架空の世界で創作活動及びロールプレイを楽しむ場所です。

私は普段、日記をつけるという習慣はないし、そんなことをやろうとも思わないのだが、今日はおそらく人生でも最も濃厚な1日だったかもしれないので、寝る前に記録に残しておく。


その日、私という1人の、冴えない人間の男は薄暗い部屋の中で目を覚ました。まだ夜が明ける直前なのだろうか。
布団の真横の壁は灰色。コンクリートが露出しているその壁は冷たい。扇風機しかないこの住宅ではそこそこ助かる。
マウサナ人たちは彩りを与えるために壁紙を貼るという発想が無いのだろうか。だが普段のマウサナ人の服装は短いプリーツスカートしか見たことがないし、そういう装飾には無頓着な種族なのかもしれない。

カーテンと窓を開くと、全く同じ集合住宅が反対側に見える。間に日照を確保するためのちょっとした緑地があるだけマシだが。

この光景は私の故郷とはだいぶ異なる。私はとある資本主義国家からマウサネシアに亡命してきたのだ。
経緯は色々と複雑なのだが、暗い将来に嫌気がさしていたところに、幸運にもとあるマウサナ人と出会い、亡命を手配してもらったのだ。

テレビを付けると、マウサナ人のヌードが放送されていた。私はマウサナ人ではないため今は3チャンネルを見る気分ではないので、真面目な1チャンネルにする。

「またもや襲撃事件です。先住民系過激派武装組織、虹色の蛇の構成員がマウサナ人を襲撃しました。襲撃されたマウサナ人は……」

ここはマウサネシア連邦共和国の海外州、マウサネシア領ラーダニャルメだ。ここでは本土と同じようにマウサナ人と人間が暮らして居るのだが、ここでは先住民による事件が頻発しているのだ。

「また、虹色の蛇の犯行声明によれば、近いうちにマウサナ人は代償を払うという趣旨の宣言をしており、軍は警戒を強めて……」

先住民たちは結束して『虹色の蛇』なる過激派武装組織を結成、マウサナ人を追い出すことをスローガンにして暴力行為を行っている。

私は人間だが、彼らの主張には全く同意しないし、逆にマウサナ人を一方的に攻撃するなど言語道断だと考えている。
私がそのように考えるようになった経緯は、亡命を手助けしてくれた多くのマウサナ人との思い出が発端である。



イオニアのとある資本主義国で、私は人生に絶望し、誰にも頼ることが出来ずに帰るところも失っていた。
もはや何もかもどうでも良くなったので、居酒屋で限界を超えた酒を飲み、飲んだくれて道端に倒れ込んだ。

そんな私をわざわざ宿まで連れ帰って介抱してくれたのが、水色の髪と目を持ったマウサナ人のバックパッカーだった。
そのマウサナ人もさほどお金を持っていなかったにも関わらずだ。余裕がないのに、介抱のために色々な物を買ってきてくれた。

今思えば、彼女こそが私にとっての最初の革命家であり、そして今の私の中では、かのレイン・ノルのようなマウサネシアの革命の英雄と並ぶほど偉大に思える。
思えばその時から、それまでの資本主義の奴隷の状態から、私は真の人間たるプロレタリアートとしての生まれ変わり、まるで芋虫が蝶に変わるかのような変態、つまり小さな革命が始まったのである。

私が目を覚ますと、傍にそのマウサナ人が居て、名前を名乗った。リレニ・エンという名前のようだった。

その日のうちに、私は近くにあったマウサナ人のコミュニティーに紹介してもらい、受け入れてもらった。
そのマウサナ人とはここでお別れになり、それ以降会ったことはないが、今はどうしてるだろうか。また会う機会があったら、改めてお礼をしたい。

コミュニティーでは、私は複数人のマウサナ人と共同生活を送ることになった。スペースにあまり余裕がなく、個室を用意できないためだ。
コミュニティーというのは、マウサナ人同士の相互扶助の施設であり、マウサナ人の募金で成り立っているらしく、たまに私のような人間も保護するという。

当初、私は宗教の勧誘の一環ではないかと疑っていた、なぜなら助けるのに下心がある事を疑ったからだ。しかし今思えばそれは杞憂だった。
当然ながら太陽神への崇拝を強制されたこともない。つまり単なる善意だったのだ。

マウサナ人たちも最初の1週間は私を警戒しており、話すことも少なく、こちらの様子をいつも伺っている様子だった。
しかし、1週間がすぎると急に打ち解け、昨日までとは異なり私にも積極的に話しかけてくるようになった。

これは後で分かったことだが、マウサナ人には初対面の相手とは1週間の警戒期間があり、その間で相手との最適な接し方を見極めるという。

驚くべきことに、マウサナ人は私自身が気付かなかったことにたった1週間で気付いた。私は人見知りではなく、実は寂しがり屋で話し相手が欲しかったということに。
マウサナ人と頻繁に話していると、私の精神も次第に回復した。これは所詮素人の憶測だが、あの種族の声には何らかの心理的効果がある。
つまり、傷付いた心を癒し、それを良い方向に持っていったり、相手を落ち着かせて、温厚な性格にする効果だ。

ある日、私がマウサナ人の一員と認められたとき、私は帰りたくないと思った。そしてマウサナ人たちに相談すると、マウサネシアへの移住を勧められた。

どうやらコミュニティーと本国は繋がりがあるらしく、すぐに向こうの機関に連絡してくれて、数日で許可が下りた。
心強いことに、渡航の費用は全額向こうが負担してくれて、しかも住まいまで手配してくれるという。

