最終更新:ID:lmcivztOnA 2013年04月17日(水) 00:09:17履歴
「アデロバシ……なんだって?」
「だーかーらー、ア・デ・ロ・バ・シ・レ・ウ・ス!! いい加減覚えなさいよね!!」
海に浮かぶ、さして広くもない島というか岩礁の波打ち際に、二匹の小動物がいた。
一匹は一見鳥のように見えるが鳥では無い。極めて短い腕には、一本だけ太い鍵爪が付いている。
もう一匹は鼠のように見えるが鼠ではない。鋭い歯が並んだ頬の無い顔が、それを物語っている。
「覚えにくい上に発音しにくいのも甚だしい。これからはお前のことはアデと呼ばせてもらうことにする」
鳥に二本のツメが生えたような生き物が、もうどうでもいいと言うような顔で告げる。
「そ、そんなこと言ってるあんたの名前のほうがよっぽど言いにくいわよ!!」
「何を言う、アルヴァレスサウルスのどこが言いにくい名前だ」
「一体どこ誰がそんなややこしい名前を付けたのよ、傍迷惑な」
「そんなこと知るもんか。自分に名前があることなんか、ここに来て初めて知ったんだからな」
「それは私も一緒よ。てゆーか名前ってそもそも何?」
「さあ?」
アデロバシレウスの素朴な疑問に、アルヴァレスサウルスも一緒に首を傾げる。
「多分、何か俺たちにはわからない意味があるんじゃないか?」
「つまり、あんたの長くてワケのわからない名前にも、何かちゃんとした意味があるってワケ?」
「それは知らん。それに、知る手段もあるまい」
「……私はそうでも無いと思う」
波の音にかき消されそうになりながらも、小さなアデロバシレウスの声が岩礁に響く。
「さっき大勢いた連中の中に、ちょっと変わった感じの奴らがいたでしょう?」
「ああ、そう言えば……明らかに同じ種族から何匹も出てきてる奴がいたな」
彼らが言っているのは、人間たちのことである。
「確かに気にはなったが、奴らがどうかしたのか?」
「気付かない? 私たちはほとんど一種族から一匹ずつしか集められていないのに、あいつらだけ何匹もいた。
つまり、あいつらはよほど数が多いのよ。数が多ければ、名前だって付ける必要が出てくるでしょう」
「なるほどなあ。身の回りに同じ種類の動物が何匹もいるなら、『ボス』とか『若いの』とか『婆さん』とかいう呼び方だけじゃあ不便があるってわけか」
つまり、彼らは「名前」という概念を、極限まで発達させた生き物なのかもしれないということだ。
「なるほどな。だとすれば、俺たちがここに来てから初めて知らされた『名前』とは、奴らが付けたものかもしれないってわけか」
「確信は持てないけどね。まあ、可能性としては棄てがたいでしょう」
アルヴァレスサウルスは、納得しつつも解せぬ、という表情を作る。
「しかしなあ、お前、そんなことそこまで知りたいか?」
「私は知りたいと思う。自分の名前がどういう意味なのか、何のために付けられたのか」
アデロバシレウスはそう答え、アルヴァレスサウルスはもはや、その話を続けようとはしなかった。
「しかし何にしろ、ここに居たんじゃラチが開かねえな」
アルヴァレスサウルスは自分たちの足元を見た。
海の向こうには、大きな陸地が見えている。泳げば大して時間も経ずに辿り着けそうだった。
「イチかバチか、あっちに渡るしかねえか」
「その時は、私はあんたの頭の上に乗せなさいよね」
「ったく図々しい。泳げなくても溺れやしないって話だぞ」
「だけど私の泳ぎじゃ、あんたに付いていけるわけないでしょう」
一緒に行動することを決めた以上は、アルヴァレスサウルスも拒めない。
それよりも問題は、海の中にどんな敵がいるかわからないという点だ。
さっきの場所では巨大な魚や海竜の他、全く得体の知れない生き物たちも沢山いた。
彼らがもし殺し合いに乗っていたとしたら、海中で鉢合わせれば圧倒的に不利だ。
「海を渡るにしても、もう少し明るくなってからのほうが良いだろう」
「そうねえ、それまではもう少しこの島を調べたりとか……」
そう話が纏まりそうになった時、彼らの背後で大きな物音がした。
警戒し振向いた彼らの目に入ったのは、岩の上に屹立する一頭の巨獣だった。
