学校では教わることのない日本の自虐史観を省いた歴史を年表にまとめたもの。

一九三三年二月二十四日採択

総会は規約第十五条第九項に依り総会の審議の為提出せられたる紛争の解決を為すの目的を以て同条第三項に依り其の為すべき義務ありたる努力が失敗したることを認め同条第四項に基づき紛争の諸事実の記述及び右紛争に関し公正且適当と認むる勧告を載せたる
次の報告書を採択す

第一部 極東に於ける諸事件 調査委員会報告書の最初の八章の採択 報告書の梗概

総会は支那及び日本間の紛争の根本的原因の甚だしく複雑なることを認む現地に於いて事態を調査する為理事会に依り派遣せられたる調査委員会は「本紛争に包含せらるる諸問題は往々称せらるるが如く簡単なるものに非ず即ち此等の諸問題は寧ろ極度に複雑なり
一切の事実及び其の歴史的背景に関する徹底せる知識あるもののみ之に対し確定意見を表示し得る資格ありと謂うべきなり」との見解を表明せり
調査委員会報告書の最初の八章は満洲に於ける諸事件に関する限りに於いて紛争及び主要事実の史的背景の均衡あり且公平にして詳細なる叙述あり総会は別に公表せられたる調査委員会報告書を略述し又は約説することを実行不可能且不必要なりと思考す
総会は支那及び日本の政府の通報せる意見書を審査したる後調査委員会報告書の最初の八章を総会自体の報告書の一部として採択す然れども紛争の諸種の局面に関し理事会及び総会が執りたる措置竝委員会報告書中に示されざる或事件特に一九三二年初頭上海に
於いて発生せる敵対行為の基因に関するものを叙述し以て本記述を完全ならしむること必要なり此等の事件に付ては総会は領事団調査委員会より提出せられたる諸報告を総会自体の報告書の一部として採択す右報告書は別に公表せられたり調査委員会報告書は
一九三二年九月初を以て擱筆せられ居るを以て其の後満洲に於いて発生せる諸事件をも叙述することを要す
紛争の進展に関する右簡単なる史的概説は本報告書第二部に於いて掲げらる右は調査委員会報告書に掲げられたる諸事件の叙述と関連して閲読せらるべきものなり
第三部は紛争の主たる要因及び総会が基礎的事実より推論し得べき結論を記述す
第四部は総会が紛争に付公正且適当と認むる勧告を記載す

第二部 連盟に於ける紛争の経過

(イ)紛争の進展の概説
紛争が連盟に付託せられたる以後経過したる長期間中に於ける理事会及び理事会の決定は極東に於ける紛争の経過に従いて為されたり
最初に紛争が第十一条に依り支那に依り理事会に付託せられたる際理事会が解決することを要請せられたる諸事件は奉天に於いて及び満洲に於ける他の地に於いて発生したり理事会は日本より日本が満洲に於いて領土的企図を有せざる旨竝日本は日本国民の生命
及び財産の安全が確保せらるべきことの条件の下に其の軍隊を南満洲鉄道附属地内に撤収すべき旨の累次の保障を得たり是れ即ち一九三一年九月三十日の決議及び十月二十四日の決議案を趣旨とせし所なり後者は日本を除く一切の理事国の承認せるものなれども
之に依り理事会は日本代表部より再び保障を受くることを得たり
右決議案が失敗に帰したる後日本が両国を疎隔せる根本的問題の解決の必要を主張したるに依り理事会は九月三十日の其の決議中の約束の履行を妨ぐることなくして両国間の懸案を両当事国間に於いて最終的且根本的に解決することに寄与せんことを意図するに
至れり一九三一年十二月十日理事会は日本の為せる提議に基づき現地に於いて調査を為し且「国際関係に影響を及ぼし支那及び日本間の平和又は平和の基礎たる良好なる諒解を攪乱せんとする恐れある一切の事情」に関し理事会に報告すべき訓令を付して五名の
委員より成る委員会を任命することに決定せり然れども十二月より翌年三月に至る間に於いて極東の事態は顕著なる悪化を見たり日本軍は南満洲の占領を完了し北満洲の占領を開始したり満洲外に在りては上海に於いて支那及び日本の正規軍の関与せる激烈なる
抗争開始せられ且続行せられたり同時に日本軍の占領せる満洲諸地方の行政組織の改造せられたる結果として支那の主権を認めざる「満洲国」と称する「独立国」の組織を見たり爾後理事会は紛争を規約第十一条に依りて解決すべきことを支那より求められたり
一九三二年二月十九日理事会は規約第十五条第九項の条項に基づき提出せられたる支那の要求の結果として紛争を総会に付託せり
一月以降紛争の本質の十分なる調査に必要なりし調査委員会報告書を接受する迄は理事会従って総会は敵対行為を停止し及び事態の悪化を防止し竝当事国の権利及び規約の原則が既成事実の為に害せらるることを救う為其の全力を尽くすことに付主として注意を
払いたり総会は其の三月十一日の決議に依り紛争に対する連盟の態度を明らかにし且連盟規約に依れる紛争の解決に至る迄は連盟規約又は「パリ」条約に反する手段に依りて齎さざることあるべき如何なる事態、条約又は協定をも承認せざるは各連盟国の
義務なる旨を宣言せり
上海に於ける敵対行為は終熄せられたるも満洲に於いては日本軍又は「満洲国」政府軍隊と支那不正規軍との間に引続き戦闘行われたり一九三二年九月北平に於ける調査委員会報告書の署名後数日にして事態の根本的変化更に発生せり即ち日本政府は「満洲国」
政府を承認せり
調査委員会報告書は九月末前には即ち規約第十五条に依る総会の報告書に付規約に定むる六月の期間の経過後に非ざれば「ジュネーブ」に到着することは能わざりき依って総会は当事国の承諾を得て七月一日先例と為らずとの諒解の下に厳に必要なるべき限度に
於いて期間を延長することに決定せり斯くて調査委員会は其の報告を現地に於いて完了することを得当事国は報告書に関する自国の意見書を提出し又理事会及び総会は斯く募集せられる一切の資料を審査することを得たり
資料の審査及び当事国との意見の交換は一九三二年十一月半より一九三三年二月初迄継続せり理事会の討議の後総会は調査委員会報告書中に掲げられたる情報及び結論を基礎として第十五条第三項に基づき当事国間の交渉に依りて成功せざりき依って総会は
同条第四項に従い本報告書を採択せり

