最終更新:ID:OAZhdX/9tw 2013年03月13日(水) 17:30:21履歴
鬱蒼と木々が茂る密林。
ぬかるみに足を取られそうになりながら、一人の小柄な少女が草や蔦をかき分け歩いていた。
もちろん、今自分が置かれている状況を理解していないわけでは無い。
だが、今何をするのが最善であるかなど、彼女には考える余裕などなかった。
(なんで、私なんかが……)
美しい顔立ちに浮かぶ、戸惑いと憤怒が混じった表情が、彼女の苛立ちを表していた。
そして、殺し合いの主催者に怒りを向けている者たちとは違い、彼女の苛立ちには誰にもぶつけようが無いものだった。
(なんで、)
邪魔な蔦を手で力任せに引き千切る。
(なんで、)
足元の邪魔な倒木を蹴り倒す。
(なんで、なんで、なんで!!)
それらの男は、暗い密林の中に吸い込まれるように消えていった。
(なんで私なんかが、種族の代表なんかに選ばれたのよ!!)
しかし彼女の心の中の悲鳴は、どこにも消えていきはしなかった。
彼女、ホモ・ハビリスが、自分は群れの中で異質な存在らしいと気づいたのはしばらく経ってからだった。
自分の顔立ちは、群れの仲間たちとは明らかに違っていた。
また、自分だけが器用に石器を作ったり、魚や小動物を捕まえることができた。
他の仲間たちが食べている、動物の骨髄など、彼女には美味しいとも思えなかった。
そんな異質な彼女を群れの仲間たちは忌避した。
群れの和を乱す悪意ある個体、呪われた娘。そのような目でしか、彼女を見ようとしなかった。
やがて成長した彼女は、自ら群れを去った。
一人でも十分生き抜いていける自信はあったし、孤独も苦にはならなかった。
少なくとも、その時は。
一人で旅を続けていた彼女の前に、ある日、他の群れが現れた。
それは彼女の故郷の群れとはまるで違っていた。
群れの個体たちは皆、彼女に似た顔立ちをしていた。
そして彼女と同じように、精密な石器を作って魚や獣を狩って食べていた。
体毛が無い代わりに毛皮の服を身に纏い、大きな巣を地面の上に作って住んでいた。
簡素な石器で、動物の骨を砕いて骨髄を食べ、裸でうろつきそこらに眠るかつての仲間たちとは、まるで違う集落だった。
この群れになら、受け入れてもらえるかもしれない。
自分には彼らほどは上手に石器を作ったり、毛皮を加工することは出来ないけど、ここになら居場所があるかもしれない。
そう思った。
しかし彼女の懇願を、その群れの者たちは冷笑ではねつけた。
「お前など俺たちと比べたら、ただのサルでは無いか」と。
故郷の仲間からは器用すぎる不気味な女だと怖がられ、新天地で出会った群れには原始的すぎると蔑まれた。
その夜、彼女は寝ることも忘れてサバンナを彷徨い歩いた。
サルにもなれず、ヒトにもなれず。
アウストラロピテクスにもなれず、ホモ属にもなれず。
ボーンコレクターにもなれず、ハンターにもなれず。
自分が優れているのか、劣っているのかさえもわからない。
ただ一つわかったことがあった。
この世界に、自分の居場所などどこにも無いのだと。
だというのに、この状況だ。
黎明のジャングルの中を歩みながら、彼女は「どうして」と呟き続けていた。
あの大地の声というのは、ここに集められたのはそれぞれの種族の代表だと言っていた。
ならば私も代表者だと言うのか。
ふざけるな。
仲間など一人もいなかった私が、一体どの種族に属するというのか。
サルでもヒトでもなく。
アウストラロピテクスでもホモ属でもなく。
ボーンコレクターでもハンターでもない。
