FFシリーズ総合エロパロスレのまとめ

「ん〜…」
 ボリボリと頭を掻いて、現状を認識する。辺りを見回して、そこが自分の部屋ではない事に嫌でも気付かされる。ファリスは隣に居るはずの男が居ない事に気付いた。
「ちっ…つれない奴」
 どうせなら、起こして欲しかった。…そんな都合の良い台詞を吐いた所で部屋の主は自分を残して既に出払ってしまっている。一夜の伽の相手に放置されたファリスは寂しそうに呟く。
「…戻るか」
 これ以上、バッツの部屋に居ても仕方が無い。ファリスは素っ裸のまま、ベッド脇に立ち、自室へ帰る為に自分の衣服に手を掛ける。バッツが起き抜けに畳んでくれたのか、脱ぎ散らかしたそれは一箇所に纏まっていた。
「ぁ…んっ、んん…!」 
 が、それに手を伸ばし屈んだ所でファリスは身震いし、動きを止めてしまった。
「やば…た、垂れて…きたぁ」
 昨夜の情事の名残がファリスの奥底から流れ落ちる。それを阻止しようと下腹に力を入れるが無駄だった。自分の体温に暖められたバッツの子種がボタボタ床に垂れ落ちた。
「アイツ…派手にぶち撒けやがって…っ」
 …これは駄目だ。黄ばんだ白濁を垂れ流した状態で部屋には帰れない。ファリスは急ぎシャワー室に駆け込み、染み付いた汗の匂いとバッツの残したモノの処理に追われたのだった。

 時刻は正午少し前だった。手早く始末を終えたファリスは自室へと帰り、装いを変えて宿の外に出る。空腹を訴える自分の腹を落ち着かせる為に酒場に向かう為だ。
「・・・」
 ファリスの顔色は冴えなかった。難しい顔付きで、眉間に皺を寄せながら歩いている。
…バッツと寝てしまった。
 純然たる事実が目の前にある。その証拠に未だ股の間に何かが挟まっている様な違和感だってある。
「っ」
 だが、別にファリスはバッツとした事について思いを巡らせているのではない。自分で望んだ事だ。そしてその結果にも満足しているし、後悔もしていない。だが、ファリスは怖い顔のまま唇を噛んだ。
―――抱かれた喜びの影で何かを忘れている
「何だってんだ…糞」
 首を捻り、それを思い出そうとするも出来なかった。完全に頭からその事柄が抜け落ちてしまったかの様に。ファリスは往来の真ん中で歩を止めて深く溜息を吐いた。
「―――え」
そうしていると、忘れていた事柄が自分から近付いてきた。ファリスが目を見開く。
「う、っ」
 引き攣った声と共にドクドクと心臓から全身に血が巡る。道の先から歩いてくる人物はにこやかな笑みを浮かべながらファリスに近付いてきた。

「…姉さん」

「レ、ナ…?」
 頭一つ低い自分の妹に瞳を覗き込まれ、ファリスは一歩退いた。顔は笑っているが、レナの瞳は氷の様に冷たかったのだ。
「ここで、良いかしらね」
 レナに手を引かれてやって来た場所は人が寄り付かない道具屋の裏手だった。
「・・・」
 ファリスは目を閉じて無言だった。どうしてこんな人気が無い場所に連れて来られたのか、その原因も理由も明白だからだ。どうやって嗅ぎ付けたかは知らないが、レナは確かに昨日の一件を知っている。
「それ、で…」
 クス、とレナは悪戯っぽい笑みを見せた。その瞳の色は濁っている。
「どうして姉さんをここに連れてきたか、判る?」
「…ええ」
 言い訳をする気はない。ファリスは頷いた。その瞬間、レナの顔面を覆っていた笑顔が取り払われた。
「そう…全部、承知してるのね」
 レナの美貌が憎悪に歪む。
「っ」
 ファリスが唾を飲み込む。凄惨な表情を貼り付けたまま、レナは取り出したジャベリンの切っ先を自分に向けてきたからだ。
「やってくれたわね。…抜け駆けは駄目って、言ったのに」
 …幾らなんでも物騒過ぎる。レナは完全に逆上していた。

「うう…煙草、タバコ…と」
 昨日と同じく羊弄りに精を出していたバッツであったが、煙草を部屋に忘れてきてしまった事を思い出した。態々、宿の自分の部屋に戻るのも面倒なので道具屋で新たに買い足そうとバッツは道を急ぐ。

『――!……っ、!』
 
「あ?」
 ガラフの世界に広く流通している聞いた事の無い銘柄を新たに買ったバッツ。道具屋から出て早速一服しようと思った矢先、裏手から喧騒が聞こえてきた。
「何だあ?」
 ギリギリで何とか聞こえる声量だったが、何者かが裏手で喚き散らしている声が確かにしていた。
「…覗いて、みるか」
 普段のバッツならば決して取り合わない、取るに足らない事だ。だが、何故かバッツは今回に限りそれが気になってしまった。バッツは興味本位で裏手に回る事にした。
 …それが自分を更なる泥沼に突き落とすとは知らずに。
「あれ…は」
「それで?何か言いたい事はあるかしら」
「言いたい事ね。…何か、言って欲しいの?」
 ファリスは居直りを決め込んでいた。かなりの威力を誇るジャベリンの切っ先が首筋に向いている。サンドベアから苦労してゲットしたレアアイテムをこんな事に使うのは正気の沙汰ではありえない。
「っ、随分…余裕ね。勝者の余裕って奴?」
「そう思うか?…勝手にそう思ってれば良いさ」
 ファリスは基本的に妹であるレナに甘い。だが、ファリスにだって譲れないモノはあるし、こうなってしまっては仲が良い姉妹を気取るつもりも更々無い。低い良く通る声でレナに突き放す様に言った。
「姉さん…!」
「…言い訳する気はないよ。結果として、レナの言葉を忘れてしちゃったのは本当だから」
「じゃあ…認めるのね?」
「ええ」
 当然、レナは激昂する。いきり立った内面を表す様にカタカタと槍を握る手が震えている。ファリスは少しだけ顔を伏せた。妹の言葉とその思いを忘れ、衝動に走った事は一応後悔しているらしい。
「ふっ…ふふふ…!姉さんに任せた私が甘かった様ね。私が思ってる程にバッツは好いていない?…嘘吐き」
「ああ。そう思ってたぜ。でも…予想以上に俺はアイツにイカレてたみたいだ」
 それ故の睦合いだったのだ。ファリスが自分でも分からなかった思いは酒を起爆剤にして破裂し、肉欲となってバッツに襲い掛かった。だが、そんな言葉はレナには通らない。
「本当に言い訳にもならないわね。それで、気持ち良かった?大好きなバッツに抱かれて」
「・・・」
 複雑そうな表情をファリスは覗かせた。言って良いのか悪いのか判別が付かないのだ。
「…答えてよ」
 しかし、レナはファリスが沈黙を答えとする事を封じた。為らば仕方ないと、ファリスは顔を上げて言い切った。

