「できた! 早速こっちのおにぎりとこっちのおにぎり、どっちが美味しいか味見してもらえる?」
 満面の笑みで皿に乗った、何とも綺麗な三角形に作られたおにぎりをリムは差し出す。形という点で言えば本当に申し分ない。
「それじゃあ、貰おうかな」
 右手と左手に一つずつ掴み、さっそく一口ずつウェントスは順番に齧り付いてみる。
「ん…どちらも美味しいけど、僕はこっちのほどよい酸味の効いた方が好みかな」
「なるほどなるほど……マーマレード味かぁ…ピーナッツバター味はちょっと失敗だったかな。
 ――いや、どっちも間違ってるから。
 ジョッシュはこの妹夫婦にそう突っ込んでやりたくてしょうがなかったが、当人が非常に満足しているのでわざわざ口を出すのも躊躇われる。
 この妙な味覚を矯正すべきか、ほっといても構わないものか、昔からジョッジュの悩みの種の一つだ。
「矢張り私はいつものジャム味が好きだな…」
 そう言ってラキもおぞましい甘味がたっぷり詰め込まれたおにぎりを頬張る。
「やっぱりスタンダードな味が一番だよね、うんうん」
 ――どこのスタンダードな。
 なぜか自慢げな妹にそう言ってしまいたいが、もう少し我慢する方をジョッシュは選んだ。
「ジョッシュ、お前も一つどうだ?」
 そう言ってラキは鮮やかな赤いジャムの具が見えるおにぎりをジョッシュに差し出す。
「い、いや、俺はいいよ。その…ちょっと今はジャムは気分じゃないんだ」
「そうか。かわいそうにな」
 一人納得すると、もう一口おにぎりに齧り付く。だが、形が崩れ始めたおにぎりをラキの手の中で維持するのは、少々難しかったようだ。
「む、むむ?」
 慌てて頬張ろうとするが、容赦なくご飯粒とジャムが零れ落ちる。
「い、いかん…」
「ありゃ、ラキさん、まだこういうのは苦手だもんね…」
 ご飯粒とジャムが口の周りに、肩先首元にも付着する。
「す、すまない、こういうのはまだうまくいかなくて…」
 申し訳なさそうにするラキの口の周りをぬぐいながら、ジョッシュはかぶりを振る。
「いいさ、その内できるようになればいいんだから。ただ、随分服についちゃったな…」
 とりあえずラキが着ていた白のジャケットを脱がしながらジョッシュは言った。ラキと一緒にいるようになってから、こういう衣服の洗濯方法は一回り詳しくなった気がする。
「もう夜だしさ、とりあえず服は洗濯しちゃってもうお風呂入っちゃったら? お風呂は沸いてるよ」
「ン…それもありかな」
 リムの言葉を生返事でジョッシュは肯定する。
「じゃあ、そうと決まったらお兄ちゃんはラキさんをお風呂に入れてあげてね」
「ああ…って、俺がか!?」
 今度は生返事というわけにはいかなかった。
「だってそうでしょ? 私はもうちょっとこっちを片付けなくちゃならないもん。それともお兄ちゃんはラキさんの面倒見るの嫌なの?
 ラキさんはどう?」
 リムの問いかけに、口元に手を当ててちょっと考え込んでからラキは控えめな声で言った。
「…できればジョッシュに手伝ってもらえると助かる」
 金色の瞳に覗き込まれながらそう言われると、もうジョッシュに拒絶することなどできるはずがない。
「わかった、わかったよ。ちゃんと面倒見るから…ほら、行くか」
「頼む」
 連れ立って、キッチンを出て行く二人の姿を見送ってから、ちらとリムはウェントスの方を見る。
「…ウェンはおにぎりちゃんと食べれる?」
「え? 大丈夫だよ?」
「……むー」

