南京 発
十一月二十一日後
本省 着
第一二九〇号の一ー六 須磨総領事
広田大臣
有吉大使より 貴電三〇五号に関し
本使二十日来寧同日午後蒋介石と会見せり（当方は堀内、須磨、有野先方は張群、唐有壬同席す）
一、本使より先ず北支最近の情勢及び之に関する堀内、須磨視察報告の結果に基づき適宜説明したる上此の際中央が北支の特殊事態を切実に認識し徒に民衆を圧迫するが如き行動に出でず現実に即したる措置に出でんことを要望する旨述べたるに蒋は北支の情勢に付ては
毎日現地官憲より詳細報告を受け居るが決して心配する程のものにあらざるに付安心せられ度しと述べたるが
二、本使より最近の北支に於ける自治運動は其の内容等充分承知し居らざるも此の種の運動は元々中央が北支の特殊事態及び今日迄の歴史を充分認識せず既定約定に基づく各種案件の解決に対し遷延策を取りたるが為発生したるものにして中央に於いて万一之を圧迫
し又は武力を以て弾圧するが如きことあるに於いては事態の紛糾治安の破壊を来し延いて同地方に密接なる関係を有する日本及び満洲国に多大の影響を及ぼす惧れあり殊に満洲国の保全を担当する関東軍としては之を黙視し得ざるべく此の点特に貴方の注意を喚起
せざるを得ずと述べたるに（我方の有する情報に依れば中央軍の一部は既に山東及び河北省南境に集中せられ居る趣にて此の点は特に重要視せざるを得ずと説明せり）
三、蒋は御趣旨は一応了解せるも支那としては国家の完全なる主権に反し行政の統一に支障を来す如き自治制度は到底許容するを得ず尤も北支の当局者及び各団体等よりの連日の報告に依れば一人として自治又は独立を希望するものなく決して心配するが如き事態に
あらずとて至極自信あるが如き口吻を示し更に仮令多少の動揺を来すが如き場合あるも中央は武力を使用し又は出兵するが如き考えなく又現地の軍人も自分（蒋）の命令には服従する自信あるに付安心せられ度しと答え（事実蒋は中央軍の北上又は之に依る弾圧等
考え居らざる様見受けられたり）更に語を次て実は本日貴大使との会見に於いて国交改善問題に付御相談致度しと考え居りたるに内政問題に属する北支の自治運動等に付先ず御話を受くるは遺憾なりと述べたり
四、依って本使は自治運動は素より内政問題に属するも之が対策如何に依りては北支の治安破壊され延いて外交問題を惹起する惧れあり特殊の関係を有する我方として無関心なる能わざること及び右自治の具体的内容は承知せざるも所謂支那の統一等を破壊するものとは
認めざる次第を説示し尚本使も今日両国の国交改善問題に付意見の交換を為し度き予定なるが北支の事態が相当逼圧し居ることは其の成行如何に依り直に全体の国交問題打合せも無意味に終わる惧れある為緊急事項として先ず北支問題を持出したる次第を告げ
尚同席の須磨より北支要人等との会談の結果を綜合し自治に対する彼等の希望の点等然るべく説明を為し本運動が民意にあらずと云うは認識の不足に依るものなる旨を説明したるに
五、其の際張群は傍より有体に言えば日本が土肥原少将を召還し多田司令官の済南行等を阻止せらるれば立所に自治運動は熄むべし昨日北支より帰来せるものの報告に依れば北支当局は土肥原氏より華北協同防赤委員会章程の原稿を受け同時に同氏の最高顧問たることの
提案を受けたる由なりと述べたるに付本使より自治運動に付現地の日本人にして之に同情し或は賛意を表するものあるべきは免れざる所なるべきも此の種の運動が真の民意にあらずして他の外力に依り行わるるが如きはあり得べきことにあらずと支那側の事態に
対する認識及び善処の必要なる次第を繰返し説明したるに
六、蒋は特殊事態に対しては自分も特に認識し居り二週間前既に之に応ずる辨法を内定し居れるも目下五全大会中多忙なる為之が実施の運に至らざる次第なるが近く軍事分会を廃止し別に日本側と責任を以て応酬し得る大官を派遣し事態調整の途を図らしむることに
決心し居れりと述べたるが本使は和平の手段を以て調整収拾の途を講ずるは素より結構なるが現在の事態の見方貴方と我方と相違の点あり本使に於いては事態相当急迫し居り成行如何に依りては両国国交に大なる影響を来すの惧れあるものと憂慮し特に支那側の
