた。
「んく…んっ、ふっ…んん」
 鼻に掛かる艶っぽい声がファリスから漏れ出す。初めて咀嚼した男の肉に襞が齧り付いて溶かしていく。
「上々だな」
「はっ…ぁう…き、気持ち良いの?」
 不意に出たバッツの言葉にファリスが反応した。
「ああ。悪くない。…お前は?」
「…未だ、判らないよ」
 ぶっきらぼうに返したバッツだったが、その言葉に一応ファリスは満足した様だった。しかし、自分も良いのかと問われれば首を捻らざるを得ないのが実状だった。
「…未だ俺も耐えられそうだし、暫くはこのままだな。単調な前後運動だが…」
「あんっ」
「少ししたら堪らなくなって来るぜ?」
「//////」
 子宮の入り口を軽く撫でた時にファリスが女の声を上げる。バッツの言っている事は良く理解できないが、それに興味と恐怖を抱いているファリスは相変わらず真っ赤だった。
―――20分前後経過
「ふっ、ああ!っぁん!っ、っ、っ!」
 バッツの予想は当たった。十分にこなれていたファリスの膣は初めての男の肉にすっかり順応し、そこから快楽を掴み取るに至った。
 乱れた喘ぎと共に、もどかしそうに体をくねらせるファリスはもうすっかり女の顔をしていて、涙を浮かべて目の前のバッツを物欲しそうに見つめている。
「ハッ…言った通りだったろう?しかし、本当に素晴らしい適応能力。喰い付いて離してくれないぞ、お前の此処」
「っあ!」
 意地悪そうな笑みを浮かべ、一物をファリスの膣の中でグラインドさせた。キュッと締まって来る肉の感触にバッツは少し辛そうな顔をした。
「バッツ…っ、バッツ!」
「もっと欲しいって面だな」
「欲しい…欲しいんだよ…っ…切ないのお!!」
 もう自分が何を口走っているのかも怪しそうだ。一皮剥けばファリスとて女。そして、その女の性には逆らう事は出来ない。ファリスとて例外ではないのだ。身を焼く熱さと切なさから逃れる為に更なる快楽を望んでいる。
 そして、それを成せるのが目の前のバッツしか居ないから、泣きながら懇願しているのだ。バッツはファリスのおねだりに応えてやる事にした。
「素直で宜しい。ってーか、俺もちょっと辛くなってきたんでな。激しくさして貰うぜ」
 と、言うか好い加減に耐久力が無くなって来ているバッツはこれ以上牛歩の歩みをする訳にはいかない。暴発は流石に避けたいバッツはギリギリの所で勝利を呼び込めたのだった。
「バッツ…ぁ、あはぁ!!!」
 ゴリ、と最奥を抉る先端の熱さと感触にファリスが身震いして咽ぶ。必要以上に焦らされていたファリスも好い加減に逝きたかった。
「ふう…ふう…ぅ、うぅ」
「あふっ!んっ!ぃ、ひい…!!」
 熱く融けた金属の棒を突っ込まれて、かき回されている気分だった。ファリスは気持ち良さそうに喘ぎながら、快楽の源になっているバッツの肉棒を丹念にしゃぶり、磨いていく。
 何だかんだ言って、処女の秘洞。そんな危険な孔に一物を突っ込めば長く保たないのは自明の理だ。苛烈に愛してくるファリスの襞と搾り取る様に蠢く壁に先走りの量が増した。ブルリ、と背を震わせてバッツは限界を悟った。
「ちょっと、込み上げて来たな…!な、膣内で良いのか?」
「っ、来てえぇ!マ○コ!マ○コの奥にブッかけてえ!!!」
「は、はは…やり過ぎたか?」
 普段では絶対に聞く事が出来ない類の言葉がファリスの口から垂れ流される。事が終わって正気に戻った後が怖いが、後の祭りだ。このまま、お姫様のお気に召す様に努めるしかないのが今のバッツだった。
「またっ…、また、また逝くよぅ…!マ○コ逝くぅ……!」
「そ、そうらしいな。んじゃ、俺も…!」
 もう少し保ちそうだったが、ファリスの絶頂に合わせてバッツは射精する事を決めていた。ガシガシ腰を打ち付けて、込み上げる子種を尿道口近くまで無理矢理持ってくる。その激しい腰使いにファリスが昇天する。
「バッツ…!」
―――ギュウ
 一物が握り潰される。竿の中身を奥に誘う様に情熱的にファリスがバッツを包み込んだ。
「ここだ…!」
 その動きに合わせてバッツもまた、ファリスの最奥に分身を捻じ込んだ。そして、煮えたぎった精液がファリスの望み通りに子宮に届けられた。
「んああああううぅうううう!!!!」
「ぐっ…、…っしゃあ!」
―――これで義理は果たした
 子宮底に叩き付けられる精液を、涙を零しながら胎に収めていくファリスの姿にバッツは勝利を確信し、拳を握り締める。肩口に食い込むファリスの爪が赤い痕を残していた。
「っ…熱、い…!お胎が、熱いよう……あは…ぁ♪」
 絶頂によって完全に螺子が跳んでイカレてしまったファリスはうわ言の様に呟く。初めて注がれたバッツの汁の味はファリスの中に記憶され、その熱はファリスを暖かく満たしたのだった。甘く蕩けた声はファリスが陥落した証の様に室内に響いた。