四本の角を持ち、口からは二本の牙が生え、しかも、その口からは信じられないほど長い舌も伸びていた。
その獣は、その舌を蛇のように蠢かせながら、彼らのほうに顔を向け、その赤い目を薄闇の中に光らせた。
もはや躊躇は許されなかった。
アルヴァレスサウルスはすぐに身をかがめ、頭をアデロバシレウスに差し出した。
アデロバシレウスはその頭に飛び乗り、頭の羽毛にしっかりとつかまる。
アルヴァレスサウルスはそのまま声も無く海に飛び込み、対岸の陸地に向かって泳ぎだした。
しばらくして、アルヴァレスサウルスの頭の上で後ろを振向いたアデロバシレウスは悲鳴を上げた。
四本角の怪物が、彼らの後を追って海に飛び込んだからだ。
アルヴァレスサウルスは必死で尾と後肢を動かした。
とにかく、怪物から逃げることだけを考えていた。
彼は恐怖と絶望に襲われていた。
平和でのんびりした生活から、突如呼び出された殺し合い。
身を守るための角は持っているとはいえ、ロクに争いごとなどしたことのない自分が生き残れるとは思えなかった。
そこで、とにかく仲間になってくれる個体を探して、最初に飛ばされた島の中を歩き回った。
そしてついに、他の二匹の動物たちを見つけた。
どうやら殺し合いにも乗っていないらしい。
ようやくほっとできるかと思っていたら、その二匹は突如海に飛び込んで泳ぎだした。
せっかく見つけた仲間と離れるわけにはいかない。彼は慌てて二匹の後を追って泳ぎ始めた。
彼らが逃げ出した理由が、自分の恐ろしい顔にあるとは露ほども思わずに。
【一日目・黎明】
【インド洋・マダガスカルとアフリカ大陸の間の海】
【アルヴァレスサウルス】
【状態】健康
【思考】アデロバシレウスと一緒に行動する
【備考】オス・中年 南米出身
【アデロバシレウス】
【状態】健康
【思考】アルヴァレスサウルスと一緒に行動する 自分の名前の意味を知りたい
【備考】メス・若者 北米出身
【ウィンタテリウム】
【状態】健康
【思考】一人ぼっちはイヤだ
【備考】オス・若者 北米出身
「だーかーらー、ア・デ・ロ・バ・シ・レ・ウ・ス!! いい加減覚えなさいよね!!」
海に浮かぶ、さして広くもない島というか岩礁の波打ち際に、二匹の小動物がいた。
一匹は一見鳥のように見えるが鳥では無い。極めて短い腕には、一本だけ太い鍵爪が付いている。
もう一匹は鼠のように見えるが鼠ではない。鋭い歯が並んだ頬の無い顔が、それを物語っている。
「覚えにくい上に発音しにくいのも甚だしい。これからはお前のことはアデと呼ばせてもらうことにする」
鳥に二本のツメが生えたような生き物が、もうどうでもいいと言うような顔で告げる。
「そ、そんなこと言ってるあんたの名前のほうがよっぽど言いにくいわよ!!」
「何を言う、アルヴァレスサウルスのどこが言いにくい名前だ」
「一体どこ誰がそんなややこしい名前を付けたのよ、傍迷惑な」
「そんなこと知るもんか。自分に名前があることなんか、ここに来て初めて知ったんだからな」
「それは私も一緒よ。てゆーか名前ってそもそも何?」
「さあ?」
アデロバシレウスの素朴な疑問に、アルヴァレスサウルスも一緒に首を傾げる。
「多分、何か俺たちにはわからない意味があるんじゃないか?」
「つまり、あんたの長くてワケのわからない名前にも、何かちゃんとした意味があるってワケ?」
「それは知らん。それに、知る手段もあるまい」
「……私はそうでも無いと思う」
波の音にかき消されそうになりながらも、小さなアデロバシレウスの声が岩礁に響く。
「さっき大勢いた連中の中に、ちょっと変わった感じの奴らがいたでしょう?」
「ああ、そう言えば……明らかに同じ種族から何匹も出てきてる奴がいたな」
彼らが言っているのは、人間たちのことである。
「確かに気にはなったが、奴らがどうかしたのか?」
「気付かない? 私たちはほとんど一種族から一匹ずつしか集められていないのに、あいつらだけ何匹もいた。
つまり、あいつらはよほど数が多いのよ。数が多ければ、名前だって付ける必要が出てくるでしょう」