注意を喚起する次第なりと念を押したるに蒋は了承の旨を答え同時に張群より日本側に於いても出先に於いて強力を以て強制せざる様特別の手配を請う旨付言し更に蒋より前記北支収拾に関する支那側の辨法を本国政府に取次方再三申出でたるに付本使に於いて
一応取次ぐべきも時期既に遅かるべしと思惟する旨応酬し置きたり
暗 南京十一月二十一日後発
本省十一月二十一日後着
広田外務大臣 須磨総領事
第一二九一号の一（極秘）
有吉大使より
一、往電第一二九〇号会談に引続き本使より曩に広田外相の提議したる国交改善に関する三項の原則に対する貴下の意見如何と資したるに蒋は極めて率直に右三原則に対し自分は全然同意にして之に対し何等の対案（唐は対案とは条件の意なりと後に説明せり）
をも有せず直に日本側の希望をも聞き具体的相談に入り速に実行に入り度く決心し居れり唯北支に於いて事態発生するが如きことあらば本問題も結局相談し得ざる事態に陥るべきに付北支の現状に対し特に日本側の慎重なる考慮を希望し度しと述べたり
二、依って本使より貴見に依れば北支の事態が無事に収拾せらるるや否やを条件として三原則の実行如何を決定せんとする意向なりやと資したるに蒋は別段条件とすると云うが如き意味にあらざるも元来今回の日本側提案の三原則は問題が北支と密接なる関係を有し
居り従って若し北支に事態発生するが如きことあらば三原則中の第二及び第三項は自然実行し得ざることとなるべしと述べたるに付
三、本使は此の点即ち自分も憂慮し今日真先に北支問題に付注意を喚起し貴方の善処を求めたる所以なりと告げ更に然らば三原則の実行方法に付ては後日相談すべしと述べ次て之に関連して本使より銀国有令の実施及び借款説、日支航空連絡問題等に言及し夫々
別電の如き会談を遂げ又最近発生の上海水兵事件及び日本商店襲撃事件等に伴う各地抗日空気に対する取締方を要求し併せて前記三原則が速に実施せらるるに於いては日本側の疑惑も無くなり国交の促進に効果あるべしと述べたるに
四、蒋は抗日運動等は決して起こること無し自分は素より排日にあらず衷心日支の親善を希望し居り又支那を愛する支那人は決して排日等の行動に出ずること無きに付安心ありたしと答えたり
支、北平、天津へ転電せり
南京 前発
十一月二十二日
本省 前着
広田大臣 須磨総領事
第一二九五号の一ー四
有吉大使より
往電一二九〇号に関し
一、二一日唐有壬本使を来訪し同電蒋介石の談話を敷衍し北支事態は主として日本側の強制使嗾に因るものにて北支民衆全般に於いて之を要望し居らざるは素より要路者に於いても宋哲元、商震、韓復�囘�は何れも死を誓って自治に反対なる旨中央に声明し来り
居り蕭振瀛よりは土肥原少将の強制に依り已むを得ず賛成の態度を持し居るも決して之を実行せざる旨を申出て来り居る趣を説明し（右に対し本使より是等要人は同時に日本側に対し南京側が従来事毎に日本側の希望容認に反対し来りたる為北支の事態を
悪化せしめたるものなれば之を避け北支の福祉を増進する為には北支政権に於いて日本側の要望を容れ得るが如き機構を必要とする旨を説明し居る実情を充分考慮に容れる要ある趣なる趣を説示し置けり）たる上
日本側の強制無くば自治運動が起こること無かるべしと信じ居るに付日本側に於いても実力を以て自治を強制せられざらんことを切望すと述べたるに付本使より日本として自治強制の為実力を行使するが如きこと無きは当然の儀なる旨を指摘したる上前記
括弧内の事項に依り自治運動が自然的に台頭し来る場合には支那中央に於いて実力に依り之を弾圧するが如きこと無き様前述蒋に対する説明を繰返し置きたり
二、今回の自治運動が自然的に発展する場合には問題小なるも然らざる場合我方に於いて実力を以て之を強制又は促進するが如きことあらば支那国民一般の反対を惹起し之が為蒋介石に於いても必ずしも其の言明の如く之を黙視するを得ざるに至るべく延いて
