三月二十二日公表
二月二十一日齋藤在米大使が「ハル」国務長官に広田外相の非公式個人的挨拶を述べたるに対し、三月三日「ハル」国務長官より齋藤大使を通じ広田外相に宛て書面の形式に依りて非公式個人的挨拶を為された。其の内容は左の通りである。
広田外務大臣の「ハル」国務長官宛非公式個人的挨拶趣旨（二月二十一日）
本年は日米両国国交開始以来満八十周年に該当する処、此の長年月に渉り、両国が常に親善友好の関係を持続し来りたるは顕著なる事実であって、経済関係に於いては双方商品間に競争の地位にあるもの極めて尠く、両国は互いに他方商品の一大顧客として有無相通ずるの基礎に立脚し、相互依存関係を大所高処より観察し、又詳細に考究するに於いては、予は両国間には根本的に解決を困難とする問題の存在せぬことを確信するものであって、両国間に現存し又は将来発生すべき案件に関しては、両国互いに他方の立場に対し正当なる諒解を持ち、隔意なき協議を行い、協調の精神を以て之が処理に当たるに於いては、遂に円満なる解決を見るに至るべきは当然なりと信ずる。
帝国外交の根本政策は萬邦協和を念とし、何れの国に対しても進んで事を構えんとする様な意図なきは勿論であって、殊に太平洋を距つる大隣邦たる北米合衆国に対し、善隣平和の関係を確立せんことを冀望するものである。予は就任以来此の目的達成の為微力を致しつつある次第であるが、今回齋藤大使が新たに重任を負い貴国に赴任するの機会に於いて、日米両国の伝統的親善関係の増進に対する所懐を披瀝するを欣幸とするものであって、貴国政府も右日本政府の冀望に対し、全幅の支持賛同を与えらるべきを信ずるものである。
「ハル」国務長官の広田外務大臣宛非公式個人的挨拶（三月三日）
新任駐米日本大使齋藤氏は、貴大臣が予に寄せられた個人的非公式挨拶を予に交付せられた。
貴大臣が右挨拶中に表明せられた懇篤なる感情は予の深く感銘する所であって、予も亦均しく同様の感情を茲に表明するものである。
予は他諸国との友好関係を促進せんとせらるる閣下の御努力は、欣快の念を以て確かに之を了承した。此等一切の御努力に当たり、予は貴大臣が凡ゆる可能な範囲の協力を予に期待せられ得べきことを認めらるることを確信する。
貴大臣は大所高処より観察し、又詳細に考究するに於いては、貴我両国間には和協的解決を根本的に困難とする問題存在せざる旨の見解を表明せられたが、予は貴大臣と全然右見解を同じくするものである。更に予は貴我両国間には、両国に於いて適切なる見方を以て観るに於いては、平和的手段に依り容易に調整し得ないものと正当に看做さるべき問題が、事実上存在しないことを信ずるものである。米国の国策遂行に当たり、斯かる手段に拠るは米国政府の既定方針である。若し不幸にして貴我両国間に将来何等紛議を生ずることあらば、米国政府は過去に於けると同様に親善の精神及び平和的且正当なる解決を希望するの精神を以て合衆国の地位を検討せらるるの用意あるべきを確信を以て期待するものである。
貴大臣は通商の方面に於いては、貴我両国の利害関係は牴觸せずして通商上の紐帯は絶えず強化せられつつあるの喜ばしき事実に言及せられた。予は合衆国及び日本が、其の相互的貿易を両国に利益を齎す様、而して又競争の行わるる場合には、常に相互的好意を以て進展せしむることを持続すべきを期待する十分の理由あるを認むるものである。
貴大臣は日本は他の何れの国に対しても進んで事を構えんとするの意なきことを強調せられたが、予は右陳述を特別の欣快の念を以て之を受け、米国側に於いても他国との関係に於いて何等問題を惹起せんとするの希望及び何等紛争を創始せんとするの意図は、毫も之を有せざることを此の機会に於いて明確に言明するを欣幸とする。
此等の事実に顧み、予も亦此の機会を利用して東亜に利害関係を有する一切の諸国が、其の間に現に存し若しくは将来発生することあるべき一切の問題を何れの国をも害することなく、且一切の諸国に確実且永久的の利益を齎す様、調整若しくは解決するの精神及び方法により討究すること可能とならんことを、予の熱誠なる冀望として表明すべきものなることを感ずるものである。
予は日米間最初の条約締結以来、貴我両国間の関係を常に特色付け来りたる友好親睦を維持増進せんが為、如何なる提議にても駐米日本大使若しくは駐日米国大使を通じて之を受くるを欣幸とすること勿論である。貴大臣は右目的の為又同時に平和、友誼及び国際団体の全員間の一般的利益助成の為に実行し得べき如何なる措置又は手段に対しても之に賛成せんとする予の熱心なる冀望に信頼せらるべきである。
コーデル、ハル（署名）
広田外務大臣閣下
参考文献