 さっきまでは何とも乗り気ではない様子だったが、こうやって互いに諸肌晒して寄り添えば、ただの求め合う男女だ。
 服を洗濯籠に放り込んで風呂場に入ると、そのまま唇を重ね合わせる。
「ん…ラキ、ここにもついてるぞ」
「あ…」
 一粒は指で取って口の中に入れる、一粒はそのまま唇を近づけて口の中に含む。べたりと付着しているジャムも舌で拭うように落としていく。
「あっ…んむっ…」
 そのままの流れで、舌と舌が絡み合う。口の中で溶けたジャムを混じり合わせながら、くちゅくちゅと音を立てて二人は唇と唇を吸い合う。
 口の中でご飯粒とジャムが混じり合っているが、こうなってしまうともう関係ない。むしろその甘味が好ましくすらある。
「はっ…あっ…」
 舌を這わせるジョッシュに合わせて、ラキもジョッシュの首元に顔を埋めて、ちゅぷちゅぷと赤子が母親に甘えるように音を立てて吸い付く。
「ここ、ついてるぞ」
「えっ…」
 今度はジョッシュがラキの首元に舌を這わせる。その感覚に、ピクン、とラキの身体が反応する。
 首元で動いていた舌は、そのままツツと舌にゆっくりと降りていく。胸元に移動していく、そのまま、控えめな乳房に、ツンと立った色素が薄めなピンク色の乳頭を捉える。
「そ、そこはダメ……はうっ!」
 優しく甘噛みされて思わずラキが声を上げる。乳房そのものが控えめな分、ラキの乳首は標準よりも大きめ…だろうとジョッシュは思う。比較情報は多くはないが。
 その大きめな乳首を舌で転がすと、可愛い声を上げながらもラキは次第に蕩けた声になっていく。
「はっ、はっ……はぁぁ……」
 次第に腰砕けになって、その場にへたり込んでしまう。
「…ジョ、ジョッシュのバカ……汚れを落としに入ったのに……また、汚れが……」
 じわりと染み出した愛液が、浴室のタイルの上にわずかに零れる。すっかりトロンとした目で、ラキはジョッシュを見上げる。
「…入るか」
「…ああ」
 その状態のラキの身体を抱え上げ、お姫様だっこの形で、ゆっくりジョッシュは浴槽に脚を入れる。
 そのままバランスを崩さないように、互いの身体を浴槽に沈めていく。
「はぁっ…」
 愛する人に身体を預けたまま湯船に身を沈める心地よさに、すっかり気持ちよさ気な声をラキは思わず上げてしまう。
「やっぱり…お前と入る風呂は最高だな…んむっ…」
 恍惚とした表情でジョッシュの唇と舌をはみながら、深い息を吐いてその心地よさを満喫していた。
「んっ……」
 ちょうど腰の辺りに、何かが当たるようなつっかかりを感じ、そこにそっと手を這わせた。
「うっ……ラキ……そ、そこは……」
 それが、ジョッシュの屹立した男性器のそれだという事に気付くのには時間はかからなかった。
「……ふふっ、身体を洗いに来たというのに、こんなになっているのか? しょうがないヤツだな。
 身体を温めて早く上がろう。今晩は……ずっと一緒だ」

「のぼせた……」
 すっかり火照った顔でラキはジョッシュの腕の中にいた。パジャマはとりあえずジョッシュに着せてもらったが、すっかり目を回してしまっているようだ。
「部屋に戻ったら冷たい飲み物でも貰ってくるから…ほら、行くぞ」
「ああ……」
「あ、アニキ」
 そんな様子でラキを抱えて部屋の扉を開けようとするジョッシュを見て、通りかかったリムが何とも不敵な笑みを浮かべる。
「随分お盛んだったみたいだね……ほどほどにしなきゃダメだよ」
「バッ…う、うるさい!」
「そうだ、別に風呂場で盛ってたわけじゃない。これからするんだから、風呂場では我慢してたんだぞ」
「ラキも!」
 すっかり困り顔でたじたじなジョッシュの様子を面白がりながらリムは言う。
「あっはは……ラキさんを可愛がってあげるんだよ。アタシはお風呂入るから」
「まったく……」
「……ジョッシュ」
 腕の中からラキがジョッシュの顔を覗き込む。
「可愛がってくれるか?」
「……そのつもりだよ。全力で可愛がってやるから」
 随分長い夜になるだろうな、とジョッシュは溜息を吐いた。


「……アニキ、部屋に入ったよね?」
 ジョッシュの後ろ姿が部屋に消えるのを見てから、リムはウェントスの手を引いて風呂場の扉を開けた。
「じゃ、やっと私たちの番だね……いっぱい愛してよね」
「が、頑張ってみるよ…」
 今日もまた、熱くて長い夜を過ごすことになりそうな南極の夜だった。

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