(ロ)連盟に提起せられたる紛争の起源 南満洲に於ける一九三一年九月十八日乃至十九日の事件 理事会の第一回討議
理事会に対する支那の請求は日本軍が一九三一年九月十八日より十九日に亙る夜間満洲に於いて執りたる行動に端を発す
奉天附近に於ける事変【一九三一年九月二十一日支那政府が理事会に提起せる訴えに依れば「九月十八日夜十時に始まり日本兵の正規軍は如何なる種類の挑発をも受くることなくして奉天市及び其の附近に於いて支那兵に対し射撃及び砲撃を開始し兵工廠及び兵舎を
砲撃し・・・・弾薬庫に放火し」又「長春、寛城子其の他の地に於ける支那軍の武装を解除せり」(一九三一年十二月公報第二千四百五十三頁)
九月二十六日理事会に通報せられたる日本軍の所説に依れば一中尉の指揮する七名の巡察隊は奉天北方の鉄道附属地に於いて偵察を行いつつありたるとき午後十時三十分頃後方に当たりて大爆発を聞き方向を転じたるに北方約五百メートルに於いて右爆発の起これる
地点に近く支那兵の逃走しつつあるを認めたり巡察隊は最初之を追跡したるが掩蔽下に在る兵士より又次て約四五百名の支那軍より射撃を受けたり日本軍の一中隊長は速やかに百二十名の兵を率いて到着し支那軍を追跡して奉天北大営の一部を占領せり(文書
C.612,1931.千九百三十一年十二月公報第二千四百七十八頁)
調査委員会報告書第四章は九月十八日より十九日に亙る夜間に発生せる事件を詳細に記述し且此等の事件に関する委員会の意見を述べ右意見の基礎たる理由の記述を添えたり(第七十頁)】
の結果として日本軍の警備する南満洲鉄道附属地内に於いては日本軍指揮官は軍事的予防手段を必要とすとの理由に依り鉄道附属地外殊に附属地隣接の支那都市及び奉天を終点とする支那鉄道線に軍隊を派遣せり奉天、長春、安東、営口其の他の支那都市は占領せられ
支那軍は四散せしめられ又は武装を解除せられたり九月二十一日支那は規約第十一条に依り訴えを提起し理事会に対し各国の平和と危殆ならしむる事態の此の上の進展を防止し現状を恢復し且中華民国に対して支払うことを要すと認めらるる賠償の金額及び種類を
決定せんことを求めたり
九月二十二日理事会は理事会議長(西班牙代表「ルルー」氏)に対し(一)事態を悪化し又は問題の平和的処理を害する恐れある如何なる行為をも差控える様両政府に対し緊急要請を発し(二)支那及び日本の代表と協議し両国が其の国民の生命及び財産の安全を
危殆ならしむることなくして各自の軍隊を直に撤退し得べき適当なる手段を探求するの権能を付与せり
九月二十九日当時の理事会議長は両当事国の提供せる情報に基づき総会に事態を説明するに当たり「南満洲鉄道附属地内への日本軍の撤収は実行せられつつあり」と述べ且九月二十八日「日本代表は理事会に対し撤収は進行しつつあり・・・鉄道附属地外に於いては
吉林及び奉天を別として新民屯及び鄭家屯に於いて此の地方に当時横行しつつありたる支那兵匪集団の襲撃に対し日本国民を保護する為小部隊が残存するに過ぎずと声明せり」と述べたり
理事会が九月三十日次の決議を採択せる際に於ける形勢は右の如くなりき
「理事会は
一 理事会議長が支那及び日本の政府に致せる緊急要請に対する右両政府の回答及び該要請に応じて既に執られたる処置を了承す
二 日本政府が満洲に於いて何等領土的企図を有せざる旨の同政府の声明の重要なることを認む
三 日本政府が其の国民の生命及び財産の安全の有効に確保せらるるに従い開始せられたる其の軍隊の鉄道附属地内への撤収を能う限り速やかに続行すべき旨成るべく迅速に右の意向を完全に実現せんことを希望する旨の日本代表の声明を了承す
四 支那政府が日本軍隊の撤収の続行竝支那地方官憲及び警察力の回復に従い鉄道附属地外に於ける日本国民の生命及び財産の安全に対する責任を負うべき旨の支那代表の声明を了承す
五 両政府が両国間の平和及び良好なる諒解を攪乱する恐れある一切の行為に出ることを避けんことを欲するを信じ両政府は各自に事件の範囲の拡大又は事態の悪化を防止する為一切の必要なる処置を執るべしとの保障を支那及び日本の代表より与えられたることを
  了承す
六 両当事国に対し両国間の正常関係の回復を促進し及び之が為前記約定の履行を続行し且速やかに完了する為能う限りの一切を為すべきことを請求す
七 両当事国に対し事態の進展に関する完全なる情報を屢理事会に送らんことを請求す
八 緊急会合を必要と為すが如き何等予期せざる事件の発生せざる限り十月十四日(水曜日)同日に於ける事態を考究する為更に「ジュネーブ」に会合することを決定す
九 理事会議長が事態の進展に関し当事国又は他の理事国より得ることあるべき情報に顧み会合の必要なきに至れりと其の同僚特に両当事国代表の意見を求めたる後決定する場合は十月十四日と定められたる理事会の会合を取消すことを議長に許可す」
右理事会の希望は達成せられざりき十月九日支那代表部は日本軍が更に「侵略的軍事行動」を開始せりとの理由の下に理事会の緊急会合を求めたり右は奉天占領後臨時に省政府の設置せられたる錦州の空中爆撃に主として関連せり
理事会は其の九月の会合に於いて日支紛争に関する理事会の議事録及び同紛争に関する文書を合衆国政府に送付することに決定し又合衆国政府は連盟の態度に対する其の満腔の同情を声明せり十月十六日亜米利加合衆国政府と引き続き協力すること決定せられ
同政府は理事会に列席すべき一名の代表を派遣せんことを招請せられたり合衆国代表は「「パリ」条約の規定と満洲に於ける現下の不幸なる事態との間の関係を理事会と共に審議し及び同時に理事会が現に当面しつつある問題の他の方面に関しては理事会の
審議を注視する」の権限を本国政府に依り付与せられたり十月十七日理事会に代表を出せる若干の政府(英、佛蘭、西、獨、「アイルランド」自由国、伊、諾威及び西班牙)は「パリ」条約の署名国として支那及び日本の政府に対し同文書翰を送付し
同条約の規定特に「締約国は相互間に起こることあるべき一切の紛争又は紛議は其の性質又は起因の如何を問わず平和的手段に依るの外之が処理又は解決を求めざることを約す」との第二条の規定に付両政府の注意を喚起することに決定せり
合衆国政府は両政府に対し右と同様の書翰を送付せり
十月二十二日理事会議長(佛蘭西代表(ブリアン」氏)は一の決議案を提出したるが当事国以外の理事国は全会一致を以て之に同意したり
右決議案は九月三十日の決議に於いて支那及び日本の政府が為せる約定竝日本は満洲に於いて何等の領土的企図を有せずとの日本代表の声明に言及したる後日本政府に対し鉄道附属地内への日本軍の撤収を直に開始し且之を続行し以て理事会の次回の会合前に
全軍隊が撤収せらるべきことを要求し又他方支那政府に対しては右撤兵せられたる地域の接収措置としては該地域に於いて日本臣民の生命及び財産の安全を確保し得るが如きものを執るべきことを要求し且之が為執らるべき若干の細目的手段を提言せり
両政府は又撤兵の完了後速に両国間の一切の懸案特に今次の事件より発生したる問題及び満洲に於ける鉄道の事態より発生せる困難に関する問題に付直接交渉を開始すべきことを勧告せられたり右目的の為理事会は両当事国が和協委員会又は同種の
恒久的機関を設置すべきことを提言せり最後に理事会が十一月十六日再び会合すべきこと提議せられたり
十月二十三日支那代表は一の決議案を「絶対的最小限度」として受諾せり日本代表は一の対案を提出し且日本国政府が満洲に於ける緊張及び無秩序状態に顧み撤兵を完了し得る確定期日を決定し得るものと思惟し居らざる旨を説明せり日本政府は人心の鎮静の
回復せらるべきことを絶対に必要なりと認め且つ右目的を念頭に置き支那及び日本間の正常関係の基礎たるべき若干の根本的要項を決定せり日本代表は此等の根本的要項を決議中に於いて叙述し又は理事会の席上に於いて之が細目に付討議するの権限を
付与せられ居らざりき右要項は寧ろ之を当事国間の直接交渉の主題たらしむるを可とすべしと為せり
理事会は右要項の何たるかを知ることなくしては前記決議案中に於いて之に言及すること不可能なりと思惟したり
右決議案は日本代表が反対投票を為したる為採択せられざりき
(一九三一年十月二十四日)理事会は表決に付したる後十一月十六日迄休会せり
十月二十四日の会合の後支那代表は本国政府の為に理事会議長に対し次の宣言を為せり

 「今朝「グレート、ブリテン」代表が理事会に於いて表明せる条約上の義務に関する意見は予の衷心より同意する所なるが右に関し予は次の宣言を為すの権限を本国政府より付与せられたり
  支那は各連盟国と同様規約に依り「一切の条約上の義務を厳に尊重」するの義務あり支那政府は規約に基づく其の一切の義務を忠実に履行することを決意し居れり支那政府は規約第十三条に規定せられ居る如く条約の解釈に関する日本との一切の
  紛争を仲裁裁判又は司法的処理に依り解決することを約し以て右意思の証拠を示すの用意あり
  右目的に従い支那政府は支那及び亜米利加合衆国間に最近締結せられたるもの又は近年連盟国間に逐次締結せられつつあるものと同様の仲裁裁判条約を日本と欣んで締結すべし」

(ハ)北満洲に於ける日本の軍事行動の進展
十月の理事会の会合の後満洲に於いては洮南昂昂渓鉄道が通過する嫩江の橋梁の附近に於いて更に日本の軍事行動行われたり此れ等の橋梁は張海鵬将軍の進軍を阻止する為黒竜江省政府主席馬占山将軍の支那軍に依り十月破壊せられたり張海鵬将軍は支那側
に依れば此等橋梁の修理に関する日本側の干渉を正当とする為日本側の使嗾に依り攻撃に出でたる由なり東京政府は支那政府に対し洮南昂昂渓鉄道は南満州鉄道会社が請負契約の下に建設せるものなる旨、支那官憲は未だ其の債務を支払わざる旨、
右債務を借款に振替することを拒絶せる旨並従って右鉄道は財産の保全及び鉄道運行の維持に関し大なる利害を有せる南満州鉄道会社に属し居るものと認めらるべき旨主張せり
十一月二日日本政府は南満州鉄道会社及び洮昂鉄路局の請求に基づき軍隊(歩兵、砲兵及び空軍)掩護の下に同日工兵の一隊が鉄道橋梁修理の為派遣せられたる旨声明せり
日本軍は支那軍と接触するに至れるが支那軍は退却を拒みたるが故に撃退せられたり日本軍は十一月東支鉄道の線に達せしのみならず之を横断して昂昂渓を占領し次て十一月九日斉斉哈爾を占領せり

(二)満洲に於ける行政組織の改組措置
軍事行動が満洲北部に向かい拡大せる一方行政制度の改組も亦進展せり特に奉天に於いては九月十八日の事変に因る混乱の後市政は先ず土肥原日本陸軍大佐に、次て東京大学の法学博士たる市長趙欣博士に委ねられたり又錦州に逃れたる政権に対抗して
遼寧省政府を組織する為の努力行われたり
九月二十四日設立せられたる「地方維持委員会」は十月遼寧省自治公署と為り同公署は次て十一月七日臨時遼寧省政府に改まれり右臨時省政府は旧東北政府及び南京国民政府との関係を断絶せる旨声明せり同時に最高諮議会設置せられたるが同会の任務中
には省政府を指導及び監督し並地方自治の発達を奨励するの任務を包含せり総ての新官庁及び諸発券銀行には多くの場合に南満州鉄道の有力社員たりし日本人顧問配置せられたり
支那代表は日本軍が奉天、吉林其の他の占領地点に於ける此等新政権の樹立及び維持に対し責任あり此等新政権は「日本軍司令官の傀儡にして其の走狗なる」旨主張せり
日本代表は「日本官憲としては支那人自身が秩序維持に任ずる団体を組織することを奨励するの外なかりき・・・・・日本政府が数度の機会に於いて希望を公式に表明せる軍隊の迅速なる撤収は此等団体の有能なる任務遂行に依り大に容易と為るべき」旨
回答せり
加之塩務会弁「ドクター、フレデリック、エー、クリーヴランド」の数個の報告は支那代表部に依り一九三一年十一月理事会に通報せられたり此等の報告は日本軍事当局が満洲各都市の塩務収入を強制的に差押えつつありし旨述べ居れり日本側通報中には
「支那塩務稽核処の収入の剰余を他の支那側団体(地方維持委員会)に移転する為軍事当局が干渉するは不正当なりと認めらるることを得ず」と主張し居れり

(ホ)一九三一年十一月及び十二月の理事会会議調査委員会の設置
此の間理事会は十一月十六日及び同月二十一日「パリ」に開かれ一調査委員会を現地に派遣すべしと日本の提案提出せられたるが「右委員会の創設及び派遣は九月三十日の決議に従い南満州鉄道附属地へ其の軍隊を能う限り速に撤収せんとする日本政府
の真摯なる希望を毫も変更するものに非ず」
右提案は審議せられ十二月十日理事会は次の決議を採択せり