それなのに、ここに呼ばれた。
「ああもう!!私は一体何者なのよ、全くもう!!」
行き場の無い思いを声に出して吐き出した。
もちろんそれは、ジャングルの木々の合間の深い闇に吸い込まれていった。
だが、
「そんなん何でもえいねん!!」
空から、そんな返事が帰ってきた。
「そんなことより、ワシをここから下ろしてえな!!」
思わず頭上を見上げた彼女は、そこにいたものを見て面食らった。
巨大な巻貝が、うねうねと沢山の職種を動かしてもがきながら、木の枝にひっかかっていた。
「いやあ、ホンマこれどないしょうか思てたんや。ホモ・ハビリスさん、ホンマおおきに」
地面に上に下りたその巻貝は、ほっとしたように礼を延べた。
直径は彼女の身長とほぼ同じほどもあるその巻貝ー触手があるのが、貝にしては妙だったがーは、パキディスクスと名乗った。
やっとの思いで彼を木の上から下ろしたホモ・ハビリスは、ため息をつきながら尋ねる。
「で、なんであんな木の上なんかにいたのよ?」
「あいや、自分で登ったわけちゃいますねん。最初の場所で説明を聞いた後、気がついたらああなってましてん」
つまりは、最初から木の上にワープさせられたということらしい。
「いやあ、面食らいましたわ。ただでさえあんなわけわからんこと言われて……
あ、そういえば、助けてもらったことで安心してましたけど、ハビリスさんは素直に殺し合いをする気は……」
「まあ、今のところは無いわね」
そんなこと、考えてもいなかったというのが正しいのだが。
「それは安心しましたわ。お腹も空かへんのに、そんな物騒なことするわけにいきまへん。
それで、どうするつもりですん?」
「そうねえ……他の生き物たちがどう考えているのか探るのが先決じゃないかしら。
素直に殺し合ってる生き物が多いのか、私みたいな意見が多数派なのか」
「確かにそれは重要ですなあ。早速そうしましょ。ほな、まずは明るくなるまでにもうちょっと開けたとこに行きましょうか」
なんだか知らないうちに、一緒に行動することになっているらしい。
まあいいか、と彼女は思った。どうせ、長い付き合いにもなるまい。
そして彼らは、密林の中を、草や蔦を掻き分け、倒木を踏み越えながら歩いていった。
ずるずる。
ずるずる。
ずるずる。
……………ずるずる。
「ったくもう、もう少し早く歩けないの!?」
「か、堪忍してえな。陸の上に上がったことなんか初めてですきに……」
【一日目・黎明】
【南アメリカ・アマゾン中心部】
【ホモ・ハビリス】
【状態】健康
【思考】他の参加者の考えをさぐる
【備考】メス・若者 アフリカ出身
【パキディスクス】
【状態】健康
【思考】他の参加者の考えをさぐる
【備考】オス・老人 ヨーロッパ近海出身
ぬかるみに足を取られそうになりながら、一人の小柄な少女が草や蔦をかき分け歩いていた。
もちろん、今自分が置かれている状況を理解していないわけでは無い。
だが、今何をするのが最善であるかなど、彼女には考える余裕などなかった。
(なんで、私なんかが……)
美しい顔立ちに浮かぶ、戸惑いと憤怒が混じった表情が、彼女の苛立ちを表していた。
そして、殺し合いの主催者に怒りを向けている者たちとは違い、彼女の苛立ちには誰にもぶつけようが無いものだった。
(なんで、)
邪魔な蔦を手で力任せに引き千切る。
(なんで、)
足元の邪魔な倒木を蹴り倒す。
(なんで、なんで、なんで!!)
それらの男は、暗い密林の中に吸い込まれるように消えていった。
(なんで私なんかが、種族の代表なんかに選ばれたのよ!!)
