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大語園

大語園の發刊に際して
凡例
[#折り返して1字下げ]一 本書は、日本、支那及朝鮮、天竺に流布せる神話、傳説、口碑、寓話、譬喩談等を結集大成せるもので、これを諸神、諸佛、佛陀、比丘、社寺、帝王、功力、別界、龍蛇、夢想、魔性、怪異、怨靈、奇蹟、應報、才藝、人事、勇力、神仙、寶器、地理、禽獸、蟲魚、草木、雜の二十五部門に大別した。
[#折り返して1字下げ]一 本書は其題名を大語園といふ。此の故は支那に語園あり、次で新語園出で、我國にも之に倣へる本朝語園あり、今此等の書典の内容を檢するに、何れも簡短の文章を以て、故事、因縁、物語を收録し、婦女童蒙と雖も、一読容易に悟了するに足り、而も警世利民を主眼とせるもの、而して本書は此の題名を蹈襲し、特に加ふるに大の一字を以てした。蓋しそは内容の豐富を表さんが爲に外ならぬ。
[#折り返して1字下げ]一 大語園の取材範圍は、日本、支那、朝鮮、天竺に限定した。其理由は、我國の文化は佛教の影響を蒙ること最も大きく、佛法東漸に依り、其之に附屬せる因果應報、勸善懲悪の説話は、先づ支那に傳へられ、次で朝鮮に到り、而して本邦に渡来したるものと、又直接に支那より受入したるものとがある。
[#1字下げ]日本古來の説話中、特に其地方口碑の一部には、支那天竺に流布したるものゝ飜案、若くは直譯、更に稀には暗合かと思はるゝ物もあり、何れにしても竺支二國に負ふ所多きは、疑ふ餘地が無い。
[#折り返して1字下げ]一 されば本書には、支那天竺の説話に對して、最も力を傾けた。本文中標題の下に、(支)とあるは即ち支那を意味し、(天)とあるは天竺の略、(朝)と記せるは朝鮮の略、而して何等の記號なきは、總て我國に傳はる所のものである。
[#1字下げ]猶我國説話の取材範圍は、專ら本土に限り、後世新附の琉球、臺灣、並に北海道等は、其文化の道程自ら本土と異るもの有るが故に、一も之を採らなかつた。且また我國に於ける説話採録の年代は、神話時代より、徳川末期の俗話に至るまで、得るに隨つて大部分收容することゝし、明治時代の物は悉く割愛した。
[#折り返して1字下げ]一 最初編纂者の希望としては、類別式編纂を採用せんと思量したるが、出版者の意見を尊重して、五十音順に排列し、世間通途の辭書體に倣つた。勿論其一々の標題は、總て編者が任意に命名せるものである。されば又これが爲に、連續的説話=例へば佛陀の傳記の如き=が順序首尾を顚倒した如きもある。且同一若くは類似の説話は類説又は別説として、成るべく同一個所に掲げることゝした。讀者諸君は別冊索引に依つて、其内容を検索され度い。
[#折り返して1字下げ]一 大語園一部全十卷は、單に第一期の事業に過ぎない。若夫れ眞に、東洋に傳はる説話の、稍全部を網羅集成せむには、少くとも本書と同樣の體裁内容のもの數十册を以てするも、猶未だ完全無漏とは云ひ得まい。されば本書には、漸く其主なる物の一部を採録したに過ぎぬ。冀くは次々に第二、第三期の事業の、手を替へ人を代へても、決行あらむことを。
[#折り返して1字下げ]一 外人の手に成りて、我國語に飜譯せられし、ヂヤータカ(佛本生譚)と、パンチヤタントラ(古代印度の寓話)とは、聊か思ふ所ありて、只見本的に一部を採用するに留め、其多くは之を割愛した。
[#折り返して1字下げ]一 本書の内容は、總て同一文體に書改めたが、併し主なる古典は成るべく原文の妙味を失はぬやうに注意した。又風教に害ありと認めらるゝ如き個所は、編者の心持にて、適宜省略、又は改竄した部分も少くない。此の點は特に豫め諒解あらむことを乞ふ。又本書の文章は、事實の記述を主眼とし、出來得る限り簡明切實を主としたるが故に殆ど文飾を施さなかつた。
[#折り返して1字下げ]一 編者が其生前、約四十年間に亘りて、世間に發表したる作品は、總て子供に讀ませるお話であつた。然れども此の書は其方面を更へ、專ら大人に讀ませる説話である。されば之を大人が讀みて、子供に話し聞かせる場合には、相當の斟酌と考慮とを要すること申すまでもない。
[#折り返して1字下げ]一 本書は其頁數の都合に依りて、約數千章の説話を割愛するの餘儀なきに至つた。尤も之等の殘稿は、更に後日増補を試み、其缺を充たし度いと思ふ。
[#折り返して1字下げ]一 本書は巖谷小波、同榮二父子の編纂に係り、之が執筆は主として木村小舟の擔當に屬す。小波の歿後に於て、榮二の執筆に成るもの亦少しとせぬ。

   昭和十年四月
[#地付き]編者識
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