そして移住先として指定されたのが、このラーダニャルメという大きな島だ。今思えば本当に良い島だと思う。

そのマウサナ人たちと別れ、私はこの国に来た。機関の人も良くしてくれた。本当に感謝する。



そういう経緯もあって、私はマウサナ人を自分の仲間だと思っているし、マウサナ人もまた、私を種族の一員と認めた。

私は朝食を食べ終わって、身支度をすると出勤した。既に通勤の時間であり、歩道は賑わっていた。

私は仕事のために職場まで歩く。職場に近ければそれだけメリットがあり、原則として職場の近くに住むことになっている。

道端では兵士たちが警戒態勢を取っていた。おそらく昨日の犯行声明への警戒だろう。

私としては、彼ら先住民が何故このような暴挙に出るのか、理解できない。『マウサナ人たちは暴力や恐怖ではなく、尊敬と協力によって治める』というのは有名だ。
この島も、マウサナ人たちは彼らに様々な物を与え、彼らと協力し、尊敬されたはずだし、実際にそれは出費だったにも関わらず行われた。
元々、彼らは悲惨な生活をしていた。虹色の蛇を崇拝し病人に毒を飲ませ、占いにより殺戮を行い、部族同士で無益な争いをしていた。
そこを救済し、彼らに服と家を与え、安定した食料を与え、迷信を払拭し、幸福を与えたのは、利益よりも人助けを優先したマウサナ人の功績ではないか。
なのに何故、一部の連中はマウサナ人を尊敬せず、恩に仇で報いるような真似をしているのだろうか。やはり何かの勘違いではないか?

そんなことを考えながら歩き、職場に入った。私の仕事はホームセンターの店員であり、様々な作業を行っている。

同僚や店長に挨拶し、本日の仕事が始まる。やることは多いが程よい難易度で、仕事としては普通の給料が貰える。
私の出身国ではこういった仕事は非正規雇用で給料が低かったが、この国では正規雇用である。

仕事の詳しい内容までいちいち書くのは時間の無駄であるため、ここでは割愛するが、数時間後に人生で最も衝撃的な出来事が発生した。

屋外で商品の鉢植えの手入れをしていると、突然、銃声が聞こえた。しかも1発ではなく、何発も聞こえたのである。
通りはたちまち騒然とし、人々はこのホームセンターに逃げ込み始めた。これは只事ではないということには、すぐに気付いた。

なんと、奇抜な格好をした上裸の男たちが、普通の銃や拳銃、刀を持って兵士や民間人を襲っていたのである。
そして、恐るべきことにマウサナ人の民間人の首を刀で切り落としたのである。首が地面に落ちて大量の血を吹き出すのを見てしまった。
あれは恐ろしい光景だった。敵兵は人間は見逃し、マウサナ人だけを優先的に狙い、首を切り落とすなどしていた。まるでマウサナ人に強い恨みがあるかのようだ。

兵士たちも撃ち返して抵抗するが、敵の数が多い。このままでは前滅することを悟った私は、咄嗟に「このホームセンターに籠城して抵抗しよう!」と叫んでいた。



結果として数人の兵士と、大勢の民間人がホームセンターに籠城することとなった。我々店員はあらゆる入口を迅速に封鎖した。

兵士たちは屋上の駐車場から抵抗を行っていたが、敵の数は多く、1人また1人と倒れた、という話を聞いた。
敵が持っていたのは普通の銃ではなく、マスケット銃という火縄銃の仲間の銃のようであり、破壊力が高く命中すればマウサナ人でも即死してしまうという。

私も出来ることしようと思い、他のマウサナ人たちに、ノコギリなどの武器になりそうなものが置いてあるコーナーを案内し、最低限の抵抗の準備をした。
ついに正面入口のシャッターが攻撃され始める。そろそろ覚悟を決めなくてはならないと私は思った。私はマウサナ人の一員であり、たとえ相手が人間だろうと、同胞たるマウサナ人を傷付ける相手には決して屈したくない。

しかしその時、機関銃の音が聞こえてきた。ついに敵兵が機関銃を手に入れたのだろうか。最悪の可能性も想定して、とりあえず様子を見るために屋上へと向かう。
階段を登っていると、屋上からマウサナ人たちの歓声が聞こえた。悲鳴ではなかった。私は、歓声の原因を知るために急いで階段を登った。
そして目に映ったのは、マウサナ人が乗った装甲車の機銃掃射によって倒される敵兵であった。ついに我々は助かったのである。


事件の終了後、現場は死屍累々の状態であった。敵兵と被害者のマウサナ人たちが屍となっていた。敵兵は人間であったが、私よりも肌が黒いことが分かった。
兵士たちは拳銃を片手に敵兵と被害の生存確認を行っているようだった。しかし生存者は居なかったのだろう。

結局その日の業務は定時を待たずして終了となり、代わりに警察と憲兵による事情聴取が行われ、現場に居合わせた私も取り調べを受けた。
取り調べとは言っても私は被害者であることは明白だったので、起こった出来事を話すと、私の咄嗟の勇気を称えられた。

兵士たちと装甲車はいつの間にか居なくなっていたが、どうやらそのまま新たな作戦として敵本部の制圧に向かったらしい。
敵の本部を叩くことで今度こそ再起不能にするとのこと。これでこの街にも、当分は平和が訪れるだろう。良かった。



そろそろ書くことも無くなってきたし、何しろ今日は大きな事件があったせいで疲れた。そろそろ執筆を終わろう。

私は、店員として多くの民間人の命を守ったことから、後日に褒賞を受け取れるらしい。それを楽しみにしつつ、今日はもう寝ることにしよう。

(終)

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