学校では教わることのない日本の自虐史観を省いた歴史を年表にまとめたもの。

(第一回)

来朝中の広東政府外交部長陳友仁氏の求めに依り昭和六年七月二十八日幣原外務大臣之と会見したるが其の際先ず陳氏より
従来日支両国は「セミ、ホスティリティ」とも言うべき状態に在りたる次第なるが両国は速に右の如き状態を脱して真の友人となることに努力せざるべからずと
思考す今回の「ボイコット」の如きは両国の孰れにも害ありて何等益無し自分としては今少しく合理的に且つ事実に即して両国関係を律する方法を考究し度所存にて
例えば満洲問題の如きに付ても日本の同地方併合と言うが如きは承認し得ざること勿論なるも併合に至らざる範囲にて日本が同地方に存在することは現実の問題として
認めざるべからざるべく今日之が善悪乃至適法不適法を論ずる如きはその時期に非ずと存す又自分は朝鮮事件、万宝山事件の如き何等重きを置きおらず治外法権問題も
毫も解決を急ぐ必要なしと思考しおれり総じて今少しく事実に直面して両国の関係を律せんと欲す実は広東政府に於いては来る十月十日国民会議開催のはずなる処
其の際対日政策の根本方針を決定し置き現存する各種の具体的問題は追って右根本方針に照らし解決方法を講ずる為両国の共同委員会と言うが如きものを開き度意向
にて委員会開催の際個々の問題に付一々国民会議乃至国民党の干渉を受くるに於いては到底円満なる解決を期し難きに付右の通り予め国民会議に於いて根本方針を
明定せしめ全権委任を取付け置かんとするものなり今日自分は貴大臣と何等交渉又は討議を為す意なく専ら右国民会議に於ける根本方針決定の参考に資するための
情報を得んことを希望する次第なり
と述べたるを以て幣原大臣は別紙英文の趣旨を説示したるに陳氏は右は至極御尤もなるが孰れにするも自分は今日本問題に付何等閣下と論議するの意思なく只
蒋介石の運命は最早旦夕に迫り吾人同志が政局の責任を負担するの日も遠からざるべきを以て其の際拠るべき政策を予め攻究し置かんがため必要の情報を得べく
渡日せる次第なり
との趣旨を再応述べる所あり幣原大臣は転じて共産党に対する所見を訊したるに陳氏は
共産党の内部は現在二派に分かれ一つは第三「インターナショナル」即ち露国よりの指導を仰ぎおり他は国内的党派として国内に指導者を求めおれるが未だ
これを得ず李立三の如きはこれが首領を夢みおれるが如し江西省辺の共産軍にも右二派あるが更に第三の分子として純然たる土匪あり江西の共産軍は昨年頃までは
銃器1万5千挺を有するに過ぎざりしが蒋介石の討伐開始以来却て8万乃至10万挺に増加せり是れ蒋が術策を弄し雑色軍を討伐に向け一石二鳥を図りし処雑色軍は
共匪と合体しその勢力を膨大せしめたる次第なり
と述べ幣原大臣より然らば共産軍は貴方に於いてもこれを抑圧の方針を取らんとするものなりやと訊したるに陳氏は
固より然り且之に成功の自信ありなおこの関係にて一言し度は吾人が蒋介石に反対するは蒋は一人専制にて全支を支配し得と考えおるも一人専制には長短所ありて
今日善政を為すも明日悪政なきを保し難く継続性なし吾人は平凡ならんも専制を排し団結の力によらんとしこの点蒋と相容れざるなり
と述べ次いて漢口時代における自己の行動の辨解に及び
当時の状勢は一度は共産党と連合すること賢明にして又急激にこれと分離すること好ましからざりし事情ありたり然し乍らその後莫斯科に赴き見たる結果、共産党との
一致困難なるを発見し今日にては共産党乃至露国と何等関係なく支那をこの危険より救わざるべからざるものと思考しつつあり
と述べ更に今一回大臣と会見しその際満洲における日本の権益に関する大臣の定義を聞かんことを希望する旨述べたるをもって大臣は定義は下し難きも個々の
問題に付質問あらばお答えすべし要するに日本としては満洲に対し支那領土権を認めると共に同地方において日本の事業が安全に行われ日本人が平和に居住し得ること
