日本の歴史年表

一九三六年八月十一日

一、
北支処理の主眼は北支民衆を主眼とする分治政治の完成を援助し該地域に確固たる防共親日満の地帯を建設せしめ併せて国防資源の獲得竝に交通施設の拡充に資し以て一は蘇国の侵寇に備え一は日満支三国提携共助実現の基礎たらしむるに在り
二、
右目的達成の為には該地政権に対する内面指導に依ると共に之と併行し南京政権をして北支の特殊性を確認し北支の分治を牽制するが如き施措をなさず進んで北支政権に対し特殊且包括的なる自治の権限を賦与せしむる様施策するものとす

要綱
一、自治政府の内容
分治の内容は前記方針に基づき北支政権をして財政産業交通等諸般の事項に付事実上の権限を行使せしめ北支民衆の安居楽業竝に日満支三国の提携共助を目的とする政治上及び経済上各般の施措に関し南京政権其の他の排日的工作により影響を受けざるが如き状態に在らしむるを以て目途とす。特に該地域に於ける支那領土権を否認し又は南京政権より離脱せる独立国家を育成し或は満洲国の延長を具現するを以て帝国の目的たるが如く解せらるる行動は厳に之を避くるを要す

二、自治政府の範囲
分治の地域は窮極に於いて北支五省を目途とす。徒に地域の拡大に焦慮するは却って我方所期の目的を達する所以に非ざるを以て先ず冀察二省の明朗化（経済の開発及び民心の安定）と分治の完成とに主力を傾倒す。尚爾他三省に対しては第五項に基づき施策するものとす。

三、冀察政権の指導
冀察政権の指導に当たりては最も公明なる態度を以て臨み該政権の機構を改善し其の人的浄化刷新を計ると共に特に財政経済軍事等百般の事総て軍閥的秕政を清算して明朗なる地域を構成し民心の把握に努めしむるを要す。
右内面指導と共に南京政権に対する工作に依り同政権をして帝国の対北支政策に協力せしむる如く施策する等南京政権利用策をも併用し両々相俟って成果の向上に努むるを要す

四、冀東自治政府の指導
冀東自治政府の指導に当たりては特に其の内政の向上に努めしめ同政権をして冀察政権に対する範たらしむるに着意するを要す同時に冀東自治政府は結局単独に存立し得ざるものなる点をも考慮に容れ北支五省分治結成の障害となるが如き施策は之をなさざるを要す
冀察政権の分治機能信頼するに足るに至らば冀東地域は之を冀察政権下の特別区として同政権に合流せしむるものとす

五、山東、山西及び綏遠諸自治政権の指導
山東に対し強いて之を冀察側に合流せしむるが如き工作を行うは却って其の対日依存を困難ならしめ延て其の存在をも危うくするの惧れ多きを以て之を慎み防共親日及び日満支経済提携を主眼とする諸般の工作に依り帝国との連帯関係を一層密接ならしむ
山西及び綏遠に関しては右に準ず。而して此れ等両政権に対する指導は内蒙工作との調和を必要とすること勿論なるも同時に対支政策の円満なる遂行に留意し該省政権を駆逐し又之を内蒙政権に隷属せしむるが如き施策は之を行わざるものとす

六、
北支経済開発は民間資本の自由進出を本旨とする我方権益の伸暢に依り日支人の一致せる経済的利益を基礎とする日支不可分の事態を構成し、平戰両時に於ける北支の親日態度保持に資せしむるを以て目的とす特に国防上必要なる軍需資源（鉄、石炭、塩等）の開発竝に之に関連する交通電力等の施設は要すれば我方資本に依り速やかに之が実現を図るものとす
尚経済開発に当たりては第三国をして我特殊地位竝に権益を尊重せしむると共に第三国の既得権益は之を尊重し要すれば此れ等諸国の施設と合同経営し又は資本材料等をも利用する等特に英米との提携共助に留意するものとす。