全面的両国関係の悪化は之を避け難きこと勿論なるに付政府に於いては右の点に付予め充分の注意を払わるること極めて肝要の儀と存せらる
三、而して我方の実力に依る強制圧迫なき場合今回の自治運動が果して自然的に発展し得るものなりや或は支那側の言うが如く成立の余地なきものなるやは当方の有する情報に依りては的確に之を予測し得ざる次第にして前者の場合には前進的に之を進めて可
なるも後者の場合なりとせば国策の全局より考え之が進行に付適当の手加減を加えること必要なるべく總ゆる無理を冒して迄此の際急速に之を強行せんとするが如きは厳に之を避くべき儀と思考せらる
四、而して冒頭往電蒋介石の企図する北支収拾案に付ては二十一日唐本使来訪の節右は中央派遣の大官に於いて充分の権限を有して北支事態の円満解決（唐は従来懸案の外今回呈示の三原則に含まるる事項をも解決する考えなるが如き口吻を洩らし居たり）
を計るべく
特に軍側の主張する所謂財政独立に付ては北支収入の一部を償還基金とする公債（内債又は日支両国の公債）を募集し之を以て北支開発を行う積りなりと補足的に説明し居たるが本使としては今日の事態に鑑み右に対しては冒頭往電蒋に対すると同様
右の案を以て時局を収拾し得るは時期遅きに過ぐる旨を説示するに止め置きたる次第なるが自治運動の前途に付前記の如く悲観的観測を有するものなりとせば此の際暫く之が促進に手加減を加えると共に更に支那側をして提案の内容を明確にせしめ且
之が実行に対する先方決意の程度をも検討したる上我方に満足すべきものなるに於いては之を採用し依って北支事態の和平的解決を計ると共に往電第一二九一号蒋の言明を基礎とし両国関係の全面的改善を急速に進行せしむること寧ろ得策なるべく
右結果が我方に不満足なる場合更めて自治を促進するも遅からずと存す
右に付ては北方の事情の漸次判明と共に閣下に於いても既に御考究中のことと存せらるるも敢て卑見具申す何分の儀御回電を請う
参考文献
十一月二十一日後
本省 着
第一二九〇号の一ー六 須磨総領事
広田大臣
有吉大使より 貴電三〇五号に関し
本使二十日来寧同日午後蒋介石と会見せり（当方は堀内、須磨、有野先方は張群、唐有壬同席す）
一、本使より先ず北支最近の情勢及び之に関する堀内、須磨視察報告の結果に基づき適宜説明したる上此の際中央が北支の特殊事態を切実に認識し徒に民衆を圧迫するが如き行動に出でず現実に即したる措置に出でんことを要望する旨述べたるに蒋は北支の情勢に付ては
毎日現地官憲より詳細報告を受け居るが決して心配する程のものにあらざるに付安心せられ度しと述べたるが
二、本使より最近の北支に於ける自治運動は其の内容等充分承知し居らざるも此の種の運動は元々中央が北支の特殊事態及び今日迄の歴史を充分認識せず既定約定に基づく各種案件の解決に対し遷延策を取りたるが為発生したるものにして中央に於いて万一之を圧迫
し又は武力を以て弾圧するが如きことあるに於いては事態の紛糾治安の破壊を来し延いて同地方に密接なる関係を有する日本及び満洲国に多大の影響を及ぼす惧れあり殊に満洲国の保全を担当する関東軍としては之を黙視し得ざるべく此の点特に貴方の注意を喚起
せざるを得ずと述べたるに（我方の有する情報に依れば中央軍の一部は既に山東及び河北省南境に集中せられ居る趣にて此の点は特に重要視せざるを得ずと説明せり）
三、蒋は御趣旨は一応了解せるも支那としては国家の完全なる主権に反し行政の統一に支障を来す如き自治制度は到底許容するを得ず尤も北支の当局者及び各団体等よりの連日の報告に依れば一人として自治又は独立を希望するものなく決して心配するが如き事態に
あらずとて至極自信あるが如き口吻を示し更に仮令多少の動揺を来すが如き場合あるも中央は武力を使用し又は出兵するが如き考えなく又現地の軍人も自分（蒋）の命令には服従する自信あるに付安心せられ度しと答え（事実蒋は中央軍の北上又は之に依る弾圧等
考え居らざる様見受けられたり）更に語を次て実は本日貴大使との会見に於いて国交改善問題に付御相談致度しと考え居りたるに内政問題に属する北支の自治運動等に付先ず御話を受くるは遺憾なりと述べたり