「ああ。とても、良かった」
「・・・」
 目を見開いてレナは息を呑んだ。その姉の顔は本当に嬉しそうだったのだ。
「でも…」
「何よ?」
 その嬉しそうな顔も一瞬だった。次の瞬間、ファリスの顔には暗く影が差していた。それが気になったレナは聞き返した。
「アイツの心は…残念だけど、俺には無いみたいだ」
「な、何…言って」
 姉の言葉の意味が妹には分からなかった。それが意味する所は、その場に居たファリスしか知らない事。レナが理解できないのも当然だった。
「言葉通り、よ。確かに、気持ち良かった。でも…今はその事実が悲しい」
「…判らないわよ。嬉しい癖に、悲しいだなんて」
「判らないか?…でも、本当の事だよ」
 レナはファリスの謎掛けに付き合うつもりは無かった。だが、ここまで意味深な台詞を吐かれては会話をどう展開して良いのかが見えてこない。自然と姉の言葉に答える結果となった。
「…馬鹿みたいね。バッツに体を開いて、得たのが悲しみ?」
「…そうなるね」
 それが、レナの答えだった。抜け駆けした姉を詰る様に嘲笑う様に言ってやった。ファリスは別段、怒る様な真似はせずにレナの言葉に素直に頷く。
 ファリスのその寂しそうな顔を見て、レナの力が抜ける。
「ふう…」
―――何をやっているんだろう
 頭に疑問が湧いて来た。…こんな事をして何か意味があるのか?
 ささくれ立った心が鎮まるのか?姉がバッツと寝たと言う事実が消えるのか?
 …否。そんな事はありえない。
「本当に馬鹿なのは、姉さんに当り散らしてる私、なのかもね」
 レナは槍を下げ、自嘲気味に漏らす。子供じみた八つ当たり。それに気付いた時、レナに取り憑いていたモノが離れていった。
「レナ…?」
「もう良いわ。…行って」
 突然のレナの変化にファリスは駆け寄ろうとしたが、レナの言葉がファリスを遠ざける。今は一刻も早くファリスにこの場を去って欲しい。嫉妬に狂って刃を向けた自分から離れて欲しかったのだ。
「・・・」
「姉さんがバッツと寝たって言うなら…私も好きにさせて貰うわ」
「……分かったよ」
 その意図を汲み取ったファリスはレナに背を向けた。レナの台詞が予言の様に響く。ファリスはそれを止める事は出来なかった。

「…馬鹿なのは俺も、レナも同じだよ」
 それがファリスがこの場で言った最後の言葉になった。レナの方には一切振り向かず、ファリスは一人去っていった。
「そうね。…姉妹で一人の男を盗り合ってるんだもの」
 ぎりぎり、ファリスに届く声でレナは呟いた。端から見れば馬鹿馬鹿しい痴話喧嘩。だが、やっている本人達は真剣そのものだ。少しだけ、姉妹の絆が弛んだ。
「お、っと…」
 …話は終わったらしい。バッツは自分の方に向かってくるファリスに見つからぬ様に身を隠し、彼女が通り過ぎるのを待った。
「…厄介事が持ち上がっちまったなあ」
 自分で首を突っ込んだ訳ではないが、タイクーン姉妹の間に波風が立ってしまったのは疑いようの無い事実だった。
「仕方ない。フォローしておくか」
 だが、嘆いた所で後の祭り。もう既に自分は当事者なのだ。そう言い聞かせてバッツは何食わぬ顔で裏手に回った。

「騒いでたのはお前か、レナ?」
「うわぁ!!?」
 ビクッ!とレナが飛び上がる。背後から声を掛けられて吃驚したのが丸分かりの反応だった。
「ば、バッツ…!?」
「な、何慌ててるんだよ。何か…挙動不審だぜ?」
―――何故、彼がここにいるのか?
 レナはコンフュでもかけられた様に混乱の渦に叩き込まれた。何処から涌いたのかは知らないが、今の彼女にとって最も出会いたくない人間の筆頭が声を掛けてきたのだ。嫌でも声が上ずる。バッツにもあからさまに警戒された。
「あ、いえ…な、何でもないのよ?」
 ほんの少し前まで、姉と痴話喧嘩をしていたレナは未だに平静になりきれない。無理矢理に取り繕うが隠すべきモノを隠せていない。何かある事がバレバレの下手な嘘だった。
「ふーん?…気になるけど、突っ込まない方が良いのかな?」
「突っ込んじゃ駄目。…乙女には秘密があるものよ?」
 無論、それが虚言である事はバッツとて承知している。少しからかうつもりで言ったバッツだったが、レナの言葉に不覚にも噴出しそうになってしまった。
「乙女だ?おーい、お前が言えた口かよ」
 ファリスと共にパーティーの物理攻撃役を引き受けている肉弾女郎が何を抜かすのか。バッツはおかしくて堪らなかった。

「ああ、そうだ」
「何?」
 …お遊びはここまで。バッツが本題を切り出そうとするとレナの表情が険しくなった。
「お前の姉ちゃん。あんま責めてやんな。酔って頭がぶっ飛んでたからな、昨日は」
「!」
 歪んだ顔が心の内を如実に語っている様だった。レナは俯いて、唇を噛む。バッツの言葉は止まらない。
「俺としちゃ事無きを得たかったけど、残念ながらそれで済まなかったんだ。…跳ね除けられなかった俺にも責任はあるぜ?」
 別にファリスを庇っている訳ではない。唯、真実を語っているだけ。…なのに、どうしてこうも負の想念を送られるのだろう?バッツは自分の損な役回りにうんざりした。
「聞いてたのね、やっぱり」
 あれだけ派手に喚いたのだ。耳聡いこの男が気付くのもまた当然だとレナは納得する。
「さあね」
 バッツの答えはそれだけだった。


バッツは言いたい事だけ言ってさっさとその場を後にした。独り、道具屋の裏手に残されたレナは呟いた。
「…次は、私の番。…よね」
 その翠の瞳には決意の炎が宿っていた。

 昼食後、レナは勢いのままにバッツの部屋に特攻した。全て、あの男に知られてしまっている。このままにする事は出来ないし、レナ自身としても決着を付けたかったのだ。
―――コンコン
 目の前の扉をノックする。緊張した面持ちでノックする。しかし…
「…留守?」
 内部からの返答は無かった。無言が木霊するだけ。ドアの取っ手に手を掛けるも、ドアは施錠されていた。
「仕方ないわね。…出直しましょ」
 バッツは留守だった。レナは少しだけ胸を撫で下ろす。だが、それは問題が先送りになっただけだった。レナは自室へと帰っていった。

―――夕食時 酒場
 酒場で夕餉を平らげたレナ。その場所に居たのはガラフだけで、ファリスは自室から出てきた様子は無かった。きっと、レナと顔を合わせたくないのだろう。レナとしてもファリスには今は会いたくなかった。
 だが、問題なのはバッツの姿も見えないと言う事だ。ガラフが寂しそうにカウンターで酒を飲んでいる姿が印象的だった。
「未だ…帰ってないの?」
 そんな嫌な予感がレナの頭を占めていた。だが、そんな予感があったとしても今のレナはバッツに会わずにはいられないのだ。
 そうして、再び訪れたバッツの部屋。
「…何処行っちゃったのよ、バッツは」
 その予感は的中し、バッツの部屋は昼間と同じで硬く閉ざされていた。

