「統夜〜? こんなのはどうですか?」
 カシャーと小気味良い音とともに統夜の目の前のカーテンが開かれると、そこにはいつもと違う雰囲気のカティアが立っていた。
「あ、あぁ……うん。なかなか悪くないんじゃないかな?」
「……はぁ。統夜さっきからそればかり。ちょっとは真剣に見てください!」
「いや、そんなこと言われてもな。俺、ファッションのこととかは疎いし、それに女性の服なんて尚更……」
「はああぁ〜」

 終戦から早数ヶ月。地域によっては未だ戦争の爪跡やラダム樹の名残などを残すものの、多くの都市や街には以前のような賑わいが戻ってきていた。
 それは統夜が住む町も同様で、統夜とカティアは今日、そんな人ごみ溢れる街に繰り出していた。
 そのお出かけは本人たち……強いてはカティア曰く「デート」らしいのだが、二人が手を取り合って歩く様は第三者からするとどうも恋人同士とは見えにくいらしい。
 それは、二人とも凛々しい顔をしつつも、カティアはどこか大人びていて、統夜がどこか幼く見えたから。より端的に言えば、彼らの服装があまりにも不釣合いだったから。
 故に、彼女がその日真っ先に向かった場所が婦人服売場だった。

「もぅ! それじゃあ、次のいきますから今度は真剣に見てくださいね」
「カティア、だから俺は……」
 開いた時以上の勢いで二人の目の前を再び遮る試着室のカーテン。その隠れ際のカティアの不服そうな表情に統夜はガクリと肩を落とし、先程のカティアのようなため息をつくのだった。
「カティア〜」
 女性に服の意見を求められるというのも統夜にとっては問題だったが、それより何よりもここが婦人服売り場というのが一番の問題だった。
 周りを見渡せば、少ないとは言え当然客も店員も女性ばかり。雰囲気も統夜には違和感だらけだし、視界の端にどうしても入ってしまう女性下着コーナーが落ち着きを揺るがせていた。