しかし彼女の心の中の悲鳴は、どこにも消えていきはしなかった。
彼女、ホモ・ハビリスが、自分は群れの中で異質な存在らしいと気づいたのはしばらく経ってからだった。
自分の顔立ちは、群れの仲間たちとは明らかに違っていた。
また、自分だけが器用に石器を作ったり、魚や小動物を捕まえることができた。
他の仲間たちが食べている、動物の骨髄など、彼女には美味しいとも思えなかった。
そんな異質な彼女を群れの仲間たちは忌避した。
群れの和を乱す悪意ある個体、呪われた娘。そのような目でしか、彼女を見ようとしなかった。
やがて成長した彼女は、自ら群れを去った。
一人でも十分生き抜いていける自信はあったし、孤独も苦にはならなかった。
少なくとも、その時は。
一人で旅を続けていた彼女の前に、ある日、他の群れが現れた。
それは彼女の故郷の群れとはまるで違っていた。
群れの個体たちは皆、彼女に似た顔立ちをしていた。
そして彼女と同じように、精密な石器を作って魚や獣を狩って食べていた。
体毛が無い代わりに毛皮の服を身に纏い、大きな巣を地面の上に作って住んでいた。
簡素な石器で、動物の骨を砕いて骨髄を食べ、裸でうろつきそこらに眠るかつての仲間たちとは、まるで違う集落だった。
この群れになら、受け入れてもらえるかもしれない。
自分には彼らほどは上手に石器を作ったり、毛皮を加工することは出来ないけど、ここになら居場所があるかもしれない。
そう思った。
しかし彼女の懇願を、その群れの者たちは冷笑ではねつけた。
「お前など俺たちと比べたら、ただのサルでは無いか」と。
故郷の仲間からは器用すぎる不気味な女だと怖がられ、新天地で出会った群れには原始的すぎると蔑まれた。
その夜、彼女は寝ることも忘れてサバンナを彷徨い歩いた。
サルにもなれず、ヒトにもなれず。
アウストラロピテクスにもなれず、ホモ属にもなれず。
ボーンコレクターにもなれず、ハンターにもなれず。
自分が優れているのか、劣っているのかさえもわからない。
ただ一つわかったことがあった。
この世界に、自分の居場所などどこにも無いのだと。
だというのに、この状況だ。
黎明のジャングルの中を歩みながら、彼女は「どうして」と呟き続けていた。
あの大地の声というのは、ここに集められたのはそれぞれの種族の代表だと言っていた。
ならば私も代表者だと言うのか。
ふざけるな。
仲間など一人もいなかった私が、一体どの種族に属するというのか。
サルでもヒトでもなく。
アウストラロピテクスでもホモ属でもなく。
ボーンコレクターでもハンターでもない。
それなのに、ここに呼ばれた。
「ああもう!!私は一体何者なのよ、全くもう!!」
行き場の無い思いを声に出して吐き出した。
もちろんそれは、ジャングルの木々の合間の深い闇に吸い込まれていった。
だが、
「そんなん何でもえいねん!!」
空から、そんな返事が帰ってきた。
「そんなことより、ワシをここから下ろしてえな!!」
思わず頭上を見上げた彼女は、そこにいたものを見て面食らった。
巨大な巻貝が、うねうねと沢山の職種を動かしてもがきながら、木の枝にひっかかっていた。
「いやあ、ホンマこれどないしょうか思てたんや。ホモ・ハビリスさん、ホンマおおきに」
地面に上に下りたその巻貝は、ほっとしたように礼を延べた。
直径は彼女の身長とほぼ同じほどもあるその巻貝ー触手があるのが、貝にしては妙だったがーは、パキディスクスと名乗った。
やっとの思いで彼を木の上から下ろしたホモ・ハビリスは、ため息をつきながら尋ねる。
「で、なんであんな木の上なんかにいたのよ?」
「あいや、自分で登ったわけちゃいますねん。最初の場所で説明を聞いた後、気がついたらああなってましてん」
つまりは、最初から木の上にワープさせられたということらしい。
「いやあ、面食らいましたわ。ただでさえあんなわけわからんこと言われて……
あ、そういえば、助けてもらったことで安心してましたけど、ハビリスさんは素直に殺し合いをする気は……」
「まあ、今のところは無いわね」
そんなこと、考えてもいなかったというのが正しいのだが。
「それは安心しましたわ。お腹も空かへんのに、そんな物騒なことするわけにいきまへん。
それで、どうするつもりですん?」
「そうねえ……他の生き物たちがどう考えているのか探るのが先決じゃないかしら。
素直に殺し合ってる生き物が多いのか、私みたいな意見が多数派なのか」
「確かにそれは重要ですなあ。早速そうしましょ。ほな、まずは明るくなるまでにもうちょっと開けたとこに行きましょうか」
なんだか知らないうちに、一緒に行動することになっているらしい。
まあいいか、と彼女は思った。どうせ、長い付き合いにもなるまい。
そして彼らは、密林の中を、草や蔦を掻き分け、倒木を踏み越えながら歩いていった。
ずるずる。
ずるずる。
ずるずる。
……………ずるずる。
「ったくもう、もう少し早く歩けないの!?」
「か、堪忍してえな。陸の上に上がったことなんか初めてですきに……」
【一日目・黎明】
【南アメリカ・アマゾン中心部】
【ホモ・ハビリス】
【状態】健康
【思考】他の参加者の考えをさぐる
【備考】メス・若者 アフリカ出身
【パキディスクス】
【状態】健康
【思考】他の参加者の考えをさぐる
【備考】オス・老人 ヨーロッパ近海出身
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