人間が動物、獣人、モンスターなどに変身する描写(獣化)を含んだ小説を公開したり、作品を紹介したりするサイトです。

ある夜、有名な企業の会長が自室でナイフが胸に突き刺さった状態で死亡しているのが発見された。遺書などは発見されなかったが、彼の会社は数ヶ月前から不正経理や顧客情報流出、商品の欠陥などで市場評価は底を這っており、いつかはこういった事態になるのではないかと誰もが予想していた矢先での出来事だったし、金品が物色された形跡が無いことや彼の死亡状況を考えると、やはり自殺以外は考えられなかった。彼の家族もそれを疑わなかった。こうしてその業界において一時代を築いた男の一生はあっけなく幕を閉じることになった。

彼の死後、彼の財産は当然家族が相続した。その遺産の多くには彼が世界各地から集めた様々な品が混じっている。骨董品や絵画、インテリアなどに明るく、コレクターとしてもその筋では有名だった。しかし、主をなくしたこれらの品々は、彼の遺族には最早不要なものであり、先行きの見えない会社経営をも抱え込んだ以上、無駄なものはお金に変えてしまおうと考えるのがやはり一般的であり、彼の遺族もその例に漏れなかった。彼のコレクションは正当な方法でオークションやバイヤーに渡り、それぞれがそれぞれを求める人の手へと渡ることになった。

「その中の1つが、このラファイエットの『赤い雪』。ラファイエット末期の作品で、彼自身の集大成とも言われている作品群の1つね」

そう言って眼鏡をかけた少女が自分の手に持っていた画集を広げ、ある絵を指差した。テーブルを挟んで、眼鏡の少女と丁度向かい合う形で別の少女がその絵を見て、確信したかのように叫んだ。

「そうです!・・・父が2ヶ月前に買ってきて部屋に飾ったのを見ましたが・・・これで間違いありません!」

解いたら腰まであろうかというロングヘアをポニーテールでまとめた少女は、その髪を揺らし画集を食い入るように見る。その目には涙がにじんでいるようにも見えた。

「2ヶ月前・・・丁度小笠原会長の遺品、特に絵画のオークションが行われた頃だし、彼が持っていた『赤い雪』は本物だと言われているから、多分貴方の父親が買ってきたものは本物で間違いないと思うわ」

涙を浮かべるポニーテールの少女とは対照的に、眼鏡の少女は表情一つ変えず淡々と語った。すると、眼鏡の少女の後ろで腕を組みながら2人の話を黙って聞いていた少年が口を開きポニーテールの少女に問いかけてきた。

「で・・・檜山京香さん・・・だったっけ?俺らのところに来たって事は、この絵が怪しいと・・・そう考えたって訳か?」

ポニーテールの少女・・・檜山京香は無言で頷いた。それを見た少年は、目の前の眼鏡の少女に呼びかける。

「どう思う、真緒?やっぱり、有りえるか?」
「・・・ラファイエットは過去に何件かやってるでしょ?覚えていない?」
「・・・マジ?・・・ていうか、仕事でやった画家の名前なんて一々覚えちゃいないよ!」
「全く・・・この業界に居るのだからいい加減に少しは勉強を・・・」
「分かった分かったって!今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ!」

そういって少年は京香の方を指差す。眼鏡の少女、真緒は渋い顔をしながら再び目線を京香に向ける。

「・・・それで、貴方が何故ここに来たのか、話してもらえる?」
「・・・父は・・・その絵に殺されたんです・・・!」

京香は声を震わせながら、しかししっかりとそう答えた。真緒と少年は顔を見合わせ、改めて問いかける。

「どうしてそう考えるの?」
「父は・・・ラファイエットをはじめ・・・この時代の作品の画家を愛する収集家でした・・・。そんな父が日頃から一度でイイから見てみたいといっていたのが、ラファイエットの『赤い雪』でした・・・。その絵が日本にあり、小笠原会長がもっていると知っていた父はずっとその絵を見る日を夢見ていたといっても過言じゃありませんでした・・・。そして2ヶ月前、小笠原会長の急逝を知った父は、不謹慎とは理解していたでしょうが、飛び上がって喜んでいました。これで表に出てくると。」
「そして、オークションで見事競り落としたわけね?」
「はい・・・しかし、それから・・・父の周りで・・・」