 だが次の瞬間、統夜の気持ちの揺らぎが震えに変わった。
「ちょっ、ちょ……何これ? おかしい……わね? って、やだ!」
「カティア、どうした?」
 突然試着室の中が慌しくなったのだ。
「やぁん、服が絡ま……って。あっ!? ホックが外れ……」
「…………」
 試着室のカーテンを見つめ、聞き耳を立ててしまう統夜。
 何やらその中は大変なことになっているで、聞こえる言葉の端々に統夜は自身の感覚をくすぶられてしまう。
「す、すみません、統夜。ちょっと……手伝ってもらえませんか?」
「――っ!?」
 それなのにカティアはこんな追撃をかけてくるのだ。
「手伝うって……。そっ、そんなことできるわけないだろう!?」
「そんなぁ……、お願いします、統夜〜」
「うぅ〜」
 いつもとは違い、とてもか弱い声。本当に困っている、本当に助けを求めていると思えてしまう声。
 流石にそんな風に言われてしまうと統夜も先程までのように適当にあしらうことも出来ず、キョロキョロと辺りを見渡し始める。
「誰も……見てないよな?」
 まさにタイミングを見計らったように、今統夜の見える位置からは客も店員も見当たらない。もし見ていたら、今の統夜の様子は明らかに不審者として映るはず。故に、少しも騒ぎが立たないということがつまり、誰も見ていないという証明だった。
「カ、カティア……?」
 もう一度だけ辺りを見渡してから、統夜はそっとそのカーテンに手をかけ、その中を垣間見た。
「と、統夜。ごめんなさい……さっきの服を脱いでる時にブラのホックが外れてしまって」
「な――っ!?」
 そこで統夜が見た姿。それは散乱する衣服とその上に座り込んでしまっている下着姿のカティアだった。また、その下着だって彼女が言っているように、裏でホックが外れ、その豊満の胸の大半が曝け出されてしまっていた。
「くっ……!」
 その光景を見るや否や、統夜は素早く試着室の中に土足のまま足を踏み入れ、後ろ手にカーテンを閉めた。
「カ……ティア……」
 閉ざされた空間。二人だけのこの空間はある種の密室。
 篭る空気、熱、匂い……それが二人の間に充満していた。
「ごめんなさい。ここ、留めてもらっていいですか?」
「あ、あぁ……」
 統夜は疑問に思ってしまう。こんな場所で二人きり……それもカティア自身はほぼ裸に近い状態。それなのに、何気ない態度を取られてしまうこと。
 自分だけがこんな風にドギマギしてしまっていることが納得できないのと同時に、カティアに子供扱いされているようで少し苛立ちも露にした。
「……分かった」
 カティアは胸を抱えたまま立ち上がり、統夜に対して背を向ける。その背中はホックが外れているせいで陶磁器のように白い肌が前面的に露になっていた。
 統夜はそれを視界全体に入れながら、垂れた下着のホックを両手に掴む。
「左右から引っ掛け合えば良いだけですから」
 そう。特に難しいことはない。外すのならまだしも、統夜の手元にちゃんとホックの位置が見えているのだから難しいわけがない。
「…………」
「……統夜? どうしました?」
 やろうとすればすぐできることなのに、統夜はしなかった。それどころか、そのホックを手から離してしまった。
「と、統夜っ!?」
「カティアッ! 俺は……」
「ひうっ!?」
 脇の間から手を差し入れ、カティアのその胸を後ろから掴む。
「やっ……ぁ、とう……や……ぁ」
 掴んでもそれぞれの手からこぼれてしまうくらいの豊満な胸。統夜のその指の圧力にも負けないほどの胸の弾力が併合し、一つの力となってカティアのその胸を大きく揺さぶった。
「あぁん……。だめ、統夜。こんな所……で……」
 カティアの制止の声に耳も貸さず、ひたすらに彼女の胸を揉みしだく。
「あっ、くぅ……。ホントに、怒り……ますよ!? やぁあ……ン」
「カティアの方こそ、そんな声を出しちゃってると周りにバレるんじゃないか?」
「そ、そんな……」