に重きを置く次第なりと答え置きたり最後に陳氏は日本に二重外交なるものありやと尋ねたるをもって大臣より日本の外交政策は唯一にして夫れは政府の決定する
所なり他に陸軍とか各方面に個人の考えは存せじも是等は何等政府の政策と称し得べきものにあらずなお右様事態は他の文明国にても見受くる所にして
日本に特殊のことに非ずと答え置きたり
(昭和六年七月二十九日 谷亜細亜局長口述筆記)

(第二回)
昭和六年七月三十一日広東政府外交部長陳友仁氏は再度幣原大臣と会見したるが
先ず陳氏は今日は少しく具体的に大臣の御意見を承りたしと前提したる上唐突に
日支両国の前途を慮るにこの際両国の間に防守同盟を結ぶ如きことは如何のものにや固よりこれも自分等が政局の責任の衝に当たるものと仮定してのことなり
と述べたるをもって大臣は
防守同盟が軍事同盟の意味ならば自分はこれを考慮したることもなく又考慮する用意もなしその世界与論に及ぼす反響を顧慮するをもってなり、しかしながら
右が「アンタント、アミカル」又は「アンタント、コルディアル」の意味ならば考慮の余地なきに非ざるべし
と述べたるに陳氏は
固より後者の意味なり私見にては本同盟の対象の一として共産党問題を考慮し得るものと存すけたし支那共産運動がもし莫斯科より財政的援助を受け又指導
せられ居るものとせば支那に及ぼす影響は極めて重大なり、されど単純に支那国内に指導を得居るものとせば是れ経済的不満の原因にて動けるものと見るべく
吾人はこの不満の状態に対応する相当の方法を講ずれば足りさして憂慮の要なし反之第一の場合においては同運動は日本に取りても脅威となるべきをもって
両国協力して自衛の方法を講ずることを考え得らるべし勿論この場合協力の「フォーミュラ」の発見には相当困難あるべく如何に抽象的の言葉を用うるも
莫斯科を目標とすることとなり同地において面白からざる反響を生ずる慮れあるが右「フォーミュラ」決定の困難は別とし趣旨は考慮し得ざるべきや。
と述べたるをもって大臣は
この点は全く新しき問題なり但し自分は露国の運動を左程恐れ居らず支那人と雖も露国なる外部の「インフルエンス」により容易に支配さるるものと思考せず
現に先年「ボロジン」が漢口に来り自ら街頭に立ちて民衆を指導し始めんとせる際民衆は彼は果たして何人なりやと極めて意外の感をもってこれを目せる由を
聞知したるが自分は「ボロジン」が表面に現れたるときが彼の「ビギニング、オブ、ザ、エンド」と考えこの趣旨を議会に述べたることもあり或は自分は
支那人を信頼し過ぎ居るやも知らざるも如上理由にて貴説第一の場合も左程憂慮し居らざる次第なり
と述べたるに陳氏は
面白き説なり自分が莫斯科に赴きたる際相当地位の露人より同様の説を聞きたるが不思議なる一致と謂うべし尤も自分の観察せる所にては現在の露国は
自ら意識すると否とに拘らず事実においてその対外行動の帝国主義的なること帝政時代と何等異なる所なく見受けられたり
と述べたるをもって大臣は
自分の平常不可解とするは支那が満洲については日本の侵略云々を誇大に宣伝するに拘らず外蒙古においてはこれを露国の勢力に委せるまま何等声を
揚げ居らざること是にて先年自分が庫倫に日本領事を出張せしめんとせる際支那には異議なかりしも露国が拒みたるため実行に至らざりしことあり
不思議なる事態と謂うべし
と述べたるに陳氏は
支那の組織さえ完全となれば蒙古人を教化して露国の勢力を駆逐すること難からざるべし
との意味を述べる所ありたるが更に大臣が
自分の在野時代支那の一要人来訪して日支関係は速かに今日の如き確執状態を脱すること急務なるが一般支那人は日本が何等か侵略の意図ある如く誤解し
居る旨を述べたるをもって自分は両国間に不侵略協定を結びては如何と謂えることあり
と述べ更に右様方法にて果して支那人の誤解を一掃し得べきやと半ば独り語の如く謂いたるに陳氏は逸早く夫れは例えば露国と土耳古其の他辺彊諸国との
