俺ロワ・トキワ荘にて行われている二次創作リレー小説企画の一つ。Perfect World Battle RoyaleのまとめWikiです。

「が……あ、ぐ、うあ……ッ!」
全身を四方八方に捻り、頭をかきむしり、ただひたすらに耐え続ける。
体の中から強火でじっくりと焼かれるような感覚と、戦い続ける。
折れれば終わり、この体を支配されてしまう。
そうなったときの為に、隣の男にはお願いをしてあるが、出来ればそうはなりたくない。
だって、自分もまだ生きたいのだから。

けれど、けれど、このままなら。
きっと"ラピス"は居なくなってしまうのだと思う。
地球意志だかなんだか知らないクソッタレに、か弱い女子高生の体が乗っ取られてしまうのだ。
そんなことは、許せるはずがない。
けれど、息巻いたところで何がどう変わるわけではない。
平行、ないしこちらが少し不利な状況が続いたままだ。

「お、ぐぇっ、ごはっ」
少しばかり血の混じった胃液とともに、空気の塊を吐き出す。
ゴパッと泡が弾ける不快な音と、液体が地面に衝突する不快な音が合わさる。
けれど、倒れない。
人間の限界まで前のめりになるだけで、倒れない。
まだ、自分が自分自身であると、言い続けることが出来ているから。
この手は、この足は、この目は、この体全ては。
ラピスという、一人の少女の持ち物であると、声を大にして叫ぶことが出来るから。

けれど、その意志はじわりじわりと焼かれ続ける。
そんな間にも地獄のような痛みは続き、我が身を苦しめていく。
いや、苦しめられているのは、"自分"そのものか。
相手は"自分"ではないのだから、言ってしまえば"私"を弱らせてしまえば、勝ちなのだ。
そして、"自分"は少しずつながらも確実に弱っている。
これが続けば、乗っ取られるのは時間の問題である。

そう、何かきっかけがなければ。
自分の中で暴れる"大蛇"を治める、きっかけがなければ。
もう、しばらくもしないうちに、乗っ取られてしまう。

ふと、思い返す。
今でこそ自分が扱っている紫電を、初めに扱っていた彼女のことを。
捻れた時空の所為で蘇り、そして自分にこの力を託して死んでいった彼女のことを。
初め、彼女は力を押さえつけていただろうか?
いや、違う。
彼女は、力を押さえつけてはいない。
むしろ、解き放っていた。
わざと自由自在に暴れさせ、それをうまく操っていたのだ。

今思えば、危険な芸当である。
暴走機関車の進路上を、暴走機関車と同じ速度でレールを敷くようなものだ。
一歩間違えば即アウト、力に飲み込まれかねない。
だが、柔を以て剛を制すとはよく言ったもので。
わざと暴れさせるのも、手として無いわけではないのかもしれない。

どの道、こうしていれば肉体を乗っ取られるのは目に見えている。
だったら、万が一でも操れる可能性に賭けた方がいいか。

数秒、悩んでからふと笑う。

そして天に手の平を掲げてから、しばらく固まり。

その手をそのまま、水平に凪いだ。

迸る、雷閃。

紫と白が、一瞬だけ世界を包む。

「っぶねぇ……」
手を掲げたのが何かの前振りだと、なんとか察することが出来たブライアンは、その場に素早く倒れ込むことで雷の刃を避けることが出来た。
距離としてはそこまで伸びなかったらしい、他の戦闘グループには影響は無さそうだ。
それより、心配なのは目の前の少女だ。
ブライアンは急いで起き上がり、前を向く。
目の焦点をブライアンに合わせ、少女はにこりと微笑む。
どうやら、まだ何とかなっているらしい。
あわてて声をかけようとするブライアンより先に、少女が口を開く。
「ごめん、しばらくこれ続くよ。死ぬ気で避けて」
「ちょっ」
ブライアンが何かを言おうとすると同時に、再び紫電が大気を走る。
押さえることをやめる、逆に言えば好き放題に解き放つということ。
意図しない方向にも飛ぶし、その威力はどれほどなのか放っている本人でさえ把握できない。
ひょっとしたらものすごく弱いかもしれないし、ひょっとしたらものすごく強いかもしれない。
とにかく、当たってはいけないと言うことだけは、分かる。