京香の言葉が詰まる。少年は京香の後ろに回りこむとそっと彼女の肩に手を置く。そして、

「大丈夫・・・落ち着いて話して」

と優しく語りかけた。京香はその言葉を聞くと、一度大きく深呼吸をして、しばらく目をつぶり考えにふけりながら気を落ち着かせた。そしてゆっくり目を開け再び語り始める。

「あの絵を買って以来・・・父と・・・父の周りで不可解な・・・言ってしまえば不幸が重なったんです・・・」
「例えば?」
「突然・・・前触れ無く父の会社は倒産をし・・・さらに父は不正経理に携わっていたという濡れ衣を着せられてしまい・・・それが濡れ衣だとはすぐ判明したのですが父の社会的地位はあっさり奪われてしまい・・・そして・・・2週間前・・・自分の部屋で・・・首を・・・!」

そう言うと、張っていた糸がプツリと切れたかのように京香は泣き崩れてしまう。

「自殺するには十分な動機はあるってことね・・・」
「父は・・・父は自殺じゃ・・・自殺じゃありません・・・!」

真緒の言葉に京香は顔を上げ強く反論する。

「・・・何故そう言えるの?」
「父は・・・強い心を持った人で・・・どんなに辛くても命を投げたりは決してしません・・・!あれは・・・おかしな話ですが・・・あの絵が父を殺したと・・・私は考えてます・・・!」

目に涙を浮かべながら京香は自分の思いを目の前の少年と少女にぶつけた。

「そう意地悪するなよ・・・真緒」
「別に意地悪じゃないわ。檜山さんがどういう考えを持ってるか聞き出しただけよ」
「聞き方がえげつないっつの。15歳のうら若き乙女がやる尋問じゃないでしょ?」
「・・・貴方に意見を受ける筋合いも無いわ」

そういって真緒は人差し指で眼鏡をクイっと上げる。そんな彼女を尻目に、今度は少年が京香に質問する。

「まぁ、それでその絵が呪われてるなり何なりしてるんじゃないかって事で俺らのところに来たって事だね?」
「はい・・・こういったことに詳しい人を・・・探したら貴方たちの名前を聞いて・・・」
「じゃあさ、もう俺らがやることは決まったんじゃないの?だろ、真緒」
「勝手に決めないの。もし本当にそうだとしたら、こっちにだってリスクが当然あるわけだし・・・」
「大丈夫だって。お前には迷惑掛けないし」

少年にそういわれると、真緒は深くため息をつき頭を抱えた。

「貴方のお人よしには敵わないわ・・・金にならない仕事なんて私の流儀に反するのに・・・」
「おいおい、同じ学校の生徒から金取る気でいたのかよ!?第一お前は1年で桧山さんは2年、年上だろうが!」
「歳は関係ないわ。2年生の私に従う形で仕事している貴方みたいな3年生もいるわけだし」
「う・・・!」

少年は痛いところを突かれたという様な表情を見せる。

「・・・まぁいいわ。学校みたいに人の集まりやすいところは噂も立ちやすい・・・話を大きくせずに、客を選ぶように宣伝するにはいいステップになるでしょうから・・・貴方の好きにしていいわ、豊田先輩」
「そう来なくっちゃな?」

豊田と呼ばれた少年は、改めて京香のほうを見て優しく微笑んだ。

「大丈夫・・・君の父さんの死の真相は突き止めて見せるし・・・絵の呪いも解いてみせるよ」
「あ、有難う御座います・・・!」
「礼はまだ早いって・・・本当に仕事を成功できるかどうかなんてまだ分からないし」
「でも・・・警察や他の人に言っても・・・絵が人を殺すなんて誰も話し聞いてくれなくて・・・それを聞いてくれただけでも嬉しくて・・・!」
「まぁ・・・そういう仕事やってるから、別に今更そんな話聞いても驚かないし過去にも見てきてるからね・・・兎に角
改めて自己紹介させてもらうよ」