「なるほどなあ。身の回りに同じ種類の動物が何匹もいるなら、『ボス』とか『若いの』とか『婆さん』とかいう呼び方だけじゃあ不便があるってわけか」
つまり、彼らは「名前」という概念を、極限まで発達させた生き物なのかもしれないということだ。
「なるほどな。だとすれば、俺たちがここに来てから初めて知らされた『名前』とは、奴らが付けたものかもしれないってわけか」
「確信は持てないけどね。まあ、可能性としては棄てがたいでしょう」
アルヴァレスサウルスは、納得しつつも解せぬ、という表情を作る。
「しかしなあ、お前、そんなことそこまで知りたいか?」
「私は知りたいと思う。自分の名前がどういう意味なのか、何のために付けられたのか」
アデロバシレウスはそう答え、アルヴァレスサウルスはもはや、その話を続けようとはしなかった。
「しかし何にしろ、ここに居たんじゃラチが開かねえな」
アルヴァレスサウルスは自分たちの足元を見た。
海の向こうには、大きな陸地が見えている。泳げば大して時間も経ずに辿り着けそうだった。
「イチかバチか、あっちに渡るしかねえか」
「その時は、私はあんたの頭の上に乗せなさいよね」
「ったく図々しい。泳げなくても溺れやしないって話だぞ」
「だけど私の泳ぎじゃ、あんたに付いていけるわけないでしょう」
一緒に行動することを決めた以上は、アルヴァレスサウルスも拒めない。
それよりも問題は、海の中にどんな敵がいるかわからないという点だ。
さっきの場所では巨大な魚や海竜の他、全く得体の知れない生き物たちも沢山いた。
彼らがもし殺し合いに乗っていたとしたら、海中で鉢合わせれば圧倒的に不利だ。
「海を渡るにしても、もう少し明るくなってからのほうが良いだろう」
「そうねえ、それまではもう少しこの島を調べたりとか……」
そう話が纏まりそうになった時、彼らの背後で大きな物音がした。
警戒し振向いた彼らの目に入ったのは、岩の上に屹立する一頭の巨獣だった。
四本の角を持ち、口からは二本の牙が生え、しかも、その口からは信じられないほど長い舌も伸びていた。
その獣は、その舌を蛇のように蠢かせながら、彼らのほうに顔を向け、その赤い目を薄闇の中に光らせた。
もはや躊躇は許されなかった。
アルヴァレスサウルスはすぐに身をかがめ、頭をアデロバシレウスに差し出した。
アデロバシレウスはその頭に飛び乗り、頭の羽毛にしっかりとつかまる。
アルヴァレスサウルスはそのまま声も無く海に飛び込み、対岸の陸地に向かって泳ぎだした。
しばらくして、アルヴァレスサウルスの頭の上で後ろを振向いたアデロバシレウスは悲鳴を上げた。
四本角の怪物が、彼らの後を追って海に飛び込んだからだ。
アルヴァレスサウルスは必死で尾と後肢を動かした。
とにかく、怪物から逃げることだけを考えていた。
彼は恐怖と絶望に襲われていた。
平和でのんびりした生活から、突如呼び出された殺し合い。
身を守るための角は持っているとはいえ、ロクに争いごとなどしたことのない自分が生き残れるとは思えなかった。
そこで、とにかく仲間になってくれる個体を探して、最初に飛ばされた島の中を歩き回った。
そしてついに、他の二匹の動物たちを見つけた。
どうやら殺し合いにも乗っていないらしい。
ようやくほっとできるかと思っていたら、その二匹は突如海に飛び込んで泳ぎだした。
せっかく見つけた仲間と離れるわけにはいかない。彼は慌てて二匹の後を追って泳ぎ始めた。
彼らが逃げ出した理由が、自分の恐ろしい顔にあるとは露ほども思わずに。
【一日目・黎明】
【インド洋・マダガスカルとアフリカ大陸の間の海】
【アルヴァレスサウルス】
【状態】健康
【思考】アデロバシレウスと一緒に行動する
【備考】オス・中年 南米出身
【アデロバシレウス】
【状態】健康
【思考】アルヴァレスサウルスと一緒に行動する 自分の名前の意味を知りたい
【備考】メス・若者 北米出身
【ウィンタテリウム】
【状態】健康
【思考】一人ぼっちはイヤだ
【備考】オス・若者 北米出身
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