人間が動物、獣人、モンスターなどに変身する描写(獣化)を含んだ小説を公開したり、作品を紹介したりするサイトです。

思春期、という言葉で片付けられてしまえばそれだけなのかもしれないけど、私は色々と悩んでいた。進路のこと、友達のこと、家族のこと、そりゃあもう色々と悩んでいた。なりたい自分なんて分からないし、自分の本質なんて全く見えない。そんなもやもやを抱え込んだまま突入してしまった中学2年の夏休みは、宿題の多さも手伝って、私は自分の部屋で椅子にうなだれながら陰鬱な気持ちでぼーっとしていた。

「暇そうだな」

そんな私を尻目に、私と机を並べる少年は一生懸命に筆を走らせている。私はちらっと横目で彼を見たが、自分と瓜二つの、しかも性別の違う顔が真面目な顔をしていると、なんだかむしょうに恥ずかしくむずがゆい気持ちになってしまい、すぐに目をそむけた。

「何をそんなに一生懸命にやってるのさ。宿題?」

私は彼と反対方向の、窓の外を見ながら彼に問いかけた。

「んにゃ、数独」
「あんたも暇じゃん」
「まぁね」
「……宿題、どうするのさ」

私はもう一度ちらっと彼の顔を見ながら問いかけると、彼も私の方をちらっと見てつぶやいた。

「奏(かなで)のを写すつもりだけど?」
「や、私は響(ひびき)のを写すつもりだし」

予想通り私の名前を出してきたので、私も相手の名前を出して答えた。

「やっぱ、いつも通りか」
「じゃ、なんかやって負けた方が1教科担当?」
「いつも通りなら、そうだな」

私は身体を起して、今度はしっかりと彼…響と向かい合う。私たちはさっきまでの暇を持て余した様子から打って変わって、真剣な表情になる。同じ学校、同じ学年だからこそできる、相手の宿題を写すという行為。私たちが双子だから出来る特権と言えるかもしれない。

「で、何で決めるのさ?」
「数独?」
「得意なあんたが有利じゃん」
「じゃあ、何がいいんだよ」
「ゲームでいいしょ。スマブラとかさ」
「それこそお前の方が強いじゃんか」

真剣な顔して、私たちはくだらないことやり取りを繰り返した。その議論の時間と、さっきまでの暇していた時間を足してしまえば、既に一教科ぐらい終わっていたかもしれないというのに。だけど、こういう無駄な時間が楽しくて、有意義で、すごく青春って感じがして。
あっという間に過ぎていくこの貴重な時期を食いつぶしていることは分かっていたけど、それが思春期だと割り切っていたし、それで私たちは楽しかった。きっとそれは、本当の意味で、時間の大切さを理解していなかったということなのかもしれないけど。


[newpage]

「……響」
「何だよ」

響は数学のノートを広げつつ、不機嫌そうに返事をした。じゃんけんと言いだしたのは響の方なんだから、負けてふてくされられても困るのだけど。

「夏、どっか行く?」
「……プールぐらいは」
「男同士で?」
「それを聞いてどうするんだよ」

正直それを聞いてもどうすることもない。ただ何となく、聞いてみただけだった。

「行きたいね、プール」
「行きたいな」
「行く?」
「いつ?」
「今から」

私のその言葉に、彼は少し眉をひそめたが、数学のノートと私の顔を二度ほど交互に見た後、一つ大きなため息をしつつ背を伸ばして答えた。

「行くかぁ」
「気分転換にもなるしね」
「転換って、別にまだ何もしちゃいないし」
「まぁね」

そうやり取りをしながら私たちは少し笑いをこぼした。短い短い夏休み。宿題の多さに滅入りはするけど、どうせ中三になる来年の夏休みは受験で遊べないのだから、今のうちにしっかりと遊んでおかなきゃ、と思うわけで。

そして私たちは早速プールに出かける準備をして、母さんに説明した後、暑い夏の日差しの下に飛び出した。

「暑っ」
「いいじゃん、プール日和でさ」

私は腕で日差しを遮りながら空を見上げた。雲ひとつない青空。その清々しさは、色々な悩みを抱えている思春期には、憎たらしくさえ映るけど、まぁ、別に気にしなければ気にはならないわけで。