そういうと少年は手元から名刺を取り出し京香に手渡す。

「俺は豊田晃。君と同じ高校の普通科の3年で、絵画の呪いとか解いたりとかそういう専門的な仕事をしてる。そっちの眼鏡は本条真緒。同じく高校1年だ」

そういって晃は手を伸ばしてきた。京香も手を出し、そして強く握る。

「改めて宜しくな」
「こちらこそ・・・御願いします・・・!」

京香は目に涙をためながら精一杯答えた。



翌日、晃と真緒は京香の家に向かった。

「どうぞ・・・今日は母は出かけているので、家には私しか居ませんから大丈夫です」
「じゃあ、お邪魔させていただきます」

そして真緒は『赤い雪』が飾られている父の部屋へと案内した。ドアを開けると丁度目の前にそれは飾ってあった。丁寧に、それだけでも十分芸術価値があるのではないかと思われる額の中に飾られ、しかしひっそりとその絵は彼らを出迎えた。『赤い雪』という名だけあってまるで鮮血の如き鮮やかな赤をこれでもかとぶちまけたその絵は、丁寧なラファイエットのタッチの上に激しさと言う別の要素が加わることにより、ただの風景画でしかないにもかかわらず躍動感を感じさせ、それがこの作品の芸術的評価を高めることになった。

「・・・真緒、どうだ?一応聞くが本物か?」
「待って・・・見てみるわ」

そういって真緒はいわゆる鑑定士がよく着用する薄手の手袋を着け、絵画全体をなめ回すように見入った。そして確信を持って呟く。

「・・・本物のラファイエットで間違いなさそうね」
「じゃあ、早速始めるとするか」

そういって晃は着ていた上着を真緒に手渡し上半身裸の状態となり、そしてグッと伸びをして体を左右に倒したり、屈伸運動したりなど、まるでこれから試合に臨むスポーツ選手のように準備運動を始めた。流石にいきなり少年の、上半身だけとはいえ裸を見せられた京香は戸惑いを隠せない。

「あ、あの・・・」
「ん?何だい?」
「呪いを解くって・・・どうやってやるんですか?見たところ・・・何か道具とか持ってきていないようですが・・・?」

確かに真緒が何か小さなバッグを持ってきているが、そこから何か出す様子は無く、晃にいたっては殆ど手ぶらに近い状態でここに来ている。特に何か特殊な道具を持ってきている様子は無い。

「はは・・・除霊みたいのイメージしてたんだろうけど・・・俺らの仕事には道具は必要なくてね。必要なのはこれだけさ」

そういって晃は自らの身体を指差した。

「身体・・・だけですか?」
「そう・・・これさえあれば十分なのさ」
「でも、それでどうやって・・・?」
「見ていれば分かるわ」

真緒は、まるでもう喋るなと言わんばかりに鋭い言葉と目線を京香にぶつけた。京香はそれを気に黙り込み晃の様子をただ見つめることにした。・・・しかし、晃といい真緒といい、自分と同じ高校生とは思えないほど落ち着きがある。やはり彼らが高校生でありながら既に生業を持っているからだろうか。

「さてと・・・じゃあそろそろ行くか」

晃はようやく準備が整ったのか、一度大きな深呼吸をつくと、身体を動かすのをやめた。そして目をつぶりまるで瞑想するかのようにそのままじっと動かなくなる。その様子をただじっと見詰めていた京香に真緒が小さな声で話しかけてくる。

「・・・これから・・・面白いものが見れるわよ」
「え・・・?」
「多分・・・貴方がイメージしている呪いの解き方と、大分違うと思うわ」
「それってどういう・・・?」
「見てれば分かるわ・・・ほら」
「・・・え!?」

彼女たちが晃を見ていると、晃の様子が明らかにおかしくなっている。表情こそ落ち着いているように見えるが、眉は険しく、今まで見ていた優しい彼の表情からは想像もつかないものだった。京香は彼が苦しんでいるようにも見えたため声をかけようかともしたが、真緒が落ち着きを払っているところを見ると、自分が思っているような苦しみではなく、仮に本当に苦しいのだとしても、今この絵の呪いを解くには必要なことであり、いつものことなのだろうと自らを納得させその様子を見続ける。

すると、次第に彼の身体に表情などではなく肉体的な異変が生じ始める。突然目を見開いたかと思うと、叫び声ともうなり声ともつかない声を上げながら身体を小刻みに震えさせる。やがて体中の筋肉が力強く太いものになったかと思うと、全身から毛が噴出し始めた。上半身裸のためその様子がよく分かるが、その毛は白と黒のハッキリとしたストライプを描き、特に背中にはそれが顕著に現れていた。そうしている間にも彼の身体の肥大は進んでいき、細身の彼が履くジーンズはあっけなく悲鳴を上げ破けていく。