四、依って本使は自治運動は素より内政問題に属するも之が対策如何に依りては北支の治安破壊され延いて外交問題を惹起する惧れあり特殊の関係を有する我方として無関心なる能わざること及び右自治の具体的内容は承知せざるも所謂支那の統一等を破壊するものとは
認めざる次第を説示し尚本使も今日両国の国交改善問題に付意見の交換を為し度き予定なるが北支の事態が相当逼圧し居ることは其の成行如何に依り直に全体の国交問題打合せも無意味に終わる惧れある為緊急事項として先ず北支問題を持出したる次第を告げ
尚同席の須磨より北支要人等との会談の結果を綜合し自治に対する彼等の希望の点等然るべく説明を為し本運動が民意にあらずと云うは認識の不足に依るものなる旨を説明したるに
五、其の際張群は傍より有体に言えば日本が土肥原少将を召還し多田司令官の済南行等を阻止せらるれば立所に自治運動は熄むべし昨日北支より帰来せるものの報告に依れば北支当局は土肥原氏より華北協同防赤委員会章程の原稿を受け同時に同氏の最高顧問たることの
提案を受けたる由なりと述べたるに付本使より自治運動に付現地の日本人にして之に同情し或は賛意を表するものあるべきは免れざる所なるべきも此の種の運動が真の民意にあらずして他の外力に依り行わるるが如きはあり得べきことにあらずと支那側の事態に
対する認識及び善処の必要なる次第を繰返し説明したるに
六、蒋は特殊事態に対しては自分も特に認識し居り二週間前既に之に応ずる辨法を内定し居れるも目下五全大会中多忙なる為之が実施の運に至らざる次第なるが近く軍事分会を廃止し別に日本側と責任を以て応酬し得る大官を派遣し事態調整の途を図らしむることに
決心し居れりと述べたるが本使は和平の手段を以て調整収拾の途を講ずるは素より結構なるが現在の事態の見方貴方と我方と相違の点あり本使に於いては事態相当急迫し居り成行如何に依りては両国国交に大なる影響を来すの惧れあるものと憂慮し特に支那側の
注意を喚起する次第なりと念を押したるに蒋は了承の旨を答え同時に張群より日本側に於いても出先に於いて強力を以て強制せざる様特別の手配を請う旨付言し更に蒋より前記北支収拾に関する支那側の辨法を本国政府に取次方再三申出でたるに付本使に於いて
一応取次ぐべきも時期既に遅かるべしと思惟する旨応酬し置きたり
暗 南京十一月二十一日後発
本省十一月二十一日後着
広田外務大臣 須磨総領事
第一二九一号の一（極秘）
有吉大使より
一、往電第一二九〇号会談に引続き本使より曩に広田外相の提議したる国交改善に関する三項の原則に対する貴下の意見如何と資したるに蒋は極めて率直に右三原則に対し自分は全然同意にして之に対し何等の対案（唐は対案とは条件の意なりと後に説明せり）
をも有せず直に日本側の希望をも聞き具体的相談に入り速に実行に入り度く決心し居れり唯北支に於いて事態発生するが如きことあらば本問題も結局相談し得ざる事態に陥るべきに付北支の現状に対し特に日本側の慎重なる考慮を希望し度しと述べたり
二、依って本使より貴見に依れば北支の事態が無事に収拾せらるるや否やを条件として三原則の実行如何を決定せんとする意向なりやと資したるに蒋は別段条件とすると云うが如き意味にあらざるも元来今回の日本側提案の三原則は問題が北支と密接なる関係を有し
居り従って若し北支に事態発生するが如きことあらば三原則中の第二及び第三項は自然実行し得ざることとなるべしと述べたるに付
三、本使は此の点即ち自分も憂慮し今日真先に北支問題に付注意を喚起し貴方の善処を求めたる所以なりと告げ更に然らば三原則の実行方法に付ては後日相談すべしと述べ次て之に関連して本使より銀国有令の実施及び借款説、日支航空連絡問題等に言及し夫々
別電の如き会談を遂げ又最近発生の上海水兵事件及び日本商店襲撃事件等に伴う各地抗日空気に対する取締方を要求し併せて前記三原則が速に実施せらるるに於いては日本側の疑惑も無くなり国交の促進に効果あるべしと述べたるに