 実際にバレてまずいのは統夜の方だけれど、この空間の中では目の前のカティアに対する意識の方が勝った。もしくはカティアに対する『意地』が勝ったと言った方が適切かもしれない。
「統夜……そこっ、だめ……だってば……、ふあぁ!」
 カティアの胸を自在に揺らす指がその中心部……ピンク色に膨らんだ突起物に触れた。彼女の肌自体もそうだが、ジワリと滲む汗が二人の接触面を粘着質なものに変えていた。
「そんなこと言って、実は感じてるんじゃないのか? ココもこんなに勃ってきてる」
「んんぅ――ッ!? そ、そんな……こと……言っちゃ……。ひああぁッ!?」
 統夜は親指と人差し指を使って、両方の乳首を同じように摘み、揺らし、引っ張る。その少し乱暴とも見える行為に、カティアはその度に身を躍らせた。
「あぁ……、はっ、はっ、はあぁ。んんぅ、ぅぁ」
 荒くなる呼吸。試着室内の鏡に映るカティアの瞳はとろりと垂れ、赤く恍惚な表情を浮かべていた。また、口元からはだらしなく唾液がこぼれてしまっていた。
 そんな姿を見て、統夜が必死に抑え続けてきた欲望――裏を返せば、愛情の反動がその鎌首をもたげた。
「カティア。俺、お前の中に……挿入れたい」
「えっ、えぇ――っ!? 統夜、本気で言ってるんですか!?」
「本気……だ」
「そ、そんな……、どうして? 今日の統夜、なんか……変」
「それはカティアのせいだ!」
「えっ、わたし……?」
 予想外の言葉にカティアは目を丸くした。一方的にされている今の状況が、まさか自分のせいであるなど考えもしていなかったから。
 だが、次の統夜の行為もまた、カティアは予想もできなかった。
「カティア……」
「とう……や?」
 抱きしめられていた。胸ではなく、身体全体を包み込むように後ろから統夜に抱きしめられていたのだ。
「……不満だったんだ、いつも」
「え……」
 その言葉もまた、カティアには予想外だった。
「戦争に巻き込まれたとき、俺がまだ右も左も分からずただ流されるままに戦っていたとき……俺は皆に文句ばっかり言ってた。でも、そういったときはいつもカティアがその場を諌めてくれた」
「…………」
「頼ってきた、ずっと。多分俺だけじゃない……テニアもメルアも。ずっとカティアにばかり頼って、カティアに苦労かけてきた。そう思った」
「統夜。私は別にそんな……」
「だから今度は俺がカティアのために何かをしてあげようって、カティアを守ってあげようって誓った。それが、俺が『あの人』と交わした約束でもあるから」
 『あの人』とは誰だろう?――ふとカティアの頭にそんな疑問が浮かぶけれど、それはすぐに過ぎ去った。脳裏をよぎったあのときの二人の会話と共に……。
「でも、カティアは変わらなかった。変わることを望んだわけじゃないけど、それでも少しは俺に頼って欲しかった。
 例えば今日のデートだって、俺なりにずっと考えてきたことがあった。どうすればカティアに楽しんでもらえるか、喜んでもらえるかって。でも、いきなりその計画も失敗しちゃったしな……」
「ち、違うの! 私は統夜と釣り合いが取れるようにって…………」
「今だって、ずっとドキドキしっぱなしだった。そりゃそうだ。『好きな』女の子のこんな姿を見て興奮しないはずがない。
でもカティアは俺にこんな姿を見せてもいつも通りだった。俺を『弟』のように見るカティアのままだった。それが……気に入らなかった」
「ぁ……」
 それでカティア自身も気付いてしまった。二人の釣り合いを崩しているのは自分自身のせいだ、周りから自分と統夜では姉弟に見られてしまっているのではないか……そう彼女自身が思い込むことで、自分自身をその色に染めていたことに。
「統夜……、ごめんなさい」
 そしてカティアは己の身体に回された統夜の腕をそっと抱いた。
「私、バカみたい。私たちのこと、誰に言われたのでもないのにね。自分自身で勝手に思い込んで、それで統夜のこと傷つけて……ホント、バカみたい」
「カティア……」
 こぼれる涙に指を添え、そっと拭う。その涙はとても……温かかった。