「理事会は
一 両当事国が厳粛に拘束を受くべき旨宣言し居れる一九三一年九月三十日理事会の全会一致可決せる決議を再び確認す依って理事会は右決議の条件に依り日本軍の鉄道附属地内への撤収が能う限り速に実行せられんが為支那及び日本の政府に対し
  右決議の実施を確保するに必要なる一切の処置を講ぜんことを要求す
二 十月二十四日の理事会以来事態更に重大化したるに顧み両当事国が此の上事態の悪化するを避くるに必要なる一切の措置を執るべきこと及び此の上戦闘若しくは生命の喪失を惹起することあるべき一切の主動的行為を差控えるべきことを約する
  ことを了承す
三 両当事国に対し事態の進展に付引続き理事会に通報せんことを求む
四 其の他の理事国に対し其の現地に在る代表者より得たる情報を理事会に提出せんことを求む
五 上記諸措置の実行とは関係なく
  本件の特殊なる事情に顧み両政府に依る両国間の繋争諸問題の終局的且根本的解決に寄与せんことを希望し
  国際関係に影響を及ぼし支那及び日本間の平和又は平和の基礎たる両国間の良好なる諒解を攪乱せんとするの恐れある一切の事情に関し現地に於いて研究を遂げ理事会に報告せんが為五名より成る一委員会を任命することを決定す
  支那及び日本の政府は右委員会を助くる為各一名の参与員を指名するの権利を有す
  両政府は右委員会が其の必要と為すべき一切の情報を現地に於いて入手せんが為の各般の便宜を右委員会に供与す
  両当事国が何等かの交渉を開始する場合には右交渉は右委員会の受任事項の範囲内に属せざるべく又何れかの当事国の軍事的施措に干渉することは右委員会の権限に属せざるものと諒解す
  右委員会の任命及び審議は日本軍隊の鉄道附属地内への撤収に関し九月三十日の決議に於いて日本政府の与えたる約束に何等影響を及ぼすものに非ず
六 現在より一九三二年一月二十五日に開かるべき理事会の次回通常会議迄の間依然本件を付託せられ居る理事会は理事会議長に於いて本件の経過を注意し若し必要あらば新たに理事会を招集せんことを求む」

議長(佛蘭西代表「ブリアン」氏)は右決議提出に当たり理事会は一九三一年九月三十日の其の決議を最重視する旨理事会は両政府が右決議に依り為したる約定を完全に履行すべきことを確信する旨竝此の上の戦闘を惹起することあるべき一切の行動を
差控えることは更に必須且緊急なる旨を強調せり

(ヘ)錦州に対する日本の軍事行動 南満洲に於ける支那政権の最後の残骸の消滅
理事会に於いて右決議の案文を起草中両当事国は西南満洲に軍事行動蔓延の危険に付数次に亙り理事会の注意を喚起し且日本軍と錦州に於ける張学良元帥の軍隊との間に一中立地帯を設定せんとする努力行われたるが右努力は不成功に終われり日本代表
は十二月十日の決議の採択の際同決議第二項に関し同代表は「満洲各地に於いて猖獗極むる匪賊及び不逞分子の活動に対し日本臣民の生命及び財産の保護に直接備うるに必要なるべき行動を日本軍が執ることを妨ぐるの趣旨に非ずとの諒解の下に」
同項を受諾し「右の如き軍事行動は満洲現下の特殊状況に基づく例外的措置にして同地方に於いて正常状態が回復せらるると共に自然其の必要なきに至るべし」と述べたり
十二月二十三日日本側の攻撃は錦州に向かいて開始せられ同地は一九三二年一月三日占領せられたり次て日本軍は長城迄進出して長城の南に位する山海関に駐屯する日本軍との接触を樹立せり此等軍事行動の結果支那側の組織ある政権は全く南満洲より
消滅せり

(ト)上海に於ける敵対行為 敵対行為の原因
満洲以外に在りては上海に於いても一九三二年一月以後事態悪化せり
上海に関しては連盟は一九三二年二月初旬現地に於いて設置せられたる領事団調査委員会の提出せる事件当初より三月五日に至る出来事に関する四個の報告を有す
其の後の出来事は一九三二年一月設置せられ三月十四日上海に到着せる調査委員会の報告書に叙述せられ居れり
調査委員会報告書に記述の朝鮮に於いて起れる重大なる排支暴動は一九三一年七月以後支那の他の部分に於けると同様に同地方に於いても日貨の「ボイコット」を招来せり日本軍の満洲占領は「ボイコット」を激化し右「ボイコット」は若干の場合に
於いては公的機関及び支那政府の主動的支持を伴えり日本の貿易は甚大なる損害を被れり両国民間の緊張は尖鋭化し且重大なる事件起こりたる結果上海日本在留民は排日運動鎮圧の為軍隊及び軍艦の派遣を請求せり日本総領事は大上海支那人市長に
五項の要求を提出せり此等の要求中の二項(排日運動の適当なる取締、敵愾心竝排日暴動及び激発行為の養成に従事せる一切の排日団体の即時解散)に関し市長は之を受諾すること困難なる旨一月二十一日述べたり
同日日本海軍司令官は若し支那人市長の回答にして不満足なりし場合には同官は日本の権利及び利益を擁護するに必要なるべき手段を執る決意あることを声明せり一月二十四日日本海軍の増援隊上海沖に到着せり閘北支那街の支那軍も亦増援を
得つつありとの風説旺に行われたり一月二十七日日本総領事は其の要求に対する満足なる回答を翌朝六時迄に与えんことを求めたり
列国代表に対し衝突を避くる為能う限りの譲歩を為すべき其の意図を伝えなる市長は排日「ボイコット」団体の閉鎖に成功し且支那警察官は一月二十七日より二十八日に亙る夜間に於いて多数の事務所に封印を施したり一月二十八日朝日本海軍
司令官は他の外国指揮官に対し支那側が満足なる回答を与えざりし場合には翌朝行動を開始すべき其の意図を通報せり共同租界工部局は会合し同日午後四時より緊急状態を布告すべきことを決定せり午後四時日本総領事は領事団に対し日本の要求を
総て容るる旨の支那側回答を接受したる旨及び右回答は全然満足なるものにして差当り如何なる行動も執らざるべき旨を通報せり
一方共同租界の防備委員会は緊急状態の為必要と為れる計画を実行し諸外国軍隊に其の防備すべき区域を割当てたり防備委員会の定めたる日本軍の防備区域は租界の一部のみならず之を超えて上海呉淞鉄道を西部境界と為せる凸角部を包含せり
日本海軍の本部は右凸角部の北端に近き所に在り且当時に於いては日本陸戦隊の屯所上海工部局に属する二道路(北西川路及び狄思威路)上に設けられ居りたり午後十一時日本海軍司令官は緊急状態を引用して帝国海軍は多数日本国民の在住する
閘北の情況を憂惧し同方面に派兵することに決定したることを声明し且閘北に駐屯する支那軍が速に鉄道以西に撤退せんことを希望したり
一時間の後日本海軍陸戦隊及び武装せる自衛団は鉄道の方面に向かい進出せり事実最後部隊は租界及び防備区域外に通ずる河南路の門より停車場に到達せんと企てたり右企図は該防備区域警護の任に当たり且防備軍の義務は防御に在りて攻撃に
在らずとの原則に基づく厳重なる命令を受け居りたる上海義勇軍に依り阻止せられたり
防備計画に従いて閘北防備区域に派遣せられたる日本軍は支那軍と接触するに至れるが右支那軍は領事団委員会の第一報告にも記せる通り撤退せんと欲したりとも撤退の遑なかりしなるべし

(チ)上海に於ける敵対行為 理事会の討議 規約第十条の援用 第十五条に於ける総会の第一回討議 上海に於ける敵対行為の終熄
叙上は上海に於ける戦闘の発端にして当時「ジュネーブ」に於いて開会中の理事会及び上海に特殊の利益を有する諸国は数次に亙り之を抑止せんとせり支那は紛争が第十条及び第十五条に依り処理せらるべきことを一月二十九日求めたるが右は
前述の重大なる諸事件の直後なりき
二月十六日支那及び日本を除く外の理事国は日本政府に対して緊急要請を為し規約第十条に付其の注意を喚起せるが右に依りて之を見れば此等理事国は「同条を無視して行われたる連盟国の領土保全の侵害及び其の政治的独立の変革は連盟国に
依り有効且実効的と認められ得ざる」旨の見解を有したるものの如し
二月十九日理事会は支那の請求に基づき紛争を総会に移牒せり総会は三月三日開催すべく招集せられたり
理事会は総会開催に先立ち戦闘停止の為最後の努力を試み現地に於ける停戦協定の成立を条件として円卓会議を上海に於いて開催方二月二十九日提案せり
理事会の提案は実行せざれざりき戦闘が継続せる一方総会は三月三日両当事国代表の言を聴きたる後三月四日次の決議を採択せり

「総会は二月二十九日理事会に依り為されたる提議を想起し且右提議中に予定せられたる他の措置を害することなく
(一)総会が通報を受けたる如く停戦の為双方の軍隊司令官に依り発せられたる命令を有効ならしむるに必要なる措置を直に執らんことを支那及び日本の政府に要求す
(二)上海租界に於いて特殊の利益を有する他の諸国に対し前項所定の要求の実行せられたる方法を総会に通報せんことを請求す
(三)戦闘の停止を決定的ならしめ且日本軍の撤収を規定する協定締結の為前掲諸国の陸海軍官憲及び文官の援助を以て支那及び日本の代表に依り交渉の開始せらるべきことを勧告す総会は前掲諸国に依り右交渉の進行振を常に通報せられんことを
   希望す」

三月五日亜米利加合衆国政府は在上海同国陸軍官憲に対し協力を為すべき訓令を発したる旨通報せり
三月十四日上海に於いては右提案の如き交渉開始せられたり総会の設置せる十九人委員会は困難を緩和する為支那の要求に基づき二回に亙り干渉を為せり五月五日遂に上海に於いて停戦協定署名せられ且六日日本軍の撤収開始せられたり日本より
上海に派遣せられたる諸師団は五月三十一日迄に乗船帰国の途に就き右諸師団の一たる第十四師団は満洲に派遣せられたり七月一日総会は日本海軍陸戦隊の兵数は著しく減少せるが尚五月五日の協定に従い一時租界及び拡張道路に隣接せる
数個の地点に駐屯し居る旨の通報に接せり此等の部隊は其の後撤収せられたり
支那側は上海に於ける日本の干渉の結果約二十四万の軍人及び市民が死傷し又は行方不明と為れりと看做し其の物質的損害を約十五億「メキシコ、ドル」と推算し居れり