間の協定の如きものなるべしと言を挟み相当注意を払えるものの如くなりしが更に進んで
次に満洲における日本の権益に付具体的に承り得ずや
と述べたるをもって大臣は別紙英文の趣旨を説示したるに陳氏は
善く諒解せり日本政府の意向も判明し愉快に堪えずこれにて広東にも報告し得る次第なり
と述べたるをもって大臣は
上述せる所は自分の考えにて同僚と協議せる結果に非ざるをもって日本政府の意向と謂う次第に非ず目下は同僚と協議するに適当の時機とも思考せず
と述べたるに陳氏は大臣が辞任せらるれば如何になる次第なりやと反問し大臣が自分が辞任するも変更なき如き種類の言明をなすことは困難なりと
答えたるに陳氏は孰れにするも誤解を避くるため自分の了解せる所を書面に認め八月三日(月曜日)閲覧を顧度しと述べたるをもって大臣はこれを
承諾し置きたり
(昭和六年七月三十一日 谷亜細亜局長口述筆記)

(第三回)
昭和六年八月三日幣原大臣は広東政府外交部長陳友仁の第三回来訪を受けたるが其の際先ず陳氏は是迄の自分と大臣との会談を取り纏め見たりとて
草稿を読み上げたるに要旨左の如し
第一、日支両国は不愉快なる「セミ・ホスティリティ」の状態を一掃する必要あり
第二、日支両国は親善の原則に依り進まざるべからず
第三、広東政府が列国の承認を得るに至らば如上の目的の為両国間に協定を造ることとし其の形式は同盟にても「アンタント・コーディアル」にても可なるが
右協定には(イ)不侵略主義及び(ロ)日本の対支殊に対満政策を明定すべく右対満政策は何等侵略的のものに非ざると同時に日本の「モラル・クレイム」
を含む又日本の権益は大部分条約に根拠を有し且全部が歴史的背景に依り支持せられ居り右歴史的背景としては第一、露支同盟密約第二、露国の侵略の歴史
第三、露国が小村候の満洲は日本の勢力範囲外なりとの言明に満足せずしてこれを積極的に露国の勢力範囲内なりと主張せる経緯等を挙げ得べし
尚右協定成立の上は国民党これを批准することとす。
次いて陳氏は本草稿は更に大臣の「オブザベーション」を求むる為め書き改め送付すべき旨付言せる上
之にて自分の使命は終了せし次第なれば茲に一応今回渡日に至れる内情を開陳せんに実は自分等は支那は之を現状の儘放置し置かんが文明国の列に伍するまでに
恐らく数十年を要すべく早きに臨んで対日関係を調整し日本の友好的援助を得て国情の改善を図ること肝要にして之が為には従来の対日政策を根本的に改め
両国間の「ピン・プリッキング・ポリシイ」を廃し真の協力を図るの必要あることに気づきたる次第なるが尤も日本側に於いて田中大将の如き人物が局に
当たり居る際ならば右様政策転換の気も起らざる譯なるも貴大臣の御方針は汪精衛も自分も尤も充分之を研究したる結果閣下が局に当らるる限り協調の
基礎を得らるべきことを確信するに至り今回の自分の渡日となりしなり
と述べたる上話頭を泰平組合の対広東政府武器供給契約問題に転換し
本件に付ては最近行違いを生じ広東の一部にては「イリテイト」し居るものの如く自分は本問題論議の意図なきも一応経緯を承知し度始め陸軍は輸出を許可せるに
拘らず外務省は之を取消せりとのことなるが之は広東側の友好的態度を裏切るものと謂うの外なし
と述べたるを以て大臣は
淡泊に申さんに第一事実問題として本件は関係日本商人に於いて貴方との契約以前何等自分等に協議せることなく僅かに輸出間際に至り国民政府に供給するものとして
外務省に持出されたり然るに外務省にては久しく南京政府より武器の注文なかりし際とて奇異の感を抱き為念南京に問合せたるに注文の事実なしとのことにて
即ち商人は外務省を欺きたる譯なるが陸軍が許可せりと謂うも事実に非ず要するに充分に打合なかりし為行違いが発生せる次第なり第二に法律問題として先年公使団の
禁輸協定廃止後国民政府は法律を発布して武器輸入には同政府の許可を要件とし居る処日本の立場は其の承認せる政府の法律は条約に違反せざる限り之を認めざるべからずと