―――深夜
 日付が変わる少し前。レナは三度バッツの部屋を訪れた。
…今度こそは居るだろう。半ば確信めいた予感がする。部屋の扉をノックすると、それの的中を示す様に内部から主の声がした。
「開いてるぜ」
 レナは深呼吸をしてバッツの塒に踏み入る。魔窟とも言えるその場所へ。
「やっと会えたわね」
「ああ。…痛、来る様な気がしてたけど、本当に来るとはな」
 部屋に入ると消毒液の匂いがレナの鼻腔に刺さった。バッツは床に胡坐を掻いて、傷の手当てをしていた。痣と切り傷、擦り傷を顰めた顔で淡々と癒すバッツは薬師のジョブをある程度齧っている。
「それで…今まで何処をほっつき歩いてたのかしら?」
 そんなバッツの様子が気になったレナ。どこからどうみても喧嘩の類で出来た傷ではない。寧ろ、モンスターと戦闘でもした後の様なボロボロの体なのだ。
 バッツは何でも無い様にレナの質問に答えてやった。
「あ?あー、ちょっとクーザー城まで遠征だ」
「!?…シールドドラゴン狩り?まさか、一人で?!」
「そうだけど」
 …何て言って良いか判らない。たった一人で封印城の護者を狩ってきたバッツ。シールドドラゴンの異常な強さを知っている者ならば、そんな馬鹿な真似は出来ない。バッツは頭がおかしいか酔っ払っているかのどちらかだろうとレナは思った。
「あなた…その裡、死んじゃうわよ?」
「気のせいかな。もう何度も死んでる気がするよ」
 そんなに暇なのか?それとも強くなりたいのか?…どちらにせよ、これでバッツが留守にしていた理由がはっきりした。これでまた、バッツと他のメンバーのレベルの差が開いた。
「バッツ」
「うん?」
 雑談をしに来た訳ではない。レナは手当てを終えたバッツに真剣な声色で言う。薬箱を片しながら、バッツは気の抜けた返事で返した。
「私があなたを訪ねた理由、判ってるわよね?」
「まあな」
 どっこらせ。爺臭い掛け声と共にバッツは寝台の縁に腰掛ける。彼はレナが訪れた理由も、その心の内も判っている。タイクーンのお姫様は見かけによらず、行動派らしい。バッツは苦笑した。
「じゃあ…」
「お断りだ」
「っ」
 しかし、バッツはその気持ちに答え様とは思わない。言葉の途中でバッツはそれをきっぱり拒絶した。レナの顔が歪む。
「お前、ファリスと張り合ってんのか?」
「…否定は、しないわ」
 大方、姉との一件を知って焦りを感じたから、自分を訪ねたのだろう。バッツはその様にしか思ってはいなかった。そうして、その考えは当たりだった。
「あっそ。…んじゃ、そのダシに俺を使うのは止めて貰おうかな。昨日も含めていい迷惑なんだよ」
「姉さんは抱けて、私は抱けない?」
 最初から取り合う気も、聞く気も無いバッツは冷たく言い放つ。レナの焦燥は尚の事煽られて、そんな事を口走る。自分も抱いて欲しいと言っている様だった。
「あのよぉ、そっちの都合を押し付けるなって言ってるんだぜ?俺は」
「でもあなたは姉さんを…!」
「そうせざるを得なかったってだけだ。そうじゃなかったらあんな真似はしないさ」
 好い加減にうざったいバッツはレナには早々にお帰り願いたい。昨日はそれが出来ずにファリスと目合ってしまったのだ。同じ間違いはしたくないバッツは言葉に真実を混ぜてレナを追い返そうとする。
「それに昨日と今日じゃ状況が違う。俺にレナを抱く必要性はないと思うが…?」
「・・・」
「お引取り願う」
 必要に迫られて…否、半ば犯される一歩手前のギリギリな状況で選び取った選択肢。それがこの様に禍根として残る。それに流されるのはまっぴら。バッツはレナを冷たくあしらった。
「何で…そんなに、冷たいの?」
 だが、レナはそんなバッツの態度に負けなかった。そんな半端な覚悟で男の部屋を訪れる事などは出来ないのだ。気付けば、レナはバッツを問い詰めていた。
「冷たくない。これが普通の反応だぞ」
「違うわよ。私が近付くと途端に態度が豹変するもの。…ねえ、そんなに私の事、嫌い?」
「別に嫌ってはいない。ただ、ベタベタされるのが、踏み入られるのが厭なだけだ」
「バッツ…」
 …何だろう?
 レナの心に一抹の違和感が涌き上がり、それは脳内で拡販され、そこからある仮説が出来上がった。
 …間違いない。
レナはバッツが取る他人との距離の正体に気付いた。

「あなたって実は、臆病?」

「あ?」
「それはつまり壁を作ってるって事でしょ?…他人と触れ合うのが怖いの?」
 突きつけられる言葉に今度はバッツの顔が歪んだ。真実が嘘を拭い、脆い心の形を曝け出す。
「壁…?…ああ、言われてみればそうかも…いや、そうだな。だが、それがどうした?レナには関係ない話だ」
 実に耳が痛い。だが、バッツはそれを取り繕うとはせずに、そう言う所が自分にはあると逆に開き直る。
 お前には関係の無い話だから、これ以上は踏み入るな。…バッツの蒼い瞳がそう語っていた。
「否定しないんだ。…ねえ、その生き方、楽しい?」
「楽しいも楽しくないも無い。それが俺の処世術だ」
 しかし、足がかりを見つけたレナは引き下がらない。尚もバッツに言葉を浴びせて、心に訴える。バッツにはそれが苦痛だった。弱い自分を見られている様な気がしたからだ。
 旅暮らしに慣れてしまったバッツにしては、特定の塒を持つ事も、誰かに心を砕く事も殆ど無かったに違いない。父親であるドルガンが先立ってから、一人旅を続けてきたバッツはその傾向に更に拍車がかかった。
「深い接触が厭なのね。でも…そんな頭から否定してたら、得られるものも得られなくなるわ」
「過度の馴れ合いの果てにあるもの何ざ俺は必要無いね。お前の杓子定規で俺を測るなよ」
 彼が真に心を許せるのは親友のボコだけ。だが、そのボコとも別れてしまった。バッツは深い人付き合いを知らないのだろう。そして、その未知の領域が恐ろしいから、他人とは適当な所で距離を取ろうとする。
「信頼してないの?姉さんや、ガラフ、私の事」
「してるさ。そうじゃなけりゃ、信用して旅を続けたり出来ないだろ?」
 ここが一番重要な所だった。他人を遠ざけようとしてみても、心の何処かでは信頼できる相手を欲している。彼がガラフに懐いているのもそう言う部分の発露だった。
「なるほど。良く判ったわ」
 だが、バッツは自分や姉を必要以上に遠ざけている。その真の意味に気付いたレナは微笑を浮かべてバッツに近付いた。
「なっ、お前…!」
「動かないで。私と姉さんのやりとり、見ていたんでしょう?」
 バッツが身構える。動きを見せたレナがこれ以上無く危険に見える。レナは素早い動きでバッツの前に立つと、そう言った。事を荒げれば、ここで暴れるとでも言いたげだった。
「っ…昨日と、同じパターン、かよ」
 …また、同じ間違いをした。バッツは自分の詰めの甘さに後悔する。気が付けば、レナの手にはジャベリンが握られている。姉と同じく妹の方も物騒だった。
 傷ついた体は本調子ではなく、恐らくレナを跳ね除ける事は出来ないのだろう。バッツはレナに降参せざるを得なかった。バッツの瞳がレナのそれを批難する様に射抜くが、レナには効果が無かった。
「賢明ね。…でもあなたの事、少しだけ分かったわ」
「何を…」
 スッ…と、レナの細い指がバッツの顔に伸び、頬を撫でる。意味深な台詞を口にしながら、レナは顔をバッツに近付けた。
「臆病は臆病でも、恋愛には特にって事がね」
―――チュ
「う」
 浅く触れ合う唇同士がお互いの体温の差を明確に伝えてくる。冷たいバッツの唇に対して、熱く滾ったレナの濡れた唇は互いの心の中を垣間見せている様だった。
「難しく考える事はないわ。私はあなたが好きだから、こうするの」
「俺の意思は無視かよ?…とんでもない女だな」
 レナが口説きにかかる。もうこうなっては手遅れだとバッツは悟り、うんざりした様に呟いた。恋愛に臆病だとレナは言うが、バッツはその台詞の意図を掴めずにいた。
 何故なら、バッツは誰かを好きになった事がない。だからこそ、その状態にあるファリスやレナの胸中が理解できないのも当然だった。
「聞きたくない。…ここまでさせたのよ?レディに恥をかかせるおつもり?」
「・・・」
 そう言われては弱い。女性に恥をかかせる事はしないと言うのがバッツの中にある不文律だった。納得は出来ないが、今はそうする事が一番正しい気がする。
 腹を括ったバッツは天井を仰いだ。…存外に押しに弱いのはバッツの欠点であり、また魅力の一つだった。
「抱いてよ、バッツ」
 それが止めとなった。バッツがレナの肩に手を置き、耳元で囁いた。
「……はあ。最近、女で碌な目に合わんな。責任は取らんぞ」
「ん…」
 姉に続き、今度はその妹と戦う事になってしまった。普通ならば喜ぶべき事だが、バッツは忌々しそうにそう零す。レナは対バッツ=クラウザーの初戦に勝利したのだった。
「さて、するのは良いが…どうする?何か…注文はあるか?」
「そうね…。も、もう一回、キスしてくれる?」
 激戦の予感がバッツの血を囃し立てる。逸る気持ちを抑えつつ、バッツはレナに尋ねた。レナはバッツの問いに恥ずかしそうに答え、顔を赤くして俯いた。
「こうか…?」
「あ…うん、ん…ふっ…」
――チュク
 昨日、ファリスにしたのと同じ様なキスを妹の唇に見舞った。顎に手をやって顔を上げさせて、唇を重ねた。レナの口腔を吸い上げて甘い唾液を嚥下しながら、舌先で歯茎や粘膜を撫でていると、レナは自分から舌をバッツのそれに絡めてきた。
 湿った音がクチュクチュ響き、口内を愛撫するバッツの舌の刺激がレナをとんでもなく淫靡な気分にさせてくる。
「んっ…はあぁ…!」
―――チュポ
 唾液の橋を口から伝わせて、レナは熱っぽく息を吐いた。ブルリ、と体を震わせて力なくバッツに寄りかかる。もう、これだけで出来上がってしまった様相を見せている。
「キス…上手、なのね」
「そりゃ餓鬼のするキスとは違うさ。だけど俺が取り分け巧いって訳でもないぞ」
 正面からバッツに抱きついたレナはその感触が気に入ったらしく、更にしつこくバッツに唇を押し当てた。
「む…っ、ぷあ!…はあ、ちょっと煙草臭いのが珠に傷だけど」
「どっかで聞いた台詞だな」
 確か、ファリスも似た事を言っていた気がするが、今はどうでも良かった。