(リ)満洲に於ける日本側占領の進展 行政制度改造の進展 満洲国の創立
上海事変が進行しつつありし間に於いて満洲に於いても事態は進展しつつありき
哈爾濱は二月五日日本軍の占領に帰したるが日本軍は其の後数か月間旧支那軍の残軍、「義勇軍」、「匪賊」及びその他の「不正規軍」に対し引続き軍事行動を行い満洲の極めて広汎なる部分に亙り不期戦継続せられたり
行政制度の改造に付ては其の初期に関し既に述ぶる所ありしが右改造も亦進捗せり
一九三二年二月十七日全満洲に対し最高行政委員会設置せられ且二月十八日同委員会は独立宣言を発せり二月十九日日本代表は「ジュネーブ」に於ける理事会の会合に於いて満洲に於いては「独立」は「自治」と同意義の語なる旨及び「日本は
右独立の樹立に対し好意を有する」旨説明せり三月九日諸地方行政機関は「満洲国」なる名称の下に於ける一独立「国家」として合同せられたり「ヘンリー」溥儀氏(前宣統帝)は同国家の執政に就任することを受諾せり
支那政府は曩に一九三一年十一月十七日「前皇帝は同人を皇帝として宣布すべき偽政府を樹立するの目的を以て日本人の為に誘拐せられ天津日本租界より奉天に護送せられたる」旨を陳述せるが「最初より引続き其の後の発展の各段階に於い
満洲に在る日本軍の使嗾及び援助を以て創立且維持せられたる」所謂国家の設立を反覆非議せり

(ヌ)総会の討議 三月十一日の決議 第十五条に基づく報告準備の期限に関する決定
此の間総会は「ジュネーブ」に於いて紛争の審査を続行し来れるが十分なる討議の末三月十一日次の決議を採択せり


一 総会は規約の規定が今次の紛争に全部適用せらるべきものなり殊に次の諸点に関し然るものなることを思い
 (一)条約の厳重なる尊重の原則
 (二)一切の連盟国の領土保全及び現在の政治的独立を尊重し且外部の侵略に対し之を擁護するの連盟国の為したる約定
 (三)連盟国間に発生することあるべき紛争を平和的解決方法に付するの連盟国の義務

  当時の理事会議長「ブリアン」氏が一九三一年二月十日の其の宣言中に表明せる原則を採択し
  十二理事国は一九三二年二月十六日の日本政府に対する其の要請中に再び右諸原則を引用し「規約第十条を無視して行われたる連盟国の領土保全の侵害及び其の政治的独立の変革は連盟国に依り有効且実効的と認めらるることを得ざること」
  を宣言したるの事実を想起し
  連盟国間の国際関係及び紛争の平和的解決を規律する原則にして上に想起せられたるものは世界の平和組織の礎石の一を為し且第二条に於いて「締約国は相互間に起こることあるべき一切の紛争又は紛議は其の性質又は起因の如何を問わず平和的
  手段に依るの外之が処理又は解決を求めざることを約す」る旨規定する「パリ」条約と全然調和するものなることを思い総会に付託せられたる紛争解決の為総会が終局に於いて執るべき措置に至る間
  上記の原則及び規程の強制的性質を宣明し且連盟国は連盟規約及び「パリ」条約に反する手段に依りて獲得せらるることあるべき一切の事態、条約又は協定を認めざるの義務あることを宣言す

二 総会は
  日支紛争の解決が当事国の一方の武力的圧迫の下に求めらるべきことは規約の精神に反することを確認し
  一九三一年九月三十日及び同年十二月十日両当事国の協力を得て理事会に依り採択せられたる決議を想起す
  確定的停戦及び日本軍撤収の目的を以て両当事国の協力を得て採択せられたる一九三二年三月四日の総会自身の決議をも併せて想起し又上海租界に於いて特殊の利益を有する連盟国が右目的の為に凡ゆる助力を致すの用意あることを了承し此等の
  諸国に対し必要の場合に於いて撤兵地域内に於ける秩序維持の為協力せんことを請求す

三 総会は
  本件紛争に対し国際連盟規約第十五条所定の手続きを適用せんとする旨の一月二十九日支那政府の為せる請求に顧み
  規約第十五条第九項に従い本件を総会に付託せんとする旨の二月十二日支那政府の為せる請求及び二月十九日の理事会の決定に顧み
  総会が支那政府の請求の主題たる紛争全般の付託を受けたること竝規約第十五条第三項所定の和協手続き及び必要の場合には同条第四項所定の勧告に関する手続きを適用するの義務あることを思い
  十九名の委員即ち委員長を担当すべき総会議長、紛争当事国を除く他の理事国及び秘密投票に依り選挙せらるべき他の六連盟国より成る一委員会を構成することを決定す
  総会の為に且其の監督の下に職務を行うべき右委員会は次の任務を有すべし
  (一)停戦及び右停戦を確定的たらしむべき且一九三二年三月四日の総会決議に従い日本軍の撤収を規律すべき取極の締結に関し能う限り速に報告すること
  (二)一九三一年九月三十日及び十二月十日理事会に依り採択せられたる決議の実行を注視すること
  (三)規約第十五条第三項に従い両当事国の合意を以て紛争解決準備方に努力し且総会に説明書を提出すること
  (四)必要の場合には総会が常設国際司法裁判所に対し諮問的意見を求むることを提案すること
  (五)必要ある場合には規約第十五条第四項所定の報告書案を準備すること
  (六)必要と認めらるる一切の緊急措置を提案すること
  (七)能う限り速に且遅くも一九三二年五月一日迄に事態に関する第一回報告書を総会に提出すること
  総会は理事会に対し其の有することあるべき意見と共に理事会が総会に移牒することを適当なりと認むる資料を右委員会に通報せんことを請求す
  総会は会期を継続し且其の議長は其の必要と認むる場合直に之を招集することを得」

三月十二日亜米利加合衆国政府は総会の行動は「パリ」条約及び連盟規約の基礎を成す秩序及び正義の諸原則を国際法の辞句に具現することに著しき進歩を為せるものなるべき旨声明せり合衆国政府は
右諸条約の侵犯に依りて達成せる結果の有効性を認めざるの政策に付世界各国民が一致せること及び右は国際法に対する顕著なる貢献にして且平和の為に建設的基礎を提供せるものなることを特に満足
とせり
総会は調査委員会報告書が九月迄に完成せられ得ざる趣の通報を接受せるを以て両当事国の同意を得たる上一九三二年七月一日規約に規定せられたる総会の報告の準備の為の六月の期間を厳に必要なる
程度迄延長することに決定せり
総会議長は規約に規定せられたる期間の延長方を提案せる其の六月二十四日付支那及び日本の代表宛書翰中に於いて左の如く述べたり

「・・・・予は両当事国が理事会に於いて為し且完全に其の実施力を保有せる決議中に理事会に依り九月三十日及び十二月十日採録せられたる事態不拡大の約定は厳重に遵守せらるべきことを確信する
旨付言するの義務を有す予は六ヶ月の期間が延長せらるることあるべき期間内に於いて此等決議が引続き完全に有効なるべきことに付貴代表に於いて同意せらるべきことを信ず予は更に総会が
三月十一日採択し且理事会の右両決議を想起せる決議に付貴代表の注意を喚起し度し」

期間延長の採択後議長は其の書翰中の右の一節に言及し且次の如く付言せり

「前記の事情に顧み総会の只今為したる決定は当事国が調査委員会の事業の又は連盟が紛争解決の目的を以て為すべき努力の成功を危殆ならしむるが如き如何なる行動をも差控うるの要あることを宣明するの権限を余に与うるものなり
予は尚連盟国は連盟規約又は「パリ」条約に反する手段に依りて齎さるることあるべき如何なる事態、条約又は協定をも承認せざるは各連盟国の義務なる旨を三月十一日総会が宣言せることに付諸君の注意を喚起し度し」

(ル)満洲国の組織 日本の満洲国承認
此の間に満洲国政府の組織過程は引き続き進行せり同国政府は中央銀行を創立し塩税(同国政府は塩税を担保とする外債の元利払いの為に必要なる金額の衝平なる分担額を引続き支払うの用意ある旨を声明せり)関税(関税収入を担保とする外債及び賠償金
に関し前記と同様なる声明を為せり)郵務等の管理を開始せり満洲国陸軍は顧問として傭聘せられたる日本将校の援助に依り創設せられたり日本政府は其の一九三二年四月八日付通報中に於いて「日本軍隊は目下新政府の軍隊に対し友好的精神を以て秩序及び
安寧の回復及び維持上其の必要とすべき援助を供与しつつある」旨を述べたり
一九三二年十一月十八日付日本政府の意見書に依れば満洲に日本軍存在するを以て「主要匪賊部隊を二年乃至三年以内に一掃し得べき」趣なり
日本及び新国家間の関係は武藤大将の満洲国首都長春派遣後明確にせられたるが同大将は満洲に於ける領事、関東庁及び前日本軍の統制の為八月八日関東軍司令官兼特派特命全権大使、関東庁長官に任命せられたり新大使は信任状を携帯することなく其の任命は
日本が一方的に為したるものなり
九月十五日武藤大将は満洲国国務総理と共に次の諸規定を記載せる一議定書に署名せり

「日本国は満洲国が其の住民の意思に基づきて自由に成立し独立の一国家を成すに至りたる事実を確認したるに因り
満洲国は中華民国の有する国際約定は満洲国に適用し得べき限り之を尊重すべきことを宣言せるに因り
日本国政府及び満洲国政府は日満両国間の善隣の関係を永遠に鞏固にし互いに其の領土権を尊重し東洋の平和を確保せんが為左の如く協定せり