「統夜……、して? 貴方が望むように、貴方がしたいように」
「カティア……ッ」
 まるで「待て」をされた犬のように耐え続けてきた統夜は、いそいそとズボンを下着ごと脱ぎ、試着室の壁にたたきつけるように投げ捨てた。
 すると猛々しく屹立した統夜の肉棒が腰ごと震えを放っていた。
「カティア……、いくぞ?」
 その柔らかい腰とお尻に手を添え、腰を近づけていく。
「あん。統夜……下着を。じゃないと汚れちゃいます」
 カティアは首をこちらに向け、僅かにそのお尻を振ることで「いやいや」をする。けれど、統夜の手は離れず、腰もその前進を止めなかった。
「ごめん。ちょっともう……我慢できないから」
「そ、そんな……」
 カティアのお尻を円を描く様に揉みながら、徐々に徐々にと指を秘部へと滑らせていく。そしてそこに達したのと同時に、覆っていた緑のストライプの入ったショーツを横にずらした。
「もしかして、もう濡れてる?」
「それは言っちゃ……ダメです」
 だが、その問答に意味などなかったように、カティアのその潤った入り口に己の肉棒を押し当て、その中へと一気に突き入れた。
「ふああぁ! 統夜……んあぁ、あ……は……あぁん……」
 濡れているとは言っても、それほど十分ではないカティアの膣内は統夜に容赦ない圧迫感と摩擦を与えてくる。それに対し十分にいきり立った統夜のソレはカティアの内部へ和って入り、そしてその中で脈打つごとに肉襞の反発を受けていた。
「うっうぅ……、くぅ」
 その締め付けを味わうたびに脳の奥にまで突き抜ける快感が統夜の身体を走り抜ける。口元からは堪らずに呻き声が漏れ、少しでも気を抜けばすぐにでも果ててしまいそうになった。
 統夜が今までの我慢とすぐに果ててしまうほどの快感の混濁する意識の中にできること……それは腰をひたすらに動かすことだけだった。
「んんっ……、んはぁ! あん、あぁん、あっ……統夜ッ!」
「カティアの膣内……すごく、きつくて……気持ちいい……」
 腰を亀頭が外に露出するかしないか辺りまで腰を引き、そしてまた一気に突きつける。
 ただそれの繰り返し。技巧も何もない、動物的で直線的な振幅運動。
 その度に鳴り響く統夜の腰とカティアのお尻が奏でる音。パン、パン、パン……と肉と肉が織り成す打楽器の音色は明らかにこの試着室の外にまで聞こえてしまう音である、ということに気付いた。
「と、統夜。やっぱりダメ……よ。周りにバレちゃ……う、ぅ……」
「あ、あぁ。そう、だけど……」
 そのことに気付いたカティアも自分の声のトーンを極力下げてそう言う。
 また、統夜自身もその事実に表情を苦渋に歪ませるのだが、だからと言ってここでこの行為を中断させることも出来ないのも事実だった。
「なら、これなら……どうだ?」
 一呼吸置き、統夜はすぐに腰の動きを変化させた。その判断力たるや、先程の動物的なものとはまるで異なっている。
「えっ!? ……んんぅ、んあああぁぁ――っ!? こ、これ……!?」
 その突然の変化についていけず、カティアはつい大きな声を上げてしまう。それを手で必死に抑えるのだが……。
「あうぅ! はぁ、……ふぅ。くふ、ぅうんっ。やだ……これ、お腹の中がかきまわされて……」
 動きの変化――それは直線運動から円運動への変化。前後への抽送ほどの激しい快感は得られないものの、膣内の無数の襞と子宮口をも抉るような律動もまた、纏わり付くような快感を与えてくれる。
「あふぅ……。統夜のが、統夜のが……奥で……暴れて……、きゃんっ!」
「カティア、カティア……」
 統夜はカティアのお尻を包む布地に食い込むほどに爪を立てて掴む。そして自分のモノを擦り付けるような粘性な動きで腰を振る。
「やっ、あああぁあぁッ!? そ、そこは……だ、だめぇ……」
「ここ?」
 そして統夜はその場所をもう一突き。
「んふううぅ、あぁ! だ、あ……え……ぁあ」
 恐らくカティアはその角度で挿入されるのが最も感じるのかもしれない……そう気付いた統夜は、少し口元をつり上げ、その方向に対して重点的に責め始めた。
「んっ、んんぅ、んん――っ! あ、あぅ、あん、んむ……」
 Gスポット……そこを責められ始めたカティアの花弁は急にその蜜の量を増やし、床に滴らせ始めた。
 それで余計に大きくなってしまう喘ぎ声を必死抑えようとするのだが、それでも漏れてしまう。その姿と甘いため息を混在させた喘ぎ声に統夜はさらに己を昂ぶらせていった。
「あん、はっ……ああぁ。今日の統夜の……いつもよりずっと……すご……い。これじゃあ、私……わた……し……」
「イッちゃう……か?」
「は……はい。お腹の中をゴリゴリされて、頭の中までかき回されてるみたいで。意識……真っ白……飛んで……、んん、んんぅっ!」
「俺も……俺ももう……すぐに……っ!」
 気分の昂揚とともに統夜の律動も増していくのだが、その刺激と快感に統夜の限界も間近になっていた。
「あん、あん、あっ……あぁ! だめぇ……統夜、私もうイッちゃう……の。統夜はまだ……なの、くうぅ」
「もう少し、もう少しだから……我慢して」
「ダメッ、だめだめだめぇ! 統夜ぁ……私もう……イク、イッちゃう。統夜、とうや、とうやぁ……、ふぁ、っくぅ、んあああぁぁッ!!」
 途端、カティアの膣内が統夜の肉棒をきつく締め上げる。
「くっ、うぅ……」
 カティアの膣内、その襞の全てが己の快感に酔いしれて震えた。
「っはぁ、はぁ……はあ、はっうぅ、んあぁ……」
 達したことでカティアは息荒く呼吸を繰り返し、力なく脱力する。そして壁についていた手がずるずると滑り落ちていき、手の支えを失ったことで終にはお尻だけを突き出すようにしてしな垂れてしまった。
「カティア!」
「……え? ふぁ、あああぁあぁ!?」
 だが統夜の方はまだ果ててはいなかった。
 とは言っても、統夜の限界ももう目と鼻の先というところまで来ている。そのまだ見ぬ限界に向けて統夜は最後のスパートをかけた。……完全に脱力したカティアのことを考えたりもせずに。
「やあぁ、はぁ、くぅ、うぅんんんぅ……。わたし、さっきイッたばかりで……こんな……んはぁ!?」
 床に頬を擦り付けたまま、再び自分を襲う快楽に身を震わせるカティア。
「カティア! 今度こそ、ホントに俺も……イ……っ」
 いつの間にか音のことも忘れ、自分の快楽のためにただひたすらに腰を叩きつける統夜。
「んっ、んふぅ、あぁン。あん、あ……こんな、こんなにされたら、私また……きちゃう!」
「なら、今度こそ……今度こそ一緒に……カティア!」
「統夜、統夜、統夜――ッ!」
「うっ、カティア……カティ……ア……っ!!」
 お互いの名を連呼し合い、そして身体を同時に震わせる。

