最終更新: quadruplus 2014年09月30日(火) 20:37:17履歴
第13セクタは3日前閉塞した。
第12セクタは昨日閉塞した。
そして、第11セクタは明日閉塞する。
少しずつ、少しずつ、僕らの世界は狭められていく。
偽りの空を見上げながら、僕はため息をついて汗を拭った。
遠くの街から聞こえる政府の定例放送は、今後のセクタ閉塞スケジュールを伝えている。
だけど、耳を傾ける余裕は、僕にはない。
ただ第11セクタを抜けて明日までに次の第10セクタに向かう。
そのことだけに必死だった。
だから本当は、ここで足を止めて悠長に休憩などしている場合じゃない。
足が動く限り一歩でも、一歩でさえも進まなければならない時だ。
けど。
「足の状態、どう?」
僕は後ろを振り返りながら問いかける。
彼女は少し離れたところの木にもたれかかりながら、足を押さえている。
僕の問いかけにはこたえることもなく。
「黙ってちゃ、わからないよ?」
僕は彼女の方に歩み寄りながら問いかける。
すると。
「…てって…」
「え?」
とても小さくて、とても弱い声。
彼女の透き通る様な細い声はいつも以上に力がなくて、聞き取れなかった。
僕はさらに彼女に近づき耳を傾けた。
「…置いてって。私を、ここに」
彼女が何を言っているのか頭で理解した瞬間、僕は鼻からゆっくりと息を吸い込んだ。
噴出した汗が全身からさぁっと乾いていくかのような寒さを感じた。
僕は湧き上がりそうな何かを必死に胸の内側へと押しやり、可能な限り感情を押し殺して言葉を吐いた。
「急にどうしたの。そんなこと言い出すなんて」
「私、足引っ張ってるから。…私を置いていけば、あなた一人なら、次のセクタまでも余裕でしょ?」
「君を置いて、僕一人で次のセクタにたどりついて、それで僕が満足するなら初めからそうしてるよ」
「そうじゃないから、私と一緒にいるってこと?」
「誰かと一緒にいるってことが、どういうことかって話」
「…あなたが一方的に感情を押しつけているだけじゃない」
知らずのうちに下唇を噛んでいたけど、痛みさえ感じなかった。
彼女の言葉が、僕の体のど真ん中を握りつぶそうとしているみたいだった。
彼女は僕の表情を伺おうとしたのか、それまでずっとうつむいていた顔を少しだけ上げた。
彼女の眼に映る偽りの空は、清々しいほど青く澄んで、美しかった。
彼女はまたすぐにうつむくと、膝を抱え込んでつぶやいた。
「一方的な、押しつけだから」
さっきの自身の言葉を反芻するかのようだった。
だけどその言葉は確かに僕の耳と心に突き刺さる。
彼女という存在を、否定された感じだった。
僕が勝手に作り上げていた彼女を、彼女本人の手で壊された感じだった。
「…ごめん」
謝罪の言葉を吐き捨てたのは僕のほうだった。
彼女に何と言い返せばいいのか分からず、ようや
第12セクタは昨日閉塞した。
そして、第11セクタは明日閉塞する。
少しずつ、少しずつ、僕らの世界は狭められていく。
偽りの空を見上げながら、僕はため息をついて汗を拭った。
遠くの街から聞こえる政府の定例放送は、今後のセクタ閉塞スケジュールを伝えている。
だけど、耳を傾ける余裕は、僕にはない。
ただ第11セクタを抜けて明日までに次の第10セクタに向かう。
そのことだけに必死だった。
だから本当は、ここで足を止めて悠長に休憩などしている場合じゃない。
足が動く限り一歩でも、一歩でさえも進まなければならない時だ。
けど。
「足の状態、どう?」
僕は後ろを振り返りながら問いかける。
彼女は少し離れたところの木にもたれかかりながら、足を押さえている。
僕の問いかけにはこたえることもなく。
「黙ってちゃ、わからないよ?」
僕は彼女の方に歩み寄りながら問いかける。
すると。
「…てって…」
「え?」
とても小さくて、とても弱い声。
彼女の透き通る様な細い声はいつも以上に力がなくて、聞き取れなかった。
僕はさらに彼女に近づき耳を傾けた。
「…置いてって。私を、ここに」
彼女が何を言っているのか頭で理解した瞬間、僕は鼻からゆっくりと息を吸い込んだ。
噴出した汗が全身からさぁっと乾いていくかのような寒さを感じた。
僕は湧き上がりそうな何かを必死に胸の内側へと押しやり、可能な限り感情を押し殺して言葉を吐いた。
「急にどうしたの。そんなこと言い出すなんて」
「私、足引っ張ってるから。…私を置いていけば、あなた一人なら、次のセクタまでも余裕でしょ?」
「君を置いて、僕一人で次のセクタにたどりついて、それで僕が満足するなら初めからそうしてるよ」
「そうじゃないから、私と一緒にいるってこと?」
「誰かと一緒にいるってことが、どういうことかって話」
「…あなたが一方的に感情を押しつけているだけじゃない」
知らずのうちに下唇を噛んでいたけど、痛みさえ感じなかった。
彼女の言葉が、僕の体のど真ん中を握りつぶそうとしているみたいだった。
彼女は僕の表情を伺おうとしたのか、それまでずっとうつむいていた顔を少しだけ上げた。
彼女の眼に映る偽りの空は、清々しいほど青く澄んで、美しかった。
彼女はまたすぐにうつむくと、膝を抱え込んでつぶやいた。
「一方的な、押しつけだから」
さっきの自身の言葉を反芻するかのようだった。
だけどその言葉は確かに僕の耳と心に突き刺さる。
彼女という存在を、否定された感じだった。
僕が勝手に作り上げていた彼女を、彼女本人の手で壊された感じだった。
「…ごめん」
謝罪の言葉を吐き捨てたのは僕のほうだった。
彼女に何と言い返せばいいのか分からず、ようや
コメントをかく