時に全てを斬る刃のように。
時に全てを貫く槍のように。
時に全てを砕く槌のように。

雷は姿形を変え、ブライアンに襲いかかる。
避けるという行為がそこまで得意ではないブライアンにとっては、それはとても大変な時間だった。
元はといえば彼はアメフト選手である。
どちらかといえば、避けると言うより襲いかかる者を無視して突き進むのが彼だ。
だが、今の相手はそうも言っていられない。
当たればどうなるか、今のブライアンには想像も出来ない。
故に走る、故に飛ぶ、故に避ける。
まどろっこしさと戦いながらも、少女の意図しない刃の数々を避け続けていく。
ブライアンの少し上の空から、目の前の空間から、二本の足で立っている地面から。
それぞれから襲いかかる雷を、ただ、ただ避け続ける。

一見、終わりのない不毛な行為に見える。
持ち前のスポーツ根性と、鍛えた体力にも、そろそろ限界が訪れようとしている。
「ちきしょう、まだか!」
「あとちょっと、あとちょっとで掴めそうッ!」
少女が声を上げてブライアンに伝える。
長きに渡る一人演舞も、ようやく終わりを告げる時が来る。
後少し、と頬をたたいてやる気を入れ直す。
「ごめん、最後に一発、デカいの撃つよ!」
「おう! どんときやがれ!」
表情が若干明るくなった少女に、ブライアンは笑顔で答える。
大衆のヒーローは常に笑顔を絶やさない、笑顔には力があるから。
だから、ブライアンはこんな状況でも、笑う。
その笑みに安堵を覚えたのか、少女も笑ってから、手を天に翳す。
そして、驚くほどにゆっくり、そして確実に。
その手を、振り下ろしていく。
「行くよォッ!」
「おうっ!」
少女のかけ声とほぼ同時、ブライアンが走り出す。
ほぼ同時、今までとは比べものにならない雷柱が、ブライアンが立っていた場所に落ちる。
ブライアンが回避に使っていた空間を、全て飲み込むように。
けれど、ブライアンは。
「ふぅっ……間一髪タッチダウン、か」
ほんの少し横、黒焦げた地面の隣に、倒れ込んでいた。
というより、最後の最後で飛び込んだと言った方が正しいか。
本人が言うように、それはまるでタッチダウンを決めるような行動だった。
だが、その決死のダイブは、ブライアンの命を救った。
もし飛び込んでいなければ、ブライアンの命は無かっただろう。
額に浮かんだ冷や汗を拭い、ブライアンは少女の方をむき直す。
「大丈夫か!」
「なんとか、ね」
焦るブライアンの問いかけに、少女もにっこりと笑う。
暴れ狂う雷を、ようやく窘めることができた。
思い通りに操ることはできなくても、飲み込まれることはない。
そう確信した笑顔だった。
「そろそろ、扱えそうなんだけど――――」
が、その笑顔は瞬時に曇る。
同時に少女の体が後ろにのけぞり、少しけいれんした後に今度は激しく前に折れる。
すぐさま大きな血の塊を吐き出し、荒く咳込んでいく。
「最ッ……悪」
その瞬間、少女は理解した。
力を使うのは、無償ではない。
肉体の疲労や、様々な物を代償とする。
つまり、自分の体が弱るのだ。
"放てば扱えるかもしれない"と認識させることで、肉体の疲労を招く。
自分自身に、してやられたのだ。
そのとき、ぐらりと体が傾く。
視界は少し暗くなり、目の焦点がずれ始める。
「あ、無理かも――――」
気がゆるんだ、向こうからすれば、この上ない絶好のチャンス。
もう、抗うことをあきらめようか、そう思っていたとき。
ドスリ、と少し強めの衝撃が走る。
急激に景色を取り戻した両目で、何が起こったのかを認識する。
そこには、自分のか細い腰を全力で支えようとしている、男の姿があった。
「ちょ!? アンタ、何やってんのよ!」
「聞いたことあるか!」
男は言葉を続ける、いや、言葉を叫ぶ。
「ニッポンのよお! "人"って漢字はよお! 人間と、人間が支え合う様子からできてるそうだ!」
人という漢字の成り立ち、それができあがるまでの理由。
どこかで聞いたそれは。
「アメフトのスクラムも一緒だ! 人と、人が支え合って、大きな力として立ち向かっていく!」
自分の人生とも、密接に関係していた。
彼の生活、夢、アメリカンフットボール。
それもまた、人と人が支え合い、力となって相手に立ち向かう。
そう、少しだけ、忘れていたこと。
「間違ってたんだ、アンタと俺、それぞれが頑張るんじゃない。
 地球意志だの何だのに屈しないって姿勢を、人間が協力したらスゲェちからになるんだってことを、証明するには!
 俺らで協力すりゃあ! いいんだ!」
か細い少女の体を支えながら、ブライアンはひたすら叫ぶ。
「頑張れ! どれだけつらくて、体が折れそうで、倒れそうでも!!
 俺が、ずっと支えてやる! だから、負けるな!!」
どれだけ倒れそうになっても。
どれだけ疲れて力が入らなくても。
どれだけ絶望して挫けそうになっても。
ブライアンは、絶対に彼女を"倒さない"。
「"勝て"!!」
言葉とともに、しっかりと少女の体を支える。
「オッケィ、後悔しても知らないよ」
その言葉に、少女もゆっくりと微笑む。
そして天に向かって手のひらを突き上げ、それをゆっくりと握りしめてから。
「かかって、きっやっがっ」
全身の力をその拳に込め。
天高く、空高く、どこまでもどこまでも届くように。
「れええええええええええええええええ!!」
空気を裂くように、叫んだ。








