人間が動物、獣人、モンスターなどに変身する描写(獣化)を含んだ小説を公開したり、作品を紹介したりするサイトです。

森の中を風が抜ける音だけが聞こえてくる。あたりはそれぐらい静まり返っていた。響とヨウェクはお互い相手を見つめたまま、黙り込んでいる。

本当は私が声をかけてこの状況を打破しなきゃいけないんだろうけど、今の私はドラゴン。言葉を話せない私には出来ないことだった。ドラゴンがどんなにすごい力を持っているとしても、その程度のことさえできない今の私は、強い無力感を感じていた。

長い、本当に長い沈黙が続いていたが、その沈黙を破ったのはヨウェクだった。

「もし今の状況を説明したり、質問に答えたりすることで君たちの協力が得られるなら話をしてもかまわないけど」
「話をしてもらったから、必ず協力するわけじゃないし、話をされなかったら協力をしないと言っているわけでもない。ただ、気持ちの問題だ」
「気持ち、ね」

ヨウェクは嘲笑気味につぶやいた。響はいらだちを押さえるためか、深いため息をつく。その様子を見たヨウェクは自らの耳をいじりながら言葉をつづけた。

「分かった。話を聞こう。僕にはドラゴンの力が必要だ。君たちがそれで快く協力してくれるようになる可能性があるのであれば、いくらでも話をしよう。だが、何の話からすればいい?」
「決まっている。奏はどうしてドラゴンの姿になってしまったんだ。ドラゴンの末裔ってどういうことだよ。奏に何をした」
「いっぺんに聞かれたって答えられないよ。一個ずつ片付けていこう」

ヨウェクはマントをなびかせて腕を組んだ。そして少し考えながら、言葉を切りだす。

「まず、ドラゴンの末裔って言うのは、そのままの意味だよ。ドラゴンの子孫、血族、そういう意味さ」
「答えになっていないな。そういうことを聞いていない。ドラゴンはそもそも空想上の生き物で……」
「本当にそう言い切れるのかい?」
「……どういうことだ?」

響は言葉を遮られて少しいらだちを見せたが、すぐさまヨウェクに問い返した。

「現代の地球の人はドラゴンを見たことは無いかもしれない。でも、いないという根拠はどこにもないだろう」
「でも」
「それに、たくさん見つかってるじゃないか。ドラゴンの化石が……恐竜と言う呼び名でね」

そう言った瞬間にヨウェクはにやりと笑った。響は少し戸惑った表情で私のことを見上げた。私に感想を求めている様子だった。

つまり、ヨウェクは見つかっている恐竜の化石は、実はドラゴンのものであると言いたいらしい。言っていることは無茶苦茶だし、何の根拠もないのは確かだが、それを否定する理由も証拠もなかった。

「君たちの知っている恐竜の姿は、地球の人の学者たちが状況証拠をもとに、もっとも理にかなって、もっとも可能性が高い姿を妄想しているにすぎない」
「……仮にそうだとして、俺たちがドラゴンの末裔って言うのはあれか、俺たちが恐竜から人間に進化したってことか?」
「つまるところそういうことだね」
「……無茶苦茶すぎる。じゃあ猿から進化した人間と恐竜から……ドラゴンから進化した人間がその……子供作れるのか? 種も全然違うのに」

響は眉をひそめて、言葉を考えながらヨウェクに問いかけた。ヨウェクは一つ小さな溜息をついて、また少し笑みを浮かべながら、そして胸を張りながら言い放った。

「種の壁なんて、君らが思ってるよりはるかに薄っぺらなものさ。だって、この地球の、この星の獣であることに違いは無いのだから」

ヨウェクの言葉に妙な自信を感じたのか、響はそれ以上そのことについては何も聞かなかった。すぐには信じることも理解することもできなかったのだと思うし、何より聞きたいことは他にもあるはずだ。

「で、どうして奏はドラゴンになってしまったんだ?」
「今も言った通り、君たちはドラゴンの末裔。その身にドラゴンとしての真の姿を持っている。僕はその姿をモノリスの力で解放しただけさ。そして……」

ヨウェクの説明はなおもつづいたが、私は今のヨウェクの言葉に引っかかり、それ以上耳に入ってこなかった。

ドラゴンとしての真の姿。

つまりそれを言いかえれば、今のこのドラゴンの姿が……鋭い爪や、尻尾や翼まであるこんな姿が、私の本当の姿ってことになる。だとすれば、今までの私の姿は……14年間自分の姿だと思っていたあの人間の姿は何だったのか。いつも鏡に映っていた、写真に映っていた、響の姿と照らし合わせていた、あの姿は、誰の姿なのか。

私は、誰なんだろう。

急に体中から力が抜けていき、私は立っていられずにその場にどしんとお尻をついてしまった。尻尾もビタンと地面にたたきつけて。

「大丈夫か、奏!?」

ヨウェクの話を聞いていた響が、はっとした表情で私のことを見上げた。だけど正直、大丈夫じゃなかった。今の今まで、話の流れが速くて自分に起きた出来事を整理しきれなかったけど、落ち着いてきて、さっきの言葉を聞いて、私の中の何かが脆くなっていた。