「ほら、行くぞ」
「ん」

響の呼びかけに応えながら、私は彼の背を追って走り出した。

慣れ親しんだ自分の家など振り返ることも無く。

この家を二度と見ることが無くなるなんて、想像さえできなかったから。


[newpage]

「……何だあれ?」

近所の市民プールへ歩いて向う途中だった。響はふと空を見上げながら立ち止まった。

「どうしたの?」
「あれ」

響はそう言って空を指差した。その方向に目を凝らすと、確かに何かが見える。鳥のようにも見えたが、何か違う気がする。ただ遠すぎて鳥でないという断言もできなかった。

「恐竜っぽくね?」
「恐竜は空飛ばないしょ」
「ほら、プテなんとか」
「プテラノドンは翼竜。恐竜じゃない」
「細けぇって」

そんなやり取りをしつつも、私たちは空から目を離さなかった。空を見ているうちに、謎の影は二つ、三つと増えていく。そして四つ目はここから少し離れたところから飛び上がって来たが、その姿を見て私たちは息を呑んだ。

「……見た、よな」
「……うん」
「……怪物、だよな、あれ」
「多分……ガーゴイル」

私はパッと思い浮かんだ名前を呟いた。ガーゴイルは翼を持った怪物を象った彫刻の名であり、その怪物自体を指すこともある。だけどそれは怪物、つまりは空想の話。ガーゴイルと呼ばれる像は存在するけど、怪物のガーゴイルなんて存在するはずもない。

「それに、なんか背中にいるぞ、あれ」
「え?」

響の言葉を聞いて、私は改めてガーゴイル(?)の背中を見てみると、確かに何か小柄な生き物がガーゴイルの背中に乗っている。ガーゴイルのサイズと比べると、小学校低学年ぐらいの子供の背格好だろうか。だが、ガーゴイルでさえやっと姿が見えるかという距離の所にいるのに、その背中にいる生き物の姿など肉眼ではとらえることはできなかった。

「なんだろう、あれ……」

興味につられて私が一歩前に出ようとした、その瞬間だった。

「グレムリンだよ」

どこからともなく、かわいらしい子供の小声が聞こえてきた。私と響は一瞬顔を見合わせると、すぐにあたりを見渡した。すると続けてまた声が聞こえてきた。

「こっちこっち」

声を頼りに目を動かすと、細い路地の奥に小さな影を見つけることが出来た。だが、その姿を見た瞬間、私たち二人はまたあのガーゴイルを見た時と同じ用に息を呑んだ。

背の高さは100センチぐらいだろうか。周りの建物の影となり、一瞬は普通の人間の子供にも見えたが、すぐにそうではないことに気づく。真っ先に目が行ったのが顔だった。それは兎によく似た顔だったけど、毛の色は黄色く、瞳の色は美しいエメラルド色をしていた。赤いマフラーを巻き、茶けたマントを羽織っていたが、微かに見える手先足先は白い毛で覆われており、明らかに人のそれとは異なっていた。

「はじめまして、地球の人」

兎……のようなその子はにっこりとほほ笑みながら頭の上にピンとたった自分の耳を指でなぞった。

「……地球の人は挨拶もできないのかい? 地球の国の中でも、日本の国の人は割と礼儀に詳しく、うるさいと学んでいたのだけれども」
「あーいや、ちょっと待って、え?」

今目の前で起きていることが全く分からない。彼は誰?彼は何?空にいるあれは何?グレムリンって何?地球の人ってどういうこと?

「なるほど、優れた処理能力を持つ種族と言っても、この程度か。でも、これだけの文化技術を作り上げるだけはあって、僕に対して投げかけたい問いはある程度絞り込めているみたいだね」
「……え?」
「君たちの顔を見れば、僕にはそれぐらいのことはわかる」

兎のような彼は、自信ありげにそう言い放った。もう突っ込みどころ満載だけど、一切無視して要点だけ聞こう。

「あなたは誰?グレムリンって何?」
「そうだね、自己紹介をしなければ。僕はヨウェク・カウェズ・ジェロメルア。偉大なるグレムリンの王の子供にして、本星から現在指名手配中のためこの星に逃亡してきている。地球の人の年齢に直すと、大体15歳ぐらいらしい。よろしく」