四、蒋は抗日運動等は決して起こること無し自分は素より排日にあらず衷心日支の親善を希望し居り又支那を愛する支那人は決して排日等の行動に出ずること無きに付安心ありたしと答えたり
支、北平、天津へ転電せり
南京 前発
十一月二十二日
本省 前着
広田大臣 須磨総領事
第一二九五号の一ー四
有吉大使より
往電一二九〇号に関し
一、二一日唐有壬本使を来訪し同電蒋介石の談話を敷衍し北支事態は主として日本側の強制使嗾に因るものにて北支民衆全般に於いて之を要望し居らざるは素より要路者に於いても宋哲元、商震、韓復�囘�は何れも死を誓って自治に反対なる旨中央に声明し来り
居り蕭振瀛よりは土肥原少将の強制に依り已むを得ず賛成の態度を持し居るも決して之を実行せざる旨を申出て来り居る趣を説明し（右に対し本使より是等要人は同時に日本側に対し南京側が従来事毎に日本側の希望容認に反対し来りたる為北支の事態を
悪化せしめたるものなれば之を避け北支の福祉を増進する為には北支政権に於いて日本側の要望を容れ得るが如き機構を必要とする旨を説明し居る実情を充分考慮に容れる要ある趣なる趣を説示し置けり）たる上
日本側の強制無くば自治運動が起こること無かるべしと信じ居るに付日本側に於いても実力を以て自治を強制せられざらんことを切望すと述べたるに付本使より日本として自治強制の為実力を行使するが如きこと無きは当然の儀なる旨を指摘したる上前記
括弧内の事項に依り自治運動が自然的に台頭し来る場合には支那中央に於いて実力に依り之を弾圧するが如きこと無き様前述蒋に対する説明を繰返し置きたり
二、今回の自治運動が自然的に発展する場合には問題小なるも然らざる場合我方に於いて実力を以て之を強制又は促進するが如きことあらば支那国民一般の反対を惹起し之が為蒋介石に於いても必ずしも其の言明の如く之を黙視するを得ざるに至るべく延いて
全面的両国関係の悪化は之を避け難きこと勿論なるに付政府に於いては右の点に付予め充分の注意を払わるること極めて肝要の儀と存せらる
三、而して我方の実力に依る強制圧迫なき場合今回の自治運動が果して自然的に発展し得るものなりや或は支那側の言うが如く成立の余地なきものなるやは当方の有する情報に依りては的確に之を予測し得ざる次第にして前者の場合には前進的に之を進めて可
なるも後者の場合なりとせば国策の全局より考え之が進行に付適当の手加減を加えること必要なるべく總ゆる無理を冒して迄此の際急速に之を強行せんとするが如きは厳に之を避くべき儀と思考せらる
四、而して冒頭往電蒋介石の企図する北支収拾案に付ては二十一日唐本使来訪の節右は中央派遣の大官に於いて充分の権限を有して北支事態の円満解決（唐は従来懸案の外今回呈示の三原則に含まるる事項をも解決する考えなるが如き口吻を洩らし居たり）
を計るべく
特に軍側の主張する所謂財政独立に付ては北支収入の一部を償還基金とする公債（内債又は日支両国の公債）を募集し之を以て北支開発を行う積りなりと補足的に説明し居たるが本使としては今日の事態に鑑み右に対しては冒頭往電蒋に対すると同様
右の案を以て時局を収拾し得るは時期遅きに過ぐる旨を説示するに止め置きたる次第なるが自治運動の前途に付前記の如く悲観的観測を有するものなりとせば此の際暫く之が促進に手加減を加えると共に更に支那側をして提案の内容を明確にせしめ且
之が実行に対する先方決意の程度をも検討したる上我方に満足すべきものなるに於いては之を採用し依って北支事態の和平的解決を計ると共に往電第一二九一号蒋の言明を基礎とし両国関係の全面的改善を急速に進行せしむること寧ろ得策なるべく
右結果が我方に不満足なる場合更めて自治を促進するも遅からずと存す
右に付ては北方の事情の漸次判明と共に閣下に於いても既に御考究中のことと存せらるるも敢て卑見具申す何分の儀御回電を請う
参考文献 
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