云うに在り自国民が南京政府の法律を無視する行為を「アプルーブ」し得ず事実上は広東にも政府存在し居るも南京政府に対する承認が取消され居らざる以上右は
止むを得ざる所なり第三に政治問題として日本は支那の内乱を助長する如き行動を為し得ざる処前述の如く南京よりは注文なきに拘らず此の際広東に供給することは
内乱助長となり如何にするも従来声明しある政策に背反する結果となる次第なり叙上の日本側の困難は諒知ありたし
と述べたるに陳氏は
南京政府の法律と謂れたるも斯るものは存在せず一方広東政府は既に組織ある形体を成し事実上の政府の資格を有し居るに付此の点を認められ度元来武器は欧州よりも供給を
仰ぎ居るも緊急の場合には日本に依頼するの外なく日本政府としても大目に見らるることを予期し居たる次第なり
と謂えるを以て大臣は是以上本問題に深入りするを避け英国の如きは如何にし居るやを尋ねたるに陳氏は
香港には広東政府の「エージェント」としてCohenなる加奈陀籍猶太人ありて同政府の為通関の便宜を図り居れるが英国は「バルセロナ」条約に依り武器の香港渡しは差支えなしとの
見解を採り居れり
と述べたり
(昭和六年八月四日 谷亜細亜局長口述筆記)
付言 八月五日陳友仁氏暇乞いの為幣原大臣を来訪の際本会談録冒頭言及の要録として別紙甲号を提示したるに対し大臣は一二微細の修正を施し返付せられたるが別紙乙号是なり

昭和六年七月二十八日幣原外務大臣の陳友仁氏に説示せる要領(訳文)
吾人は総て我が対支関係は「共存共栄」の主義に則らんとするものなることを各種の機会に反復言明したり両国は互いに好むと好まざるとに拘らず永久に隣邦たるの関係を
免るる能わず孰れの一方も他方を併呑するを得ざるものにして若し両国にして相侵すが如きことあらんが結局共倒れとなり徒らに無情なる傍観者を利するに終わるべし
両国はその地理的隣邦たる関係が絶対に変更し得ざるものとせば更に一歩を進め友好互助の隣邦として提携し平和と協調との裡に「共に存し共に栄ゆる」の方法を発見するを
得策とせざるが我が対外方針の形成に付多少とも責任を有する者にして中国領土の何れかの部分に対し何等侵略的計画を夢想するが如きものなきは余の絶対に確信する所なり
蓋し斯くの如き計画にして万一実現可許なりとするも其の我国自身の将来に及ぼす害悪は之が利益よりも遙かに大なるものあるべし中国政界指導者中往々にして吾人が
侵略主義或は帝国主義を奉ずるものなるかの如き非難を為すものあるも苟も吾人の行動を精細に研究し且つ充分に了解するに於いては必ずや是等非難の荒唐無稽なるを明瞭に
看取するならん他面国家の生存権は中国が之を有すると同様日本亦之を有す而して現に吾人が満洲地方に於いて享有する権益の或るものは我が国民的生活と緊密不可離の関係に
在り日本の政府として如何に中国に対し寛大なる態度を執るとも是等権益は到底抛棄し得らるべきものに非ず将又吾人が是等権益を継続享有することは毫も中国存立又は
繁栄に危険を及ぼさざるのみならず中国の秩序ある発達及び物質的福祉に対し現実に貢献し来れり
最近二十年間に於いて満洲は各般の建設事業共に急速の進歩を示し全中国中最も繁栄せる土地たるに至れり今や中国労働者は内乱の巷を逃れ生活の資を求むる為山東其の他より
同地方に移住するもの連年数十万を以て算す斯くの如き顕著なる発達が在満日本人の存在及び活動に依るもの尠からざるは公平なる観察者の等しく認むる所なるべし
事態叙上の如くなるに拘らず中国の或る方面に於いては満洲に於ける我が既存権益を根底より破壊せんとする扇動的言動に耽りつつあるやの報道あり之が為日本国民の
感情興奮するは固より当然の事理にして苟も実際的政治眼を以てすれば斯種策動の徒労に帰すべきこと一見明瞭なるべし要するに日本国民は其の党派及び主義の如何を問わず
自国生存権の必要条件と認むる権益に付ては現下如何なる事情に迫らるるとも之を抛棄せざる確定的意見を有するものなり
