人間が動物、獣人、モンスターなどに変身する描写(獣化)を含んだ小説を公開したり、作品を紹介したりするサイトです。

ヨウェクの不敵な笑みをその眼に焼きつけながらも、私はただただ心を落ち着けることだけで精いっぱいだった。駄目だ、状況を整理しなきゃ。そう思って首を横に振ろうとした時、自分の頭が思った以上に左右に振られたことに気がつき、それと同時に体のバランスを崩して私はその巨体を受け身も取れずに地面にたたきつけてしまった。

そう、か。今の私はドラゴンになってしまったから、首もすごく長くなっていたのか。小さな行動を一つ取るたびに、人間の体とのギャップに戸惑ってしまう。人間にはない尻尾と翼はまともに動かせなくて邪魔なだけだし、手足の長さも形も変わってしまって、身体のバランスをとることさえままならなかった。

「大丈夫か、奏」
「ギャォゥ……」

横で私の様子を見ていた響が心配そうに問いかけてくる。私は大丈夫、と答えようとしたが、喉からこぼれたのは甲高い獣の鳴き声だった。駄目だ、言葉が話せないという状況にもまだ慣れない。

「さてと、これで僕にもあいつらに対抗する手段が出来たことになる」

長く不慣れな体でもがく私を横目に、ヨウェクは淡々とした声でそうつぶやいた。彼が目を向ける先にはガーゴイルが集結し始めていたが、なぜか彼らはこちらを襲おうとしない。いくら私がドラゴンの姿になっているとはいえ、こんなまともに動けないドラゴンにおびえたりするのだろうか。

「多くのグレムリンはドラゴンの力を知っている。ガーゴイルなどでは太刀打ちできないとね。たとえ相手がドラゴンになりたてで、まともに戦うことが出来ない地球の人の女だと分かっていても、なかなか手が出しづらいのさ」

私の表情を見て、私の抱いていた疑念を感じ取ったのか、ヨウェクは自らの長い耳をいじりながら答えてくれた。そしてその耳を触っていた手を、倒れている私の首筋に優しく乗せてきた。

「そしてあいつらが躊躇している今こそ、逃げる格好のチャンスと言うことになる」
「逃げる、のか?闘えはしないのか?」

ヨウェクの言葉に、響は身を乗り出すようにして問いかけてきた。ヨウェクは表情を変えることなく響の方を見ながら答えた。

「君はドラゴンに変身した自分の双生児に闘ってほしいのか?」
「闘ってほしくないから聞いたんだ」
「なるほど、そういう質問の仕方もあるね。安心すべきか心配すべきかは分からないけど、立つことさえままならないドラゴンに闘えなどと言うほど僕は、思慮が欠落したグレムリンではないよ」

ヨウェクはその優しげな言葉とは裏腹に、突然私の首元によじ登り、背筋を伸ばしてまたがりだした。

「だけど、僕を守るために精一杯逃げろとは命令するけどね」

どうやら私に乗っかって今のうちにこの場から逃げ出すつもりらしいが、肝心の私はさっき彼が口にした通り、立つことさえままならない状況だ。飛んで逃げるどころか、歩くこともできないぐらいだ。いくら相手が躊躇しているとはいえ、逃げ切ることなんてできそうになかった。

「不安そうな顔をしなくてもいい。言っただろう?僕は偉大なるグレムリンの王の子供、君は大いなるドラゴンの末裔。偉大なるグレムリンの王家は大いなるドラゴンの扱い方を学んでいる」

そう言ってヨウェクは自らの手元に浮かんでいる小さな石板に触れると、まるで印を切るように指で素早く石板をなぞった。するとそれに合わせて私の体は、私自身が力を入れていないのに勝手に動き始めた。

「まさか、奏を操っているのか?」
「御名答。……おっと、また質問に対して使ってしまったね。まぁどうでもいいことだけど」

二人の言うとおり、今の私の体はまるで操り人形のようにヨウェクの思うままに動かされているらしい。この身体に慣れていないせいで力の入れ方もわからないから、抵抗さえ出来なかった。