「あっああぁ、んあっ、あああ、あああああぁぁ――っ!!」

 びゅくん、びゅくん……ともの凄い勢いで統夜の中からカティアの中へと精液が吐き出される。その迸る精液と二度目の快楽の波に流され、きつく握り締められていたカティアの拳からも完全に力が抜けた。
「ぁ、はぁ、はっ……」
 統夜もまた射精とともに襲ってきた虚脱感に身体の支えを失い、そして目の前に横たわるカティアの上に覆いかぶさった。彼女の膣内にまだソレを挿入れたままで。
「統……夜ぁ……」
「カティア……」
 そしてお互いその身を寄り添い合わせ、冷めぬ余韻に浸っていた。

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「絶対にあの店員さん疑ってましたよね、わ……私たちのこと」
「か、かもなぁ……」
 店を出た二人は、互いに視線を所在無さげに巡らせながら、人ごみの中を早足で駆け抜けていた。その胸に何かを抱きながら……。
 あの行為の後、冷静さを取り戻した統夜とカティアは事態の深刻さに気付く。それは二人の嬌声が周りに完璧に聞こえてしまっているのではないかという恐れと自分たちの下に敷かれていた衣服……それも商品の汚れについてであった。
「……もぅ、統夜ったらあんな場所なのにいっぱい出しすぎです。こぼれて汚しちゃったじゃないですかっ」
「ご、ごめんなさい……」
 カティアは顔を俯かせ、そう呟く。そして胸に抱いたそれをキュッと抱きしめた。
 ちなみに彼女が抱くその中に何かが入ったその袋には先程の店のロゴがプリントされている。つまりはまぁ……そういうことだ。
「でも……ふふっ、うふふ」
 しかし、そんなことになってしまったと言うのに、俯くカティアの表情はどこか嬉しそうだ。
「な、なんだよ……カティア?」
「実はね、今日ってちょっと……『危ない日』だったりして」
「…………へ?」
 茶目っ気十分に舌をチロリと出しながら何を言うのかと思えば、そんなトンデモナイことを。
 統夜はその言葉の意味に気付くのにいくらかの時間を要した。
「は、はぁ〜? それってまさか……?」
「『男』としての責任、取ってくれるんですよね?」
「うっ、それは……その……」

「…………寄りかかってもいいんですよね? これからは統夜に」

「カティア……」
 目を瞑る。その言葉の意味を受け止めて。
「あぁ、そう……そうだな」
 そして自分の言葉を自分の中で何度も反芻させる。己の決意とともにカティアの手を強く握り締めて。
「『二人で生きる』――そう誓ったからな。だから……」
 統夜はその手を一層強く握り締める。そして一歩、足を前に踏み出した。
「行こう、カティア!」
「……はいっ、統夜!」

 輝ける青空の下。太陽にだって負けない最高の笑顔で微笑み返し、彼女もまた、統夜と同じ一歩を踏み出した。

<統夜とカティアのとある日常 〜one road for two〜> 終

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