嗚呼もう面倒くさい。自己紹介してもらっただけで突っ込みどころが山のように増えてしまった。状況を整理したくて質問しているのに、余計な情報が増えすぎていく。

「えーっと」
「お、初めて言葉を発したね、地球の人の男の方。何かな?」

今までずっと黙っていた響がようやく口を開いて、ヨウェクと名乗った兎っぽい彼に更に問いかけた。

「ひょっとしてグレムリンはこの星以外から来た異星人で、あの空にいるガーゴイルに乗っているのもグレムリンで、あいつらは指名手配の君を追っている?」
「御名答。いや、今のは質問だから御名答と褒めるのは正しくない表現かな?いや、今のは質問ではなく確認と考えれば、使い方として間違いでは……」
「今はそんな話どうだっていいしょ!」

一人暴走するヨウェクの言葉をさえぎるために、私は少し大きな声で叫んだ。ヨウェクは言葉を止めて、最初にしたのと同じように耳を指でなぞった。私は彼が黙っているのを確認すると、言葉をつづけた。

「大体何で同じグレムリンに追われているの!?それに何で私たちに話しかけてきたの!?」
「大事な質問だが、一つ目にはこたえられない。二つ目のは、君たちに命令したいことがあったからだ」
「……命令?」
「僕を守れ。あいつらから」

今、ものすごく辞書を引きたい。そして傲慢、我儘、自己中の項目にヨウェク・カウェズ・ジェロメルアのことって書き足したい。

「いくら王の子とはいえ、少し無理が過ぎるな。俺たちはあんたの部下ではないから、あんたの命令を従う理由は無いんだ」
「それは理解している。理解したうえで言っている」
「困ったな、それはたちが悪い」

響はあからさまに困ったというジェスチャーをして見せた。だが、その様子にはまだどこか余裕が見える。私よりも、落ち着いてはいるみたいだ。

「うん、大体二人の特徴は把握できた。せっかくなので名前を聞いておきたい」
「何で名乗らなきゃいけないの!」
「僕は自己紹介をした。君たちは自己紹介をしていない。これは理由にならないかな?」
「っ…!」

ここへきていきなり正論を吐かれると辛い。彼のさまざまな点に正論で突っ込みたいため、先手を打たれてしまった感じだ。

「俺は、音羽響。こいつは音羽奏。見ての通りの双子だけど」
「なるほど、双生児でも個体で特徴が大きく変わるのはどこの星でも同じなんだね。いい勉強になる」

ヨウェクは身体を左右に振りながら、感心したという表情を浮かべた。さっきから感情を表すジェスチャーは全く私たちの文化と異なるが、表情があるのは私たちと変わらないのだなと感じていた。

「さてと、音羽奏。出来れば君に協力してほしい」
「いやです」
「残念だけど拒否されても困る。なぜなら……そういう状況ではなくなってしまったからね!」

彼はそう叫びながら私の方に向かって飛びかかってきた。私は一瞬身構えたが、飛びかかってくる彼の後ろに、巨大なガーゴイルの影を見つけた瞬間、彼に手を伸ばしてぐっと彼を引き寄せた。

ガーゴイルの鋭い爪は空を切ったが、あと少し私が彼を引き寄せるのが遅ければ、彼は大変なことになっていたかもしれない。

そしてとっさに彼をおんぶして走り出した。中学生の私には彼は少し重かったが状況が状況だけに、投げ出すわけにはいかなかった。

「代わるか?」

響が問いかけてきたが、私は首を横に振った。

「体力なら、私の方があるでしょ」

私はそう強がって見せたのもつかの間、足がもつれて思いっきりこけてしまった。道路に私とヨウェクの身体が転がる。

「言わんこっちゃない」

響は私を助けようと駆け寄ってくるが、その時ヨウェクの声が倒れる私の後ろから聞こえてきた。

「こういう言い方をすればおかしいけど、君が地面に手をついてくれたことは都合がよかった」
「……え? それってどういう……」
「説明の手間が省けるからさ。モノリスのね」

彼はそう述べると手を地面につけて息を一つ吸うと、周りの空気が震えるほど大きな声で叫んだ。

「モノリィィィス!」

その瞬間、突然地面が揺れたかと思うと、道路が光だし、私が倒れているあたりがいきなりぐんっとせり上がった。よく見ると、何か巨大な石板のようなものが地面から生えているようで、私とヨウェクはその上に乗っている状態だった。響はとっさに離れたらしく、少し離れたところで呆気にとられた表情でこちらを見ている。