「それじゃ、剥かせて貰うかな」
「あ、待って…」
 さっさと始める事にしたバッツはレナの服に手を掛けた。だが、レナはそれを拒み、バッツから離れ、目の前に立つ。
「え?」
「自分で脱ぐから…」
「そうかい?」
 その必要は無かったらしい。こちらから動くまでもなく、レナは自分からストリップを始めた。靴に始まって、異常に丈が短いスカート、そして上半身を覆う服…明るいオレンジ色した装いがどんどんと剥がれていく。
 対外的には清楚なお姫様にしか見えないレナ=シャルロット=タイクーンが演じている痴態を見ていると自分の中の血が滾るのを確かにバッツは感じていた。
「うう…」
「どうした?」
 そうしてあっという間に下着姿になったレナはそこから先を躊躇う様に動きを見せない。バッツは続きを催促した。
「おいおい…脱ぐって言ったのはお前だぜ?高が布切れの一、二枚だ。何を恐れるんだ」
「そう、だけど///」
「ここまで来て恥ずかしいとか言うの無しだぜ?…何なら、手伝うか?」
「わ、判ってる!…判ってるんだから…///」
 ここで止まっては先が思いやられるバッツは手伝いと称してレナを守る最後の砦を切り崩そうとしたが、レナは顔を朱に染めながらそれを拒んだ。
「ぅ、うう…あんまり、見ないで」
「嫌だね。視覚効果が中々凄いから目が離せんよ」
 意を決してブラを外し、パンティの縁に手を掛けてずり下ろしていく。体中に刺さってくるバッツの視線が羞恥心とそれ以外の何かを煽ってくる。
 やっと全裸になったレナは乳房を両腕で隠しながら、困った様な視線でバッツを見る。
「ぬ、脱いだ…けど」
「進発準備は完了?…なら、始めようぜ」
 こっちにおいでと手招きするバッツを見るレナの視線はバッツの衣服に注がれていた。
「バッツは…脱がないの?」
「ん?あ、ああ…そうか」
 催促されたバッツはハッとする。自分だけ脱がないのは不公平だとレナの視線は語っている。それに押されたバッツは取り合えず、身を包む装いを上半身だけ脱いだ。
「あ…」
 若干浅黒いその肌には包帯が痛々しく巻かれていた。モンスターと激しく立ち回った事を示す様にその白い包帯には血が滲み、褐色の染みが出来ている。
「今はこれで勘弁してくれ」
「うん…」
 少し酷な事を言ったかもしれないと後悔したレナはゆったりした足取りでバッツに歩み寄り、包帯が巻かれた薄い胸板に身を委ねた。
「思ったより華奢だな、お前」
「そう、かな。特に痩せてるとは思わないけど…」
 腕の中で抱かれているレナの体にそんな感想を漏らす。バッツはレナは女性としては標準的な体型だと思っていたが、実際はそれ以上に痩せていた。肉付きが悪い訳では無いが、全体的に線が細く、抱きしめれば折れそうな印象だって与えてくる。
 だが、胸の肉はしっかり付いているし、丸みを帯びた尻もしっかり女のモノだった。特に太腿から脚のラインは際立って美しく、凝視していると喰い付きたくなってくる。
「ファリスとは対照的だな」
 それが一番の感想。グラマラスな姉に対するスレンダーな妹。ファリスの体を味わったバッツだからこそ言える言葉だった。前列に立つ事が多いので、ファリス並みに生傷が多いのだが、その刻まれた醜い傷跡すらレナを美しく飾るアクセントになっていた。
「…っ!」
 …何故か、レナが親の敵を見る様にバッツを睨んできた。
「な、何だよ…?」
「……比べないでよ。姉さんと」
「何だそりゃ。嫉妬か?それとも今は自分だけ見てろって事かよ?」
「っ///」
 バッツの言葉に赤くなって俯くレナ。無意識に比べれる事を恐れているのか、それとも姉に嫉妬の感情を抱いているのか、それは本人にも判らなかった。
「ま、良いさ。直ぐにそんな事は頭からは消えて無くなるんだろうからな」
「え…あっ、アン!」
 不覚にもそんなレナの仕草に噴出しそうになってしまったバッツはそれを含み笑いに変換してレナの乳房を掴み、そこそこの強さで握った。高い嬌声が上がり、レナが反応する。
「ファリスはこれが痛いって言ってたけど…レナは平気みたいだな」
「ぅ…クンっ!…だ、だからぁ、姉さんの話はあ!?」
 コリッ。親指で乳首を刺激してレナの言葉を遮る。ファリスとは違ってそこそこ自分で弄っているらしい。…これは楽しめそうだとバッツは舌なめずりした。
「昨日、ファリスにしたのと同じ様にしてやるよ。…正体を無くさせてやる」
「う、うう///」
 胸を弄るバッツの指。そこから与えられる刺激に抗おうと身を強張らせるレナだったが、それも徒労に終わりそうだった。抗おうとしても抗える類の刺激ではないのは女である以上は仕方が無い事だろう。
 バッツはそれを知っているからこそ、嗜虐的にレナを愛でていった。