吾人は従来多大の関心を以て中国和平統一の確立を翹望し来れり蓋し同国に於ける内乱の頻発が我が対支貿易の正常なる発達を麻痺せしめたるは勿論、殊に吾人の憂慮する
所は凡そ中国内に於いて日本の承認せる政府と相拮抗し該政府の権力を絶対的に否認する強大なる反対勢力存在する限り両国関係上永続的重要性ある建設的政策を実行するに
重大なる困難を免れざることなり吾人の新に執らんとする行動は如何に善意に出てたるものと雖も動もすれば何等か中国の内政を左右せんとする企図なるやに誤解せられ
吾人の態度は如何に公平なりと雖中國政局に於いて相抗争せる二派の孰れか一方により攻撃の的とせらるることを例とす
吾人は既に中国に対する我が方の意向を明確に天下に宣明し来れり即ち不侵略、相互的権利尊重共同利益の増進即ち一言にして之を蔽えば「共存共栄」こそ我が対支関係調整上
終始一貫吾人の念頭に存する指導的方針なり然れ共国際親善は相互的なるを要件とす一方より友情の手を差し延べるも他方が之に応じ欣然其の手を執るに非ざれば何等親善に
資するものに非ず近年行われたる日支間重要交渉は多くは中国に於ける日本の既得地位を抛棄するの問題に関するものにして就中山東問題並中国関税及び治外法権問題の
商議に於いて然り是等總ての機会に於いて吾人の公正且友好的なる対支政策は充分明瞭となりたるものと信ず、中国に於いては吾人の政策を以て何等か我弱点を示すものと
解するや余は中国国民が能く事の真相を洞察せんことを望む

昭和六年七月三十一日 幣原外務大臣の陳友仁氏に説示せる要領(訳文)
満洲に於ける我が権益は頗る多岐多様に亙り直截簡明なる定義を下し難きも是等権益の大部分は条約に根拠を有し居り又何れも多年の意義深き歴史の所産ならざるば無し
一八九六年に清国は露国との間に特に日本を対象とせる秘密同盟条約を締結したるが同条約の有効期間は満十五個年にして日露戦争は其の期間内に発生せるものなり
同条約締結せらるるや直に露国は満洲に於ける侵略政策の実行に着手したるが明治三十七年戦役の勃発に至る迄の日露交渉の記録は当時露国が実際上満洲を以て自国領土の
不可分的一部と目し居りたることを明確に証するものなり斯くの如き露国政府の威圧的活動に対し清国は全く無力にして一言の抗議をも提出したることなし此の事態にして
自然の推移に放置せられたらんには満洲は疾くに清国領土中より喪失せられたること疑いを容れず清国をして此の広大なる沃地を保持せしめたる所以のものは実に日本の
武力干渉に外ならず吾人は清国の日露戦争に対する厳正中立の宣言に信頼し終始同国領土保全の方針に忠実なりし次第なるが若し当時露清秘密同盟の条項にして暴露
せられ居りたらんには日本は上述領土保全の方針を一変して別個の政策を執るに十分理由あることを認められたるなるべし
日露戦争の終結以来満洲は建設的事業の凡有る方面に於いて驚くべき進展を示し支那の他他方に会て見ざる程度の平和と繁栄とを得たり斯くの如き東北諸省の発展が
少なくとも一部分は日本の同地方に於ける企業及び投資の結果なるは我国民の確信する所なり吾人は未だ会て満洲に対する中国の領土権を争いたること無し吾人は
同地方に対する中国の領土権を明白に承認し且つ之を領土権たる凡有る意味に於いて尊重せんとするものなり要するに吾人は同地方の領土権を要求するものに非ず
然れ共吾人は日本国民が内地人たると鮮人たるとを問わず相互的親睦及び協力の基礎の上に満洲に居住し商、工、農業に従事し其の他一般に同地方の経済的開発に
参加し得る如き状況の確立せられんことを期待するものにして之を以て少なくとも道義的に吾人の有する当然の要求なりと思惟す
次に満洲の鉄道問題に付吾人は中国側の如何なる鉄道計画も南満洲鉄道の存立及び運行に対する脅威を企図するものに非ざる限り之に干渉せんとするが如き意図なし
日清両国代表者の調印せる一九〇五年北京会議議定書は南満洲鉄道と並行し又は同鉄道に有害なる鉄道を敷設せざるべき旨の中国政府の保障を包含し居れり
