日本の歴史年表

八月二十六日豊田大臣発野村大使宛

貴大統領と本大臣との会見に関する当方提案に対し八月十七日野村大使に手交せられたる文書に依り貴大統領が右著想に同感の意を表せられたるは本大臣の深く多とする所なり
現下世界動乱に当たり国際平和の鍵を握る最後の二国即ち日米両国が此の儘最悪の関係に進むことは夫れ自体極めて不幸なることたるのみならず世界文明の没落を意味するもの也我方が太平洋の平和維持を顧念するは単に日米国交改善の為のみならず之を契機として世界平和の招来に資せんとするに外ならず
惟うに日米両国間の関係が今日の如く悪化したる原因は主として両国政府間に意思の疎通を欠き相互に疑惑誤解を重ねたると第三国の謀略策動に由るものと考えらる先ず斯かる原因を除去するに非ざれば両国国交の調整は到底期し難し是れ本大臣が直接貴大統領と会見して率直に双方の見解を披瀝せんとする所以なり
而して七月中断したる予備的非公式商議は其の精神及び内容概ね妥当なるも今後引続き商議を進め然る後両首脳者間に於いて之を確認せんとする従来考えられたるが如き遣り口は急激なる進展をなしつつあり或は不測の事態を惹起するの虞なしとせざる現在の時局に適合せず先ず両首脳者直接会見して必ずしも従来の事務的商議に拘泥することなく大所高所より日米両国間に存在する太平洋全般に亙る重要問題を討議し時局救済の可能性ありや否やを検討することが喫緊の必要事にして細目の如きは首脳者会談後必要に応じ事務当局に交渉せしめて可なり
本大臣が今次提議をなせる趣旨爰に存す貴大統領に於いても充分此の点を諒解せられレシプロゲートせられんことを切望す
敍上の次第なるを以て当方は会見の期一日も速やかなることを希望し会見の場所としては諸般の考慮上布哇付近を適当と思考する次第なり


近衛総理メッセージに対するルーズベルト大統領メッセージ（訳文）
九月三日在米大使に手交

余は野村提督に依り余に伝達せられたる八月二十七日付閣下のメッセージを有難く閲読せり
余は太平洋の平和維持に関する日本の熱意及び日本の日米関係改善方に関する希望に付閣下の表明せられたる所思を欣然了承せり
余は右諸点に付閣下の表明せられたる希望に全く同感にして合衆国政府として国際事態推移の急速なるを認むるものなるを以て出来得る限り速やかに閣下と余との会合方を取計い以て意見の交換を行い貴我両国間の関係調整に努力する用意ある旨を閣下に確言す
余宛閣下書簡に添付せられたるステートメント中合衆国政府が従来長きに亙り遵奉し来れる諸原則に言及し日本国政府は「右諸原則及び出来得る限り友好的なる方法による之等諸原則の適用は真の平和の主要条件にして単に太平洋に於いてのみならず全世界を通じて適用せらるべきものと思考す」る旨及び「右の如きプログラムは久しきに亙り日本国自身が希求せしものなる」旨を闡明せられたり
余は之等諸原則を実際上効果的ならしめむとすることに閣下と協力せむことを切望す
本問題に関し余は深き関心を有するものなるが故に余は両国間の関係の諸問題に関連ある合衆国内及び日本国内に於ける事態の推移を絶えず観察し且之を看過せざること必要なりと認むるものなり是れ此の秋に当たり余は若し広きに亙り抱懐せらるるに至らば閣下と余が均しく誠心誠意従わむとするものなるを確信するラインに依る我等両人の協力の成功を阻害するに足ると認めらるる観念が日本の或る方面に存在することの表示を認めざるを得ず斯かる事態の下にあるが故に（余は閣下が余と見解を共にせらるべきを信じ）我等の企図する会合の成功保障の為我々の合意の目的たる基本的且枢要なる諸問題に付速やかなる予備的討議の開始に努め以て慎重を期すること緊要なるを示唆するは蓋し已むを得ずと感ずる次第なり
右の如き予備的討議に付余の想起し居る諸問題は閣下の書簡に添付せられたるステートメント中に一層詳細に述べられ居る所の平和の達成及び維持に根本的なる諸原則の実際的適用を包含す余は閣下が右示唆に対し好意的考慮を加えられんことを希望す