同時に、巨大な雷柱が、二人を飲み込んでいった。








不思議なことが一つだけあった。
ブライアンはただ支えていただけではない、寧ろ今までの選手活動で培ってきた"全て"をぶつけて彼女を支えていた。
支えているのはブライアンただ一人、ブライアンが力を加えれば彼女は倒れ込んでしまうはずなのに。
ブライアンとほぼ同等の力が、なぜか逆側からかかってきていた。
誰もいない、誰もいないはずの空間なのに。
まるで彼女を、ラピスを両側から支えるように。
力を抜けば、それこそバランスが崩れて倒れてしまう。
そんな不思議な感覚を、覚えていた。

視界が白に染まっていくのは、確かに感じていた。
不思議と痛覚はない、それも当然か。
あんな巨大な雷に飲み込まれて、生き残っている方がおかしいのだ。
痛覚を感じる前に、物言わぬ死体になって当然だと、思っていた。
だが。
「あ……れ……?」
現実は、違う。
痛覚がないのは事実だった、何故なら痛みの原因となるモノが何もないからだ。
確かに雷柱は自分たちを包み込んだ。
けれど、傷の一つもついていない。
何が起こったのか、何をしたのか、それは覚えていない。
そしてもう一つ。
不思議なことに異様なまでに体が軽い。
心の底から食い破られそうだった感覚も、身を焼くような痛みも、何もない。
雷もここに来る前と同じように、軽く扱うことができる。
一体、何があったのか。
「……やったな」
ぼけっとしているところに、ブライアンに話しかけられる。
そう、彼からしてみれば自分が"勝った"ように見える。
実の所は、何が起こったのか何も把握していないのだが。
とにかく、押さえつけることには成功したようだ。
ひょっと、華の女子高生がそんな訳分からないのに犯されてたまるか、という気持ちが強かったからだろうか。
ふっ、と笑いをこぼすと同時に、ラピスは目線を動かす。
「じゃあ、次も"勝ち"に行こうぜ」
ブライアンのその言葉に、ラピスはこくりと頷く。
ともに向くのは同じ方角。

見据えるのは、一点の白。

完全者、ミュカレの姿。



【ラピス@堕落天使】
[状態]:オロチと契約、首輪解除
[装備]:一本鞭、ライター
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本:完全者をシメる
[備考]
※オロチと契約し、雷が使えるようになりました。
※もう大丈夫です。
※おそらく、シェルミーの技が使えます

【ブライアン・バトラー@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:首輪解除
[装備]:シャベル
[道具]:基本支給品、GIAT ファマス(25/25、予備125発)
[思考・状況]
基本:夢と未来を掴み、希望を与えられる人間になる。
1:"勝つ"



そして、その二人を見つめ。

ふふっ、と笑う。

そこにいない、誰か。
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085:2K+2
投下順
ブライアン・バトラー
087:完全"新"殺
ラピス

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