一 満洲国は将来日満両国間に別段の約定を締結せざる限り満洲国領域内に於いて日本国又は日本国臣民が従来の日支間の条約、協定其の他の取極及び公私の契約に依り有する一切の権利利益を確認尊重すべし
二 日本国及び満洲国は締約国の一方の領土及び治安に対する一切の脅威は同時に締約国の他方の安寧及び存立に対する脅威たるの事実を確認し両国共同して国家の防衛に当たるべきことを約す之が為所要の日本国軍は満洲国内に駐屯するものとす」

斯くて満洲国は日本に依り正式に承認せられたり支那政府は右承認に対し抗議せり同政府は「日本は其の朝鮮に於ける政策の前例を踏襲し併合の第一歩として満洲に対し事実上の保護国を設定せり」と主張せり

(ヲ)理事会に於ける調査委員会報告書の審議
調査委員会報告書は一九三二年九月四日北平に於いて署名せられ且十月一日両政府及び連盟国に通達せられたり日本政府は右報告書に対する其の意見書を理事会に通達するに最短六週間の期間を求め事理会は九月二十四日報告書の審議を遅くとも十一月二十一日
に開始することを決定せり
右に際し理事会議長「「アイルランド」自由国代表「ド、ヴァレラ」氏)は日本が委員会報告書の公表にすら至らざる内に満洲国政府として知られたる政府を承認せるのみならず又同政府との条約締結に依り紛争の処理を阻害するの意図に出でたるものと
看做すの外なき措置を執りたることに付遺憾の意を表せり総会の特別委員会も十月一日の其の公開会合に於いて右遺憾の意を共にせりと「ド、ヴァレラ」氏は「殆ど一年に亙り理事会は其の集団的資格に於いて又理事会を構成する各国政府は各個に於いて
本重大紛争の真相に関し如何なる批判の語をも発することを慎重の態度を以て差控え来れるが其の理由は紛争を其の各般の方面に亙り調査する為委員会構成せられたること及び該委員会が報告書を提出し其の報告書が連盟の機関に依り審議せらるる迄は
問題全体は未決のものと看做ざるべきことに在りたり」と述べたり
理事会は一九三二年十一月二十一日より二十八日に亙り開催せられたる会合に於いて委員会報告書及び当事国の意見書を審議せり「リットン」卿は調査委員会の為議長の質問に答えて委員会は其の報告書に対し何等の追加を為すの意向なき旨を述べたり
右報告書に掲げたる勧告に関し理事会は支那及び日本の代表の諸声明中には理事会に於ける討議に役立ち且理事会をして総会に対し意見又は提議を為すを得しむるが如き当事国間の合致点を何等発見し得ざりしことを認めたり
此等の状況に在りて理事会は総会に対し単に調査委員会の報告書、当事国の意見書及び理事会の議事録を移牒せり

(ワ)総会に於ける調査委員会報告書の討議 解決方法商議の努力
総会は一九三二年十二月六日会合せり一般的討議の後総会は十二月九日次の決議を採択せり

「総会は
一九三一年十二月十日理事会が採択せる決議に依り設置せられたる調査委員会の報告書を当事国の意見書及び一九三二年十一月二十一日より二十八日に亙り開催せられたる理事会会合の議事録と共に接受したるに依り
一九三二年十二月六日より九日に亙る総会の会議に於いて行われたる討議に顧み
一九三二年三月十一日の総会決議に依り任命せられたる特別委員会に対し
(一)調査委員会報告書、当事国の意見書及び如何なる形式に依るを問わず総会に於いて表明せられたる意見及び提議を審査すること
(二)一九三二年二月十九日付理事会決議に依り総会に付託せられたる紛争の解決を目的として提案を起草すること
(三)成るべく速に総会に此等の提案を提出することを請求す」

特別十九人委員会は決議案及び一理由書の形式に依り同委員会が紛争の解決を実現する為努力を継続するの基礎たり得べしと思考せる所を概括的に示せる案文を起草せり
右案文は次の如し

第一決議案
「総会は
一 規約第十五条の規定に依れば其の第一任務は紛争を解決する為努力するに在ること従って目下の処紛争の事実及び之に対する勧告を記載せる報告書を作成するの任務をゆうせまざることを認め
二 一九三二年三月十一日の総会決議に依り紛争解決に関する国際連盟の態度を決定せる諸原則を樹立したることを思い
三 斯くの如き紛争解決に際しては国際連盟規約、「パリ」条約及び九国条約の規定が尊重せらるべきことを確認す
四 紛争を解決する目的を以て調査委員会報告書第九章に掲げられたる諸原則を基礎とし且同報告書第十章に示されたる諸提議を参考として当事国と協力し交渉を為すの任務を有する一委員会を設置することを決定す
五 該委員会を構成する為特別十九人委員会に代表せられたる連盟国を任命す
六 亜米利加合衆国及び「ソビエト」社会主義共和国連邦が右交渉への参加を受諾することの望ましきを想い前記委員会に亜米利加合衆国及び「ソビエト」社会主義共和国連邦の政府を右交渉に参加方招請の任務を委託す
七 該委員会に対し其の使命を達成する為必要と思惟する措置を執るの権能を付与す
八 該委員会に対し一九三三年三月一日迄に其の事業に関し報告せんことを請求す
九 該委員会は両当事国の同意を得一九三二年七月一日の総会決議中に言及せられたる期間を決定するの権能を有すべし両当事国が斯くの如き期間に関し同意し得ざるときは委員会は総会に対し本問題に付其の報告を提出すると同時に提案を為すべし
十 総会は其の会期を継続し且其の議長は必要に応じ成るべく速に之を招集することを得」

第二決議案
「総会は一九三一年十二月十日の理事会決議に依り任命せられたる調査委員会が国際連盟に対し与えたる貴重なる援助を感謝し且其の報告書が誠意あり且公平なる業績の一実例と為るべきことを宣明す」
理由書
「一 総会は其の十二月九日の決議に於いて其の特別委員会に対し
     「一 調査委員会の報告書、当事国の意見書及び如何なる形式を以て為されたるを問わず総会に於いて表示せられたる意見及び提議を研究すること
      二 一九三二年二月十九日付理事会決議に依り総会に付託せられたる紛争を解決せんが為提案を作成すること
      三 能う限り速に此等の提案を総会に提出すること」
   を請求したり
 二 若し委員会にして総会に対し事件の描写及び一般情勢に対する判断を提示することを要するに於いては委員会は右記述に必要なる一切の資料を調査委員会報告書の最初の八章中に見出すことを得べく委員会の意見に依れば右報告書は主要事実に関し
   均衡あり公平にして且完全なる記述なり
 三 然れども右様記述は未だ其の時期に非ず総会は規約第十五条第三項に従い先ず和協手段に依り紛争の解決を達成するに努めざるべからず若し努力成功したるときは総会は其の適当と認むる所に依り事実を記載せる調書を公表すべきなり若し
   総会にして右努力に失敗する場合には同条第四項に依り紛争事実及び之に関する勧告の報告書を作成することは総会の義務なりとす
 四 右第十五条第三項に基づく努力が継続せらるる限り規約中に規定せられたる各種の偶発事故発生の場合に総会の果たすべき責任の観念は総会をして特に消極的態度を執ることを余儀なくせしむ依って特別委員会は本日総会に提出する決議案に於いて 
   和協を目的とする提案を為すに止めたり
 五 特別委員会は三月十一日の総会決議に依り当事国と協力して紛争解決の準備を為すことを命ぜられたり他方当事国の代表との協力に依る努力に亜米利加合衆国及び「ソビエト」社会主義共和国連邦が参加するは望ましきことなるを以て右両国政府の
   交渉参加方招請を提議したり
 六 誤解を避けんが為且非連盟国たる右両国の協力に関し現段階に於いて企図し居る所は偏に和協に依り紛争解決の交渉を為すに在ることを明瞭ならしめんが為特別委員会は同委員会が此の目的の為には交渉を為す責任を有する一新委員会と認められ
   且右資格に於いて亜米利加合衆国及び「ソビエト」社会主義共和国連邦の政府に其の会合に参加せんことを招請するの権能を与えをるべきことを提議す
 七 交渉委員会は其の使命を達成する為必要なる一切の権能を有すべし殊に同委員会は専門家と協議することを得同委員会は其の適当と思惟する場合には一若しくは二以上の小委員会又は一名若しくは二名以上の特に資格を認められたる個人に其の
   権能の一部を委託することを得べきなり
 八 交渉委員会の委員は法律関係の事項に付ては一九三二年三月十一日の総会決議第一部及び第二部に依り又事実関係の事項に付ては調査委員会報告書の最初の八章の叙述に依り指導せらるべし解決方法を考慮するに当たりては委員は調査委員会
   報告書第九章記載の諸原則を基礎とし且右報告書の第十章に於いて為されたる諸提議を参照し之を探求すべきなり
 九 右に関連し十九人委員会は現紛争に特有の特殊なる状況に於いて一九三一年九月前の状態への単なる復帰は永続すべき解決を確保する為十分ならず且満洲に於ける現制度の維持及び承認も亦解決方法と認め得ざるものなりと思考す」
 
   十二月十五日二決議案及び理由書は当事国に提示せられたり支那及び日本の代表部は修正を提案し委員会議長及び事務総長は両国代表部と商議を為すの権能を付与せられたり十二月二十日委員会は右商議を継続し得しむる為遅くとも一九三三年
   一月十六日迄休会することを決定したり