二月二十一日齋藤在米大使が「ハル」国務長官に広田外相の非公式個人的挨拶を述べたるに対し、三月三日「ハル」国務長官より齋藤大使を通じ広田外相に宛て書面の形式に依りて非公式個人的挨拶を為された。其の内容は左の通りである。
広田外務大臣の「ハル」国務長官宛非公式個人的挨拶趣旨（二月二十一日）
本年は日米両国国交開始以来満八十周年に該当する処、此の長年月に渉り、両国が常に親善友好の関係を持続し来りたるは顕著なる事実であって、経済関係に於いては双方商品間に競争の地位にあるもの極めて尠く、両国は互いに他方商品の一大顧客として有無相通ずるの基礎に立脚し、相互依存関係を大所高処より観察し、又詳細に考究するに於いては、予は両国間には根本的に解決を困難とする問題の存在せぬことを確信するものであって、両国間に現存し又は将来発生すべき案件に関しては、両国互いに他方の立場に対し正当なる諒解を持ち、隔意なき協議を行い、協調の精神を以て之が処理に当たるに於いては、遂に円満なる解決を見るに至るべきは当然なりと信ずる。
帝国外交の根本政策は萬邦協和を念とし、何れの国に対しても進んで事を構えんとする様な意図なきは勿論であって、殊に太平洋を距つる大隣邦たる北米合衆国に対し、善隣平和の関係を確立せんことを冀望するものである。予は就任以来此の目的達成の為微力を致しつつある次第であるが、今回齋藤大使が新たに重任を負い貴国に赴任するの機会に於いて、日米両国の伝統的親善関係の増進に対する所懐を披瀝するを欣幸とするものであって、貴国政府も右日本政府の冀望に対し、全幅の支持賛同を与えらるべきを信ずるものである。
「ハル」国務長官の広田外務大臣宛非公式個人的挨拶（三月三日）
新任駐米日本大使齋藤氏は、貴大臣が予に寄せられた個人的非公式挨拶を予に交付せられた。
貴大臣が右挨拶中に表明せられた懇篤なる感情は予の深く感銘する所であって、予も亦均しく同様の感情を茲に表明するものである。
予は他諸国との友好関係を促進せんとせらるる閣下の御努力は、欣快の念を以て確かに之を了承した。此等一切の御努力に当たり、予は貴大臣が凡ゆる可能な範囲の協力を予に期待せられ得べきことを認めらるることを確信する。
貴大臣は大所高処より観察し、又詳細に考究するに於いては、貴我両国間には和協的解決を根本的に困難とする問題存在せざる旨の見解を表明せられたが、予は貴大臣と全然右見解を同じくするものである。更に予は貴我両国間には、両国に於いて適切なる見方を以て観るに於いては、平和的手段に依り容易に調整し得ないものと正当に看做さるべき問題が、事実上存在しないことを信ずるものである。米国の国策遂行に当たり、斯かる手段に拠るは米国政府の既定方針である。若し不幸にして貴我両国間に将来何等紛議を生ずることあらば、米国政府は過去に於けると同様に親善の精神及び平和的且正当なる解決を希望するの精神を以て合衆国の地位を検討せらるるの用意あるべきを確信を以て期待するものである。
貴大臣は通商の方面に於いては、貴我両国の利害関係は牴觸せずして通商上の紐帯は絶えず強化せられつつあるの喜ばしき事実に言及せられた。予は合衆国及び日本が、其の相互的貿易を両国に利益を齎す様、而して又競争の行わるる場合には、常に相互的好意を以て進展せしむることを持続すべきを期待する十分の理由あるを認むるものである。
貴大臣は日本は他の何れの国に対しても進んで事を構えんとするの意なきことを強調せられたが、予は右陳述を特別の欣快の念を以て之を受け、米国側に於いても他国との関係に於いて何等問題を惹起せんとするの希望及び何等紛争を創始せんとするの意図は、毫も之を有せざることを此の機会に於いて明確に言明するを欣幸とする。
此等の事実に顧み、予も亦此の機会を利用して東亜に利害関係を有する一切の諸国が、其の間に現に存し若しくは将来発生することあるべき一切の問題を何れの国をも害することなく、且一切の諸国に確実且永久的の利益を齎す様、調整若しくは解決するの精神及び方法により討究すること可能とならんことを、予の熱誠なる冀望として表明すべきものなることを感ずるものである。
予は日米間最初の条約締結以来、貴我両国間の関係を常に特色付け来りたる友好親睦を維持増進せんが為、如何なる提議にても駐米日本大使若しくは駐日米国大使を通じて之を受くるを欣幸とすること勿論である。貴大臣は右目的の為又同時に平和、友誼及び国際団体の全員間の一般的利益助成の為に実行し得べき如何なる措置又は手段に対しても之に賛成せんとする予の熱心なる冀望に信頼せらるべきである。
コーデル、ハル（署名）
広田外務大臣閣下
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