私は普通の人間じゃない。

その事実が重く私の心にのしかかるのを感じていた。締めつけられた心から、あふれだす感情は喉を伝わって口からこぼれ出るけど。

「グウォォォォゥ……キュゥゥ……!」

その声はただの獣の唸り声にしかならない。人間らしい声なんて、言葉なんて話せない。その事実が無性に悔しくて哀しかった。

そんな私の様子を、響は黙って見ていたが、不意にヨウェクの方を振り返って一言問いかけた。

「俺も、ドラゴンの末裔なんだよな?」
「勿論、双生児だから当然そうなるね」
「俺はドラゴンに変身できないのか?」

響は真剣な表情でヨウェクを見つめた。彼も響のその表情から何かを感じ取ったのか、すぐさま答えを切り返した。

「変身することはできる。が、僕はあまりそれを勧めない」
「どうしてだ?」
「君と音羽奏を見たときに、音羽奏の方が運動神経がいいと判断した。事実そうだろう?」
「……まぁ」
「その音羽奏でさえ、ドラゴンになった自分の体をまともに操れない状況をみて、君が何も理解しないはずはないと思うのだけれども」
「でも、会話ぐらいはできるんじゃないのか? ドラゴン同士なら」

そう言って響は私を再び見上げた。

そうか、響は私に気を使っているんだ。言葉を話せない姿に、人間とかけ離れた姿に変えられた双子の私にのしかかるものを、少しでも抑えようと、自らも同じドラゴンになることで和らげようとしてくれているんだ。

「僕が学んだ限り、モノリスの獣同士なら会話は可能だ」
「モノリスの獣、と言うのは人間がモノリスを使って変身した姿のことか? ドラゴン以外にもあるのか?」
「御名答。僕は偉大なるグレムリンの王の息子としてドラゴンを扱うが、それ以外の獣を扱うグレムリンの一族もいる」
「だったら」
「だが君をドラゴンに変えることはしない」
「……なんでだよ」

自分の意見を言う前に、それをヨウェクに否定され響はむっとした表情を浮かべたが、ヨウェクはそれを気にすることもなく言葉を続ける。

「僕一人で君たちドラゴンを二体同時に使役することは可能だ。けど、正直難しいし逆に戦力ダウンの要因になる。ドラゴンに変身してもらうのは音羽奏一人で十分だ」
「でもっ」

響は更にヨウェクに迫ろうとしたが、私はすっと彼の肩に自分の爪を……彼の指よりも大きいのではと思う爪を彼の肩にかけてそれを制止した。

「奏……」
「キュゥゥ……」

私の小さな鳴き声を聞いて、響は少し私を見つめた後、小さくうなずいた。

ありがとう。

ごめんね。

そういういくつもの感情を込めた鳴き声が、響に伝わったみたいだった。確かに、人の言葉は話せないから、難しい会話はできない。でも、同じ血が流れ、14年間生活を共にしてきた私たち双子にとって、簡単な意思の疎通なら言葉なんてなくても……私が人間でなくなってしまっても、とることが可能なんだ。

自分がドラゴンだったなんて、すぐに認めるのは辛くて出来ないけど、私には響がいる。理解して励ましてくれる大切な双子の彼がいる。

理不尽にドラゴンに変えられて、理不尽に戦いを強要されて、納得いかない部分だって多々ある。だけど、今はヨウェクと行動を共にするしか、人間に戻る術も闘いから抜け出す術もないのだから、私のできること、すべきことは決まっていた。

「……王子」
「なんだい?」
「って呼んでいいのか?」
「え?」

響の突然の質問に、ヨウェクは長い耳をいじりながら首をかしげた。

「あのトゥ……なんとかって言うグレムリンは君のことをそう呼んでいた。俺達にはヨウェクって発音しづらいし、出来れば王子って呼び方の方がしやすいんだけど」
「別にどう呼んでくれたって構わないよ。僕が自分を僕だと認識できれば」
「じゃあ王子。次の質問をしていいか?」
「いいよ」

ヨウェクはそう言って身体を左右に揺らしながら響の問いを待った。響は少し息を吸い込んで、まっすぐヨウェクの方を見ながら問いかけた。

「グレムリンは、何者なんだ? さっき異星人と言ったけど。 ……王子は、どうして追われているんだ?」

次の瞬間、ヨウェクは動きを止めて響の方を見つめ返した。だがすぐに響から目線を反らして上を見上げた。そしてぽつりとつぶやく。

「地球は、いい星だと思うよ。空が、きれいだ」
「……何の話だよ」
「……いや、何でもない。分かった、そのあたりも説明するよ」

ヨウェクは顔を下げて響の方を見つめ直した。風は少し冷たくなり、日も少しずつ低くなりつつあった。

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