(カ)長城内の山海関に於ける日本軍の行動
一九三三年一月初山海関に於いて重大なる事件発生せり
北平と奉天との中間なる長城の終端に位する本市は常に大なる軍略的重要性を有するものと認められ来れり同市は満洲より現河北省に侵入せんと欲する侵略者の通過せし通路に当れり加之日本が満洲国の一部と認むる熱河省に河北より入るには最容易なる
通路なり日本側の通報に依れば張学良元帥は河北の北部より大部隊を熱河に送り居りし由なる一方支那側の通報に依れば日本軍は熱河に於ける大規模の軍事行動を河北の北部より開始せんと企図せる由なり
一九三二年十二月二十九日の日本側通報は其の前数日間に於いて熱河に向てする支那軍の動員が特に顕著なりし旨を報ぜり更に一九三三年一月四日日本代表部は在北平日本官憲が軍隊の右移動の中止方に付張将軍を説得せんと努力せるも効なかりし旨
竝斯かる「緊張及び不安」の状況に於いて一月一日より二日に亙る夜間山海関に於いて事件発生せる旨を述べたり
日本関東軍の部隊は長城を越え同市を攻撃し一月三日之を占領せり
支那政府は右軍事行動の間に数千の平和的市民が殺戮せられたる旨を主張す一月十一日同政府は一九〇一年議定書署名国に宛て同議定書に依り与えられたる特殊の特権を日本が不法に利用せることに対する抗議を送付せり同政府は右抗議に於いて支那の
防御軍が日本軍の攻撃的行為に対抗する為其の合法なる権利を行使する結果に依りて生ずる事態に付同政府に於いて責任を執ること能わざる旨を宣言せり

(ヨ)解決方法商議手続きの失敗
十九人委員会は一九三三年一月十六日再開せり同委員会作成の決議案及び理由書に関する当事国代表との商議は引続き行われたるも支那及び日本の代表部が十二月に提出せる修正案は別とし同委員会は何等の新提案に接せざりき但し日本代表部は新案提出
に関し其の政府と連絡中にして右案は四十八時間以内に提出せられ得べき旨述べたり
委員会は一月十八日該案を接受せり委員会は該案が同委員会に於いて十二月十五日当事国に通報せるものとは数個の根本的問題に於いて相違し居るを承知せり然れども日本代表部が本国政府の新提案を提出する際同政府は紛争の解決の為任命せらるべき機関
は連盟国のみを包含すべしとの規定を重視する旨特に強調せるを以て十九人委員会は若し之が同委員会の通報せる案文に対する日本の唯一の異議なるに於いては当事国と協議の上問題を解決すること不可能ならざるべしと思惟せり故に同委員会は若し右難点が
解決せらるるに於いては日本は十二月十五日の第一決議案を受諾するの用意ありや否やの点に関し特に補足的通報を得んことを求めたり委員会は支那代表部と商議を続くる以前に先ず此の点に関する日本の回答を待つべきものとせるが支那代表部の案は
両当事国に通報せられたる案文に対し日本案の如く根本的に相違し居らざりき
一月二十一日委員会は日本代表が同委員会議長及び事務総長に対して為したる陳述の内容は非連盟国に対し解決方法商議に参加方を要請すべき旨の規定を第一決議案より除くこととするも日本政府は同案を受諾するの用意なき旨を伝えたるものなることを
承知したり
日本代表部は此等の陳述を為すに当たり同国政府の為新提案を提出せり
委員会は此等の提案(第一附録)を支那代表部の提出せる十二月十日の委員会案文に対する修正(第二附録)と共に審査せるが両当事国の受諾し得べき決議案を作成することの不可能なるを認むるのみなりき支那代表部及び委員会自身に於いて合衆国及び
「ソビエト」社会主義共和国連邦の解決方法商議参加を重要視せる結果若し委員会が同時に第一決議案の他の条項を日本の提案の趣旨に依り修正するを要するものとせば日本のみの要求に依り此等両国の招請に関する条項を削除することは不可能なりき
尚委員会は仮に理由書を委員会の為に議長の為す宣言に変更し当事国に於いて之に対し留保を付すること自由なるべきものと為すことに同意する場合に於いても日本政府は十二月十五日委員会の作成したる案文を受諾せず却て委員会の受諾し得ざるべき
修正を案文に加えんことを同政府の新提案中に於いて求めたることを承知したり
斯かる事態に顧み十九人委員会は其の委嘱せられたる任務に従い当事国の同意を得て紛争解決の準備に努力したる後右趣旨の提案を総会に提出すること不可能なるやに見受けられたることを承知したり
故に委員会は一九三二年三月十一日決議第三部(第五項)に依り同委員会に委嘱せられたる任務を遂行の為規約第十五条第四項の規定する所に依り本報告書案を起草せり
本報告書案の起草の開始を決定するに当たり委員会は総会のみが商議失敗後第十五条第四項の規定を適用する権限あることを指摘する所ありたり故に委員会は当事国が委員会に対し通報せんと欲することあるべき新たなる提議は引続き之を受理することとせり
二月八日日本代表は十二月十五日に作成せられたる案文に対する新たなる修正を委員会に提出せり(第三附録)二月九日委員会は此等修正を考慮したる後之に関し殊に日本政府は支那の主権及び行政的保全と両立する広汎なる自治の満洲に於ける樹立に
関する調査委員会報告書第九章中の第七原則を来たるべき和協の為の基礎の一として受諾するや否やの質問に関し更に説明を求むること望ましと思考せり右質問は同日付書簡を以て日本代表部に交付せられたり(第四附録)日本政府は二月十四日同政府が
「満洲国」の独立の維持及び承認は極東平和の唯一の保障にして且全問題は結局右基礎に於いて日本及び支那間に解決せらるべしと確信する旨を回答せり(第五附録)右通報に対する回答として委員会は甚だ遺憾なるも二月八日提出せられたる日本の
提案は和協の基礎として受諾し得べきものに非ずと思惟するの外なしとせり尚委員会は総会の最終会合の日に至る迄は日本政府が更に為さんと欲することあるべき爾後の如何なる提案をも欣然審査すべきこと勿論なるも現在の事態の悪化は和協を目的とする
新たなる努力を失敗せしめざる迄も之を更に困難ならしむるに相違なきことを日本政府に於いて認知し居るものと委員会に於いて信ずる旨を付言せり(第六附録)
同日委員会は本報告書案を採択せり

第三部 紛争の主たる要因 
右概観に依り理事会又は総会が日支紛争の解決方法を見出さんが為十六月以上に亙り引続き努力し来れることを知り得べし連盟規約の諸条項及び其の他の国際約定を基礎とし多数の決議採択せられたり既述せるが如き事件の史的背景の複雑性、後述するが如く
日本が支那の領土内に於いて広汎なる権利を行使せる満洲の特殊なる法律的地位、最後に満洲の或部分に於ける支那及び日本の官憲間に存する錯雑且機微なる関係は連盟の為せる交渉及び調査の努力が長期に亙りしことを是認するものにして且之を
必要ならしめたり然るに当事国の声明に基づき且其の参加を得て採択したる決議を基礎として理事会及び総会が懐きたる事態の改善に関する希望は裏切られたり反対に事態は不断に悪化の傾向ありたり満洲及び連盟国の領域の他の部分に於いて調査委員会
報告書が「仮装せる戦争」と称したる軍事行動継続せられ来り且現に継続せられつつあり
総会は紛争の主たる要因を考究し特に次の結論に到達すると共に次の事実を認めたり