「く…ぅ、うん!…ふっ、う、ぁ…っ」
 柔らかいそこそこのボリュームの胸を両の手で捏ねながら、もう勃起している乳首を指の腹で転がす。大きさではファリスに劣るが、感度の面ではレナに軍配が上がっている。声を抑えるレナの口からは甘い喘ぎが漏れそうになっていた。
「お前も声を抑えるのな。姉ちゃんにそっくりだぞ」
「ふぅぅ…っ、だ、だって…恥ずかしいわ」
「前提からして間違ってるぞ。その恥ずかしい事をしている真っ最中なんじゃないの?」
「そんなあ…っ!?きゃあ!!」
 カプ。予告無しにバッツがレナの耳朶を甘噛みすると、甲高い艶のある可愛い声が漸くレナの口から漏れた。
「良い声してるなあ、ん〜?」
「ば、馬鹿ぁ…アン///」
 フッ、と耳に息を吹きかけるとレナは半泣きになってバッツを睨む。余り苛めてくれるなと媚びる様に体を摺り寄せるその仕草は顔とはまるで正反対だった。
「しかし…男慣れしてないと思ってたけど、そうでも無い様な?…失礼な事聞くが、これまでにレナは経験は、その…」
「あ、ある訳ないでしょう!」
「そうだよなあ。仮にもお姫様なんだよな」
「さ、さりげなく失礼ね、あなた」
 考えても見れば、そのお姫様に強請られる形で抱いているこの状況が異常なのだ。だが、バッツとしては相手が誰であろうと関係ないし、ただ欲望の赴くままに女を抱くだけなのだ。
 そんな初心である筈のレナは昨日のファリスとは違い、バッツの愛撫を進んで受け入れている様に見える。それがどうにも引っかかったバッツは勝手に脳内で結論を出した。議会の承認を待つまでも無い事だった。
「お前…実は結構、エッチな娘?」