私は首筋にヨウェクを乗せたまましっかりと二本の足で立ち上がり、大きな翼をぶわっと横に広げた。少しだけ羽が舞い上がり、風に乗って飛んでいく。

「音羽響、君も乗るんだ」
「俺が、奏に?」

響が私の顔を見上げる。どこか不安げな彼の顔が私の眼に映った。私はしばらくそれを見下ろした後、長い首を少しだけ動かし、頷いた。それを見た響も小さくうなずいた。ヨウェクに操られて私は身をかがめると、響もヨウェクと同じように私の首筋につかまる。二人を乗せた私の体は、またヨウェクに操られて立ち上がる。

「さぁ、急ぐよ」

ヨウェクがそう告げてまた石板をなぞろうとしたその時だった。私は何かがぴぃんと張り詰める気配を身体で感じ取った。そして慣れない身体を動かしてとっさに一歩後ろに飛びのいた。

「うわっ」
「どうしたんだよ、勝手に動いて!」

背中に乗っている二人の声が聞こえたが、それをかき消すように強い衝撃音が私の目の前で発生した。初めは何が起きたか分からなかったが、すぐに私の目の前に巨大な拳が叩きつけられていることに気付いた。その拳の主は、やはりガーゴイルだった。だが、さっきまで私たちが見ていたガーゴイルと違い、色は赤く、少しだけ大きく、頭に鋭い角が生えていた。

「どこへ急ぐというのだ、王子」

そして目の前のガーゴイルの背中から声が聞こえた。声だけ聞けば、大人の女性の声だった。見ればやはり、グレムリンと思われる姿がそこにあった。青くつややかな毛を光らせて、ヨウェクよりも少しシュッとした顔立ちをしていて、少しだけヨウェクより背が高そうだが、それ以外の容姿がよく似ているから、きっとやはりグレムリンだ。華奢で愛らしい身体に無機質な鎧を纏う姿はどこか不自然で滑稽だった。

「トゥキリ……そうか、君が来たのか」

今までと打って変わったヨウェクの神妙な声が聞こえてきた。首をまげて彼の表情を伺うと、声同様に顔も引き締まっていた。このトゥキリという女のグレムリンとは知っている仲のようだ。

「私はただ、任務として受けただけだ」
「君なら僕を連れ戻せる、上はそう判断したのだろう?」
「それは、本国に戻った後上に聞くといい。私の知るところではない」

そう言ってトゥキリは手元の小さな石板に触れた。……どうやら、ガーゴイルも私と同様に、グレムリンが石板で操っているようだった。

「ソードスコア」

トゥキリは短くそう言いながら自らの手元の石板を動かした。するとその時石板からメロディアスな音が聞こえてきたかと思うと、トゥキリの乗った赤いガーゴイルの前に大きな剣が姿を現した。トゥキリのガーゴイルはそれを手に取ると剣先を私に向けてきた。

「私と戦え、王子」
「僕がトゥキリと闘う理由は無い」
「私にはある。任務と言う理由が」
「君の闘う理由など、知るものか。僕に戦う理由がないのだから、闘う気などない!」

ヨウェクはそう叫ぶと自分の手元の石板を急がしそうになぞり続ける。だが、私の体が操られる気配はなかった。

「……何をしている?」
「トゥキリ、君も偉大なるグレムリンの王に仕える身なら僕らのこと、そしてドラゴンのことを知っておくといい。偉大なるグレムリンの王の一族には伝統的な戦いの発想法がある」
「それは『逃げる』、だろう?」
「御名答。……だけど、それを当てることが出来ても、僕をみすみす逃がすことになるのだけどね!」

ヨウェクは嬉しそうにそう言うと、ばんと力強く自分の石板を手のひらでたたいた。するとさっき剣が出てきたときとは比べ物にならない大きく美しく長い音楽がヨウェクの石板から奏でられた。

「導け!ゲートスコア!」

そして次の瞬間私と目の前の赤いガーゴイルの間に、大きくなった私の体の、更に二倍はあるのではないかという巨大な扉が出現し、すぐに私に向かって開かれた。だが、扉の向こうに見えたのは、赤いガーゴイルではなく深い木々のおい茂った森だった。