一 総会が付託を受けたる支那及び日本間の紛争は支那及び諸外国に於いて支那の主権の下に在る支那の完全なる一部なりと常に認め居りたる満洲に於いて発生したるものなり日本政府は調査委員会報告書に対する其の意見書中に於いて「南満洲鉄道附属地
  として知らるる極めて狭隘なる地域に於いて」露西亜に許与せられ次て日本に依り獲得せられたる諸権利は支那の主権と牴觸すとの議論を反駁し「寧ろ反対に此等の権利は支那の主権に由来するものなり」と為せり
  支那より露西亜に次て日本に許与せられたる権利は事実支那の主権に由来するものなり一九〇五年の北京条約に於いて「ポーツマス」条約に依り露西亜が日本に対して為したる「一切の譲渡を清国政府は承認せり」一九一五年日本が満洲に於ける其の
  権利を拡張する為要求を提出したるは支那に対したるものにして且右要求の結果として一九一五年五月二十五日の南満洲及び東部内蒙古に関する条約を締結せるは中華民国政府なりき
  「ワシントン」会議に於いて一九二二年二月二日日本代表部は日本が南満洲及び東部内蒙古に於ける或優先権を抛棄する旨を声明し且「此の決定を為すに当たり日本は常に支那の主権及び機会均等の原則を顧慮し公正且寛容なる精神に依り導かれ来れる
  ものなり」と説明せり「ワシントン」会議に於いて締結せられたる九国条約は支那の総ての他の部分に関すると同様に満洲にも適用あり最後に今次の紛争の初期に於いて日本は満洲が支那の完全なる一部に非ずと主張したることなし
二 過去の経験に依れば満洲の支配者は支那の他の部分少なくとも北支那の事に付大なる勢力を行使し且各種軍略上及び政治上明白に有利なる地位を占む此等の諸省を支那の他の部分より分離することは平和を危殆ならしむるが如き重大なる
  「イリデンティスト」問題を惹起せしむること必然なり
三 総会は此等の事実を記述するに当たり満洲に存在せる自治の伝統を無視せるには非ず右伝統は極端なる場合且支那中央政府の特に弱かりし時代に於いて例えば張作霖元帥の全権委員をして「中華民国東三省自治政府」の名に於いて「ソビエト」
  社会主義共和国連邦と東支鉄道、航行、境界画定等に関する一九二四年九月二十日の協定を締結することを得しめたり然れども同協定の規定に微するに東三省自治政府は同政府自体を以て支那より独立せる一国家の政府と思惟したるものに非ずして
  東三省に於ける支那の利益に影響を及ぼすべき問題に関し中央政府に於いて数月前右連邦と協定を締結したるも此等の問題に付ては同自治政府自ら「ソビエト」社会主義共和国連邦と交渉し得べしと信じたるものなること明らかなり
  右満洲の自治は最初張作霖元帥が民政及び軍政双方の長官たり且自己の軍隊及び自己の官吏を通じて東三省に於いて実効的権力を行使したるの事実に依りても亦之を看取せらる張作霖元帥が数回宣言せる独立は彼又は満洲の人民が支那との分離を希望
  せることを意味せるものに非ず彼の軍隊は支那が恰も外国なるかの如く之を侵略したるに非ずして単に内乱の参加者として侵略したるに過ぎず満洲は一切の戦争及び「独立」の期間を通じ終始支那の完全なる一部たりしなり加之一九二八年以降
  張学良元帥は支那国民政府の権力を承認せり
四 一九三一年九月に至る四半世紀の間に於いて満洲を支那の他の部分に連結せる政治的及び経済的紐帯は益鞏固と為りたるが同時に日本の満洲に於ける利益の発展も止みたるに非ず満州を構成せる「東三省」は中華民国の治下に他の諸省よりの支那人
  の移住の為に広く開放せられ此等の支那人は土地を所有することに依りて満洲をして多くの点に於いて長城以北に於ける支那の単純なる延長たらしめたり約三千萬の住民中支那人又は之に同化せる満洲人は二千八百万なりと見積られ加之張作霖元帥
  及び張学良元帥の治下に於いて支那人住民及び支那の利益は満洲の経済的資源の開発及び組織に関し従前に比し遙かに大なる役を勤めたり
  他方日本は満洲に於いて支那の主権の行使を全く例外的なる様式及び程度に於いて制限するが如き効果ある権利を獲得又は主張せり日本は事実上完全なる主権に該当する権力を行使し以て関東州租借地を統治せり日本は南満洲鉄道会社を介して数個の
  都市竝奉天及び長春の如き人口大なる都市の重要なる部分を含む鉄道附属地の施政に当たれり此等の地域中に於いて日本は警察、徴税、教育及び公共事業を管理したり日本は租借地に関東軍を、鉄道附属地に鉄道守備隊を又各地方に領事館警察を
  配する等満洲の若干部分に武装部隊を存置し来れり斯くの如き事態にして当事国双方に依り自由に希望せられ若しくは受諾せられたるものなりとせば又緊密なる経済的及び政治的協力に付十分諒解の上採られたる政策の表現及び具体化なりとせば
  紛糾及び不断の論争を醸すことなく之を持続し得べきも斯かる条件を缺くに於いては右は相互の誤解及び衝突を惹起するのみなり双方の権利の交錯せること、時としては法律的地位の不明確なること及び日本側の抱懐する満洲に於ける其の
  「特殊地位」の観念と支那の国権回復の要求との間の対立の顕著と為れることは事変及び紛争を頻発せしむる源泉と為れり
五 一九三一年九月十八日前に在りては満洲に於いて両当事国の一方は他方に対し正当なる苦情を有せり即ち日本は論議の余地ある権利を利用し又支那官憲は論議の余地なき権利の行使に対し障礙を設けたり九月十八日事件の直前に於いて正規の
  外交交渉及び平和的手段の方法に依り両当事国間の諸懸案を解決する為各種の努力試みられたるが此等の手段は未だ其の総てを尽くしたるものに非ざりき然るに満洲に於ける支那人及び日本人間の緊張は増大し日本に於ける与論の一動向は必要あらば
  実力に依り一切の懸案を解決すべきことを唱道せり
六 支那は現に過渡的且国家改造の時代に在る為中央政府の努力及び既に達成せられたる相当の進歩にも拘らず過渡期の事態と不可分なる政治的攪乱、社会的混乱及び分裂的傾向を必然的に伴いつつあり
  支那は国際協力政策の採用を必要とす右政策の一方法は国際連盟に於いて支那に対し支那政府が其の国民をして同国家の改造及び安定を成就せしむるる上に於いて必要とすべき諸制度を近代化する為引続き技術上の援助を供与することに在り
  「ワシントン」会議に於いて端を発せる国際協力政策の原則は引続き有効なるも其の十分なる実行は支那に於いて屢実行せられたる激烈なる排外宣伝の為主として遷延せられたり右排外宣伝は経済的「ボイコット」の使用及び学校に於ける排外教育
  の両方面に於いて特に強調せられ遂に現紛争勃発の雰囲気の醸成を助成するに至れり
七 或事件に対する支那人の憤懣を表示し又は或要求を支持する為に一九三一年九月十八日の事件前に支那人が「ボイコット」を行使せしことは既に緊張せる事態を更に悪化せしむるの外なかりき一九三一年九月十八日の事件以後に於ける支那の
  「ボイコット」行使は復仇行為の範囲に入るものなり
八 紛争解決に関する国際連盟規約の諸規定の目的は国家間の緊張が国交断絶を不可避的ならしむるが如きものと為るを阻止することに在り調査委員会は支那及び日本間に存在せる紛議が何れも其れ自体に於いて仲裁裁判に依り解決し得べかりしことを
  発見せり此等の紛議が累積して両国間の緊張を増進したる理由あればこそ損害を蒙れりと自ら思惟せる国家に於いては外交交渉が不当に遷延せられたる際右事態に対し国際連盟の注意を喚起するは正に該国家の義務なりしなり
  規約第十二条は紛争の平和的解決に関する厳格なる義務を包含す
九 総会は一九三一年九月十八日より十九日に亙る夜現場に在りたる日本将校は自衛の為行動しつつありたりと自ら信じたるやも知れずとの可能性を排除せざるも同夜奉天及び其の他の満洲各地に於いて執られたる日本の軍事行動を以て自衛の措置と認むる
  ことを得ず将又紛争の全期間を通じ進展せる日本の軍事的措置も全体としては自衛の措置と認むることを得ず加之自衛の措置の採用は一国をして規約第十二条の規定に従うことを免れしむるものに非ず
十 一九三一年九月十八日以来の日本軍当局の民政上及び軍事上の活動は本質的に政治的考慮に依りしことを示し居れり東三省の漸進的軍事占領は順次満洲に於ける総ての重要都市を支那官憲の手より奪い而して各占領後には常に民政改組せられたり
  日本文官及び武官の一団は九月十八日の事件後に存したるが如き満洲の事態の解決策として満洲独立運動を考案し組織し且遂行し此の目的の下に或支那人の姓名及び行動を利用し支那政権に対し不平を懐く或少数者及び土着の国体を利用したり
  日本参謀本部より迅速に援助及び指導を受けたる右運動は日本軍隊の存在に依りてのみ達成せらるることを得たり右運動は自発的且純真なる独立運動と認めらるることを得ず
  前記に記述せる運動の結果たる「満洲国」の「政府」に於ける主要なる政治的及び行政的権力は現実に行政を指揮し且支配し得る日本人官吏及び顧問の手中に在り既述せる如く満洲住民の大多数を成す支那人は一般に右「政府」を支持せず之を以て
  日本側の手先と認む又調査委員会が其の報告書を完結せし後且理事会及び総会が右報告書を考慮するに先立ち満洲国が日本に依り承認せられたることは注意を要す満洲国は他の如何なる国に依りても未だ承認せられ居らず特に連盟国は斯くの如き
  承認は一九三二年三月十一日の決議の精神と合致せずとの意見を有するを以てなり
  一九三一年九月十八日の事件を誘致せる事態は若干の特異なる性質を有す右は日本の軍事行動の進展、満洲国政府の創建及び日本の同政府の承認に依り引続き拡大せられたり疑もなく今次の事件は一国が国際連盟規約の提供する調停の機会を予め
  利用し尽すことなくして他の一国に宣戦せる事件に非ず又一国の国境が隣接国の軍隊に依り侵略せられたるが如き簡単なる事件にも非ず何となれば満洲に於いては曩に述べたる事情に依り示さるるが如く世界の他の部分に於いて正確なる類例を
  見ざる幾多の特殊事態存するを以てなり然れども支那領土の広大なる部分が宣戦なくして実力を以て奪取せられ且日本軍隊に依り占領せられたること竝右行動の結果として該部分が支那の他の部分より分離せられ且独立を宣言せられたることは
  異論を挟む余地なし理事会は一九三一年九月三十日の決議に於いて日本政府は日本臣民の生命及び財産の安全の有効に確保せらるるに従い既に開始せられたる其の軍隊の鉄道附属地内への撤収を能う限り速に続行すべき旨及び成るべく迅速に右
  の意向を完全に実現せんことを希望する旨の日本代表の声明を了承せり更に理事会は一九三二年十二月十日の決議に於いて九月三十日の決議を確認して両当事国が此の上事態の悪化するを避くるに必要なる一切の処置を執るべく此の上戦闘若しくは
  人命の喪失を惹起することあるべき一切の主動的行為を差控えるべしとの両当事国の約定を了承せり
  此等の事件に関連して規約第十条に依り連盟国は一切の連盟国の領土保全及び現在の政治的独立の尊重を約し居るを指摘することを要す
  最後に規約第十二条に依り連盟国は若し国交断絶に至るの恐れある紛争発生するときは之を仲裁裁判若しくは司法的解決又は理事会の審査に付すべきことを約し居れり
  一九三一年九月十八日前に存在したる緊張状態の発生の際に於いては当事国の双方何れにも若干の責任ありたるが如きも一九三一年九月十八日以降の諸事件の発展に関しては毫も支那側の責任問題は起こり得ざるものなり