「あう///」
 面と向かって真顔で言われたレナは真っ赤に染まりながら間抜けな声を漏らした。直ぐに反論しない辺り、自分でもそう言う気がある事を認知しているのかも知れない。
「淫乱とまではいかないが…男好きする性質だとか、そんな所か?」
「っ、とことん迄失礼な男ね、あなた。私はそんなんじゃないわよ…!」
 漸く反論が飛び出す。だが、その言葉には覇気が無く、動揺を示す様に所々が裏返っていた。
「嘘臭えな。…じゃあ、試すかよ?」
「な、何…?」
「簡単さ」
「え、ええ…?っ、きゃあああ!!?」
―――クチュリ
 自分を否定しようとするレナの仮面を剥ぐ為に下腹部に指を潜り込ませたバッツ。そこはもう汁を垂れ流していた。突然触れたバッツの指の感触にレナが悲鳴を上げる。
「…汁が多いのはタイクーンの血筋かねえ?」
「ちょ、ちょっと…?ぁ…っ、何する気よぉ」
 呆れた様に零すバッツが危険に見えたレナは力無い声でバッツに問う。その声はこれからされる事を期待する様に艶があった。
「どの道、もう少し弄らないと挿入には至れないからな。俺はお前の女の子を勝手に弄るから、お前は絶頂を耐えれば良い。自分がエッチじゃないって言いたいんならな」
「んっ、んく…!そ、そんな…ぁ」
 軽く入り口を撫でただけでレナはもう泣きそうな声を出している。
「陰唇が痙攣してるぞ?襞の翳りからは蜜が溢れて豪い状況だ。…こいつの何処がエッチじゃないって言える?」
「せっ!説、明…しないでぇ…!」
 態々弄っている女性器を説明するバッツは非常に性質が悪かった。自分のそこの状況を刻々と語れるレナは身震いしながら愛撫を受け止める。
「何か…耐えるのは無理そうって感じがするな。そう思わないか?」
「んひぃ!!」
 …クプ。人差し指の第一関節を膣に埋め込む。ビク、と痙攣しレナが強くバッツの腕を掴んだ。浅い指の挿入だけで感じてしまっているのは明らかだった。その証拠にレナの肉の壷は待っていたかの様にバッツの指に吸い付いてくる始末だ。
「んで、どうよレナ。お前はどう思う?」
「ひっ、ぃ…くう…!む、無理…かもぉ…!」
「……即答かよ。少しは耐えて見せて欲しかったが、まあ良い」
 素直な女は大好きだ。バッツはそう付け加えて、レナを泣かせてやる事を決心した。
「んじゃ、スケベなレナを弄ろうか。…そこに寝て、脚を開いてくれ」
「…わ、わかった」
 もう完全にレナは自分の意思を手放している様だった。弄りやすい格好になってくれと頼むバッツの言葉に素直に従って股を開く。レナの秘密の部分が露になった。
「何か…熟れた花って感じがするぞ…?」
「あううう/////////」
 バッツの眼前に晒されたその場所は完全に花弁が開いていた。ラビアは痙攣を繰り返し、そこから覗く膣口自体がパクパクと開閉している有様だった。だらだらと涎を吐き出し、匂い立つ程の雌の香がバッツの頭に霞をかけた。
 色は綺麗なピンク色。形も処女の可憐さを誇っているのに、男を誘う様に蠢動する食虫花の様な風体。そのアンバランスさが一抹の獣性を煽る。この中に突き入れたい、と。
 …だが、それにはまだ早い。もう少しだけ、レナを愛でたいのだ。
「少し、堪らないんだけど…もうちょっとだけ弄るぜ」
 自分に言い聞かせる様に言って、バッツはレナの膣に再び指を伸ばした。
「ひっ」
 レナの若干怯えた声が理性の磨耗に拍車をかけるが、全力で無視を決め込んだ。バッツは既に弄る場所を決めてある。人差し指をふやけた孔に差し入れ、恥骨の上部を軽く撫で上げた。
「っ!?かっ、ぁ、ああああああああああああ!!?」
 弓形になって爆ぜるレナの反応を見ていれば分かる。女の泣き所であるグレフェンバーグを探り当てた証だった。
「おし、ここだな。…良い感じだろ?お前は自分で弄ってるから、分かる筈だ」
「ぎっ、いっ!…ひいぃうぅっ!!」
 ざらつく膣の天井を強い力で撫で上げながらそんな事を言ってみるが、レナがそれを聞いているかどうかは怪しい。ベッドシーツを掻き毟りながら体を暴れさせるレナは正体を無くし、雌に成り下がっていた。
「あーあ。こりゃ、駄目だな。幾ら何でも乱れ過ぎだろう。…誰がエッチじゃないって?」
「いや…ぁ、やめ…てぇ!そこは弄っちゃ、やだ…!」
 やっと人語の答えが返ってきた。だが、バッツにそんな言葉を聴いてやる慈悲も義理も無かった。尚強く擦るとレナがまた泣いた。
「アヒィ!」
「嫌だね。それだけ気持ち良さそうに鳴いてるのに止められる訳ないだろ。…そう言えば、お前のここってどうなってるんだ?」
 バッツは空いている手をその場所に伸ばした。ファリスの時も弄ったその場所はある意味で彼のお気に入りのスポットだ。膣口上部に鎮座する最強の外性器。包皮の鞘に納まったクリトリスにバッツの視線が注がれる。
「ぁ…あ、やあ…!」
 レナがマジ泣きを始めた。ファリスと言い、レナと言い泣いている女の顔にそそるモノを感じるバッツはS気質の持ち主だった。
 器用に指先を操って、膣を弄りながらも包皮を剥いていくバッツは心底楽しそうに作業に没頭する。そして…
―――ズルンッ!
「きゃひいいいいいいい!!!」
「う、うお!?」
 剥かれた抜き身の真珠が外気に触れた途端にレナは絶頂を極めた。愛液の雨が派手にぶち撒けられ、バッツの手を、彼の寝台を汚していく。昨日のファリス以上の反応を見せるレナは脱力してベッドに沈む。
 だが、バッツはそんな事には関心がいかない。彼の興味は彼女のクリトリスにあった。
「…(ゴクリ)」
 バッツは生唾を飲み込む。彼女の陰核は大きく、また完全に勃起していた。相当に自分で弄らなければこれ程の大きさになるのは稀だろう。小指の先位はあるその突起はバッツの劣情の炎に油を注ぐ。
「み、見ちゃ…やだぁ…!」
 自分の恥ずかしい場所を凝視され、泣きながら絶頂の余韻に浸っているレナにバッツを押しとめる力は無かった。バッツは構わずにレナのクリトリスにむしゃぶりついた。
「っあ」
 レナは散々バッツに泣かされる事になったのだった。
―――数十分経過
「っ…ぁ、あはっ…あ…ぁ…」
 もう鳴く力も残されていないレナは立て続けに絶頂を極め続け、淫蕩の海に揺蕩っていた。バッツは漸くレナのクリトリスを開放し、息を吐いた。
「ふゆううう」
 顔中がレナの汁でベトベトだった。それを拭いながら、死体一歩手前で突っ伏すレナを見下ろして言う。
「ご馳走様。美味かったよ」
「・・・」
 レナにはバッツに言葉を返す力は無かった。ただ、その瞳が恨めしそうに動くだけだ。
「さて…そろそろ、往こうか」
「っ!」
 もう十分に堪能しましたとでも言いたげにバッツはズボンの奥底から自分のグレートソードを引っ張り出した。青筋立った反り返る男の剣が目の前に突き付けられたレナは目を丸くした。恐怖によって、だ。
「もう、十分に準備は整ったろう。レナも、それで良いんだよな」
「…っ、あ…う」
 自分に剣を突き立てられる様を想像し、青くなるレナ。だが、バッツが止まる事は無いだろう。自分から誘ったのだ。ここで止めては嘘になってしまう事は自分自身で良く分かっている。
「バッツも…苦しい、の…?」
「まあな。正直、かなりきつい」
 ガチガチになった男根を見て、レナの中に愛しさが湧いて来た。それだけ自分に夢中になり、興奮してくれた事を示している。
「…良いわ。来て。私を…あげる」
「了解」
 レナは勇気を振り絞り、声帯を震わせてそれを了承した。バッツは待っていたとばかりに先端をレナの女に宛がう。ぐちゃぐちゃに蕩けた白い粘液を吐き出すレナのそこはバッツを誘う様に誘ってくる。これならば挿入も容易だろう。
 レナ自身も快楽に焼き尽くされ、潤んだ瞳と玉の汗を浮かばせた体でバッツを篭絡しようと躍起になっている。バッツはそれに流されまいと、固く理性の尾を掴んだ。
「それじゃ、頂きます」
 バッツは戸惑い無く先端を打ち込み、レナの花園を踏み荒らした。
「っ、ぁ…ぁ!んん――!」
――プツ
 薄い肉の壁が障壁として立ちはだかったが、そんなものでバッツを止められる筈も無い。前回のファリスと引き続き、バッツはレナを征服した。
「ふゆう…開通は終了だな。…痛いか?」
 何かに耐える様に身を震わせているレナの様子にバッツは労いの言葉を掛ける。
「い、いいえ…少し、苦しいけど…」
 上手く挿入は決まった。最奥まで一気に貫かれたレナは一筋の涙を伝わせて、官能的に呟いた。やはり、異物の挿入による圧迫感に戸惑っているらしいかった。
「…どうする?落ち着くまで待つ、か?」
「あ…ぅ、うう///」
 甲斐甲斐しいバッツの言葉。頭を撫でられながらそんな言葉を掛けられてはレナもバッツの男を立てざるを得なかった。メロメロにされたレナはたどたどしく言った。
「バッツの…好きにして」
「好きに、か。…むう」
 バッツは少しだけ考えた。好きにして良いと言われても、処女を散らしたばかりの怪我人相手に手荒くするのは自分の女を抱く時のルールに反する。だが、ファリスの時とは違って今回は射精を保たせられる余裕も無かった。
「…良し」
 そうして脳内で結論が下る。バッツはレナの言葉に甘える事にした。