「悪いけど、一切の解説は行わないし、一切の質問も受け付けない!」

ヨウェクはそう言い切ると自らの胸の前あたりを腕ですっと横に切ると、そこに私の足元にあるのと似た石板の、小さいやつが現れて宙に浮かんでいた。

「目覚めろ!大いなる力!トランススコア!」

そして彼がそう叫びながら小さな石板に触れると、私の足元の大きな石板から光があふれ始め、そしてそれが瞬く間に私の体を包み込んだ。

「な、何これ!?」

疑問に思うのもつかの間、全身に違和感が生まれ始める。慌てて自分の手を確認した時、私はぞっとした。私の手は見る間に形を変えていき、5本あった指の2本が短くなり、残りの3本は太く変化し、指先からは鋭い爪が飛び出し始めた。皮膚からは徐々に色が失われ、美しくも不気味な白く滑らかな皮膚へと変質していく。

「いや、やめてぇ!」

そう叫ぶが、ヨウェクは何も答えてくれない。私の変化を黙って見ているだけだった。

どうやら私の体は徐々に大きくなっているらしく、着ていた服もズボンも縫い目から破れていき、徐々に私の体があらわになっていくが、新たに見え始めた部分も既に肌は白くなっていた。脚の形も大きく変化し、つま先からかかとまでがぐっと伸びて、まるで獣の後足のような骨格へと変化していった。お尻からはにゅるっと蛇のような尻尾が伸び始め、元気なく垂れ下がっていた。

「こんな、こんなコト……グルル……キャウゥゥ……!?」

変化は外見だけじゃなくて、声にまで容赦なく襲ってきた。人間とは思えない、甲高い獣の鳴き声へと変わり果てていく。そして声の変化に合わせて、白い皮膚と骨格の変化はとうとう私の顔にまで及んできた。鼻と顎はぐっと前へと突き出し、まるで犬のマズルのように変化していく。口元には鋭い牙が生えそろい、耳は左右へ大きくとがり、髪の毛は黄金色に変色して、長い長いたてがみと化した。

そして最後に背中がむずむずしたかと思うと、ぶわっと鳥のような羽毛を持つ翼が生え広がった。

全ての変化が終わった瞬間、私はたまっていたエネルギーを発散させるように、天に向かって大きく口を広げて咆哮を上げた。

「グウォォォォォォォォウ!!」

だが、叫び終えた瞬間、はっと我に帰ると、自分の身に起きた事態に焦り始めた。思春期がどうのこうのとかすっ飛ぶような、大変なことが起きてしまったらしい。

「奏が……ドラゴンに……!?」

ふと聞こえてきたのは、響の戸惑う声だった。私がドラゴン?初めはその意味を理解したくなかったが、すぐに自分の体を見直して、いやでも理解してしまった。

白い皮膚、長い尻尾、鋭い爪を持つ手足、黄金色のたてがみ、美しい翼、5メートルはあるかという大きな体。

それは神話などに出てくる、ドラゴンの姿そのものだった。

「やはり僕の目に間違いはなかった」

そしてようやくこれまで黙っていたヨウェクが口を開いた。私はどういうことなのかと問いかけたかったが。

「グウォウ!……グ、グウォ……グゥ、キュゥゥゥ……!?」

大変な問題に気付いた。この姿では、私は喋ることすらできないみたいだ。どうしよう、これじゃ何も伝えられないし聞くこともできない。

「大丈夫、何も心配しなくていい」

ヨウェクは自信ありげにそう言い放ち、更にこう付け加えた。

「偉大なるグレムリンの王の子供と大いなるドラゴンの末裔が手を組むんだ。これほど心強いことは無い。そうだろう?」

今、彼は何と言った?ドラゴンの末裔?それは私のことを言っているの?私はドラゴンの末裔だから、ドラゴンに変身してしまったの?

さまざまな疑問を胸の内に抱えている私とは裏腹に、ヨウェクはにやりと笑みを浮かべた。まるでこれが、全ての始まりだと言わんとするがごとく。

続く

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