「・・・!」

京香は思わず叫び声を上げそうになったが、ただの布となったジーンズが破れ落ちるのと合わせて、彼は身体をかがめ、両手を地面につき丁度四つんばいの状態になり、また既に十分長い毛が身体を覆っていたため、予想していた事態にはならなかった。京香は、そんな想像と、そんな想像をした自分のことが恥ずかしくなり顔を赤らめるが、そんな彼女をまるで気にも留めず晃の変化は続く。ここまで彼の身体は大きく、筋肉質になり毛が覆っている程度だったが、やがて骨がきしむような音が聞こえてきて全身のシルエットにも変化が生じる。今まで四つんばいといっても、結局ひざが地面についている状態だったが、そのひざがグッと持ち上がる。よく見ると彼の脚のサイズが大きくなったのに対し、長さに大きな変化が無かった。いや、変化が無いのは足首の部分までで、足の部分は見る見る変化が訪れる。指の1本1本が太く短くなり、先端から人のものとは異なる、たくましく尖ったつめが伸び始める。そしてつま先からかかとまでがどんどん長くなり、そのつま先だけで身体を支えるようになったため、ひざが地面につく必要が無くなったのだ。それは手においても同様だった。白い毛で覆われた指は短くなり、手のひらには黒く柔らかな、地面を捉えるのに有効な肉球が生じる。それは最早手ではなく、前足と呼ぶにふさわしい物になっていた。こうして彼の四肢は4本全てを使い歩くのに適した形状となった。その間、左右の後足の付け根、いわば尻のところから背中と同じストライプを持つ長い尻尾がすっと伸び、辺りを伺うヘビのようにゆっくりと左右に揺れる。

首から下の形状が整うと、ついに残るは頭部のみなった。既に顔の周りにまで毛は生じていたが、徐々にそれが顔全体に広がっていく。彼が目を閉じると、顔の形状も変化が生じる。まず鼻が少しグッと上に持ち上がったかと思うとそれが上あごを引っ張るように前に突き出し始める。そして鼻は鮮やかなピンク色に変色し、鼻の下から上唇にかけて一筋の黒い筋が生まれ、鼻の下からは白く長いヒゲが何本も生じた。そのヒゲと同じような毛が目の上からも眉毛の変わりに何本か生えていた。耳も大きく三角形に尖り、徐々に頭頂部に向かって移動していく。耳が完全に頭の上に来た頃には耳の内側にも柔らかな毛が生じていた。そしてゆっくりと目を見開くと、元々茶色だった瞳の色は、今はエメラルドのように輝く鮮やかな緑色を放っていた。京香はその生き物を見て呟く。

「白い・・・虎・・・!?」

さっきまで人間の少年だったその姿は、今は大型の猫科の動物、しかも白と黒の鮮やかな縞模様を持つホワイトタイガー・・・いや白虎と呼んだほうが格好がつくだろうか・・・四肢で力強く大地を掴みそこにたたずんでいた。そして人間の姿の面影さえ残さないその姿に京香は唖然としたが、しかしやがて恐る恐る聞いてみる。

「豊田・・・先輩・・・ですか・・・!?」

白虎はグルゥと喉を鳴らし首を縦に振った。そして白虎となった晃は口を開き、一度咆哮する。その時見えた歯は、鋭い肉食動物の牙だった。細部まで虎そのものとなったようだった。

「じゃあ、頼んだわよ」

真緒は表情一つ変えず晃にそういうと、晃は再び頷き、そして勢いよく地面を蹴り絵に飛びかったのである。

「え!?」

当然、普通に考えれば絵に勢いよく飛びつけば絵にぶつかるはずだが、そうはならなかった。虎が絵に触れた瞬間絵が光に包まれ、まるでそこにに何も無かったかのように虎は絵の中に吸い込まれていく。そして光が消えた時には絵にも異変が起きていた。