「辛かったら言ってくれ。動きを抑えるから」
「は、はい…!」
 蒼い瞳と翠の瞳が交差する。少しだけ、レナはバッツの心に触れた気がした。
「んあ…はっ、ん、んんっ!…っ、ふ、ふああ…!」
「ん…っ」
 速度を若干抑えた並の速度の抽送を繰り返しながら、レナの秘洞を開拓していくバッツ。熱く火傷しそうなレナの膣内に在って、バッツのそれは悲鳴を上げていた。全方位から溶かそうとする襞の洗礼がバッツの肉棒に先走りと言う名の血を流させる。
―――正直、侮っていた
 これがバッツの見解だ。処女だった女の穴なのである程度は覚悟していたが、レナのそれはバッツの予想を超えていたのだ。感触としてはファリスの方がバッツに馴染む。だが、貪欲さのレベルは桁が違う。
「ぐ、ぐう…」
 ピストンを飲み込む膣のうねりに情けなくも呻きを漏らしてしまう。
 …ドルムキマイラに初めて遭遇した時の事を思い出した。あの時もギリギリに追い詰められながらも勝利をもぎ取ったが、今はその状況すら超えているのではないのか、と。
「バッツ…バッツぅ…!」
 そんな極限状態にありながら、レナはこの状況に早くも順応している様だった。時折、傷口を抉られて辛そうな顔をするが、それよりも快楽が勝っているのか、今ではバッツに抱き付いて体を擦り付けている状態だった。
 姉をも超える適応能力と貪欲さは恐らくは天性のもので間違いは無い。
「っ、っ…んむっ…!」
「はふ…ん、んふ…ぅうん」
 そうして、強請る様にキスをされてバッツがまた端に追い詰められる。突き立てられる襞の牙が射精してしまえ、と誘惑してきた。だが、バッツは勝利する為にその甘言を断ち切り、最奥を抉った。
「きゃうん!!ぁ…あ、あんっ…!」
「っ、そんな声で鳴かないでくれよ…」
 心底気持ち良さそうなレナの声が理性を切り取っていく。未だに沈む様子を見せないレナはかなりのバッツにとってはかなりの強敵だった。
「ねえ…っ、ねえ!きもち、気持ち良い?わた、しのなかぁ」
「あ、ああ…っ、大変…宜しいのではないかと…っく」
 猫撫で声で聞いてくるレナの色香に息子が馬鹿になりそうな予感がしたバッツは動かすのを一旦止めて一息吐く事にした。押して駄目ならば、引くのもまた戦術。バッツは気の無い返事しか出来ない。
「そ、そうなの?…んっ、んん…ね、姉さんのより…?」
「…比べられるのは厭なんじゃなかったのかよ」
 気持ち良いバッツの動きが止まってしまった事にレナは不満そうに睨んでくる。もじもじとしながらレナはそんな事をバッツに聞いていた。
「そ、そう…だけどっ、気になるのよ…っ」
 …何だってこんな答え難い質問をするのかバッツは理解に苦しんだ。だが、バッツの答えは決まっているのでそれを隠さずに言ってやった。
「それは…比べられるモノじゃないだろ。ファリスとお前じゃ奥行きや膣の形状が違うんだぜ?良い部分も悪い部分もそれぞれ違うんだ。…それって、個性だろ」
「くっ…ぅ、うぅんん…っ!そんな答えっ…ずるいわよ…!」
「うお、っ!…何て女だ」
 とうとう耐えられなくなったレナが自分から腰を振り始めた。もう完全に快楽が痛み勝っている証明だった。それならば、とバッツは腰の制限を解除して激しくレナを抉り始めた。余裕は殆ど無いので、一気に攻め落とす腹積もりだ。
「チィ…手加減は要らんらしいなっ!」
「ひうううう!!!」
 真空の膣内を削ぎ取っていくバッツの肉棒は荒々しく、また雄々しかった。その動きに同調する様にレナも腰を動かし、快楽を貪る。バッツがそうである様にレナもまた限界を目指して突っ走る。
 けたたましい水音を立てながらバッツとレナはお互いにもう擦り切れそうだった。
「くっ…っ、やべ」
「あ、アン!お、おっきくなった…?な、何?なに…これぇ!!」
 射精が迫ってきた。その砲弾を身に溜めるバッツの剣が膨れ上がった。その圧迫感に歓喜の悲鳴を出すレナは状況が飲み込めない。
「…射精そうだ、っ。な、膣内で良い、のか?」
「で、射精るの?あ、赤ちゃんの素…?…ぃ、いやあ!!」
 キュッ、とレナの膣が射精を強請る様に狭まった。
「なっ、なあ!?」
「嫌…いやあ…赤ちゃんイヤああああああ!!」
 膣内射精を拒否する台詞を吐くレナだったが、言動と行動がまるで一致していなかった。腰は射精を導こうと勝手に動いているし、抜く事は許さないとでも言いたげにその脚はバッツの腰をガッチリ掴んでいた。
「お、おい…ちょ、待っ」
「だ、射精されちゃう…バッツの子種…は、孕まされちゃうよぅ…!」
 そんなに嫌ならば、今すぐに開放してくれ。バッツはそう言いたかったが、言った所で聞き入れる気は無いのだろうと判断し、レナの好きにさせる事にした。
 どうやらレナは、脳内で勝手に作り出した無理矢理射精されると言うシチュに酔っているらしい。快楽を引き出す為に無茶苦茶に腰を振り、乱れるレナは完全に女の性に狂っていた。
「お、お前…何か妙な物に憑かれてないか?」
「駄目…ダメぇ!で、でも…気持ち良いお薬ドピュドピュされたい…!」
 バッツの言葉は届かない。全てを捨ててざんばらに腰を振るレナは本心ではバッツに注いで欲しい事は疑い様の無い事実だ。
 …そして、そんなレナの無茶な腰使いは互いを限界へと追い詰めた。
「お、おい…本格的に拙いぞ?ど、どうすんだ?」
「ぁ…っ、き、来て!膣内に…!オマ○コにミルク飲ませてぇ!!!」
 もうレナは逝く寸前だった。ギュウギュウ種を搾る蜜壷の感触にバッツもまた解き放つ決意をする。
「…っ!…そうかよ。そんなら…くれてやる!」
「バッツぅ…!」
「くそ…性質が悪い奴…!」
 泣きながら愛しい男の名を呼ぶレナはとても綺麗だった。バッツは悪態を吐きながら、その女にピストンを以って応えてやった。
「い、逝く…!オ、マ○コ…!」
 ガツガツ最奥を抉り、最後の仕上げに入ったバッツをきつく抱いてレナは一足先に昇りつめた。
「ふああああああああああああ!!!!」
「ぐっ、か、勝った…!」
――キュウウゥ…
 絶頂で激しく収縮する内部に身を委ね、バッツは焼けた精液をレナの内部に注入していく。ギリギリまで堪えただけあってその量は凄まじく、レナの子宮はあっと言う間にバッツの色に染められる。
 満足そうに子種を飲み干しながら、盛大に痙攣するレナの爪が背中に食い込んで痛いが、今はそれすらも心地良い。咽び泣くレナは嬉しそうに、そして淫靡に呟いた。
「お、胎…融けるぅ…!バッツのミルク…美味しい…ふ、ふふっ、ふ…♪」
―――またやり過ぎてしまった
 レナの頭の螺子も跳んでしまっていた。イカレさせたのは自分だが、子種の納まった胎を撫でながら怪しく呟くレナは普段の清楚な姿からは及びも付かない艶やかさを振り撒いていた。
「やっぱり…お前等姉妹だわ」
 そんなレナを引き攣った顔でバッツは眺めていた。その姿がファリスに重なって仕方がなかったのだ。ニンフォマニアの称号はレナにこそ相応しいと思うバッツだった。
 取り敢えずの後始末を終えたバッツはレナを抱いてその桃色の髪に手櫛を施していた。レナはそれを当然の様に受け入れていた。
「しっちゃったわね、私達」
「…ああ、そうだな」
 互いの熱は冷め、先程までの事は夢だった様に二人は落ち着いていた。…故意にその話題に触れないだけかも知れないが。
「これで…既成事実は完成よね」
「不徳の致す所…と言う事にしてくれ」
 レナは含み笑いをしながらそうバッツに言い聞かせる。バッツはそれを自分の所為にしたくない様だったが、もう事態はそれでは済まない所まで来ていた。
「今更…それは無いんじゃないの?」
「責任は取らないって言った筈だぞ?」
「ええ。知ってる。でも…あなたはタイクーン王家の人間を手篭めにしたのよ?それも姉さんと私を立て続けに。私達は別に良いけど、周りの人間は黙っていないかもね」
「それこそ知った事じゃない。俺は求められて、半ば脅されて相手させられたんだぜ?寧ろ被害者は俺の方だろうが」
 バッツは真実を語っていた。この男ならば本当に周りの意見ごと一刀両断にしてしまう可能性がある。レナの駆け引きは失敗に終わった。
「酷い人。これだけ私を好きに抱いておいて…」
「何言ってる。一回情を重ねただけでもう恋人気分か?…御目出度い奴だな」
「う…んっ、ふ…んっ」
 その口を閉じさせる為に優しくレナの頭を愛撫する。バッツの持った包容力は恐らくは天性のものだろう。レナはその心地良さに今は亡き父の姿を思い出した。
「本当に…ずるいわね、バッツは」
「そうか…?」
「嫌々抱いた癖にこんな優しくされたら…もっと好きになっちゃうわ」
「悪いな。こいつは性分…と言うか俺の趣味だ」
 柔らかい抱擁と頭を撫でる心地良さ。そして、先ほどの情事の気だるさがレナに睡魔を呼び込む。重たい瞼を何とか持ち上げながら最後の台詞を呟く。
「バッツは…私達の事、好き…?」
「突然何だ?」
「私は…好きよ。姉さんだって…。でも、バッツ、は?」
 闇に落ち込んでいく意識を浮上させ続けるのも苦痛になってきた。今すぐに意識を手放したいが、この男の答えを聞くまでは眠る事は出来ない。レナは言葉を待った。