「ちぃ、逃がすか!」
「遅いね」

トゥキリの焦る声が聞こえたが、私の巨体はヨウェクに操られるまま巨大な扉の中へと飛び込んだ。私はすぐさま首をひねらせて扉を見たが、扉はすぐに閉じ初めており、閉じる直前にようやく赤いガーゴイルが回りこんでこちらに入ってこようとした姿が見えたが、すぐに扉は閉じてしまい、更に一瞬で扉は消えてなくなってしまった。

[newpage]

さっきまでのあわただしい状態からは一変、深い森の中で、背中に双子の兄弟と、なんだかよくわからないウサギみたいな生き物の王子様を乗せたまま、私は呆然と立ち尽くしていた。

「さてと。君のドラゴンの力のおかげで無事逃げることが出来た。褒めてつかわすよ」

ヨウェクがそんなようなことを言っていたが、私の耳には入ってこなかった。ただただ、ここまで起きた全ての事がありえないことの連続すぎて、頭の中で全く処理が出来ていなかった。

「奏、大丈夫か?」
「グゥゥ……」
「……言葉が通じないの、やっぱり不便だな」

余り大丈夫じゃないかも、と言う風に答えようとして、途中で自分が人の言葉を喋れないことを思い出してやめてしまった。

いきなり目の前に変な生き物が現れて、ドラゴンの末裔だなどと言われドラゴンの姿に変えられて、勝手に身体を操られて。ただプールに行こうとしていただけなのに、どうしてこんな目に会わなきゃいけないんだろう。

じかに自分の姿を見たことはまだないけど、きっとこんな姿じゃ誰も私だって分からないだろうな。……しかも、もしこのまま元の姿に戻れなかったりしたら……私は一生ドラゴンとして生きていかなきゃいけないのか。そんな不安ばかりが脳裏をよぎっていく。

すると、そんな私の不安げな様子を感じ取ったのか、響はヨウェクに向けて問いかけた。

「奏は元の姿に戻れるのか?」
「勿論可能だ。僕が変身の解除を行えば、元の姿に戻れる」
「そう、か」
「ほっとしたかもしれないが、まだ解いてあげるつもりはないけどね」

ヨウェクは感情の薄い口調でそう切り捨てた。

「こっちは協力している身なのに、そういう言い方は無いんじゃないのか」
「何を怒っているのか分からないけど、あいつらはいつ襲ってくるかわからない。すぐに闘ったり逃げたりできるよう、ドラゴンの姿のままの方がいいのは当然だと思うのだけど」

彼が王家の人間だからなのか、それともグレムリンと言う種族の気質なのかはわからないが、私たちとは感覚がずれているようだ。理不尽な態度に怒ったりしても、もしかしたら無意味なことなのかもしれない。

「まぁ、いい。とりあえずいい加減、奏から降りよう。……重いだろ?」

私は響の問いかけに小さくだけ、本当に小さくだけ頷いた。今の私からすれば、響もヨウェクも大して重さなど感じていなかったが、私の背中で喧嘩を始められるのだけは勘弁してほしかった。

ヨウェクもまた無言でうなずいたあと、石板を操作して私の体を操り、身をかがめさせられて、二人がすっと下りれる体制を作らされた。

「ありがとう、奏」

響は素早く私の背から降りると、私の大きな頭の横に立ち、私のたてがみを、頭を優しくなでてくれた。

普段は自分とよく似た顔をしている双子の姉妹が、突然自分とは似ても似つかない、それどころか人間の面影すらない異形の姿に変えられてしまって、言葉も喋ることも出来ず、謎の生物に勝手に操られる姿を、響はその眼でどうやってとらえ、どう考えているんだろう。

ヨウェクの態度にいらだちを感じているのは分かったけど、こういう状況下で努めて冷静であろうとしているのか、響の考えていることが上手く感じ取れなかった。

「とりあえず、色々と聞かせてくれ。今君に、俺に、そして奏に何が起きているのか。そして何が起きようとしているのかを」

響は鋭い目つきでヨウェクのことを見ながら、強い口調でそう問いかけた。だけどそんな響に対しても、ヨウェクは表情を変えることなく、頷くことも無く、響のことをただ黙って見つめ返しているだけだった。

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