「・・・これは・・・!?」

血のように赤く染まっていたあの絵が、まるで何も描かれていない真っ白な一枚の紙となっていたのだ。

「これは・・・一体・・・!?」
「・・・今彼は、絵の中で戦っているの」
「戦っている・・・呪いと・・・ですか・・・?」
「そう呪い・・・まぁ、私たちは絵に巣食う悪魔と言う意味で安直に絵魔という呼び名で呼んでいるけど」
「絵魔・・・?」

絵魔。父の命を奪った者の名を聞いた京香は、しかし彼女に出来ることは無く、まるでさっきの虎になった晃のように白くなった父の遺品を見つめ続けた。



『また・・・随分と激しいところだな・・・』

そこは一面を赤で染められた世界。上下前後左右、あらゆる方向を見ても見えるのは赤、赤、赤のみ。その赤だけの世界にまるで水滴を落としたかのように白い影が降り立つ。先ほどの白虎、つまり晃だ。彼は一通り辺りを見渡し、そして鼻と耳をぴくぴくと動かしながら周囲を探る。彼の探し物は、案外すぐ見つかった。

『・・・そこか・・・!』

彼がその鋭い目で睨みつける先には、晃とは対照的に赤い世界に存在するもう一つの異色。黒い影がうごめくのに気付いた。

『お前がこの絵の絵魔か・・・!』
『ググ・・・聖獣ノ臭イダナ・・・』

黒い影は晃を見るなり片言に呟いた。

『グ・・・最近マズイ命バカリ喰ラッテイタカラ・・・久々ノ御馳走ダ・・・』
『奇遇だな・・・俺も丁度腹空かしてたんだ!』

晃はガァッっと咆哮すると前足で力強く地面を蹴り、絵魔に飛び掛った。しかし影は素早く身体を浮かしあっさり白虎を避けた。

『礼儀ノ無イ聖獣モイタモノダ・・・コチラガ戦ウ準備ヲスル前カラ襲イカカルトハ・・・』
『礼儀もへったくれもあるか!戦力を整える前の敵を討つのは正攻法だろうが!』
『ググ・・・弱イ聖獣ラシイ卑怯ナ手ヨ・・・』

そういって影は目にも止まらぬスピードで上空を駆け抜ける。

『く、逃がすかよ!』

白虎もその4本の足で大地を蹴り影の後を追う。影は地の利を活かし振り切ろうとするが、晃は影のスピードについてきてそのまま追いかけっこのようにしばらく走り続けた。

『グ・・・シツコイケダモノメ!』

やがて影は痺れを切らしたのか、そういって上空から自らの体から尖った槍状の影を投げつけてくる。しかし、白虎はいともたやすく走りながらその槍を避けていく。

『何処狙ってんだよ!』
『グ・・・!何ダコイツノ速サハ・・・!』
『狙いってのはこう定めるんだよ!』

そう叫ぶと白虎はさらに力強く地面を蹴り空中に飛び上がる。そして前足を大きく振りかぶり、空中で強く振り下ろすと、その瞬間に空気中を切る氷の矢が現れ、さっきの影の矢をも上回る勢いでかげめがけて飛んでいく。影はそのことに気付いた時には既に身体に氷が刺さっていた。

『グゥアガゥウアァ!?』

言葉にならない叫び声を上げ、影はよろよろと姿勢を崩し地面に墜落した。そこにすぐに晃も追いつき、身動き取れない影を追い詰める。

『グ・・・何ダソノ技ハ・・・絵ノ世界デココマデ強力ナ力ヲ持ツ聖獣ナゾ・・・聞イタコトガ無イゾ・・・!』
『・・・絵魔は・・・色覚を持たないんだったな』

白虎は影の前にその巨大な身体を見せ付けるかのように力強く立ちはだかる。

『俺の姿が見えないなら分からなくても無理ないが・・・白き毛を持つ虎といえば知らない絵魔は居ないと聞くがな』
『・・・貴様ガ白虎ダトイウノカ!?』
『やっぱり、そういえば分かるんだな・・・いつもそうだよ』

白虎は深くため息をつき、そしてその深く、しかし澄んだ緑の瞳で絵魔を睨みつける。

『・・・お前が呪いで不幸を起こし、精神的に追い詰め、支配し、人々を自殺に追い込んでいた・・・そうだな?』
『グ・・・我々トテ生キル身ダ・・・我々ガ人ノ魂ヲ喰ラウノト、貴様ラガ我ラヲ喰ラウノト、違イハナイダロウガ』
『そうだ・・・俺とお前らは、つまるところ同族・・・化け物に過ぎないさ・・・』