「うう〜〜〜//////」
 そして、これが結末だった。…あれだけ激しく動けば酔いも完全に覚めてしまうの必定だ。大量の子種を胎に抱えたまま、バッツの腕の中で小さくなっているファリスは今の今までの自分の乱れ様が信じられないらしかった。
「それって…今更の様な気がすんだけど」
「五月蝿いよ!お、おま…お前があんな抱き方するからだろう//////」
 今になって自分の姿を直視しないファリスは滑稽だった。だからバッツは少し疲れた顔をして言ってやった。ファリスはそれをバッツの所為にしたいらしい。
「…お気に召さなかったか?」
「あ、いや…とっても良かったけど///」
 それがファリスの本音だ。本当は大満足。素直になるのが難しいお年頃の様だ。
「ならそれで良いだろ」
「…って違う!こ、この変態が…!」
「俺は優しくしてやったつもりだが?っつーか、その言葉はお前に返す。このニンフォマニア」
「ぐううううう〜〜〜〜///」
 内心大慌てで不安が一杯、それ以上にバッツに眩んだファリスは冷静さを取り戻したバッツには口喧嘩では敵わなかった。せめてもの反撃にバッツの薄い胸板をポカポカ殴りつけるが、脱力しきった体ではダメージが通らなかった。
「ま、まあ終わり良ければ全て良しだぜ。酒に酔った末ってのが色気の無い話だけどさ」
「あ?」
 不意に零れたファリスの言葉にバッツが喰い付く。不信感に満ちた視線のオマケ付だ。
「その…バッツと…しちまったんだなって///」
「ああ。…俺としては二度と御免だがね」
 満更でない…と言うよりある意味本懐を遂げたファリスは満足そうだが、バッツはうんざりしていた。
「え…」
「当然だろ。半ば襲われる形だぞ?それで渋々合意したけど…やっぱ柄じゃないよ」
「・・・」
「お前もそれで良かったんだろ?」
 半ば必要に迫られての決断だった。それに味をしめられては困る。バッツはとことん冷断に、念を押す様にファリスに言う。途端にファリスの顔が暗くなった。そして悲しそうに呟いた。
「寂しい事…言ってくれるじゃねえか」
「寂しいのか?」
「チッ…本っ当に可愛くねえっ!
(だけど…これで既成事実は?ぎ取ったんだ。逃がすかよ…!)」
「今、不穏当な事を考えなかったか?」
「いーや?全然?」
 知っている癖に聞き返す辺りがバッツは性質が悪い。だが、ファリスは今回の一件で大きな切り札を得た事になるのだ。バッツはそれに危険を感じた様だが、ファリスはごまかした。
「ふーん。ま、良いけど」
「あっ」
 腹に一物あるのは間違いない。だが、それが何か今一判らなかったバッツは思考を放棄して、ファリスを背中から優しく抱きしめた。
「む?」
「ん…ふっ…」
 ファリスは気持ち良さそうにバッツの腕に収まり、居心地良さそうに体を擦り付ける。どうやら、抱っこされるのがお気に入りの様だ。
「もっと…ギュってしてくれるか?」
「…ああ。こう、だな」
 強請る様に呟いたお姫様を更にきつく抱いて、バッツは頭を撫でてやる。流れる紫色の長髪を梳きながら、何度も何度も頭を撫でる。そのバッツの仕草に閃くものがあったファリスは口走っていた。 り
「父さんって…こんな感じに大きくて、暖かかったのかな…?」
「知らんよ。俺はお前の親父さんじゃないからな」
「・・・」
「…ま、今日だけならこうしていてやるさ」
「アン…くふぅ……♪」
 猫撫で声を発したファリスは幸せそうに身を悶えさせた。

―――何か忘れてる気がする
 一抹の不安が思考の片隅で警鐘を鳴らすが、ファリスはそれを締め出した。今はこうして惚れた男の腕の中で抱かれ、眠りたかったのだ。

 …その不安の正体に気付いた時はもう既に遅かったのだが。
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