「悪いが、俺には分からない。…信頼はしてるけどな」

「…バッツの、ばか……」
 嘘偽り無いバッツの言葉にレナが眠りに落ちた。静かな寝息が聞こえてくるのも直ぐだった。バッツは眠るレナに胸枕を施しながら、目を閉じる。
「過ぎた女難も考えようによっては喜劇だな。…泣けてくるぜ」
 何だって姉妹に気に入られてしまったのかがバッツには全く分からない。ファリスは言わずもがな。きっとレナも似た様な理由だろう。
 その渦中にあるバッツはもう逃げられないであろう事を覚悟し、これからどうやって姉妹の魔手から逃げるか算段を立てながらまどろみに落ちたのだった。
―――翌日
「そう、か。あいつがねえ」
 気が付いたら朝だった。バッツは既に起きていて隣には居なかった。レナはシャワーを借りて汗を流した後に姉を訪ねていた。
 理由は昨日の事の謝罪、そしてバッツについて話し合う為だった。
「意外でしょう?普段飄々としてるから分からないけど、そんな一面も持っているのよ」
「くく…そっか。…可愛い所あるじゃねえか、アイツ」
 仲直りについてはすんなりと言った。今盛り上がっているのはバッツの持つ臆病な一面についてだ。ファリスは喜色ばんだ笑みを隠そうとせずに笑いを漏らす。レナも同じだった。
「ねえ、姉さん」
「うん?」
 レナは雑談を打ち切り、本題を切り出した。その真面目な声色と顔付きにファリスは若干緊張した面持ちを呈した。

「盗り合うの、止めない?」

「…それは、協力しようって事?」
 好いた男を落とす為に手を組む事を姉に持ちかける妹の図。実にカオスだった。
「ええ」
「それは良いけど、レナは納得出来るのか?」
 その胸中を知っているからこそ、ファリスはその質問をした。それ故に昨日は喧嘩したのだ。避けては通れない。だが、レナはそれについて正直に答えた。
「本当は嫌よ。出来るなら独占したい。でも…それで姉さんと喧嘩するのはもっと厭だから」
「ふふ…俺も同じ気持ちだよ、レナ」
 流石は姉妹だった。考える事は同じで、その内容も若干の狂気を孕んでいる。独占はしたいが、姉妹関係を悪化させたくない二人が手を組む事は必然だったのかもしれない。
「アイツって…誰かを本気で好きなった事、無いんだろうなあ」
「そうらしいわね。そうじゃなけりゃ、ここまで捻くれないでしょう」
「なら、ぶつけ続けてみるか。俺達の愛を、さ」
「バッツが拾わざるを得なくなるまで、ね」
 姉妹に揃って暗い影が差した。その矛先となるバッツは茨の道を歩む事が確定してしまった。

「また…注がれたいもんだな、アイツの愛を」
「こってりした粘つく青臭くて黄ばんだ奴をね」
 姉妹は若干だがバッツと言う男に開発されてしまったらしい。ぶっ跳んだ頭の螺子は戻っていなかった。

そして…

「うーむ、やはり若いモンと飲む銘酒の美味さは格別じゃのう。…なあ、お主もそう思わんか?」
「いや…俺は…っ、十分若いモンだから」
「むっ、失礼な奴じゃな!儂が年寄りとでも言いたいのか!?」
「はははははは…自分で言ってりゃ世話ないよ」
 今日も今日とて酒場の定位置で酒を酌み交わす青年と老人が二人。もうかなり酒が進んでいる事を示す様にガラフは赤い顔を更に赤くさせて喚いた。バッツは疲れた顔を晒してそれを受け流す。
「…どうしたんじゃ、バッツ。顔色が良くないぞ?」
「あー、ちょっとあってさ」
 青白い顔を超えた土気色した顔をバッツはしていた。体ではなく精神が病んでいる事がその原因だった。胃が痛くて仕方が無い。
「処で…」
「うえ?」
「またお嬢さん方がお主を見ておるぞ?」
「あ?あ…そ、そう、みたいだな」
 数日前に見せたいやらしい顔をして、バッツをからかうガラフ。バッツは当然、離れた位置から視線を送ってくる存在には気が付いている。

「フッ…」
「ふふっ」

 タイクーンの姉妹が熱視線ではない暖かい視線を絶え間なく送ってきている。それこそがバッツの胃痛の原因なのだった。
「何やら豪く起源が良さそうじゃが…お主、何かしたのか?」
「………黙秘権を発動する」
 襲われそうになって立て続けに喰っちまいました。
 そんな事は例え仲が良いガラフにも打ち明けられないバッツは頑なに口を紡ぐ。ガラフは面白くなさそうに呟く。
「何じゃ、つまらん」
「悪い。こればっかりはな」
 その場を取り繕うように煙草を咥えて火を点けるバッツ。ガラフはそんなバッツに飽きた表情を張り付かせ、徐に席を立った。
「あ…おい、ガラフ?何処へ…」
「バッツがつまらんから部屋に帰って寝るわい。…些か飲み過ぎたようじゃしな」
「え…お、おい…!」
 慌てて引き止めようとするもバッツのそれは徒労に終わる。ガラフは支払いを終えて、そのまま帰ろうとした。
「ちょ、待っ…!お、俺を独りにしないでくれ…!」
「餓鬼じゃあるまいし何を言っておる。…ではな」
「…!」
 
ガラフは千鳥足のまま酒場を横断し、ファリスとレナのテーブルの前に来ると独り言を零した。
「邪魔者は消えるとするぞい。…仲良くな」
 そして、ガラフは本当に帰ってしまった。
「く、くくく…ガラフも人が悪いなあ」
「花を持たせてくれたって処?…有難く頂戴しましょうか」
 含み笑いを零した姉妹は全てを知っているガラフに心の中で礼をする。そして、次の瞬間には獰猛な獲物を狙う捕食者の視線を供物へと向けた。
「さって、と…」
「行きますか」
 飢えた雌豹が兎に群がった。
「「バッツ」」
「ひっ」
 バッツが小さく悲鳴を漏らした。ステレオで聞こえてきた死神の声が寿命を縮ませる。
「ちょっと…面ぁ貸して貰おうか」
「悪い様にはしないわよ…?」
 袋の鼠だった。進退窮まっている。バッツは全てを悟った様に煙草を一吸いすると、それを灰皿で揉み消した。
「ファリス…レナ…」
「漸く諦めたか…?」
「散り際は潔くって事かしら」
 ファリスもレナもバッツのその行動が諦めの意思表示と取ったのだろう。
「そう言う事は…」
「「?」」
 だが、それは間違いだった。追い詰められては居るが、退路が無い訳ではない。
「考えない様にしておく…!」
―――ダッ!
 バッツはシーフ時代に培った超ダッシュで二人の前から脱兎の如く逃げ出した。彼の座っていた席の前には支払いである高額紙幣が一枚置かれているだけだった。
「…逃げやがった、あのチキンが」
「あの素早さは反則よね…」
 馬鹿みたいに取り残されている姉妹に他の客達が笑いを浴びせかける。
「…俺達もシーフを修行するか?」
「逃げられちゃ堪らないわよね…」
 姉妹が殺意の篭った視線で一睨みすると、酒場は水を打った様に静まり返る。
 標的に逃げられたファリスとレナはカウンターで静かに酒を酌み交わすのだった。

〜了〜
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