そういいながら彼は右の前足の爪に力を込める。

『だが、俺達は人を救う側の存在だ!』

そう叫び、絵魔を思い切り爪で切りつける。絵魔は最早雑音としか聞こえない叫び声を上げながらその外観を消滅させていく。

『・・・聞こえてるかどうか分からないけど・・・卑怯な手を使っても勝とうとするのは俺が弱いからじゃない。プロは最も早く仕事を終えれる方法を行おうとするからさ・・・後のお楽しみのためにな』

そして絵魔の気配が完全に消えた後、そこにはどす黒く光る内臓のようなものがあった。

『さて・・・ディナーといくか』

白虎は舌なめずりをして左前足でそれを押さえ少しずつ口に運んでいった。



「その絵魔の心臓が、聖獣の糧になるの・・・この仕事は聖獣を身に宿した人間にとっては、人を救えるし、自分も飯にありつける、一石二鳥の仕事なの」
「そうなんですか・・・でも・・・まさか豊田先輩が虎に変身するなんて・・・」
「想像してなかったでしょ?」

虎となった晃が絵に飛び込んでから、一体どれだけの時間が流れただろうか。京香の父の部屋では真緒が聖獣と絵魔の関係やこの仕事がどういう仕事なのか、京香に話をしていた。

「でも・・・いくらなんでも時間かかりすぎじゃないですか・・・?」
「大丈夫・・・あらかた絵魔の心臓が大きいか美味いかで食事に時間がかかっているだけでしょうね」

丁度2人がそう会話をしているときに、にわかに額の中の白紙が光りだす。

「え・・・何!?」
「噂をすればなんとやら・・・戻ってきたみたいね」

真緒がそういうと絵の中から白虎が飛び出してきた。白虎は四本の足でしっかりと床に立ち、真緒のほうを見る。白虎は満腹になったのか、満足そうな表情を浮かべ、ガゥッと何かを報告するかのように一吼えした。そして今自分が飛び出してきた絵の方を振り返る。するとさっきまで白かった紙は再びあの赤い絵に戻っていた。

「・・・あれ・・・?」

京香はその絵をじっと見つめた。それは間違いなくラファイエットの『赤い雪』で間違いないのだが、どこか違うような気がした。

「この絵・・・何か変わりました・・・?」
「いいえ。聖獣が絵魔を喰らっても絵自体が変わることはないわ。・・・でも、あえて言えば絵魔がいなくなった絵は本来の美しさを取り戻すことになるから・・・そういう意味では今これがこの絵の真の姿というところね」

そう、絵に何か変わったところはなかった。しかし絵全体が放つ美しさが、前にも増しているような気がした。京香は絵をじっと見つめていたが、やがてその目に涙が溢れ始めた。

「思い出しました・・・」
「・・・?」
「・・・私たちは昔、北の方にすんでいたんです・・・それもかなり田舎の海沿いの家で・・・冬になると外に出ることさえ困難なほど大雪が降るところだったため、冬は必要以上に家から出ることが少なく、窓から景色を見るのが数少ない楽しみのひとつで・・・私は・・・私と父はよく、夕焼けで赤く染まった海と雪を眺めては、その美しさに見とれていたんです・・・」
「・・・この『赤い雪』もラファイエットが馬車である道を行くとき、外に見えた夕焼けで地平線の雪原が赤く染まっていたのを、馬車から見た景色として躍動感を持たせて描いたと言われているわ」
「父がなくなった今・・・真意は分からないけど・・・この絵は・・・私のために買ってくれたのかもしれない・・・!」

京香は絵を壁から外し抱きかかえ、そして泣き崩れる。しかし、以前のような悔しさや悲しみではなく、父との思い出に触れての涙だった。

「・・・いきましょうか」

真緒は小さな声で白虎に問いかけると、白虎はグルルゥと喉を鳴らし返事をした。そして1人と1匹は、少女と絵を残し部屋から静かに出て行った。窓からはまるでその絵のように真っ赤な夕焼けの光が差し込んでいた。

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