何れにするも中国にして日本の南満鉄道所有及び経営に同意せる以上苟も該鉄道を無価値ならしめんとする如き線路の建設を計画することを得ざるは信義の観念上
自明の理と謂うべし吾人は本問題に付ても「共存共栄」の主義に拠らんとするものにして我方としては中国が我方累次の抗議を無視し建設したる既成競争線の撤去
を要求せんとするものに非ざるも一方日華鉄道系統間に無益なる競争を予防するに足るべき運賃率及び運輸連絡を取極むるの要あることを主張するものなり
吾人は両国鉄道当局が友好的協力の共通の基礎を発見し以て双方の永続的利益に資するの可能なるべきを信ず

一九三十一年七月二十八日及び同三十一日 陳友仁幣原男爵間意見交換の要領(訳文)
一、過去四半世紀間を通し日華両国の間に存在せる不満足なる関係を終了せしむること両国の為利益なり
二、両国関係は之を真の親善の基礎の上に置かざるべからず右は広東政府が支那の承認せられたる政府となりたる暁同政府と日本政府との間に締結せらるべき
  協約又は条約に依り形成せらるる同盟又は協商の形式を取り得べし
三、該締約には極東に於ける平和の必要及び其の維持保全を明定すべく而して一般に挿入せらるる形式的の普通の条款の外不侵略条款及び日支両国間に係争中又は
  未解決なる総ての問題及び事項殊に満洲に関するものの解決に関する規定を設くべきものとす
四、満洲に関し日本は支那の主権を明白に承認し同地方に対し全然領土的に侵略の意図なきことを宣明す然れども日本は満洲に於いて幾多の権益を有し居り右権益は
  大部分条約により付与せられたるものにして且何れも多年に亙る歴史の成果なり南満洲鉄道は其の一例にして同鉄道の経営及び運行は同鉄道の破滅を企図する如き
  支那側鉄道の敷設に依り阻害せらるべきものに非ず一方日本は従来其の敷設に対し抗議し来れる支那側鉄道と雖も若し無益なる破滅的競争を防止すべき運賃及び
  連絡に関する取極にして成立するに於いては之を既成事実として容認すべし更に日本は満洲に於いて自国民か内地人たると朝鮮人たるとを問わず安穏に居住して
  商、工、農の平和的職業に従事し得る如き状態の確立せんことを少なくとも道徳的に要求し得べきものとす而して此の道徳的要求権は三個の考慮に根拠す即ち
  第一に満洲は日本国民の血と財との犠牲なかりせば今日露国の領土たるべかりしこと之にして右は明治三十七年の日露戦争に至る交渉の経緯に照せば明かなり
  当時露国は満洲を露西亜帝国の一部として取扱い日本が満洲に対し何等の利害関係なきことを宣言すべきことを提議したる場合においてすら在満日本領事において
  露国の認可状を受くべきものなることを主張せる程なりき第二に日露戦争中日本は支那を中立国として又満洲を概して中立地帯として認め且つ其の取扱を為したる
  次第にして戦争終結に当たり満洲は依然支那領土たるを喪わざりき然れども若し当時日本にして支那が露国の秘密同盟国たりし事実を知悉し居りたらんには
  恐らくは満洲に関し別異の解決方法講ぜられ居りしなるべく右事情は日露開戦の場合支那は露国の同盟国たるべしとの秘密同盟条約の要領を暴露せる華府会議における
  顧維鈞氏の陳述に依り明らかにせられたる次第なり第三に満洲は支那において恐らく最も繁栄せる土地と認めらるる処日本としては右は同地における日本の
  企業及び投資に因るの大なることを主張し得るものなり
五、日支両国間の締結が有効なる為には支那側における一種の国民的承認を経ざるべからず此の点に関し陳友仁氏は右は国民党なる機関を通じ実現し得べき旨
  を述べたり又同氏は支那側に於いては斯かる締約は全国大会に於いて国民党に付議し其の承認を得たる後に於いてのみ批准せらるべきものなることを表明せり


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