この頃、
シャリアル国との国境に駐屯していたのは
ボルゴスであったが、同僚であった
アリガルが次々と戦功を重ねるのに対して、自身は国境の城の城主にすらなれなかったことに不満を述べ、駐屯先の城主オーバストの失脚を密かに謀るものの、それよりも前にオーバストが病没したため、労せずして後任として城主に任命されていた。
この様に、
ボルゴスは野望に忠実な性格ではあったが、実力は本物であり、彼は
レイディック率いる主力部隊が到着するまでこの地を守り抜いた。
到着した
ロードレア国軍を迎え撃つべく、地形を最も有利に使える場所に布陣した
ディグド。
さすがの手腕に、
レイディックも感嘆の声をあげるが、
ヴェリアは
アレスと打ち合わせを終えると、すぐに出陣の準備に取り掛かった。
まずは
アリガルが真正面から突撃し、
ドラグゥーン部隊を突き破る勢いで、
ディグド本陣に迫るが、
サイリオス、
リガリオン部隊が、すぐさまこの
アリガル部隊に蓋を閉める形で包囲する。
これは
シャリアル三牙王が得意とした策で、この罠にかかった部隊は壊滅するまで脱出することすら許されず、これまでもこの戦法で幾度も勝利を重ねてきた。
しかし、今回はそれまで彼らが相手をしてきた敵将とは、格そのものが違っていた。
アリガルは、軍師
ヴェリアからあらかじめこうなることは聞かされていた為、慌てる事もなくそのまま
ドラグゥーン部隊への突撃を継続。
普段なら、敵軍は混乱を起こすのに、一向に動じない
アリガル部隊の前に、彼を包囲しようとした
サイリオス、
リガリオン両将の方が動揺するが、そこに、これまで国境の激戦区を渡り歩いた勇将
シルヴァス、更に
ボルゴス部隊が突撃を仕掛け、
シャリアル三牙王による包囲網を崩そうとする。
本来なら、これを妨害する筈に布陣していた右翼の
クレット、
バンガーナ、左翼の
ファクトだったが、
ラディア、
ラドゥ等の横槍によって、逆に混戦へと持ち込まれていく。
一度は混戦に持ち込むが、流石は
シャリアル国の誇る三牙王と軍師
ディグドであった。
これ以上の戦いは不利になると悟ると、すばやく撤退命令を下し、損害らしい損害も出さずに一線下がった場所で再布陣、
ロードレア国軍も追撃をせず、こちらも一旦後退し、両軍はにらみ合いの体勢をとった。
8月15日、このにらみ合いに耐え切れなくなった
ナッシュ部隊が、独断専行して
バンガーナ部隊への奇襲を敢行した。
ナッシュを副将として預かっていた
ラディアは、その無謀さを指摘するが、一方でその動機を聞かされて悩んでいた。
ナッシュはかつて
リディアニーグの策により、
ラディアの祖国
アゾル国を滅亡させている。
その後、紆余曲折を経て二人は
ロードレア国の将として並ぶ事となるが、過去のいきさつから、
ラディアは
ナッシュとの会話を職務上の最低限に留めていたが、
ナッシュは「いつか手柄をたててそれを
ラディアに献上し、過去の罪滅ぼしとしたい」と他者に洩らしていた。
その事実を知った
ラディアは、
ナッシュ救援の部隊を率いて出陣する。
だが、罪滅ぼしの覚悟があったとはいえ、
ナッシュの将としての器は、三牙王には遠く及ばず、彼の奇襲は看破されて反撃を受けていた。
そこに
ラディア部隊が現れ、突撃により敵軍を一瞬混乱させると、そのまま
ナッシュ部隊を回収して後退していく。
二人は帰還後、
レイディックに呼ばれ査問を受ける。
軍令にそむく事は重罪ではあるが、戦乱の時代においては軍令に背いたとしても手柄を上げれば相殺、場合によっては恩賞の対象ともなる風習があった。
しかし、今回の件は完全に
ナッシュの失敗であり、軍令違反は免れないと思われたが、これを
ラディアが弁護して彼を救う、ここに二人の過去は清算され、以後二人は私情を挟むことなく互いの職務に打ち込むこととなる。
また、全てを承知で罪なしとした
レイディックも、器の大きさを見せた。