日本の歴史年表

九月二十四日

一、帝国政府は常に日華両国の親交を篤くし共存共栄の実を挙ぐることを一定の方針とし終始之が実現を期して苦心努力し来れり不幸にして過去数年間中国官民の言動は屢我国民的感情を刺戟するものあり殊に我が国の最緊密なる利害関係を有する満蒙地方に於いて
　　最近不快なる事件頻発し竟に我友好公正なる政策も中国側より同一の精神を以て酬ゆる所とならざるが如き印象を我国民一般の心理に与え物情騒然たるに当たり偶々九月十八日夜半奉天附近に於いて中国軍隊の一部は南満洲鉄道の線路を破壊し我が守備隊を
　　襲撃し之と衝突するに至れり
二、当時満鉄沿線を守備せる日本軍の兵力は総計僅かに一万四百を過ぎざりしに反し其の四辺には二十二万の中国軍隊あり事態俄かに急迫を告げ之と共に同地方に居住する百万の帝国臣民も亦重大なる不安の状に陥りたるに顧み我軍隊は機先を制して危険の原因を
　　艾除するの必要を認め此の目的の為迅速に行動を開始して抵抗を排除し附近に駐屯する中国軍隊の武装を解き地方治安の維持に付ては中国の自治機関を督励して其の任に当たらしめたり
三、我軍隊は前記の目的を遂行するや概ね鉄道附属地内に帰還集結し目下附属地外にありては警戒の為奉天城内及び吉林に若干の部隊並に数個の地点に少数の兵員を配置すと雖何れも軍事占領に非ず或は帝国官憲が営口税関又は塩務署を占領せりと云い或は
　　四平街、鄭家屯間、又は奉天新民屯間の中国鉄道を管理せりと云うが如き流説は全然誤伝に止まり長春以北又は間島に我軍隊の出動せりと云うも亦事実無根なり
四、帝国政府は九月十九日緊急閣議を開きて此の上事態を拡大せしめざることに極力努むるの方針を決し陸軍大臣より之を満洲駐屯軍司令官に訓令せり九月二十一日長春より吉林に一部隊出動せるも是れ同地方の軍事占領を行わんが為に非ずして満鉄に対する側面よりの
　　脅威を除かんとせるに外ならず従って此の目的を達するに至らば我出動部隊の大部分は直に長春に帰還する筈なり尚九月二十一日に至り満鉄沿線の不安に鑑み朝鮮駐屯軍より混成一旅団兵員四千を新たに満洲駐屯軍司令官の麾下に属せしめたるも満洲駐屯軍の
　　総兵数は尚条約所定の制限内に止まり固より対外関係に於ける事態を拡大せるものと謂うべからず
五、帝国政府が満洲に於いて何等の領土的欲望を有せざるは茲に反覆縷説するの要なし我が期待する所は畢竟帝国臣民が安んじて各般の平和的事業に従事し其の資本又は労力を以て地方の開発に参加するの機会を得せしめんとするにあり自国並自国臣民の正当に享有する
　　権利利益を擁護するは政府当然の職責にして満鉄に対する危害を排除せんとするも亦此の趣旨に外ならず帝国政府は固より日華善隣の誼を重んずるに於いて既定の方針を恪守するものなるが故に今次の不祥事をして国交の破壊に至らしめず更に進んで禍根を将来に
　　断つべき建設的方策を講ぜんが為誠意中国政府と協力するの覚悟を有す之に依りて両国間現下の難局を打開し禍を転じて福と為すことを得ば帝国政府の欣幸之に如かざるなり