第四部 勧告の記述
本部は総会が紛争に付公正且適当と認むる勧告にして規約第十五条第四項に規定せらるるものを記述す

第一節
総会の勧告は本件の極めて特殊なる事情を考慮し且次の原則、条件及び考察を基礎とせり
(甲)紛争の解決には国際連盟規約、「パリ」条約及び「ワシントン」九国条約の規定を遵守すべし
   連盟規約第十条は「連盟国は連盟各国の領土保全及び現在の政治的独立を尊重し且外部の侵略に対し之を擁護することを約す」と規定す
   「パリ」条約第二条に依れば「締約国は相互間に起こることあるべき一切の紛争又は其の性質又は起因の如何を問わず平和的手段に依るの外之が処理又は解決を求めざることを約す」
   「ワシントン」九国条約第一条に依れば
   「支那国以外の締約国は左の通り約定す
   (一)支那の主権、独立竝其の領土的及び行政的保全を尊重すること
   (二)支那が自ら有力且安固なる政府を確立維持する為最完全にして且最障礙なき機会を之に供与すること
   (三)支那の領土を通じて一切の国民の商業及び工業に対する機会均等主義を有効に樹立維持する為各尽力すること
   (四)友好国の臣民又は人民の権利を滅殺すべき特別の権利又は特権を求むる為支那に於ける情勢を利用することを及び右友好国の安寧に害ある行動を是認することを差控えること」
(乙)紛争の解決には一九三二年三月十一日の総会決議第一部及び第二部の規定を遵守すべし
   本報告書に既に引用せる右決議に於いて総会は規約の規定が今次の紛争に全部適用せらるべきものなり殊に次の諸点に関し然るものなりと思考せり
   (一)条約の厳重なる尊重の原則
   (二)一切の連盟国の領土保全及び現在の政治的独立を尊重し且外部の侵略に対し之を擁護するの連盟国の為したる約定
   (三)連盟国間に発生することあるべき紛争を平和的解決方法に付するの連盟国の義務
   総会は当時の理事会議長が其の一九三一年十二月十日の宣言中に於いて定めたる諸原則を採択し又十二理事国が一九三二年二月十六日の日本政府に対する其の要請中に再び右諸原則を援用し第十条を無視して行われたる連盟国の領土保全の侵害
   及び其の政治的独立の変革は連盟国に依り有効且実効的と認めらるることを得ざる旨を宣言したるの事実を想起せり
   総会は連盟国間の国際関係及び紛争の平和的解決を規律する前記諸原則は「パリ」条約と全然調和するものなりとの其の意見を述べたり総会に付託せられたる紛争の解決の為総会が終局に於いて執ることあるべき措置の執らるる迄は総会の
   前記の諸原則及び規定の拘束力あることを宣明し且連盟国は連盟規約又は「パリ」条約に反する手段に依りて齎らさるることあるべき如何なる事態、条約又は協定をも承認せざるは各連盟国の義務なる旨を宣言せり
   最後に総会は日支紛争の解決が当事国の一方の武力的圧迫の下に於いて求められ得べきことは規約の精神に反することを声明し且一九三一年九月三十日及び同年十二月十日当事国の同意を得て理事会に依り採択せられたる決議を想起せり
(丙)支那及び日本間に前記諸国際協定の尊重を基礎とする永続的諒解が確立せらるる為には紛争の解決は調査委員会が定めたる次の諸原則及び諸条件に適合することを要す

   一 支那及び日本双方の利益と両立すること
     両国は連盟国なり各自は連盟より同一の考慮を払わるることを要求するの権利を有す両国が利益を獲得せざる解決は平和の為に稗益する所なかるべし
   二 「ソビエト」連邦の利益に対する考慮
     隣接国中の二国間に於いて第三国の利益を尊重することなくして平和を講ずることは公正若しくは賢明ならざるべく将又平和に資する所以にも非ざるべし
   三 現存多辺的条約との合致
     如何なる解決と雖国際連盟規約、「パリ」条約及び「ワシントン」九国条約の規定に合致することを要す
   四 満洲に於ける日本の利益の承認
     満洲に於ける日本の権利及び利益は無視することを得ざる事実なり之を承認せず且満洲との日本の史的関連をも考慮に入れざる如何なる解決も満足なるものに非ざるべし
   五 支那及び日本間に於ける新条約関係の設定  
     満洲に於ける両国各自の権利、利益及び責任を新条約中に再び声明することは合意に依る解決の一部たるべきものにして将来の軋轢を避け相互の信頼及び協力を回復する為に望ましきことなり
   六 将来に於ける紛争の解決に対する有効なる措置
     敍上より来る当然の帰結として将来発生することあるべき比較的重要ならざる紛争の迅速なる解決を容易ならしむる為措置を為すの要あり
   七 満洲の自治
     満洲に於ける政府は支那の主権及び行政的保全との一致の下に東三省の地方的状況及び特質に応ずる様工夫せられたる広汎なる範囲の自治を確保するが如き方法に依りて改めらるることを要す
     新文治制度は善良なる政治の本質的要求を満足する様構成せられ且運用せられざるべからず
   八 内部的秩序及び外部的侵略に対する安全保障
     満洲の内部的秩序は有効なる地方的憲兵隊に依り確保せらるることを要し外部的侵略に対する安全保障は憲兵隊以外の一切の武装隊の撤退と利害関係国間に於ける不侵略条約の締結とに依り
     与えらるることを要す
   九 支那及び日本間に於ける経済的接近の促進
     本目的の為両国間の新通商条約望まし斯かる条約は両国間の通商関係を衡平なる基礎の上に置き且之を両国間の改善せられたる政治関係と合致せしむることを目的と為すことを要す
   十 支那の改造に関する国際協力
     支那に於ける現時の政治的不安定は日本との友好関係に対する障礙にして且(極東に於ける平和の維持は国際的関心事項たるを以て)世界の他の部分の優惧なると共に右に列挙したる条件は
     支那に於いて鞏固なる一中央政府なくしては実行すること能わざる所なるを以て満足なる解決に対する窮極の要件は故孫逸仙博士が提議せる如く支那の内部的改造に対する一時的の国際協力なりとす

第二節
本節の諸規定は規約第十五条第四項に依る総会の勧告を成すものなり
既に紛争の解決に適用せらるべき原則、条件及び考察を定めたるを以て総会は次の如く勧告す

(一)満洲に対する主権は支那に属することを思い
   (甲)南満洲鉄道附属地外に於ける日本軍隊の駐屯及び同附属地外に於ける右軍隊の行動は紛争の解決を規律すべき法的諸原則と両立せざること竝右諸原則と両立する事態を能う限り速に確立するの要あることを思い総会は右軍隊の撤収を
      勧告す事件の特殊なる事情に顧み以下に勧告せらるる交渉の第一の目的は右撤収の為に準備し且其の方法、段階及び期限を決定することに在るべし
   (乙)満洲に特有の地方的状況、同地に於いて日本の有する特殊の権利及び利益竝第三国の権利及び利益を考慮し総会は支那の主権の下に置かれ且支那の行政的保全と両立する一つの機関を相当の期間内に満洲に於いて設立せんことを勧告す
      右機関は広汎なる範囲の自治を有すべく地方的状況に調和すべく且現存の多辺的条約、日本の特殊なる権利及び利益、第三国の権利及び利益竝一般的に第一節(丙)に採録せられたる諸原則及び条件を考慮するものなることを要す
      支那中央政府及び其の地方官憲の各自の権能竝両者間の関係の決定は国際約定の効力を有する支那政府の宣言書に依り之を為すべし
(二)(一)(甲)及び(一)(乙)の勧告に於いて取扱われたる問題以外に調査委員会報告書が極東の平和の依存する支那及び日本間の良好なる諒解に影響を及ぼす或他の問題を前記第一節(丙)に記述せる紛争の解決に関する諸原則及び条件中に
   掲げ居ることを思い総会は当事国に対し右諸原則及び条件を基礎として此等の問題を解決せんことを勧告す
(三)前記の勧告を実施するに必要なる交渉が適当なる機関に依り行わるるを要することを思い総会は次に明記せらるる方式に従い両当事国間に交渉を開始せんことを勧告す
   各当事国は当事国の他の一方も亦総会の勧告を受諾することの唯一の条件の留保の下に自国の関する限り右勧告を受諾するや否やを事務総長に通報することを求めらる
   当事国間の交渉は総会が設置する一委員会の援助を得て次の如く行わるべし
   総会は獨逸、白耳義、英帝国、「カナダ」、西班牙、佛蘭西、「アイルランド」自由国、伊太利、和蘭、「ポルトガル」、「チェコスロバキア」及び「トルコ」の政府に対し事務総長より両当事国が総会の勧告を受諾する旨の通報に接したるとき
   直に各一名の委員を任命せんことを茲に請求す
   事務総長は又亜米利加合衆国及び「ソビエト」社会主義共和国連邦の政府に対し右受諾を通報し右各政府が欲するに於いては各一名の委員を任命せんことを之に請求すべし事務総長は両当事国の受諾の通報の接受後一月以内に交渉の開始に適当
   なる一切の措置を執るべし
   連盟国をして各当事国が総会の勧告に従いて行動し居るや否やを交渉の開始後に於いて判定することを得しめんが為
   (イ)委員会は其の必要と認めたる都度交渉の状況及び殊に前記勧告(一)の(甲)及び(乙)の実行に関する交渉に付報告すべく(一)(甲)に関しては委員会は如何なる場合に於いても交渉の開始後三月以内に報告すべし此等の報告は
      事務総長に依り連盟国及び委員会に代表を出せる非連盟国に通報せらるべし
   (ロ)委員会は本報告書第四部第二節の解釈に関する一切の問題を総会に付託することを得べし総会は規約第十五条第十項に従い本報告書の採択せられたると同一の条件に於いて右解釈を与うべし

第三節
事件の特殊なる事情に顧み敍上の勧告は一九三一年九月前の原状への単なる回復を定むるものに非ず右勧告は又満洲に於ける現制度の維持及び承認は現存国際義務の根本原則と及び極東に於ける平和の依存する両国間の良好なる諒解と両立せざるものなるを
以て之を排除するものなり連盟国は本報告書を採択することに依り特に満洲に於ける現制度に関しては本報告書中の勧告の実行を阻害し又は遅滞せしむることあるべき如何なる行為をも差控えるの意思を有するものなり連盟国は法律上に於いても
又事実上に於いても引続き右制度を承認せざるべし
連盟国は満洲に於ける事変に関し何等の単独行動をも差控え且其の行動に付連盟国相互間に於いて非連盟国たる利害関係国と協調を継続する意思を有す連盟国にして九国条約の署名国たるものに関しては同条約の規定に従い「其の何れかの一国が本条約の
規定の適用問題を包含し且右適用問題の討議を為すを望ましと認むる事態発生したるときは何時にても関係締約国間に十分にして且隔意なき交渉を為すべきこと」を想起し得べし
本報告書の勧告に適合する事態を極東に於いて確立することを能う限り容易ならしむる為事務総長は本報告書の謄本を「パリ」条約又は九国条約の署名国たる非連盟国に送付し此等の諸国が右報告書に表明せられたる見解に同意し且必要の場合には
其の行動及び態度を連盟国と一致せしめんことの総会の希望を之に通報することを命ぜらる


参考文献


  
  

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